2004年5月


1日●青い世界

朝、目が覚めてみると、何もかもが青色に変わっていた。窓の外を見ると太陽が青い。どうやらこれが、世界が青くなった原因らしいのだ。イタリアの「青の洞窟」のように幻想的な世界だ。この奥には青い森があって、そこには青い滝が流れ、青い魚が泳いでいるという。青い靄に包まれた森の中を、小舟を漕いで渓流を遡ってゆく私。
【解説】 夢を見る前日に、小学館「和樂」の仕事で瀬戸内海の直島に行き、高名な現代美術家のジェームズ・タレル氏をインタビューした。タレル氏の新作は青い光を使ったインスタレーションで、神殿のように厳かな雰囲気の部屋には、重量感ある青い光が降り注いでいた。その強烈な印象がさらに拡大して、世界中が青色に染まる夢を見たらしい。神秘的な魔力に満ちた夢だった。


2日●「火宅の人」の息子

一戸建ての日本家屋が見える。あたりはひっそりとしており、人の気配はない。ここには「火宅の人」と呼ばれる男が住んでいるのだそうだ。その男は飲む、打つ、買うの三拍子そろった道楽者だが、一芸に秀でているため世間からは一目を置かれているらしい。男には息子がいる。世間は「火宅の人」のことばかり話題にするが、私はむしろ息子のほうに興味がある。その息子を主人公にした小説を書こうと思う。そこへ、ファンを名乗る男性がやって来て、私の秘書になりたいと申し出る。この人は、現在はN県庁に勤めており、名前は「勇魚(いさな)」というそうだ。特に秘書は募集していないのだが、なかなか感じがいい人物なので(とりあえず半年ほど見習で働いてもらおうか)と思う。
【解説】 夢の内容にはまったく心当たりはないのだが、夢の中で妙に気分が高揚していた気がする。目が覚めたとき、(そうだ。新しいことを始めよう)と唐突に思った。


3日●カレンダー

見知らぬ女性からカレンダーを渡される。その女性は、何らかの理由で私に嫉妬心を抱いているらしい。彼女は中肉中背で、目が細く、髪は短めで、地味で特徴のない顔立ちをしている。年齢は私より下のようだが、女性としての色香がない。私はすぐにその人の顔を忘れてしまった。カレンダーだけが手元に残る。それは一辺が35センチほどの正方形のカレンダーで、12枚の紙をスパイラル式に閉じてある。閉じた側は白く、反対側は赤や青など鮮やかな色が正方形の桝目に塗り分けられている。白い部分は正方形にミシン目が入っていて、そこを切ると中から何かが現われるらしい。私がカレンダーには手を触れずに見ていると、どこからか娘がやって来て「中に毒が仕掛けてある可能性があるから、捨ててしまったほうがいいわね」と言う。私もそう思うのだが、普通の「燃えるゴミ」と一緒に捨てた場合、燃えたカレンダーから有毒ガスが発生するかも知れない。これは科学者に相談したほうが良さそうだと思い、東大の助教授をしている友人に電話しようとしたところで目が覚めた。
【解説】 なにやら物騒な内容なのだが、夢の中の私は至って冷静で、カレンダーに仕掛けられた可能性のある毒の成分について考えを巡らしていた。それにしても、あのカレンダーには数字も文字も書かれていなかった。一体どういう意味だろう?


4日●マハラジャの宮殿

古びた宮殿。ここにはマハラジャが住んでいるという。宮殿の中では、肉体を使ったさまざまな催し物が行なわれている。それらはどこか哀愁を帯びて見える。老年期に差しかかった男が、上半身裸になって何か武道を披露している。男の名前は「島津」というらしい。宮殿に招かれた大勢の観客が、酒を飲みながら歓声を上げている。酒池肉林という言葉を思い出す。この人たちは、いったい何が楽しくてここに集まっているのか。私はひとり違和感を感じ、(早くここから出よう)と思う。
【解説】 子どもの頃、見世物小屋で「蛇女」とか「せむし男」といった触れ込みの見世物を見たことがある。子ども心にも居心地の悪い、なんともやるせないものを感じたが、今日の夢の中で感じた違和感もそれに近かった気がする。


5日●高級デパート

昭和初期を思わせる古い高級デパート。そこで小さな事件がいくつも起こる。私は長い時間をデパートの中で過ごしている。すぐそばにガマガエルが見える。そのカエルは、私の味方だ。
【解説】 かなり長い夢だったようが気がする。具体的なストーリーもあったのだが、目が覚めた途端に忘れてしまった。私は子どもの頃から大のカエル好きで、カエルの出てくる夢は個人的には「吉兆」だ。『夢の辞典』(日本文芸社)によれば、「カエル」の意味するところは「新しい可能性や成長、変化のシンボル。大きな転機」となっている。


6日●巨大な家

とてつもなく大きな家の中にいる。あまりにも大きくて、どこが家の終わりなのか見当もつかないほどだ。近くにはアラジンの魔法のランプから出てきたような従順な巨人がいて、私からの命令を待っている。しかし私には彼に頼むことは何もない。
【解説】 今夜の夢は茫漠としていて、ただただ長い時間だけが経過し、ストーリーらしいものは特になかったような気がする。一昨日、昨日、今日と「大きな建物の中」にいる夢が3晩つづいたが、これはどういう意味なのだろう。



7日●空海

私は空海になって旅をしている。空海は体が柔らかい。ヨーガをしても、人間技とは思えないようなポーズが取れる。どんどん体が軽くなって、足の裏が地面から離れてきた。もうすぐ空を飛べそうな勢いだ。場面が変わり、中国の古びたホテルに到着。空海になった私には、他人が心の中で考えていることがすべてわかってしまう。目の前のボーイが、口で言っていることと心で思っていることはまるで正反対だ。人間とは困ったものだなと思う。再び場面が変わり、空海だった私は生まれ変わって白人女性としてアメリカにいる。美人でグラマラスな30ぐらいの女性だ。私の恋人(やはり白人の男)が、何かの誤解のためにアル・パチーノのような風貌の男から銃撃されている。アル・パチーノ似は妻を殺されて泣いている。私の恋人は「犯人は俺ではない」と叫んでいる。激しい銃撃戦の中で、私はアル・パチーノ似の男と心と心で会話ができるようになった。前世が空海だったからだろう。やがてアル・パチーノ似は自分の非に気づき、自殺してしまった。ことの顛末はすぐにドキュメンタリータッチの小説になって書店に並び、ベストセラーになる。私はその本を手にとって、アル・パチーノ似の男の死を悼んでいる。
【解説】 すさまじいスピードで物語が展開する夢だった。アルパチーノ似の男との銃撃戦の場面は、一大スペクタクル映画を観ているような迫力だった。彼の自殺も、非常に珍しい方法だった。このへんのディテールは、いつかスパイ小説を書くときに使えそうなので、敢えてここには書かないことにする。悪しからずご了承ください。



8日●暴飲暴食

夢の中で何かを食べすぎ(飲みすぎ)たらしい。「暴飲暴食はやめて、そろそろ起きなさい」と娘と息子から注意され、「はい」と言いながら夢の中で夢から起きる。それにしても私は、何を食べすぎ(飲みすぎ)たのだろう。心当たりはないが、娘たちがそう言うのだから暴飲暴食はやめようと思った。
【解説】 前の夜にいつもより多めにワインを飲んだことを、夢の中で反省していたのかも知れない(笑)。実際の私はセミベジタリアンなので、動物性の肉はまったく口にしない。ほとんど野菜中心の食生活で、暴飲暴食からは程遠いと思うのだが…。



9日●ガマガエル

愛嬌のあるガマガエルが、じっと私を見ている。誰か女性の声で、「このカエルがいる場所って、貴女のおうちの近くよ」と言う。えっと思ったときには、ガマガエルは消えていた。
【解説】 この前後にもストーリーがあったのだが、思い出せない。夢から起きてすぐに、そう言えば5日の夢の中にもガマガエルが登場したことを思い出した。一週間のうちに2度も続けてガマガエルが現れるとは、一体どういう意味があるのだろう。

【後日談】 この夢を見た数時間後のこと、仕事の必要があって「千八」という言葉をネットで検索していたところ、なぜかいきなり「蟇(がま)大明神」を特集したページにたどり着いてしまい、心底驚いた。しかも、その寺の所在地を地図で調べてみると、なんと我が家から徒歩で5分もかからない場所ではないか。長年この場所に居を構えていながら、私はそのような寺の存在すら知らなかった。狐につままれたような気持ちで、ともかく地図にあった場所に行ってみた。すると確かにそこにはお寺が…。この寺なら、散歩でよく前を通るので知っている。しかし、この寺の名前は「龍鳴山 本覚寺」であって、「蟇大明神」ではない。不審に思いながら境内に入り、いちばん奥まで歩いて行ってみると…なんとそこには「蟇大明神」の祠があった。そして祠の中には、夢の中に現われたものとそっくりな(陶器製の)ガマガエルが無数に鎮座ましましていたではないか。この世には本当に不思議なことがあるものだ。蟇大明神で撮ってきた写真はこちらからご覧ください。


10日●○△□▽○

金髪の色っぽい女性と街ですれ違う。その瞬間、彼女が独り言のように「○△□▽○」と暗号のような言葉を呟く。うまく聞き取れなかったので、聞き直そうとそちらを向いたときには、彼女は既に雑踏に紛れて消えてしまっていた。
【解説】 この女性は現実では全く知らない人だが、奇妙なことに、以前にも夢の中に現われたことがある。その夢の中では、「どこに勤めているのですか」と尋ねた私に対して、彼女は「イツキノヤマ、ゴチョウノマチ」という謎めいた言葉を返してきた。過去の日記を片端からひっくり返して(注/私は1982年からほぼ毎日欠かさず日記を付けており、気になった夢を見た場合にはそれもメモしているのです)調べてみたところ、その夢を見たのは1990年12月8日のことで、しかもその段階で既に「この女は以前にも夢に現われたことがある」というのだ。片言の日本語を独特のイントネーションで話す、その言葉づかいが非常に印象的な人だ。私は彼女に妙な親近感と反感を同時に併せ持っているようだ。理由はわからないが、この女性は私自身の投影のような気がする。


11日●乗車拒否
オーストラリアの、おそらくシドニーにいるらしい(但しその風景に見覚えはない)。空港に向かうため、タクシースタンドに立って車を待っている。最初に来たタクシーのドライバーは、髪が灰色になった中年男。彼の体は、なぜか運転席の背もたれとハンドルの間に挟まってしまっており、「こんな状態じゃ今日は仕事ができないから、悪いけど別のタクシーを拾ってくれ」と、少し訛りのある英語で言う。仕方がないので次のタクシーを待っていると、今度は「TAXI」と書かれた15人乗りのマイクロバスが来た。30代ぐらいの金髪の女性ドライバーは、何かもっともらしい理由を言って乗せてくれない。2台のタクシーに乗車拒否された私が、少し怒りながら更に待っていると、やがて3台目のタクシーが来た。そのあと何かとんでもない事件が起こりかけたのだが、そこで突然目が覚めてしまった。
【解説】 目が覚めた原因は、昨日から家にやってきた新しい仔犬が夜中に起きてバタバタ走り回り、私のベッドの上に飛びついて来たため。…というわけで今夜の夢は、結末がわからずじまいである。



12日●地下トンネル
私には訪ねたいビルがある。そこに至る地図を入手し、見知らぬ街を歩いていくと、地下トンネルの手前に出た。どうやら、このトンネルを抜けた向こう側に、目指すビルはあるらしい。トンネルの手前には、近代的で無機質な感じのする店舗(ガソリンスタンド?)があって、そこのご主人が目的地への行き方を教えてくれる。途中、自動車が通りかかったので中を覗くと、小さな2人の子ども(うち1人は乳飲み子)を抱きかかえた狂女が笑っていた。
【解説】 今夜も仔犬が室内を走り回り、ブースケ(前からいる犬の名前)を噛んだり引っ掻いたりしていじめるので、夜中に3度も目が覚めてしまった。そのため夢も分断されてしまい、本来はもっと別のストーリーがあったのかも知れないが、覚えているのは上のシーンだけである。なお、自動車の中の狂女のことは、プライバシーに関わるためこれしか書けないが、実在の女性である。



13日●経典
私の右隣には高僧(おそらくダライ・ラマ法王)が座っている。私は膝の前に置かれた本を開いて見ている。本の中身は、現代語(口語体)に訳された経典だ。どうやら私が現代語に訳し、出版したらしい。高僧から、「この本はイマジネーションの世界にしか存在しないので、すぐに目の前から消滅してしまいます。しかしそれは、貴女の内側に存在するのです」と教えられる。その途端、今まで見えていた文字はどんどん薄くなっていって、やがてすうっと消えてしまった。最後の文字が消える瞬間、これがすべて夢であることに気づいた私は、(いずれは現実の世界でも、経典を口語体に訳して出版しよう)と思った。
【解説】 私には経典を訳すような実力も人徳もないが、万が一そのような仕事ができたら素晴らしいことだ。なお、ダライ・ラマ法王には、現実世界でも年内に謁見することになっている。
【後日談】 夢から覚めて新聞を読んでいると、『新約聖書』を東北地方で使われている口語(ずうずう弁)に訳して出版し、ローマ法王に献上した男性に関する記事が載っていた。夢の中身と共通する話題だったので、たいへん興味深く思った。



14日●幸福な家
決して広くはないが、温かい感じの家が見える。部屋の中で、幸せそうに微笑み合うふたり。
【解説】 この場面だけが一瞬チラッと見えた。前後がどんなストーリーだったのかは思い出せない。ふたりの顔もよく見えないのだが、すべてを理解し合い、許し合ったふたりという印象だけが残った。



15日●「二」がつく四字熟語
道に沿って、10本の桃太郎旗(のぼり旗のこと)が立てられている。そこにはまだ、何の文字も書かれていない。すべての桃太郎旗に、漢数字の「二」という文字が含まれた四字熟語を書くよう頼まれる。「私は“九”が好きなのですが、“九”のつく四字熟語ではだめですか」と尋ねたが、今回は理由あって「二」でなければならないという。「二束三文」「二人三脚」「唯一無二」「一石二鳥」まで考えて次が思い浮かばず、苦肉の策で「二〇〇四」と書いたところで目が覚めた。
【解説】 いくら今年が2004年とはいえ、「二〇〇四」を四字熟語にするのは強引だ(笑)。それにしても「二」がつく四字熟語を10通り考えるのは、かなり難しい。漢数字の「二」がつく四字熟語には、ほかにも「聞一知二」と「遮二無二」がある。もう少し難解な四字熟語になると、「三草二木」(仏教の教えに従っていればやがて悟りが開けること)、「三平二満」(環境に恵まれなくても不平不満を言わす幸福に暮らすこと)、「二桃三土」(謀略によって人を殺すこと)、「君命無二」(君主の命令は絶対であること)、「無二無三」(一心に突き進むこと)などがあるようだ。おかしな夢を見たおかげで、今日は朝から漢文の勉強をしてしまった。



16日●矢印
六本木ヒルズのような巨大なビル。その中で、何か大きなイベントが開催されているらしい。私もその関係者なのだが、内心では(参加したくない)と思っている。昔どこかで会ったことのある人々(インド時代の知人など)がビルの中を歩いていたりする。クイズ番組が行なわれているらしい。私は相変わらず乗り気ではないのだが、皆に勧められて嫌々ながらも参加することになってしまった。空中にひらひらと舞うアゲハ蝶が見える。カタカナで5文字の言葉が空中に浮かぶ。さて答えは何ですかと問われ、私は「答えは矢印です」と答える。「正解です」という司会者の声に続き、盛大な拍手の音。それを聞きながら(矢印は4文字だし、蝶にも関係なさそうなのに、なぜ正解なのだろう?)と不審に思う私。クイズの賞品が発表された。賞品は、このイベントの主催者からのキスだという。えっと驚きながらそちらを見ると、大嫌いなタイプの男が立っている。「賞品は要りません。辞退します」と言ったのだが、関係者たちが「まあまあ、遠慮しないで」などと言っている。男が近づいてきた。男の顔があと数センチほどの所まで迫ったとき、私は突然、本来のサムライの姿にもどることができた。心も体も一気に楽になる。刀を抜いて男を峰打ちにしたあと、私は静まり返った民衆に向かい「おのおのがた、安心召され。造作無きことなれば」などと言っている。
【解説】 なんとも意味不明な夢。サムライに変身できたとき、(やっと本来の姿に戻れた)と思ったのも不思議なことだ。一体なぜ私は、これほど頻繁に武士になる夢を見るのだろう。



17日●白と黒
白と黒の市松模様。白が黒になり、黒が白になる。何かのゲーム盤らしいのだが、オセロではなく、理論としてはむしろ囲碁に近いもののようだ。「瞬間に10手先まで読まなければだめだよ」「部分ではなく全体を見なさい」という声が聞こえる。
【解説】 現実世界では最近になって息子が囲碁を学び始め、私はその棋譜(対局の手順の記録)を見るのが日課になった。夢の中で「瞬間に10手先まで読まなければ…」などと言っていたのは、今より10歳ぐらい大人になった息子の声だったような気がする。



18日●港にて
見たことのない港町。どうやらオーストラリアらしい。大小さまざまな船が行き交っている。私は15人ほどの日本人といっしょに海を見ている。その中のひとり(おそらく娘)とふたりで近くのモールへ行き、2階の香水店に入ると、店員の日本人女性が愛想笑いをしながら近づいてきた。“Piro Piro”(あるいは“Pico Pico”?)というような名の香水を指さし、「これはなかなか手に入らない人気商品です」と言う。興味がないので、会釈して素通りする。同じモールの別の店には、各国の国旗が刺繍されたシルクハットがズラリと並んでいる。値段が適当ならオーストラリアの国旗が刺繍されたシルクハットを買おうと思うのだが、思ったよりも高い。やがて集合時間になったのだろう、私は港に戻り、仲間全員と記念撮影をする。その中には両親も混じっていて、楽しそうに笑っている。なんとなく名残惜しいような気持ちを残したまま、私はその場から去った。気がつくと怪しげな路地にひとり紛れ込んでいた。小さな雑貨屋が建ち並んでいる。そのうちの一軒に、例の国旗の刺繍つきシルクハットが見えた。店内に入ってみると、店員はひとり残らず眼光鋭いアラブの男たちだ。鵜の目鷹の目でこちらを見ている。オーストラリアの国旗がついたシルクハットには、なぜか日本語で「380円」と値札がついている。しかしよくよく見ると、それはダンボールの上に色紙を貼っただけの粗悪品である。私はここでもシルクハットを買わず、無言のまま店から出た。
【解説】 外国にいる夢はよく見るが、こうして毎日欠かさず夢日記をつけ続けてみると、行き先でいちばん多く登場するのはヒマラヤであることがわかる。それに次いで多いのは、どうやらオーストラリアのようだ。現実世界で私がオーストラリアに住んでいたのは20年以上も前のことだが、去年あたりから再びオーストラリアとの縁が復活し、2005年開催の愛知万博におけるオーストラリア館の公式ガイドブックへの執筆を依頼されたり、この夏はテレビ番組制作のお手伝いの話も来ている。私の中でオーストラリアが再び大きな意味を持ち始めたということだろう。なお、この夢には両親が登場したが、実際には両親はオーストラリアに行ったことがない。父は体調が芳しくないので難しいが、母のことはできるだけ早いうちに連れて行ってあげたい。なお、今回の夢にシルクハットが登場したのは、つい2〜3日前に変身用のウィッグを買ったことと関係しているかも知れない。



19日●白と黒(その2)
白と黒の市松模様が印刷された布。裏返すと黒。さらに裏返すと白。もう一度裏返すとまったく違った何か。テーブルをはさんだ向こう側では、ソニア・ガンジーが微笑んでいる。
【解説】 一昨日に引き続き、白黒の市松模様の夢である。有名なカード・マジックに、裏返すとそのたびにトランプの絵柄が替わるというものがある。最初はハートのAだったものが、いったん裏返してから表向きにするとスペードの女王になり、さらにもう一度裏返してから表に戻すと人間の顔写真つきカードになっていたり…とアップテンポで楽しめる「どんでん返しマジック」だ。拙著『マンゴーの木』(1998年刊)のなかでも紹介した南インドのシュリニワス教授という人は、このマジックに関して言えばまさに天才だった。今日の夢に出てきた白黒の市松模様の布は、このマジックを髣髴させた。なお、この夢を見る少し前に、インドで選挙に勝利した国民会議派のソニア・ガンジー党首(イタリア出身)が首相就任を辞退したというニュースを聞いていたので、彼女が夢に現われたのだと思う。重責から免れたためか、いつもよりずっとリラックスした様子の微笑が印象的だった。



20日●金髪の天使
佐賀県知事の古川さんのお宅に泊めていただいているらしい。「犬」と「2種類の異なる血液」に関することで古川さんと会話する。そこからさらに一人で旅立つ私。どこの国かわからないが、人里離れた淋しい場所に建つ一軒家で、白人の老夫婦と逢う。彼らには、小さな男の子がいる。生後1年経つか経たない赤ん坊で、まだ歩くことができない。天使のような愛らしい笑顔と、絹のようになめらかな金色の髪がとても印象的だ。老夫婦に身寄りはなく、何かの理由があって死期が迫っている。彼らは私のほうを真剣な目で見つめながら(この子をよろしくお願いします)と心の中で言って、男の子を託した。私も心の中で(わかりました。この子のことはご心配なく)と答えると、老夫婦は安心したようにスーッとどこかへ消えてしまった。私は赤ん坊を抱いたまま、ジャングルのような場所を足早に歩いている。早く安全地帯に逃げなければと思う。腕の中の赤ん坊は、どんなときにも笑みを絶やさない。まさに天使だ。やがて赤十字のテントが見えた。患者の治療に当たっている医師の姿が見える。ここまで来ればもう大丈夫だと安堵しながら、私は治療の順番を待つために、赤ん坊を抱いたまま椅子に腰をおろした。
【解説】 老夫婦が美しい赤ん坊を育てているという設定は、『竹取物語』や『桃太郎』に通じるところがある。子どものいない善良な老夫婦が、神の子(あるいはそれに準じるほど特別な能力を持った子)を託されるというパターンだ。夢の中で逢った老夫婦と赤ん坊も、そういう関係のように思えた。そのような子が、なぜ私に託されたのだろう。夢の中の私は、どんなことがあってもこの赤ん坊を安全な場所に運ばなければと夢中だった。なお、夢の最初になぜ古川さんが一瞬だけ登場したのかは謎。



21日●∞
空に大きな∞(無限大)のマークが見える。「縦にすると数字の8ですね。八は末広がりですよ」と編集者の芝田さんが言う。目の前には麻雀台があって、手の内には「発」が3枚そろっていた。
【解説】 このあと何かとてつもなく楽しいことが起こって大笑いしたような気がするのだが、それが何だったかは思い出せない。



22日●ガラスの道路
ドーム型の巨大な建物が3つ並んでいる。屋根の部分はガラスでできており、そのうえが何故か道路になっているらしい。どこかの国の政府専用バスが3台、左のほうから猛スピードで近づいてくる。1台目のバスが、崖のような所からジャンプして左端のドームの屋根に着地する。たちまちガラスが砕けて屋根は半壊するが、バスはかまわず真ん中のドームへと飛び移り、そこの屋根も半壊させ、さらに右端のドームの屋根に飛び移ったところで、屋根のガラスを突き破って落下していった。そのあとから、さらに2台のバスが次々に同じルートを走ってきて、前のバスと同じように屋根を粉々に壊し、右端のドームの屋根に空いた穴から落下していった。私は少し離れた場所からそれを見つめながら、(こんな政府のやり方に従う人の気が知れない)と思っている。
【解説】 ガラスの道路は、非常にもろいものを象徴していた。ドームの屋根からバスが落下してゆく様子は、その国の未来を暗示しているように思えた。



23日●扇子と帯とフランス語
色とりどりの扇子が無数に広がっている。まるで鶴か蝶が舞っているように優雅で華やかな光景だ。その中で、これまた色とりどりの無数の帯を広げ、次の茶事にはどの帯を締めて行こうかと思案している。私の隣にはフランス人が座っていて、その人にフランス語で帯について説明している。キーワードは「ルーヴル美術館」だと唐突に思う。
【解説】 6月3日に赤坂で大きな茶事が催される。150人の客人は全員が外国(英語圏)からのお客様。私は主催者側の人間なので、待合で接待をしたり次客を務めることになっており、責任重大だ。そのことが頭にあったので、夢の中でまで帯を選んでいたのだと思う。また、隣に座っていたフランス人は、夢を見る前の夜に行ったビストロのオーナー(フランス人)だったような気がする。



24日●犬猫屋敷
30匹ほどの犬と猫が暮らす家。私はひとりでその世話をしている。こちらの犬が花瓶を割ったかと思えば、あちらの猫がベッドシーツを破き、いくら片付けても片付かない。それでもなんとか家の中を清潔に保とうとして、休まず整理整頓を続ける私。
【解説】 現実世界で新しく飼い始めた犬(狆)のパンダは、とにかく好奇心旺盛で、そのへんの物に片端から触ってみたがる。結果、飲み水の器の中身を全部外にこぼすわ、テーブルの上のものを前足で落とすわ、ブースケ(前からいるシーズー犬)のオモチャをバラバラに壊してみるわ、とにかく一日中、朝から晩まで問題を起こしている。それだけでも大変だというのに、夢の中では、手のかかる犬(プラス猫)が30匹にも増えていた。この夢は、正夢になってもらっては困る(苦笑)。



25日●バードパーク
海外のどこかにある、とてつもなく巨大なバードパーク。ただ鳥がいるだけの場所ではなく、かなりハイテクな遊園地としての側面も備えているようだ。ひとつのアトラクションから次のアトラクションまでは、立ち乗りのトロッコのようなものに乗って行くのだが、それが信じられないほど恐ろしい速度で進む。この速度で振り落とされたら、間違いなく死ぬ。物凄いスリルだ。そうやって山をいくつも超えて行かなくては、次のアトラクションに辿り着くことすら出来ない。私はここに家族と一緒に来たのだが、家族の姿はどこにも見えず、なぜか左隣に背の高い白人の女性がくっついている。彼女はここで知り合った即席の友人なのだが、その割合に妙に態度が馴れ馴れしい。ようやくバードパークをすべて見終わり、次のステージに進めることになった(ここで白人の女性はようやく姿を消す)。次のステージでは、英国にある古い学校(雰囲気としてはオックスフォード大学に似ている)の狭い講堂で、学生たちに混じって音楽会を聴くことになった。幼少時代の浩宮様(現・皇太子殿下)がいちばん後ろの席に座っている。年齢は、まだ10歳ぐらいだろうか。なぜか実際よりもずっと外国人っぽい目鼻立ちになっている。隣に同年代の女の子が座っている。その子の名前はヘレンちゃんといって、ご学友なのだそうだ。室内にいる学生たちは、音楽会の演奏と演奏の合間にサンドウィッチをつまみながら談笑している。このように軽く食事をしながら音楽を聴くのが、ここの校風なのだという。
【解説】 夢の中では「バードパークに行った」という設定なのだが、なぜか鳥を見た記憶がない。また、後半に出てきた英国の大学も、音楽会に行ったはずが、肝心の音楽は聴いていない。どうも意味のわからない夢だ。



26日●宇宙遊泳
複数の出版社の人たちが突然やって来て、宇宙で秘宝が見つかったので取材旅行に行ってくれと依頼される。「10分以内に準備を済ませて、ただちに出発してくださいますか」と言われる。あわてて家族に置手紙をし、洗濯物を取り込み、犬に水と餌をやって、表で待っているリムジンバスに乗り込んだ。山の中を暫く進むと、やがてヒマラヤ山頂にある発射台のような場所に到着した。かなり空気が薄い。おそらく標高6000メートルを超えているのだろう。発射台の上に立ち、空に向かって大きく深呼吸してから思い切ってジャンプしたところ、すぐにからだがふわりと浮いて、そのままどんどん宇宙の彼方へ漂って行った。信じられないほど気持ちがいい。地球が見る見るうちに小さくなる。地球と私の間には長いホースがあって、そこから酸素が吸えるのだが、途中からはホースなしでも宇宙で普通に呼吸ができるようになった。どこかから、カシミールの湖と同じ匂いがした。秘宝はその匂いの中に在るのだと思う。デスクの上に締め切り原稿を残してきたので、今夜中に地球に戻らなくてはと思う。
【解説】 ストーリーよりもインスピレーション重視の夢という感じ。深海をダイビングするときのように、からだが溶けて宇宙と一体になってゆくような心地よさが続いた。
【後日談】 夢から覚めた数時間後、オーストラリアで大学の先生をしている古い友人のMさんから国際電話が入り、「急な仕事」を頼まれた。驚いたことに、その仕事というのが宇宙飛行士に関係のあることなのである。その詳細をここに記すわけには行かないが、Mさんいわく「今日中に○○先生に連絡をとってもらえますか」。○○先生とは、日本における宇宙関係の第一人者である。しかし私は○○先生とは全く面識がない。急いで天文学者の友人などに電話をし、○○先生の連絡先をゲット。1時間後には秘書の方とお話することができた。…夢の中でも現実でも、どうやら今日は宇宙に縁のある日らしい。



27日●ギャンブラーたち
女子高のマジック研究会のようなところ。どうやら私は女子高生で、部活でマジックをやっているらしい。箸が転がっても可笑しい年頃の女の子たちが7〜8人いて、笑いの絶えない明るい部室。しかしマジック研究会というのは表の顔で、実はここは賭博場なのだ。顧問の先生(?)らしき2人の男性がいて、そのうちの若い方(25歳ぐらい)は皆から「YAHOO(ヤフー)」をもじって「MAHOO(マホー)」と呼ばれている。そのMAHOOから私宛てに熱烈なラブレターが届いた。誰かがそれを発見してしまい、皆で大笑いしながら回し読みしている。私は手紙を取り返そうとするのだが、なかなか取り返すことができない。気がつくと場面が変わっており、道の向こうから中学校の同級生だったKさん(女性)が歩いてくるのが見える。Kさんは生まれつき病弱で中学校にもほとんど来られなかったのだが、今日は派手な原色のドレスを着て、花のついた帽子までかぶって飾り立てている。「どこにお出かけ?」と尋ねると「アスコット競馬場へ」という返事だ。二言三言立ち話をしただけで別れる。道すがら、2匹のガマガエル(おそらく夫婦か恋人)を見たような気がする。そのあと、Kさんの言葉が気になったので私も競馬場に行ってみると、既にレースが始まっていた。たくさんのサラブレッドに混じって先頭を駆けて来るのは、なんと(犬の)ブースケとパンダではないか。ブースケは馬になって全力で走っており、パンダはジョッキーで、ブースケの前髪を掴んでブースケの背中に立っている。両者とも死に物狂いの形相で走ってきて、ぶっちぎりの1位でゴールインした。
【解説】 実はもっと長い夢だったと思うのだが、あまりにも長すぎて他の部分は思い出せない。夢の全編にわたってギャンブルに関係のあることが登場したように思う。楽しい気分の持続する夢だった。なお、今夜の夢に登場したKさんは実在の人物である。頭の回転が速く、とても可愛らしい顔立ちの女性だったが、病弱のため中学校にもほとんど来られなかった。私は何度か彼女の家まで学校の書類を届けに行ったことがあるのだが、その後は全くの音信普通だ。心のどこかで時々、(Kさんは今頃どこでどうしているのだろう)と思うことがある。Kさんともっと話してみたかったという気持ちが、今夜の夢に表われたのかも知れない。なお、ガマガエルが登場する夢は今月に入ってからこれで3回目。



28日●詐欺師
前後関係はわからないが、7〜8人の日本人と一緒にマンションの一室に入ろうとしている。私たちは友人ではなく、たまたま何かの理由で集まった男女らしい。先頭に立っているのはホスト風の若い男で、「ここはうちの社長の自宅です。遠慮なく、お茶でも飲んでいってください」などと言っている。応接セットに通される。ソファにすわったところへ、例のホスト風がメニューを持ってやってくる。メニューには各種の飲み物が書かれていて、すべてに値段がついていた。何のことはない、「遠慮なく飲んでいってください」というのは嘘で、もともと商売をするつもりだったのである。社長の顔が見える。テレビでよく見かける顔だ。実に胡散臭い顔をしている。しかし私以外の全員は、社長の顔を見た途端に「あら〜、テレビで見る有名人だわ」「サインいただけるかしら」「一緒に写真を撮っていいですか」などと言ってはしゃいでいる。ここにいると悪質な詐欺に合うと思い、私は手を洗いに行く振りをして席を立ち、ダクトを伝ってマンションから脱出した。あの社長は悪質だと思う。
【解説】 この“社長”が実際にどんな人なのかは知らないが、夢の中ではかなり悪質な詐欺師のようだった。現実世界ではそうでないことを祈る。



29日●吹流し
長野市(※私の故郷)の街中にある権堂アーケード通りの中空を飛んでいる。七夕なのだろうか、吹流しがたくさん泳いでいる。私も吹流しとともに泳いでいる。西から東に向かって強風が吹いてきた。吹き飛ばされないよう吹流しの裾につかまり、風が止むのを待っている私。そう言えば、商店街には人っ子ひとりいない。どうやら皆、東のほうへ吹き飛ばされてしまったらしいのだ。しかし私は吹き飛ばされるわけにはいかない。何故ならば、私には西に行く使命があるからだ。
【解説】 色とりどりの吹流しが夢幻の美しさを醸していた。“西に行く使命”とは、おそらくダライ・ラマ法王に逢いに行くことを意味しているのだと思う。



30日●精霊流し
さだまさしの「精霊流し」が流れている。ストーリーはない。ただ、どこか物悲しい雰囲気が続く。最後に、平凡な2階建ての家が見えた。2階の、向かって左側の窓からオレンジ色の炎が噴き出している。早く消防車を呼ばないと、この家は全焼する。
【解説】 音楽ばかりで画像のない不思議な夢。夢を見る直前に伯母(享年96歳)の通夜に行ったので、それで「精霊流し」のイメージに繋がったのかも知れない。最後に一瞬だけ登場した2階建ての家に見覚えはないが、非常にリアルな感じがした(=現実世界でもどこかに実在するような気がするという意味)。その家は、平凡な造りの小さな民家で、ブロックを積んだような四角い印象のデザイン。外壁の色は薄いグレーまたはベージュ。2階には2部屋並んでいるらしく、そのうち向かって左側の部屋が炎上していた。



31日●キャラバン
2台(あるいはそれ以上)のジープを連なって旅をしている。BGMにベンチャーズの「キャラバン」が流れている。くねくねと曲がった山道を何時間も走ったらしい。この先は、30円払えば近道を通行できるという。近道を通ると1分で行ける目的地だが、本来のルートだと1時間以上かかるそうだ。30円を支払って近道を行く。着いた街では、大きなスポーツの大会が開催されていた。私は100メートル走に出場する。弟がマラソンに参加していると聞き、ゴールのところで待っていると、向こうから走ってくる弟の姿が見えた。ゴールの瞬間をデジカメでとらえようと待ち構えている私。弟がゴールした。シャッターを切ったその瞬間、画面に写っていたのは、何故か弟と握手する息子、それに見たことのない茶色い仔犬である。仔犬が画面の半分近くを塞いでしまっていて、この写真は使い物にならない。(でも、仔犬の顔が可愛いから、これでもいいかな)と思う。
【解説】 昨日と今日の夢を振り返って気づいたのだが、どうも私の夢にはBGMがつくことが多いようだ。といって、実生活の中で音楽を頻繁に聞いているかといえば、そんなこともないのだが。弟は現実世界でも趣味で走っており、毎年フル・マラソンにも出場している。今年の結果(タイム)はどうだったのだろう。この次逢ったら聞いてみよう。





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