2008年4月

1日●ベルトがない
講演を頼まれ、指定された場所に行ってみると、そこは格調高い日本旅館だった。玄関を入ってすぐの一段高くなったところにY子さんが立っており、私の腰のあたりを指差しながらいきなり「ベルトを忘れてるよ」と言った。私はこのとき、バルーンのような形のミニワンピースを着ていたのだが、それは仮の衣装で、これから部屋を借りて然るべきスーツに着替えようと思っているのだ。そのことをY子さんに告げようとしている。そのあと夢がどうなったのかは思い出せない。

【解説】 Y子さんは高校時代の親友で、現在は高校の英語科教諭をしている。先日、上田市で開催した講演会にもわざわざ花束を持って聴講に来てくれるなど、とても気の利く彼女である。夢の中でベルトをしていなかったことが何を意味するのかは不明だが、Y子さんがそれをいち早く気づいて指摘してくれたのは友情の表われだろうか、それとも……?



2日●ダライ・ラマ法王と歩く道
ヒマラヤの道なき道を、ダライ・ラマ法王と連れだって歩いている。法王は私の右側を歩きながら、終始、真剣な表情で何かを訴えるように話しておられる。私は一言も聞き逃すまいと、耳を欹(そばだ)てながら歩いている。足もとでは、猫じゃらしのような草がくすぐったく揺れている。

【解説】 先月から中国軍によるチベット人への弾圧問題が世界的に取り沙汰されている。このところ、私は法王の夢をよく見る。夢の中ではいつも色々なお話を聞かせてもらっているのだが、目が醒めると内容を思いだせない。残念なことだ。



3日●男性用整髪剤を使う
これから外出する予定があるというのに、うまく髪がまとまらない。困っていると、目の前に男性用の整髪剤が置いてあるのが見えた。背に腹は代えられないと思い、それを少し拝借して髪に付けたところ、途端にムッとする嫌なニオイが鼻をついた。とんでもなく癖のある香料だ。しかし髪は非常にうまくスタイリングできた。形を取るべきかニオイを取るべきか、一瞬だけ迷ったものの、もう出かけなくてはアポの時刻に間に合わない。私は臭い整髪剤を付けたまま外出しようとしている。

【解説】 夢の中だというのに、整髪剤の嫌なニオイがまるで現実の出来事のようにハッキリと鼻をついた。寝室にはその手の化粧品を一切置いていないのだが、あれは一体何のニオイだったのか。



4日●Who are you?
場所がどこかは不明。周囲に大勢の人の気配がしたので、パーティー会場だろうか。向こうから誰かが近づいて来た(男性だったか女性だったか、夢の中ではわかっていたのだが目が醒めてみると思い出せない)。見覚えがあるような無いような、微妙な印象の顔だ。(この人、誰だっけ?)と記憶を手繰りながら名刺を渡そうとした瞬間、先方から「真美さん、お久しぶりです」と先に言われてしまった。少しばかり気まずい雰囲気。先方は(やっぱり私のことなんか覚えていませんよね)とでも言いたげな目で、半分笑いながら黙っている。どうやら、私が相手を思い出せず困惑している顔を見て楽しんでいるようなのだ。私は心の中で(Who are you?)と呟いている。

【解説】 私は人の顔や名前を忘れる天才だ。パーティーなどで逢った人に「はじめまして」と名刺を差し出し、「あなたの名刺、もう持ってますよ」と言われたことも1度や2度ではない。某新聞社のデスクに2枚どころか3枚目の名刺を渡してしまい、それが原因で何年か仕事を貰えなくなったことさえある(大汗)。しかし、この物忘れ、最近ボケてきたわけではなく(笑)、何を隠そう20代の頃からずっとこの調子なのである。親しい人たちは、「あなたは毎日驚くほど大勢の人に逢っているのだから、忘れて当然よ」「印象の強い人しか覚えられないよね〜」などと慰めてくれる。しかし、この物忘れは本当に困る。今夜は夢の中でその苦悩を味わっていたが……あれは一体どこの誰だったんだ?!



5日●4つの椅子
目の前に4つの椅子が置かれている。4つのうち3つは似たような形の色違いの椅子で、残る1つは明らかにデザインが異なるゴージャスな椅子だ。4つの椅子はすべて私の所有物らしい。(これでまた忙しくなるな)と私は思っている。

【解説】 目が醒めてすぐに思ったのは、4つの椅子が社会的なポジションを意味していたのではないかということだ。私は大学生の頃から複数の(しかも一見まったく異なる種類の)仕事を抱えており、2足どころか4足、5足、或いはそれ以上のわらじを常に履いて今日まで生きてきた。運命と呼ぶべきか、そういう星のもとに生まれて来た人なのだ私は。今夜の夢に現われた椅子は、おそらく近未来に就くであろう新しい仕事/任務を意味していたのだと思う。頑張ります(笑)。



6日●ネクタイからクルトンの粉
Yさんのネクタイが曲がっていたので直してあげようと手をかけたところ、細かいクルトンのカスのようなものが10〜20粒、ポロポロとこぼれ落ちた。朝食のスープかサラダに入れた残りだろう。私は軽くネクタイのゴミを払い、歪みを直してあげた。

【解説】 非常に短い夢。この前後にもストーリーがあったのかも知れないが、覚えていない。Yさんは現実世界での友達。『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「ネクタイ」の意味は「企業社会の一員としての役割/世間体/束縛/帰属」とのことである。夢の中の私はYさんのネクタイの歪みを直し、汚れを取ってあげていたのだから、現実世界でもYさんの社会的な部分を何らかの形でサポートすることになるのかも知れない。



7日●210円の上着を学年一の美女に着せる
見覚えのない建物。中学か高校の校舎らしい。私は教室にいて、手には新品のブレザーとスカートを持っている。どうやらこのブレザーは210円で購入したものらしい。スカートの値段はわからないが、やはり驚くほどの格安商品だったようだ。ところどころに青色がポイント使いされた、上品な灰色の制服上下だ。K子がおどけたように笑いながら、「その洋服、私にもちょうだい!」と叫んでいる。私は“学年一の美女”の誉れ高きTのところへ行き、「これ、着てみてくれない?」と頼んでいた。Tは最初、少し嫌そうな顔をしたのだが、結局は私の依頼に応じることにしたようで、一緒に歩きだした。私とTは(着替えのために)体育館の隅にあるストアルームに入ろうとしている。周囲では大勢の生徒たちが楽しそうにバスケットボールに興じている。ここで目覚まし時計が鳴り、夢はいきなり終了してしまった。

【解説】 昨夜は友人が「倒産品のコートを980円で買った」と言って喜んでいた。そのイメージが今夜の夢の原因だと思われる。K子は高校時代のクラスメート。K子とは些細な誤解がもとで喧嘩をしたことがあるのだが、その後は誤解が解けて正常な関係に戻った。しかしその出来事は、その後も長く私の心に影を落としていた(そもそも、K子との喧嘩の原因は或る人を庇うためだったのだが、気づいたときには何故か私一人が悪者にされていたのだ)。そのときのことを思い出すと、今でも空しい気持ちが蘇る。今夜の夢に何故K子が登場したのかは謎。Tは中学・高校時代の友人。当時は勿論、今も非常に綺麗な人である。彼女にブレザーを着せようとした理由はわからない。



8日●犬たちに無視される
広々とした庭。飼い犬のブースケ(シーズー)とパンダ(チン)が、大型犬(セントバーナード?)と中型犬(柴犬またはそれに類似した日本犬?)と一緒に歩いている。ブースケとパンダは、いつの間に大きな犬たちと行動を共にするようになったのだろう。4匹は常に団体行動をしているようで、一時たりとも離れようとしない。今までならば私の姿を見れば即座に飛びついて来たブースケとパンダが、こちらを一瞥しただけで興味がなさそうにプイと向こうを向いてしまった。無視された私は、(ブースケの身に何が起こったのろう)と不審に思っている。

【解説】 今夜の夢は前後にもストーリーがあったように思うのだが、残念ながらこの部分しか思い出せない。



9日●燃えるX国大使館
何か用事があってX国の駐日大使館へ行ったところ、一体いつ変わったのか、大使も公使も一等書記官もひとり残らず新しいメンバーになっていた。知らない顔ぶれを前にして私は、(この数日間のうちに全員配置換えになったらしいが、何故だろう)と不審に思っている。狭い応接室に通された私は、ソファに座った。右斜め前の長椅子には大使・公使・一等書記官ら総勢5〜6人の外交官が並んで座っている。ふと窓越しに奥の部屋を見ると、壁に掛かっていた上着と帽子から急に出火して、メラメラと燃え出したではないか。私はあわてて"Fire!"(火事です!)と叫んだ。しかし大使らにはその声が聞こえないようで、無反応である。私は焦ってさらに大きな声で"The next room is on fire!"(隣の部屋が火事です!)と叫んだ。にもかかわらず、大使らは首をかしげるばかり。その間も炎は燃え盛り、隣の部屋は既に火の海である。私はありったけの声で"Fire ! Fire! Fire!"と叫び続けた。するとようやく大使が隣室の惨事に気づき、"Shit!"(くそっ!)と罵りながら飛び上がった。炎は今にもこちらの部屋まで燃え移って来そうだ。私はこの場所から退避すべくドアを開けた。すると事務員の女性が私のコートを持って来て、長々と挨拶を始めたではないか。この非常時に冗長な挨拶を始めるとは、なんという非常識な事務員か。私は彼女の手からコートをもぎ取って外に出た。そこで何か非常に印象的な出来事があったような気がするのだが、その部分はどうしても思い出せない。

【解説】 X国の大使館には何度かお邪魔したことがあるが、夢に登場した風景は現実とはまるで違っていた。『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「火事の夢」の意味は「再出発/再生」で、炎が大きければ大きいほど幸運の象徴だそうである。



10日●海難事故
最初に海難事故で2〜3人のオトナが死んだような気がする。そのあと、お世辞にも美人とは言えない2〜3人の中年女性を見かけたのだが、彼女らが何者だったのかは謎。次に気がついたとき、私は大きな船を操縦していた。船には何の装飾もなく、ひどく殺風景だ。広い船内には、見る限り私の他には3人の人間がいるだけ。ひとりは安達祐実さんに似た大きな瞳の美少女。もうひとりは少女の幼い妹で、年齢は3歳ぐらい。最後のひとりは成人男性だったと思うのだが、彼の姿はよく覚えていない。少女と妹は連れだって甲板やデッキや階段を歩き回っている。その様子を私はモニター越しに観察している。甲板もデッキも階段も金属で出来ており、船体は水しぶきで濡れてひどく滑りやすそうだ。船が左右に揺れるので、幼い女の子が滑って転ばないかと心配でならないのだが、何か規則があって、私は自分の持ち場を一刻たりとも離れられないのだ。そのうちに、心配していたことが現実になってしまった。幼い女の子が濡れた甲板で足を滑らせ、そのまま海に落ちたのだ。姉はすぐさま足から海に飛び込み、できるだけ深く潜って妹を探そうと試みた。が、すぐに呼吸が苦しくなって水面に戻って来てしまった。少女はもう一度深く息を吸いこんで海に潜った。先刻と同じように、足を下にしてそのまま落下してゆくような奇妙な潜り方だ。ぴったり閉じた2本の細い脚は、下に向かってまっすぐ伸びている。少女は水を吸い込まないように手で鼻をつまみ、目だけを大きく見開いて足から深海に潜ってゆく。その一部始終を、私は海中カメラから送られてくる映像で確かめている。再び息を吸い込むために水面に戻った少女は、3度目の潜水を開始した。しかし妹が海に落ちてから既に数分が経過している。私は彼女の死を感じ、心の底から(海が怖い)と思った。

【解説】 拙著『死との対話』のあとがきに書いたのでご存知の方もおられると思うが、私は2002年に海で溺れ、死にかかっている。それ以来、私は潜在的に海が怖い。普段は忘れていても、ふとした拍子にその恐怖がじんわりと蘇る瞬間がある。今夜の夢は真綿で首を絞められるような恐怖を感じる夢だった。



11日●……
【解説】 今夜は何か華やかな感じのする、いわゆる“夢見のいい夢”を見たのだが、起床してみると「素敵な夢を見た」という印象しか残っていない。残念である。



12日●ヒマラヤの麦こがし
私は大勢の有志とともに“炊き出し”をしている。チベットで兵糧攻めに遭っている僧侶たちに差し入れるためだ。誰かが「麦こがしを持って行こう」と言いだした。それは良いアイデアだと思い、私たちはヒマラヤの麦こがしを作ってお寺へ運ぶことにした。

【解説】 麦こがしは大麦を炒って粉状にしたお菓子。ヒマラヤで似たようなお菓子を食べたことがある。チベット寺院でも、麦こがしとよく似た食べ物を常食していたように記憶している。兵糧攻めに遭っているお坊さんたちは無事だろうか。とても心配だ。



13日●壊れかかった家の柱
4〜5軒の家が見える。いずれも同じ総2階建ての、白い立派なお屋敷だ。高台のようなところに建っているのか、ある家は少し高い所に、またある家は低い所に立地している。そのなかの1軒の家だけ、1階の柱部分が壊れかかっている。私は少し離れた場所からそれを眺めながら、(あの家はもう崩壊寸前だな)と思っている。

【解説】 “崩壊寸前”の家は、誰の家だったのだろう。私は傍観者のような目でそれを見ていたが、あれは一体どこだったのか。非常に短い夢だったので、周囲の様子などを見ている暇はなかったのだが……。



14日●チベット語の添削
チベット語の文章がたくさん書かれた書類の束が見える。私はそれらに目を通して、文章の間違いなどをチェックしている。

【解説】 現実の私のチベット語は初心者レベルなのだが、夢の中では完全なエキスパートになっていた。私は時々、現実にはあまり知らない言語のエキスパートになっている夢を見ることがある。不思議なことに、夢の中では本当に文章を読みこなし、書きこなし、流暢に喋ることさえできるのである。何故、現実ではさほど知らない言葉を夢の中では自由自在に使いこなせるのか、そのメカニズムをぜひとも知りたい。



15日●赤地に白い水玉模様の布
赤地に白い水玉模様(またはハート柄?)が印刷された細長い布が見える。ちょうど手ぬぐい程度の大きさで、豆絞りの手ぬぐいにも似ている。私はアラファト議長が生前かぶっていたケフィエを思い出している。

【解説】 今夜の夢には何かもう少し具体的なストーリーがあったと思うのだが、思い出せるのはこの布だけ。現実世界では最近、アラブ諸国の大使館と交流がある。最後に故アラファト議長を思い出したのはそのためかも知れない。



16日●日傘の女性
気がつくと前方から、見知らぬ女性がうつむき気味に歩いて来た。昭和50年代を思わせるクリーム色のレトロなワンピース。白っぽい日傘を差していたような気がする。髪は肩にかかる程度のセミロングで、優しくカールしている。年齢は30代後半だろうか。女性と私はお互いの右肩をかわす感じで通り過ぎた。その瞬間、実際には何も見えていないにもかかわらず、彼女が花と水桶を持っているような気がした私は、(ここは霊園へと通じる道かも知れない)と思っている。

【解説】 見知らぬ女性でありながら、「昭和の残像」のような、どこか懐かしい雰囲気の残る夢だった。



17日●少し足りない
目の前に白い短冊のようなものが何枚もあって、それぞれに文章が書いてある。それらは、「少し足りない」、「もう少しで○○できる」(○○の部分に入っていた単語は忘却)など、少しだけネガティブな内容のものばかりだ。私はそれら一部始終に目を通しながら、(これらは日本の現状を現わした文章に違いない)と思っている。

【解説】 最近、日本は元気がない。私はそれをとても心配している。今夜の夢には「少し足りない」という言葉が登場した。(何が足りないのか、どうしたらそれを手に入れることが出来るのか、それを考えることが大切だ)と、夢から醒めてから思った。



18日●……

【解説】 今日も間違いなく夢を見たのだが、朝の早い時刻に目覚まし時計のけたたましい音で起床した瞬間、残念ながら夢の内容をすっかり忘れてしまった。目覚まし時計の音……あれは身体に悪いような気がする。



19日●ピンクと黄色の手ぬぐい
手ぬぐいが2枚、並んで縦に吊るされている。1枚はピンク。もう1枚は黄色。どちらの手ぬぐいにも、水玉模様かそれに類似した小さな連続する模様が描かれている。私は心の中で(私がこの2色を選んだことを、皆は意外だと言って驚くに違いない)と思い、ほくそ笑んでいる。

【解説】 15日に引き続き、またしても手ぬぐいの夢である。現実世界での私は手ぬぐいを使わない。一体この夢にはどんな意味があるのだろうかと気になり『夢の事典』で調べたが、残念ながら「手ぬぐい」の項目はなかった。


20日●同じオレンジ色の服を着た女性
前後関係はわからないが、私は家族と一緒に道を歩いているらしい。ふと、目の前をひとりの女性が通りかかった。彼女の服装は、オレンジ色のトップスと、薄いグレーのロングスカート。頭の上にはつばの広いグレーのハット。上から下まで、私が着ているものと全く同じだ。子どもたちが「マミリンと同じだね」と言いながら楽しそうに笑っている。つられて私も笑っている。

【解説】 このあと何か別のことが起こったような気がするが、覚えていない。余談ながら、私は最近よくオレンジ色の服を着る。以前は寒色を好んでいたのだが、どうやら好みが変わってきたようだ。着物を着るようになって、苦手だったピンクも抵抗なく着られるようになったし、大嫌いだった茶色も着るようになった。「人間は変わることのできる生き物なのだな」と実感する。



21日●髪の長い女性
夢の画面の左端のほうに、髪の長い女性が映っている。ピンク色。素朴な花が何百本も揺れているイメージ。

【解説】 今夜の夢にはもっとストーリーがあったように思うのだが、具体的なことは何一つ思い出せない。夢に登場した女性はおそらく16日の夢に登場した「日傘の女性」と同一人物ではないかと思うのだが、彼女が誰なのかは全くわからない。



22日●明日と明後日
すぐ目の前に、ひとりの見知らぬ若い女性がいる。私たちの間にはスチール製の冷たいデスクがあったようだから、ここは役所のようなところなのかも知れない。彼女は何かを再確認するような口調で、「それじゃ山田さん、明日と明後日は大丈夫なんですね?」と言いながら、右手を私の方へ差し出した。その指を見ながら、(異様に長い指だな)と思ったところで目が醒めた。

【解説】 これも意味不明な夢。女性には見覚えがなく、この夢を見た日の翌日(明日)と翌々日(明後日)に何か特別な予定があるわけでもない。「長い指」にも思い当たる節はない。



23日●1,980=980
気がつくとお店のような場所にいた。店員いわく、ここにある1,980円の品物は、実は980円の品物と等価であるという。数学者らしき男があらわれて、「つまり1,980=980なのです」と言い、さまざまな数式を用いて「1,980=980」を証明して見せた。

【解説】 何のことやら意味のわからない夢。ちなみに、「1,980」「980」という数にも思い当たる節はない。



24日●旅館の女将と教育問題を語る
何かの仕事で、日本国内の旅館に逗留している。それは初めて行く旅館で、昭和30年代を髣髴とさせるたたずまいだ。私はここの女将と親しげに話をしている。女将は年の頃なら50代中頃。着物姿だが化粧気はなく、美人ではないが真面目そうな人だ。彼女が言うには、この旅館には受験対策の勉強のために中学生の団体客が泊まりに来るのだそうだ。今も廊下には制服を着た数十人の中学生の姿が見えている。私は女将と暫く教育問題について話をした。旅館に逗留したのは数日間で、そのあいだに私は何度か仕事で外出をした(但しそれがどのような仕事だったかは覚えていない)。娘と一緒に犬の散歩をしたような気もする(愛犬のパンダを抱っこして歩いた光景を少し覚えている)。宿からチェックアウトする日の朝、帳場の近くを通りかかると女将と目が合った。女将は少し潤んだ瞳で、「お蔭さまで、うちに泊まりに来ていた子たちが1位になりましたよ」と言った。そう言えば今朝の新聞に、全国規模で行なわれた学科試験でここで合宿をしていた中学生が1位になったと書かれていたような気がする。私は女将に「おめでとう。あの子たちが優勝できた一因は女将さんの気遣いが良かったからね」と言って女将の労をねぎらった。女将は小さくうなずいて目をしばたいている。このあとすぐ、私は旅館をチェックアウトしたようだ。

【解説】 夢から醒めてすぐに思ったのは(何かを示唆するような妙な夢だったな)ということだ。気になったのは「女将」の存在である。早速『夢の事典』(日本文芸社)で調べたが、残念ながら「女将」の項目はなかった。次に「旅館に宿泊する」意味を調べると、「現実でも休養が必要なしるし/ゲストとして丁重に扱われたい気持ちのあらわれ」、「旅館をチェックアウトする」意味は「十分に充電が出来た証拠」だそうである。



25●オーストラリアの危険な交差点
すぐ目の前に大きな十字路があって、私は道の向こう側へ渡ろうとしている。あたりに人影はない。街の様子からして、どうやらここはオーストラリアらしい。いつの間に私は日本から離れたのだろう。白日夢を見ているようだ。誰かが耳もとで「この交差点は要注意ですよ。赤信号で人が渡っていると、容赦なく自動車が突っ込んできてそのままあの世行きですから」と言った。いつからオーストラリアはそんな国になってしまったのだろう。昔はもっと穏やかで優しい国だったが。信号が青になり、私は道を渡り始めたのだが、その瞬間、何故か急に足取りが重くなって思ったように先へ進めなくなってしまった。必死で歩く努力も空しく、交差点の真ん中に辿り着いたとき、信号は早くも赤に変わってしまっていたではないか。まるで鉄靴を履いているように足取りが重い。反対側の信号が青に変わり、大きな四輪駆動車が数台、猛烈な勢いで走って来た。取り残された歩行者など歯牙にもかけていない様子だ。私は重い足を動かし、車に轢かれないように注意しながらどうにか向こう側にたどり着くことが出来た。
【解説】 昨夜と同様、どこか意味深長な夢だった。今夜の夢は、あるいは昨夜の夢からの続きなのではないかという気がする。『夢の事典』によれば、「十字路(交差点)」の意味は「人生の岐路に立っているしるし/判断を誤ると思わぬアクシデントの恐れ」。「十字路(交差点)を渡る」の意味は「迷いが吹っ切れた証拠。一度、渡ったのに引き返すのは過去を振り返ったり後悔している証拠」とのこと。なんとも意味深長な夢のお告げだ。


26日●銃殺される宇宙飛行士
今しもロケットの打ち上げが始まろうとしている。私は3人いる宇宙飛行士のうちの1人らしい。自分はロケットの内部にいるはずだが、視界には何故か外から見た打ち上げ基地の全景が映っている。私たち3人は大地と垂直に設置された椅子に座り、打ち上げの時を待っている。気がつくと打ち上げは成功し、私達は無事に大気圏外に出たようだ。ロケット内の会議室へと移動して他の2人と静かに何か話していると、突然ドアが開き、大きな銃を抱えた2人ないし3人の賊が踏み込んで来た。と思う間もなく、私達はあっと言う間に銃殺されてしまった。場面が変わり、地上では1人の白人男性が膝を抱えて床の上に座り、泣いている。彼は銃撃されて死んだ女性宇宙飛行士の恋人らしい。殺された女性も白人で、亜麻色の髪を肩まで垂らしたチャーミングな人だったようだ。私は何故か彼女のからだの中に入り込み、彼女の視線から恋人を見ているのだ。「実は私、死んではいないのよ」。私は“声”ではなく“意識”で彼にそう告げた。床にうずくまっていた男は驚きと嬉しさが相半ばする表情で、私(つまり白人女性)を見上げた。再び場面が変わり、地上のどこか。周囲には仲間がいるようだが顔は見えない。自分が何者なのかも全くわからない。不意に賊が現われて、私達はいきなり銃撃された。私は脚のすねを撃たれて倒れこんだ。不思議に痛みはなく、しかも今度もまた私は誰かの中に入っているのか、自分ではない何者かなのだった。

【解説】 他者の肉体の中に意識だけが入り込み、銃で撃たれるという衝撃的な夢。とても怖い夢のはずなのに、落ち着き払った精神状態で事件を客観的に眺めていたのも不思議なことだ。



27日●賊に脚を撃たれる
見覚えのない場所。周囲には仲間がいるようだが、私からは何故か彼らの顔が見えない。自分が何者なのかもわからない。不意に賊が現われて、私達はいきなり銃撃されてしまった。私は脚のすねを撃たれて倒れこんだ。しかし不思議に痛みはない。どうやら私の精神は誰か他人の身体に乗り移っているらしい。つまりこの身体は他者の肉体なので、私は痛みを感じられないのだ。銃撃のあと何が起こったのかはよく覚えていない。

【解説】 昨夜と同じく、他者の肉体の中に自分の精神が入り込んでしまうというおかしな夢。今夜もいきなり敵の銃弾を浴びるという危険なストーリー展開だったにもかかわらず、精神状態は極めて淡々としていた。おかしなことだ。


28日●被災者となって大部屋に寝泊まりする
気がつくと、非常に大きな体育館のようなところにいた。あまりに広いため、いちばん端のほうはぼんやりと霞がかかって見える。私はここで家族と一緒に暮らしているらしい。室内には何百人もの老若男女が泊っていて、彼らは全員が何かの災害の被災者なのだ。しかしいわゆる緊張感は少しもなく、私達はここで淡々と平和に生活をしているようだ。隣の住人との間にも十分なスペースがあって、互いが干渉し合うこともない。今はちょうど家族が出かけて留守なので、私は床に敷きっぱなしの布団を片付けようとしている。

【解説】 被災者でありながら快適な暮らしを営んでいるという、現実ではあり得ない奇妙な夢。そもそも私はどのような種類の災害に遭遇したのだろう。その部分が夢に現われなかったのも奇妙な話である。



29日●娘のようなパンダのような
私は誰か仲のいい女の子と一緒にいるのだが、それが娘なのか飼い犬のパンダなのかわからない。

【解説】 娘とパンダ(家で飼っている4歳の狆)の違いがわからないという、トンデモない夢だった(苦笑)。しかし娘とパンダは白黒ハッキリしたところや突発的な行動パターン、何をやっても憎めない可愛らしさなどが少し似ている気がする。それにしても(いくら夢の中とは言え)両者の見分けぐらいしなさいよ自分。



30日●S先生から処世術を教わる
目の前にS先生が座っておられる。先生は訳知り顔に処世術を説いている。「だからね、本当に思っていることは心の隅に隠しておいて、別の話を仕向けるんだよ。そして、君が本当に思っていることは相手の口から言わせるんだ。あたかも相手が自発的に言ったように、うまく誘導するんだよ。君は無邪気に“なるほど、さすがですね!”などと感心して見せればそれでいい。要は、相手にゲタを預けて全責任を負わせてしまうんだ。これが処世術というものだよ」。S先生のお話を聞きながら、私は「なるほど、さすがですね!」と、さも感心したふりを装った。しかし、S先生がたった今おっしゃったことは、実は私が先生を誘導して言わせたことなのである。私は心の中で(先生、お疲れ様でした)と呟いている。

【解説】 なにやらタヌキの化かし合いのような夢だった(笑)。S先生は非常にユニークな文化人。夢の最後に私は自分が先生を騙したと思っていたが、実はこれも先生の術中で、もしかしたら先生に誘導されて自分が勝ったと思っているだけなのかも知れない。二重三重スパイのようにトリッキーで面白みのある夢だった。





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