2006年10月


1日●ルールを破る
目の前に何か長々とした文章の書かれた紙がある。そこには面白味のない理路整然とした文章が並んでいて、いかにも優等生くさい。その文章を誰か(私?)が壊そうとしている。文章の至るところをいじりまくり、文法まで無視してこれまでとは異なる言語感覚を取り入れて、ほぼ新しい言語の領域にまで変えてしまったようだ。時限爆弾を仕掛けた直後のスパイのような気持ちで、私はそっとその場を去った。場面が変わり、大きなショーホールの楽屋らしき場所。宝塚のレビューに似たバラエティーショーが、今しも行なわれようとしている。但しダンサーはひとり残らず白人女性で、ここはおそらくオーストラリアなのだと思う。開演まであと1分というときになって、ダンサーのうちリーダー格らしい女性のひとりが、何かに怒ったような決然とした口調で、「いっそのこと、みんなで役を取り変えてしまおうじゃないの」と(英語で)言った。その言葉に驚く者、躊躇する者もいるなか、数人の活発なダンサーたちが「賛成、賛成!」「役を取り替えちゃおう!」と同意した。カーテンの向こう側から華やかな音楽が聞こえ、舞台が始まったらしい。その音に弾かれたように、ダンサーたちは本来の自分の出番ではない場面で次々に舞台へと飛び出して行った。その姿は、何かを決意した捨て身の特攻隊員とどこか似ていた。こんなことをしても、どうせじきに台詞や踊りを間違えてしまうだろうし、本来の女優さんとはそもそも顔が違うのだだから観客や監督にはすぐにバレてしまうに違いない。しかしそのことを知った上で、彼女らは“勝手に役を取り替える”という大博打に打って出たのだ。まさに確信犯というか、捨て身のルール破りである。大混乱する舞台の袖に立って、私は彼女達の行動を黙ってじっと見つめながら、(方法は稚拙ではあるけれど、これがクーデターの基本だろう)と思っている。

【解説】 今夜の夢は前半と後半でまるでストーリーが違っていたが、どちらも“従来のルールまたは前例を壊して新しいことをやろうとする”という点で共通していたように思う。人間のルールや規範の中には、気が遠くなるほど長い時間をかけて徐々に形成されてきた不文律が多い。いわゆる“社会の常識”と呼ばれるものがそれだ。もちろん、そうしたルールは場所や時代によって異なるが、そこに住む人間の精神や行動範囲を大なり小なり縛りつける力を持っていることは否定できない。そうしたルールが、しばしばひどく窮屈に思われるときがある。今夜の夢は、私の心の中にある“既存の価値観を壊したい”という感情を如実に表わしているような気がする。なお、夢の前半で私は「時限爆弾を仕掛けた直後のスパイのような気持ち」を味わっていたが、現実世界で時限爆弾を仕掛けたことなど勿論ありません。誤解なきよう(笑)。



2日●見つからない出口
延々とどこまでも続く地下通路のような場所。そのなかを自転車で走っている私(あるいは自転車ではなく徒歩または電車だったのかも知れないが、そのあたりは定かではない)。地下通路は、東京全体ほどの広さの町の下を網羅するように張り巡らされている。当然、外の風景は見えず、巨大なチューブのような通路の中をどこまでも自転車で走るのは、肉体的にも精神的にも容易なことではない。ところどころに大きなカーブもあるので、ほかの自転車とぶつからないよう細心の注意が必要なのだ。私は何時間もかけて、全力で自転車を走らせていた。ところが、そろそろ目的地に到着する段になって出口表示を見上げたところ、自分が降りたい場所の名前が見当たらない。目の前は駅の改札口のようになっていて、壁の上方に電車の路線図に似た大きな地図が掲げられているのだが、そこに書かれた駅名は聞いたことのない外国の地名ばかりなのである。ここは、私が行こうとしていた目的地とは遠く離れた場所らしいのだ。ここから一番近い出口は、“Leonard's”だったか“Rainforest”だったか忘れたが、“L”か“R”で始まる地名だ。確かシドニーにもこんな地名があったなと思う。地図に書かれた地名はすべて英語名ばかりで、どうやらここは日本ではないらしい。しかし不思議なことに、周囲を歩いている人の顔を見ると日本人ばかりなのだが。いずれにしても、ここは私が来たかった場所ではない。ここから地上に昇っても意味がない。どうしたら目的に辿り着けるのだろうかと途方にくれているところで目が醒めた。

【解説】 目が醒めてすぐに思ったのは、(今夜の夢に現われたチューブ状の地下通路は「腸」を表わしているのではないか)ということだった。これは理屈ではなく、単なる直感だが。私は子どもの頃から腸がデリケートで、日頃から食べ物には割と気を使っている。28歳で肉食を完全にやめたのも、腸の健康を想ってのことである(もともと体質的に肉食が合っていなかったので)。幸いなことに現在、私の腸は極めて正常に働いている。が、さらに大事にするに越したことはない。というわけでこれからは、冷たい飲み物や刺激物(香辛料など)はなるべく控えようと思う。



3日●チベットにて
峻厳なる峰々。草一本生えていない、この世のものとも思われない荒涼たる大地。上空を旋回する1羽の禿鷹。ここはヒマラヤで、チベット文化圏に属するどこかだ。私は頭陀袋を提げた僧侶なのかも知れない。高く低く風の歌が聞こえている。私は風の中を歩いている。

【解説】 今夜の夢にはストーリーらしきものがあったのかどうか、それすらも思い出せない。ただ断片的に、ヒマラヤの峰をひとり歩いていたことを思い出すだけだ。自分が女だったのか男だったのか、現代なのか1000年前なのか、それすらも不明だが、イメージ的には修行僧だったのではないかと思う。



4日●一人前になった娘
場所やシチュエーションなど詳細はまるで思い出せないのだが、私のすぐ脇には娘がいて、娘は多くの友人達に囲まれ、英語で何か活発に話している。すっかり一人前に育った娘を見て、私は心のなかで(遺伝とは実にありがたいものだ)と思い、DNAに感謝している。

【解説】 今夜の夢には長いストーリーがあって、そのなかに何度も娘が登場したような気がするのだが、昨夜に引き続き今夜も夢の断片しか思い出せない。ちなみに現実世界では、娘は現在シドニーで暮らしている。しかし夢の中ではかなり頻繁に逢っているため、彼女が遠くにいる感じはあまりしない。



5日●憧れの「ちゃんちゃこ」と会食する
夜の町。大型バスを借り切って、私達はこれから温泉へ行こうとしているらしい。車内には母を含む家族全員のほか、何故か「ちゃんちゃこ」のヴォーカリスト・北方義朗さんが乗っていた(注/「ちゃんちゃこ」は1975年の1年間だけ一世を風靡し解散した伝説のフォークデュオグループ)。温泉は夜9時で閉館するのだが、今は既に8時40分を回ったところである。今から行っても間に合わないと思うのだが、「10分でもいいからお湯に浸かろうよ」と誰かが言い、バスは一路、温泉に向かって夜闇の中を走り続けているのだ。ところがそのとき、北方さんが突然大きな声で「あっ、松村さん!」と叫びながら席を立ち、唖然としている私たちを尻目に、ドアを開けて車外に飛び降りてしまった。見ると、バスの外には「ちゃんちゃこ」の片割れである松村忠佳さんが立っていたではないか。(きゃ〜! 松村さんだ!)と興奮する私(注/高校時代の私は松村さんの大ファンだったのだ)。北方さんと松村さんは肩を抱き合って再会を喜び合っている。ふたりの会話を聞く限りでは、松村さんは現在北海道(?)に住んでおり、たまたま数日間だけ東京へ戻って来たらしい。夢の中では北海道はひどく遠いところという設定で、東京へ出て来るのは容易なことではないらしい。北方さんと松村さんが「それじゃ僕達は飲みに行きますから」と夜の町に消えてゆく姿をバスの高い座席から眺めながら、私は皆と一緒に温泉へ向かった。温泉に到着したときは8時55分頃で、果たして湯船に浸かったのか浸からなかったのか、それすらも覚えていない。私の胸の内は、今しがたこの目で見たばかりの松村さんのことで一杯なのだ(注/この頃までに私の精神状態は完全に高校生に戻ってしまったようだ)。そのあと私は、何故か大きな風船に掴まって空を飛んでいた。気がつくと目の前で北方さんと松村さんが酒盛りをしている。私がそこへ降り立つと、ふたりは私を歓迎してくれた。憧れの松村さんと話しているうちに、松村さんの顔が次第に初恋の人とオーバーラップしてきて、どちらがどちらかわからなくなってきた。この上なく幸福な気分。ところがそのとき私にそっくりなもう一人の私が現われ、勝手にテーブルについてしまったのである。私は(余計なヤツ。来なきゃいいのに。でも、あっちも私なんだから、まあ仕方ないかな)と思いながら、やや釈然としない気分を持て余している。さらに、その風景を遠くから眺めている3人目の私(おそらくこれが真実の私らしい)がいる。第3の私は、向こうにいるふたりの自分を眺めながら(あれが70年代ファッションなのかしら。茶色のニットスーツなんか着ちゃって、高校生の割に随分大人びて見えること)などと思っている。

【解説】 高校時代に大好きだったフォークデュオグループのメンバーと一緒に会食するというルンルン気分な夢だったのだが、最後に自分と瓜二つの人間が現われたところで微妙な展開になってしまった。全体に見ると、今夜の夢はノスタルジックでロマンティックで、高校生に逆戻りしたような気分の夢だった。「ちゃんちゃこ」は私の青春時代の思い出の一コマなのであるが、大学時代に現実世界で偶然にも北方さんと知り逢い、その後、私の結婚式では贐(はなむけ)の歌まで歌っていただいた不思議な関係でもある。しかし相棒の松村さんに関しては、ただの1度もお逢いしたことがないまま現在に至る(憧れは憧れのまま取っておいたほうが良いということでしょう(笑))。なお、北方さんの公式ウェブサイトはこちらからご覧になれます。



6日●東西日本対抗の句会に出る
大きな句会が催されている。開催地がどこなのかはわからないが、私の知らない場所だ。句会は東日本チームと西日本チームの対抗戦で行なわれているらしい。全体に和気藹々とした雰囲気である。私はどうやら俳号を持つほどの俳人らしいのだが、夢の中では“いじられキャラ”というか“ボケ役”というか、皆から可愛がられオモチャにされて喜んでいるようだ。当然東日本チームに所属しているはずの私は、何故か西日本チームの人たちに囲まれている。関西弁や博多弁など、西日本の言葉がポンポン飛び交うなか、一種のマスコット的存在として皆から可愛がられているようなのだ。もしかしたら私は小学生か中学生で、天才俳句少女なのかも知れない。皆から「まみちゃん、まみちゃん」と呼ばれ、頭やオデコを撫でられている。活気。笑い。人いきれ。

【解説】 なんとも賑やかで楽しいムードの夢だった。俳句大会が行なわれているという割には、夢のなかで俳句を詠んだ覚えは一切ない。現実世界の私は、吟行に出ることもないし句会に出ることもほとんどない。また皆から可愛がられ、いじられるキャラというのも、現実の自分とはかけ離れている。ただし、よくよく思い出してみると、中学卒業までの私は確かに大人の言うことに口答えもせず、真面目に従う素直な少女だった。今夜の夢に現われた私は、そんな大昔の私なのかも知れない(そんな自分が今も心の片隅で生きているのだとすれば、少し驚きだ)。また、東日本チームに所属しているはずの自分が西日本チームの人たちと一緒にいた理由は、なんとなくわかる。毎週の「週刊マミ自身」を読んで頂ければおわかりのように、私は最近、福岡や和歌山(高野山)など西日本に深いご縁がある。そのことも今夜の夢には現われていたようだ。



7日●日本最後の日
何がどうなったのか経緯は不明だが、日本は世界から狙われているらしい。あるいは、私たちが住むこの世界は既に大きな修羅場(世界戦争?)の真っ只中にあって、日本の友好国はすべて滅んでしまい、今や日本と敵国だけが残っているのかも知れない。助かるための唯一の道は、ただちに日本から逃げ出すことだ(但し、逃げて行く先がどこであるかは夢の中では知らされなかった)。滑走路から次々に飛行機が離陸し、一点を目指して飛んでゆく。しかし、せっかく離陸した飛行機も次々に敵のミサイルで撃墜されてしまい、脱出に成功する飛行機はほぼ皆無に近い。私は空港のはずれからその風景を眺めながら、(今となっては逃げ場はどこにも残されていないのかも知れない。おそらく日本人は全滅するのだ)と思っている。(※よほどの悪夢だったらしく、ここで一旦目が醒めてしまった。冷水を飲んでから再び眠りについた私は再び夢を見た。それは先刻の夢とは180度打って変わって明るい希望に満ち溢れた夢だったのだが、何故かこちらの内容は全く思い出せない)

【解説】 とても恐ろしい夢だった。その証拠に、およそ夜中に目が醒めることなどない私が、今夜は悪夢のために途中で起き出してしまったのだから。昨夜は飛行機恐怖症(?)の友人とディナーをご一緒した。食事のあと品川プリンスホテル最上階のラウンジバーへ行き、夜間だというのに羽田空港に着陸する飛行機があまりにも多いことに吃驚しながら、同時に友人の飛行機恐怖症ぶりにも驚いていた(彼は飛行機事故の話をしたり飛行機の着陸風景を見るだけで、心底から恐怖におののくのである)。そのことと、昨今の北朝鮮核実験問題などが絡み合って今夜の夢になったのだろう。一旦目が醒めたあとで再び見た夢は非常に楽しい内容だったのだが、そちらの詳細は残念ながら思い出せない。



8日●チベットの偉大なる密教行者
ヒマラヤの峠を歩いている。右前方に大きな男性の後ろ姿が見えている。その身体は、夢の画面から半分はみ出してしまっている。左手前に地味な感じの小柄な女性がいて、私に(ヒマラヤの言葉で)その男性は偉大なる密教の行者である旨を告げ、さらに「(彼に貴女のことを)ご紹介しましょう」と言ってくれた。女性が男性を呼ぶと、男性は、身体は前方に向けたまま右肩越しにぐるりと首を回してこちらを見た。その顔は黄金色に光り輝いていた。あっと思ったところで目が醒めた。

【解説】 今夜の夢には、おそらくもっと長いストーリーがあったのだと思われる。しかし目が醒めたときに覚えていたのは、この場面だけ。黄金色の顔をした人は、行者と言うよりほとんど神のように見えた。



9日●名前の漢字を間違われる
大きな学校のような建物。時間帯は夜だったように思う。電気が煌々と燈った部屋に入って行くと、数人の人たちが働いており、そのなかのひとりは明治学院大学教授のO先生だった。O先生は満面に笑顔を浮かべ、心から嬉しそうに私を迎えてくれた。少しお喋りをしたあと、帰ろうとした私にO先生が何か言いながら1枚の紙を寄こした。新聞または雑誌に載る記事のゲラらしい。O先生と別れ、外に出てひとりになってからよく見ると、ゲラには私に関する記事が載っている。ところが名前のところが「山田真美」ではなく旧姓の「鈴木真美」になっていて、しかも漢字が4文字とも間違っているのだ。なかでも特に「鈴」の字の間違いぶりは重症で、鉄偏の右側に「鱸」の作りの部分を足し、さらにそれを旧字体にしたような、およそ見たこともない難解な文字なのだ。「木」がどんな漢字に間違われていたかは覚えていないが、「真美」はヤンキー文字で「魔魅」となっていた。ゲラの段階で間違いに気づいて良かった。O先生に言って早々に訂正してもらわなければと思っている私。そのあとどこか別の場所へ行き、そこでも再び名前の漢字を間違われたように思うのだが、今度の間違いが具体的にどのようなものであったかは思い出せない。

【解説】 そう言えば現実世界でも、年に1度ぐらいの頻度で「真美」の字を間違われることがある。いちばんよく間違われる漢字は「真実」だろうか。以前、原稿のゲラどころか完成品の雑誌の中で、「山田真実」と大きく印刷されてしまったこともある。間違われないために「真善美から善を抜いた真美です」などと説明するのだが、最近は「真善美」という言葉自体を知らない人が多いようで、その場合は「は?」と首を傾げられてしまう。そこで最近は仕方なく「写真の“真”に美術の“美”」と言うことにしているが、日本人の日本語力は明らかに低下していると思う。「真美」程度でも年に1度は間違われるのだから、もっと難解あるいは同じ音の漢字が多い名前の人は、日頃からしょっちゅう名前の書き方を間違われていることであろう。ちなみに我が家で一番名前の漢字を間違われるのは夫である。「真巳」と書いて「まさみ」と読むのだが、「巳」の字の説明が難しい。「巳年の巳」と言っても通じないことが圧倒的に多いので、「おのれ(己)という漢字の左側の棒が上まで伸びた字」などと説明するのだが、電話などだと理解してもらえない場合が多い。しかも本人は巳年ではなく寅年生まれだ。まったくおかしな話である(笑)。それにしても今夜は何故こんな夢を見たのか、原因は定かではない。



10日●結縁灌頂で大日如来と結ばれる
落ち着いた感じの仄暗い部屋(あるいは洞窟?)に入って行くと、虚空のあちこちに「ヤントラ」「マントラ」「陀羅尼」などという文字が浮かんでいて、幻想的な雰囲気。その先に大きな金剛界曼荼羅が置いてある。私は(おそらく目隠しをされて)曼荼羅に向かいオレンジ色の花を投げた。花はスローモーション映像のようにゆっくりと、尚且つ矢のように正確に、ある一定の方向に向かって虚空を飛んで行き、やがてふわりと大日如来の上に落ちた。師らしき人が私に、「貴女は大日如来とご縁が結ばれました」という意味のことを言っている。

【解説】 最近、毎日のように密教関係の専門書を山ほど読んでいる。今夜の夢は明らかにその影響かと思われる。なお、真言密教の祖・弘法大師空海は、複数回行なわれた結縁灌頂(けちえん・かんじょう)でいずれも大日如来とご縁を結ばれたということだ。全体に神秘的なイメージの夢だった。



11日●無計画な台湾旅行とタクシードライバー
観光旅行で台湾に来ているらしい。1泊2日かせいぜい2泊3日の駆け足旅行で、しかも何の計画も立てずに来た私は、どこへ行けば良いやらわからず右往左往している。同じ宿に泊まっているらしいヒッピー風の2人組の日本人男性が、「○○へ行ったらいいんじゃないですか?」と教えてくれたのは良いが、肝心の○○が何処なのか皆目わからない。早くしないと、どこも観光しないうちに帰る時が来てしまう。もたもた焦っているうちに最終日になってしまった。今日こそは観光をしようと思うが、朝のうちにホテルをチェックアウトしなくてはならない。重い荷物を持って観光するのはイヤだなと思う(ホテルでは荷物を預かってくれないようだ)。どうしたものかと思っていると、そこへどこからともなく初老の女性が現われた。彼女はタクシードライバーで、今日1日タクシーを借り切らないかと言う。「走行距離は無制限で、1日○○元でどうです?」という値段交渉を、片言の日本語で持ちかけてきた。どうしようかなと思ったまさにその瞬間、降って湧いたような唐突さで夫と娘と息子が現われた。今まで気づかなかったのだが、どうやら彼らも最初から私と一緒に台湾に来ていたらしいのだ。家族がドライバーの言い値でタクシーをチャーターしようとしている。私はそれを制し、相手の言い値を負けさせるコツと、今日の観光旅行のポイントを手短に述べた(但しその内容がどのようなものであったかは思い出せない)。

【解説】 台湾へ観光しに行ったはずが、今夜の夢では結局どこも観光していない。折角の台湾旅行の夢だというのに、残念なことである(苦笑)。台湾と言えば、先月は拙著『死との対話』の中国語(繁体字)バージョンが台湾で出版されたばかりだ。そのことが今夜の夢の引き金になっているのだろう。なお、タクシードライバーの女性の顔に見覚えはない。



12日●地獄へ行こうとする僧侶を軌道修正する
テーマパークのような雰囲気の大きな建物があって、そのなかを何本かの歩道が立体交差している。私は上の階(あるいは歩道橋の上?)から下方を見下ろしている。最初に誰か見知った女性がやって来て、夢の画面の左のほうへ歩いて行ったような気がするが、彼女が誰で何の話をしたのかは思い出せない。そのあと遠くのほうから、上品な黄色の立派な僧服を着た日本人の僧侶がしずしずと歩いてきた。知り合いのAさんだ。Aさんは最初、私の存在には気づかずに、少し俯き加減に道をまっすぐに歩いて来て、歩道橋の下をそのままくぐり抜けようとした。私は本能的に、その道が地獄へと通じる道であることを感知し、橋の上から思わず「Aさん!」と声をかけてしまった。道が間違っていることをお教えしようと思ったのだ。名前を呼ばれたAさんは、(しまった。見つかったか)とでも言いたげな、一種バツの悪そうな表情を顔に浮かべ、無理に愛想笑いをしながら会釈してきた。その様子だけからでは、Aさんが意識的に地獄へ行こうとしていたのか無意識に足が向いてしまったのか定かでなく、また意識的だったならば何の目的で地獄へ行こうとしていたのかも不明だが、顔に浮かんだ表情から推察して、彼に何らかの良心の呵責があることは間違いなさそうだ。私は左のほう(彼にとっての右のほう)を指差しながら、「極楽へ通じる道はそちらですよ」と告げた。Aさんは仕方なさそうに「はい、わかりました」と頷いた。

【解説】 今夜の夢はこの前後にもストーリーがあったように思うのだが、何故かこの部分しか思い出せない。Aさんは実在する割と偉いお坊さんだが、さまざまな黒い噂もある人だ。お坊さんが地獄へ行こうとしているのを軌道修正するとは、夢のなかとは言え我ながら不遜だが、おそらく私の心のどこかに(Aさんには真っ当な道を生きて頂きたい)という気持ちが常にあって、その想いが今夜の夢になって現われたものと思われる。



13日●……
夢を見たのか見なかったのか、目覚めてみると何一つ覚えていない。

【解説】 今夜は「日本文化デザイン会議06inとくしま」出席のため、徳島市内のホテルに泊まった。昨日一日がかなり忙しかったためか、普段以上にぐっすり眠ったようで、夢を見た記憶は一切残っていない。



14日●「アメリカで描いた絵が!」
夜の闇。一帯は薄い霧に包まれており、時間のひずみが生じているような幻想的かつ奇怪な雰囲気。周囲の様子はよく見えないが、このあたりは森に囲まれた別荘地帯なのかも知れない。ゆるやかな勾配のある道が長くうねるようにして伸びており、そこだけが闇の中に白っぽく浮かんで見える。私にはどこか行くべき場所があって、その道を歩いている。姿は見えないが、夫もすぐ後ろから歩いて来るような気がする。ところが次の瞬間、背後から「大変! アメリカで描いた絵が!」と叫ぶ夫の声が聞こえた。それはどこか物悲しい、霧の中で拡散してゆくように長く伸びる印象的な声だった。とても嫌な予感がしながら振り返って見ると、夫の両側には警察官らしき人が3人ほど立っていた。私は咄嗟に、(家が火事になり、「アメリカで描いた絵」が燃えてしまったのではないか)と思う。夫は警官と一緒に、いま来たばかりの道を足早に戻って行った。私は火事を心配しながらも、心の中で(しかし、この話は何かが変だ。夫はアメリカで絵を描いたことなど一度もないはず。存在しない物が燃えるとはどういうことか?)と怪訝に思っている。

【解説】 この世とあの世の狭間に立っているような印象の夢だった。昨日は徳島での仕事の合間を縫ってひとり郊外に出かけ、四国八十八箇所霊場の1番(霊山寺)から3番(金泉寺)まで徒歩で回ってきた。いわゆるお遍路さんだ。お寺に着くとお遍路さんは本堂と大師堂の両方で「般若心経」を唱えるのが決まりだから、昨日だけで都合6回「般若心経」を唱えたことになる。またそれとは別に、昨夜は或る猟奇的な出来事を目の当たりにした(それは某個人の私生活に関することなので、内容をここに書くことは出来ないのだが)。今夜の夢は、イメージ的には、それらの現実からそのまま繋がっていたような気がする。この夢も徳島市内のホテルで見た。



15日●言葉を捨てに来る人々
私は山奥に住んでいるらしい。たくさんの人が山を登ってやって来る。彼らは言葉を捨てに来たのだ。前後関係はわからないが、言葉を捨てることが出来るのは選ばれた場所に限られており、特別な資格を持った者だけがその場所を管理できるらしい。どうやら私はその資格を持っているようなのだ。山の一箇所に黒い穴が開いていて、彼らが捨てに来た言葉はその穴の中に捨てられる。それは「言葉の墓穴」だ。言葉を捨てた人々は、私に向かって深く一礼したあと、すぐに踵を返し無言でその場から去ってゆく。私は軽く会釈を返し、彼らが捨てて行った言葉は何だろうと考えている。

【解説】 固定カメラで一つの視点からじっと「言葉の墓穴」を視つめているような、視線がぶれることのない夢だった。言葉を捨てに来る人々を私は冷静に見つめているのだが、そこに強い感情が湧いてくるわけでもない。今夜の夢の中での私は、一種の「超越した存在」だったような気がする。



16日●神秘的な目で成り上がった女性
壁に数枚の写真が貼ってある。どれもモノクロ写真で、皺が寄っていたり折れていたり、無傷の写真は1枚もない。すべての写真に写っているのは日本人らしきひとりの女性と、彼女を取り囲むタキシード姿の男達だ。男達は全員白人で、年齢は中年から初老。いかにも富豪らしいオーラを放っている。写真に写った彼女は、独特の目をしている(と白人男性達は思っている)。それは、いわゆる東洋人の典型的な「切れ長の一重瞼」ではなく、「ややぼってりした感じの二重瞼」である。その目が神秘的だという理由から、男達は彼女の虜となり、財産と地位を与え続けて来た。言ってみれば彼女は神秘的な目の力で成り上がった、「美の成り上がり」なのだ。そもそも彼女が成り上がる発端となったのは、壁に貼られた数枚の写真のうちの1枚だという。その写真では、中央よりやや左寄りに彼女が立ち、左右にはタキシードの男達が2〜3人写っている。彼女の顔の上には、鋭いカッターナイフの端で刺したような小さな傷があった。そしてこの傷こそが、彼女が成り上がって今日の地位に君臨することになった最初のきっかけなのだという。私は少し離れた場所に立ち、話の一部始終を聞いている。そして心のなかで(この程度の美貌の女性なら、日本には掃いて捨てるほどいるような気がする。彼女が成り上がれたのは不思議だ。単に運が良かったのだろうか? それとも別に理由があるのか?)などと思っている。

【解説】 意味不明な夢だった。夢の中で「神秘的な目」と賞賛されていた女性の目がひどく凡庸だったことも腑に落ちない。夢の中でいちばん印象に残っているのは「カッターナイフで刺したような写真の傷」だが、一体何を表わしているのだろう。女性よりも写真の傷のほうがむしろ気になる。



17日●紙に印刷された最新ニュースのヘッドライン
前後関係はわからないが、気がつくと私は静かで無機質な部屋にいて、目の前のデスクの上には1枚の紙が置かれていた。それはA4のコピー用紙のようなごく普通の紙で、紙の上には短い文章がたくさん印刷されている。それらの短文は、どうやら最新ニュースのヘッドラインらしい。私は一種の緊迫した空気を感じながら、紙に印刷された文章に目を通してみた。全部で15〜20のヘッドラインが、日本語と英語が入り乱れて並んでいたような気がするが、そのうちハッキリと覚えているのは「バス転倒事故で邦人女性死亡」という日本語のタイトルと、「Scissor Sisters」という英語のタイトルだ。ふたつめのタイトルの意味は何だろう。不可解に思う。映画のタイトルか何かだろうか。「Scissor」のスペリングが間違って「Scisser」となっていたので、私は赤ペンを取り出し、とりあえず間違い箇所を直してあげた。そのあと、かなりユニークな女性に逢って話をしたような気がするのだが、詳細は思い出せない。

【解説】 白い紙に印刷されたニュースのヘッドラインと、黙ってそれを読んでいる自分。静けさと緊迫した空気の対比が印象的な夢だった。

【後日談】 この夢から醒めた約1時間後、私はいつものように息子と一緒に食卓に向かっていた。息子は通学時間の関係で6時台に食事をし、私はコーヒーだけ飲みながら息子の朝食に付き合うのだ(※この時間帯、夫はまだ寝ている)。食事のときはテレビを付けない主義だが、朝だけは時計代わりに低い音量でテレビニュースを流すことにしている。今朝もいつものようにテレビを付けたまま息子と食卓に向かっていたところ、いきなり、横転したバスの映像が画面に写り、「日本人女性一人が死亡しました」というアナウンサーの声が続いた。驚いた私は息子に「この事件、今夜の夢で見たと思う」と言うと、日頃から私の一種の予知能力を見知っている息子は、「母さんは本当によく予知夢を見るなあ」と応じた。暫くすると、テレビは芸能ニュースを流し始めた。そのなかで、男女混成の外国人ユニットの映像が流れたのだが、そのグループの名前がなんと「シザー・シスターズ」だというではないか。これにはさすがに心から驚いた(注/これまで私が「シザー・シスターズ」というユニットの存在を知らなかったことは言うまでもない)。早速そのことを息子に告げたところ、息子はおもむろに席を立って行き、本棚から1冊の本を抜き取って来て、「これは昨日読み終えたばかりの本だけど、このなかにも予知夢ばかり見る人物が登場するから、興味があったら読んでみたら?」と言いながら本を寄こした。見ると、『数学的にありえない』(アダム・ファウアー著)という本である。今日は多忙のため読書の時間はないが、予知夢を見る人間がどのように描かれているか非常に興味深いので、この本は近日中にぜひ読んでみたいと思う。それにしても、今夜の夢はかなりハッキリした予知夢だった。あの紙にはほかにもたくさんのニュースが印刷されていたのだが、そこには一体何が書かれていたのだろう。思い出そうとしてもどうしても思い出せない。かえすがえすも残念である。


18日●ダライ・ラマ法王の温泉旅行
信州の山奥にある秘境。切り立った山をいくつも越えて行くと、渓谷のような場所に鄙びた一軒宿が見えてきた。そこには硫黄分の多い上質な温泉が湧いているらしい。宿にはチベットのお坊さん御一行が極秘滞在しており、臙脂色の僧衣をまとったお坊さん達が忙しそうに立ち働いている。突き当たりの部屋に法王が泊まっていらっしゃるというので、私は法王にご挨拶するため長い廊下を歩いて行き、正方形の部屋をぐるりと囲んだ回り廊下の右脇から部屋へ入ろうとした。そこへ、「今は入浴中なので暫く待ってください」という従者の声。指示どおり廊下に正座して待っていると、目の前の障子が3〜4cmほどスーッと開いて、部屋の中の様子が垣間見えた。そこは広々とした和室なのだが、中央に何故か檜の風呂が設置されていて、湯気の向こうには、楽しそうに談笑する法王の横顔だけがシルエットのように見えた。場面が変わり、私は長い石の階段を登っている。周囲は深い山で、まるで修験道の道場のような清浄な気が漲っている。私の前には数人の女性の後ろ姿が見える。彼女たちはインド人らしく、黄色や緑、ピンクなど目が覚めるような明るい色のサリーを着て、長い髪を頭の後ろで1本の三つ編みにしている。私は階段を登りながら、(急いでサリーを買わなくては)と思っている。このあとどこか別の場所へ行き、何かとてつもなく楽しいことをしたような気がするのだが、残念ながら詳細は思い出せない。

【解説】 今夜の夢は、なんと「ダライ・ラマ法王が日本の秘境の温泉にお入りになる」という珍しい内容だった。警備の関係上、現実世界ではかなり実現困難なシチュエーションだが(苦笑)、法王の楽しげな横顔が印象的な夢だった。ちなみに『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「温泉の夢」の意味は「休養が必要であることのサイン」または「内に秘めた力」だそうである。



19日●高僧の厳しい横顔
私のすぐ目の前に、高僧の○○師(日本人)の姿が見える。○○師は真横を向き、少し俯いて考え事をしている。近くに人がいることにも気づいていないのだろう、自分自身の想念の世界に完全に入り込んでいる様子で、明らかに普段と顔付きが変わっている。温和なイメージの強い○○師が、非常に厳しい、人を寄せ付けない表情を浮かべているのだ。その顔は苦悩に満ちているようにも、何かに憑り付かれているようにも見える。○○師の意外な一面を知った私は、(なるほど。本質的にはこういう人なのか)と思いながらその横顔を観察している

【解説】 今月は12日にも「地獄へ行こうとしている僧侶」の夢を見た。12日の夢に登場した僧侶と今夜の夢の僧侶は全くの別人だが、少し俯いた様子や、一種の苦悩をまとっているという点で共通していた。二夜とも、「見てはいけないものを見てしまった」気分にさせられる夢だった。



20日●耳の遠い老人に電話を邪魔される
古い大きなホテルが見える。そこは山の中、または海に近い場所で、ホテルは保養施設らしい。ホテルには男性の団体客が泊まっていて、そのなかに編集者の芝田さんが混ざっているという。私には芝田さんに伝えなくてはならない急用があって、先刻から携帯に電話をしているのだが、電波が悪いのか繋がらない。ホテルの電話にかけてみたところ、芝田さんと同じグループの別の男性が電話に出た。私はどこか遠くにいるはずなのだが、何故かその一部始終が映像としてハッキリ見えている。電話を取ったのは、以前ある会議でご一緒したことのあるM先生だ。10数年ぶりに聞くM先生の声は、以前とはすっかり変わって老人のそれになっていた。耳が遠くなられたのだろう、M先生は私の言葉をまるで理解できないらしい。加癇癪持ちになったのか、実に邪険な口調で「はあ? 何の用ですか?」と言うなり電話を切ってしまうので取り付く島がない。何度か電話してみたものの、その都度M先生によって妨害されてしまうので、結局一度も繋いでもらうことが出来なかった。そうこうしているうちに、どうやら芝田さんは状況を把握なさったらしい。電波の通じる廊下へ出て、携帯から電話をかけてきてくれた。私はようやく用件を告げることが出来たようだ。

【解説】 今夜はこのほかに少なくとも2つ夢を見たように記憶している。そのうち、耳の遠い老人が登場する夢は2番目で、3つの夢の中でこれが一番ストレスの溜まる疲れる夢だった。1番目の夢と3番目の夢は楽しいストーリーだったように思うのだが、残念ながら詳細は思い出せない。なお、M先生は実在の人物。私の知る限り温厚な人格者である。かれこれ10数年以上お目にかかっていないが、お耳が遠くなられたという噂は今のところ聞かない。



21日●日比野さんの美術室
極端に巨大な学校のような建物。あまりに巨大なので、そこは学校というより既にひとつの集落のようなイメージだ。廊下は道路のような感じで、あちこちに通じている。私は何か不思議な力に導かれるようにして、特定の場所を目指して長い廊下を歩いている。目の前にドアがあったので開いてみると、ドアの向こうには日比野克彦さんがいた。どうやらここは美術室らしい。そこで何かとてつもなく面白いプロジェクトが行なわれていたような気がするのだが、詳細は思い出せない。私もそのプロジェクトに直接係わっていたようだ。夢のように楽しい気分。そのあと、浮き浮きした気分のまま別の部屋へ行ったように思うのだが、残念ながらその内容も覚えていない。

【解説】 先週は日本文化デザイン会議の仕事で日比野さんとご一緒だった。今夜の夢には、そのイメージが残像のように現われていたと思う。ところで私の夢には、割と頻繁に「学校」が登場する。『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「学校の夢」の意味は「生きてゆくうえでの積極性や忍耐強さ」、「楽しい気分で学校へ行く夢」は「今はどんなことにも思い切ってトライして大丈夫」という意味だそうである。



22日●化学式とその手順を完全に記憶せよ
前後関係はわからないが、私は1枚の紙を手にしている。そこにはたくさんの化学式と何かの手順が@から順にA、B、C……と記してあって、私はそこに書かれた事柄の全てを完全に記憶しなければならないという。紙に何が書いてあったのかハッキリとは思い出せないが、それは放射能に関連した極めて高度で複雑な内容だったように思う。記憶すべき項目は全部で15ほどあって、途中(11番目か12番目のあたり)に一ヶ所、ひどく難解な内容の項目がある。その項目だけ文章量も多く、私はそこを重点的に何度も繰り返し読んだ。このときになって気づいたのだが、私のすぐ右脇には即席のアシスタントのような人(おそらく女性)がいるようだ。彼女は私より10〜20歳ほど年下で、割と口数が少なく、親身になって私の仕事を手伝ってくれる。突然、ローマ字の「k」(大文字ではなく小文字)で始まる名前の人の存在を感じた。私の右脇にいる女性が「k」なのか、それとも紙に書かれた内容を書いた人が「k」なのか、詳細は不明だが、「k」という人物はこの件に関して何か重要な役割を担っているのかも知れない。なお、この夢には何か「結果」があったような気がするのだが、目覚まし時計の音にかき消されて最後の部分はすっかり忘れてしまった。

【解説】 なにやら記憶力テストのような夢だった。現実世界では見たこともない珍しい化学式がたくさん現われるのだが、不思議なことに夢の中の私はそれらの意味を非常に良く理解しているのだ。しかし目が醒めてみれば、化学式の内容は全く思い出せない。今夜の夢に一体どんな意味があったのか今ひとつ釈然としないが、ひとつ言えるのは、夢の中の私が現実の私とは比較にならないほど化学(chemistry)を理解していたということである。
【後日談】 プライバシー保護のため全部を書かなかったのだが、上に書いた「kで始まる名前」は、夢の中ではフルネームがハッキリと見えていた。それは今年8月に現実世界で出逢った女性の名前だったのだ。8月に逢ったとき彼女は私から3メートルほど離れた場所に座っており、私はステージ上に立っていたため彼女と話はしていない。しかしその後、彼女のほうからインターネットのmixiを通じて連絡を取ってきてくださったため、今ではマイミクさんである。今夜の夢のことが気になったので本人に連絡し、「10月22日の夢に貴女が登場しましたよ」と告げたところ、彼女からは驚くべき答えが返ってきた。いわく、彼女自身はもともと化学とは縁遠い人だが、現在マクロビオティックの勉強をしており、「生物の体内での元素転換」とか「微量エネルギー元素転換の地質学と物理学における証明」などを学ぶために化学式に囲まれた生活をしているというのである。繰り返して言うが、私は彼女をネット上で垣間見ているだけだし、彼女の日常はおろか職業も住所も本名さえ知らないのだ。そんな彼女の日常が、何かの弾みで私の夢に流れ込んで来てシンクロしたのだろうか? なんとも不思議な出来事である。ちなみに私は彼女の年齢を知らないが、おそらく私より15〜20歳下ではないかと思う。



23日●作業するふたりのお坊さん
若いお坊さんがふたり、台の上に少し身を屈めて黙々と作業に明け暮れている。

【解説】 今夜は何故か夢のストーリーを全く思い出せない。覚えているのは、すぐ目の前で若いお坊さん(おそらく日本人)が作業をしていた場面だけである。ところで最近お坊さんの夢をよく見る。今月だけでも既に7回、お坊さんの夢を見た。23日のうちの7回は、3割0分4厘。我ながら驚くべき高確率である。



24日●落下するふたりのヤクザ
スキンヘッドのヤクザがふたり、どこか高いところ(屋根の上?)から落下した。場面が変わって、掘っ立て小屋の中。窓の外にはモンゴルを思わせるような草原が広がっている。数百メートル先には、私の目的地がクリアに見えている。気がつくと私の左隣には女友達のXさんが座っていた。しかし、こちらから何か話しかけても、Xさんは放心したような顔で無言のままだった。そのあとXさんとは別行動でどこかへ行ったような気がするが、どこへ行ったかは覚えていない。

【解説】 昨夜はふたりのお坊さんの夢、今夜はふたりのヤクザの夢。同じ二人組でも随分と性格の異なる男性たちが夢に登場したものである(ただし「スキンヘッドの二人組の夢」である点は二夜に共通するわけだが(笑))。今夜の夢に登場したXさんは、現実世界でも近頃まるで元気がない。プライベートなことで深い悩みがあるようなのだ。夢に現われたXさんは、まるで魂が抜けてしまったように「心ここにあらず」という感じだった。今夜の夢には、もっと具体的なストーリーがあったように思うのだが、これ以上の詳細は思い出せない。



25日●救世主「ツェンテン」
どこか北の方にあるX国(北朝鮮ではないらしい)が、日本人を次々に拉致しているという。未だ世間には知られていないものの、X国には拉致被害者を監禁するための地下壕のような建物があって、檻のついた個室の中には10人前後の日本人男女が既に閉じ込められていた。そのなかにひとり、ごく最近になって連行されて来たという若い女性の姿が見えた。推定年齢20歳。楽観的な性格なのか、監禁されているにもかかわらず彼女は泣きも喚きもせずに明るく微笑んでいる。他の被害者達は、絶望と疲労の入り混じった目で彼女を見つめている。彼女を元気なまま日本へ帰らせ、X国の現状を日本人に伝えて欲しい。それが彼らに唯一残された希望なのだ。不意に私の視線と彼女の視線が完全に重なった。彼女の目がテレビカメラのように周囲の風景を捉え、私は日本にいながらにして彼女の視覚を追体験できるようになったのだ。彼女は低く身を屈め、ほとんど廊下を這うようにして匍匐前進を始めた。監視人がいる部屋の前も難なく通り過ぎ、そのまま出口へと向かう。その様子を彼女の目を通して見ている私には、彼女の脚のしびれや息遣いなど、五感のすべてが伝わってくる。そのとき突然、彼女に「ツェンテン」の称号が与えられた。「ツェンテン」はX国に伝わる神話に登場する若い女性の名前で、人々を助ける救世主としての運命を担っているという。時ここに至り、私は初めて「ツェンテン」の神話を知り、目の前に見えている若い女性が「ツェンテン」だったことを知る。場面が急転し、彼女は日本の家に戻り、キッチンで母親と談笑しながら皿洗いをしていた。X国での体験を話しながら母親と大笑いする彼女の顔には、ひとかけらの翳りも見られない。どうやら彼女は今しがた夢から覚めたところで、X国に拉致されたことも夢の中の出来事だったようなのだ。あるいはそうではなく、X国での出来事はやはり事実だったのかも知れない。母と娘が大笑いをしながら皿洗いをしている横では、眼鏡をかけた痩せ気味の父親が少し不安そうな表情を浮かべ、新聞を読むふりをしながら母娘の会話に聞き耳を立てている。彼は娘が帰って来たことを喜びながらも、得体の知れない一抹の不安に苛(さいな)まれているのだ。よく見るとなかなかハンサムな男性なのだが、その顔には長年にわたって刻まれた暗い影が落ちている。私は、母と娘が笑い続ける姿を第三者として傍観しながら、(X国に残された人々は救出しなくていいのだろうか。それともこれは全て彼女の夢なのか?)と思っている

【解説】 全体に奇妙奇天烈で、そのくせリアリティーのある夢だった。なかでも特に印象に残っているのは「ツェンテン」という名前だ。現実世界で「ツェンテン」という救世主が登場する神話など聞いたことがないし、そのような女性名を聞いたこともないので、この名前は今夜の夢の中で突如として作り上げられたものだと思う。しかし夢から醒めて何時間かが経過した今もなお、何故かこの名前が私の脳裏にこびりついて離れない。おかしなこともあるものだ。



26日●紫色のイブニングドレス
目の前に小さなステージが見える。ステージに立つと、ちょうど頭の真上に当たる位置に球形のオブジェが置かれていた。それは金属のように反射する物質で出来ており、実在する物ではない何か(例えば心に秘めた夢など)を映し出す鏡になっているらしい。私はまだステージに上っていないのだが、球には既に紫色のイブニングドレスが映し出されている。司会者(?)の男性が私に向かってにこやかに何かを言い、その瞬間に目覚まし時計が鳴って夢から醒めてしまった。

【解説】 今夜の夢には、この場面に至る前に長いストーリーがあったように思う。それはスリルとサスペンスに満ちた内容だったと思うのだが、残念ながら詳細は思い出せない。今夜のように目覚まし時計の音などで急激に目覚めた朝は、夢の最後部分だけしか思い出せないことが多いようだ。目覚まし時計などによる急激な覚醒は、脳のためには決して良くなさそうである。



27日●短歌は俳句より偉い
短歌の同人誌と俳句の同人誌が送られてきた。短歌にはあまり興味がないので俳句雑誌のほうをパラパラとめくってみたが、こちらにも興味をそそられるような作品はなかった。この世界(今夜の夢に現われた世界という意味)では、短歌は俳句よりも偉いのだそうだ。理由は簡単で、短歌のほうが文字数が多いからだという。短歌に限らず、この世界では何でも長いもののほうが短いものよりも偉いらしいのだ。私は無感動に(あ、そう)と思っている。

【解説】 何やら意味不明な夢だった。「短歌は俳句より文字数が多いから偉い」というわけのわからない発想は、一体どこから来たのだろう。ちなみに現実世界の私は、短歌よりも俳句の短さが好きだ(笑)。



28日●ホンモノのお嬢様
東京のどこか。大正期または昭和初期の建築物と思しき西洋風のハイカラな家。いかにも古き良き上流階級の人々が住んでいそうな、温かさの中にも凛とした趣のある建物だ。どうやらここはエッセイストの阿川佐和子さんのご実家らしい。阿川さんが「ここは幼少期から私が暮らしている家で、私の部屋は廊下の突き当たりにあります」と仰った。導かれるまま廊下を進んでゆくと、途中に大きなホールのような円形の部屋があって、部屋の壁に沿ってベンチのような形の4つのベッドが作り付けられていた。ここは阿川さんのお祖父さま、お祖母さま、お父さま、お母さまの寝室らしい。さらにその奥が阿川さんご自身のお部屋で、室内までは見えなかったが、入り口の古い木製の扉がノスタルジックな大正ロマンを感じさせる。お嬢様は、ご両親とお祖父ちゃんお祖母ちゃんに守られるようにして、いちばん奥の部屋で暮らしてきたようなのだ。(さすがにホンモノのお嬢様は奥床しいわ)と感心している私。夢の最後に誰かが小声で素早く、「この夢は貴女の意識をそらすためのダミーでしかない。本当に見せたかったのは昨夜の夢の内容だ」という意味のことを言ったような気がする。

【解説】 またしてもわけのわからない夢であった。阿川佐和子さんと言えば作家・阿川弘之さんの令嬢で慶應出身の才媛だが、もちろん私は一面識もない。テレビでたまにお見受けするだけで阿川さんの御著書を読んだこともなく、今夜の夢に登場した理由は不明。気になるのは夢の最後に聞こえた声だが、「本当に見せたかったのは昨夜の夢の内容だ」とはどういう意味だろう。昨夜の夢を私に見せたかった人は誰なのだろう。ますます謎だ。



29日●脳裏に浮かんだ写真
何らかの事件に巻き込まれた数人の男女の姿が見える。何者かによって長期的に拉致され、自由を拘束されている人々かも知れない。彼らは肉体的な暴力を受けてはいないが、抵抗するための体力や気力は既に失われてしまったようだ。彼らの脳裏には、人生のさまざまなシーンを捉えた写真が浮かんでいる。私には彼らの脳裏に浮かんだものが見える。彼らが思い浮かべているのは、入学式や結婚式など人生の楽しかった瞬間を捉えた写真ばかりだ。そのなかに、七五三のお祝いをしてもらっている3歳ぐらいの女の子を写した写真が見えた。女の子は緑色の晴れ着をまとい、短く切った髪の上に赤い大きな飾りをつけている。彼女は何故か顔を俯け、悲しそうな表情を浮かべている。少し太り気味の女の子で、カメラに背を向け誰かに手を引かれている。すぐに次の写真が私の意識の中へ送られて来たため、女の子のイメージは1秒足らずで消えてしまった。そのあと赤いトンボ玉(またはお手玉?)が垣間見えたような気がするが、定かではない。

【解説】 今月は25日にも日本人が拉致される夢を見た。25日の夢では、被害者のうちひとりは脱出して日本に帰れたが、今夜の夢では誰一人助からなかった。今夜の夢にはこの前後にもストーリーがあったように思うのだが、詳細は思い出せない。



30日●銀色の帯
気がついたとき私は呉服屋らしき場所にいた。3メートルほど離れた前方に、品の良い銀色の帯が掛かっている。既に仕立て済みなので、今すぐにでも使えるようだ。「これは銀糸ではなくプラチナ糸を使用としています」と誰かが説明してくれた。私はその帯を自分の物とするために、支払いを始めようとしている。

【解説】 時間にして1秒ほどの、まさに一瞬の夢だった。夢に現われた帯は不思議な輝きを帯びていて、どこか非日常的で宇宙的な感じがした。



31日●「すぐに戻るから」
前後関係が全く思い出せないのだが、私はどこか遠い場所にいて、誰かから何かを期待されているらしい。しかし予期せぬ急用が出来てしまい、私はその場所を離れなければならなくなる。「すぐに戻るから」と言って席を立つと、相手(ひとりかも知れないし複数かも知れない)は名残惜しそうに私の目を見ながら手を振った。

【解説】 今夜の夢には具体的なストーリーがあったと思うのだが、何故か最後の場面しか覚えていない。そのうえ、夢に登場した人々についても人数はおろか性別さえ思い出せない。輪郭だけがぼんやりと記憶に残る、まるで蜃気楼のような夢だった。





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