2005年4月


1日●渚のキス

海岸線がゆるい弧を描くような形で続いており、それを取り巻くようにしてところどころに高層マンションが建っている。いかにも南国のビーチリゾートといった、のんびりとしたイメージ。私はその風景を俯瞰している。気がつくと、自分も下に降りて、渚で水と戯れていた。適度な湿気と温度が気持ち良い。目を閉じて風を頬に受けていると、突然誰かが唇にキスしてきた。それはとてつもなく大きな唇で、しかも、ねちゃっと吸い付くような感触がある。驚いて目を開けると、相手はタコ型の宇宙人だった。あわてて唇を拭うが、なんとも奇妙な感覚が残る。そこへ柄の悪い日本人観光客ら(おそらくヤクザ)が通りかかって、「このふたり、出来てるみたいだぜ」と言い残して去って行く。
【解説】 「渚のキス」とだけ聞けば、爽やかな初恋などが連想されるが、実際には宇宙人が相手のキスである。ねちゃっとした感覚は、夢の中とは言え薄気味悪かった。


2日●ヤクザのアジトからの脱出

アジア以外の海外。近くに美しい海(太平洋?)の存在を強く感じる。食堂の細長いカウンター席に並んで座り、皆で食事をしている。私はいちばん出口に近い右端の席で、左には数人の女友達が座っている。彼女達の顔は良く見えないが、どうやら中学時代の同級生らしい(ただし全員大人の姿になっている)。ここは実に危険な食堂で、私達の背中の真後ろはトラックの駐車場になっているのだ。私は出入り口に一番近い席に座っているので、食堂の中に入ってくる大型ダンプカーに背中を擦られたりしている。落ち着いて食事をするどころの話ではない。そのうち、何故か私はこの家に監禁されてしまった。(しまった)と思うが、時既に遅し。ここは日本人暴力団のアジトだったのだ。いかにもヤクザ風の男達が出入りしている。私はポーカーフェイスを装いながら、頭の中ではこの家から脱出する計画を練っている。近くにひどく醜い男がいて、その男は私のことが好きらしい。私はこの男を毛嫌いしているが、いざという時には囮(おとり)として使えるかも知れないとも思う。その時ラジオから、ローマ法王危篤のニュースが流れた。周囲のムードが一変する。厳粛な雰囲気。居合わせた全員がラジオのほうへ近づいた。私は自然な仕草で立ち上がると、胸の前で十字を切りながらバスルームに入り、以前マジシャンの友達から教わってあった壁抜けのテクニックを使って家の外に脱出。しかし、この国の空港から高飛びすると足が付くと思い、まず陸路でネパールに出て、そこからロイヤル・ネパール航空の10人乗り軽飛行機をチャーターして国外逃亡することに成功した。
【解説】 昨日に引き続き、“美しい海”の近くで“ヤクザ”と関わりあう夢である。早速、例によって『夢の事典』(日本文芸社)で調べたところ、「美しい海」の意味は「恋人とのラブラブ状態/精神の安定/想像力の冴え/運勢アップ」と、いいこと尽くめである。「ヤクザ」「マフィア」という項目は見当たらなかったので、一番近い類義語として「悪人」を見ると、わざわざ「悪人から脱出する」という項目が立てられていて、その意味は「内面に隠し持っている、公に出来ない願望の克服」となっていた。特に心当たりはないが、随分と意味深長な夢占いである。


3日●孫と松葉杖

右足をどうかしたらしく、松葉杖を突いてパーティーに出席している。下を見ると、明るい色合いの柔らかなフレアースカートと金属製の杖の先が見える。私はにこやかに挨拶をしながら、ゆっくりとパーティー会場を進んでいる。会場には既に大勢の人が集まっていて、笑顔で挨拶を返してくれる。その大多数は外国人だ。私をエスコートしてくれている背の高い若い男性は、息子によく似ているが、どうやら孫らしい。私は拍手の中をステージの方へと進んだ。
【解説】 夢の中で、私の年齢はおそらく90以上だったと思うのだが、面白いことに、その私は今現在の「山田真美」よりも更に「山田真美」らしく見えた。バージョンアップして最強になった山田真美という感じなのである(笑)。なんと言うか、タイムマシンで自分の将来を見て、(ああ、私は最後まで嘘のない「自分の道」を歩いたのだなあ)と実感できたような清清しい夢だった。


4日●ロック・クライミング

「太平○」という名の中華料理屋が見える。最後の1文字がよくわからないのだが、おそらく「太平洋」「太平道」「太平堂」のいずれかであると思われる。店は切り立った崖(あるいは城壁?)のようなものの上にあって、しかも階段などは存在しない。つまり、そこへ行くには、なんとか自力で崖(城壁)を登らなければならないのだ。私はロック・クライミングで店を目指している。ロープ1本を頼りに高いところによじ登って行くのは快感だ。見た目は難所だが、登ってみれば意外に楽々と登れてしまった。中華料理屋に辿り着いた私は、そこで誰かと逢ったような気がするのだが、詳細は覚えていない。
【解説】 大学の先輩に、ロック・クライミングの天才がいた。あるとき、大学の7階建ての建物の3階の部屋の扉の鍵が紛失し、廊下から教室へ入れなくなってしまった。急いで扉を開けないと次の授業が始まってしまう。合鍵屋さんを呼んで鍵を作らせるだけの時間的余裕はない。ついに鍵を壊す壊さないで大学側が協議し始めたとき、それまで冷静に事の成り行きを見守っていたこの先輩が、「あの部屋は、窓の鍵が開いているんじゃありませんか。窓からなら入れますよ」と言い残したまま、エレベーターで屋上に上って行った。先輩は持っていったロープを屋上の手すりに固定し、あっという間にロック・クライミングの要領で(ただしこの場合は下りだからクライミング・ダウンだが)建物の壁を下り、3階の窓から中に入って、扉の鍵を内側から開けて見せた。その、あまりの手際の良さ、冷静さ、ロープ使いの鮮やかさに魅了された私は、実はそれを機会に山登りというものに興味を持ち始めたのである。今夜の夢の中で私はロック・クライミングの真似事をしたが、それはとても気持ちの良い体験だった。ちなみにこの先輩はヒマラヤ登山などで名を馳せたあと、今はマスコミ某社に勤務しているそうである。



5日●世界創造

絵画のモデルを務めている。どうやら画家はダ・ヴィンチらしいが、姿は見えない。なるべく動かないようにと指示されているので顔を動かすことは出来ないが、近くで数人の男達が話す声が聞こえる。英語に、時々イタリア語とラテン語が混じる。彼らはどうやら世界を創造しようとしているらしい。私は地球儀のようなものを持たされ、ポーズを取らされている。白い布を体に巻きつけただけの姿なので、少し肌寒い。暖房を入れてくれないかしらと思う。「世界を造っていたつもりだったが、私達が造ったものは結局、世界と言うよりはむしろ国家だな」と誰かが言った。
【解説】 現実世界でも、何度か絵画のモデルを務めたことがある。しかし、同じ姿勢でじっとしているのは結構辛いもので、ポーズによっては足が攣ったり首が凝ったり大変だ。今夜の夢の中でも、地球儀を持ち上げた手を動かさないようにポーズを取り続けるのは、なかなかの“しごき”だった。せっかくダ・ヴィンチに逢えたというのに、顔が見えなかったのは残念である。


6日●付け髭のパリジャン

パリのカフェ。一見、ルイ王朝時代を思わせる豪華な建築物とファーニチャーだが、全体にひどくハリボテっぽい。一目で(偽物だな)と感じる。しかしそのことは口に出さず、ギャルソン(ボーイさん)が連れて来た男に注目している。その男は“土地の名士”“パリを代表する文化人”といった触れ込みなのだが、見た目からしてどうにも胡散臭い。立派な髭をたくわえているのはいいが、いかにも付け髭っぽいし、何よりおかしいのはフランス語が訛っているのだ。(パリジャンを気取っているけれど、彼の正体はイタリア人に違いない)と私は推測した。そのうち、男達は宝石か何かを出して見せ、「これは世界最大のキャッツアイで、値段は……」というような話を始めた。いよいよこれは詐欺に間違いない。私はとぼけた風を装って、「あら、ハリウッド女優の○○さんのお宅で見たキャッツアイよりも大きいわ」などと適当なコメントをしながら、心の中では(この男の付け髭を、いつむしり取ってやろうかしら)などと思い、そのチャンスを待っている。そのあとでカフェに置いてあった新聞を開くと、長野県で中規模な地震があったという記事が載っていた。
【解説】 詐欺師が登場すると言っても実際には何の被害もなかったのだし、どこかコミカルで楽しい夢だった。ちなみに私はイタリアは好きだが、パリの街はあまり好きではない。


7日●妖しげな女が集まる部屋

落ち着いたたたずまいの街並み。ヨーロッパの裏町だろうか。半地下になったアトリエのようなカフェバーっぽい店に、大勢の女達が集っている。私を除く全員が白人で、ひとり残らず髪を青、赤、オレンジ、緑といった鮮やかな色に染めているのが印象的だ。彼女達の視線には、多少レズビアンっぽい雰囲気が隠されているような気がする。そのうち、ひとりの女が「私の○○が見当たらない」とフランス語で言い出した。それでようやく、ここがパリ(またばブリュッセルあたり?)の裏町らしいことに気づく。皆で○○を探し始めるが、なかなか見つからない。ふと左に顔を向けると、部屋の隅に彼女の所有品らしき○○が見えた。「もしかして、これかしら」と言いながら、私は○○を指差した。女は「ああ、それよ、それ!」と言いながら嬉しそうに礼を言う。ふと自分の足元を見た私は、(私も皆のように○○を履いて来れば良かった)と思う。
【解説】 昨夜に引き続き、パリが舞台である。女がなくした○○が何だったのか、ハッキリとは思い出せないのだが、それはタイトなロングスカート、ロングブーツ、ストッキングのような“下半身に着ける細長いモノ”で、色は黒だったような気がする、なお、レズの人からラブレターなどを貰ったことは過去に何度かあるが、私自身はレズビアンの傾向は皆無です。どうぞお間違いなく(笑)。


8日●フリースタイル・ダンス

何千人もの観衆の前で、3分間のフリースタイル・ダンスをすることになってしまった。会場は、広大な雪原に設けられた屋外ステージ。しかもこれは遊びではなく、正式な競技らしい。私以外にも何人かが出場するようだ。曲は自由に選べるものと思いきや、課題曲が既に決まっているという。試聴してみたところ、どうにもメリハリの少ない踊りにくそうな曲である。音楽が地味な分、派手な振り付けを考えなければと思う。衣装は決まっているようなので、あとは小物に凝るしかない。実家に子ども用の兵児帯があったことを思い出した。あれは使える。赤と黄色の兵児帯があれば、新体操の真似事が出来る。ほかにも使えそうなものが頭に浮かんだ。しかし、それらはすべて実家に置いてある。時計を見ると、今は夜中の1時半だ。これから実家の母に電話をし、朝5時までに持って来てもらおうと思う。そう思いながら別の部屋に入っていくと、子どもの頃に使った2段ベッドがあって、その脇では、母と夫と娘が何か世間話をしていた。場面が変わり、審査員席。審査員の姿は見えないが、どうやら全員が外国の人らしい。私は既に演技を終えたようで、リラックスしている。審査員が書いたばかりの審査表が、上向きのまま机の上に置いてあった。本来は見てはいけないものかも知れないが、あまりにも堂々と置いてあるので、私も堂々と紙を覗き込んだ。すると驚いたことに、審査員の名前の欄には「Ian」と書いてあるではないか。この人は20数年来の友達で、今はオーストラリアの大学で先生をしている。審査員のひとりがイアンだったのは、正直なところ意外だ。審査表の中身は、すべて英語で書かれている。評価の内容は、「ラダックの洗面所施設に対する演技者の率直な意見」、「ハリー・ゴードン氏の著作に対する演技者の理解度」、「ヘブライ語による“Torah(旧約聖書)”演習時に見られる演技者の分析能力」など、ダンスとは無関係なものばかりだった。しかしそれを読んだ瞬間、私は自分の優勝を確信する。
【解説】 どうにも意味のわからない夢だが、最後のわけのわからないオチを見て、何やらひどく安心した。イアンさんとゴードンさんは、私が現在手がけている仕事に直接関係のある人々なのだ。意味不明な今夜の夢の中で、このふたりは守護神的な役割を果たしているような気がした。


9日●ケララ、バリ島、アメリカ

南インドのケララらしき場所。とは言えそこは、実際のケララとは全く様子が違っている。私はこれからホテルにチェックインするらしい。家族も一緒なのかも知れないが、彼らの姿は見えない。私はふたりの女性に案内されて、海辺のリゾートに向かい歩いている。女性達はシンガポール航空のスチュワーデスが着るような民族衣装を着ており、顔立ちはどう見てもドラヴィダ系(南インドに多い)ではなく東南アジア系だ。「もしかしたら、ここから先はバリ島なのですか」と尋ねると、女性達は「そうですよ」と笑った。ケララとバリ島が繋がっていたとは知らなかった。もっと地理の勉強をしなければと思う。大きな建物の中に入る。南国コロニアル風のファイブスターホテルという感じ。いつの間にか女性達は消えていた。ホテルにチェックインしようと思うのだが、レセプションが見当たらない。広い廊下の隅に、ホテルマンらしき男が見えた。しかしこの男は、英語もマラヤラム語も話せない。困っていると、どこからともなく夫が現われた。夫はホテルマンに向ってジェスチャーで「鍵をくれ」と頼んでいる。しかし男は仏頂面のまま顔を横に振る。しかし夫がもう一度、何やら呪文のような言葉を唱えながらホテルマンの手からカード式の鍵を2枚抜き取った時には、ホテルマンは無抵抗だった。夫からカードを1枚貰う。それは5号室または6号室の鍵だったと思う。場面が変わり、私はひとりでホテルの外に出ている。広い大通りを、自転車に乗って全力でペダルを漕いでいる。手元には1枚の地図があり、そこにはこれから訪ねる人の家が記されている。どうやらここはアメリカらしいのだが、これまた見覚えのない風景だ。地図に記された場所をぐるぐる回るが、なかなか目的地に到着しない。よくよく地図を見直すと、全くの逆方向に走っていたことがわかる。方向を改めて、もう一度目的地に向う。気がつくと自転車は消えており、私は他の歩行者に混じって歩道を歩いていた。すぐそこに横断歩道が見える。道路の端にはチワワがおとなしく座っている。信号が青になり、私が向こう側に渡り始めると、反対から、日本犬のように目の吊り上がった犬顔の婦人が歩いてきた。私は少し驚きながら、失礼にならない程度に彼女の顔を見る。もう少し道を渡ると、今度は泥まみれの狂犬のような醜い犬顔の男性も歩いて来た。どうやらこの街には、首から上が犬の人間がたくさんいるらしい。道を渡りきると、そこには小型の可愛い犬が座っていた。目指す家までは、あと10分ほどで到着する。
【解説】 ケララ、バリ島、アメリカと旅をしながら、その実、どれひとつを取ってみても、当該国らしき風景は見当たらなかった。最後に目指していた家には、貧乏だが物知りな、痩せた老学者(男性)が住んでいるような気がする。


10日●空欄を埋める

目の前に答案用紙があって、縦に4つ、解答を書き込むための空欄が並んでいる。最初の2つの空欄にはそれぞれ漢字2文字の単語、次は漢字3文字、最後は漢字4文字の単語が入るらしい。最初の空欄に入る単語は「柔道」だ。3つ目は引っかけ問題で、多くの人が「一直線」と書き入れたがるが、そう書くと不正解になる。すべての答えがわかった私は、一緒にチームを組んでいる相手に小声で正解を告げた。
【解説】 非常に長い夢の、これが最後の場面だったことは覚えているのだが、残念ながら起きた瞬間に前の部分をすべて忘れてしまった。全編にわたって「楽しい冒険」「クイズ」「挑戦」といったイメージが強かったのだが。


11日●花火見物

友人のE子さんが、隅田川の花火大会を見たいという。私の部屋はビルの10階にあって、しかも壁面が総ガラス張りのため、花火がたいへんよく見えるのだ。屋上に上がれば、景観は更に良くなる。E子さんを花火大会に招いてあげたいのは山々だが、私はその夜からオーストラリアに行くことになっている。残念ながら、今年は花火大会に友達を招待することが出来そうにない。気がつくと私は、見覚えのない和室で掘り炬燵に座っていた。ここは吉祥寺の家だと思う。ここからでは隅田川の花火が見えるはずもない。しかしそこへE子さんがやって来た。「花火、ここからじゃ見えないわよ」と言うと、E子さんは「あら。花火が見えるかどうかはわからないけど、そのへんに楽しい野生動物がたくさんいたわ。鹿とかキツネとか」などと返事をしながら、コートを脱いで勝手に座ってしまった。夫が持ってきてくれたコーヒーを飲みながら、(吉祥寺にまだそれだけ自然が残っていたのかしら)と驚いている私。
【解説】 私の部屋から隅田川の花火がよく見えるというのは本当の話で、ほぼ毎年のように親しい友達を招いては花火見物と洒落込んでいる。壁面が全面ガラス張りなので、景色が大層よく見えるのだ。夢に登場した“吉祥寺の家”は現実には存在しないが、内部の様子は昭和建築という感じで、なんとなく宇野千代さんが住んでいそうな落ち着いた佇まいだった。


12日●新幹線に乗って

何か大きな仕事を終えて、これからどこかへ移動しようとしている。交通手段は新幹線だ。この新幹線は、日本列島を縦断しているのだが、北から南まですべて旅すると1万キロほどあるらしい。日本列島は、私が考えていたよりもずっと長大だったのだ。しかし不思議なことに駅舎というものは存在せず、乗客は適当な場所から車輌に飛び乗るシステムなのだ。それまで一緒にいた夫が、南から北へ向かう新幹線に飛び乗ろうとしている。車輌には、既に夫の友達(陽気な若い白人男性)が乗っていて、ふたりはあっと言う間にビールで乾杯しながら楽しそうに騒ぎ始めた。私は北から南へ向かう新幹線に飛び乗ろうとしている。北へ向かう新幹線が一足先に走り出した。彼らに「じゃあ、またあとで」と手を振りながら、私は南へ向かう新幹線に乗り込んだ。ノスタルジックなデザインの車輌には、編集者の芝田さんが座っていた。私達は、この夏に出版予定の本のゲラを読み始めた。途中、中南米のどこかの国(ペルー?)が発行する紙幣(単位はペソ)を見たような気がするのだが、その紙幣で何をしたのかは思い出せない。新幹線の窓辺には、テキーラの瓶が置かれていて、その横ではピンクと黄色の南国の花が揺れていた。
【解説】 全編にわたって、時速300キロ以上のスピードで走り続けているような夢だった。最後に新幹線は中南米のどこかを通過していたようなのだが、窓から見たその風景は、何故かデジャ・ヴュのように懐かしい光景だった。


13日●チベットの「春が来た」

ラサにあるポタラ宮殿。私は久しぶりにダライ・ラマ法王とお逢いして、中庭でビスケットをつまみながら紅茶を飲んでいる。何か他愛もない冗談を言い合いながら、法王と私は笑い転げている。宮殿の中庭は驚くほど広く、そこには何故かカメラ工場が建っていて、アルナーチャル・プラデーシュ(※インド北東部の州)の孤児院の子ども達が、カメラの製造を手伝っていた。製造工程に慣れるには、「春が来た」を歌いながら作業するのが一番効率が良いのだが、この曲に馴染めないのか単に音痴なのか、彼らはなかなか「春が来た」の旋律を覚えられない。私は笑いながら歌の指導をしている。子ども達も何か言いながら笑っている。それを聞いて、法王はますます楽しそうに笑い転げた。
【解説】 (そろそろ次回の法王謁見の日程を調整していただかなければ)と思っていた矢先にこの夢を見た。カメラ工場で働いていた子ども達は、現実世界でも5年ほど前から色々とサポートさせてもらっている孤児院の子供たちで、人種的にはチベット系だ。カメラ工場が登場した理由は皆目わからない。それにしても今月は、外国(外国人)の登場する夢が圧倒的に多い。13回の夢のうち、なんと10回が外国(外国人)の夢である。私はインドから日本に戻って4年近くになるが、その間に日本での生活に慣れた反面、そこはかとない違和感のようなものを常に感じ続けている。時折り、(私は何故、日本に生まれてきたのだろう)と不思議に思うこともある。別の場所、たとえばどこか英語圏のアカデミックでリベラルなプチ・ブルジョワ家庭に生まれていたら、今頃どこでどうしているだろう……などと夢想することもある。昼間の私は日本人だが、夢の中では海外に飛んでいる。そうすることで私は知らず知らずのうちに心のバランスを取っているのかも知れない。
【後日談】 この夢を見た翌朝、普段は夢など滅多に見ない夫が「今日は珍しく夢を見た」と言う。その夢の内容を聞いて驚いた。なんと、チベットにエプソンの工場が建設され、その壁を装飾するために、大勢のチベット人の子ども達が働いている夢だったと言うのだ。これまでにも、娘や息子とほぼ同時に似た内容の夢を見たことがある。こうしたシンクロニシティーは、あまり気づいていないだけで実は頻繁に起こっているのかも知れない。ちなみに昨夜は家族とチベット関係の話など交わしていない。


14日●借り物の撮影

テレビ番組の撮影をしている。スタッフは私ひとりだ。しかも機材を持っていないので、撮影したい相手に近づいて行き、その人が所有しているビデオカメラを借用して番組を撮るのである。撮影対象は全員外国人だ。そのような方法で数組の外国人を撮影した私は、次にビーチを歩いている陽気な4人組の男性を撮ろうとした。彼らの年恰好は20代後半で、マレーシア人かインドネシア人と思われる。例によって彼らの機材を借りて撮影しようとしたところ、彼らが所有していたのは旧式のスティルカメラだけだった。これでは番組の撮影はできない。しかし彼らは既にテレビに出られると信じきって喜んでいる。困ったことになったと思う。4人のうち、察しの良いひとりの男が「ああ、スティルカメラじゃダメなんですね」と気づいてくれた。私はほっとしながら、彼らに手を振って別れる。そのあと何かのテレビ番組で高見恭子さんとお会いしたのだが、何を話したかは覚えていない。
【解説】 延々と撮影をして歩いた記憶だけが残っているが、何の番組を作っていたのかはわからない。最後に高見恭子さんが登場したことにも、心当たりはない。


15日●軍服とアメリカンスクール

アジアではない海外のどこか。山の中に大きな遊園地がある。そこには、とてつもなくスリルに富んだ乗り物があるという。まだ乗ったことはないが、ジェットコースターとフォールを足して2をかけたような凄まじいスピード感が味わえるのだそうだ。私は娘と息子と3人で列に並び、何やらおかしそうに笑いながら順番を待っている。ずっと先のほうはスキー場になっているようで、夫がゲレンデを斜めに滑っていくのが見えた。それを見て私たちは何かを思い出し、さらに笑い転げている。近くに古い洋館があって、廊下に入ってすぐ右側は米国海軍。軍服を着た男がこちらを向いて親しげに微笑んでいる。左側はアメリカンスクールのオフィスで、30代の白人の女性が2人、私に向かって手を振りながら、(英語で)「あら、ミセス・ヤマダ、いいところへいらっしゃいましたわ。来週のNASA(※息子の名前)の懇談会のアポイント、何時になさいます?」と言う。どうやら彼女たちは、NASAの学校の事務担当者らしい。懇談会は2時にして欲しいと思うのだが、その直前の1時半までブラジル(?)で会議があるので、2時までに日本に帰れる自信がない。その旨を告げると、「あら。30分もあればブラジルからなら余裕で戻れますよ。軍のジェット機なら時速10万キロまで出せますから」と言われた。そのあと建物の中で、爵位を持つフランス人男性とすれ違ったような気がする。
【解説】 このほかにも、何かスピードに関係のあるサイドストーリーがあったような気がするのだが、詳細は思い出せない。
【後日談】 夢から覚めてメールをチェックしたところ、なんと米海軍の大尉(未知の人物)からメールが届いていた。仕事関係のメールなので、詳しい内容をここに書くことは出来ないが、もしもこの大尉と夢で見た軍服の男が同じ顔だったら驚きである。


16日●そういう関係

A君とB君が路地裏で抱擁しているのを、通りがかりに見てしまった。ふたりと目が合う。困惑するA君。恥ずかしそうに身もだえするB君。(そうか、君たちはそういう関係だったのね?!)と驚きあわてる私。気まずい雰囲気。B君が「良かったら真美さんも……」と言いかけたので、私は猛ダッシュでその場から走り去った。
【解説】 危機一髪のアブナイ夢でありました(笑)。A君もB君も実在の人物。ふたりともホモっけはない。と、思う。たぶん。しかし、何があってもおかしくない世の中だから、もしかしたらもしかするのかも知れない。今後のふたりの動向に注目したい(爆)。


17日●銃撃戦

町中で銃撃戦が繰り広げられている。映画の看板にマシンガンの弾が当たって、見る見るうちに蜂の巣状態になった。非常に危険なのだが、何故か私はこの町から脱出しようとしない。どうやら一昨日の夢で見た軍服の男が、軍用機で助けに来てくれるらしい。私は余裕でコーヒーなど飲みながら男を待っている。
【解説】 一昨日の夢で見た軍服の男が、2日後の今日の夢の内容にも反映されるという、少し変わった趣向の夢だった。銃撃戦の夢を見たこと自体は、現在執筆中の本(カウラ関係の戦記ノンフィクション)に影響されていると思われる。


18日●バイヤ、ボール、デド

インドの家。その前にある広い公園。サーバントのプラカッシュが笑いながら走っている。どうやらサッカーボールが遠くに飛んでしまったらしい。私は庭の内側からその光景を見ている。隣の家の年寄りのサーバントに向かって、プラカッシュは無邪気に「バイヤ、ボール、デド!(おじさん、ボール取って)」と言った。
【解説】 インド時代の家が登場する懐かしい夢。プラカッシュは実際に雇っていたサーバントで、当時18歳のネパール人の少年。現在は21歳か22歳になっているはずだ。口減らしのため9歳でインドに奉公に出されたプラカッシュは、性格にいじけたところがなく、実に頭の回転の速い子だった。我が家では今でもしばしば、「プラカッシュは今頃どうしているだろう」という会話が家族の間で交わされる。今日の夢の中のプラカッシュは、とても幸せそうに見えた。


19日●罠

深い山の中の別荘のような建物。そこに10代から20代の若い人たちが数人集まって、何やら楽しげに語り合っている。私の視界に映っているのは、何故か建物の裏側部分だ。この子たちは、誰かの手で罠にかけられた獲物なのだと思う。別の場所には、80代の男性が数人集まっている。彼らは元日本軍の軍人だ。そのうちのひとりは、見た目は柔和で親切そうだが、実は何かとんでもなく巧妙で悪質な陰謀を巡らしているらしい。私はなんとしても若い人たちを守らなければと思う。
【解説】 今夜の夢は、非常に手の込んだストーリーだったのだが、具体的に「陰謀」や「罠」がどんなものであったのかは、残念ながら起床と共に忘れてしまった。「日本の未来を守らなくては」という思いの強い夢だった。


20日●ガラスのアクセサリー

日本の小学校の校庭。高学年の子どもたちが大勢遊んでいる。どうやら彼女たちは娘(LiA)の同級生らしい。Eちゃんが私を見つけて、「あっ、リアちゃんのマミーや。マミリーン!」と手を振りながら近づいてくる。そのあとを、数人の女の子が駆けてくる。何故か娘はその場にいない。どうやら夏風邪をひいて家で休んでいるようだ。私の手の中には、一組のガラスのイヤリングがあって、私はそれを捨てようとしている。イヤリングの飾り部分は、縦に長い円筒形で、グリーン(あるいはオレンジだったかも知れない)の綺麗なガラスで出来ている。何故そのイヤリングを捨てるのか、理由は良くわからない。私がゴミ箱のほうへ近づいていくと、女の子のひとりが突然「イヤリングを捨てちゃ嫌!」と大泣きを始める。あまりにヒステリックな泣き方なので、私が驚いていると、Eちゃんがニコニコ笑いながら、「ああ、気にせんといて。この子はいつもこんな調子やから」と言う。私はイヤリングを捨てないことにした。場面が急転し、バスに乗っている。家族も一緒のようだ。母もいるのかも知れない。そのバスは野尻湖(※長野県北部にある湖。ナウマン象の化石で有名)の近くを通って、須坂(※長野市と隣接する古い町)のあたりを通る路線バスらしい。しかし、このバスが私の行きたい停留所を通らないことが、乗っている最中に判明する。途中に大きなターミナルがあって、バスはそこで10分ほど休憩することになった。空港のように広いコンコースがあり、そこにポツンポツンと小さな店が出ている。それぞれは小さな店で、カプセルのようなものに包まれて外からは見えない。私はその中の一つに入ってみた。店内は、ガラスのアクセサリーで一杯である。透明感のある綺麗な色が視界一杯に広がった。いくつか手にとって見る。しかし私はそのどれも買おうとはしない。早くしないとバスが出てしまう。私は外に出てバスを探そうとするが、何故か周囲の風景が先刻とは全く違っている。バスも見当たらない。私は心の中で(まあ、それでもいいか)などと思いながら、のどかな風景の中をゆっくりと歩いている。
【解説】 昨夜はパーティーがあって、隣の席にお座りになったフランソワーズ・モレシャンさんのイヤリングが素敵だな、とずっと思っていた。そのことが少なからず今夜の夢には反映しているように思われる。Eちゃんは娘の友達で、外語大の2年生。しかし夢の中では小学生の姿のままだった。
【後日談】 昨夜はパーティーからの帰宅が遅くなったため、メールのチェックなどを怠った。翌朝(つまり今朝)起きてすぐにネットにつなぎ、娘が参加している某SNSに行ってみた。娘は現在オーストラリアの大学に留学中なので、私たちはネットを使って頻繁に連絡を取り合っているのだ。娘が昨夜書き込んだ雑文を読んで、「えっ?」と驚いた。なんとそこには「Eちゃん」の話が綴られており、しかも娘は昨夜「風邪っぽいので早めに休むことにした」というのである。娘がこのSNSでEちゃんのことを書くのも初めてなら、風邪をひいたという話も初耳である。娘と私はたいへん仲が良く、これまでには同時に同じ内容の夢を見たこともある。今日の夢は、遠くに住んでいる娘の日常を感知したような不思議な内容であった。今夜あたり早速娘とSkypeし、夢のことを話そうと思う。


21日●改ざん

私は軍人。それも、かなり階級の高い軍人だ。机の上に、縦書きの書類のようなものが見える。私はそのうちの幾つかの漢字を書き改めようとしている。いわゆる「改ざん」だ。いけないことをしているという罪悪感は付きまとうが、これで大勢の人間の命が助かるのだから仕方がない。自分の軍人生命と引き換えになっても惜しくはないと思う。遠くで空襲警報が鳴っている。

【解説】 「軍人であることよりもひとりの人間であることを選ぶ」といった趣旨の夢だったような気がするのだが、この前後にあったはずのストーリーは残念ながら忘れてしまった。昨日は、旧帝国海軍のN中将について調べ物をしていた。夢の中の私は、ひょっとするとN中将になっていたのかも知れない。


22日●犬用の花粉症マスク

道を歩いていると、向こうから鼻の高い大型犬が歩いてきた。長い栗色の体毛。少し目と目が寄っている。あれは確かアフガンハウンドという犬種だ。驚いたことに、その犬達は皆、鼻をすっぽり覆う立体的なマスクをしている。最近は犬のあいだでも花粉症が流行しており、愛犬家たちは競うようにして、このマスクを買い求めているのだという。私は、アフガンハウンドの飼い主からマスクを借りて、ブースケの顔に装着してみた。ところがブースケが鼻ぺちゃのため、マスクはすぐにズルズルと落ちてしまう。それを見て私は大笑いをしている。
【解説】 世間ではよく「ペットと飼い主は似ている」または「飼っているうちに似てくる」と言うが、だとすると私は「ブースケ顔」をしているのだろうか? 嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちだ(笑)。


23日●新漢字

私が考案した新しい漢字が、日本と台湾と香港で実用されることになった。獅子の「獅」の下に、「熊」の下の部分(ハハ)を書き、その全体を「しんにょう」でくくった文字で、これで「足の速いシー・ズー」という意味らしい。新漢字発表の記者会見の席で、私は色紙の上にその文字をサインしている。
【解説】 ちなみに「シー・ズー」は中国語で「獅子」の意味である。ただし、正式名称は「獅子狗」というそうだ。


24日●潜水艦ミュージアム

日本のどこかにある潜水艦ミュージアム。館内の小さな池の中には、3〜4人乗りのミニ・サブマリンがあって、そこで潜水艦の操縦を疑似体験できるらしい。テレビ番組の取材なのだろうか、石田純一さんがやって来て、潜水艦に試乗している。案内係の男性が、石田さんに色々なことを教えている。係の男性の苗字は「船越」とか「大船」のように、「船」という漢字が入るようだ。係の人の「潜水艦の中で朝早くイナゴの群れを見たら、昼過ぎに敵艦隊が姿を現わすと言われています」という説明に、石田さんは「えっそうなんだ! カマキリが高い位置に卵を産んだ年の冬は豪雪になるとは言うけど、敵艦隊の出現はイナゴが教えてくれるんだ! 昔の人の知恵ってスゴイよね」などと感心している。そのあと、係の人が何かとんでもなく馬鹿げたジョークを言い、それを聞いた石田さんが大笑いしている場面で目が覚めた。
【解説】 目下、戦争関係のノンフィクションを執筆している(7〜8月出版予定)。石田純一さんはかつて『カウラの脱走』というオーストラリア映画に兵隊の役で主演なさったことがある。「生きて虜囚の辱めを受けず」という軍国主義の教えに凝り固まった当時の日本兵の役なのだが、石田純一さんのイメージ(ソフトな二枚目、華麗な女性遍歴)と、コテコテの兵隊のイメージがあまりにもミスマッチで、映画を見ながら「このキャスティングはギャグですか?」と爆笑した記憶がある。石田さんと潜水艦が同時に夢に現われたのは、その映画の影響ではないかと思う。なお、「潜水艦の中で朝早くイナゴの群れを見たら、昼過ぎに敵艦隊が姿を現わす」などという諺は実在しません。単に夢に出てきただけですので、誤解なきよう。


25日●Cyber Lotus(サイバー・ロータス)

夢の画面一杯に、コンピューターのスクリーンが広がっている。ウェブサイトのトップページだ。背景は赤一色で、そこに5つ6つメニューボタンが並んでいる。すべて中国語だ。それぞれのボタンをクリックしてみる。最初のメニューボタンの向こう側には何十万、何百万株という蓮の花が咲き乱れていた。とても地球上とは思えない広大な蓮沼だ。私はその蓮沼の中を歩いている。ひとつひとつの花は驚くほど大きい。自分が一寸法師になったようで、なかなか爽快だ。次のメニューボタンの向こう側には、宇宙誕生(ビッグバン)のシーンが広がっていた。私は驚嘆しながらトップの真っ赤なページに戻り、「このサイトを作った人は一体どなたですか」と、近くにいるらしい誰かに尋ねる。すると姿の見えない誰かが、「このサイトを作ったのは、とても若い女性で、このウェブサイトが彼女の最初の作品なんですよ」と応えた。その女性は間違いなく神童だと思う。私は何度もボタンをクリックし、ウェブサイトの中の壮大な世界を訪ね歩いている。
【解説】 子どもの頃、両親に連れられて『砂漠は生きている』というディズニー映画を観に行った。スクリーンから次々に飛び出してくる色彩の洪水に、幼い私は目が釘付けになっていたのだが、今夜の夢もそれと似通った感じで、まさに「宇宙光の洪水」と言うべきイメージだった。トップページの赤色を見ているだけで、生命力がチャージできたように思う。


26日●IQテスト

少し大きめの教室のように見える部屋。中に入ると、横に長い机がたくさん並んでいる。最前列左端の机に息子が座っている。よくよく見ると、テーブルは座卓で、足の下は畳敷きだ。息子は2歳ぐらいで、着物を着て畳の上に正座している。ようやく、ここが寺子屋であることに気づく。私自身も着物を着て、頭にリボンをつけている。姿は幼い子どもに戻った私だが、精神年齢は大人のようで、盛んに息子の世話を焼いている。広い教室には、右後ろのほうに数人の生徒がいるらしいが、皆静かにしているため、声などは聞こえない。教室では、これからIQテストが行なわれるのだ。息子がリラックスした顔で、「前にもやったテストだよね。簡単だったよ」などと無邪気に言っている。この時、私は急に呼び出されたようで、別の教室の掃除をすることになった。行ってみると、そこには大量の野菜が転がっている。どれも全て緑色だ。これを片付けないとIQテストは始められないのだ。私は(着物の裾が邪魔だな)と思いながら、野菜をどかし始めた。
【解説】 江戸時代の子どもになって、寺子屋に行ってきたような気分の夢。最後の野菜の意味がわからないが、大量の長ネギと白菜が散乱していたのが印象的だった。IQテストと言えば、私が子どもの頃は当たり前のように受けさせられたものだ。小学校の6年間で、通算2回やらされた記憶がある。あとで、IQが極端に高い子と極端に低い子の親だけが、その旨の通達を受けたらしい。うちの両親は、ごく堅実で保守的な人たち。IQテストのことで学校に呼び出され、「おたくの娘さんは非常に高い知能指数を持っています。上手に育てれば素晴らしい人物になります」と言われたというのに、特別なことは何もしてくれなかった。もしもあのとき天才教育を受けていたら、今頃私はどんなスバラシイ人になっていたのだろう。かえすがえすも勿体ない(地団駄)。


27日●中途半端な人たち

雑誌の撮影で南の島に来ている。しかし不思議なことに、同行している女性は「編集者」ではなく「ディレクター」と呼ばれている。他のスタッフも全員が女性だ。私達は岬の突端に作られたプールに膝まで浸っている。私の水着は薄いグレーで、前面に椰子の木らしきイラストが描かれている。(こんな悪趣味な水着、いつ買ったかしら)と思うが、もしかしたら撮影のためにスタッフが用意してくれた物かも知れないので、文句は言わないことにした。何かが物足りない。早く撮影を済ませて欲しいのだが、ディレクターは「今日はロケハンだけにしておきましょう。撮影は次回ということで」と言った。彼女の決断力のなさに、ほとほと嫌気がさす。このとき空から生暖かいシャワー(にわか雨)が降ってきた。この島は美しいし、シャワーも心地良いが、すべてがひどく中途半端だ。場面が変わり、私は空港または駅の中らしき場所を歩いている。一緒に歩いているのは友人のA君だ。私はこれから日帰りで広島へカメラを買いに行くのだが、カメラに詳しいA君のことも連れて行くらしい。2人分の飛行機と食事代金を払っていると、A君が「1日付き合うのだから、少しバイト料をくれない?」と言った。私は心の中で(なんて肝の据わらない男だろう)と呆れながら、「ああ、ちょっと考えるところあって、あなたと広島に行くのはキャンセルします」と言った。A君は心底驚いた様子で、「えっ、なんで?」と騒いでいる。私はしみじみと、(本当にみんな中途半端だな)と思っている。
【解説】 このほかにも、中途半端な人が登場する夢をもうひとつ見たような気がするが、詳細は忘れてしまった。何故このような夢を見たのだろうと、最近の出来事を振り返ってみると、どうも現在執筆中の戦記ノンフィクションが影響しているような気がする。と言うのも、登場人物のひとり(実在した軍人)が驚くほど中途半端な人で、あらゆる場面でのらりくらりとしているのだ。“竹を割ったような性格の人”が好きな私は、原稿を書きながら「何なのよ、この人? もうちょっとビシッとしなさい、ビシッと!」などと独り言を言っていたほどである(笑)。そのことが今夜の夢の直接の原因と思われる。なお、A君という人は遠い昔の友人で、決して悪い人ではないが、お金にシビアというか吝嗇なところがあった。今頃になって、こんな役どころで夢に現われたのも不思議である。広島にカメラを買いに行くという意味は、全く不明。


28日●二進法

大きなボードに膨大な数の算用数字が並んでいる。数字が下から上に向かってどんどん流れている。まるで映画「マトリックス」の一場面のようだ。私は、ある規則に従って、特定の数だけを選択しなければならない。ステージの下から息子が「それは単純な二進法だよ。落ち着いて考えれば必ずわかるから、頑張れ」と応援する声がした。私の前では、恐ろしいスピードで数字が流れ続けている。
【解説】 数日前に息子(13歳)からコンピューター言語に関する講義を受けた。あまりにも専門的な話で、一体いつの間にそんな難しい勉強をしているのかと仰天したのだが、お蔭で日頃お世話になっているコンピューターの原理が少しわかったような気がする。そのイメージが夢の中で映像化した感じ。


29日●古代文字

恐ろしく難しい文字が並んでいる。生まれてこのかた目にしたこともないような奇妙奇天烈な形の文字や、画数が100画以上の文字など、ほとんどこの世のものとは思われない文字のオンパレードである。考古学者が近づいて来て、(英語で)「これらは全て私が古代遺跡から発掘した文字ですから、文字を使うたびに使用料を払っていただくシステムです」と言った。私は少しムッとしながら「人類全体の利益を考えれば、これらの文字は無料で開放するべきではありませんか」と抗議している。
【解説】 23日に引き続き、文字に関する夢である。昨日は、或る図書館から電話がかかってきて、『死との対話』を点字に訳していますという連絡を受けたのだが、その際に、文中にある中国語の読み方を教えて欲しいと頼まれた。点字というのは、すべて「音」だけで表記するため、文字そのものに意味のある漢字を「音」に置き換えると、(特にもとの単語が中国語など非日本語の場合は)まるで意味が伝わらなくなってしまうのだ。(そのあたりをどう表現したら良いだろう)と考えながら眠りに付いたため、このような夢を見たのだろう。


30日●エキスパンション(膨張)

お茶の兄弟子であるNさんが着物を着て茶室に座り、誰かのために濃茶を練っている。私を見るとNさんは、「山田さん、なんだか大きくなりましたね」と言う。驚いて自分の体を見ると、確かに大きくなったような気がする。それとも単に着膨れているのだろうか。道を歩くと次々に知人に逢う。皆が、「真美さん、ちょっと大きくなったんじゃない?」と驚いたような声を出すので、私はますます不審に思った。料理屋に行くと、着物を着た仲居さんが持ってきた鍋がぐつぐつと沸騰して、あっという間に中身が膨らんで、蓋を押し上げてしまった。街角のテレビでは、BBCが“The universe is continuously expanding, and...(宇宙は常に膨張し続けており、そして…)”というニュースを流している。それを観て私は、自分が大きくなったのも、鍋が吹いたのも、膨張し続ける宇宙の影響なのだということをようやく理解した。
【解説】 全てが膨張する夢。意味がわからないので、例によって『夢の事典』(日本文芸社)で調べようとしたのだが、残念ながら「膨張」「膨らむ」といった項目は存在しなかった。仕方がないので、かなり妥協して「太る」の意味を見たところ、「心身のパワーや利益を示す」と書かれていた。




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