2007年3月


1日●遅れて届いた誕生日祝いの花束
Xさん(男性)から大きな箱が届いた。人間がすっぽり入れるほど大きな箱だ。少し不審に思いながら開けてみると、中身は信じられないほど巨大な花束である。「2月28日、誕生日おめでとうございます」と書かれたカードが添えられていた。しかし私の誕生日は2月27日だ。1日ずれたぐらい許してあげれば良さそうなものだが、何故か私は誕生日を1日間違えたXさんのことが心から嫌になる。しかし花に罪はないので、捨ててしまうわけにも行かない。そこへ学生時代の後輩であるAさん(女性)が通りかかったので、私は「はい、お誕生日おめでとう!」と言いながら、その花をAさんにあげた。何も知らないAさんは無邪気に喜んでいる。

【解説】 奇妙なほど淡々としたイメージの夢だった。Xさんが実在の人物なのでここに詳しいことを書くわけには行かないが、現実世界でも(とある理由から)私はこの人のことをあまり信頼していない。夢の最後に登場したAさんは昔の知人だが、やはり理由あって、私は彼女のことも信用していない。つまり今夜の夢には、信用していない相手が2人も登場したわけだ。なんとも奇妙である。
【後日談】 夢を見た2日後、なんと、くだんのXさんからメールが届いた。Xさんからメールが届くのはかれこれ2〜3年ぶりである。内容は、私が関わっている某イベントにぜひとも参加したいというものだったが、Xさんはイベントの日程を1日勘違いしており、結局そのイベントに来場することはなかった。この夢を見たとき、私の潜在意識は既にXさんが私のイベントに来たいと願うことも、結局は本人が日を間違えて来られなくなることも、全てわかっていたのかも知れない。



2日●イタリアの市場にて
陽気な人々。燦燦と降り注ぐ日の光。ここはイタリアで、私は庶民的な市場にいるらしい。数メートル離れたところには小さなスタンドがあって、中年の太った男がハム(?)を売っていた。まるまると太った体を揺さぶりながら右手を挙げた彼は、「買わないかい?」と言いたげにハム(?)を捧げ持った。しかし男の傍らに置かれたボードを見ると、何故かフランス語で“Bon Marche”と書かれているではないか。イタリア人ならイタリア語で“Buon Mercato”と書くべきだろう。そう思った瞬間、私はこの男がニセモノのイタリア人であると直感した。そう思ってみると、どうやら彼は人間ではなく、中に空気の入った風船ロボットらしいのだった。

【解説】 これまた奇妙な夢だった。ストーリーがない割にインパクトのある夢で、特に最後のほうでイタリア人が単なる空気入り風船ロボットだとわかる下りは、なかなか意外な展開で面白かった。



3日●大きな顔でよく笑う男
日本以外のアジア出身だという男がひとり、笑い顔を浮かべているのが見える。大きな顔に大きな目、大きな鼻。非常に存在感のある、しかしウルサイ顔だ。この顔には見覚えがあると思う。私はこの顔が嫌いだ。男は笑いながら何かを取り出して見せた。そのパフォーマンスもうるさいと私は感じている。男のそばには、彼の男友達が10人ほど横一列に並んでいる。私は彼らのことが好きではない。早くこの場から立ち去りたいと私は望んだ。

【解説】 嫌いな顔の男性から逃げ出したいと思い、困惑している夢。そう言えば今月1日の夢にも「信用していない相手」が1人ならず2人まで登場した。今夜の夢はこれに類似する夢だったように思う。現実世界で嫌いな人間や信用できない人間が現われたという記憶は、特にないのだが……。



4日●船の上でお節介なマフィアに逢う
船のデッキ。夕暮れ時。全体像が見えないので不確実だが、おそらくそれは客船ではなく、“ワケあり”の貨物船だったのではないかと思う。デッキの上で、私は見知らぬ男たちに逢った。姿形はどこからどう見てもマフィアなのだが、彼らは非常に世話焼きで、私のことをあれこれ案じてくれる。食べ物は持っているか、七つ道具(?)は持っているかと世話を焼いてくれるのだが、私はそれを有難迷惑だと感じて辟易している。それでも彼らは、そのへんのオバサンのように世話を焼き続けるのだった。

【解説】 時間にして1〜2秒の夢。特にストーリーらしいストーリーがあるわけではないが、「世話焼きなマフィア」というミスマッチが印象的だった。



5日●アジアの某国から「ゴミ」呼ばわりされる日本
アジアの数カ国+欧米のどこかの国の間で会議が行なわれることになった。私は会議の日程調整などをするフィクサーの1人らしい。各国の上層部から電話(あるいはメールだったかも知れないが定かではない)が入る。★国、▲国、●国といったアジア諸国の上層部と(英語で)話をしたような気がする。そのうちに、★国の上層部からけんもほろろな口調で"OK. That's enough."と言われた。会議はクローズドで、関係者以外は立ち入ることが出来ない。日本は会議から締め出されている。私は無線(?)を傍受して会議の内容を聞いてみた。欧米からの出席は■国一国だけのようだ。■国がこのような陰険な会議に参加するとは、まったく持って意外だ。■国もマトモな国ではないのだなと思う。そのうちに★国の代表が口汚く日本を罵り始めた。英語で何と表現したか思い出せないのだが、意味としては「日本はゴミのような国だから消えてしまったほうがいい」と言っている。それを聞いた私は心の中で憤慨しながら、(おまえにだけは言われたくないよ)と思っている。

【解説】 気味が悪いほどリアリティーのある夢。目が醒めた今もなお、★国代表の声が耳元にハッキリと残っている。アジアにおける日本の立場について常に憂慮する者としては、今夜のような夢をもっと早く見ても不思議はなかったのだが、この手の夢を見るのは何故か今回が初めてのような気がする。



6日●ポケットの中のスイッチ
階段の踊り場のような場所。眼光鋭い白人の男と私が、2メートルほど隔てて向かい合って立っている。男は某国のスパイだ。男の右手はポケットに入っている。私の右手もポケットに入っている。人差し指はリボルバーにかかっている。この指を引こうかどうか、私はポーカーフェイスで考えている。

【解説】 内容的には物騒な夢。この前後にストーリーがあったのかどうかは覚えていない。某国のスパイ役で登場した男は、現実世界で某国の政界のトップにいる某氏と似ていたが、恐ろしいので名前は伏せておくことにしよう。そう言えば今月は4日にもマフィアが登場する夢を見た。



7日●敬遠していた相手から慕われる
喫茶店のような明るい部屋。私はソファーに座っている。向かい側にはX子さんとその知人らしき女性が座っている(但し知人の顔はぼんやりしており、よく見えない)。X子さんが盛んに私に向かって話しかけて来る。そのうち、X子さんが親しげな様子で「まみちゃん」と呼びかけてきたのには驚いた。X子さんは今日初めて逢った相手で、しかも私が長いこと敬遠していた女性なのだ。X子さんは実に無邪気な表情で私に色々話しかけてきながら、隣に座った友人に向かっては「まみちゃんって凄い人なんだよ。インドに何年も住んでたことがあってね」などと熱心に説明している。まるで私のスポークスウーマンをしてくれているようだ。私は不思議な気持ちで、無言のままX子さんの顔を見つめながら、(X子さんは顔に似合わず可愛い声の持ち主だな。これまで私が毛嫌いしていただけで、彼女自身はさほど悪い人ではないのかも知れない。しかしたとえ仮にそうだったとしても、今後この人と付き合うつもりはないのだが)などと冷静に考えている。

【解説】 ここに登場するX子さんは実在の人物である。そう言えば数ヶ月前にも、今夜と酷似した夢(X子さんが親しげにアプローチしてくる夢)を見た記憶がある。私がX子さんを敬遠している詳しい理由をここに記すことは道義上できないが、それは私の友人のひとりがX子さんから深く心を傷つけられた過去を持つことに起因している。しかし、夢の中とは言えX子さんが親しげに近づいてきたからには、私自身の心境に何らかの変化が生じているか、あるいはX子さんのほうも私にアプローチしたいと願っているのかも知れない。



8日●ヤクザと3人で輪になって
3人で輪になって何か話し込んでいる。3人のうち、1人は一目でヤクザとわかるオジサン。もう1人の姿はよく見えない。私は相手の力量を推し量りながら、冷静に世間話を続けている。相手のほうでも、おそらく私の力量を測っているのだろう。

【解説】 またしてもヤクザの登場である。ヤクザ/マフィア/スパイが登場する夢は、今月に入ってからナント3回目だ。これは一体どういう意味なのだろうか。『夢の事典』(日本文芸社)を調べたところ、ヤクザ/マフィアの意味は載っていなかったが、「スパイ」の意味は「スリルや変化を求める心の表われ」だそうである。



9日●3つの何か
私は3つの何かに関わっている。それが何なのかは全くわからない(夢の中ではわかっていたのかも知れないが、目が醒めたあとは微塵も思い出せない)。3つの何かは至るところにある。私は行く先々で3つの何かを目にする。これらは最も根源的な何かなのだと思う。

【解説】 夢の中では「3つの何か」が何であるかわかっていたと思うのだが、起床してみると全く思い出せない。しかし、登山では「三点確保」といって4本の手足のうち3本が固定されていれば滑落の危機はないとされるし、椅子も一般的には4本足より3本足のほうが安定が良い。三位一体という言葉もある。「3」はバランスの取れた縁起の良い数字だというイメージが私にはある。今夜の夢は「3」のバランス感覚がテーマだったような気がする。



10日●インド人から表彰される
私は誰かに表彰されている。どのような理由で表彰されているのかは謎だが、賞のプレゼンターはインド人だ。何人かの人が私の周辺にいる。彼らは秘書か編集者、あるいは警護の人かも知れない。次の場所へと自動車(?)で移動する道すがら、見知った顔を繰り返し見たような気がするが、それが誰であったかは思い出せない。

【解説】 現実世界でもつい昨日、インド国立文学アカデミーから公式招待を受けた。そのイメージが形を変えて今夜の夢には現われたものと思われる。



11日●小泉さんにTシャツを贈る
小泉純一郎前首相にTシャツを贈ることになった。プレゼンターは友人のTさんだ。Tさんと私はTシャツのデザインを相談し、何か文字を入れることにした(それがどんな文字であったかは残念ながら思い出せない)。階段の踊り場のような場所で、Tさんが小泉前首相にTシャツに贈っている。私は至近距離からそれを見ている。

【解説】 何やら意味のわからない夢。Tさんは私の友人(工学博士)だが、小泉前首相とは何の関係もない。小泉さんが登場した理由も同様に不明である。そう言えば今月は6日にも階段の踊り場らしき場所が夢に登場した。階段には上昇・下降の両方の意味合いがあるのだろうが、私が見た夢の中では2回とも、階段を登って行く途中の踊り場というイメージが強かった。これらの夢に登場した踊り場には、上昇してゆく過程での小休止の場所という意味があるのかも知れないと、ふと思った。



12日●伝説のお爺さんを探して
噂によれば、その人は考えうる限り最高に優しく、おっとりと柔和で、絵に描いたようにお爺さんらしいお爺さんなのだという。私はその“伝説のお爺さん”を探して遠い街へとやって来た。途中まで2〜3人の案内人がいたのだが、気がつくと私ひとりになっていた。表通りから左に折れて、未舗装のデコボコ道を歩いている。道の両側には大きな葉をつけた街路樹が生い茂り、南国らしいゆったりとした空気が流れている。ここはおそらくインドか中南米、あるいは東南アジアのどこかなのだと思う。お爺さんはこの街のどこかに住んでいる。その人の気配が既に感じられる。懐かしい想いが胸に満ちて来る。その人はおそらく、地上に残った最後のホンモノのお爺さんなのだ。

【解説】 柔らかな風が吹いてくるような、純粋で優しい夢だった。そう言えば最近の日本では、「お爺さんらしいお爺さん」をあまり見かけなくなったような気がする。単に私の偏見あるいは懐古趣味かも知れないが、昔の日本にはもっとお爺さんさんらしいお爺さんがいた気がしてならない(いわゆる「日本昔話」に出てくるようなお爺さんである)。もちろんこれはお爺さんに限ったことではなく、「お婆さん」についても同様の感想を否めない。最近の老人は概して子どもっぽく、人間的に熟成していない人が非常に多い気がする。情けない限りだ。血の繋がった祖父母が亡くなってから久しいが、私はときどき彼らの面影を想い出す。特に12年前に90歳で亡くなった母方の祖父のことを、今朝はとても懐かしく想い出した。なお『夢の事典』によれば、「老人」の意味は「智恵のシンボル」とのこと。



13日●ノートに挟んだ3枚の紙片
娘のLiAの姿が見える。旅・移動のイメージ。彼女は大学ノートのようなシンプルなノートを開いて、ページのあいだに3枚の白い紙片を挟み込んでいる。それはスーパーなどでもらうレシートのように見える小さな紙で、3枚のうちの2枚はほぼ重ねられ、もう1枚は数センチほど離れた場所に挟まれた。娘が何かを言った。内容は思い出せないが、それは彼女の人生観を表わした言葉だったと思う。娘の周囲には(私も含めて)3人の人間がいるようだが、それが誰なのかは全くの不明。

【解説】 今夜の夢でいちばん気になったのは、3枚の紙である。そこには何かが書いてあったのかも知れないが、むしろそれ以上に気になったのは、3枚の位置関係だ(2枚はほぼ重なり、残りの1枚だけが少し離れたところに在った)。この位置関係が何を意味するのかは不明だが、何故か気になる。あくまで直感に過ぎないが、3枚の紙は娘ではなく私自身に関係した何かのような気がする。ところで今月は8日・9日・今日と、既に3回も「数字の3」がキーワードとなる夢を見た。『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「数字の3」の意味は「創造性」だそうである。



14日●白くしなやかな手
色々な場所を旅している。ところが不思議なことに、私の視界に映るのは全体の風景ではなく、すぐ目の前にある白い手なのだ。それは私自身の手でないことは確かだが、と言って誰の手なのか見当もつかない。しなやかでシミひとつない女の手のように見えるが、あるいは美しい男の手かも知れない。手の向こう側に、風景の一部がちらっと見える。それらは、昭和初期を思わせる古めかしい階段だったり、緑色が目に眩しい草原だったり、異国の街中だったりする。それらの風景は「手」の背景としてぼんやり見えているだけで、ハッキリとした輪郭は最後まで見えないままなのだった。

【解説】 全編に「手」が出演するという、またまた意味不明な夢だった。最近、自分の周囲で「手」にまつわる特別な事件があった記憶はない。今夜の夢は一体何を言いたかったのだろう。また、あの白くしなやかで美しい手は誰のものなのだろう。少しだけ気になる。



15日●とても悲しい出来事
胸がつぶれそうなほど悲しい出来事が起こった。しかし、それが何だったのかは全く覚えていない。

【解説】 今夜はどんな夢を見ていたのか、途中経過を一切覚えていない。ハッキリしていることは、夢の最後に何かとてつもなく悲しい出来事(友人の死?)が起こって、そこまでのストーリーが吹き飛んでしまったということだ。悲しい出来事が何だったのか、具体的には欠片(かけら)も思い出せないのだが、目が醒めたとき、頭の中では何故か山下達郎さんの『クリスマス・イブ』がぐるぐる回っていた。



16日●人生における旅と旅の間の休憩時間
私は人生という名の長い旅をして来たらしい。ヨーロッパを思わせる風景を見たような気がするが、具体的な出来事は何も思い出せない。今、旅が終わろうとしている。あるいは、ようやく旅の第一部が終わって、今は第二部に移るまでの休憩時間なのかも知れない。落ち着いた感じのする建物に辿りついた(ここが休憩所なのだろう)。ここもやはりヨーロッパなのだと思う。私のほかにも数人の人がいるようだ。彼らからは、静かで熟成したバイブレーションが感じられる。私は静かだが圧倒的な幸福感で満たされている。そこへ友人のTさん(男性)がやって来た。Tさんは明日、アカデミックな講演会でスピーチをするらしい。そのスケジュールをTさんが発表すると、繊細な感じのする40歳前後の女性がスケジュールの詳細について何か質問をしてきた。いつの間にかアーティストの日比野克彦さんも目の前にいて、「それ、面白そうじゃない? 僕も行くことにするよ」と言いながらスケジュールをメモし始めた。自分の提案を認められて、Tさんは嬉しそうだ。それぞれに満足げな皆の姿を見て、いちばん喜んでいるのは私なのかも知れない。

【解説】 昨夜とは打って変わって、穏やかで幸福な夢だった。「熟成」「レベルアップ」「穏やかに過去から未来へとシフトする」イメージが感じられた。



17日●細くて長いものを持つ手
「細くて長いもの」を持つ白い手が、暗闇の中にぼーっと浮き出して見える。「細くて長いもの」は、蝋燭のようにもチャッカマン(先端の部分が長いライター)のようにも見える。それは私自身の手ではなく、おそらく過去に存在した誰かの手、あるいは私を慕う誰かの手なのだと思う。

【解説】 今夜の夢にはもう少し長いストーリーがあったような気がするのだが、何故か「細くて長いものを持つ手」の場面しか思い出せない。今月は14日にも、白くしなやかな手が登場する夢を見た。人間全体ではなく「手」だけが登場するとは、いささかフェティッシュで異様な気がするが、私自身は「手」というものに特に関心もないし、もちろん「手フェチ」でもない(笑)。『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「手」の意味は「生き方/考え方を表わす」とのことである。そのうち「右手」は「能動的な面/未来」、「左手」は「受動的な面/過去」を表わすとのことだが、夢の中に登場した手が右手であったか左手であったかは思い出せない。また「蝋燭」は「生命力/寿命」を意味するとのことである(「ライター」の意味は不明)。



18日●「真美さんの夢を見ました」
暗闇の中から友達の声がして、「今、真美さんの夢を見ましたよ」と告げられる。「どんな夢だったのですか」と問うと、声の主は自分が見た夢の内容を教えてくれた。それは、「真美さんが○○へ行きました」とか「真美さんと一緒に○○へ行きました」というような内容の夢だったと思うのだが、残念ながら目が醒めると同時に内容を忘れてしまった。

【解説】 友達から「真美さんの夢を見ましたよ」と告げられる夢。夢の中でさらに夢を見ているような、少し不思議な心象の残る今夜の夢だった。



19日●懐かしい部屋を揺らしスローモーションで吹く風
気がつくと私は見知らぬ部屋の中に立っていた。見知らぬ部屋でありながら、私はこの場所を知悉している。ヨーロッパの古いアパート。3つに分かれた部屋。右奥の部屋はベッドルームで、木製の大きなベッドが見える。左奥の部屋に何があるのかはハッキリ見えないが、そこには恋人がいるのかも知れない。正面は「水」に関係のある部屋で、アンティークショップでしか見たことがないような古い陶器のシンクやバスタブ、地味だが品の良いキッチンウェアなどが見える。部屋の中で何よりも印象的なのはカーテンだ。特に目立つところのない、薄い色のついた無地(あるいは限りなく無地に近い)カーテンが、優雅に揺れているのが最初から目を引く。その揺れが、揺り籠のように私の記憶をくすぐっている。私はずっと昔にも、ここへ来たことがあるようだ。しかしそれがいつのことなのか、そのとき私が誰だったのかはまるでわからない。“懐かしい”という感情が、やわらかな風のように吹いている。その風はスローモーションでカーテンを揺らし、家具を揺らし、部屋の中にある全てのものを揺らしてゆく。すべての動きがゆるやかで、このまま時間が止まってしまいそうだ。永遠の記憶。その中で記憶の一部となって風化してゆく私。

【解説】 現世とは別の時間の経ち方をする場所へ行ってきたような気持ちのする夢だった。今夜の夢では何と言っても「ゆっくりと吹く風」が印象的だったので、早速『夢の事典』(日本文芸社)で調べてみたところ、「風」の意味は「精神的/霊的なもの/魂/息吹のシンボル」となっていて、その中で「心地よいそよ風」の意味は「物事はスムーズに運び、満足感や開放感が得られる暗示」とのことである。心身共にとても癒される夢だった。



20日●電気大学の学生証
私はヨーロッパのどこかへ行くことになったらしい。航空券を買うために(?)学生証が必要になったので、自分の学生証を取り出してみた。すると驚いたことに、大学の名前が「○○電気大学」となっていたではないか。(あれ? 私って電気の勉強をしていたんだっけ?)と思ったところで目が醒めた。

【解説】 娘のLiAが6月までスウェーデンに暮らしているので、彼女がいるあいだに同国へ遊びに行こうと思っている。昨夜は就寝前に娘からメールが届き、そこには「スウェーデンに来るなら、年齢上限なしの学生用格安チケットがあるからこれを買ったら?」と書いてあった。そのメールを見てようやく、自分が学割を使える身分であることを思い出した私は、学割でヨーロッパへ行くことを本気で検討してみたのだった(注/現在、私は高野山大学大学院の学生です)。そのことが早速夢になって現われたものと思われるが、それにしても何故「電気大学」なのだろう(電気は私が不得意とする分野です)。意味がわからない。ちなみに、現在15歳になる息子のNASAが生まれて初めて発した言葉は「電気」だった。



21日●○○を△△に取り替える
広々としたホールのような場所。階段の踊り場(?)で、見知らぬ女性が私を呼んでいる。女性は金髪または亜麻色の髪をアップ(またはポニーテール)に結った35歳前後の白人だ。とても感じのいい人で、秘書かコーディネーターといった“人と人とのコミュニケーション”を司る仕事をしているようだ。微笑を浮かべながら彼女は私に向かって「○○を△△に取り替えましょう」と提案した。私は明るい気持ちで、これから始まる大きな仕事に向かって進もうとしている。

【解説】 体感時間にして1秒ほどの夢。ほとんど額に入った絵画のように動きのない夢なのだが、その中で白人の女性が何かを取替えることを提案してきたのが印象に残っている。それは「物々交換」ではなく「人と人の交換あるいは配置換え」の提案だったような気がする。私と誰かのポジションを替えるということだったかも知れない。そしてそれは私にとってラッキーな配置換えだったようだ。その証拠に、夢の中の私はとても明るい気持ちを持続させていた。



22日●右手を挙げて私を呼ぶ人
広い場所。おそらくヨーロッパのどこか。大勢の人々が集っている。誰かが右手を高く挙げて、私を呼んでいる。その人は、おそらく男性で、シェイクスピア劇で使われるような鮮やかなブルーのビロードの上着をまとい、襟元からは白いフリルのブラウスが見えていたような気がするが、定かではない。そのあと何か大きな仕事のオファーがあったような気がするのだが、その詳細も思い出せない。

【解説】 今夜の夢には、本当は長いストーリーがあったのだと思う。しかし目が醒めてから思い出せるのは、広い場所に大勢の人が集まったこの場面だけだ。右手を高く挙げて私を呼んでいた人の姿が、何故かひどく印象的だった。



23日●……

【解説】 今夜、夢を見たことは間違いないのだが、どのような内容であったかどうしても思い出せない。



24日●「ただいま」と帰って来る君
懐かしい感じのするアパート。私はキッチンで夕食の準備をしている。今日のメニューは鴨鍋らしい。ネギを刻む手元が見える。足元には緑色のカーペット。すぐ近くにベビーベッドが見える。じゃれ合っている犬と猫。ドアの内側に事故防止柵が設置されているのは、犬や猫が逃げ出さないための手段かも知れないし、赤ちゃんが外へ出て行ってしまわないためのアイデアかも知れない。ドアが開き、「ただいま」と帰って来る人の声がした。私は「お帰りなさい」と小走りにドアのほうへ近づいて行く。

【解説】 生活感が漂う、まるで実際にその場へ行ってきたような臨場感に溢れた夢だった。緑色のカーペットと鴨鍋がリアルに印象に残っている。



25日●大勢の人々が“何か”をリレーする
広がりのある空間。階段の踊り場のような気がするが定かではない。色々な肌の色をした男女が入り乱れて立っている。彼らはランダムに存在しているように見えて、実はある一定の順番で並んでいるのだ。人種の坩堝(るつぼ)のように髪の色も肌の色も異なる彼らには、実は共通点がある。それは、全員が30代〜40代の働き盛りであるということと、彼らが1人残らず私のほうを向いて立ち、何かをリレーしているということだ。彼らがリレーしているものが何であるかは不明だが、彼らは一刻も早く“何か”を私に手渡そうとして、真剣な眼差しで作業に没頭している。

【解説】 今夜の夢の中で、人々は何をリレーしていたのだろう。それが何であるか、夢の中では一瞬たりとも見えなかったのだが、もしかしたらそれは「運命」とか「時の運」といった、目には見えない何かだったのではないかとふと思った。それにしても今月は6日、11日、21日、そして今日と、実に4回も“階段の踊り場”が夢に登場している。踊り場とは、階段と階段の間にある平坦な場所で、そこは一休みする場所であると同時に、文字どおり“踊るための場所”でもあるようだ。現実世界で今、私は人生という名の階段と階段の間の踊り場に立っているのかも知れない。そう言えば以前、尊敬する某先生から、「踊り場にいるときは遠慮せずに徹底的に踊ったほうがいい」と言われたことがある。今夜の夢を見て、先生のその言葉を思い出した私である。



26日●……
【解説】 23日に引き続き、今夜も見た夢の内容を忘れてしまった。1週間に2度まで夢の内容を忘れるという事態は、私としては極めて珍しい。どうしたことか。



27日●臨月
私は赤ちゃんを身篭っている。既にかなり腹部が大きい。この感じは臨月の終わりだろうか。素朴で心が落ち着く場所。見覚えのない、自然に恵まれた田舎町。心地良い風に吹かれて立っている私。場面が変わって、私は産まれたばかりの赤ちゃんを抱いていた。とても健康な男の子だ。希望。未来。幸福な気持ち。

【解説】 臨月から赤ちゃんの誕生へと続く夢なのだが、肝心の出産の場面はどこにもなかった気がする。全体に穏やかで、「自然」「心地の良さ」「健康」といったプラスのイメージに溢れた夢だった。なお『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「自分が妊娠する夢」の意味は「才能が開花する/行動力や判断力が高まる」、「臨月」の意味は「今まで頑張ってきたことが実を結ぶ知らせ」とのことである。



28日●新宿の高層ビルで大火災
気がつくと、私は夜景を眺めていた。視線の先には高層ビル群が見える。どうやらそこは新宿のようだ。私がいる場所から新宿までは、数キロの距離がある。高層ビルのうちのひとつで大火災が発生し、恐ろしい勢いでオレンジ色の炎を噴き上げ始めた。それは少し変わったデザインのビルで、頂上部分がとんがり帽子のような円錐形になっている。噴き上げる炎の勢いで、円錐形の部分はまるで料理中の鍋の蓋のように何度も持ち上げられている。私は遠くからその様子を静かに傍観している。

【解説】 大火災を静かに傍観している夢。オレンジ色の凄まじい炎が印象的だった。『夢の事典』によれば「火事」の意味は「再出発/再生」で、火の勢いが強いほど大きな幸運を象徴しているとのこと。「オレンジ色」の意味は「豊かな生命力/充実したエネルギー/希望/目覚め」だそうだ。



29日●女優さんとお花見
友達で女優の蜷川有紀さんとふたりでお花見をしている。暗闇の中に夜桜が浮かんで見える。有紀さんの笑顔。私たちは恋の話をしていたような気がする。

【解説】 現実世界でも、週末に有紀さんとのお花見を計画している。その気持ちが夢で先行したのだろうか。なお、今夜の夢を見て初めて気づいたのだが、有紀さんと現実世界で恋の話をしたことは一度もないような気がする。今度ゆっくりしてみよう。



30日●高野山で編集者と打ち合わせ
A出版社の担当編集者であるMさんと向き合って座り、原稿についての打ち合わせをしている。打ち合わせの場所は都内ではなく、何故か高野山だ。Mさんの肩越しには春萌えの山々が見えている。お香が焚き染められた好い匂いもしている。私はこのあと奥の院で行なわれる特別な儀式に出席するらしい。

【解説】 春の山の色合いやお香の匂いなど、五感に訴えてくる印象が強く残る美しい夢だった。ちなみに編集者のMさんは、実際に高野山育ちである。



31日●2500年前の偉人が左脇腹から入る
今年は或る偉人が生まれた年から数えてちょうど2500年目に当たり、しかも今日は「その当日」なのだという。なるほどそうかと納得していると、不意に私の左の脇腹から光のようなものが中へ入って行った。その光景を私は少し眩しい想いで見ている。

【解説】 マーヤ夫人(お釈迦様のご母堂)は夢の中で白い象が腹部に入る夢を見て懐妊したというが、今夜の夢はそのエピソードを髣髴させるような不可思議な印象に溢れていたように思う。そう言えば今月は27日にも臨月を迎える夢を見た。2度も続けて“身籠る夢”を見るとは全く面妖である。





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