2008年6月



1日●後方から襲来する敵
後方から何者かが襲ってくる。白い光のような物がたくさん見える。あれが敵の正体か。いくら敵の数が多くても、負けるような気がしない。私はこの場からまず逃げ出すために、とてつもないスピードで前に駆け出した。

【解説】 このあとに何か楽しい出来事があったように思うのだが、具体的な内容は思い出せない。



2
日●攻めて攻めて攻めまくれ
夜の闇の中。目の前にどこまでも続く細長い道があって、私はそこを時速80〜100kmほどの猛スピードで駆けている。途中、道の両側でときどき何かが鈍く光る。彼らは刺客だったり忍者だったりするのだが、私は彼らを次々に容赦なく倒していく。やられる前に、完膚なきまでに打ちのめせ。私の心に恐怖の感情は少しも湧き起って来ない。あるのは闘志だけだ。何も考えずに、攻めて攻めて攻めまくればいい。闇は限りなく深く、私はどこまでも駆けて行った。
【解説】 これはもしや昨夜の夢の続きなのだろうか。現実感の希薄な、まるでゲームでもしているような印象の夢だった。私は次々に敵を倒していたが、その方法は何だったのだろう。近代的な武器ではなく素手か手裏剣か弓矢だったような気がするが、ハッキリとは覚えていない。



3日●低レベルなミスコン
私は1枚の印刷物を読んでいる。そこには3人の女性の名前が印刷してあって、名前の上にはそれぞれ「ミス○○○第1位」「ミス○○○第2位」「ミス○○○第3位」と書かれていた。○○○はミスコンの名前らしいが、どこかの市町村で行なわれているレベルの低いコンテストらしい。驚いたことに、第3位に名前が挙がっている女性はKさんの奥さんだ。(Kさんの奥さんって、こんなミスコンに応募する程度の女性なのね?)と私は心の中で呆れている。
【解説】 突拍子もない夢だった。そもそも私はミスコンに興味がないし、Kさんの奥さんという人には現実世界で逢ったこともない。しかもKさんは私にとって“遠い知人のひとり”でしかなく、かれこれ10年近くお目にかかっていない。そんなわけで、Kさん夫妻が今夜の夢に登場した理由は皆目わからない。また「○○○」が何という名称だったかも思い出せない。



4日●マイナス事典
気がつくと私は事典のページをめくっていた。一見ごく普通の事典なのだが、これは『マイナス事典』と言って、物事の反対側(マイナス面)についてのみ書かれた資料集なのだという。ちょうど私が見ていたのは「マイナス国連」のページで、そこには本物の国連に対抗する裏勢力であるマイナス国連のことが書かれている。同様に「マイナスアメリカ合衆国」とか「マイナス日銀」などの項目もあったように思う。同じシリーズの別の本には「マイナス人名録」があって、そこには裏の世界で大活躍する人々の顔写真とデータが並んでいるのだった。分厚い本のページを繰ってゆくと、とある若い日本女性の写真が2つの項目で掲載されていることに気づいた。どうやらこの女性はモデルさんで、彼女の写真は適当に使い回しされているようだ。(どうやらこの事典はインチキらしい)と気づいたところで目覚まし時計が鳴り、目が醒めた。
【解説】 またしても奇妙な夢だった。ちなみに最後に登場した日本女性はごく平凡な顔立ちで、全く知らない人である。



5日●仙人になりつつあるSさんと山奥で逢う
前後関係は思い出せないのだが、辺りには静かな雰囲気が漂っていて、気がつくと私は山奥の森にいた。近くには数人の知人がいたようにも思うが、単に気のせいかも知れない。洞窟を見たような気もする、森の奥でSさんに再会した。Sさんと私は、何か理由があって長いこと逢っていなかったのだ。もう死ぬまで逢えないような気がしていたSさんとまた逢えるのは、とても懐かしい気持ち。Sさんも懐かしそうに私を見ている。私は何か困っていることがあって、Sさんに3つの質問をした(ただし質問の内容は覚えていない)。Sさんは親切に3つの質問に答えてくれた。どうやらSさんはこれからも私との友人関係を続行してくれるらしい。それにしてもSさんは変わった。まるで世俗的な歓びを諦めた仙人のようである。時は流れたのだ。私は嬉しさと寂しさが綯(な)い交ぜになった気持ちでSさんを見ていた。
【解説】 今夜の夢には、どこまでも広がる「静」のイメージが行き渡っていた。ちなみにSさんは仕事関係の知人(男性)。煙草も吸えば大酒も飲む、仙人からは最も程遠い人物である(苦笑)。



6日●奥さん血が出てますよ
見知らぬ広場。学校の校庭のように見える。夜だというのに校庭には大勢の人が集まっている。にもかかわらず、ここは静かだ。まるでお葬式のようだと思う。これからカーニヴァル(一種の学園祭?)が始まるらしい。私はここのPTA役員で、皆を指導する立場にあるようだ。インターナショナルスクールなのだろうか、校庭にはありとあらゆる人種が集まっている。私は地面に置かれた綱引きの綱に沿って歩きながら、人々に小さく「さようなら」と挨拶をしている。皆も「さようなら」と返しながら、寂しげな視線を送って来る。私は淡々と挨拶を続けている。そのあと少し時間のブランクがあって、次に気がついたときは暗い道を歩いていた。おそらくカーニヴァルが終わり、私はこの街を離れるのだろう。目の前を逞しい体形の女性が歩いている。身長180センチ以上はありそうな、筋骨隆々とした女性だ。ひざ丈のスカートからは脛毛だらけの脚が覗いており、その脚に血が流れているのが見えた。もしかしたら彼女は妊娠しており、もう陣痛が始まっているのではないか。そう思った私はあわてて「奥さん、血が出ていますよ」と声をかけようとした。しかしその瞬間、彼女が実は男であることが判明。私は彼に話しかけるのをやめた。そのあと何か別の事件が起こった気がするのだが、内容は全く覚えていない。
【解説】 今夜の夢でいちばん印象的だったのは、「脚を流れる血」である。女と思った人が実は男だったという展開も不可解で、全体に曖昧で暗いイメージの夢だった。



7日●太陽神の横顔
風の音。画面の右方向から突風が吹いて来て、気がつくと女神の横顔がすぐ目の前にあった。猛烈な勢いで通り過ぎてゆく女神の顔が、私には何故かストップモーションで見えている。長くなびく髪。ギリシャ神話ともインド神話ともつかない彫りの深い中性的な顔。これは間違いなく太陽神だが、前にもどこかで見たことがあると思う。
【解説】 今夜の夢には長いストーリーがあった気がするのだが、思い出せるのはこの部分だけ。ストップモーションのような動きが印象的だった。



8日●父と息子
前後関係は全くわからないが、目の前に一組の父と息子が見える。白人だったような気がする。父はおそらく30代後半、息子は小学生。彼らは何か難しいことに挑戦しており、私は彼らを心の中で応援している。
【解説】 今夜の夢には長いストーリーがあったのかも知れない。しかし目が醒めたときに思ったことは、「父と息子の関係は、母と娘の関係に比べてデリケートだな」ということだった。



9日●ヒマラヤにいる
私はヒマラヤにいる。そのほかのことは一切思い出せない。私はただ、ヒマラヤにいる。
【解説】 もしかしたら今夜の夢には、ストーリーと呼べるようなものが無かったのかも知れない。思い出せるのは「ヒマラヤにいる自分」、ただそれだけなのである。



10日●ヘンジンハンジン
知らない国。森に囲まれた山の中。大きな高い塔のような建物があって、内部には広々とした螺旋階段が頂上まで伸びている。レンガ造りの古い建物だったと思う。照明は暗く、落ち着いた雰囲気。螺旋階段を登って行くと、途中に洒落たブティックやレストランがあって、私はお店をいくつか覗いて見た。ほかにも人の姿がちらほらと見えるのだが、彼らは私と同じグループのメンバーなのかも知れない。私はこのツァーにひとりで参加しているが、ほかの人々は家族かカップルだ。私は白人の老夫妻のそばにいる。彼らの近くにいると気持ちが落ち着くし、彼らも私を無言で慈しんでくれるからだ。塔の頂上まで見学したあと、いま来たばかりの螺旋階段を逆に降りはじめた。既に見た店ばかりが並んでいるはずなのに、不思議なことに往路では見なかった店も散見する。この建物は一体どんな構造になっているのかと不思議に思う。気がつくと私は老夫妻を見失ってしまっていた。すぐ目の前に軽食堂があって、非常に濃い顔の男がスナック菓子のような物を売っていた。男の顔はアラブ系に近いがアラブ系ではなく、ありそうでなさそうな不思議な顔だ。彼が売っている食べ物のうち、長さ20〜30センチほどの棒状の食べ物が美味しそうだったので「これは何と言うもの?」と日本語で聞いたところ、「はぁ?」という答えが返ってきた。どうやら日本語は通じないらしい。あわてて"What do you call this?"と質問し直すと、今度は"It's called Henjin Hanjin"という答えが返ってきた。「ヘンジンハンジン」とは奇妙な名前の食べ物だ。しかし面白そうだから食べてみようか。"How much does it cost?"と尋ねると"One thousand Japanese Yen."だという。いくらなんでも1,000円はボッタクリだろう。せいぜい300円が妥当な線だと思い、「ヘンジンハンジンは要らない」と言おうとしたところで目覚まし時計が鳴り、目が醒めてしまった。
【解説】 実におかしな夢だった。「ヘンジンハンジン」とは一体何のことなのか。思い当たる節は少しもないが、「アブラカダブラ」や「チチンプイプイ」のような呪文にも似て、とてもミステリアスな響きの音だった。



11日●……
【解説】 今日は何か複雑な内容の夢を見たような気がするのだが、残念ながら目覚めた瞬間に忘れてしまった。



12日●パンプスの配達
誰かが私に2足のパンプスを贈ってくれたという。モスグリーンのパンプスと薄いピンクのパンプスだ。荷物は宅配業者の手で配達の途中にあるらしい。当然トラックが来るものと思い、待っていたところ、実際にやって来たのはなんとオートリキシャではないか。しかもよくよく見ると、ここは東京ではなくニューデリーにあるムードラ出版社の前だ。(いつの間にインドに戻って来たのだろう)と首を傾げている私。
【解説】 現実世界でも2〜3日前にモスグリーンとピンクのパンプスを購入した。そのことが夢に現われた格好だが、インドの出版社までが登場したのは意外だった。なお、オートリキシャとは3輪スクーターの上に布製の幌(ほろ)をかけた扉無し簡易タクシーのこと。インドの庶民の“足”である。そういう意味で今夜の夢は「パンプス」と「オートリキシャー」、2つの“足”の夢だったと言えるのかも知れない。



13日●……
【解説】 一昨日に引き続き、今夜も見た夢を思い出せない。夢が“薄かった”印象なのだ。



14日●モンティ・ホール問題の例外
3枚の扉が見える。そのうち1枚の扉の裏に宝物が隠されているという。残り2枚の扉の裏にはヤギがいる。(ああ、これが有名なモンティ・ホール問題だな)と思う。司会者のような白人男性(おそらくケヴィン・スペイシー)がにこやかに笑いながら(英語で)「扉を1枚選んでください」と言った。この先の展開を私は知っている。A・B・C3枚の扉のうちから、仮に私がAの扉を選ぶと、司会者はCの扉を開けてみせる。するとそこにはヤギがいる。司会者は言う、「あなたはA扉を選びましたが、本当にこのままで良いですか? 今ならB扉に変えることも可能ですよ」。この場合、解答者(つまり私)はA扉のまま答えを保留にするべきか、それとも新たにB扉を選び直すべきか。数学的には、B扉を選び直した方が宝物が当たる確率は2倍に上がるというのが有名な「モンティ・ホール問題」の正解である。しかしそれは確率論だ。この場合はA扉のほうがいいに決まっている。何故なら私は透視術が出来るので、宝物がA扉の裏にあることぐらい最初からお見通しだからだ。私は司会者に向かってこう言った、「A扉のままで結構です。何故なら、そこに宝物があることが私にはハッキリ見えていますから。なんなら貴方のポケットの中身も透視しましょうか」。司会者は目を見開き、両手を大きく広げて脱帽した。ファンファーレが鳴り響き、私はゲームの勝者となった。
【解説】 少し前に『ラスべガスをぶっつぶせ』(原題は『21』)という映画を観た。そのなかでも取り上げられていたのが、この「モンティ・ホール問題」だ。数学的な説明はここに書いてあるので参照して欲しいが、夢の中の私は、数学的確率論を大きく飛躍(逸脱)したところにある「透視術」というトンデモない方法で宝物を獲得していた。これには本人もビックリである(笑)。しかし、人生には時にそういうこともある。確率論的な人生も悪くはないが、確信犯的な人生はさらにスリリングだ。



15日●エロティックで哲学的な廊下
すぐ目の前に、細長い廊下が見えている。奇妙なほどの静けさ。薄暗いなかに、2つの人影が見えた。2人とも男だったような気がするが、彼らがホモセクシャルであるかどうかはわからない。何やらエロティックで、しかも哲学的な雰囲気。しかし何も事件は起こらない。(何も起こらないからこそ、最もエロいのだ)と私は思っている。
【解説】 何が言いたいのかわからない不思議な夢だった。ちなみに『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「廊下」の意味は「あなたは今ワンランクアップを目指して目的に向かって歩いています」だそうである。



16日●ホットケーキを作る
はじめにホットケーキの素を水で溶いてネタを作り、それをドーナッツ形の大きな「型」に流し込んだ。次に卵を3つ割り、ネタの上にポトリと落とした(つまり生卵とネタは混ぜ合わせていないということである)。同じドーナッツ形の型がもう1つあったので、そちらにも水で溶いたホットケーキのネタを流し込み、生卵を3つ落とした。そこへYさん(男性)がやって来て、「生卵を落とす必要は必要ないですよ」と言った。つまりYさんは私がネタと卵を混ぜ合わせたと信じているので、そのうえ更に生卵を落とす必要はないと言いたいのだ。私はYさんに向かって「そうじゃないんです。ネタには卵を入れてないので、この段階で卵を落としているんですよ」と言おうとした。しかしその瞬間に、2個目の型に入れたネタはホットケーキの素を入れ忘れた単なる水であることに気づいた。そこで私は苦笑しながら2個目の型の中身を作り直しはじめた。
【解説】 ホットケーキを作る夢と言いながら、フライパンの代わりにドーナツ形の型を使ったり、生卵を混ぜずにそのまま使ったり、水とホットケーキの素を混ぜ忘れたりと、最初から最後までトンチンカンなことばかりしていた。途中で登場したYさんは友人の科学者。現実世界でも、理系音痴の私に科学的なことをよく説明してくれる。今夜の夢には、「もう少し手順をよく考えて科学的にやれ」というメッセージが込められていたのかも知れない。



17日●「ああ、いい石」と言え
ゆるやかな丘。そのあたりの地層は、全体が岩で出来ている。私は少し坂を登って行って、巨大な山に背中を押し付け、空を仰ぎ見た。背中がひんやり冷たく、とても気持ちがいい。少し離れたところには、気持ち良さそうにしている自分の姿を傍観しているもう1人の自分がいる。岩に背中を押し付けている自分は、山登りには不似合いなワンピースを着てハイヒールを履いていたようだ。誰かが耳もとで「“ああ、いい石”と言え」と言った。私は素直に「ああ、いい石」と声に出して言ってみた。言ってから、(これは何かの暗号なのか? オヤジギャグの類ではないようだが)などと考えている。
【解説】 ハイヒールで山へ行ったり、意味不明なことばを言わされたり、自分を見ているもう1人の自分がいたりと、全体に何かが不自然で取りとめがないのだが、岩に背中を押し付けたときに感じた冷気は実に気持ちが良かった。



18日●宇野千代ゆかりの地を旅する
知らない街を一人旅している。手のひらに乗るほど小さな正方形のガイドブックは、おそらく観光案内書でもらったのだと思う。その本を片手に、私は色々なところを歩いた。親切で優しいおばさんと話した気がするが、詳細は覚えていない。誰かが「ここは宇野千代さんゆかりの地ですよ」と言ったから、おそらく山口県の岩国なのだろう。しかしここには錦帯橋もないし、見覚えのある風景は見られない。それでも私はこの静かな場所を楽しんでいる。少し丘を登った所に名所旧跡の類があると聞き、坂道を登って行ってみた。ここで新しいガイドブックを貰ったのだが、やはりそれも一辺が5センチほどの正方形だ。それを頼りに暫くそのあたりを散策した。やがて夜が来て、私は旅を終え家に帰ることにした。ガイドブックを持ち帰ろうかと一瞬迷うのだが、次の瞬間、何故か私はその本をゴミ箱に捨てた。すると迷いが吹っ切れたように気持ちが軽くなり、私は決然とした足取りでその場を後にすることが出来た。
【解説】 今夜の夢で、私は「心の旅」をしたような気がする。宇野千代さんは大好きな女性。ご本人は今夜の夢に登場しなかったが、何か象徴的な意味で存在をアピールしていたように思う。おそらくこの場合の千代さんは私にとっての「グレートマザー」または「菩薩」としての象徴なのだと思う。最後にガイドブックを捨てたとき、とても気持ちが楽になっていた。決まりきった常識(ガイドブック)を捨てることによって得られる精神の開放が、今夜の夢の1つのテーマだったかも知れない。



19日●ダライ・ラマ法王のジョーク
ヒマラヤらしき風景。私はダライ・ラマ法王と話し込んでいる。政治的な話だった気がするが、詳細は覚えていない。法王がとてつもなく面白いジョークをおっしゃり、私はその場で爆笑した。周囲の僧侶たちも堪え切れず、手で口を押さえて噴き出した。これはとても良い兆候だ。大笑いをすると、これまで停滞していた物が一気に流れ始めるからである。
【解説】 今夜の夢はごく一瞬で終わった。法王のジョークがどんな内容だったかは思い出せないものの、それは明るい希望に満ちていたようだ。



20日●その人、女ですよ
細長い廊下。私はひとりの男性と話している。彼の年齢は55〜60歳といったところか。白いワイシャツに黒っぽいズボン姿の、とりたてて特徴のない冴えないサラリーマン風の男だ。ところが途中で誰かが近づいて来て、私の耳元で「貴女が話している相手の人、男に見えますけど実は女なんですよ」と囁いたではないか。ええっと思ったところで目が醒めた。
【解説】 まったく意味のわからない夢だった。話し相手の男性にも、途中で近づいてきた女性にも見覚えはない。



21日●きついツッコミ
ひとりの初老の紳士が何か専門的な話をしている。彼は社会的地位が高く、割と名の知れた人らしい。広い部屋には聴講者がたくさんおり、誰もが静かに彼の話に耳を傾けている(少なくとも外見上は)。彼の講演は全国にテレビ中継されてもいる。テーマが何だったかは思い出せないが、それはすこぶるマニアックで難解な、典型的な“机上の学問”と呼ぶべきシロモノだったと思う。やがて退屈な講義が終わり、質疑応答の時間になった。「どなたか質問のある方は?」と聞かれても、誰も手を挙げようとはしない。会場全体が水を打ったように静まり返っているのだ。私は構わず手を挙げて、「お話はたいへん立派でしたが、先生のおっしゃるようなことは果たして実現可能でしょうか? 絵に描いた餅に過ぎないのではありませんか?」と質問した。すると会場全体がギクリとしたように動揺し、講演者の先生も凍りついたように動かなくなってしまった。隣で私と一緒に聴講していたTさん(大学教授)が、私だけに聞こえるような小声で「さすがマミリンさん。きついツッコミを入れましたねー。でも本当のところ、皆それを知りたかったんですよ。あの教授が何と答えるか楽しみですね」と嬉しそうに言った。
【解説】 現実世界でも私は―たとえ相手が偉い人でも―さほど遠慮せずに本音で意見を言う人間だ。もっとも、今夜の夢の中の私は、いくらなんでも言い過ぎだったと思うが(苦笑)。



22日●2階の人
誰か社会的地位の高い男性が2階に来ているらしい。私は1階と2階の間を往復して、その人に届け物をした。
【解説】 とても漠然とした夢だった。あるいはもっと鮮明なストーリーがあったのかも知れないが、どうしても思い出せない。2階に来た人は誰だったのだろう。ダライ・ラマ法王だった気がするが、違うかも知れない。



23日●美しいおとぎの国の女の子
とても美しい場所。ヨーロッパのどこかかも知れないし、一昔前のオーストラリアのような気もする。そこは平和で美しく、いさかいも悩みも迷いもない場所だ。ひとりの女の子がここに住んでいて、私はその女の子を見つめる客観的な“視線”だ。私にはわかる。女の子がいつか、この美しい世界から外に出て現実の生活に立ち返ることを。しかし“現実”とは何だろう。このおとぎ話のように美しい場所は、果たして現実とは切り離された不思議の国なのか、それとも現実を映す鏡のような世界なのか。女の子は現実に帰ったあと、現実に順応するために変化するのか、それとも新しい世界を“おとぎの国”の色に染めてしまうのか。この場所がこんなにも美しいのは、女の子が住んでいるからなのだろうか。ひとつだけハッキリしていることは、女の子もいつか年を取り、やがてすべてのものが永い眠りにつく日がやってくるということである。
【解説】 今夜の夢で、私はひとりの女の子を見守る“視線”になっていた。つまり私自身は何も行動せず、ただ思考と感情だけが夢の中に湧き上がってくるのである。夢のなかでは長い時間が経過したように思っていたが、こうして書いてみると、特記すべき事件やハプニングなどは何もなかったことがわかる。ただ時の無常のようなものが心に残る、美しくも重い夢だった。



24日●文章を4行にまとめよ
短い日本語の文章があって、それを4行にまとめるよう命じられる。しかし、意味のある文節で区切って4行にすると、それぞれの行の長さが微妙に違ってしまう。と言って、文字数できっかり4等分すると、ことばの途中で改行することになり気持ちが悪い。文字と文字の間隔は一定に保たねばならないらしい。どうやったら気持ちよく見た目にも美しく4行にまとめられるか、私は思考錯誤している。
【解説】 ひとつの文章を4行に分けることに一生懸命になっていた割には、そこに書かれていたことの内容は一切思いだせない。なんとも本末転倒な話である。



25日●肉体の消滅と魂の救済
テロが起こったようだ。あるいは戦争かも知れない。いずれにしても、それは人類を絶滅させかねないほどの酷い状況であったようだ。私は痛みも苦しみもなく、ただ諦観したようにこの状況を受け止めている。最早そこには迷いも恐れもない。(色々あったが、振り返れば最高の人生だった)と思う。すぐ近くには、誰だかわからないが素敵な人がいる。その人の顔は見えなかったような気がする。男か女か老人か若者か、それすらもわからないが、その人の存在によって私の精神は救われている。人類滅亡寸前の穏やかな空気。私は弥勒菩薩によって魂を救われたのかも知れない。
【解説】 風邪をひいたのか昨夜は咳が止まらなかった。咳のために何度か睡眠が中断し、そのため今夜は中途半端にしか夢を覚えていない。テロまたは戦争が勃発し、この世の終わりのような酷いことが起こったのだが、にもかかわらず優しく心地良い印象が残っている。悟りを開きかけたような不思議な夢だった。



26日●インドと赤坂が共存する巨大なビル
最初に驚くほど巨大なショッピングコンプレックス(のような建物)の中にいた。どうやらここはインドらしい。ついにインドもここまで近代化したかと感慨深い。建物の一角にはヨーガ教室があって、今から1レッスンだけ受講可能だという。せっかくだから受けてみることにした。1レッスンは1時間で、1,000ルピーか2,000ルピーぐらい前払いしたと思う(1ルピー=3円強)。ずいぶん物価も高くなったなと思う。近くに家族がいて、皆でヨーガを受講することにした。何故か娘の姿はなく(オーストラリアに留学しているのかも知れない)、息子はまだ4〜5歳に見える(現実世界では16歳)。ヨーガは男女別々の部屋で行なわれるという。夫と息子は男性のヨーガ教室が行なわれる部屋に向かって行ってしまった。私は女性のヨーガ教室を目指して急いで歩きはじめたのだが、とにかくここは驚くほど広く、なかなか部屋に到達できない。誰かが「今日はドライデー(禁酒日)なので部屋の外に出て廊下でヨーガのレッスンをします」と言っているのが聞こえる。既に廊下では他のクラスのレッスンが始まっている。私はなかなか自分の部屋を探し当てることが出来ない。そうこうするうち、バッグを息子に預けたままであることに気づいた。バッグには携帯電話が入っていて、今すぐに必要だ。仕方なく男性のヨーガ教室に向かい走りだした私。しかしその教室へは女性は入れてもらえないのではないか。入ろうとすればセクハラで逮捕されるのでは。そんなことを考えながらも走っていると、向こうから息子たちがやって来た。なんと男性のヨーガクラスはたった10分で終了してしまったという。私は息子からバッグを受け取り、物も言わずに女性のクラスに向かって再びダッシュした。そのあと別の部屋に紛れ込んだ私は、ヨーガのことはすっかり忘れてしまった。部屋には黒っぽいスーツを着た公務員風の日本人男性が100人ほど座っていた。私は彼らに向かって戦争に関する講演をしたようだ。何かイギリスに関係のあるプレゼントを贈られたような気がするのだが、詳細は覚えていない。そのあと別の場所に移動して行くと、ビルの屋上に建設された巨大な遊園地が見えた。その遊園地は夢のような楽園で、いつか行ってみたいと前々から思っていた場所だ。しかし今日は時間がない。私は空中回廊を移動するモノレールのような乗り物から遊園地を見降ろし、羨ましそうに指をくわえている。そのあと小さな部屋に入ってみると、そこには3〜4人の日本女性がいた。ここは病室で、スキーで足をくじいた女性が入院中なのかも知れない。彼女はほぼ完治しており退院間近のようだ。部屋に居合わせた女性はひとり残らず海外駐在員の奥さんらしい。とても感じの良い人たちで、私たちは一気に打ち解けた。私が何かパプアでの体験談を話すと、女性たちは「凄い凄い、もっと聞かせて!」と話に喰いついて来た。そのときになって気づいたのだが部屋の隅には1人の中年男性がいて、その人は今しがたの私の講演を聞いていたらしい。男性が「山田さんは○○○○○○って知ってますか」と言った。○○○○○○と言えば世界的に有名な女子テニスプレーヤーだ。シャラポワと人気を二分するアイドル的存在である。「もちろん知っていますよ」と答えると男性はチケットを取り出し、「これは彼女が出場する試合のチケットです。山田さんに差し上げます」と言うではないか。見るとそれは今年の3月22日にイギリスで行なわれる予定の試合のチケットだ。入手困難なチケットで、1枚10万円ぐらいすると聞いている。私はスケジュール帳を取り出し、3月22日の予定が空いていることを確認した上でチケットを頂いた。女性たちもこの試合を見に行くらしい。イギリスでの再会を約束し、私は次の仕事に向かうためにその場を去った。部屋を出たところに近未来的なイメージの巨大なエレベーターがあり、それに乗って下に降りたところは、これまた驚くほど未来的なデザインの巨大な駅だった。駅員の年老いた日本人男性に「赤坂経由で△△△(東京のすぐ北側に隣接する町らしい)へ行きたいのですが」と尋ねると、駅員は方言丸出しの素朴な日本語で「ああ、赤坂まではもうここから歩いてすぐだ。赤坂までは線路づたいに歩いたほうがええ。そこからJRの△△△線に乗り換えてね」と教えてくれた。このときになって私はこの巨大な建物が博報堂本社ビルであることに気づいた。建物から出た私は線路づたいに赤坂駅に向かって歩きだしたのだが、そのあたりで夢が終わってしまった。
【解説】 今夜の夢はどうやら1つの巨大なビルの中の出来事だったらしいのだが、それはひとつの街と呼んでいいほど巨大な建物だった。最初はインドかと思ったその場所が、やがて赤坂に変わるのだが、その間に私は家族・公務員らしき日本人の集団・入院中の日本人女性らに逢い、話題もヨーガ・戦争・遊園地・病院・駅と次々に目まぐるしく変わっていくのだ。未来に向けてのキーワードとして残ったのは「イギリス」だが、これがどういうことなのかはわからない。テニス選手の○○○○○○が誰であったかは覚えていないが、現実には聞いたことのない名前だった。



27日●プレムとプラカッシュ
知らない街。私は四輪駆動車に乗っている。運転しているのは昔インドでドライバーとして雇っていたプレム。助手席にはやはりインドで雇っていたサーバントのプラカッシュが座っているようだ。私はどこかへ人を迎えに行く途中らしいのだが、車はひどい交通渋滞に巻き込まれている。プラカッシュが車から降りてプレムに(英語とヒンディー語がごちゃ混ぜになった言葉で)「ここから抜けださなくちゃ目的地に辿り着けないよ。逆走しちゃえ、逆走!」と言いながら車を誘導し始めた。プレムは物凄いスピードで車をバックさせてこの渋滞から抜け出そうとしている。
【解説】 プレムとプラカッシュはインドで雇っていた使用人。ふたりは従兄弟同士で、プレムが当時24歳、プラカッシュが18歳ぐらいだったろうか。ネパールの貧しい一家の出身だったが、今頃どうしているだろう。彼らのことは現実世界でもよく思い出すのだが、もう連絡する手立てもない。なお、今夜の夢で私が誰を迎えに行こうとしていたのかは不明。



28日●大洪水がやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!
最初にテレビでアニメを見ていたような気がする。それはトムとジェリー風のドタバタ喜劇で、鉄砲水が出て主人公たちが大騒ぎしながら逃げ回るというストーリーだった。見ているうちに私はそのストーリーの中に入り込んでしまったようだ。不意に目の前に町が現われた。と思った次の瞬間、前方から物凄い勢いでビルのような高さの津波が押し寄せてきたではないか。インディ・ジョーンズさながら派手に逃げ出す私(周囲には数人の人がいたと思うのだが彼らが誰だったかは思い出せない)。場面が変わり、見知らぬ家の中。素敵な雰囲気の洋館だ。暖炉のそばでは、レースのワンピースを着た娘とハリー・ゴードンさん(オーストラリア人ジャーナリストで『生きて虜囚の辱めを受けず』の原作者)が楽しそうに笑っている。娘は10歳ぐらいの姿に戻っている(現実世界では22歳)。どうやらふたりは隠れん坊をしているらしい。そのとき暖炉の中から凄まじい勢いで大量の水が噴き出してきた。大笑いしながら逃げ出すふたり。廊下を曲がって次の場面へ進むと、そこは平和な世界だった。しかしほっとしたのも束の間、数秒後にはそこへも大洪水が押し寄せてきた。このとき私のそばには小学館の編集者Tさんがいたような気がする。私たちは大騒ぎをしながら水から逃げ回っているのだが、それはまるで遊園地のアトラクションのノリだ。あるいはゲームを攻略している感覚かも知れない。このあとも場面が何度もくるくる変わった。私は至るところで大洪水の攻撃に遭い、そのたびに大笑いしながら水から逃げまくっていた。
【解説】 目が醒めて咄嗟に思いついた言葉が、何故か「大洪水がやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!」だった。無論これは故・水野晴郎さんが誤ってタイトルを付けてしまったビートルズ映画「ビートルズがやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!」(原題はA Hard Day's Night)へのオマージュ(笑)である。何故こんな言葉が頭に浮かんだのかはわからないが、せっかくなので今日の夢日記のタイトルにすることにした。今夜は現実世界でもひどい雨降り。雨音を聞きながら眠った結果がこの夢なのだろう。最初から最後までおなかの底から笑い続けている、遊園地で遊んで来たように楽しい夢だった。



29日●左手にセアカゴケグモ
私は道を歩いていたようだ。ハッと気がついたとき、左手に猛毒のセアカゴケグモが這っているのが見えた。悲鳴を上げたい気持ちを必死で抑え、思いきり手を振って蜘蛛を振い落そうかと一瞬思うのだが、(刺激を与えると噛まれる恐れがあるのでは?)と思い直し、別の駆除方法を考えることにした。この間、わずか0.01秒ほどの間の出来事である。このあと頼りになる人がやって来て、瞬時にセアカゴケグモを取り除いてくれたような気がするのだが、詳細は思い出せない。
【解説】 とても短い夢だった。セアカゴケグモはオーストラリアに生息する毒グモだが、最近は(おそらく船や飛行機で期せずして運ばれてしまったのだろう)大阪周辺でも頻繁に見られるようになった。しかし一般に蜘蛛の毒には蛇の毒が持つような即効性はないので、万が一噛まれても病院へ行き治療を受けるだけの時間は十分にある。噛まれてもパニックを起こさないことが肝心だ。以上、日本蜘蛛学会会員からのお知らせでした(笑)。



30日●「白○カグリ」と変態紳士
「白○カグリ」という名前の人がいるらしい。「白○」が姓で「カグリ」が名前だ。○には漢字1文字が入るのだが、その漢字が何であったかは忘れてしまった。私の任務は「白○カグリ」を護ることだ。それは美しい少年だった気がするが、姿などは全く見えない。そこへ眼鏡をかけた変態風の紳士がやって来て、私の仕事をことごとく妨害しはじめた。変態紳士に左手首を掴まれた私は、その手を荒々しく振りほどきながら、(そう言えば昨夜の夢の中でも左手にセアカゴケグモが這っていたのでは?)と思っている。
【解説】 目が醒めてから「白○カグリ」という言葉の意味が気になって仕方がないのだが、思い当たる節はない。変態紳士は江戸川乱歩の小説にでも登場しそうな倒錯したキャラという感じだった。私の夢に登場する人物としては珍しいタイプである。

【後日談】 この夢を見た数時間後に、左の手の平を怪我してしまった。2晩続けて左手が災難に遭う夢を見たのは、今にして思えば夢からの警告だったのかも知れない。




※夢日記の一部または全部を許可なく転載・引用なさることは固くお断りいたします。
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