2008年11月


1日●母親の過干渉の是非を論じる
私は何か演説をしている。「この子は良い子だから友達にしろ、あの子は悪い子だから友達にしてはいけないと、友達選びにまで口を挟む過干渉な母親がいます」と私は言った。「そういう母親の態度に反発する子どもがいる一方で、そうした母親の評価がないと友達一人選べない子もいます」。そのように私は熱く語っている。
【解説】 このあとも演説は続いたのかも知れないが、覚えているのはこの部分だけ。一体誰に向かって話していたのか、それも思い出せない。


2日●母に「ネガティブ思考はやめよ」と説く
暗い台所のような場所。50年ぐらい前の日本の田舎を髣髴させる建物だ。台所の入口部分に2〜3段の段差がある。母がそこで足を滑らせて落ちかけたので、私は急いで母を抱きとめながら、「今、心のなかで『転ぶんじゃないか』って想像しながら歩いていたでしょ? そう考えたから本当に転びかけたんだよ。ネガティブな想像は絶対にしちゃダメ」と説いている。
【解説】 子どもの頃は母から色々なことを教わったものだが、最近は立場がほぼ逆転し、こちらから何かを教えることが多くなった気がする。母に心配をかけていた子ども時代から、今は母を心配する時代に変わった。母も75歳。見た目は60そこそこにしか見えない人だが、本当は立派な高齢者だ。私の心のなかには(母は今日も元気にしているだろうか)と心配する気持ちが常にどこかにある。今夜の夢もそんな気持ちの表れなのだろう。


3日●至福のマッサージ
私は白いシーツのベッドにうつ伏せに寝ている。誰かが全身をマッサージしてくれている。ツボが刺激されて実に気持ち良い。四肢を思いきり伸ばす。至福のとき。
【解説】 今夜の夢で、私は一晩中ずっと誰かに揉まれていたようだ。こんなに気持ちの良い夢は珍しい(しかも夢だから無料だし(笑))。何だかすごく得をした気分だ。


4日●喉の奥の異物
喉の奥のほうに何か異物が詰まっている。私は咳払いをして異物を取り出そうとしている。まだ喉に異物が詰まったままの状況で、私は誰かに「昔もこれと似た状況に陥ったことがありましてね」などと話しかけている。
【解説】 この夢はバンコクのホテルで見た。どうやらホテルの冷房が効きすぎて喉がイガイガしていたらしい。それでこんな夢を見たのだろう。



5日●階段から転げ落ちるオバサン
見知らぬ建物。煤(すす)けた壁と、金色の小さな仏像。目の前には狭くて急な階段があって、その上から見知らぬオバサンがゴロゴロと転げ落ちて来た。私はそれを見ても驚くわけではなく、冷静に(あ、オバサンが落ちて来た)と思っている。
【解説】 この夢はブータンのホテルで見た。昨夜はブータン風の古い建築物の中を歩いたので、当然「狭くて急な階段」も昇り降りした。おそらくそれでこのような夢を見たのではないか。
【後日談】 この夢を見てから約20日後、とある英語の小説を読んでいたところ、この夢と同じ状況が登場した(その小説はブータン人が書いたもので、私は翻訳を依頼されている)。小説と夢を比べてみたところ、突然オバサンが転がり落ちて来たことだけでなく、細部の状況までがよく似ているではないか。実に興味深い一致である。


6日●夜まで犬を飼っていた
姿は見えないが、近くに見知らぬオバサンがいる。彼女は突然、「夜まで犬を飼っていたんですよ」と非難めいた口調で言った。私はその言葉を聞きながら、(今の言葉は一体どういう意味だろう)と考えている。そして次第にわかってきたことは、この国ではどうやら犬は昼間しか飼ってはいけない決まりで、夜に犬を飼うことは禁じられているということだ。にもかかわらず誰かが夜も犬を飼っており、オバサンはそのことを非難しているらしいのだ。(しかし、夜になったら犬たちはどこへ行けばいいのだろう。お腹が空いたらどうするのか?)などと考えていると、再びオバサンが「夜まで犬を飼っていたんですよ」と言った。私は突如として萩原朔太郎の『遺伝』という詩を思い出し、その一節を声には出さずに諳(そら)んじてみた。
【解説】 この夢もブータンで見た。そう言えば昨夜は一晩中、外で犬たちが吠えていた。それでこんな夢を見たのだろうか(なお、「夜は犬を飼ってはいけない」などという珍妙な法律は、ブータンにも勿論ない)。ちなみに夢の中で私が想い出していた萩原朔太郎の『遺伝』は、「人家は地面にへたばって おほきな蜘蛛のように眠つてゐる」で始まる素晴らしい詩だ。詩の中で朔太郎は犬の遠吠えを「のをあある とをあある やわあ」と表現しているが、ブータンの犬たちは普通に「うわわわわわぉーん」と吠えているように私には聞こえた。


7日●いきなり穴に落ちるE氏
数メートル離れたところに友人のE氏が立っている。彼の足元は幻想的な青白いガラスで出来ており、全体に近未来的な雰囲気がみなぎっている。声をかけようと思った瞬間、E氏はいきなり足を滑らせて真下にあった穴に落ちてしまった。驚きの表情を浮かべ、叫び声をあげる暇もなく無言で穴に落ちてゆくE氏を、私は為す術もなく見送っている。
【解説】 E氏は友人のカメラマン。なぜ彼が穴に落ちたのか、理由は全くわからない。この夢もブータンのホテルで見た。


8日●巨大な落下物
大きな箱のような物がいきなり空から降って来た。それは段ボールのような素材で出来ているらしい。仮に頭に当たったとしても死ぬことはないので、私は特に心配することもなく落下物を見つめている。
【解説】 昨夜に引き続き、今朝も何かが「いきなり落ちる」夢である。これもブータンのホテルで見た。


9●……
【解説】 今夜も夢を見たことは間違いないのだが、内容はまるで思い出せない。ちなみに今夜もブータンに滞在中。


10日●娘が制作した2本の映画
娘が2本の映画を制作したらしい。しかも、それらの映画が賞を受賞したという。片方は「S賞」、もう一方は「A賞」の受賞らしい。SはAの上で、最高の賞なのだそうだ。私は娘が映画を作っていることすら知らなかったのだが、受賞の報を聞いて大いに喜んでいる。しかし娘は浮かない顔つきで、「まだまだ、これじゃダメ。今回の受賞はまぐれ」などと言っている。私が「そんなことはない。こういうことに“まぐれ”はないよ」と言うと、娘は「実は、受賞した作品のほかにも短編を何本か作っていたんだよね。賞は逃したけれど、自分としてはそちら(短編)のほうが良く出来ていると思う」と答えたではないか。娘はいつの間にそんなにたくさんの映画を作っていたのだろう。私は彼女のバイタリティーに驚いている。
【解説】 この夢はブータンから日本に戻る飛行機の中で見た。ちなみに娘は現在、早稲田大学の大学院生。何しろ非常に行動力があってアクティビティーが多岐にわたる女性なので、果たして彼女が映画を作っているのかどうか、そのへんの事情は私にもわからない。
【後日談】 この夢を見たことを暫く忘れていたのだが、2〜3日経ってから急に思いだしだので娘に「こんな夢を見たよ」と話したところ、「実は今、映画を作る話が持ちあがっている」というではないか。また、つい先日は誰かと「SとAを比べるとSのほうが上」という話をしたばかりだと言う。今夜の私の夢に現われたことは、どうやら娘の現実とシンクロしているらしい。不思議なことだ。


11日●故郷に関する付け焼き刃の勉強
役所か公民館のような建物。おそらくここは長野市内だと思うのだが、それにしては見覚えのない風景が広がっている。私の周囲には審議会のメンバーらしき男女が20〜30人ほどいる。私たちは何かの審議を終えたばかりのようだ。しかしこのあと暫くすると夜の部が始まるのだという。役人のような人が近づいて来て、「山田先生に夜の部の講演をお願いします」と私に耳打ちした。講演のテーマは長野に関する何かだったと思う。断る理由がないので、私は「わかりました」と答えたのだが、よくよく考えてみるとそのことに関する知識を殆ど持ち合わせていない。講演開始までには少し時間があるので、その間に付け焼き刃の勉強をしなくてはいけなくなった。(こんなぶっつけ本番の講演は生まれて初めてだ)と思ったところで目が覚めた。
【解説】 ブータンから日本に戻って最初に見た夢がこれである。夢の中で何に関する講演を頼まれたのかは思い出せない。


12日●暇を持て余して途方に暮れる
周囲に大勢の知らない人たちがいる。ハッと気がつくと、自分にはすべきことが何一つないことに気づいた。夜までのスケジュールを思い出そうとするのだが、どうやら私には何の予定もないらしい。つまり1日何もすることがなく、まるっきり「暇」なのだ。しかもそれは今日限りのことではなく、明日も明後日もその次の日も、この先私には何のスケジュールもない。完全に「暇」な人生になってしまったようなのだ。どうして良いやらわからず途方に暮れていると、見知らぬ中年男性が近づいて来て「あなた暇なんですか。それは大変ですね。それじゃ」と、まるでセリフを棒読みするように言い放った。彼がスタスタと去って行く後ろ姿を、私は茫然と見送っている。「暇」がこんなに苦しいものだとは知らなかった。夜までの10数時間を、一体どうやって過ごしたら良いのだろう。明日からもこの「暇」が続くなんて、あまりにも酷な話だ。あまりに苦しいので、私は生きながら半分死んだような気持ちになっている。
【解説】 改めて考えてみると、私の人生のなかで「暇」だったことは、ほぼ皆無である。いつも何らかのスケジュールがあり(注/その多くは天から降って来たものではなく、自分で作ったスケジュールである)、忙しい忙しいと言いながら人生をエンジョイしている。つまり私は「忙しい」という状態が実は大好きなのだ。だから、今夜の夢の中でいきなり「永遠の暇」を宣告されたとき、私はまさに死刑宣告をされたような惨めな気持ちになっていた。夢の中とは言え、「暇」を持て余すことが私には本当に苦しいのだ。忙しい毎日がどれほど素敵なものかを再認識させてくれる夢だった。


13日●「300万円貸してくれない?」
家族が揃ってリビングルームでごろごろしていると、娘が笑いながら入って来て「ねえねえ、誰か300万円貸してくれない?」と言った。「貸してくれない?」ではなく、単に「くれない?」だったかも知れない。皆は何も聞こえなかったことにして、ニコニコ笑いながら別の話をしている。娘も特に期待していたわけではないらしく、300万円のことは二度と話題にのぼって来なかった。このあと、どこか楽しい場所へ旅をしたと思うのだが、その部分の詳細は思い出せない(大きな道の反対側に何かとても魅力的な物[あるいは人?]が見えたので、道を横切ろうとした気がするのだが……)。
【解説】 夢の中の娘は、300万円を何に使いたかったのだろう。3万円ならあげただろうし、30万円なら理由を尋ねて理由によってはあげたかも知れないが、300万円はさすがに大金なので、夢の中とは言え即刻却下であった。理由ぐらい聞いてやれば良かった。


14日●京都の占い師に見てもらう
最初に何か楽しい夢を見たのだが、その部分はどうしても思い出せない。気がついたとき私は見知らぬ風景のなかに佇んでいた。その場所を一言で言い表わすのは難しい。少し黄色みがかった草が生い茂っているので「枯野」と呼ぶこともできるが、私は乗り物を待っていたような気がするので、その意味では「停車場」なのかも知れない。誰かから「そこには古い寺がある」とも聞いていたので、そこは「古い寺」なのだろう(但し寺の建物はどこにも見えなかったが)。いずれにしても、そこはどうやら京都のようだ。そして今が21世紀なのか江戸時代なのか平安時代なのか、そのあたりの時代設定はハッキリしない。近くに誰か近しい関係の人がいる。息子だった気がするが定かではない。乗り物を待っているあいだに、私は男の占い師に逢った。日本人だったかどうかは思い出せないが、初老の人だったように思う。彼は“流し”の占い師で、こちらが頼みもしないのに勝手に私の未来を見てくれた。何かアッと驚くような内容のことを言われた気がするが、それが何だったかは思い出せない。そのあと私はどこか別の場所にいた。楽しい出来事があったことは覚えているのだが、それが何だったのかもわからない。帰りに私は(おそらく息子と)再び例の古い寺にやって来た。しかし占い師の姿はもはや消え失せていた。私はどこかの雑誌(?)に先刻の占い師のことを書こうと思っていたのだ。しかし彼が消滅してしまった以上、このことを書いても読者は信じてくれないかも知れない。そう思っていると、一緒にいた人が私に「そんなことはどうでもいいんだよ。他の人がどう思おうと、占い師は貴女の目の前に確かに現出したのだから」というようなことを言った。私は風に揺れる枯れ草を見つめている。
【解説】 夢で逢った占い師から私は何を言われたのだろう。良い意味でアッと驚くような内容だったことは確かなのだが。今になって思い返すと、占い師はブータン人だったような気もする。


15日●お椀のような形の店で商売を始める
野球場の観覧席のように階段状になった観客席が何百も並んでいる。そのなかに、一段高くなった小さなお店がある。畳2〜3枚分の小さな露店だ。そこを使って私は何か売ろうとしているらしい。店舗の形が普通では面白くないと思い、全体をお椀のような形にデザインし直すことにした。と思った瞬間には、早くも思ったとおりのデザインの店舗が目の前に出現していた。この店舗に立つと、自分がまるでお椀の舟に乗った一寸法師になった気分だ。私はブータンの民族衣装を着ていたような気がする。早速、商売を始めようと思ったところで目が醒めた。
【解説】 今夜の夢の中で、私は何を売ろうとしていたのだろう。それに第一、この夢の前後にはもっと長いストーリーがあったはずなのだが、そちらは全く思い出せない。どこか遠くへ旅をしてきた気がするのだが……。


16日●外国人のアドバイスで店を開く
前段に何か心が浮き浮きするようなストーリーがあって、気がついたとき私は人通りの多い場所で何か商売を始めようとしていた。外国人の中年女性がさまざまなアドバイスをしてくれるのを、私は真剣に聞いている。彼女の顔はぼんやりとしか見えないのだが、どことなくソニア・ガンジーを思わせる風貌だ(あるいはソニア・ガンジー本人だったかも知れない)。お店は2〜3坪の小さな物だが、扱う商品はオリジナリティーに溢れた高級品らしい。アラビアンナイトのような街なみ。明るく活発な雰囲気。心地良い喧噪。砂漠のような匂い。
【解説】 昨夜に引き続き、今夜も何やら“小さな店を始めようとする夢”である。アドバイスをしてくれた女性の顔立ちをハッキリとは思い出せないのだが、その人は智慧と社会的影響力のある特別な人だったように思う。


17日●すり鉢状のエキゾティックな広場にて
すり鉢状に中心部分が低くなった、巨大な円形の広場が見える。そこは昔々のペルシャを思わせるようなエキゾティックな場所で、大きなスカーフを頬かむりしたロングスカートの女性たちの姿が見える。焼き栗を売っている人。竹ぼうきで掃除している人。床に落ちたパンくずを鳩が啄(ついば)んでいる。何かの本でこんな光景を見たことがある、と思った瞬間、それが『小さい魔女』であることを思い出した。どうやら私はこの街で暮らしているらしい。この街における自分が何者なのかは定かでないが、今は冬で、すぐ近くで焚き火の気配がしている。
【解説】 雰囲気としては、100年ほど前の異国を旅して来たような夢だった。今夜の夢にはもう少し具体的なドラマがあったように思うのだが、その内容は何故か思い出せない。スカーフと焼き栗と竹ぼうきが印象的だった。


18日●……
【解説】 今夜は論文執筆のため、ほぼ徹夜。おそらく夢を見たことは見たのだろうが、残念ながら内容は思い出せない。


19日●私の分身であるクールな犯罪者
今しがた、私は何かとんでもない重大犯罪を犯したようだ。しかし不思議なことに、肝心の犯罪の場面はまったく覚えていない。流血はなく、あくまでも淡々とした犯罪だったように思う。犯行の直後、私は喫茶店に戻って来た。どうやらここは私の店らしい。店には「マスター」と呼ばれる男性がいる。白いシャツに黒い蝶ネクタイを締め、黒のヴェストを羽織った「マスター」は、どうやら私の伴侶らしい。しかしそれは全く見知らぬ人で、私は彼に対して少しも好意を感じていない。つまりこの男も、犯罪のためのパートナー(偽装結婚?)に過ぎないのかも知れない。次の瞬間、このときまで「私自身」だと思っていた犯罪者のパーソナリティーが、いきなり私の内側から抜け出して、まったく別の女性になってしまった。彼女は35歳ぐらいの、髪をポニーテールにした細身の女性だ。彼女はすぐに笑顔になって、黙って銀の食器を拭きはじめた。。今しがた重大犯罪を犯してきたばかりとは思えない彼女の落ち着いた態度を見ながら、私は(なんとクールな人だろう)と心の中で感心している。しかし、彼女の面影を見ても私は親近感を感じない。彼女がたった今まで自分の内側にいたとは、とても信じられない。不思議なことに、女性とマスターの目に私という存在はまったく映っていないようだ。私は透明人間なのかも知れない。退屈になったので喫茶店から出ようとしたところで目覚まし時計が鳴り、目が醒めた。
【解説】 少し前に、ある外国人作家が書いた犯罪小説の日本語訳を頼まれ、目下のところ下読みをしている最中だ。今夜のような夢を見たのは、おそらくその本が原因だと思われる。この「夢日記」を読み返してみれば明らかなように、夢というものは、「現実」を実に正直に反映する一種の鏡のようなものだ。そこには、自分自身さえ気づかないでいた心の機微や、意外な側面が容赦なく映し出される。自分への再評価もあるし、警鐘もある。そこが夢の面白いところだ。今夜の夢から示唆されることも多々ある。夢から学ぶことは非常に多い。重要なのは、そのことに気づくかどうかだ。


20日●滝のように流れるピンクの布
目の前に広大なスペースがあって、何百枚もの細長いピンクの布が並べて下げられている。布は幅30cm、長さ5mほどの縦長。風が吹いてくると布がそよそよと揺れて、まるでピンク色の滝が流れているように見える。音のない夢幻世界。私は何かするわけではなく、ただその光景を眺めている。
【解説】 何かの芝居のセットのような、人工的かつ哲学的な光景だった。今夜の夢は「ピンク」という色に意味があったように思う。見ているだけで癒される色彩だった。


21日●白い洋館で黒川先生の娘さんに逢う
見覚えのない閑静な住宅街。大きなお屋敷が並んでいる。ひと気のない道を歩いて行くと、遠くに白い洋館が見えてきた。もう少し近づくと、洋館の扉が開き、なかから黒川紀章先生の娘さんが現われた。娘さんは白いスーツを着て、髪を綺麗にカールし、こちらを見て懐かしそうに微笑んでいる。(なんという美しい微笑みだろう)と思ったところで目が醒めた。
【解説】 少し前に黒川先生の一周忌があり、そこで娘さんと再会した。久々に逢う娘さんは、前にも増して美しかった。そのイメージが今夜の夢になったのだろう。それにしても今夜の夢はどこもかしこも純白で、それが無垢な高潔さや一種の孤独感のようなものを連想させるのだ。目が醒めてから、(黒よりも白のほうが遥かに「喪」の色だな)などと思った。


22日●巨大なコロシアムにて
目の前に巨大なコロシアムが見える。正確に言えば、私自身がコロシアムの中にいるようだ。すり鉢状の建築物の底のほうには、髪をスカーフで覆った老若男女が見える。ここはスペインのどこかだろうか。(そう言えば最近、これとよく似た風景を見たのでは?)と思った瞬間に目が醒めた。
【解説】 夢日記を見返してみると、確かに今月17日にも同じような夢を見ているではないか。これはどういうことだろう。ちなみに「すり鉢状のコロシアムのような広場」と「スカーフで頬かむりをした女性」の組み合わせには、現実世界では思い当たる節がない。


23日●3人の女性の賢者
私は3人の女性に取り囲まれている。3人とも、年齢も民族もまったく不明な、不思議なニュアンスの女性たちである。穏やかだがとても賢い「気」のようなものを発しており、どうやら3人は選(よ)りすぐりの賢者らしい。彼女たちは私の頬に息がかかるほどの至近距離まで近づいて来て、何か「お告げ」をしてくれた。しかし奇妙なことに、彼女たちの「お告げ」は声ではない。声以外の、何か特別な方法で意思が伝達されるのだ。先ほど頬に当たった息のなかに、お告げの意味が込められていたのかも知れない。3人の後ろには中世を思わせる風景が広がっている。(ダ・ビンチの「モナリザ」の後景に似ている)と私は思っている。
【解説】 実は今月、ブータンで不思議な女性に出逢った。彼女の息子はトゥルク(転生活仏)として認定され、2年前からひとりで山寺に籠り修行中だという。彼女からは色々と不思議な話を聞かせてもらった。今夜の夢は、そのことと確実に繋がっていると思う。


24日●娘と息子と大家族
私は未来の世界にいるらしい。但し自分の姿が見えないので、何年先のことかはわからない。見知らぬ家の中にいる。大きな窓からは太陽光が降り注ぎ、全体に木の温もりが感じられて素敵な家だ。面白いことに、この家は外から見るとごく普通の2階建て家屋なのだが、中に入ってみると4〜5階建てで、とてつもなく広いのだ。この家には、娘とその家族(旦那さんと2人の子どもたち)、息子とその家族(奥さんと子どもたち[人数不明])も暮らしている。姿は見えないが、息子の奥さんのご両親も同じ家の一室に住んでいるらしい。この暮らしはなかなか快適だ。住人は皆ユニークで、得意分野が異なる人ばかりなので会話が尽きない。(大家族にして良かったな)と思っている。
【解説】 ほとんど一瞬で終わってしまったが、何とも言えない幸福感が漂う夢だった。孫が何人もいたから、私は60歳を過ぎていたのかも知れない。


25日●天使のように光る人から小箱を受け取る
雑踏の中を歩いている。向こうから大勢の人が歩いて来るのだが、なぜかそのうちの1人だけが、まるでスポットライトでも当たったように明るく浮かび上がっているのだ。(何だろう?)と思いながら歩を進めていると、すぐにその人が目の前まで近づいてきた。その人は、民族はおろか年齢も性別もわからない、不思議な微笑みをたたえていた。誰かに似ていると思う。(そうだ、天使に似ているんだ)と思った瞬間、私は小さな箱を手渡されていた。と思う間もなく、その人は人波に流されて私の背後へと消えて行き、私の手には小箱だけが残った。中身が何であるかはわからないが、箱も内側から白く光っていた。
【解説】 ミステリアスな夢だった。箱を開けてみる前に夢から醒めてしまったが……一体、何が入っていたのだろう。


26日●……
【解説】 今日は仕事でほぼ徹夜。ゆえに夢を見ている暇はなかった。


27日●3つの選択肢のうちの最難関を選ぶ
目の前に大きなプロジェクターがあって、写真が写し出されている。そこには山岳地方の風景と、いかにも素朴そうな村人たち、それに私自身が映っていた。「これが1つ目の選択肢です。実現可能性は99パーセント以上です」という声がした。次に、別の写真が映し出された。そこに映っていたのは、誰かはわからないがこの国のプチ有名人らしい。プチ有名人の隣には私が写っている。「これが2つ目の選択肢です。実現可能性は15パーセントです」という声が聞こえた。最後に、もう1枚の写真が写し出された。そこにはこの国の王妃と私のツーショットが写っていた。先ほどから聞こえてくる声が、「これが3つ目の選択肢で、実現可能性は1パーセント未満です。1、2、3のうち、あなたはどれをお選びになりますか?」と尋ねてきたので、私は迷わず3つ目の選択肢を選んでいた。
【解説】 どうも意味の良くわからない夢なのだが、どうやら私はこの写真に写っている国へ行くことになっており、そこでの過ごし方は(1)一般人と過ごす、(2)プチ有名人と過ごす、(3)王妃と過ごす、の3つから選べるらしいのだ。私は実現可能性が極端に低いがダントツにいちばん魅力的なコースを迷わず選んでいた。そう言えば、私のこれまでの人生はすべてこのパターンで進んできたように思う。つまり、どんなに難易度が高くても本当に欲しいものだけを目指すという生き方だ。私の辞書には「妥協」とか「まあ、このへんで手を打ちますか」の文字はない。多くの人に理解してもらえないかも知れないが、私はこの生き方に大きな喜びを感じている。おそらく私はとてつもないギャンブラーなのだろう。(※注1―誤解を招くといけないので言っておくが、ギャンブラーと言っても私はパチンコもスロットも一切やらないし、宝くじも買わない。ラスベガスには全く興味がない。興味のあるギャンブルは「リアル人生ゲーム」だけである。ゆえに、私のギャンブルは「お金」では戦えない。戦う道具は「運」と「才能」だけだ。※注2―今日の夢日記の「解説」の意味は、多くの人に【理解】されないかも知れない。しかし、もしも本当に【理解】してくれたとすれば、あなたも相当なギャンブラーだ!)


28日●巨大化した女性シンガー
驚くほど天井の高いホールのような建物。今はコンサートの途中なのだろう、若い頃の安室奈美恵さんに似た面影の女性シンガーが歌っている。彼女は18〜20歳ぐらいで、腰まで伸ばしたストレートヘアを茶色く染めている。カラダにぴったりフィットした黒い革のジャンプスーツを着ていたようだ。次の瞬間、彼女の姿が巨大化をはじめ、あれよあれよという間に10メートル以上の巨人になってしまった。しかしそれはあくまでも映像であって、本物の彼女が大きくなったわけではない。このホールには、舞台上の人間を巨大に見せるプロジェクターがあり、それが彼女を大きく見せているらしいのだ。正方形の部屋の右の壁には彼女の右脚、左の壁には左脚が投射され、真上の天井には脚から上がすべて投射されている。つまり私たちは部屋をまたぐようにして立つ巨大なシンガーの股下にいる形なのだ。まるで仁王像の真下に取り込まれたような感覚を覚えながらも、私はコンサートを楽しんでいる。このあとインドへ行ったり、何か面白いことをしたように思うのだが、そのあたりの詳細は全く思い出せない。
【解説】 全体に楽しい雰囲気の夢だった。もっと多くのエピソードがあったのだが、目が醒める瞬間にその大部分を忘れてしまい、覚えているのはここだけ。


29日●迷いのない二者択一
目の前に牛乳瓶のような形の瓶が2本、並んでいる。中身が何だったか思い出せないので、それらを仮に「A」と「B」と呼んでおこう。瓶に入った「A」と「B」は飲み物ではなく、液体でもなく、目には見えないし手で触ることも出来ないもの(例えば価値観とか行動とか哲学のような)だった気がする。私は「A」と「B」のうち1つを選ぶように言われる。それは実に簡単なことだ。「A」と「B」なら、「A」を選ぶに決まっている。私は躊躇せずに「A」を手に取っていた。
【解説】 夢の中では「A」と「B」が何であるかわかっていたのだが、目が醒めてから暫くのあいだ忙しくバタバタし、2〜3時間ほど経ってからいざ夢日記をつけようとしたところ、「A」と「B」が何であったかもう思い出せない。ハッキリ覚えているのは、2つのうちの1つを潔く選んだ自分自身の「迷いのなさ」だけである。


30日●スパイ活動のために2度も船に乗る
私はどこかを旅している。色々と楽しいハプニングがあったのだが、その部分の詳細は不明。気がつくと目の前には湖があって、私は船に乗っていた。それは定員100〜200人ほどの観光船で、他にも大勢の人が乗っている。すぐ近くにいる10人ほどの団体客は日本人らしいが、私はなるべく彼らに近づかないようにしている。湖の真ん中に島(あるいはそれに準ずる何か)がある。私はその島に用事があるのだと思う。船が島に寄港し、私はそこで何か仕事をしたようだ。その部分に関する記憶は一切ないが、スパイ活動のようなことをしたのだと思う。その後、船はスタート地点に引き返し、乗客らはバラバラに船を下りた。その後、私はさらに別の場所を旅したようだ(しかし、その詳細も記憶なし)。気がつくと、私はまたしても同じ湖に帰って来ていた。旅も終盤に差しかかったようだ。ここでの仕事が、今回の旅の最後の仕事になるのだろう。今回の船は小型の高速艇だ。定員は20人程度だろうか。前回とは比較にならないハイスピードで、艇は例の島に近づいてゆく。前回と同様、10人ほどの日本人が艇に乗っていて、興味深げにこちらを見ている。そのうちの1人は、他の人たちとは異なるオーラを放っている。彼は一見普通の初老男性だが、実はスパイまたはスナイパーだと思う。私はそのことに気づかぬふりをした。例によって今回も艇は島に渡り、私はそこで何か仕事をした。帰りの艇の中で、小さな事件(同乗者の誰かの指先にトゲが刺さるとか……)が起こったようだが、すぐに事無きを得た。
【解説】 今夜の夢にはかなり長いストーリーがあって、そのなかでスリリングな体験やわくわくするような楽しいこともあったと思うのだが、思い出せるのは船に乗って島へ行く場面だけ。今夜に限らず、「スパイになって諜報活動をする夢」を私はときどき見る。しかし目が醒めてみると、諜報の内容は一切覚えていないことが多いのである。ちょっと残念。




※夢日記の一部または全部を許可なく転載・引用なさることは固くお断りいたします。
©Mami Yamada 2004-2008 All Rights Reserved.