2009年3月


1日●ハドソン・ベイを観光バスで一巡
気がつくと私は見知らぬ外国の街にいた。ノスタルジーを誘う海の香りがする。この街はイギリスのハドソン・ベイ(あるいはワトソン・ベイ?)という湾の上に位置しているらしい。しかし不思議なことに、この街はどことなく日本のようでもある。この辺りの地形を把握するために、私は路線バスに乗って湾を一巡してみることにした。バスの進行方法に向かって右の1本目の道の1軒目の家には、レトロっぽい女性の写真と、フルネームで彫られたネームプレートが飾ってある。そのあとどうなったのか詳細は思い出せないが、バスに乗って湾を巡るあいだ、私はとても楽しい気分だった。
【解説】 果たしてイギリスに「ハドソン・ベイ」とか「ワトソン・ベイ」という名前の場所が実在するのかしないのか、気になったので調べてみたところ、前者(Hudson BayまたはHudson's Bay)はニューヨークとカナダのブリティッシュ・コロンビアに、後者(Watson's Bay)はオーストラリアのシドニーにあるのみ。イギリスにこれらの湾は存在しないようだ。



2日●親切な皇后さま
前後関係は全くわからないが、私は盛装してパーティー会場らしき広間に立っていた。目の前には皇后さまがいらっしゃって、私のほうを向くなり、「陛下にお願いして、書いていただきなさい」と優しくおっしゃった。何を書いてもらうのかはサッパリわからないが、何かを書いていただけるのかも知れない。部屋の奥まったところでどなたかと談笑していらっしゃる陛下の横顔が見えたところで、唐突に夢は終わった。
【解説】 私の夢にはときどき皇室のメンバーが登場する。今夜はついに真打登場となった。とても幸先の良いイメージの夢だった。



3日●……
【解説】 今夜は早朝にブースケ(犬)が胸の上に飛び乗って来たため、その衝撃で見ていた夢をすっかり忘れてしまった(何かアドベンチャー系の夢だったような気がするのだが)。



4日●忘れてはいけない3つのこと
私には忘れてはならないことが3つある。それら3つの言葉を心の中で呟き続けながら夢のなかを歩いていると、あちこちに「罠」のような物が仕掛けてあって、私はそのたびに3つのことを忘れそうになる。「罠」は、水が噴き出してくる細工だったリ、早口で話しかけてくる人だったり、泥を跳ねながら突進してくるトラックだったり色々だ。私は3つの言葉を繰り返し無言で唱えながら、(そう言えば昔話のなかにも、言葉を忘れないように唱えながら歩く話があったけど、あの主人公は途中で「どっこいしょ」と言ってしまったために最初の言葉を忘れてしまった。あの主人公が忘れた言葉は何だったっけ)と思った。そう思った途端に、自分が覚えていなければならない3つの言葉が心から抜け落ち、私はそれをどうしても思い出せなくなってしまった。
【解説】 なにやらわけのわからない夢。夢の中で何か3つの短い言葉を一生懸命唱えていたことは間違いないのだが、夢の最後にすっかり忘れてしまって、今では全く思い出すことが出来ない。なお、夢の最後に登場する昔話は『だんごどっこいしょ』というお話で、主人公が忘れた言葉は「だんご」である。



5日●寺院の石畳を歩く
巨大な敷地の上に、寺院群が建ち並んでいる。土地に緩い勾配があるため、大寺院から臨むと、小寺院が少し低いところに並んでいるのが一望できる。それぞれの建物は落ち着いた瓦屋根で覆われ、実に荘厳で厳粛なイメージだ。建物と建物のあいだは石畳で繋がれている。私はその石畳をひとり歩いている。静謐な空気がみなぎっている。孤高の空間。
【解説】 今夜の夢には自分以外の生きものが登場せず、瓦屋根(土)や石畳(石)など、堅牢で、しかも暖かい大地のイメージがみなぎっていたように思う。寺院全体の風景は、故郷の長野市にある善光寺とどこか似ていたように思う。



6日●もはや人とは呼べない究極の廃人
世界の果てのような場所。草1本ない赤茶けて干上がった大地の上に、バラック小屋が1軒、ぽつんと建っている。ここには1人の人間が住みついているという。その人は、もはや人間と呼ぶことが躊躇されるほど、二目と見られぬおぞましく醜い姿だという。「絶対に見ないほうがいい」「この世のものとは思えない姿の廃人」「気分が悪くなるレベルの生半可な醜さではない。見たが最後、二度と食事が出来なくなる」など、さんざんな噂を聞かされた私は、なぜか無性にその人の姿を見たくなった。それでわざわざ案内人を雇ってまで、こんな地の果てまでやって来たのだ。案内人はさかんに「怖い、怖い」と言いながら、私の横で恐怖に打ち震えている。私は心の中で、(この世に存在する全ての物は、基本的には同じ物質で作られている。だから、たとえどんなに醜くても、見るに堪えないほど醜いはずはない)と考えている。バラック小屋の外側を反時計回りに回りながら、私は扉があるたびにそこを開けて、部屋の中を確かめた。扉を開けるときはさすがに少しドキドキしたが、何か神のような大きな存在に守られているような不思議な感覚があって、恐怖の感情は湧いて来なかった。そうやって3つの扉を開けたが、小屋の中はもぬけの殻である。(おかしいな。「究極の廃人」は単なる伝説の人なのだろうか)と思いながらさらに先へ進み、最後に1つ残っていた扉をガラリと開けると、そこに、体の半分ぐらいが大地と一体化して植物化した男がいた。この人が噂に聞く「この世のものとは思えない姿の廃人」らしい。私は心の中で、(思っていたよりもずっと“ふつう”だ)と思いながら、そのまま男に2つ3つインタビューをした(※ただしインタビューの内容や、彼と何語で話したのかなどは全く思い出せないのだが……)。そのあと気がつくと朝になり、夢にオチがないまま私は目が醒めていた。
【解説】 今夜の夢には、「怖いもの見たさ」の心理と、「真実を知りたい」という欲求が渦巻いて、全体にとてもエキサイティングなものだった。それにしても私は男にどんなインタビューをしたのだろう。気になる。



7日●半球型の墓穴を掘る
目の前に大地が広がっている。その真ん中に、3人の人影がまるで切り絵のように浮かび上がっている。3人の内訳は、私自身と、娘と、その他の誰かである。娘は私のアシスタントらしいが、最後の1人がどうしてここへやって来た誰なのかは不明。3人の姿を、少し離れたところから私がじっと見つめている。向こうにいる私と、こちらの私、どちらが本物なのかはわからない。3人は手に手にスコップを持ち、大きな穴を掘っている。どうやら誰かの墓を掘っているらしいが、穴の形は方形ではなく、完全な半球型だ。そのため穴の中には平らな面がなく、じっと立っていることが非常に難しい。すぐにツルッと滑って転びそうになるってしまう。今も娘が転びかけた。しかし、なぜ墓穴を半球型にする必要があるのだろう。(方形のほうが絶対に棺桶を置きやすくて便利なのに)と思ったところで目覚ましが鳴り、夢は終わった。
【解説】 「墓穴を掘っている自分を少し離れたところから見つめているもう1人自分」という、なんともシュールな夢だった。『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「墓」の意味は「人生の転機/過去と向き合うことの必要性/過去に葬った記憶が蘇る」、「掘る」の意味は「自分の才能を掘り起こそうとする前向きな姿勢の象徴/人間関係の発展」だそうである。



8日●駄菓子屋のふりをするスパイ
私はどこか遠い外国にいる。ホテルのロビーのようなデザインのカウンターがあって、私はそのカウンターを小さな商店として使っている。この商店は、表向きは「駄菓子屋」ということになっているが、実は何か全く別のことが行なわれているようだ。それは何らかのスパイ活動だったかも知れないが、不思議なことに、そのあたりの詳細は自分自身もよくわかっていない。私はこの商店のオーナーで、娘が店を手伝っている。暫くどこかへ出かけていた娘が帰って来たので、私は彼女に何か話しかけている。そのあと別の場所へ行ったように思うのだが、詳しい内容は全く思い出せない。
【解説】 娘に仕事のアシスタントをしてもらう筋立ては、昨日の夢と同じである。墓穴を掘ったりスパイをしたり、娘も私の夢に付き合わされて大変だ(苦笑)。



9日●息が苦しい
呼吸をせずにどれだけ長いあいだ水中に潜っていられるかを試している。実に苦しい。目の前で白っぽい物がゆらゆら揺れている。人魚のヒレか天女の衣だろう。限界まで我慢して、ついに耐えられなくなって水上に顔を出したところで目が醒めた。
【解説】 このところ、風邪なのか花粉症なのか、鼻水と鼻詰まりが交互にやってきて酷い目に遭っている。今夜は寝ているうちに鼻詰まりで呼吸困難に陥りかけたらしい(それでこんな夢を見たのだ)。こういうときに思うのは、(鼻が詰まったのなら、代わりに口を開けて呼吸すればいいのに、なぜ私は口を開けないのか?)という素朴な疑問だ。他の人がどうしているのかは知らないが、私は睡眠中に鼻が詰まっても、頑として口をしっかり閉じたまま寝ているらしい。それで、こういう場面では限界まで耐えてから飛び起き、急いで口を開けて呼吸をするのが常なのだ。我ながらバカみたいである(苦笑)。



10日●理不尽博士
私は大学院の博士課程で新しい学問を修めることにしたらしい。それは「理不尽学」という全く新しい分野で、理不尽を科学し、理不尽を哲学し、理不尽をテーマに博士論文を書くのだそうだ。娘も同じ研究室にいたような気がする。私は白衣を着て、手には試験管を持っている。
【解説】 今夜の夢はナンセンスではあるが、最近自分の身の回りで起こっていることが少しずつミックスしていると考えれば、理解できないこともない。第一に、私はごく近い将来において大学院博士課程に進学しようと思っている。第二に、娘は現実世界でも大学院生である。第三に、息子はこの秋から英国の大学で化学を学ぶことになっており、白衣と試験管はそこからの連想だと思われる。わからないのは、「理不尽」が何を表わしているかである。この世は確かに理不尽なことで溢れているが、私自身は理不尽が常に「悪」だとは思わないし、むしろ「人生は理不尽で出来ているんだから、理不尽を楽しもう!」と開き直っているぐらいだ。もしも理不尽学というものを作って科学的・哲学的に極めたら、それはそれで面白い研究になるかも知れない。面倒だから私はやらないけど(笑)。



11日●激変するA子
お城の庭のような場所。今は初夏なのだろうか、温かい陽光が降り注ぎ、一面にかぐわしい薔薇が咲き乱れている。ところどころに白い丸テーブルと白い椅子が置かれていて、そうしたテーブルのひとつに、知っている顔が見えた。中学校の同窓生だったA子だ。A子は椅子に座って何か難しそうな専門書を読んでいる。その様子があまりにも真剣なので、迂闊に声もかけられない感じだ。私は心の中で、(中学時代のA子はいかにも勉強が嫌いそうだったし、成績も中の下という感じだったが、今頃になって急に勉強を始めたのだろうか。立派なものだ)と感心しながら、A子の邪魔になってはいけないと思い、そのまま黙って立ち去った。その後、暫くそのへんを歩いてから元の場所へ戻ってみると、A子は相変わらず同じ椅子に座っていたが、驚いたことに先刻とは打って変わった醜悪な姿になっていた。この激しい変化は一体何なのだ。私は(悪いものを見てしまった)と思い、A子に気づかれぬよう足早にその場から立ち去った
【解説】 多くの人が経験済みと思うが、学生時代は特に親しくもなかった友人が、なぜか何の前ぶれもなく夢に現われることがある。そういうとき私は懐かしさを感じる以上に、相手のことが少しばかり心配になる。今夜の夢に登場したA子は、中学時代はおよそ勉強などしそうにない、何も考えていないようなフワフワしたタイプだった。今、どこでどうしているのかは知る由もないが、元気でいることを心から願う。



12日●Xさんの月給は“ゴーゴー!”
某出版社で働く編集者のXさん(男性)が、やはり編集者の女性からバーに関する情報を教えてもらっている。その女性は私の高校時代のクラスメートであるK子さんによく似ていた。その後、誰かがXさんに向かって「毎月のお給料はいくらぐらい貰っているのですか」と質問すると、Xさんは淡々とした口調で「55万ジャストです」と答えた。私は心の中で(55は“GO GO!”で語呂合わせがいい)などと思っている。
【解説】 さっぱり意味のわからない夢。Xさんは現実世界の知人だが、お給料がいくらかなんて聞いたこともない(苦笑)。



13日●建築家志望だったウェイターを見かける
娘と娘の友達(建築家)を伴ってレストランに行ったところ、知った顔の男性がウェイターとして働いていた。お盆を片手に忙しく立ち働いているウェイターを見るともなしに見ながら、私は心の中で、(あの人は確か数年前までは建築家志望だったはず。それが何故、今はこうしてレストランでウェイターとして働いているのだろう)と不審に思い、見てはいけないものを見てしまったような気持ちに襲われている。
【解説】 今夜の夢に登場した男性は、現実世界における知人の知人。数年前には建築家(あるいはそれに類似した職業)を目指していたと思う。その後、彼とは二度と逢う機会がないが、風の噂によれば、どうやら建築家の夢は潰(つい)えたらしい。彼が今どこで何をしているのかは知らないし、何故夢に現われたのか心当たりもない。何となく淋しい気持ちになる夢だった。



14日●映画監督は心配症
南インドの映画監督が新しくメガホンを取った連続テレビドラマが、今週からオンエアされるという。前評判は上々だし、マスコミも好意的に取り上げている。何のマイナス要素もなさそうなのに、監督は「視聴率が上がるかどうか」「視聴者からの反響はどうか」と、今からひどく心配して寝込んでしまっている。その様子を、監督の妻は心配そうに陰で見守っている。私は少し離れた場所で一部始終を見守りながら、監督が意外に小心であることに驚き、また、監督の奥さんがあまりにも地味な風貌の“うらぶれた老婆”であることにも落胆している。
【解説】 藪から棒なイメージの夢だった。夢に登場した映画監督は、実際の知人。彼は謙虚な人格者ではあるが、小心者のイメージからは程遠い。また、実際の奥さまは知的職業に就き、自信に満ち溢れた明るい美人である。にもかかわらず、夢に現われた監督はオドオドと怯えきっており、“妻”は、うらぶれた老婆のようなひどい風貌だった。何故こんな夢を見たのか、サッパリ理由がわからない。



15日●土地の登記が書かれた原稿用紙
目の前に原稿用紙の束がある。開いてみると、子どものたどたどしい筆跡で長文が綴られていた。作者の名前欄には、男の子の名前が記されていた。ところが中身を読んでみると、それはナント土地の登記書で、法律などをふまえて書かれた非常に複雑な内容になっている。筆跡の稚拙さと内容の複雑さのギャップに驚いている私。
【解説】 土地の登記書の夢を見た理由は、現実世界でも登記書のことを考えていたからだろうと思う。しかし、登記書が子どもの筆跡で書かれていた理由は皆目わからない。



16日●黒づくめの祝賀パレード
何がどうしてそうなったのか、前後の脈絡は思い出せないのだが、気がつくと広場に大勢の人が溢れていた。私の傍らでは20歳前後の男の子たちが数人、歓喜に咽(むせ)んでいる。彼らは元ヤンキー(或いはそれに近い何らかの過去を持つ人たち)なのだが、その後、何かを一生懸命やったことが誰かに認められて、今日こうして大きな賞を受賞したらしい。それで彼らは感動のあまり泣いているのだ。私は彼らのオブザーバーらしく、彼らの受賞を我が事のように喜んでいる。同じ広場には、ほかにも何か賞を受けた人たちが100人ほど集まっている。皆、20歳前後の若い人ばかりだ。やがて優勝パレードが始まった。前の人たちに続いて私たちも行進を始めたが、列の最後尾を歩いていた私は、自分たちが全員黒づくめの衣装を着ていることに気づき、(これではまるで葬式の行列だ。受賞パレードなのだから、明るい色の衣装を着たほうが良いのではないか)と思った。そう提案してみたところ、皆もすぐに「本当にそう思う」と同意してくれた。すると次の瞬間、私たちの着ている衣装が次々に朱色、瑠璃色、孔雀色、黄金色などの神々しい色彩に染め変えられていったではないか。それはまるで魔法のような光景だ。黒衣装が一瞬にして煌(きら)びやかな色彩に彩られてゆく様子を、私は恍惚とした想いで見守っている。
【解説】 暗闇に一瞬にして灯が点ってゆくような明るい夢で、イメージとしては「未来」とか「希望」を感じさせる内容だった。この夢を見る前日が高野山大学の学位記授与式(修了式)で、会場は黒装束の人々(お坊さん)で溢れていた。今夜の夢には明らかにその情景が影響しているように思う。但し「元ヤンキー」が何を意味しているのかはわからない。



17日●東京のテロを預言する男
国連関係の職員を自称する男がどこからともなく現われて、「今日から2〜3日のうちに都心で大きなテロが起こります。場所は渋谷か青山の近くです」と唐突に言った。男と何の言語で話したかよく覚えていないのだが、確か英語だったと思う。男はさらに渋谷の某テレビ局と青山の国連関係の施設の名前を挙げ、「そこへは絶対に近づかないように」と言い残して去って行った。そのあと場面が急変し、目の前にK君の姿が見えた。K君は歩きすぎて足が痛いらしい。私は心の中で、(K君は足が痛いことを口実にして、誰かに甘えたいに違いない。ここはひとつ騙されたふりをしてK君の足のことを心配してやろう)と思っている。
【解説】 テロの予告とは、随分と物騒な夢である。預言者の男の顔をハッキリとは思い出せないのだが、背が低くずんぐりした体形。黒っぽい服(おそらくスーツ)を着て、肩にかからない程度に伸びた黒髪を無造作にセンターパーツにし、サングラス風の眼鏡をかけた50歳前後の男だったように思う。人種は白人でも黒人でも黄色人種でもない、どこの人か全くわからない風貌だった。単なる夢と言ってしまえばそれまでだが、何となく印象に残る内容の夢だった。夢の後半に登場したK君は現実の知人。年齢は23歳ぐらい。最近、別の人との会話の中で「K君は最近どうしてる?」と話したばかりなので、そのイメージが夢に投影されたのだろう。さらに「足が痛い」に関して言えば、私は昨日、高野山の奥の院から九度山の慈尊院に至る約26キロの山道を歩いた。あいにく大雨が降った直後で、道はドロドロ。そのため歩く際に足のあちらこちらに変な力が入ってしまい、その結果、腿は凝るわ足の爪は痛むわ、現在はかなりトホホな状況なのだ。そんな諸要素がミックスされた今夜の夢だった。



18日●茶碗を左に回転させる
娘とふたりで畳の上にきちんと正座し、両手で持った抹茶茶碗を左方向に回転させている。しかしこの儀式と茶道は無関係のようだ。むしろこのことはピアノに関係があるのだという。茶碗を回すこととピアノにどのような関係があるのかは全くわからないが、私たちは神妙な顔をして茶碗を回している。
【解説】 なにやら突飛なイメージの夢だった。この場面の前にも何か夢を見ていたのかどうか、そのあたりの記憶はない。



19日●突然のメロン
目の前に突然、大きなマスクメロンが差し出された。視界一杯に拡がるメロン(の皮)の模様。贅沢な甘い香り。私は突然現われたメロンにビックリしながらも、心の中で(モスクの屋根の形は、マスクメロンを模(かたど)った物なのか。それならモスクメロンを呼ぶのが正しいのだろうか)などと冷静に考えている。
【解説】 昨夜に引き続き、実に突飛な夢だった。なぜメロンが登場したのか、理由はわからない。そう言えば少し前に高野山の宿坊で夕食後にミカンを出されたとき、(ワンランク上の食事を頼んでメロンを食べたかった)と思ったものだが、もしやアレが今夜の夢の原因?



20日●山田真美死亡
路傍に、黒っぽいグレーのロングコートを着た細身の男が立っている。見知らぬ男だ。葬儀社の社員かも知れない。彼の手には「山田真美死亡」と書かれた小さなプラカードが握られている。私は心のなかで、(なるほど。どうやら私は夢を見ているらしい。自分が死ぬ夢は願ってもない吉夢だ)と思い、道の反対側に立って静かに人々を観察しはじめた。私の死を知った知人たちがどのようなリアクションを起こすか、それを見るためだ。しかし誰も通りかからないうちに目覚まし時計が鳴り、夢から醒めてしまった。
【解説】 今夜の夢は自分が死ぬ夢なのだが、死因や詳しい状況についてはまったく説明されない。しかも、夢のなかの私はそれが夢であることを知っており、周囲の人々のリアクションだけを知りたがっているのだった。どうやら私は自分の死までもノンフィクションのテーマとして捉え、周囲の状況を取材しようとしていたらしい。もしや自分自身の死に関する本でも書こうとしていたのだろうか。ここまで来ると職業病だ(苦笑)。



21日●寿老人モグラたたき
気がつくと私は大きな立方体の部屋のなかにいた。同じ部屋には東大卒の理系の秀才(日本人)がいるようだ。面白いことに、この部屋はそれ自体がモグラたたきの装置になってる。但し、頭を出すのはモグラではなく寿老人だ。寿老人の長い頭が予期せぬところから飛び出してくるので、私たちはそれを見たら即刻、素手でたたかなければいけない。それがゲームのルールだからだ。しかし相手は年老いた神さまである。本気でたたくことは許されまい。かと言って、軽くたたき過ぎるとゲームが成立しない。私たちは難しい数式を使って、最も効率よく、しかも友好的に寿老人をたたく方法を考えている。
【解説】 またしてもお得意の(?)寿老人の夢である。しかし、モグラたたきというゲームを私は1回か2回ぐらいしたことがないので、夢にまで見る理由は本人にもわからない。



22日●竹を植える
2つの班に分かれて何かを競争しているらしい。最初は何を争っているのやら全くわからなかったが、暫くして、私たちが競争しているのは「植林の技術」らしいと判明した。つまり、2班に分かれてそれぞれが別の木を植え、立派な森を作ったほうが勝者なのだ。木は2種類あって、そのうちの1つは竹。もう1つが何の木だったかは、どうしても思い出せない。私は誰かと戦う気が全く失せているのだが、しかし竹は大好きなので、精魂こめて竹を植えることにした。
【解説】 今夜の夢には大勢の人が登場したはず(そして2班に分かれていたはず)なのだが、目が醒めてみると、夢のなかにいたのは自分ひとりだった気がする。そして、実際に見たものと言えば「竹」だけだった。そう言えば私は昔から竹林が好きだ。竹の周囲には何となく霊的な気配が漲っていて、近くにいるだけでこちらまで浄化されるような気がするからだ。『夢の事典』(日本文芸社)によれば「竹」の意味は「仕事の成功や発展/エネルギーが満ちた状態」、「竹林」の意味は「自分や身内の繁栄と健康の証し/結婚や事業の成功」とのことである。



23日●十二単を着て雛壇に座る
気がつくと私は十二単を着て、髪を大垂髪(おすべらかし)にしていた。自分の顔を見ると、どうやら18歳ぐらいに戻ってしまったようだが、実際に18歳だったときと比べて目が細い。心のなかで、(私の目はもっとパッチリ大きかったのに)と不満に思う。しかし、今はお雛様の役柄で雛壇の上に座っているのだから、大きな声で文句を言うことは出来ない。しかも、お内裏様(これから結婚する相手)がすぐに登場することになっているらしいので、ますます静かにしていなければならない。要するにこれは劇なのだと思う。しかも私は私ではない、別の誰かなのだ。私は(お雛様の役は退屈で魅力がないし、こんな目の細い自分の顔は嫌いだ)と思っている。
【解説】 まったく意味のわからない夢だった。そう言えばこのところ何年も、娘のお雛様を飾っていない。この夢を見て急に雛人形のことを思い出したので、来年は飾ってあげようと思う。



24日●女人結界の法を解く
いくつかの道路に女人結界が張られ、法律によって今日から女性はそこを通行できなくなったという。そのため、皆が非常に困っている。私は心のなかで(なんという時代錯誤な法律を作ったのだ!)と憤慨し、結界を解くための儀式をみずから執り行なうことにした。確か空海の著作のなかに結界を解くやり方が書いてあったと思い、私は蔵(?)に入ってその書物を読みはじめた。
【解説】 先日、かつては女人禁制だった高野山の、女性が通れなかった道を娘を一緒に歩いて来た。おそらくそのイメージが今夜の夢になったものと思われる。



25日●誰かの死
誰か知人が亡くなったらしい。不思議なことに、私は死者が誰なのかわかっている振りをしているだけで、本当は誰が死んだのかサッパリわかっていないのだ。つまり、建前としては「誰が亡くなったか知っている」という設定であるにもかかわらず、実際には、誰が死んだか全く知らないのだ。とりあえず葬儀に列席するための準備をしようと思うのだが、なにしろ誰が亡くなったかわかっていないのだから、悲しみようがない。特別な感情が全く湧いて来ぬまま、私は喪服(着物ではなくワンピース)の準備をしている。そのあと最終的には死者が誰であるかわかったような気もするのだが、いつの間にか忘れてしまった。
【解説】 誰か知人が死んだらしいが、それが誰かわからないので悲しみの感情は全く湧いて来ないという、どうにも異様な状況設定の夢だった。そう言えば今月20日には、自分が死ぬ夢を見ている。もしかしたら「今夜の夢で死んだのも実は自分でした」というオチなのかも知れない。



26日●黒ひげ危機一発
気がつくと私は結婚披露パーティーらしき会場にいて、セミの抜け殻のような薄い生地のベージュのワンピースを着て立っていた。袖はなく、肩のところに少しだけフリルが付いていて、どこか天使を思わせるデザインだ。友人の誰かが結婚し、私はパーティに出席しているのだと思う(しかし誰が結婚したのかは定かでない)。目の前のテーブルには黒ひげ危機一発ゲームが置かれている。私はこういうゲームがあまり好きではないのだが、どうやら今はお付き合いでこの遊びに参加しなければならない雰囲気だ。私は顔だけニコニコ笑いながら、実際にはうんざりしながら穴のなかに刀を差しこんでいる。
【解説】 夢日記をつけるために、念のためタカラトミーの公式サイトに行って確かめたところ、このゲームの名前が黒ひげ危機一「髪」ではなく一「発」であることを知った。タカラトミーさんはなぜ、「危機一髪」という四字熟語を「危機一発」と表記しようと決めたのだろう。たかがゲームと言ってしまえばそれまでだが、このゲームで遊んだ子どもは、もしや間違った漢字を平気で覚えてしまうのではないか。だとすればちょっぴり罪なゲームかも。……というようなことを夢から醒めて思った次第。



27日●喪服の襟元が黄金色
100畳ほどありそうな広い和室。私は喪服を着て正座している。部屋には黒い服を着た人たちがぎっしり詰めており、奥のほうからは僧侶が読経する声が聞こえている。それが聞いたこともないお経なので、私は心の中で(これは一体何というお経? この家の宗派は何だろう?)などと思っている。それはともかく、自分の着物の襟元が気になって仕方ない。というのも、長襦袢の襟のあたりが黄金色に輝いているからだ。(何故こんな派手な襟を付けてきたのだろう。葬式に黄金色を着てくるなんて、とんでもない非常識人間と思われるに違いない)と思い、どうにか襟を内側に押し込んで誤魔化そうとするのだが、なかなか上手くいかない。もうすぐ焼香の番が回ってきてしまう。このとき私はバッグの中に半袈裟が入っていることを思い出し、これを纏(まと)って黄金色の襟を隠すことを思いついた。そのあと場面が変わり、どこか遠い外国へ行って来たような気がするのだが、その部分の詳細は全く思い出せない。
【解説】 今月は自分が死ぬ夢(20日)、誰か知人が死ぬ夢(25日)、そして葬儀に出席する夢(27日)と、3度も立て続けに「葬儀」がテーマの夢を見た。夢それ自体は淡々としており、ウェットな雰囲気が全く漂っていないのも共通している。どういう意味があるのだろう。
【後日談】 この夢を見た直後に義兄が亡くなった。義兄は先週はスキーを楽しむほど元気だったようだが、脳溢血による突然の死であった。そもそも私が「葬儀に出席する夢」を見ることは極めて稀で、それが1週間のあいだに3度も続いた直後の義兄の死である。あれはやはり虫の報せだったのだろうか。



28日●列に並ぶ公務員風の男たち
いかにも公務員風な男がふたり、何かを買うため列に並んでいる。眼鏡をかけた平凡な顔。くたびれたグレーのスーツ。彼らはダサダサの大学ノートを持っていて、そこには「正」という字が書かれている。「正」の文字は、何かの数字を表わしているらしい。ノートを見た男たちは、納得したように深く頷いている。
【解説】 今夜の夢にはこの前後にも何かストーリーがあったように思うのだが、思い出せない。



29日●左耳に2つのピアス
鏡を覗いて見ると、左耳にピアス穴が4つも開いていた。目の前のテーブルの上には、同形のピアスが4つ置かれている。直径5〜6cmの金属の輪に無数のビーズがじゃらじゃらと鏤(ちりば)められた、かなり派手なデザインだ。4つのピアスの内訳は、オレンジ色が1つ、ピンク色が1つ、黒が2つ。このうちの2つを左耳に付けようと思う。色の組み合わせとしては「黒×黒」「黒×ピンク」「黒×オレンジ」「オレンジ×ピンク」の4通りが可能だが、私は何故かピンクのピアスは却下しようと思い、可能性から除外した。「黒×黒」と「黒×オレンジ」の組み合わせで迷っているところで目が醒めた。
【解説】 またまた意味のわからない夢。ちなみに現実世界では、私のピアス穴は左右1つずつである。これ以上増やすことは絶対にない。



30日●赤い靴の女の子
「赤い靴はいてた女の子」という歌詞が頭のなかをグルグル回っている。あの歌に歌われた女の子の名前は何と言ったか。思い出そうとするのだが、なかなか思い出せない。確か名字が漢字で名前が平仮名だったように思うのだが。一生懸命考えているうちに、いつの間にか目の前に横浜港が拡がっていた。
【解説】 この夢を見る少し前に、「今年は横浜開港50周年で大きなイベントがある」という話を娘とした。おそらくそのせいで今夜の夢をみたのではないかと思う。なお、赤い靴の女の子の名前を調べたところ、「岩崎きみ」ちゃんであった。名字が漢字で名前が平仮名という記憶は、間違っていなかったようだ。



31日●ステージから飛来した包みを無視する
気がつくと客席にいた。ここはどこかの大ホールなのだろう。少し離れたところに大きなステージがあって、私の席は前から数えて5〜6列目だ。左横には見知らぬ初老の男が座っている。パッと見の感じは国会議員のような雰囲気の、眼鏡をかけた恰幅の良い男性だ。少しくたびれたグレーのスーツを着ている。ステージではこれから何かイベントが始まろうとしているらしいが、それが何なのかは全くわからない。イベント開始まで間があるのだろう、広い室内の至るところを観客が歩き回っており、まだザワザワしている。ステージにひとりの男が現われた。この人は今日の主人公ではないようだが、そこそこ実力を持った人らしい。あるいは彼も政治関係者なのかも知れない。この男も恰幅が良く、着古したグレーのスーツを着て眼鏡をかけている。彼はマイクを通して何か口上を述べた。あたりはまだざわついており、彼の言葉を聞いている者は私と左隣りの男だけだ。左隣りの男はステージに向かって冗談交じりに言葉を返している。それを聞くとステージ上の男は包みのような物を持ち出し、「これが欲しいか」という意味のことを聞いた。私と左隣りの男は、「欲しい」という意思を表わすために笑顔で両手を前に突き出した。ステージ上の男は我々の席をめがけて包みを投げた。その瞬間、私と左隣りの男は今まで突き出していた両手をサッと引っ込めてしまった。包みはひとつ前の席にポトリと落ち、すぐに群衆に踏みつけられてグチャグチャになってしまった。私は心の中で(私も左隣りの男も、どちらもヒドい人間だな)と思っている。
【解説】 何やら意味不明な夢だった。目が醒めてから思ったのだが、今夜の夢に登場したふたりの男たちは、今月28日の夢に登場した公務員風の男性2人組が10歳老けた姿のようだった。この場合の「眼鏡」と「くたびれたグレーのスーツ」は、おそらく「平凡」「退屈」の象徴なのだと思う。実際には私の周囲にこのタイプの男性はいないので、なぜ夢に彼らが現われたのか謎。





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