担当編集者による『ブラック・アンブレラ』予告文(2002年2月より当ホームページに掲載)




官能と狂気を描ききった、全く新しい世界文学の誕生

 
古事記からユダヤ-キリスト教聖書、そしてイスラム教典までに立ち至る人類の壮大な叡智と足跡をつなぐメビウスの環の全貌を解明したかつてない一大叙事詩『夜明けの晩に』(幻冬舎刊、2月27日発売)で大ブレイクまちがいなしの天才・山田真美が目指すさらなる最高峰が『ブラック・アンブレラ』である。

 一夫多妻、ないしは一妻多夫という土着的で時代錯誤の制度がなぜ今も成立しているのか? 
 人類は自らに課した十字架の呪縛から最後まで逃れられないのか? 
 傲慢な西洋合理主義から隔絶されたはずの第三世界に生まれた者ですら直面せざるをえない忌わしき因習と閉塞感が、人をいかにしたたかに狂わせるのか? 

 「生も不条理、死も不条理」と言ったのはサルトルだが、その不条理の先を生きるために必要なのは究極の美を探究するあまりに切実で哀しい官能世界にちがいない。
 官能を極めれば、狂気に辿り着く。そして狂気を突破すると静謐感に満ちあふれたやさしい光の輪郭が見えてくる。
 人は狂気に悩むのではなく、悲惨な現実に狂うのだ。その現実を超越した時に未来永劫にわたって普遍的な曼陀羅に到達する。

 まだ全体の3割しか読んでいないが、カフカの名作『変身』を彷佛とさせるまったく新しい世界文学の誕生を予感している。

 もう、山田真美から目を離せない。
― 芝田暁(幻冬舎編集局)