子どもの頃、私はしばしば予知夢を見た。祖父が事故に遭う夢、飛行機が落ちる夢、医者から不妊症と診断された女性に子どもが授かる夢…。その頃は、誰もがごく普通に予知夢を見るのだと信じていた。だから、実際はそうではなく、予知夢を見る者は例外的存在なのだと知ったときの衝撃は大きかった。夢とは一体何だろう。そこには、深層心理DNAの中に刻まれた膨大な量の記憶の堆積が関与しているように思う。ここで私が言う記憶とは、前世の記憶といったオカルト的なものでは全くなく、先祖から無意識に受け継いだ生物としての記憶のことである。2003年の暮れ、不思議なことがあった。友人でイラストレーターのカノンさんから電話があり、こんなことを言われたのだ。いわく、彼女の夢の中に私が現われ、瓶に入った香油のようなものをプレゼントして行ったと。実は、その直前に私は仕事で南インドを訪れ、そこで彼女のためにアーユル・ヴェーダ用のマッサージオイルを買い求めたばかりだった。私がまだそのことを告げない内に、彼女はそのことを夢の中で知っていたのである。この出来事が、今回ホームページで「夢日記」を公開することを私に決意させた。夢とは、私の中で眠っているもうひとりの私からのメッセージではないだろうか。その真実を探る手がかりを得るために、私は自分の夢を記録することにした。これは、私自身の私自身による私自身のための深層心理の記録である。
※夢が現実になった場合や、夢と現実の間に何か関係があった場合に限り、後日談を記す。


2004年1月1日 山田真美







2005年12月


1日●皇太子妃にEメールを送る
私はジープの後部座席に座っている。隣の席には娘がいる。周囲は見たことのない風景だが、どことなくインドめいて見えるような気がしないでもない。そう言えば、車を運転しているのはプレム(※インドで実際に雇っていたネパール人の運転手)のようにも思われる。私は急に皇太子妃にお伝えすべきことを思い出し、携帯からEメールを送ることにした。送信してから、差出人名が「Yamada Mami」になっていたことに気づき、これからは送信者名を漢字表記にしておこうと思った。比較的広い道路の途中が緩いカーブになっていて、ジープは道路脇の駐車スペースに停まった。どうやら娘は、道の反対側にあるショッピングアーケードへ行きたいらしい。私はショッピングの前に、先ず自分のメールの差出人名を「山田真美」に変更しようと思う。変更の仕方は、指定されたノートの中に自分の名前を書き込むだけで良いらしい。それは結婚式などで使われる芳名録のような仰々しい和風のノートである。ページを開くと、そこには既に10個前後の名前が記入されていた。そのすべてが「Yamada」で始まるローマ字表記である。漢字表記は今回が初めてのようだ。娘が「早くショッピングに行きたい」と催促している。私はノートに漢字で「山田真美」と書こうとしている。
【解説】 またしても意味のわからない夢だった。今夜の夢に登場した道路は、先月28日の夢の冒頭に登場したハイウェイに似ていたような気もする。28日の夢にもインドの男達が登場したが、ふたつの夢は何を言おうとしているのだろう。なお、皇太子妃に宛てたメールの内容が何であったかは、目が覚めると同時に忘れてしまった。



2日●英語の小説を出版する
英語で書き下ろした初の小説が出版されたらしい。その表紙のデザインをしている。“The Book of”という文字が見える。そのあとに、さらに4つか5つの英単語が並んでいるのだが、その部分は何故かぼやけており、ハッキリとは見えない。文字のうち“The”は赤色、“Book”は青色、“of”は黄色で色分けがされている。明るい雰囲気の本だ。これはおそらく児童文学なのだと思う。
【解説】 このあと、さらに長いストーリーが続いたような気がするのだが、内容は思い出せない。英語による小説の書き下ろしは、実際に現在企画している事柄なので、今夜の夢は来年中に正夢になると思われる。しかし“The Book of ……”とは、あまりにも安易すぎるタイトルだ(苦笑)。実際のタイトルは、もっと洒落たものになる予定。



3日●この歯ブラシは使い物にならない
匿名のインターネット掲示板に、何やら私に関するスレッドが立てられたらしい。スレッドのタイトルは、「この歯ブラシは使い物にならない」というそうだ。誰が立てたスレッドか定かでないが、好意的な書き込みが多い。私は半分笑いながらそれを読んでいるのだが、おかしなことに、この掲示板は、「インターネット掲示板」という触れ込みでありながら、何故かパソコン上には表示されないのである。私の前には細長い舗道があって、その片側は自動車道路、もう片側には小さな店がびっしりと並んでいる。雰囲気としては限りなくインドのスラム街に近いのだが、人の姿は全く見えない。1軒1軒の店の広さは畳一畳程度で、売っているものは、電化製品だったり食べ物だったり色々だ。ほかに、占いの館や歯科医なども軒を連ねていたような気がする。それらすべての店の入り口には、看板やら黒板やらホワイトボードなどが置いてある。匿名の書き込みは、それらのボード類の上に手書きされているのだ(この世界では、「インターネット掲示板」とは手書きボードのことを指すらしい)。私はそれら一つ一つの書き込みを読んで回っている。書き込みの中には、明らかに私を個人的に知っている人が書いたと思しきものもある。雑文ばかりだが、全体的にユーモアに溢れている。最後の2軒の店に行き、書き込みを読んでいる私。1軒は中古の洗濯機専門店、もう1軒は雑貨店のような店構えで、それぞれの店先に置かれた黒板には、「納得した!」、「これはいいかも知れない」と日本語で書き込まれていた。
【解説】 またしても、かなり意味不明な夢。インターネットの掲示板が黒板への手書きだという時点で意味がわからない上に、タイトルの「この歯ブラシは使い物にならない」も、書き込みの内容とは全く噛み合っておらず、わからないことだらけの夢だった。なお、私が使っている歯ブラシは2日前に取り替えたばかりの新品で、使い心地も悪くないのだが。



4日●最初で最後のラブレター
目の前に、誰かが綴ったラブレターが置かれている。但しそれは普通の手紙の形式ではなく、1冊の本にまとめられているのだが。一見したところ、その本は手作りで、サイズは掌に乗るほど小さい。書いた人は、おそらく男性だろうと思う。誰に宛てて書かれたラブレターなのか、詳細はわからない。私はその内容を音読する係だ。周囲には何人か人がいるような気がする。これを書いた男性は、相手のことが好きで好きで、しかしシャイな性格のためそのことをどうしても口に出せず、何年も迷った末に勇気を振り絞って告白したときには既に病気が全身を蝕んでおり、ひとり静かに死んでいったようだ。私が音読しているあいだ、周囲からはすすり泣きの声が聞こえた。私も、もらい泣きしそうになりながら音読を続けている。結局のところ、この男性の気持ちは相手に伝わったのだろうか。この手紙を書き終えて、彼は幸福だったのだろうか。私にはわからない。
【解説】 今夜の夢では、「好き」という気持ちをなかなか言い出せないシャイな男性が主人公だった。但しその人は既に亡くなっており、夢には登場していないのだが。何故このような夢を見たのか、理由はわからない。そう言えば、昔NHKで放送していた『三国志』という人形劇の主題歌が、「好きなら好きと言えない心に人はいつも悲しむの」というような歌詞だった。この歌を初めて聞いたとき、私が思わず「好きなら好きと言えばいいのに、どうして言えないんでしょうね」という感想を漏らしたところ、近くにいた人たちから一斉に「普通は言えないんですよ。山田さんみたいに言いたいことを言える人は稀なんですから」と逆襲されてしまった(大汗)。そう言えば、子どもの頃の私は劣等感の強いいじめられっ子で、言いたいことの1%も言えない子だった。しかし高校時代から急に活発になり、今となっては「言いたくても言えない」という人の気持ちに感情移入することが逆に困難になってしまった。今夜の夢に出てきたようなタイプの男性は非常に多いのだろうが、おそらく私とは一生縁がないような気がする。何故なら私は、潔く「好きだ!」と言ってくれる人が好きなので。あ、そんなこと聞かれていませんか、そうですか。失礼しました(笑)。



5日●ウィッグと真紅のガウン
細長い通路のようなところ。真紅のガウンを羽織った人が歩く後ろ姿が見える。頭はと言えば、『ベルサイユのバラ』のオスカルのような髪型。よく見るとウィッグらしい。暫く目を離した隙に、その人の姿は消えていた。しかし、暫くすると今度は別の背格好の人が、同じガウンを纏い、同じウィッグを装着して歩いている。今度も顔は見えないが、明らかに先ほどとは別の人だ。その後も何人かの人が入れ替わり立ち代り、同じ真紅のガウンとウィッグを着けて歩く後ろ姿が見えたような気がする。彼らの性別や民族などは全くわからない。やがて目の前の扉が開き、いきなり男が部屋に入ってきた。それは、ある有名な歌舞伎俳優で、例の真紅のガウンにウィッグを被り、しかも西洋式の化粧までしている。(うわっ、似合わない!)と思ったところで目が覚めた。
【解説】 これは明らかに、先日読んでいたアガサ・クリスティーの“Murder on the Orient Express(オリエント急行殺人事件)”に影響された夢と思われる(ストーリーの中に、これと類似した情景が登場するのだ)。歌舞伎役者が登場した理由は、まるでわからない。



6日●1時間33分
編集者のTさんの姿が見える。Tさんの隣には、もうひとり出版関係者がいるらしい。おそらくスパイスの芝田さんではないかと思うが、定かではない。彼らのほうからは、私の姿は全く見えていないようだ。テーブルの上(?)に1枚の紙が置いてあったので何気なく目をやると、Tさんの手書きの文字で、2行に分けて数字が書かれていた。それは時刻を表わす数字で、1行目には「14時00分スタート」、2行目には「16時00分終わり。但し27分の休憩あり」と書かれていた。私は心のなかで(所要時間は2時間。そこから休憩時間の27分がマイナスされると、実質的な時間は1時間33分。あまりにも短すぎる……)と思っている。
【解説】 またしても意味不明な夢。実は現実世界でも、この夢を見る数時間前にTさん達と一緒に飲んでいた。但しそのときは、「時間」の話などしなかったのだが。「1時間33分」という細かい数字が、妙にリアルだった。>>>業務連絡。Tさんへ。「1時間33分」という時間に、何か心当たりはありますか?



7日●腕を怪我したイパネマちゃん
目の前に、光沢のある黄色いビニールのようなものが見える。それを取り除くと、驚いたことに下から小さな女の子が現われた。大きな瞳と亜麻色の髪、それに可愛らしいそばかすが印象的な少女で、年齢は5〜6歳。何も聞かないうちから、彼女がブラジル人だということがわかった。女の子は、何故かポルトガル語ではなくスペイン語で「メ・ジャモ・イパネマ(私の名前はイパネマです)」と名乗ってから、自分の腕を撫でさすり、眉をしかめて「ここが痛い」という素振りをした。腕をひねったか、或いは骨折したのかも知れない。私は急いでイパネマちゃんを病院に連れて行くことにした。
【解説】 この前後にもストーリーがあったことは間違いないのだが、時間が経って忘れてしまった。少女のそばかすまでハッキリ見える、かなりリアルな夢だった。なお、ブラジルの公用語ポルトガル語で「私の名前はイパネマです」と言う場合は、「メウ・ノミ・エ・イパネマ」となるはずだが。
【後日談】 夢から覚めて数時間後、ちょっとした探し物があって、普段は使っていない机の下に潜り込んだところ、何やら黄色いビニール袋が置いてあるのが目に付いた。ずっと前に置いたまま忘れていた袋である。袋の中身は数冊の分厚い本。袋を持ち上げたところ、その真下から何故か1枚のCDが出てきた。何かの拍子にケースから出て、机の下に落ちてしまったCDらしい。しかも、そのタイトルを見ると、なんと“Girl from Ipanema(イパネマの娘)”ではないか。黄色いビニール袋と言い、その下から現われたイパネマと言い、夢と現実がピタリとリンクしたのは驚きである。それにしても、何かの拍子でこんな場所にCDが落ちていたとは……。私は『イパネマの娘』のCDを何枚も持っているので、紛失したこと自体に気づいていなかったのだ。夢の中でイパネマちゃんは「腕が痛い」と訴えていたが、落ちていたCDにも軽いスクラッチ傷が付いていた。二度吃驚である。



8日●私のために喧嘩する人たち
小学校の同級生だったH美さんとF子さんの姿が見える。ふたりとも小学生の姿のままだ。私は心のなかで(このふたりは子どもの頃から大人っぽい人だった)と思っている。今、ふたりは喧嘩しているらしい。詳細はわからないが、喧嘩の原因はどうやら私にあるようだ。場面が変わり、大人になってからの友達であるAさん(男性)の姿が見えた。普段は物静かで紳士的なAさんが、今日は何故か激昂している。どうやら怒りの矛先は同じ会社の男性社員らしい。Aさんの言い分によれば、私に配分されるべき駄菓子を、その男性社員が不正に別のものと取り替えてしまったか、あるいは横取りしたらしいのだ。「二度とこのようなことが起こらないように注意します」とAさんが涙ながらに叫んでいる。私は奇妙な想いでそれを見ている。
【解説】 例によって意味のわからない夢だった。特に、最後の場面で登場したAさんが、よりによって「駄菓子」のことで喧嘩していた意味がわからない。また、小学校の同級生だったH美さんとF子さんには、もう長いこと会っていない。H美さんに至っては、おそらく小学校卒業以来1度もお目にかかっていないはずだ。その人が何故今頃になって夢に現われるのか、これも理由がわからない。なお『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「菓子」の意味は、「子ども時代を懐かしむ気持ち/他人に甘えたい感情」だそうである。



9日●呪われた壁
新築されたばかりの屋敷。中世の城を思わせるような豪奢な建物だが、どこか陰気で薄気味悪い。驚くほど高い天井が印象的だ。すぐ近くには、ブラックスーツや訪問着で正装した友達が5〜6人、押し黙ったまま立っている。私は何かに惹かれるようにして、壁の中ほどを見上げた。そこからは、何かとてつもなく恐ろしい邪念のようなものが感じられる。ひょっとすると、以前ここで誰かが殺され、死体が壁に塗りこめられているのかも知れない。何か具体的なビジョンが見えた。私は歌でも歌うように朗々と、壁に塗りこめられた呪いについて説明を始める。それを聞いた友人達は、一斉に「キャーッ」とも「うわぁーっ」ともつかない悲鳴を上げた。
【解説】 このあとにも何か幽霊めいた夢を見たような気がするのだが、詳細は覚えていない。全体にspooky(ブキミ)な雰囲気の夢であったにもかかわらず、夢の中の私はそれを怖がっているわけではなく、かなり冷静に対処していたような気がする。



10日●美しい恐怖
娘が誰かにお金を払おうとしている。しかしその額面は、どう見ても正規の値段より50%は高過ぎるようだ。「それってボッタクリよ」と娘に告げなければと私は思っている。場面は変わり、気がつくと夢幻のように美しい山中にいた。私はゴンドラに乗っている。山の中で、何かとてつもなく恐ろしいことが起こる。しかしそれは、究極の美と背中合わせの恐怖だ。恐怖と美が拮抗している。私はうっとりしながら恐怖に身を任せている。
【解説】 今夜の夢は、一種の耽美的な雰囲気を紡ぎだしていた。喩えて言えば谷崎潤一郎的な世界と言おうか。何か恐ろしいことが起こったのは間違いないのだが、それが具体的に何であったかは全く思い出せない。夢の最初のほうで、娘が誰かにお金を騙し取られそうになる場面を見ていながら、そのことをすぐにその場で教えてあげなかったのも解せない話である。



11日●登頂
今まで頭上を厚く覆っていた雲が突然晴れて、気がつくと山頂に立っていた。突き抜けるように青い空。生き返ったような清清しい気分。ずっと向こうの峰で、ダライ・ラマ法王が笑いながら手を振っている。私も笑いながら、大きく手を振り返した。
【解説】 今夜の夢は、前半部分のストーリーはよく思い出せないのだが、何やらさんざん苦労をした末に、最後に驚くほどの開放感と達成感を味わったような気がする。ダライ・ラマ法王の笑顔が少年のようだった。



12日●大地震
大地震。立っていられないほどの凄まじい揺れ。冷たい印象のメタリックな壁。
【解説】 おそらくこの前後にもストーリーがあったのではないかと思うが、覚えているのはこれだけ。恐ろしく大きな地震に襲われたことと、目の前にメタリックな壁が見えたこと以外は、記憶に靄がかかったように思い出せない。
【後日談】 夢を見た翌日、娘と一緒に東京タワーの展望台へ行った。昇りのエレベーターの中で娘が突然、「そう言えば昨夜、震度10ぐらいの想像を絶する大地震に襲われる夢を見たわ。すっかり忘れていたけど、今になって急に思い出した」と言い出した。その言葉を聞いた途端に、私の脳裏にも昨夜の夢がいきなりよみがえった。そうだ、昨夜の夢で見たメタリックな壁は、エレベーターの内壁だったのだ。夢の中の私は、大揺れに揺れるエレベーターの中にいたのだ。娘と私は、期せずして同じ夜に大地震の夢を見ていたらしい。東京タワーのエレベーターは、地上から展望台まで約1分。その中にいるあいだ私たちは、「いま大地震が来たら本当に怖いわねえ」などと小声で囁き合っていた。幸い地震は来なかったが、ふたりで同時に大地震の夢を見るのは不気味なことである。なお現実世界では、昨夜の東京に地震はなかった。



13日●延々と英語で話し続ける
暗い部屋。バーのカウンターに置いてあるような高いツールに座って、私はひとりで英語を話している。何故そうしなければならないのか理由はわからないが、とにかく延々と英語を話し続けることが、私に課せられたノルマと言うか課題らしい。既に、かれこれ数時間〜10時間は話し続けているのではないか。周囲にはテレビカメラが何台か設置されているようにも見える。
【解説】 このあと誰かがやって来たような気もするが、そのあたりのことは残念ながら覚えていない。自分が何を話していたのか、その内容も思い出せない。


14日●アルジャーノンの知能指数を引き揚げる
目の前に、生まれつきの知的障害を持った若い日本女性がいる。彼女は一言も言葉を話せず、目立った感情もなく、しかし顔立ちは人形のように美しい。研究員らしき人が後方から、「この女性の名前はアルジャーノンと申します。IQは40以下です」と説明してくれた。私は新兵器(?)のようなものを使って彼女の“意識”のいちばん深いところへ潜り込み、彼女が持っている根本的な問題部分に改良を施した。それは非常に単純な施術で、時間にして数秒もかからなかったと思う。結果は良好で、アルジャーノンという名のこの女性は、少しずつ言葉を話せるようになっていった。人並みのIQ100前後まで引き揚げることも不可能ではなさそうだと私は思った。
【解説】 いささか唐突な印象の夢だった。「アルジャーノン」と言えば、ダニエル・キイスの小説『アルジャーノンに花束を』に登場する実験用ハツカネズミの名前だが、今夜の夢では、何故か人間の女性がアルジャーノンという名前で登場していた(注/実際には、アルジャーノンは男性名です)。その女性の知能を引き揚げようとしているのだが、彼女と私の関係性は明かされず、また私自身の立場(研究者なのか、それ以外の何者か)も一切明かされない。実に奇妙な夢だった。



15日●妻を亡くした家元からプロポーズされる
何か事件が起こったらしい。それは、植物の根の毒を使った殺人事件のような気がする。詳細はわからないが、私自身には直接関係のない事件のようだ。場面は変わって、いかにも由緒ありそうな屋敷の和室。伝統芸能の家元の自宅らしい。それは「嗅覚」に関係があるが香道ではなく、何か「植物の根」にまつわる芸能らしい。家元は40歳前後と思われる地味な顔立ちの男性で、全体に影が薄いというか精彩に欠ける。彼は少し前に妻を亡くしたらしい。和室には家元と、家元の弟子らしき人々が数人(顔は見えない)、私、それに家元の一人娘がいる。弟子達は和服姿で儀式のようなことをしているが、私は儀式を手伝いながら家元の娘の世話をしている。その子は「マリちゃん」といって、3歳半だそうだが、実際の行動を見ていると1歳半ぐらいの幼児のようだ。天然パーマ気味の縮れ毛と大きな瞳が、どこか南洋民族のような印象を与える。薄い顔の家元とは似ても似つかない。マリちゃんは、何故か私ばかりを慕ってくる。マリちゃんが笑いながら何かいたずらをしようとするので、危険回避のために私はそれを止めた。家元は黙って一部始終を見ている。ほかの弟子たちがいなくなったところで、家元から遠回しにプロポーズをされた。私はこの男性に個人的な感情を全く抱いていないので、(何と言って断ろう)と思いながら、笑顔で困惑している。
【解説】 最初の毒物殺人事件の内容を思い出せないのだが、おそらくそのストーリーが後半の家元うんぬんの話に繋がっていたのだと思われる。全体的には「木の根」がキーワードのミステリーっぽい夢だったのだが、途中から登場した「マリちゃん」という女の子の顔があまりにも印象的で、そのインパクトの強さゆえに他の部分が吹っ飛んでしまった。そう言えば私は、以前にも夢の中で好きでない男からプロポーズされたことがある。いちばん最近では、先月27日の夢の中で「田舎の材木工場の社長」からプロポーズされた。その人も地味で覇気のない男性だったが、タイプとしては今夜の夢の家元も大同小異だった。しかも、彼らは「女性の家族と同居している」という点でも共通していた(材木工場の社長は老母と、家元は小さな娘と暮らしていた)。現実には既に結婚している私が、夢の中で何度もプロポーズされる(しかも苦手なタイプの男性から)理由は何なのだろう。意味がわからない。



16日●売春疑惑を否定するX子さん
X子さんがかつて売春をしていたらしいという噂が流れる。X子さんは、中学時代から有名な“スケバン”で、その後ボッタクリバーのような店を経営したり、暴力団関係者と交際していたと噂される人物だ。噂を聞いた人々は皆、(X子さんなら売春ぐらいやりかねない)と思っている。そこへ渦中のX子さんがやって来た。本当なら40代も後半に差し掛かるはずのX子さんだが、何故かその姿は17〜18歳のままである。場末のバーのホステスのような下品な赤いドレスを纏って現われたX子さんは、眉間を皺を寄せ、いかにも不満そうに唇を尖らせながら、「X子、売春なんてしてないもん。体を売ったと噂になってる1982年は、X子、ハワイにいたもん。この日記が証拠なんだから、見てよ」と言って、スケジュール帳のようなものを差し出した。見るとそれは1982年の日記で、X子さんがその年に3度もハワイに行ったことが記されている。「ね? 真美ちゃんなら信じてくれるでしょ。私は売春なんかしてないんだってば」。イライラしたような口調でX子さんは言い放った。私は慎重に頷きながら、心のなかで(この人はいつも眉間に皺を寄せているけれど、何がそんなに気に入らないのだろう)と思っている。
【解説】 X子さんは子どもの頃の知人。何十年も会っていないが、彼女は今頃どこでどうしているのだろう。突然X子さんが夢に現われたことも謎なら、ストーリー自体も謎である。


17日●再び大地震
比較的広く、何の家具も置かれていない殺風景な和室。至るところに、所狭しと布団が敷いてある。そこへ、とてつもなく大きな地震が襲った。しっかり手足を床につけていないと、どこかへ転がって行ってしまいそうな凄まじい揺れだ。隣を見ると、小学生ぐらいの姿になった息子が寝ていた。私は必死で息子の頭を庇おうとしている。
【解説】 12日に引き続き、今月2度目の「大地震」の夢である。現実世界で大災害がないことを切に祈る。


18日●グリーンのバッグ
駅のプラットホーム。上品な感じのエメラルドグリーンのバッグ。入ってくる列車。私は長野の実家へ帰省しようとしている。
【解説】 この前後にどんなストーリーがあったのかは、残念ながらよく覚えていない。現実世界では私はグリーンのバッグを持っていないが、夢で見たバッグはどこか象徴的で、何故か心に残るものだった。『夢の事典』(日本文芸社)によれば、バッグの意味は「(夢を見た本人の)性格、能力、ステータスの象徴」、緑の意味は「繁殖、成長、進歩」だそうである。


19日●逆さまの国のアリス
気がつくと、いつもとどこかが違う世界に迷い込んでいた。そこは一見、普通の世界と似ているが、どこかに強烈な違和感がある。よく見ると、この世界では何から何まで順番が「逆さま」なのである。私は服を着ようとするのだが、下着→セーター→コートと着るべきところを、何故かコート→セーター→下着の順に身に付けるのだ。しかも、その順番で着衣を終えてみると、結果的には何故かコートがいちばん上に来ている。次に私は本を読もうとした。この世界では、本というものは最後のページの最後の行から、最初のページに向かって読むのが正しいらしい。その流儀に倣い、私が逆さまに本を読んでいると、不意に誰かが「さようなら」と言いながら部屋に入ってきた。おそらくこの人は、帰るときには「こんにちは」と言うに違いない。奇妙な世界だと思いながらも、私は早くもその世界に馴染み始めている。
【解説】 『鏡の国のアリス』ならぬ『順番が逆さまの国のアリス』になったような気分の夢だった。現実世界の私は、来る2006年は今までの自分を大変革させようと目論んでおり、これまでにやったことのない大きなプロジェクトも計画している。そうした現実が、もしかしたら今夜の夢を生んだのかも知れない。


20日●宮廷の一室で
宮廷内の一室。お香の優雅な香りが立ちのぼっている。私は高貴な身の上の女性らしい。同じ室内には、10人ほどの人々の姿が見える。穏やかで優しい人たち。彼らは私の親族、または親しい友人らしい。彫りの深い目鼻立ち。アラビア風の衣裳。ここは1000年前のペルシアあたりかも知れない。懐かしい気持ち。
【解説】 今夜の夢は、穏やかで懐かしい気持ちが継続するものだった。細かなストーリー自体は覚えていないのだが、自分の親族や友人達がおしなべて彫りの深いエキゾティックな顔立ちだったことが印象的である。おそらく私自身の顔も異国的(ペルシア風?)だったのだろうが、鏡を見ていないので残念ながら自分の姿を確認することは出来なかった。「ペルシアの高貴な女性」になった自分の姿を見たかったような気がする。


21日●転がる黄金色の球体
目の前に、細長い机が並んでいる。その横にも同じ形の机、その横にもさらにもうひとつ同じ形の机という具合に、数えきれないほど大量の細長い机が並んでいる。その上を、直径5cmほどの黄金色の球体がゴロゴロと音を立てて転がってゆく。机と机の繋ぎ目が平らでないため、球体はときどきバウンドして脇に反れたり、ジグザグに進んだりしている。私はその光景をじっと見ている。やがて球体は大きくバウンドし、机から落ちそうになった。咄嗟に誰かが手を伸ばし、落下しようとする球体をすんでのところでキャッチした。球体を拾った人は、アロハシャツを着た高木ブーさんだった。
【解説】 とても静かでクールな感じのする夢だったのだが、最後に高木ブーさんが現われたためにムードが一変(笑)。そのため私も眠りから覚めてしまい、夢はここで唐突に終了してしまった。それにしてもあの黄金の球体は、かなり長時間にわたって転がっていたが、一体何を意味していたのだろう。『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「金色」の意味は「心身ともにエネルギーが溢れた状態」、「球」は「万事まるく収まることの象徴」だそうである。「高木ブーさん」の意味が事典に載っていないことは言うまでもない(笑)。


22日●失業男とその息子
長い長い道が伸びている。私はほかの数人と共に自動車に乗っている。道は一応舗装されているものの、表面はあまりスムーズでなく、またカーブも多い。私たちの自動車のすぐ前を、1台の自転車が走っている。漕いでいるのは若い男。どうやら彼は大学生のようだ。彼の自宅から大学までは、かなりの距離がある。本来ならば電車なりバスで通学したいところだが、彼の父親が最近失業してしまったため、家の経済がひどく逼迫している。倹約のため、彼は毎日こうして自転車で通学しているのだ。気がつくと、私たちの自動車に知らない初老の男が乗り込んでいた。男は眼鏡をかけ、頬がこけて、やつれた印象がある。彼は何も語らなかったが、自転車を漕ぐ大学生の父親であることは一目瞭然だ。次の瞬間、男の姿はふっと消えていた。私たちはスピードを上げて自転車を追い越し、そのまま先へ先へと進んで行った。
【解説】 今夜の夢は、この部分の前後にもそれぞれ異なるストーリーがあったような気がする。夢のメイン部分はむしろ前後のストーリーで、ここに書いた「失業男うんぬん」のエピソードはむしろ“余談”程度のものだったはずなのだが、目が覚めてみると、何故かこの部分しか思い出せない。失業した男は、昔どこかで見たことのある面立ちをしていた。なお、一緒の車に同乗していた人たちが誰なのかは全くわからない。


23日●MDCにて
会議室または教室らしき大きな部屋。そこはオーストラリアで、私は何かの会議に出席している。周囲には大勢のオーストラリア人が座っている。皆、比較的若い。学生風のラフな服装が目立つ。たった今、会議が始まった。しかし急に用事が出来てしまい、私は部屋の外へ出なければならなくなる。その用事が何だったのかは思い出せない。部屋の隅に一段高くなったブースのようなところがあって、その中に男性がいたので彼に何か尋ねようとすると、トイレの場所を尋ねるのだと早合点されてしまい、“You wanna go to the toilet? Turn right. It's just around the corner.”と言われてしまった。男が忙しそうなのと、既に会議が始まった部屋で私語は慎んだほうが良いだろうという配慮から、私はそのまま廊下に出た。10メートルほど歩いてから振り返ってみると、部屋の入り口には「MDC」という掲示板がかかっていた。私は心のなかで、(なるほど。MDCは○○○の略ね)と思った。長い廊下を何度か曲がって、私は用事を済ませた。誰かに電話をかけたような気もするし、水飲み場で水を飲んだような気もする。人々はどこへ行ってしまったのだろう、歩いている途中で私は誰にも出会わなかった。廊下の途中にポスター(看板?)がかかっており、そこには何故か乱暴な日本語で、「1日に3食も食べるやつはバカだ。そういう人間には、生きている価値がない。1日2食でも軽蔑に値する。食事は1日1回に抑えるのが常識だろう」という意味のことが書いてあった。私は心のなかで(私が子どもの頃は1日3食が常識と教わったけれど、時代は変わったのかしら。今は1日1食の時代なのだということを、実家の母にも教えてあげなければ)などと思いながら、もとの部屋に戻ろうとしている。
【解説】 MDCが何の略語だったのか、今となってはよく思い出せないのだが、「M」は「Marketing」または「Media」の頭文字だったような気がする。「食事は1日1回が常識」などという珍説がどこから出てきたのかは、さっぱりわからない。ちなみに現実世界の私は昔も今も、1日3食+おやつ2回の健康優良児です(笑)。


24日●結界の張られたジャングル
目の前にあった扉が突然開いて、娘が現われた。少し青白い顔をして、飛沫(しぶき)に濡れたように頬や額に水滴がついている。「ちょっと風邪をひいたかも」と言う娘に、「今日はもうお休み」と声をかけながら熱い飲み物とベッドの用意をしている私。場面が変わり、ジャングルの奥地のようなところ。少し離れたところに、部族の男たちと小さな女の子がひとり立っているのが見える。私には同行者がいるような気がするが、それはひどく存在感の薄い黒衣(くろご)のような人で、誰なのかは全くわからない。私たちは何かの調査(または取材?)のためにジャングルを歩いているのだが、私が歩くあとを、一定間隔を置いて部族の男たちと女の子もついて来る。女の子は笑いながらこちらへ遊びに来ようとするのだが、何か理由があって私たちは女の子に触ってはいけないらしい。触ると大変な災いが起こるらしいのだが、それが具体的に何であるかは明かされない。また、ジャングルには目に見えない“結界”のようなものが張られており、部族の人々と私たちが結界を越えて交わることは許されない。私が移動するたびに、結界の位置も自動的に移動する。暫くして調査を終えた私たちは、ジャングルを立ち去るためにジープ型の車のほうへ歩み寄った。部族の男たちと女の子も、少し離れたところから私たちを見守っている。
【解説】 今夜の夢は、11月24日に見た夢(『アフリカのサバンナで』)に登場した男たちと、今月15日の夢に登場した南洋風の女の子“マリちゃん”のイメージがミックスしたイメージだった。ちなみに現実世界でジャングルやアフリカへ行く予定や希望は、さしあたってない。


25日●転がる立方体と黄金の仏像
山の中。緑の生い茂った斜面に、大きな立方体が置かれている。中に入ってみると、物置ぐらいの広さがある。壁面はなめらかで、それは現在の地球上には存在しない素材だ。無機質なイメージが、宇宙ステーションの内部または近未来のマンションの一室を思わせる。立方体が転がってゆく。内部にいる私も一緒に転がっているのだが、真空状態なのか上下の感覚がない。やがて回転が止まると、室内に黄金の仏像が現われた。あまりの神々しさに目を見張っている私。
【解説】 今夜の夢は、今月21日の夢と「転がる」+「黄金色」の2点で共通していた。転がることにどんな意味があるのかはわからないが、今朝は目が覚めた瞬間に、(この夢は吉兆だ)と直感した。


26日●投票用紙からスパイを割り出す
教室または会議室のような広い部屋。数十卓の机が並べられ、大勢の人が静かに椅子にかけている。ざっと見たところ30代の人がいちばん多く、次に多いのが20代と40代の人で、50代以上の人も少し混ざっている。ひとりだけ、4〜5歳の男の子(金髪の白人?)も混ざっていたような気がする。私は彼らに投票用紙を配ろうとしている。投票は無記名式だが、投票用紙に細工がしてあって、用紙に触れた人のDNAから投票者が誰であるか簡単に割り出せるらしい。その秘密を知っているのは、私を含む「組織」の上層部の人間だけだ。実は、この部屋にはスパイがひとり入り込んでいる(私たちはその人間を「ユダ」と呼んでいる)。それが誰であるかを確定することが、この投票の目的のようだ。投票用紙が配られた。用紙に向かって一斉に何かを書き込む数十人の人々。用紙が回収され、即座に裏切り者が割り出された。それは、30代と思われる一見「オタク」風の男だ。七三に分けた長めの髪が、いかにも「非サラリーマン」的な雰囲気を醸している。私は彼を呼び出すと、「スパイの嫌疑により、あなたを拘束します」という意味のことを告げた。男の顔に、(しまった! どうしてバレたんだ!?)と言いたげな驚きの表情が浮かんだ。
【解説】 この前後にも何かストーリーがあったような気がするが、残念ながら思い出せない。今夜の夢での私の役どころは、「スパイを割り出すためのスパイ」といった趣だった。「組織」が何者なのかは不明。


27日●人を探す
私は誰かを探している。それが誰なのか具体的にはよくわからないが、かなり昔の知り合いのような気がする。気がつくと、円柱形の建物の内部にいた。どことなく宇宙船を思わせる銀色のメタリックな建物で、中心部分には螺旋階段が伸びている。私はその階段を駆け登ってゆく。途中の至るところに知り合いの姿が見えた。ひとり残らず、同じ中学の別のクラスにいた生徒たちだ。彼らは中学生のときの姿のままで、私の姿を見ても少しも驚いていない(つまり、私も中学生の姿に戻っているのかも知れない)。建物の最上階まで登ってみたが、探している人は見つからなかったようだ。私は再び階段を駆け下りて、別の場所へ向かおうとしている。
【解説】 このあとも人探しの夢が続いたような気がするのだが、詳細は思い出せない。今夜の夢では、「古い知り合い」と「未来風の建物」のギャップが印象的だった。


28日●女子フィギュアスケート観戦
気がつくとオリンピックのフィギュアスケート会場にいた。私は観客席に座っている。左右にはブースケとパンダが座っているのだが、彼らの毛皮が私の首や顔に接触しており、ふわふわとしてとても暖かい。パンダはピンク色の羽根が付いたゴージャスな衣装を身に付けている。彼女も競技に出場することになっているのかも知れない。女子のフリー演技が始まった。最初に出てきた選手は、運動不足なのかまったく脚が上がらない。全身に贅肉が付き過ぎている感じで、ひとつひとつの動作も精彩を欠く。(一体あれは何という名前の選手なの?)とブースケに聞こうとしたところで目が覚めた。
【解説】 この前にも長いストーリーがあったように思う。詳細は思い出せないものの、そこにもふわふわとした羽根のような暖かいものが現われた気がする。


29日●妊婦ばかりの南の島
南洋のただなかに浮かぶ小さな島。そこはいわゆる誰もが絵に描くような「島らしい島」で、こんもりと盛り上がった地形の真ん中には、1本だけ大きな椰子の木が生えている。平和なイメージ。島には大勢の女性たちが集まっている。世界中のあちこちから集まった彼女らには、ひとつ共通点がある。全員が妊娠中なのだ。女性ばかりの島は一見まるで「ハーレム」だが、男性がどこにも見当たらないのでハーレムとは言えない。女性たちはここで誰にも邪魔されずゆっくりと月満ちて、やがて子どもを産み、そのあとはそれぞれの家に帰ってゆくらしい。私もここへ子どもを産みに来たようだ。暫くすると、いつの間に生まれたのか、私の横で赤ちゃんがすやすやと寝息を立てていた。しかもその赤ちゃんは、既に身長が180cmはあろう立派な青年なのである。よくよく顔を見れば、それは息子ではないか。舟に乗って家へ帰らなくてはと思い、私はあわてて息子を揺さぶり起こした。
【解説】 ストーリー的には奇妙な夢だが、全体に「明るい」、「暖かい」、「平和」、「豊穣」といったイメージが溢れていた。そう言えばパプア・ニューギニアなど南の島には、出産時に妊婦さんを人里離れた小屋に隔離し、村の女性たちが総出で歌を歌いながら出産を手伝う習慣が今も残っているが、彼女たちは昔から出産を一個人の私的体験として捉えるのではなく、共同体の体験として共有してきたのだろう。今夜の夢には、太古から変わらぬ女性性の逞しさ、大らかさのようなものが感じられた。



30日●古い温泉旅館にて
見たことのない温泉街の、見たことのない旅館に来ている。それは昭和初期の建物で、ひどく旧式でだだっ広い。風呂の湯はぬる過ぎ、従業員の態度も丁寧とは言えないにもかかわらず、実に大勢の客が逗留している。私はこの街のどこかで、作家の森村誠一さんとお会いすることになっているらしい。そろそろ宿をチェックアウトしようと思うのだが、気がつくとハンドバッグが紛失しているではないか。急いで帳場へ行ってみると、忘れ物の山があり、そこに私のバッグも混ざっていた。白黒コンビの大型のハンドバッグだ。ギョロリとした目の痩せ型の番頭さん(男性)が忘れ物の整理をしている。彼に「お手数をおかけして申し訳ありませんでした」と声をかけると、番頭は営業スマイルを浮かべながら、「いいですよ。宿泊料の中にはこういうトラブル対処料も最初から含まれているんです。貴女はまだトラブル対処料の3分の2しか使っていませんから」と答えた。こちらの名前も確認せず無造作にバッグを寄こす番頭のことを、私は心のなかで(何といい加減な!)と思っている。そのあと一旦は外へ出ようとした私だが、化粧直しをしようと思い直し、鏡の前へ戻ろうとする。泊まっていた部屋は既に引き払い済みなので、共同トイレの鏡を使うことにした。ハンドバッグからペンシル式アイライナーを取り出し、それを右目の下瞼だけに塗った。右目の下が薄いブルーに染まったのを見て、(ブルーのアイシャドーなんて持っていたかしら?)と怪訝に思う。左目の下には化粧をせぬままアイライナーをバッグに戻した私は、(森村さんをお待たせしてはいけないから早く出かけなければ)と思う。
【解説】 数日前からバイリンガル版の『天才バカボン』、題して“The Genius Bakabon”(赤塚不二男著、ズフェルト訳、講談社刊)を読んでいる。最初は冗談で読み始めたのだが、これが素晴らしくよく出来た英訳で、完全にハマってしまった。ストーリーの中には、バカボンとバカボンのパパが温泉旅館に泊まってドタバタ劇を繰り広げる場面があり、今夜の夢はこのストーリーが影響しているものと思われる。なお白黒コンビのハンドバッグは現実世界でも持っている物だが、こんな夢を見たことだし、暫くは使用を控えようと思う。



31日●傲慢な上司と彼の仲介をする部下

不自然なほど細長い建物。建物の中には、細長い部屋がいくつも並んでいる。私はその中の一室におり、すぐ近くには30歳前後の男がひとり立っている。彼は上司の伝言を伝えに来たメッセンジャーだ。それによれば、彼の上司が私をデートに誘いたいらしい。しかし上司の言い分は実に傲慢で、「○月○日の○時からなら、自分は時間が空いている。その時間帯なら貴女とデートしてあげてもいいよ」という内容なのである。私は呆れ返りながら、「私にはその男とデートをする気など全くない。自惚れるのもいい加減にしなさい」という返事を、口頭でメッセンジャーの男に伝えている。

【解説】 このあと何かストーリー展開があったと思うのだが、詳細は覚えていない。上司の代理でやって来たメッセンジャー役の男は、私が大学時代に暫くアルバイトをしていた日本リクルートセンター(現・リクルート)社員のA君に似ていたような気がする。





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