2004年7月


1日●水色の仏像

毛布を持った3人の男たちが見える。何かを裏返しにしようとしている人。3という数字。ヒマラヤ。高い場所。水色の大きな仏像の肩に乗って、世界を見下ろしている私。
【解説】 断片的なイメージだけが残る夢。毛布を持っていたのは、編集者の高木さん、カメラマンの小西さん、助手の伊藤さんだったような気がする(※私はこの3人と一緒に、先月24日から取材でインドヒマラヤに来ているのだ)。
【後日談】 この夢を見た翌日、デリーに戻った私たち4人は、ババ・カラク・シン通りにある州政府経営のエンポリウム(商店)で土産物を物色していた。MP(マードヤ・プラデーシュ)州が経営するエンポリウムに入った私は、瞬間、自分の目を疑った。なんとそこには、夢で見たものとそっくりな水色の仏像(骨董品)が置いてあったではないか。形こそ夢と少しばかり違って Laughing Buddha だったものの、こんな鮮やかな水色の仏像は、よそでは見たことがない。店員に「これは一体どういう素材で出来ているのですか」と問うたところ、「ターコイズ(トルコ石)です」という返事である。インドに長く暮らした私だが、トルコ石で作られた仏像など今まで一度も見たことがない。店員の話では、かつてはこうした彫刻が作られた時期もあったのだが、今では完全にその技術が廃れてしまい、骨董品店などで稀に見かけるだけだという。「大変な値打ちがありますよ」という店員の言葉に偽りはないと思った。それより何より、夢に出てきた水色の仏像が目の前に現われたという事実に、えも言われぬ縁(えにし)を感じる。値段を聞くと、決して高いとは思えなかったので、その場で即購入した。それにしてもこの仏像、両肩に小さな人(弟子?)が乗っている。夢の中の私もやはり仏像の肩に乗っていたが…これはどういう意味なのだろうか。エンポリウムで買った仏像の写真はこちらからご覧になれます。


2日●埋蔵経

洞窟。水。洞窟の中には埋蔵経があるしい。ダライ・ラマ法王のお姿が見える。弥勒菩薩と対峙している私。光、光、光の海。
【解説】 これまたイメージだけが断片的に残る夢。目が醒めたあと、非常に清清しい気持ちが長く続いた。



3日●騎馬戦

騎馬戦に興じる大勢の人の姿が見える。私もそのゲームに参加しているのかも知れない。
【解説】 武士になって闘う夢をよく見る。この夢も、それら武士シリーズの一環なのだろう。


4日●真紅のスーツ

大使館のパーティーが終わったらしい。小走りに駆けて行くS夫人の後姿が見える。普段はボーイッシュなパンツスタイルの多いS夫人には珍しく、膝丈スカートのスーツを着ている。目が醒めるほど鮮やかな真紅の色が印象的だ。
【解説】 真紅のスーツを着ていたS夫人は実在の人物で、皇室関係の人。ここ何年か電話や手紙ばかりで直接お目にかかっていないので、私の中に(S夫人はお元気だろうか)と思う気持ちがあるのかも知れない。


5日●押入れの中

どこか狭い室内のような場所でSさんと逢い、仕事の打ち合わせをする。Sさんが帰ったあとにTさんがやって来て、再び仕事の打ち合わせをする。すると、部屋の隅の押入れの引き戸が音もなくスルスルと開き、今さっき帰ったはずのSさんが下の段から顔を出した。「見ましたよ」と言いながら、Sさんは突如、Tさんと私を銃撃してきた。驚き戸惑うTさんと私。しかしそれはオモチャの鉄砲なので、弾が当たっても命に別状はないのだった。
【解説】 SさんとTさんは共に実在の人物(男性)で、仕事関係の知り合い。オモチャの鉄砲にもSさんから銃撃されることにも、心当たりは全くない。



6日●パーティー
多くの外国人(主に西洋人)の姿が見える。ワイングラス。誰かのスピーチ。飛び交うフランス語。周囲の人々に『ブラック・アンブレラ』を書くまでの経緯を説明している私。すぐそばに身内(あるいは親しい友人)がいるような気がする。
【解説】 何のパーティーだったのかわからないが、何かお祭りでもしているような賑やかさだった。白人が多く、フランス語が使われていたことから考えるに、夢で見た場所はフランス大使館またはベルギー大使館あたりだったのだろうか。
【後日談】 夢を見た3日後の7月9日、7月14日(フランス革命記念日)に駐日フランス大使館で催される予定の大きなパーティーへの招待状が届いた。日頃からほうぼうの大使館(主として英語圏の国々)のパーティーによく招かれる私なのだが、フランス大使館とはこれまであまり縁がなかった。招待状を受け取ったときは、(ああ、やはり夢が現実になったのだ)と妙に納得していた。


7日●108の青い欠片
目も眩むほど高い山がある。しかしその山の底辺は、せいぜい学校のグラウンド程度の広さしかない。高さは4000〜5000メートルほどもあるらしい。私はその頂上に出かけ、下山したばかりだ。頂上に何かを忘れてきた(あるいは何か魅力的なものがある?)ことを思い出し、もう一度登ろうとしていると、通りかかった2〜3人の見知らぬ男性が「えっ、本当にもう一度登るの? 信じられない体力だ!」などと言って驚愕している。どうやら私には超人的なパワーが宿ったらしい。気がつくと、目の前に粉々に砕けた青い石が落ちていた。石の欠片が全部で108片であることは、数えるまでもなく明らかだ。この美しい欠片の一つ一つが、人生という名のジグゾーパズルの謎を解く手がかりなのだと思う。
【解説】 世間でいわゆる「精神遅滞」と認識されている人々の中には、おびただしい数の物を一瞬にして「○○個」と言い当てることのできる人たちがいる。ちょうどそんな感じで、夢の中に落ちていたおびただしい数の石の欠片を見たとき、私には一瞬でそれが「108片」だとわかった。それはまるで、視覚と脳の連繋が異様なまでに速まって、ほぼコンピューター並みの超高速で数字を処理しているような感覚だった。現実世界では出来ないことがすんなり出来てしまう、だからこそ夢の世界は面白い。


8日●銀の寺
どこか高いところ。いくつかの寺が点在している。私はそのうちの銀の寺に行く。友人のKさんによく似た僧侶がいる。しかしこの人は、やがて殺されてしまう運命らしい。
【解説】 Kさんは、先月24日の夢にも登場した高校時代の友人(男性)である。先月の夢の中でも、Kさんは息子からのDV被害に悩む父親役で登場していたが、今回の夢ではなんと殺されてしまう運命だという。2度も続けてこんな夢を見ると、夢とは言えさすがに心配だ。Kさんと最後に逢ったのは大学1年のとき。それ以来は音信普通なので、彼が今どこでどうしていらっしゃるのかは全くわからない。元気でいて欲しいと心から願う。


9日●プラチナの寺
気がつくと、昨日と同じ寺に来ていた。しかし、よく見ると何かが微妙に変わっている。昨日は銀製だった寺が、今日はグレードアップしてプラチナ製になっているではないか。Kさんに似た僧侶はどうしたかと心配になり、あちこちを探してみるのだが、どこにも見当たらない。どうやらあのお坊さんは、どこか遠くへ行ってしまったらしい。
【解説】 8日の夢を見たあと、さすがにKさんの安否が気になっていたので、2日続けてこんな夢を見たのだと思う。それにしても、Kさんによく似た人が何故立て続けに夢に現われたのだろう。何か私に伝えたいメッセージでもあるのだろうか。それとも私の潜在意識の中に、Kさんを心配しなければならない理由でもあるのだろうか(と言って、思い当たる節は何もないのだが…)。どうもよくわからない。



10日●パプア・ニューギニアにて

パプア・ニューギニアの奥地。全面ガラス貼りの不思議な建物の中にいる。建物の中にも南洋の植物が密生しているが、ここは外と違って毒蛇などの生息しない安全地帯だという。これからアッセンブリーホールで何かのミーティングが行なわれるらしい。私は講師だ。英語でマイトレヤ(弥勒菩薩)の起源について語ることになっている。私のほかにもうひとり講師がいるという。漠然と英語圏の白人を想像しながら講師控え室に行ってみると、そこにいらっしゃったのはなんと漫画家の中尊寺ゆつこさんではないか。ふたり顔を見合わせて「あ〜っ?」と驚いたところで目が醒めた。
【解説】 中尊寺さんとは日本文化デザイン会議でご一緒である。頭の回転の速い美人で、英語ももちろん堪能だ。最近はよくアフリカに出かけていらっしゃるらしい。パプア・ニューギニアに行くご予定があるかどうか、今度お目にかかったらお聞きしてみよう。

【後日談】 朝起きてメールをチェックしたところ、驚いたことに中尊寺さんからメールが届いていた。今月12日放送のNHK「英語でしゃべらナイト」に出演するという内容である。夢の中でも英語で講演をすることになっていた中尊寺さんだが、やはり現実世界でも英語でお話になるという。どうにも不思議な一致だ。こうなったら、是非とも番組を拝見しなければ。


11日●立て札
ヒマラヤのような高い場所を、一人歩いている。複雑に入り組んだ地形と、草一本生えていない砂利っぽい砂地を進んで行くと、古びた木の立て札が立っているのが見えた。そこには「この札を見た者に告ぐ。西暦二〇〇四年七月十一日まで生き抜くことが出来れば、貴殿のその後の人生は必ず大吉に転ず。一九六〇年二月二十七日記す」と書かれている。1960年2月27日と言えば、私が生まれた日ではないか。ということは、この札はおそらく私のために書かれたものなのだろう。しかも札によれば、2004年7月11日(つまり今日)まで生き抜けば、そのあとの人生は大吉だという。これまでの人生には様々な苦労もあったが、これからはそうした苦労も報われるらしい。そう思うと感慨深いものがある。それにしても、この立て札を立てた人は誰だろう。立て札の文面を何度も読み返している私。
【解説】 まるで人生の前半を総決算するような雰囲気の夢だった。私の祖父母などを見回しても、90歳はかなりの長寿である。私は今年で44になった。常識的に考えれば、そろそろ人生の折り返し地点と言っても良いだろう。人生の前半は、自分自身の学校教育やインド生活、オーストラリア生活、それに家庭を築き子どもを育てるプロセスなど、人間としての基礎づくりに費やす時間が大きなパーセンテージを占めた。人生の後半は、思う存分“作家”としての世界に生きようと思っている。そう思っただけで、人生の後半が今から楽しみでたまらない。人生の前半部分で手を抜かなくて良かったと、心から思う今日この頃だ。



12日●金山にて

オーストラリアが隆起して、平均海抜が3000メートル以上になったらしい。広大な山の上を、私は一人歩いている。そこは金山で、すべてが純金で出来ているようだ。(これはかなり幸先が良さそうだ)と思う。
【解説】 ここ暫く、高山にいる夢ばかりを見続けているような気がする。これは当然、ヒマラヤに行ってきた後遺症と言うか、余韻のようなものだろう。先日から夢の中に「銀」「プラチナ」と貴金属が登場し、今日は「金」である。気になったので『夢の辞典』(日本文芸社)を引いてみたところ、残念ながら各々の金属に関する意味は書かれていない。但し、「金色」「銀色」の意味については次のように説明されていた。金色=太陽に照らされた“意識”。“知恵”や“心理”など崇高なものの象徴。気分が高揚しエネルギーが溢れている状態。男性的な部分。銀色=月の領域である“無意識”。“直感”や“本能的な衝動”など、神秘を知る力。女性的な部分。


13日●5分の1の確率

どこか高い場所にいるらしい。戦うキックボクサーの姿が見えるので、ここはタイ国なのかも知れない。5つのものがあって、その内のひとつだけが「ハズレ」だという。誰が「ハズレ」を引くのか、私には最初からわかっている。こんなに簡単なことなのに、ほかの人達は何故「ハズレ」を見破ることが出来ないのだろう。私は絶対に「ハズレ」を引かない自信があるので、余裕をもって5分の1を選択することが出来る。人生はこうして決まってゆくのだ。
【解説】 夢を見る数時間前まで、イラストレーターの篁カノンさんとご一緒だった。彼女がキックボクサーの話をしていたので、夢にまでタイ国が現われたのだと思われる。今日の夢でもどこか高い場所にいたようだが、果たしていつまでこの手の夢が続くのだろう。


14日●H君

小学校の同級生だったH君とバッタリ出会う。大人になったというのに、H君の雰囲気は子どものままだ(但し、身長は大人のサイズ)。握手をすると、手の感触がおかしい。まるで木の棒のように硬く、角張っているのだ。私が歩き出すと、H君も呆然と後ろを付いてくる。どうやら帰る家もないらしい。仕方がないので私の家に連れてゆく。そこは私が子どもの頃に住んでいた家で、若い姿のままの両親がいる。私だけが、2004年現在の姿をしている。「H君が困っている様子なので、家に泊めてやって欲しい」という意味のことを告げると、両親は何か不思議なものでも見るような目でH君を見た。
【解説】 H君は、どちらかと言えば印象の薄い同級生だった。気がついたときには転校して、どこかへ消えてしまっていたような気がする。特に親しくはなかったが、いつも優しく、ほんわかしたタイプの男の子だった。今頃は、どこでどうしているのだろう。普段、考えたこともない相手だけに、突然夢に現われたこと自体が不思議でならない。


15日●捕虜収容所

オーストラリアのカウラ戦争捕虜収容所に、今も3人の日本人捕虜が囚われているらしい。そのうちの1人がカウラ事件の首謀者とされる金澤亮さんであることは間違いない。私は何としてでも金澤さんに逢いたいと思う。たいへん複雑な手続きを経て、ようやくカウラに到着することが出来た。金澤さんと、あと2人の戦争捕虜の姿が見える。3人とも、すっかり年を取ってしまったようだ。彼らを一刻も早く収容所の外に出そうと思い、私は鍵を探している。一歩歩くたびに、どういうわけか金粉が体に付く。ハッと気づいたとき、私の全身はキラキラ光る金粉にまみれていた。
【解説】 現在、NHKのハイビジョン特集「カウラの大脱走〜オーストラリア日本兵捕虜・60年目の証言」(12月放送予定、110分番組)の制作に携わっている。これは第二次世界大戦中に起こった捕虜脱走事件「カウラ事件」に関する番組で、金澤さんは事件の首謀者とされた元陸軍軍人だ(但し実際には、首謀者と言うよりむしろ一種のスケープゴートなのだが))。この事件について最初に詳細なルポを発表なさったのが、オーストラリア人ジャーナリストのハリー・ゴードンさん。私はゴードンさんの著書を日本語に訳し、『生きて虜囚の辱めを受けず』(清流出版)のタイトルで出版した。来月には、この事件を総括する60周年の集まりがオーストラリアで行なわれ、私も出席する予定である。そのような経緯があるので、金澤さんの夢を見たのは自然なのだが、全身が金粉まみれになった理由はわからない。なお、捕虜収容所は遥か昔に解体されており、今も元日本兵が囚われているというような事実は全く無い。


16日●増殖する虫

信じられない数の虫がいる。見たことのない種類の虫からゴキブリまで、あたりは虫だらけだ。それらの虫が赤ん坊を生み続けている(卵生ではなく、何故か真の胎生なのだ)。気味が悪いので、私はその場から逃げ出した。次に気づいたときには、恐ろしいほど高いビルの最上階にいた。私はこのビルのオーナーらしい。高さの割合に、1階あたりのフロアー面積が狭いビルだ。小さな屋上があって、そこで日光浴をしている人の姿が見える。私は何かの理由があって、その上を青いビニールシートで覆ってしまう。すると直ちに住人から「私たちから最後の太陽を奪わないで欲しい」とクレームがつく。そこで再びビニールシートを取り除いた。再び場面が変わり、どこか見たことのない島のようなところ(すぐ近くに海を感じる)。三葉虫のような形の体長50センチほどの古代昆虫が1匹、土の上にぐったりと横たわっている。よく見ると近くに赤ん坊が何匹かいる。出産を済ませた直後らしい。その傍らには地味な顔立ちの日本人女性がいて、「この子は昨夜、出産したんですよ。難産だったのですが、お風呂に入れてやったらじきに生まれました」などと言っている。女性が母親虫の胸のあたりを強くつまむと、そこから白い母乳が飛び出して、少し離れた場所にうずくまっていた赤ちゃんの口に命中した。赤ちゃんは美味しそうに乳を飲み下している。昆虫が乳房を持っていることに少し驚いている私。やがて強い風が吹いてきた。人々の笑い、嬌声が聞こえてくる。どうやら祭りが始まったようだ。ロケットの形をした小さな風船のオモチャに乗った人々が、風に乗って飛ばされている。これが今年の流行のようだ。風が強いので、風船は時速100キロ前後の猛スピードで飛んでいる。乗っている人たちは全員“外国人”だ。ここは一体どこなのだろう、と思う。お金を持たずに来てしまったので、私にはロケット型の風船が買えない。そこへ運良く、丸い普通の形の風船が漂ってきた。私はその風船につかまり、目にも止まらぬ速さで飛び始める。丘を越え、坂を下り、地面からわずか1メートルほど浮いた状態で、島の上をどこまでもどこまでも飛んでゆく。やがて側溝のようなところに着地。足が何かに引っかかってしまい、ひとりでは溝の向こう側に渡ることができない。近くに醜い白人の女性が見えるが、彼女は怪我でもしているらしく、私を助けることは出来ない。ちょうど通りかかった濃い顔の男性(インド人またはアラブ系?)が手助けしくれて、私は溝の向こう側に渡ることが出来た。
【解説】 前日に、仕事の必要があってラックカイガラムシについて調べていた。ラックカイガラムシはインド〜ネパールが原産の小さな虫で、何万匹、何十万匹も固まって暮らしているらしい(ちなみに「ラック」はサンスクリット語で10万を意味する“lakh”が語源)。このほかにも、やはり前日に「虫偏の珍しい漢字」について娘や息子と長いこと語り合った。そんなことがあったので、このような不気味な夢を見たのだと思われる。なお、今日の夢には五大(地・水・火・風・空)の殆どが登場した。何か、生命の根源のエネルギーを感じさせる夢だった。



17日●…

【解説】 今夜は締め切り原稿を執筆するため、珍しく徹夜。ゆえに夢は見ていない。



18日●Noida Sector 15-A

インドのおんぼろタクシーに乗っている。あまり目つきの良くない運転手が、ハンドルを握りながら後部座席に向かってしきりに話し掛けてくるので、危なくて仕方がない。次々に対向車にぶつかりそうになるが、危ういところで全て事なきを得る。彼がヒンディー語で「日本から来たのか」と尋ねてきた。私は英語で「これからNoida(ニューデリー近郊の住宅街)で暮らすのだ」と、そっけなく答える。それを聞くと、隣に座っていた息子が(またインドで暮らすのか?)とでも言いたげな顔で、呆れたように私を見た。運転手が興味津津に(ヒンディー語で)「Noidaのどこだ?」と言う。私は(英語で)「Sector 15-Aだ」と答える。そこはNoidaの中で一番の高級住宅が集まっているところなのだ。運転手は感心したように「フーン」と唸っている。やがて、タイヤがパンクしてしまった。やれやれまたか、と思う。幸いそこは運転手の知り合いが経営する自動車修理工場の前だったので、すぐにタイヤの交換が始まった。とは言えその場所は少しもインドらしくない。見たことのない場所だが、強いて言えば亡くなった祖父の家(千曲川の近く)に似ていないでもない。タイヤ交換をしながら運転手が「NoidaのSector15-Aって、どっちだ?」と聞く。私が本当にインドのことを知っているかどうか、試しているのだ。私は右前のほうを指差しながら、自信を持って「あっちだ」と答える。運転手は、それでようやく信用したようにタイヤ交換に専念し始めた。暇なので、息子と2人で近くの商店に入ってみる。驚いたことに、中は小型のディズニーランドといった趣で、どうやらそこはアメリカらしい。比較的裕福な感じの大勢の白人が遊んでいる。手を洗うための場所があって、そこには綺麗な色つきのセロファン紙で包まれた小ぶりの折り紙セットがたくさん並んでいる。「ご自由にお持ちください」ということらしい。それを見た瞬間、(前にもこの場所へ来たことがある)と思う。前に来たときは折り紙が50セットぐらい並んでいたが、今日はその半分以下に減っている。私はそのうちの2つを取ってポケットに入れた。隣に、やはり無料のティッシュペーパーが置いてある。それで鼻をかもうとしたところで目が醒めた。
【解説】 夢の中で折り紙を見た瞬間に(前にもこの場所に来たことがある)と思ったのは、以前にも“夢で”この場面を見たことがあるからだ。いつだったかは忘れたが、私は以前にもあの場所に“夢で”行ったことがある。もちろん、現実世界では知らない場所なのだが…。あの場所は果たして、この世のどこかに実在するのだろうか。なお、夢の最後に鼻をかもうとしたのは、クーラーの効き過ぎで明け方に喉と鼻がおかしくなったせいらしい。



19日●僧侶の頭

立派な袈裟を着た僧侶の頭がクローズアップになって見える。頭の一部に、見る見るうちに黒々とした長髪が生えてきた。(これはどういう意味なの?)といぶかしんでいる私。
【解説】 本当に、どういう意味なのだろう。黒い髪がぐんぐん伸びる様子は、見るからに元気溌剌で生命力を感じさせるものだったが、それが頭部全体ではなく、一部にしか生えて来ないところが意味深長だ。また、袈裟を着た僧侶に頭髪ほど不似合いなものはない。穿った考えをすれば、この僧侶は半分が「聖」、残り半分はまだ「俗」ということを夢は示していたのかも知れない。なお、この僧侶は、現実世界にも実在する有名人(日本人)である。



20日●島

中心が盛り上がった、小さな円い島。人間のいる気配はない。この島のどこかに、埋蔵経が隠されているという。空の上から、その光景を見下ろしている私。
【解説】 この前後にも何かストーリーがあったようだが、どうしても思い出すことができない。



21日●アシカの足音

ピチャピチャ、パタパタという、水に濡れたアシカの足音が聞こえる。耳障りだ。この音が気になって仕事に集中できない。場所を変えてみたが、やはり足音は聞こえる。一瞬だけアシカの姿が見えた。その生き物は、体は確かにアシカだが、呆れたことに顔はどう見てもパンダ(飼い犬の名前)なのだった。
【解説】 昨日から奥信濃の山小屋に来ている。今年の5月11日に飼い始めたパンダ(メスの狆(チン))にとっては、これが初めての長旅、初めての山小屋である。昨夜は興奮気味のパンダが、夜中にお風呂場などを歩き回るので、こちらも碌に眠った気がしなかった。その足音が夢の中に現われたらしいのだが、朝起きてから改めて見れば、確かにパンダはアシカのような顔をしている(笑)。つくづく、夢は正直だ。



22日●コピーキャット

何でも人の真似ばかりしている女性がいる。しかも、そうやって真似たものを自分のオリジナルだと主張するから性質(たち)が悪い。その人は私と同年齢らしい。彼女も彼女の取り巻きも一人残らず、卑しい、自信なさげな顔をしている。私が何かするたびに彼女がそれを真似ようとするので、私は真似されないために更に高度な技を積んでゆく。そのうち、コピーキャットの存在などどうでも良くなって、私は自分自身の技を磨くことに誠心誠意、本気になっていった。
【解説】 小学生の頃、なんでも人真似ばかりしている子がいた。私はその子に作文を真似られ、絵を真似られ、何もかも真似られ、しかも(その子の盗癖を知らない)周囲の大人からは2人の才能を比較されて、実に口惜しく不愉快な気持ちで過ごしたことがある。その子はカンニング癖でも有名だったが、人に取り入って機嫌をとる方法にだけは長じていたので、教師の何人かは懐柔されてその子を贔屓していたようだ。このような方法を駆使して、その人はそこそこのところまで出世したらしいが、なにしろ積み上げてきた真の実力も教養もないのだから、その先に進みようがなかったのだろう。人づてに聞いたところでは、先日ついに自殺してしまったらしい。そのニュースを聞いて私は(40年以上も生きてきて、遂にオリジナルな人生を見つけることは出来なかったのか)と気の毒に思ったものである。今夜の夢は、そのことと関係がありそうだ。



23日●女優

東京の、青山一丁目あたり(実際には見たことのない風景)。誰か(ミュージシャンのサエキけんぞうさん?)に招待されて演劇を観に来た私。舞台上に1人、際立って目立つ女優がいる。美人ではないが目が大きく、その目に力がある。家に帰ると娘が「今日は渋谷で劇を見てきたけど、その中に、とてつもなく巧い女優さんがいた」と言いながらパンフレットを見せてくれた。驚いたことに、それは私が見た女優さんと同一人物ではないか。しかし、会場となった場所がまったく違う上に、演目も違う。私が観たのはシリアスな内容の劇で、娘はコミカルな舞台を観てきたのだ。そのうち、女優本人から連絡が入り、私の家に来たいという。何が目的だろうかと訝しく思っている私。なお、この夢の途中には時々コマーシャルが入った。昭和の有名な芸能人が勢揃いする、実に豪華なキンチョー蚊取り線香のコマーシャルだ。森光子さんや美空ひばりさん、江利チエミさんらが蚊取り線香を持ち、浴衣姿でキャアキャア笑いながら(若いときの姿のままで)踊っている背後の空では、ドーンドーンと大きな花火が開いているのだ。最後に元キャンディーズの伊藤蘭さんが見えたところでコマーシャルは終わった。
【解説】 途中にコマーシャルが入る夢は珍しい。蚊取り線香の夢を見たのは、もしや眠っている間に蚊の羽音でも聞いたせいだろうか。今夜の夢には、これ以外にも「女優」または「演劇関係」がたくさん登場したような気がする。



24日●遊園地の歌謡ショー

一本の道に沿って、Aランド、B園、Cワールドなど、複数の遊園地が営業している。そのうちAランドとB園はまあまあ活気を呈しているが、Cワールドは入場者も少なく、かなり寂れてしまっている。古臭い感じのするロケット型の乗り物が、磁気を利用して上下しているのが見える。Cワールドの中に入ってみた。数年前に一世を風靡した歌手のAさんが、マネージャーらしき冴えない男と一緒に歩いている。CワールドではAさんの歌謡ショーが開催されたらしいのだが、ほとんど客が入っていない。(Aさんは完全に終わっている)と私は思った。
【解説】 Aさんは実在する歌手。以前はテレビで彼女の姿を見ない日はなかったが、最近はさっぱり姿を見ない。今頃はどうしているのだろう。Cワールドも実在する遊園地だ。最初は日の出の勢いだったものの、最近は赤字経営だと噂に聞いた。今日の夢からは、「急激に人気が上昇したものは急激に廃れる」という永遠の真理が感じられた。かつてのサントリーのCMに、「少し愛して、長く愛して」というものがあったが、正統派の意見だと思う。



25日●辿り着けない目的地

どこかわからないが、どこかへ行こうとしている。しかし、歩けども歩けども目的地に辿り着けない。足がもつれる。よく見ると、足元がスリッパではないか。これでは前に進めないのも道理だ。雑踏の中を、それでも前に進もうとしている私(これと同じパターンの夢を、一晩に3回も繰り返して見た)。その道中、Sさんが書いたという短いエッセイを読む。エッセイの中で、Sさんは私を病人呼ばわりしているではないか。全く事実に反する内容なので、裁判に訴えようかと考えながら歩いていると、なぜか目の前に「神谷バー」が見えた。方向違いだ。なかなか目的地に到達できず、気ばかりが焦る。
【解説】 昨日は原稿のノルマを80%ほどしか達成できなかった。今夜の夢は明らかにその気持ちを反映している。Sさんは実在の人物。色々なことを頼んでくるので、然るべき人に紹介してあげたり力になってきたつもりだが、ようやく話がまとまると、それを自分から勝手に放棄してしまう。中途半端な人なので、もう手助けをするのはやめようと思っている。Sさんへの不信感が、これまた夢に現われたのだろう。なお、「神谷バー」は浅草・雷門の近くにある名物バー。夢にこの場所が登場した理由は不明。



26日●文化人類学者

おはじきとゴルフとチェスを足して3で割ったような不思議なゲームに興じている。ガラスで出来た白と黒の平たい玉をゴールめがけて打ち込むと、得点できるらしい。文化人類学者のXさんがそれを見ている。いつもはスノッブで感じの悪いXさんが、今日はとても素敵な笑顔を浮かべている。Xさんは、根は良い人なのかも知れない。
【解説】 この前にも何か長いストーリーがあったようだ。それは学校に関係のあることだったような気がするのだが、思い出すことが出来ない。



27日●これは何ですか

学校のようなところ。大勢の若い男性(おそらく全員20代の日本人)がいる気配。私は看板のようなものを持って立っている。看板には、なにやら長い文章の下に烏賊のイラストが描かれている。一人の男性を捕まえて「これは何ですか」と問うと、「スルメ?」という答えが返ってきた。暫くして、別の男性に「これは何ですか」と問う。彼は「イカ」と答えた。2番目の彼も悪くはないが、やはり1番目の彼にしようと思う。
【解説】 何のことか自分でも意味のわからない夢。思い当たることと言えば、私は大のイカ好きで、毎日イカを食べていることぐらいである。あまりにもイカが好きなので、最近では人から「あなたの前世は何だったと思います?」と聞かれると、冗談に「間違いなくイカです」と答えることにしている(笑)。



28日●キャメロン・ディアス

私から女優のキャメロン・ディアスさんに渡したいプレゼントがある。それは何やら紙製の小さな物らしい。キャメロン・ディアスさんは大喜びでそれを取りに来ようとするのだが、彼女の恋人(あるいはマネージャー?)が外出禁止令を敷いてしまう。しかし彼女は全くひるまず、白っぽい毛皮のショートコートをまとって部屋を飛び出すと、満面に笑みを浮かべながら私のほうに向かって駆けて来た。
【解説】 今日の夢にも前後に長いストーリーがあったのだが、よく思い出せない(そこでは「3」という数字が重要な意味を持っていたような気がするのだが)。なお、キャメロン・ディアスさんの出た映画は一作目の『チャーリーズ・エンジェル』しか観ていない。



29日●赤いバッグ

正方形の赤い小さなバッグだけが見える。エナメル製なのだろう、綺麗な光沢がある。このバッグは四方のどこからでも開くことができる。そこがミソだ。
【解説】 そのバッグが誰のものなのか、このバッグでどうしようというのか、細かなことは全く覚えていない。綺麗な色と艶(つや)が印象的だった。



30日●ダライ・ラマ法王

ヒマラヤらしき場所。ダライ・ラマ法王がすぐ近くにいる。非常に安定した、ポジティブな波動を感じる。いくつかの会話。いくつかの笑い。洞窟の中に隠された経文の在り処を教わっている私。
【解説】 今日の夢は、今月2日に見た夢とよく似ている。しかし、2日の夢では「埋蔵経」が主役だったのに対し、今日の夢では「法王」が主役になっていた。法王と自分の距離が縮んだように感じた。


31日●ライターを探して

ライターのKさんから執筆を依頼されていた原稿が出来上がった。原稿を持って出版社を訪ねる。「編集部」と書かれた部屋に入ってみれば、そこは四畳半ほどの狭い和室で、3人のむさ苦しい男たちが雑魚寝をしていた。私がKさんに逢いに来た旨を告げると、男たちは寝ぼけ眼で上半身だけ起き上がりながら「Kならここには居ませんよ。別館のほうです」と言って、住所を教えてくれた。それにしてもここは出版社というよりも、まるで建築現場の飯場(はんば)のようだ。3人の男たちも、マスコミ関係者というよりは海洋学者かヒマラヤ遠征隊員のような雰囲気である。私はKさんを探すために外へ出た。
【解説】 現実の世界では、ライターさんから原稿執筆を依頼されるという状況はあり得ない。また、作家が原稿を持ってみずから出版社を訪ねるという話も聞いたことがない。普通ならば、編集者が原稿を取りに来てくれるか、原稿を郵送するか、FAXまたはメールで送るといったところだろう(私の場合は簡潔にメールで送っている)。というわけで、この夢は全体的に現実ではあり得ない内容になっている。Kさんは実在するライターさん(女性)。前に一度、私の英語学習法に関する記事を書いていただいたことがある。とても感じの良い人で、機会があればまたお会いしたいと思っている。





夢日記の一部または全部を許可なく転載・引用なさることは、固くお断りいたします。
(C)Mami Yamada, 2004 All Rights Reserved.