2005年5月


1日●宇野千代とスカイダイビング

山を登っている。ヒマラヤのように孤高な峰ではなく、ゆったりと裾の広がった大らかな山で、途中に黄色い高山植物がたくさん咲き乱れている。間違いなく、日本のどこかと思われる。大勢の若い人達が、楽しそうに山を登っている。私は宇野千代さんと手をつないで、男の話をしながら登山道を登っている。千代さんは、今日も桜柄の着物をお召しだ。山登りをするときでも着物という美学に、私は惚れ惚れしている。山頂までたどり着くと、小さな山小屋があって、先に中に入っていた若い人達が「怖い」、「押さないで」などと言って騒いでいる。見ると、小屋の床にたくさん穴が開いていて、何百メートル下の風景が丸見えなのだ。誰かが床を踏み抜いてしまい、悲鳴を上げて落ちて行った。千代さんと私は、ここからスカイダイビングをしようとしている。「お千代さん、眼鏡を外さなくても大丈夫ですか」と尋ねると、「私はこのままでいい」と千代さんが答えた。私達は手に手を取り合って、大声で「あははは……」と笑いながら、床の隙間から大空に向かって飛び出していた。
【解説】 私にとって宇野千代さんは、「生きているうちに逢えなかった残念な人」の筆頭だ。お千代さんと一日遊んでみたかったと心から思う。料理をしたり、麻雀をしたり、男の話をしたり、それはそれは楽しかったことだろう。夢にしろお目にかかれて光栄である。


2日●いにしへの

遥か昔の大和の国。山吹色の着物を着て、数人の女官たちと歩いている。場所は京都の大江山だと思うが、定かではない。歩きながら和歌を詠んでいる。「いにしへの」と言ったところで目が覚めた。
【解説】 体感時間にしてわずか1〜2秒の夢。しかし、のどかな雰囲気の中にどっぷりと浸かっていたような気がする。


3日●鳥居さん

家。黄色い球形のもの。花。画面の左端に、背の高い男性が立っている。目じりが少し下がった、切れ長の優しい瞳が印象的だ。この人は鳥居さんだと思う。
【解説】 昨夜に引き続き、ほとんど一瞬の残像のような夢。鳥居さんは拙著『夜明けの晩に』に登場するキャラクター。私にとっては永遠の理想の男性だが、下の名前は(イメージが固定してしまうので)敢えて付けなかった。ゆえに、フルネームはただの「鳥居さん」である(笑)。


4日●ホモセクシャル

第二次世界大戦中の戦争捕虜収容所。「ハット」と呼ばれる小さな宿舎が並んでいる。1つのハットには3人が寝泊りする決まりだが、ベッドが足りず、ほとんど雑魚寝状態だ。3人の男達が揉めている。彼らのうち2人はホモセクシャルで、もう1人はストレートというか、ノーマルなのだ。彼らは同じハットに泊まらなくてはならないのだが、室内にはキングサイズのベッドが1つしかない。ストレート男が「自分はこんな恐ろしい環境では暮らせない」と、半分泣きそうになりながら主張している。するとホモセクシャルの2人が「おまえもこっちの世界に来いよ。三つ巴って言葉もあるじゃないか」などと言っている。私はその会話を逐一メモに取りながら、(ああ、やはり同性愛は軍隊内で問題になっていたのだな)と納得している。場面が急転し、現代のオーストラリア。店に入り、娘に何か買ってやろうとしている。それは冬用の衣類(?)のようだ。娘に「これ欲しい?」と尋ねると、「かさばるから今は要らない。それより現金でちょうだい」と言われてしまった。先ほど見てきた3人の男性のことを話すと、娘は「そうでしょ。なにしろシドニーのゲイ人口は世界第二位だから」と
答えた。そのあと私は糸と針を取り出し、娘が「かさばる」と言った品物を小さく縫い縮め始めた。針を動かしながら、「割れ鍋に綴じ蓋」という日本語を思い出している。
【解説】 ホモの話は、明らかに現在執筆中の戦記ノンフィクションの影響であろう。織田信長と森蘭丸の例を出すまでもないが、古今東西を通じ、軍人にはその手の噂が付いて回る。いわゆる「衆道」と呼ばれるものだが、そこまでプロ(?)に徹していなくとも、男だけの環境では、ホモっぽい雰囲気というのは意外と簡単に生じるものらしい。そう言えばシドニーは、20数年前に私が留学していた頃からホモセクシャルの人が多かった。何故なのか調べたことはないが……何故なんでしょうね?


5日●誰もいない教室とS君の机

どこかへ遠足をして来たような気がする。そこには中学・高校時代の男友達が大勢いたのだが、何故か私の母校は男子校になってしまったようで、そこには女生徒はひとりも見当たらなかった。遠足の翌朝、学校に行ってみると、教室はもぬけの殻だ。小さな教室は円形で、後ろの席に行くほど高くなってゆくコロシアム型だが、その傾斜角度が極端で、後ろの席まで行くには登山並みの脚力を必要とする。ひと気のない教室を歩いて、一番後ろのS君の席までたどり着いた。私は昨日の遠足でS君から何かを貰ったのだ。そのお礼に、小さなマスコット人形を持って来たのである(※夢の中では、S君はマスコット人形をコレクションしているという設定らしい)。S君の席には、既に小さな人形が5〜6体置かれていた。これらは全てガールフレンドからのプレゼントだと思い、微笑ましく思う。そこへ、S君の学生時代の友達という男性が現われた。私にとっては未知の人物だ。「S君とはいつからお友達ですか」と尋ねると、「東大で同期でした」という答えが返ってきた。ああなるほどと思う。次の仕事がある私は、その人に軽く会釈をして教室の出口に向かった。
【解説】 自分の母校が男子校になってしまった夢。そこに何故私が紛れ込んでいたのかは謎である(笑)。「男だけの環境」という設定は、昨夜の夢と共通する。S君は現実世界でも元同級生だが、私は小学4年生のときにO君という別の男友達と教室で遊んでいて、誤ってS君の眼鏡のツルを壊してしまったことがある。O君と私は真っ青になってひたすら謝ったのだが、そのときS君が全く怒らず、「いいよ、気にするなよ」と言ってくれたことは、今でも強く印象に残っている。夢の中でS君にお礼を渡したのは、35年前に眼鏡を壊したことへのお詫びなのかも知れない。
【後日談】 夢の翌朝メールをチェックしたところ、未知の男性からメッセージが届いていた。プライベートなメールなので詳しいことは書けないが、どうやらこの方は私と同じ45歳で、しかも東大卒らしい。もしやS君(東大卒)とどこかで繋がっている!? だとしたら吃驚仰天である。東大はかなりのマンモス校なので、そのような偶然はまずないと思うのだが、機会があったら一応聞くだけ聞いてみようと思う。


6日●営倉

カウラ戦争捕虜収容所。敷地のいちばん隅には、小さな営倉(独房)が10棟並んで建っている。私は、そこに幽閉された将校に差し入れをしようとしているのだ。営倉の明かり取りの窓越しに、将校の顔が見える。将校は髭が伸びて、少し面相が変わってしまったようだ。その顔を不気味だと思う。私は彼に弁当を手渡そうとしている。
【解説】 一昨日に引き続き、捕虜収容所の夢。夢の中で自分が何者だったのかは、よくわからない。


7日●白く光るもの
何か細かな白っぽいものが、闇の中で無数に光っているのが見える。桜の花びらように見えるが、あるいは無数の星、もしくは蛍かも知れない。その、夥しい数の白っぽいものの向こう側に、着物を着た女のシルエットがぼんやりと浮かんでいる。女は、髪型や装束からして、平安時代の貴族ではないかと思う。私の目の前には、薄いヴェールの覆いがある。私はヴェールをはずして、女のほうに向かって歩き始めた。
【解説】 これも一瞬の夢。白く光る何かが、夢幻能のような美しさをたたえていた。


8日●「将校」と書く
学校のような場所。ノートを開いて、「将校」という漢字を書いている。将校、将校、将校……と、何十回も書いたような気がする。怠けずに108回「将校」と書いたら、私は家に帰れるらしい。鉛筆を持つ手が少し痛くなってきたが、私は休まず「将校」と書き続けている。
【解説】 またしてもカウラ事件がらみの夢である。夢の中だというのに、右手が非常に疲れたように感じるのは気のせいだろうか。


9日●特殊捕虜収容所
山の上にぽつんと建てられた、9〜10階建ての薄灰色の建物。8面にジグザグに折れた壁面は、建物全体を巨大な八曲屏風のように見せている。ここは特殊な人間だけを収容する捕虜収容所だと思う。私は何か理由があって、たったひとりでここにやって来たのだ。あたりは閑散としている。エントランスを入ってすぐのところにレセプションがあって、そこで何か手続きを済ませた(誰かを呼び出したのかも知れない)。窓越しに、何もない山の風景を見ながら誰かを待っている。途中、イスラエルの女性戦士が新しく入ってきて、入居の手続きを取っているのが見えた。新しい入居者がイスラエル人で良かったと私は思う。
【解説】 ほとんど登場人物もなく、音もなく、非常に静かな夢だった。雰囲気としては、スパイなど特殊な人だけが収容されている超秘密施設という感じ。最後に現われたイスラエル人と私の間には、特に個人的な関係はなさそうだった。


10日●中空に浮いた部屋と占い師
誰かの家が見える。それは不思議な建物で、部屋は和紙のような素材で出来ており、しかも中空に浮いているのだ。どの部屋もすべて異なった高さに浮いているので、ある部屋から別の部屋に移動するためには、光の階段(?)のような物を使うしかない。全体的にリアリティーがなく、幻の世界に咲いた花のようなデザインである。ある部屋に行ってみると、2歳ぐらいの姿に戻った息子が正座して私を待っていた。息子の手を引いて、上の階に移動する。するとそこには、占い師のパルサイ氏がおり、不気味な微笑を浮かべる。私が何も頼まないのに、彼は勝手に何かを占ってくれたようだ。それは、第三次世界大戦に関係する事柄だったような気がする。
【解説】 全体的に幻のような夢。最後に登場したパルサイ氏はインドの占い師で、もし今も生きているとすれば、95歳〜100歳ぐらいになっているはずだ。この人は一時期、恐ろしいほどよく当たる占い師だった。ネールやインディラ・ガンジーなどのインドの歴代首相も、こぞってこの人を「お抱え占い師」にしていたほどである。彼は非常にネガティブというか、暗い性格で、幸福なことよりも不幸なことのほうが占いが当たった。夢の中でパルサイ氏が何を言ったのかは覚えていないが、この人が登場すること自体、何かの警告であることは間違いない。最近のキナ臭い世界情勢を鑑みると、パルサイ氏は「世界情勢の先の先まで読んで、先手先手を打って行け」と言いたかったのかも知れない。


11日●スパイ救出作戦
西の国で拉致された日本人スパイを救出するために、何人かのスパイが選ばれ、プロジェクトチームが結成されて現場に向かわされる。私も選ばれたスパイのひとりだ。この任務で重要なことは、自分の身分を絶対に第三者に明かさないことである。私は普通の人を装って捜索に当たっている。一緒に西の国に渡ったスパイ達はそれぞれ単独行動を取っており、私も単独行動である。そうこうするうち、たちまち25年ほどの歳月が過ぎてしまった。その間、日本人スパイの足取りは杳として知れない。諜報部の建物に行くと、金庫の奥に、以前私が書いたという手紙が保管してあった。見ると、それは過去の私から現在の私に宛てた手紙で、なんとそこには「貴女は既に遺伝子を組みかえられた人間であって、本来の貴女ではない。Too bad.(残念でした)」というような意味のことが英語で書かれていたではないか。私はこの手紙を破り捨て、自分本来の遺伝子を救出するために作戦を続ける。
【解説】 今月は捕虜収容所、占い師、そしてスパイと、怪しげな夢ばかりを立て続けに見ている。西の国で拉致といえば、イラクで拘束されている斎藤昭彦氏の安否は依然不明というが、長崎市内のハローワーク長崎ではこの2月に、「イラクで働きませんか。土木作業員5人募集。基本給は月50〜60万円」との求人票が公示されていたそうだ。結局、誰も採用されなかったというが、「今」の世相をそのまま反映した興味深いニュースである。この分だと、そのうちに堂々と「スパイ募集」、「戦闘員募集」といった求人票が出回る時代が来るのかも知れない。


12日●水の発射装置
理科の一人一研究で、日本中の子ども達が「水を管に通し、形を変えて発射させる装置」のような物を作っている。管の内部や出口部分を工夫することによって、水の流れ出し方をユニークなものにしたり、水に色をつけるのは勿論のこと、使わなくなったコンパクト・ディスクを溶かしてそこから水を抽出したり、水爆の原理を応用して一滴の水を最大限に利用する者までいて、とてつもなく大きなプロジェクトになっているらしい。私はその研究会の審査員なのだろう、ひとつひとつの作品を真剣にチェックしている。しかし、カウラの暴動で発生した火災を瞬時に消し止め得る装置は、まだ見つかっていない。
【解説】 またしても意味のわからない夢だが、目下原稿を執筆している「カウラ事件」では、脱走した1,104人の日本人捕虜が自分達のハット(簡易宿舎)に火を放ったため、収容所内で大火災が起こっている。そのことが、今夜の夢の一因であることは間違いない。カウラのことが頭から離れない限り、この種のおかしな夢を見続けることは必須である。


13日●山口小夜子と足の生えた毒蛇と『トラトラトラ』
家を建て替えたらしい。ペンション風の、生活感のない洒落た家だ。誰かが私の家をカフェと見間違えて入って来てしまった。入って来たのは、なんと山口小夜子さんとマネージャーの男性ではないか。(うわっ、小夜子さんだ!)と驚き舞い上がる私。小夜子さんに、「ここはカフェではなく個人の家ですが、粗茶なら差し上げられますから、どうぞゆっくりしていらっしゃってください」と言い、お茶と、ちょうど焼いてあったケーキをお出しする。その後、私が載っている号の『和樂』を小夜子さんに差し上げようと思い、該当する号を探すのだが、何故か本棚にも机の引き出しにも見当たらない。家中くまなく探しているうちに、夜になってしまった。もう小夜子さんは帰ってしまっただろうと思いながら庭に出てみると、小枝子さんは気持ち良さそうに星を見上げながら庭で夕涼みをしていた。場面が変わり、砂漠の真ん中。誰かがテレビ番組を作っている。足の生えた毒蛇と、握りこぶし大の蜂、それにもう1種類、何か別の恐ろしげな生き物が猛スピードで南の方角に驀進している。あまり追いかけると危ないと思うが、ディレクターが「もっといい絵を撮って来い」と言い、深追いしすぎたカメラマンは蛇に噛まれて死んでしまった。突然、私は見知らぬ家の中にいる。頼んでおいたDVDが届いたらしい。2本のうち1本は『トラトラトラ』だ。今日はもう遅いので、明日この映画を観ようと思う。そばにいた家族全員にも、そのことを告げる。
【解説】 3つの全く異なるストーリーが次々に現われる不思議な夢。途中には恐ろしげな場面もあるのだが、その場面も含めて、全体に詩的だったような気がする。山口小夜子さんは昔から好きなアーティスト。『トラトラトラ』は小学生の時に観た映画だが、もう一度観たいと思っていたところである。


14日●SPECIAL FORCES(特殊部隊)
陸軍の特殊部隊。20人ほどの兵士に混じって、私も何かのオペレーション(作戦)に携わっているらしい。全員が、胸に“SPECIAL FORCES”と書かれたユニフォームを着ている。髪の長い女がうつぶせに倒れていた。兵士のひとりが、女の体を抱き起こそうとする。私は大声で「死体の下には爆弾が仕掛けられていると思いなさい。絶対に死体を動かしてはいけない」と叫んだ。20〜30メートル先に、アイドル歌手に良く似た女の子が見える。彼女も兵士達をおびき寄せるための囮(おとり)だ。囮には目もくれず、私は樹海の左のほうに落ちている剣を探しに行く。この後、賢人に出会ったような気がするが、詳細は思い出せない。
【解説】 例によって戦争関係の夢。昨夜は就寝直前まで太平洋戦争の資料を読んでいた。これでは戦場の夢を見るなと言うほうが無理であろう。なお、戦場で死体を動かしてはいけないという掟は、常識中の常識です。



15日●軍医
塗り薬をもらうために、軍医のNさんを訪ねて行く。しかし、Nさんは既に死亡していた。次に、Nさんの友人である軍医のBさんを訪ねるが、Bさんもやはり亡くなった後だ。軍医は全部で8人いたはずである。残り6人の軍医のもとを訪ねようと思い、3人目の軍医の家へと向かう途中で、(今さら行っても、もう手遅れだ。彼らは全員が死んでしまっている)ということに突然気づき、私は軍医に頼るのをやめることにした。
【解説】 言うまでもなくカウラ事件がらみの夢である。昨夜は、医学的なことで誰かに質問したいことがあり、(誰に尋ねたらいいだろう)などと思いながら寝た。それで夢に軍医が現われたのだと思う。しかし、夢の中で軍医は全員死んでおり、全く頼りにならなかった。現実世界でも、カウラ事件に関係のある軍医の殆どが既に死亡しているか老衰が進んでおり、取材が出来ない状況だ。もどかしい気持ちが夢に出たのだろう。



16日●性質(たち)の悪い古狸
私はパリの下町のようなアパートで暮らしている。そこへ突然、ミュージシャンのサエキけんぞうさんが現われて、「あの爺さんは、いくらなんでもちょっとヒドイと思いませんか」と怒り出した。私は心の中で(上の階のお爺さんが例によってテラスから植木鉢でも落としたのかな)と思いながら、「ヒドイというか、あの人の頭はもうイカレちゃってますよね」と答えると、「そうでしょう? それだけ言いたかったんですよ。では」と言って、サエキさんは小走りに出て行った。場面が変わり、塹壕のようなところ。数人の陸軍軍人が集まって、全てのことを婉曲的に喋る練習をしている。「嫌い」と言いたい場合には、「好きでないということも無いが、あるいはそうではないかも知れない」。「わかりません」と言いたい時は、「承服いたしましたと告げるのが人の道なれど、断腸の思いでこれを諦める場合あり」といった具合だ。見ると、首謀者はAさんではないか。「人から何かヤバイことを質問されたら、こうやってのらりくらりと言葉巧みに逃げるが勝ちだ」とニヤニヤ笑いながら、Aさんは後輩に指導している。本当に性質の悪い古狸だと思う。
【解説】 なにやら性質の悪い老人が多数登場する夢。現実世界の私は、ここ1年ほど、取材のために大勢の元軍人さんに逢っている。その多くは優しい老紳士だが、中にはとんでもない古狸も混ざっている。そのことが誇張されたのが今夜の夢なのだろう。なお、昨夜は映画の試写会があり、銀座のヘラルド社で『オペレッタ狸御殿』を観てきた。たまたま隣の席にサエキさんが座られたので、そのことが夢に反映したのだと思う。なお、サエキさんはたびたび夢に現われてくださるので、いずれ出演料をお支払いしなくてはと思う(笑)。



17日●悟り

編集者の芝田さんと、何か打ち合わせをしている。芝田さんが用事を済ませに出かけている間に、1000年ほどの歳月が過ぎていた。1000年は、ほんの一瞬の間に過ぎたような気がする。その後、誰だったのかは思い出せないが、3〜4人の友人と次々に会う。彼らも笑顔で現われては消え、そして何百年、何千年の歳月が過ぎた。私だけは変わらずここにいる。ああ、そういうことかと突然思う。これほど簡単なことが、何故今までわからなかったのだろう。心の中に満開の桜が咲いているような気持ちだ。そこへ芝田さんが戻って来た。「お待たせしました。じゃあ、行きましょうか」と声をかけられ、私はとても爽やかな気持ちで「ええ、そうしましょう」と答えた。
【解説】 この夢は、現実と夢の間にある浅瀬のようなところで見たような気がする。目覚めた時、信じられないほど体が軽快に感じられた。「悟る」とは、ああいう気持ちに近いのかも知れない。


18日●偽のタージ・マハール

タージ・マハールによく似た建物が見える。しかし、建物の前にある道が波のように歪んでいる。ここはタージ・マハールではないと思う。奥のほうに四角いプールがあって、その周囲には、アラビア風の衣装をまとった大勢の男女が見える。誰かが「一緒にプールで泳ごう」と誘いに来る。しかし私は、ここでは泳がないことにした。
【解説】 久しぶりにインドの夢である。このところ戦争関係の夢ばかり見ていたが、昨日と今日は、珍しく戦争とは無関係の夢を見ることが出来た。夢の内容を選ぶことは出来ないかも知れないが、願わくばワンパターンでなく、毎日バラエティーに富んだ夢を見たいものだ。


19日●Sさん夫妻とお茶を飲む

昭和30年代を感じさせる古い町並み。近くで水の流れる涼やかな音がする。今は夏の午後なのだろうか、家の前には縁台が置かれ、そこで80歳前後の品の良いご夫妻がお茶を飲んでいる。ご夫妻は、陸軍将校だったSさんとその奥さんだ。私もお茶に呼ばれている。奥様が「さあさあ、たくさん召し上がれ」と言い、Sさんも「そうそう、遠慮することはありませんからね」と頷いた。紫陽花をかたどった初夏らしい和菓子を頂きながら、私達はのんびりと世間話などしている。(ああ、こんな時間がずっと続けば良いのに)と思う。
【解説】 Sさんは、現在執筆中の本の中にも登場する陸軍の元軍人さんだ。昨年、Sさんのお宅にお邪魔してカウラ事件のことを色々お聞かせいただいたが、それから約2ヶ月後、Sさんは突然体調を壊されて、そのまま帰らぬ人となってしまった。とても優しい人で、またお目にかかりたいと思っていただけに残念でならない。昨日は奥様に手紙を書いたりしていたので、Sさん夫妻を想う気持ちが即座に夢に現われたようだ。


20日●合唱団
私は合唱団の一員らしい。大勢の団員に混じって、何か歌っている。それは中学校時代に歌ったことのある懐かしい曲だ。私の前で歌っているのはJ子さんだ。J子さんは、髪を8つに分けてゴムで止めている。一体どうしてこんな奇妙な髪形にしたのかと不思議に思う。皆と歌うことは楽しく、よく調和した歌声はとても美しかった。

【解説】 気持ちよく歌っている夢。J子さんは小学校〜中学校時代の友達だが、あんな奇妙な髪型にしたところは見たことがない。
【後日談】 夢を見た翌日、三社祭に出かけたところ、なんと夢で見た奇妙な髪型と全く同じヘアスタイルの人を群衆の中に見かけた。髪を8つに分けるという発想それ自体が、実に珍しい。夢を見た直後に、現実世界でもそんな珍しい髪型の人が現われるとは、全くもって驚きである。



21日●ホテルで笑う
高層ホテルに泊まっている。窓から斜め下を見下ろすと、ちょうど視界に入るところに巨大なテレビ画面があって、コマーシャルが流れている。そのコマーシャル・ソングの歌詞がひどくおかしい。私は肩を震わせて笑っている。どんな歌詞だったかは思い出せないが、『昭和枯れススキ』の爆笑物パロディーだったような気がする。ベッドの上でごろごろしていると、右手が何かヌルッとした物に触れ、私は驚いて飛び起きた。それを見て誰かが笑っている。私もおかしくなって、またクスクスと笑い出した。

【解説】 ストーリーは意味不明なのだが、とにかく最初から最後まで笑っていたような気がする。なんとなく楽しい夢。


22日●原稿執筆
400字詰めの原稿用紙が山積みになっており、私はそこへ原稿を手書きしている。マス目の中だけでは足りず、行間のスペースや欄外にまでびっしりと文字を書いている。書いても書いても、さらに原稿が書きたい。どうしてこんなに原稿が書けるのか、自分でも不思議なほどだ。夢の画面には、原稿用紙以外は一切現われない。
【解説】 現実世界ではパソコンで執筆しており、原稿用紙を使うことは最近では稀だ。人によっては「パソコンで書くと自分の文体が変わってしまう」と思う人がいるようだが、私の場合はその反対で、自分の文体は手書きよりもむしろパソコンとの相性がピッタリだと思う。それはおそらく、私の書く文章が“英語的な日本語”だからではないかと思うのだが、その話は書くと長くなるので、いずれまた。


23日●紫色のドレスを新調する
素敵なドレスを見かける。どのような構造になっているのかわからないが、シェイクスピア作品の中で王妃達が着ていたガウンと、平安時代の十二単を足して2で割ったような不思議なデザインの紫色のローブの上に、半袖の真っ白な上着が縫い付けられたドレスだ。値段も見ずに、即座に購入する。この次の出版関係のパーティーに着て行こうと思う。
【解説】 とても不思議なデザインの素敵なドレスを買う夢。まさに、世界に一点しかない作品という感じだった。純白と紫の組み合わせもなかなか良いなと思った。


24日●穏やかな人々
森の中。大きな建物。若い男女。35歳前後の男性がいて、若い男女と何かを話している。穏やかな雰囲気。理由はわからないが、私は嬉しい。
【解説】 本当はもっと具体的なストーリーがあったように思うのだが、思い出せない。全体に平和な夢だった。


25日●…
今夜は仕事で徹夜をしたため、夢は見ていない。


26日●レッサーパンダは陸軍
レッサーパンダが島の奥深くに潜んでいるというので取材に行くと、どうやら旧日本軍のレッサーパンダらしい。「陸軍ですか」と聞くと、相手は「このへんのレッサーパンダは全部、旧陸軍のヤマシナ部隊(と言ったような気がするのだが、言葉が鮮明でないため良くわからない)所属です」と答えた。後方の森の葉陰に、数匹のレッサーパンダが隠れている姿がちらちら見えた。
【解説】 このところ日本中で、レッサーパンダの二本脚歩行が話題になっている。そのことと、現在書き終わりかけている本の内容が、どこかでクロスオーバーした夢。夢の中のレッサーパンダは、ハキハキと日本語を話していた。
【後日談】 夢から覚めてテレビをつけると、フィリピンのミンダナオ島で旧陸軍の兵士2人が確認された旨のニュースが聞こえてきた。この映像(船から見た島の様子)が夢で見た島と似ており、偶然とはいえ不思議な気分だった。戦後60年、こうした人々がまだ複数おられることは前々から聞いていたが、日本に戻りたいが軍法会議にかけられると思い帰れずにいたらしい。早く日本に戻して差し上げたい反面、彼らの目に現代日本がどのように映るだろうかと、個人的にはやや不安である。



27日●渚のパラソル
松田聖子さんの顔が至るところに見える。私は『渚のパラソル』という戦記物のノンフィクションを出版したらしい。「嘘でしょ、何なのそのタイトル」と言って皆が笑うので、私も、ついおかしくなって笑ってしまった。
【解説】 巷の噂では、松田聖子さんが3度目の結婚をなさるとか、なさらないとか? この方には、どうしても一度郷ひろみさんと一緒になって頂きたいなどと勝手に思っているのだが、なかなか遠い道のりのようである。夢自体は楽しい雰囲気だった。


28日●新しい掃除機
山小屋のベッドルーム。縦と横のサイズがほぼ同じぐらいの巨大ベッドが見える。私は掃除機を使ってその下を掃除しようとしている。掃除機は、一見、ごく普通のデザインに見えるのだが、どうも最新のテクノロジーが搭載されているらしい。先端の部分をベッドの下に差し込むと、掃除をしたいエリアの映像が撮影される。その写真を特別な液体に浸すだけで、掃除は完了するのだ。この間の一連の操作は、全てオートマティックである。なかなか便利なもマシーンが出来たものだと思う。(この液体の成分は何だろう)と調べようとしたところで目が覚めた。
【解説】 巨大なベッドと新型掃除機が印象的な夢。掃除をする夢は気持ちが良く、気分爽快な目覚めだった。


29日●新・原稿執筆
体の両側に愛犬のブースケとパンダが密着しており、温かく柔らかな感触が心地良い。私は原稿を手書きしている。面白いほどスラスラと筆が運ぶ。よく見ると、原稿は現在書いている戦記物ではなく、次に予定している作品ではないか。どうやら私は、早くも次の作品に取りかかったらしい。力強い気持ちが新たに込み上げてきた。
【解説】 今月22日に引き続き、原稿を手書きする夢だが、今夜の夢で書いていた原稿は、近未来に書く予定の新作であった。昨日あたりから、夢の印象が目に見えて革新的になっており、それは即ち、現実世界の私自身が新しいステージに入ったことを告げているような気がする。


30日●UFO
球形のUFO。その内部に座っている私。家族の存在。過去への訣別。旅立ち。
【解説】 今夜の夢にはストーリーと呼べるものがなく、UFOの内部だけがハッキリと見えた。新世界へ向けて旅立ちたい私自身の願望を、この夢は表わしているような気がする。


31日●移動
非常にスピードの速い乗り物。その乗り物でどこかへ移動している。誰も私には追いつけない。
【解説】 昨日の夢に引き続き、具体的なストーリー性のない夢。2夜連続で、非常なスピードで遠い場所に移動しようとしていた私は、現実世界でもどこかへ「移動」したいのだろう。昨日は、4月来かかりきりだった原稿を書き終えた。これは戦記物のノンフィクションで、カウラ事件をテーマとしている。原稿を書き終え、既に私の中には次に書きたいテーマがはっきりと見えている。「移動」とは、次のテーマへの転換を意味しているのかも知れない。




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