2009年7月


1日●集団健康診断
普通の民家のような建物の2階に、数十人の男女が集まっている。彼らの見た目は25歳前後(あるいはそれ以上)だが、どうやら中学生という設定らしい。これから1階で集団健康診断が行なわれるので、順番を待って並んでいるようだ。皆、押し黙ったまま、顔も無表情である。目の前の男女の中で、見覚えのある顔は2人だけ。2人は中学時代の女友達(SちゃんとHちゃん)なのだが、その顔をハッキリと見たのかどうか、あとで考えると疑わしい。私もこの学校の生徒らしいのだが、目の前にいる生徒たちに対して少しも懐かしさを感じないのは奇妙なことだ。私は先刻から、生徒たちが誰も制服を着ていないことを気にしている。制服を着ていないと健康診断が受けられないのではないか、それが心配なのだ。そうこうしているうちに、皆は無言のまま狭い階段を降りて1階へと向かい始めた。しかしなにしろ普通の民家だから、何十人の生徒が全員降りるまでには時間がかかる。私は2階に残ったまま、まだ制服のことを心配している。やがてほとんどの生徒が階下に降りてしまった頃、誰かが下から私の名を呼び、「早く来ないと健診が受けられないよ」と言った。私はようやく我に返り、(制服じゃなくても構わないようだ)と思いながら階下に向かった。
【解説】 そう言えば昨夜は就寝前に(たまには献血をしてみようかな)と思いたち、近所にある献血センターのウェブサイトを眺めて過ごした。それが今夜の夢に繋がったのではないかと思う。ところで私の出身校(保育園から大学院までのすべての教育機関を含む)には、制服というものが唯の一度もなかった。夢の中で私が制服について心配していたのも不思議なことである



2日●壁の向こうから聞こえる声
前後関係は思い出せないのだが、私はひとりで部屋にいた。見たことのない部屋だが、8畳ぐらいの和室で、全体に昭和の雰囲気で満たされている。ふと、壁の向こうから何か音がしたので、壁に耳を押しつけてみると、「パンダがガリガリするから」という小さな声が聞こえた。声の主は夫で、話しかけられた息子は「へーえ」と相槌を打っている。私は心の中で(パンダがガリガリとは何のことだろう。ガリガリと壁を引っ掻いたとでも言うのだろうか)と思っている。
【解説】 目が覚めてから息子に「パンダがガリガリとかって言った?」と尋ねたところ、息子は「あんな小さな声がよく聞こえたね」と驚いていた。どうやら今屋の夢は、現実世界で交わされた会話が睡眠中の私の耳に入ったものらしいのだ。ところで、私の部屋は2階の東の隅にあるのだが、実際の会話は1階の西の隅の部屋で交わされたという。うちはさほど大きな家ではないが、さりとて狭い家でもない。1階の西隅で交わされた小さな会話が2階の東隅で寝ていた私の耳にクリアに入ったことは、ちょっとした驚きではある。壁の中にパイプでも通っているのだろうか?



3日●弾頭を探して旅に出る
何がどうしてそうなったのか、ここまでの経過がわからないのだが、ある日突然、私は弾頭を探して旅に出た。弾頭がどこにあるのか、どんな種類の弾頭なのか、手がかりはひとつもない。私はどこか見たことのない街(アメリカ?)を歩いている。
【解説】 一瞬の夢だった。最初に何がどうして弾頭を探すことになったのか、誰かから頼まれたのか、あるいは自発的なのか、そのあたりの状況も全くわからない雲を掴むような夢だった。



4日●ブラピと武道
俳優のブラッド・ピット氏が武道を始めたようだ。しかしそれは聞いたこともない名前の武道で、鈴木一郎(?)というような名前の日本人が開祖だと言う。武道名を英語に訳すと2つの単語で表わせるのだが、それが何という単語であったかは忘れてしまった(と言うか、夢の中でもその点はウヤムヤだったかも知れない)。どうやらブラピは偶然にその武道の存在を知り、その後、師匠が見つからず独学していたらしい。ところが今、彼は小さなトンネルを抜けたような状態で、ようやく師と呼べる日本人と出逢った。そのことが小さなニュースになっている。私はそのニュースを読んでいる。
【解説】 わかったようなわからないような夢だった。武道の開祖が「鈴木一郎」となっていたが、野球のイチローとは同姓同名の別人で、要は「超ありふれた名前」ということを夢は言いたかったらしい。武道うんぬんの夢ではあったが、ポイントは「ブラピが小さなトンネルを抜けたような状態である」という部分だったのかも知れない。意味はわからないが。ちなみに私は特にブラピのファンではない。



5日●Aさんからしつこく誘われる
Aさんからしつこく食事に誘われた。何度も誘われ、そのたびに断るのだが、一向に諦める気配がない。それを見ていたBさん(私とAさんの共通の知人)は怒ったような顔で、「ここまで空気が読めないなんて、Aはとんでもないヤツだ」と言い放った。
【解説】 AさんもBさんも実在の人物なので、詳細を書くことは避けるが、Aさんは普段から割と空気の読めない人で、Bさんはおそらくその犠牲者のひとり。そのイメージがそのまま今夜の夢になったようだ。



6日●上半身裸の男からバイキン扱いされる
空港(?)のような場所。私は女友達と一緒のようだが、彼女の姿は最初から最後まで全く見えない。1950年代から抜け出して来たアメリカの婦人だったような気がするが、違うかも知れない。気がつくとすぐ横に上半身裸の男が立っていた。アングロサクソン系の大男で、筋肉ムキムキの上半身にはピカピカのグリッターが塗ってある。どうやらこの男は私たちの知り合いらしい。私が面白がって男の胸や腕の筋肉をピタピタ叩くと、男はあからさまに迷惑そうな顔をして「私は触られることが嫌いなんです。バイキンが怖いから」と言い放った。私が「はいはいわかりました。どうせ私の手はバイキンだらけでしょうよ。スミマセンね」と言っても、男はムッツリ押し黙ったまま苦虫を押しつぶしたような顔のままだ。どうやらこの男は少し頭がおかしいらしい。
【解説】 考えてみたら、空港に上半身裸で現われるほうがヘンタイなのだから、男から文句を言われる筋合いはないのだが(笑)。意味はサッパリわからないが、なんだかおかしな夢だった。



7日●袋の中にあるピンク色の存在
皮膚のように白くなめらかな触感。私を含む数人の人が、その上に手をかざしている。皮膚の下には何か袋のような物があるようだ。私たちはそこにある何かを確かめようとして、手かざしをしているのだ。私は自分の手の下に、小さくて温かい物の存在を感じている。それは(もちろん目には見えないが)とても綺麗なピンク色の物体らしい。そのあと何か心が弾む出来事があったのだが、具体的な内容は思い出せない。
【解説】 夢に現われた「袋」は子宮で、「ピンクの存在」はおそらく胎児だろう。実は、つい先日、女友達の妊娠が発覚した。彼女が不妊治療を受けていたことは聞き知っていたので、彼女の妊娠は自分のことのように嬉しい。他人の妊娠がこんなに嬉しいなんて、自分でも驚きである。その嬉しい気持ちが夢に現われたのではないか。



8日●乗る飛行機を間違えた“時の人”
私はテレビでニュースを見ている。テレビ画面にはふたりの日本人(?)男性が写っている。平凡な容貌の中年男だが、ふたりはニュースになるようなこと(たとえばノーベル賞受賞とか)をした“時の人”らしい。彼らが港の桟橋のような細長い橋(?)を渡って小型飛行機に乗り込む場面が報道されている。ふたりはこれから授賞式に出席するのかも知れない。やがて飛行機は無事に出発し、ふたりは空の彼方へと消えていった。しかしその直後に、ふたりが乗るべき飛行機を間違えていたことが発覚。テレビニュースは2機の飛行機の写真を並べて見せながら、「こちらがふたりが乗るはずだった飛行機、こちらが間違えて乗ってしまった飛行機です」と、ご丁寧に説明している。どちらも少し丸っこくて冴えないデザインの小型機だ。きっと今頃は機上のふたりも、自分たちが飛行機を間違えたことに気づいているだろう。私は先刻からガラス容器の中に入った白っぽい液体をグルグルかき回している。何の液体かはわからないが、この液体は徹底的に攪拌する必要があるのだ。私は液体をかき回しながら、(このふたりを誘導した人間は誰? この空港には職員がいないの?)と思っている。
【解説】 何やら意味不明な夢だった。登場したふたりの男性は実に冴えない風貌で、仮に現実世界で逢ったとしても、すぐに忘れてしまいそうだ(苦笑)。なお、白い液体をグルグルかき回していたのは、現実世界で就寝前に行なった裏打ち(紙の裏側に和紙を張る作業)で使用した“糊”の印象がそのまま夢になったのだろうと思う。



9日●講演会とエビス顔のお爺さん
気がつくと私は講演をしていた。そこは大きな会場ではなく、アットホームな雰囲気だ。何のテーマで話したのかは全くわからないが、話し終えると会場から、いま喋り終えたばかりの一つの文章について「その文章がどういう意味なのか、具体的に教えてください」という質問があった。質問者はエビス顔のお爺さんだ。私は滔々と、「よろしいですか。この世のすべてのことは、ご縁で出来ているのです。つまり、私がその言葉を使ったのは、その言葉とご縁があったからです。ご縁のない言葉は、そもそも使うことが出来ないのです。世の中は、全てそのように出来ているのです」と答えた。答えながら、(何だかお坊さんの答弁のようだなあ。もう少し現実に即した具体的なことを言ったほうが良いだろうか)とも思ったが、質問者は納得したようにニコニコしている。それを見た私は、余計な追加説明は不要と判断し、それ以上喋るのをやめた。
【解説】 「ご縁」について説いていたから、仏教関係の講演会だったのだろうか。詳細はわからない。質問者のお爺さんは、本物のエビス神だったのかも知れない。


10日●はじめイライラ、あとニコニコ
私は家路を急いでいた。あたりの風景は、印象的には子どもの頃に住んでいた長野市に似ているが、細かな部分はまるきり違っている。全体に昭和40年代のような懐かしい雰囲気。4〜5歳の姿で息子が笑う顔が、不意に脳裏に浮かんだ。母の顔も見えたような気がする。急ぎ足で歩いて行くと、大きな五差路に出た。この五差路は、1週間に1度、ある特定の曜日の日に大混雑することで有名らしい。運の悪いことに今日はその曜日で、案の定、道路は車で溢れている。しかも、この信号はなかなか青に変わらないことで有名なのだ。急いでいるのに信号が変わらない。私は少しイライラしながら、(家族に電話をしてこの五差路を通らないようにと伝えておくべきか)と思う。しかしその瞬間、信号が青に変わり、私は他の大勢の歩行者と共に道の向こう側へ渡ることができた。そのあと、少し寂れた道を黙々と歩いて行くと、思いがけず、いつもの数倍のスピードで家に近づいたことを知った。(こんなに速く歩ける近道があったのか。あるいは相対性理論か?)と思う。すぐ近くにスーパーマーケットがあったことを思い出し、そこで駄菓子(または惣菜?)を買おうと思うのだが、そんな暇があったら早く家に帰ろうと思い直し、店には入らないことに決めた。さらにその先で一軒の寂れた店に入ってみると、意外にも美味しそうな生菓子を見つけた。私は喜んで家族のためにそれを買い、意気揚揚と歩いているところで目が醒めた。

【解説】 懐かしさともどかしさが入り乱れたような、少し感情的な夢だったと思う。前半は混雑する道路にイライラしたものの、後半は近道を発見したり美味しいお菓子を買ったり、良いこと尽くしになった。「終わり良ければすべて良し」のイメージか。



11日●原色の暗号が描かれた道
ここは高速道路の上で、私は車の助手席に乗っているようだ。ビュンビュンと視界を通り過ぎていく道路の端に、赤と緑の不思議なマークが交互に付けられている。それぞれのマークは、大きな長方形の中に小さな長方形が二重または三重に描かれたデザイン(赤い長方形の中に緑の長方形、緑の長方形の中には赤い長方形)だ。これは何かの暗号らしいが、何の暗号かはわからない。
【解説】 瞬きする間に終わるほど短い夢だった。交互にあらわれる赤と緑の長方形が印象的だったものの、何の意味があるのかは皆目見当もつかない。



12日●船体を貫通する背ビレ状のモノ
私は仲間と一緒にフェリーに乗っている。日食を見に行く往路なのかも知れない。突然、フェリーの甲板真ん中部分に、高さ10メートルはありそうな背ビレ状のモノが、下から突き刺さった。金属で出来た兵器かも知れない。不思議なことに、甲板の上の人々は少し驚いたような表情を浮かべただけで、たいして動揺していない。私はその風景を斜め上から俯瞰している。
【解説】 そう言えば5月3日にも、フェリーが沈んで九死に一生を得る夢を見た。来週は現実世界でもフェリーに乗ることになっている。ライフジャケットは当然船に積んであるだろうが、念のためにmy浮き輪でも持って行くべきだろうか?



13日●長い廊下を歩く
長い長い廊下を歩いている。古い日本家屋、または神社仏閣かも知れない。目の前には壁のベージュ色が続いている。
【解説】 今夜の夢には、この前後に何らかのストーリーがあったのかも知れないが、全く思い出せない。そこが何処で、自分が何のためにそこにいたのか、といった状況もわからない。


14日●商品のクレームを付けに行って慕われる
最初、私はひどく怒っていた。買った商品がトンデモない欠陥品だったからだ。それも、単なる事故品というよりは、悪意が感じられる問題商品だったのだ。しかも、その直前に買った何か別の商品も欠陥品だったようで、そのことが私の怒りに油を注ぐ結果となっている。私は商品の生産者のところへ直接クレームをつけに行った。行った先は物凄い田舎で、あたりは山と畑と田んぼだらけである。どうやら欠陥品は農産物だったらしい。いかにも田舎の人らしい素朴な初老の夫婦が見える。このふたりが問題の農産物を作った張本人のようだ。ところが実際に逢ってみると、どうやら本人たちに悪気はなかったようで、何かの勘違いまたは無知ゆえに粗悪な品を売ってしまったようなのだ。ふたりは平身低頭して謝罪している。その姿を見て、私の怒りはすぐに鎮まった。私はその家に2〜3日泊まったようだ。初老の夫婦は、奥さんは目が細く頬がふっくらした平凡な顔立ちの女性で、旦那さんは目がギョロっと大きく、ヒゲの剃り跡が青々としている。要するに奥さんは典型的な弥生人、旦那さんは絵に描いたような縄文人なのだ。面白い組み合わせのカップルだと思う。3日ほど経って私が東京に帰ろうとしていると、奥さんが名残惜しそうに「ずっとここにいてもらうわけにはいかないだろうねえ。アンタは忙しい人だから無理だよね」と言った。どうやら夫妻は私を慕っているらしい。しかし私には東京に山ほど仕事があるので、これ以上ここに長居をするわけにはいかない。荷物をまとめているところで目が醒めた。
【解説】 数日前、『ディア・ドクター』という邦画を見た。詐欺師の医者が主人公の一種のヒューマンドラマなのだが、そのなかで八千草薫さん演じる「田舎でひっそり一人暮らしをする母」と、井川遥さん演じる「女医として東京の病院でバリバリ働く娘」の、互いに互いが大好きで一緒に暮らしたいのに物理的(および精神的)制約ゆえに暮らせない切ない母子関係が、非常にリアルで印象的だった。もしかしたらそのイメージが今夜の夢にあらわれたのかも知れない。



15日●三次元ハウスと黄金の女神
最初に数人の人たちと一緒に見知らぬ場所を歩いていたように思うのだが、その部分の詳細は不明。気がつくと目の前に、ちょうど家一軒分ぐらいの“さら地”が広がっていた。そこは日本のどこにでもあるような閑静な住宅地なのだが、さら地の部分だけは白っぽい砂で覆われ、どことなく砂漠のようでもある。もしかしたら、今は“現代”ではないのかも知れない。さら地の片隅に電話ボックスのような形の小さな小屋が建っていた。ところが小屋の中に入ってみたところ、驚いたことに、内部はとてつもない豪邸である。もう一度外に出てみると、外観はやはりちっぽけな小屋だ。どうやらこの家は空間のひずみを利用して建てられた三次元ハウスらしい。いきなり場面が変わり、私は1枚の絵を見ていた。絵には女神の首から上が描かれている。絵筆に墨汁を含ませて一気にササッと描いたらしく、とても洒脱で勢いのある絵だ。その絵を見ているうちに、私は自分でもその女神を描きたくなってきた。と思う間もなく、目の前に絵筆と紙と黄金の絵具が現われた。私は筆にたっぷりと黄金を含ませ、ほとんど一筆書きの要領で一気に女神を描いた。髪、頭部、眉、目、鼻、あご、首と筆を進めると、実にスムーズに、自分でも驚くほど勢いのある美しく凛々しい女神が描けた。そのあと、興に乗った私は、原画にはなかった乳房まで描いてみた。たわわに実った美しい果実のように描けたので、私はこの絵に『豊穣の女神』と名前をつけた。
【解説】 今夜の夢は、全体にとても幸先のよさそうな吉夢だったと思う。現実世界で絵を描くことはないが、今夜の夢では本当に気持ちよく、しかも黄金の絵具で女神を描いていた。おかげで朝から気持ちがパァッと明るくなった。



16日●北へ向かう旅と保険金殺人で殺された子ら
気がつくと私は2人の女性と旅をしていた。どうやって2人と知り合ったのか、旅を始めたきっかけが何だったのか、詳しいことは全く思い出せない。2人は私と同い年ぐらいで、全員が30歳前後という設定らしい。2人ともいかにも自立した女性という感じだ。長い旅が終わり、私たちはゴールの街に到着した。喜びの声をあげる3人。ここから先、私はひとりで北陸へ向かうようだ。「これからはバラバラになるけど、たまには連絡し合おうネ」と私が言うと、2人は少し呆れたような迷惑そうな顔で「え?」と言った。その顔を見て私は、(ああ、この2人とは今日限り縁が途切れるのだな)と直感する。そして、現実はその予感どおりになった。場面が変わり、私はどこか寒い街にいた。どうやら北海道らしい。北陸に行く予定が、なぜが北海道まで北上してしまったのだ。ここは賑やかな市場で、サンドウィッチマンが着る看板のような形のコートを着た人がたくさん見える。動物の毛皮をなめした長方形の素材を、おなかの前に1枚、背中に1枚。その2枚を肩と腰の位置で紐で結んだだけの簡素なコートだ。まるで縄文人の装いである。どうやらこのコートがこの街唯一の土産物らしい。私は心の中で(同じ形のコートでも、なめし皮など使わず毛糸のパッチワークを使えば、どんなにか可愛くなるのに。それなら自分で簡単に作れるし)と思い、ここでは何も買わないことにした。場面が変わり、目の前に1枚の印刷物が見える。そこには3人の子どもの写真と、それぞれの子に関する説明が印刷されていた。画面の上方には一卵性双生児らしき女の子2人の写真。年は10歳前後だろう。2人とも眼鏡をかけて髪を三つ編みに結っている。カメラを睨みつけているような鋭い細い目と、笑顔のないむっつりした口元。正直に言って、まるで可愛げのない子どもたちだ。画面の下の方には、姉妹の弟が写っている。この子も眼鏡をかけている。年は5〜6歳。女の子の写真の横には、それぞれの死亡年月日が英語で書かれていた。姉妹は2年ほどの間隔をあけて2人とも死んでしまったらしい。そのあと、この子たちの父親らしき人に逢ったような気がするが、何を話したかは覚えていない。眼鏡をかけた冴えない風貌の初老の男だったと思う。私は心の中で、(あの子たちは親に殺されてしまったのだ。保険金殺人に違いない)と確信した。それからもう一度、例の印刷物を見ると、先ほどは書かれていなかった言葉が新たに刻まれていた。なんと、男の子の写真の横に死亡年月日が印刷されていたのだ。私がここを離れていた間に、男の子まで殺されたらしい。そのあと私はさらに旅を続けたようだが、最後は何か楽しいことがあったような気がする。
【解説】 一晩中かけて長い旅を続けているような夢だった。単なる「旅」というよりは「人生の縮図と」しての夢だったのかも知れない。登場人物のうち、最初の夢にあらわれた女性2人は、中学時代に親しかった女友達ではないかと思う。それ以外の登場人物に関しては、思い当たる節はない。最後のほうで現われた写真の子どもたちにも見覚えはないが、親による保険金殺人とは、すいぶん物騒な話である。夢の中では女の子2人の死亡年月日の数字がハッキリと読み取れたのだが、残念ながら忘れてしまった。2000年代ではなく、1900年代の年月日が刻まれていたように思うのだが。英語で書かれていたからには、外国で起こった事件なのかも知れない。重いリアリティーの伴う、なんとも奇妙な夢だった。



17日●科学者の失敗
科学者のYさんが何か失敗をやらかしたようだ。ペロッと舌を出しているYさんの姿が見える。私は偶然通りかかってその現場を見てしまったようだ。つまり、私さえ黙っていれば、Yさんの失敗は誰にもバレないというわけだ。しかもその失敗は、誰にも迷惑がかからない、ほとんど人畜無害な内容なのだ。私は黙って見過ごすことにした。
【解説】 さて、Yさんの失敗とは何だったのだろう。残念なことに、いちばん重要なその部分が何故か思い出せない。ちなみに現実のYさんは、優秀な科学者(友人)である。



18日●S先生のご自宅にて
気がつくと、そこはS先生の家だった。S先生は中学時代の社会科の先生だ。担任でもなかったのに、なぜご自宅にお邪魔しているのだろう。経緯はわからないが、とにかくそこは先生のご自宅で、立派な日本建築である。庭に面した側には壁がほとんどなく、代わりに大きなガラス戸が並んでいる。それらのガラス扉は大きく開放してあって、庭から涼しい風が吹いてくるのだ。なかなか優雅な暮らし向きだと思う。先生の携帯がひっきりなしに鳴るので、落ち着いて話していられない。代わりに先生の奥さまが私の話し相手になってくれている。先生の電話相手は公安関係のような気がする。何か社会的なこと話しているようだ。部屋には大きな油絵が何枚も掛かっている。どうやらS先生は絵も描くようだ。格調高く、豊かなイメージの生活が至るところから感じられて、私は良い意味で感心しながら、電話をするS先生を観察している
【解説】 現実のS先生は、思想的にかなり“左寄り”の先生だった。「生徒にここまで思想を押し付けて許されるのか?」と、今なら大問題になるような“反日”の発言が多かった。先生が現実世界でどんなお宅に住んでいらっしゃるのか知らないが、少なくとも贅沢な家ではないだろう。中学時代の、それも特に親しくなかった先生が夢に登場したのは不思議なことだ。



19日●ジーンズのような見た目の超豪華素材
気がつくと、見たことのない場所にいた。一見、トンネルの中のように見えるが、よく見ると違うような気がする。トンネルのような息苦しさはなく開放的だ。にもかかわらず、どこかにトンネルを思わせる雰囲気がある。私はジーンズのように見える素材の服を着ている。しかし実際には、この服の素材はジーンズとは比較にならないほどおそろしく高価だ。そのあと何か種明かしがあったように思うのだが、何に関するどんな種明かしだったかは思い出せない。
【解説】 今夜の夢には、「一見○○に見えるが、実際はそうではない」という話のパターンが2回もあらわれた。どういうことだろう。夢の最後の部分に秘密を解くカギがあったのかも知れないが、残念ながらその部分だけ忘れてしまった。



20日●蛇腹状の長いモノとヒマワリ
蛇腹(ジャバラ)状の長いモノが見える。蛇腹の曲がる部分にヒマワリ(?)を取り付けることになった。あとから付け足すと全部を一つずつずらさなければならなくなるので、ひどい手間がかかってしまう。と思ったら、パソコンで簡単に移動させることが可能であるとわかった。便利な世の中になったものだ。
【解説】 何のことやらサッパリ意味のわからない夢。蛇腹にもヒマワリにも思い当たる節はない。この夢は鹿児島市内のホテルで見た。



21日●背中を揉まれる
誰かが私の背中を揉んでくれている。私は「もう少し強く揉んでください」と頼もうとしている。
【解説】 この夢は種子島のホテルで見た。あとで聞いたところ、同室に泊まっていたアユコさんが夜中に(暗がりの中で)エアコンのリモコンを探していたそうだ。ひょっとすると、そのときアユコさんの手が私の背中に触れてこのような夢を見たのかも知れない。ちなみに昨夜は一晩で4回も停電し、その都度(?)エアコンが切れたという。私は爆睡していたので、停電したことはまったく覚えていない(苦笑)。



22日●4つの分水嶺
目の前に宝の地図のような物が見える。そこに描かれた場所を、私は現にこうして訪れているらしい。地図にあらわされたエリアには、全部で4つの分水嶺があり、それがすべての謎を解く手がかりなのだが、それが何の謎なのかはわからない。とにかく、分水嶺のことだけは絶対に忘れてはならないと思う。私はそのことを肝に銘じながら、頭のなかで(分水嶺、分水嶺……)と復唱している。
【解説】 なんとも不思議な夢だった。本当はもっと具体的なストーリーがあったのだが、昨夜に引き続き今夜も種子島のホテルでアユコさんと“修学旅行状態”(笑)だったため、いつもと眠りの種類が異なり、中途半端にしか夢を覚えていない。



23日●電車の席順に悩む4人家族
電車の中。私は吊革につかまり、立っている。目の前に4人用の横並びの席がある。4人家族が乗車して来て、ここに並んで座ろうとしている。この世界のルールでは、左が上座で、右へ行くほど下座らしい。4人家族は父親を先頭に左から座ってみた。しかし、その順番ではしっくり行かなかったらしく、今度は母親を先頭に並び直した。今度もしっくり行かないようだ。4人家族は、何度も何度も席を変えては、その都度、納得がいかないように首を傾げて席替えを始める。それを見ながら私は無言で、(それは身長順でしょ?)(それは収入順?)(今度は顔の綺麗な順かな?)などと勝手な突っ込みを入れている。
【解説】 なんだかオバカで笑える夢だった。この夢は種子島からの帰りに1泊した鹿児島市内のホテルで見た。



24日●……
【解説】 無事に鹿児島の旅から東京へ戻ったが、ぐっすり眠り過ぎたのか、見た夢の内容を全部忘れてしまった。


25日●懐かしい人
目の前に懐かしい人がいる。私は胸がキュンと苦しくなっている。しかしこの人が誰だったか思い出せない。思い出せないのに懐かしい。懐かしさが次第に苦しさに変わって来たところで目が醒めた。
【解説】 夢の中にあらわれた人は誰だったのか、まったく思い出せない。現実に知っている人なのかどうか、それすらも不明だ。ただ、なんとなく後味の悪い疲労感が残る夢だった。



26日●元陸軍所属の老人の死に号泣する
目の前に見知らぬ老人がいる。顔の輪郭がごつく、身長は180〜190ほどありそうな大男で、どうやらかつては陸軍にいたようだ。苗字は「高沢」とか「高田」とか、「高」という字が付く名前だったような気がするが、ハッキリしたことは思い出せない。わかっていることは、この老人がもう少しで死ぬということだ。私はそのことが悲しくて悲しくて、本人を前にして大声で泣いている。それはもう、小さな子どもが泣く時のような“号泣”だ。老人は、そんな私を見て困ったような顔をしている。それにしても老人は見たところ元気そうだし、じきに死ぬような人にはとても見えない。だが浴衣を着て病院のベッドの上に座っていたようだから、やはり彼はじきに死ぬのだろう。私は老人の名前を呼びながら子どものように号泣を続けている。
【解説】 とにかく驚くほど泣いて泣いて泣きまくる夢だった。現実世界では、子どもの頃から今日まで、こんなに泣いたことはおそらくないと思う。これから死ぬという想定の老人の顔に見覚えはなかったが、いかにも陸軍の軍曹クラスだったようなゴツゴツした顔つきが印象的だった。



27日●……
【解説】 今夜は夢を見たものの、起床してすぐに書き付けておいたメモを失くしてしまったため内容を思い出せない。残念。



28日●卵と太陽
目の前に真っ赤な世界が広がっている。その中心部分には卵のようなもの。卵の周囲には、おぼただしい数の血管または神経組織のようなものが張り巡らされている。気がつくと私の体はどんどん卵のなかへと入り込み、気がつくとそこは太陽の中心のようだった。血のような赤色。不思議なことに熱さは感じないが、ここは間違いなく太陽の中心部だ。その先がチューブ状のタイムトンネルのようになっていて、私はそのなかに引き込まれ、地上ではありえないような高速で前進しはじめた。(これが生命の進化なのか)と思ったところで目が醒めた。
【解説】 今夜の夢は、宇宙のはじまりを体験しているような、生命の神秘を探っているような、なんともミステリアスな印象だった。赤の色が驚くほど美しかった。



29日●馬が登場するヘンな夢
なぜかストーリーを思い出せないのだが、一晩中とんでもなく奇想天外な夢を見ていた。最後に馬が登場するヘンな夢を見たのだが、それがどんな夢だったかも思い出せない。パッと見が私と似た感じでもう少し髪の長い女性が、白っぽいシャツにブーツカットのブルージーンズを履いて背中で壁に貼り付き、スパイのような隠密行動をしている姿が見えた気がするが、それも定かではない。
【解説】 今夜は一晩中夢を見ていたのだが、そのすべてが恐ろしく奇想天外で、不思議の国にでも迷い込んだような印象だった。あまりにも奇抜すぎて、かえって内容を忘れてしまったのかも知れない。



30日●ブースケがスタンダード犬
新しい規則が制定されて、ブースケが「スタンダードの犬」として登録されるという。スタンダードの犬、つまり、標準となる犬である。ということは、今後はブースケの短い脚、ブースケのメタボ体形、ブースケのぺちゃんこな鼻、ブースケのドンくさい態度などが、ドーベルマンやセントバーナードなどを含むすべての犬の標準値になってしまうということだ。私は(「おあずけ」すら出来ないドンくさいブースケが標準犬でいいのかな?)と思うと同時に、大好きなブースケが見世物になってしまうのではないかと少し心配している。
【解説】 またまた意味不明な夢。ブースケは上記のとおりのドンくさい犬だが、私にとっては「標準犬」どころか掛け替えのない「最高の犬」である。



31日●全裸で水に浸かる
複数の人々と一緒に水の中に入っている。と言っても、自分のほかに誰がいるのかは皆目わからない。水着を着けずに全裸で水に浸っている感触。しかし裸が見えたわけではなく、あくまでも感触。水がゆらゆらと揺れている。この世に生まれてくる前の、子宮のなかで眠っているような、生温かい心地よさ。最初は川、それがいつの間にか海に変わっていた。海底の白いサンゴ礁を踏んでしまい、足裏がチクリと痛む。しかし次の瞬間、海はいきなりとてつもなく深くなっていた。海底は遥か下方、足下数十メートルほどのところにかすかに見える。水があまりにも美しく澄んでいるうえ、太陽光が真上から射しているので、海の中のすべてが包み隠さず見える。恐怖の感情。溺れるのではないかと思いドキッとしたところで目が醒めた。
【解説】 私はときどき、溺れる夢、または溺れそうな夢を見る。これは2002年9月11日にパプアニューギニアで起こった事故の軽いトラウマだろうから、まあ仕方がないと思う。しかし今夜の夢は、最後の数秒を除けば気持ちの良い夢だったのだ。生温かい水のなかを全裸で漂っていると、まるで海草にでもなったような気分だった。

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