2009年5月


1日●回文の名前
上から読んでも下から読んでも回文になる女の子の名前を2つ考えるようにと、(おそらくテレビ局から)依頼された。私は紙の上に色々書いて吟味してから、「南奈美(みなみなみ)」「今井舞(いまいまい)」という2つの名前を考えついた。テレビ局の人が「いいじゃないですかコレ!」と喜んでいるところで目が醒めた。
【解説】 目が醒めてから、(我ながらうまく考えたものだ)と思わず笑ってしまった。この夢を見る前には、こんな珍妙な名前を考えたことはないので、これらの名前は睡眠中に夢のなかで考えたものに他ならない。眠っていても脳はしっかり働いているという事実に、改めて感心した。なお、娘が生まれる時に(回文になるという理由だけで)山田真耶(やまだまや)という名前を付けようかと一瞬思ったことがあるのだが、今になってみれば、そんなウケ狙いの名前を付けなかったことは正解だと思う。将来的に結婚などで姓が変わってしまったら、元も子もなくなるわけだし(笑)。



2日●途方もない罪悪感
詳しいシチュエーションは全く覚えていないのだが、私は何かとんでもなく不道徳なことをしでかしたようだ。そのために、とてつもなく深い罪悪感と良心の呵責に苛(さいな)まれている。この罪を告白したら、世間の人々は私を嫌いになるだろう。私は教会の告解(こっかい)の部屋に行って、神父さんの前で罪の許しを乞おうとするのだが、そこにいたのは、何故かキリスト教の神父ではなく仏教の僧侶だった。私は心のなかで(最近の仏教寺院には告解の部屋があるのか。時代は変わったものだ)と変な感心をしている。
【解説】 今夜の夢のなかで、私は何かとてつもない罪悪感と良心の呵責に苛まれていたように思うのだが、目が醒めてみると、それが具体的に何だったのかを思い出せない。しかし、胸の内に黒々(くろぐろ)と靄がかかったような重苦しさはハッキリと覚えている。ひどく疲れる夢だった。



3日●船が沈み、九死に一生を得る
何か避けられない用事があって、今からフェリー船に乗ることになっている。しかし私は悪い予感を拭い去れない。つまり、船が転覆するのではないかという危惧だ。私はフェリー船に積まれているはずのライフジャケットの性能を信じていないので、自前のライフジャケットを2つ用意してから乗船した。1つは自分用、もう1つは一緒に船に乗る息子用である。フェリーに乗って暫くすると、案の定、海がひどく荒れはじめ、フェリーは呆気なく転覆してしまった。備え付けられたライフジャケットはすべてC国産で、穴が開いていたり破れていたりで使い物にならない。乗客たちはあっと言う間に海の藻屑と消えてしまった。私は息子のライフジャケットと自分のライフジャケットを紐でしっかりと結び、離れ離れにならないようにした。海に投げ出された私たちは、恐ろしい高波のなかを漂流している。息が苦しいが、とりあえず今すぐ沈むことはない。誰かが私たちを発見してくれれば、あるいは助かるかも知れない。やがて上空にヘリが現われた。私は非常を知らせる発煙ロケット(?)のようなものを打ち上げた。ヘリが私たちに気づき、大柄な白人の救急隊員がロープを下げて助けに来てくれた。最初、彼は(レディーファーストで)私を助け上げようとするのだが、私は「息子を先に引き上げてくれ」と言った。息子は「母を先に救助してくれ」と言った。救急隊員は「あなた方は体重が軽そうだからふたり一緒で大丈夫だ」と答え、私たちは2人一緒に救助された。
【解説】 『死との対話』のあとがきにも書いたように、私は2002年にパプアニューギニアの海で溺れて死にかけている。あれ以来、私の夢にはときどき“海で溺れる”イメージの映像が現われる。そのイメージは、言うまでもなく死の恐怖と直結しているのだが、今夜の夢では溺れそうになる当事者が息子と私の2人だった。しかも私は両者のライフジャケットが離れ離れにならないように「紐」で結んでいた。この「紐」は赤ちゃんと母親の絆であるところの「へその緒」を意味していたのではないかと、夢から醒めてすぐに思った。息子は来月高校を卒業し、晩夏からは英国での大学生活が始まる。私は(息子より6歳年上の)娘をすでに海外の大学に出した経験があるので、子どもが巣立っていくことには免疫があるつもりだが、やはり下の子が巣立って行くことに全くドキドキしないと言えば嘘になる。息子の安全な海外生活を祈る気持ちが、今夜の夢になったのかも知れない。それとは別に、この夏は7月に鹿児島から種子島までフェリーで渡ることになっている。念のために自前のライフジャケットを持参すべきだろうか?



4日●インド人ばかりのオフィスでバイトする
小さなオフィス。雰囲気としては、地方の警察署または役場の一室っぽい。4個のデスクが向かい合わせに配置されていて、それぞれのデスクには紙のファイルなどが山と積まれている。私はそのうちの1つのデスクで仕事をしている。私の正面左側には、無口だか穏やかで優しい性格の60歳前後のインド男性。彼は係長らしい。その右側はおしゃべりで陽気な50歳ぐらいのインド男性。この人はおそらく主任だろう。私の右隣りには、やはり物静かで博識の50代のインド男性。私はこの係にアルバイトとして臨時雇用された日本人女子大生らしい。3人のインド人はとても優しく、私は大事にされている。私は事務の手伝いをするためにここにいるのだが、何故か金槌(?)で金属を叩いたりして遊んでいる。それを見ても3人のオジサンたちは楽しそうに笑っている。そのあと仕出し弁当を食べたような気もするが、このあたりから先のストーリーはよく覚えていない。
【解説】 この夢を見て不意に思いだしたのは、大学時代、夏と冬の長期休みに長野県庁や長野県警でアルバイトをさせていただいた想い出だ。当時は伯父が長野県警の鑑識課にいたため、伯父の計らいで何度かアルバイトをさせてもらった。そのうちの警察官教養課という部署でのアルバイトは、人間関係が和気藹藹としていて、仕事内容(警察雑誌の編集や図書の整理)も含め、いま想い出しても本当に楽しいものだった。今夜の夢は、登場人物がインド人だったことを除けば、あのときのアルバイト体験を髣髴させる内容だったように思う。



5日●往年のスポーツマンT氏の病気
スポーツ選手として鳴らしたT氏の姿が見える。驚いたことに、T氏は癌で片眼を失い、しかも手術跡がひどいケロイド状になってしまっている。癌は全身に転移しており、T氏の命は危機にさらされているようだ。T氏の往年の活躍を思い出して、私はひどく残念な気持ちになっている。そのあと、人けのない街に出て、空っぽの買い物カートを押しながら雨のなかを高層ビルに沿って歩いたような気がするのだが、詳細は思い出せない
【解説】 この夢を見た2日前に、遅ればせながら映画『ダークナイト』を観た。重要登場人物の顔の左半分だけが焼けただれ、眼球が剥き出しになる場面があるのだが、おそらくそのイメージが今夜の夢に影響しているのだろう。T氏は往年のスポーツ選手。最近もテレビでお元気な姿を見かけたばかりだし、深刻な病気に罹っているとは思えない。何故夢のなかでT氏が重病を患っていたのか、理由は皆目わからない。



6日●手指を舐められる
誰かが私の手の指先をペロペロ舐めている。どうせパンダ(※飼い犬の名前)の仕業だろうと思うのだが、その姿は見えない。そのあと電車に乗ったときも、雑踏を歩いているときも、誰かが指先を舐める感触がした。
【解説】 今夜の夢で私は色々な場所に行ったようだが、何故かその詳細は覚えておらず、ただ誰かが指先を舐めるくすぐったい感触ばかりが気になっていた。さだめし現実世界でもパンダが指を舐めていたのだろう。



7日●高校時代の女友達
すぐ目の前に、高校時代に部活(英語劇部)で一緒だったT美の姿が見える。T美は真剣な表情で私の話を聞いている。その目はキラキラしていて、高校時代と少しも変わっていない。彼女は昔から真剣に人の話を聞く人だった。(T美はいいヤツだ。それにしても私たちの付き合いも長いな)と想い、私は静かに感動している。
【解説】 藪から棒な印象の夢だった。T美と最後に逢ったのは3年前の4月のことだ。港区国際交流協会が主催した私の講演会に来てくれたのである。約20年ぶりの再会だったが、T美は(良い意味で)少しも変わっていなかった。今夜の夢に彼女が現われた理由はわからないが、間違いなく“前向き”なイメージの夢だった。



8日●人のいい泥棒とゲージュツ的な閂(かんぬき)
目の前にドアが見える。このドアの内側には泥棒が住んでいるらしい。ドアには実に不思議なデザインの閂(かんぬき)が付いている。うまく説明できないのだが、閂自体は長さ15センチほどの鉄製の横棒で、その上には非常にゲージュツ的な(というか岡本太郎的な)センスの装飾が施されている。閂の右端に付いたピンク色の飾り(?)を動かすとドアが開くようだ。警察がやって来てチャイムを鳴らした。家のなかにいた泥棒は、訪問者が警察だとは知らずに素直にドアを開け、あっさり逮捕されてしまった。私は少し呆れながら、(この泥棒は今までどうやって泥棒家業を続けてこれたのだろう。人が良すぎる)と思っている。
【解説】 まったく意味のわからない夢。そもそも「泥棒が登場する夢」は、私的にはたいへんレアである。全体にほんわかムードと言うのか、犯罪臭がゼロなのも不思議だった。



9日●15年ぶりに聞く知人の息子の名前
長野県N市の一角とよく似た風景が目の前に広がっている。誰かが私に、ひとりの少年の名前を告げた。それは知人の息子さんの名前である。仮に「竜」としておこう。最後に逢ったとき竜は中学生だったが、あれから早くも15年以上が経ったから、今では彼も30に手の届くオジサン予備軍のはずだ。誰かが私の耳もとで別の少年の名前を告げた。知らない名前だが、その少年は竜と何かが完全に“一致する”のだという。何が“一致する”のか私にはわからないが、黙って見ていればこれから何かが起こり、ふたりが“一致する”瞬間をこの目で見ることが出来るという。私は心のなかで(竜は母親似だったから、今頃は肥満体になっているだろう)と思っている。
【解説】 またしても藪から棒な夢だった。そもそも、この知人とは15年以上逢っていない上に、最近は思い出したこともない。その息子さんに至っては、この夢を見るまで存在すら忘れていた。今夜の夢にはその彼が名前だけ登場した(本人の姿は見えていない)。全体に不可解な夢だった。



10日●田舎の駅舎にて
田舎の小さな駅舎。壁に掛けられた丸いアナログ時計によれば、今は夕方の4時53分だ。私はこの次の電車に乗って、湯田中(?)方面にある温泉へ行こうとしている。今夜はそこで泊まる心づもりのようだ。私には連れがいるらしいが、その人は所用ですぐそこまで行っている。私は連れの帰りを待っている。
【解説】 一種ノスタルジックな夢だった。時計の針が異様なほどハッキリ見えたのが印象的だった。ちなみに湯田中は、野生の猿が温泉に入りに来る“地獄谷野猿公苑”で有名な長野県北部の温泉街である。



11日●火山爆発について話し合う魔女
もうすぐ火山が大爆発するという。そのことで魔女たちが会議を開くことになった。魔女会議への召集の手紙が私にも届いた。そこには会議の具体的な日時や場所は書かれておらず、代わりに、カタカナ4文字の言葉が記されていた。それは「ペ」で始まる言葉だったような気がする。
【解説】 まったく意味のわからない夢。そう言えば20年ほど前、仲の好い女友達6人で「魔女クラブ」というものを結成していたことがある(怖いネーミングだが実際にやっていたことは食事会やら旅行などフツーの女の子のすることが殆ど。今夜の夢に出てきたのは、そのときのメンバーの女性たちだったかも知れない。



12日●知人の息子の死
誰だったかどうしても思い出せないのだが、知人の息子さんが亡くなったようだ。さほど親しくない間柄の人なのか、私は特に悲しんでいるわけでもなく、葬式に行く気配もない。
【解説】 今夜の夢にはもっと細かなストーリーがあったはずだが、思い出せるのはこの部分だけ。



13日●ホテル2階の中華料理店
私はどこか旅先にいて、少しばかりノスタルジックな気分になっている。そろそろ日暮れが近いというのに、目的地はまだ遠い。今夜はどうしようかと思っていると、誰かが「あのホテルの2階にある中華料理店は素晴らしいですよ」と教えてくれた。「あのホテル」とは、駅前にある高級ホテルだという。少し歩くと、くだんのホテルが見えてきた。それは高級ホテルでありながら派手なところが少しもなく、むしろシックで目立たない佇(たたず)まいだ。外から見ただけで、2階部分が広々とした中華料理店であることがわかった。そのフロアからは暖かな赤いライトが漏れているのだ。中国風の赤い提灯がたくさん提がっている。私は昔旅したことのある北京郊外の胡同(フートン)を思い出して、ますますノスタルジックな気分になっている。
【解説】 今夜の夢はとても幻想的で、ストーリーらしいものがほとんどなく、まさに“夢のような夢”だった。ちなみに、北京郊外の胡同へ行ったのは『ブースケとパンダの兄をたずねて三千里』の取材のためだ。6年前(2003年3月)の出来事である。



14日●パーティー直前に探し物をする
気がつくと私は見知らぬ場所で何かを探していた。あたりは丘陵地帯だ。公園のようにも見えるが、樹木は低い。おそらく日本国内なのだろうが、解放的な空間や人間の少なさがヨーロッパ的である。私のすぐ横には幼い娘と息子(それぞれ小学校低学年と3歳ぐらい)がいるようだ。私たちはこれからパーティーに出席するらしい。招待状によれば、パーティーは午後4時から6時までとなっている。今はもう3時を少し回ったところだ。ここからパーティー会場までは小一時間かかる。しかも私はまだ着替えも済ませていない。にもかかわらず、こうして小高い丘の上で何かを探しているのだ。気持ちはさほど切羽詰まっていないが、ほんの少しの悲壮感と諦感が既に混じっている。始めのうち私は犬のリードを持っていたのだが、それが段々と探し物の邪魔になってきた。すると、どこからともなく長野市職員のKさんが現われて(※あるいはKさんは最初からそばにいたのかも知れない)、「犬の世話は私がしましょう」と申し出てくれた。その犬はずっと昔に飼っていたポチ(雑種の白い柴犬、オス♂)だった気がするが、定かではない。Kさんが犬を預かってくれたので、物理的にも精神的にもとても楽になった。私にはもっと可愛がっている犬(おそらくブースケのこと?)がいるのだが、その犬は安全なところに保護してあるから心配ない。私は子どもたちのほうを向いて、「急いで着替えてパーティーに行こうね」と告げた。いつの間にか母もそばにいたような気がする。夫は別の場所から直接パーティー会場に行くらしい。私は心のなかで(しかし今から行くのでは、どんなに頑張っても4時には間に合わないし、下手をすると6時にも間に合わないかも知れない)と思っている。
【解説】 今夜のパーティーで象徴的だったのは、(1)実際には大学院生と高校卒業直前の子どもたちが小さな子どもの姿になっていたこと、(2)昔飼っていた犬が登場したこと、(3)長野市職員のKさんが登場したことである。このうち(2)の犬は「ポチ」という名の雑種の柴犬だ。人から無理やり押しつけられて飼うことになった犬なのだが、私はこの犬とあまり相称が良くなく、しかも子育てで忙しかったので、あまり可愛がってやらなかった。ポチが死んでから20年以上になるが、今でもときどき(もっと可愛がってやれば良かったな)と思うことがある。(3)のKさんからは、現実世界でも昨日お電話をいただき、講演会を依頼された。夢のなかで探していたものが何なのかは最後まで全くわからなかった。



15日●昭和枯れすすき的な男女
昭和中期に建てられたと思われる2階建ての安アパート。2階の部屋に一組の男女がいる。何となく“わけあり”の匂いがするふたりだ。男の姿は良く見えないが、年の頃なら40前後だろうか。無造作に布団に転がったその姿には、“その筋の人”っぽい色気がある。女も40前後で、浴衣を着ていて、どことなく水商売の雰囲気がある。ふたりとも徹頭徹尾“和”のイメージだ。女は窓を開けて、洗濯物干しに1本の手ぬぐいを干した。その手ぬぐいには「祝」という真っ赤な文字が染め抜かれていた。日の丸も描かれていたかも知れない。何かひどく右翼的な手ぬぐいだったと思う。私は心のなかで(こんな手ぬぐいを表に干したら近所の人から変な目で見られるのではないか)と彼女のことが心配になるのだが、よく見ると近所の家ではもっと右翼的なデザインの布や鯉のぼりを高々と掲げているのだった。今日は何かの祝日なのかも知れない。それにしてもここは東京らしいが、どの家も平屋か二階建てで高いビルはひとつも建っていない。そのあと男女がどうなったのかはわからない。
【解説】 ずいぶん昔に大流行した『昭和枯れすすき』を髣髴させるような、少しうらぶれた、しかし男女の関係としてはなかなか色っぽいふたりであった。しかしなぜこんなレトロな夢を見たのか、理由はサッパリわからない。一つだけわかるのは、現実世界でも昨日は手ぬぐいを買っており、それが夢に投影されたらしいということだ。但し、実際に買った手ぬぐいには「祝」の文字も「日の丸」ももちろん描かれていない。



16日●……
【解説】 今朝は夢の内容を簡単にメモしてから朝食を作り、洗濯をし、そうこうしているうちに外出の時間になったので外出し、1日忙しく働いて帰宅してみると、パソコンの近くに置いたはずのメモがなぜか見当たらない。無意識にどこかで捨ててしまったのだろうか(昨日はゴミ収集日だったし……)。そんなわけで、今日は見た夢の内容をすっかり忘れてしまった。


17日●箱からこぼれた時間と計画
目の前の通路に箱が落ちている。箱は横倒しになっており、中身が外にこぼれていた。物は2つあって、どちらも形のない何かだ(それは「時間」と「計画」だったような気がするが、ハッキリとは思い出せない)。
【解説】 このところ、とにかく恐ろしく忙しい。やりたいことは明確に存在するのだが、それ以外の“憂き世の義理”的な仕事が山積しているために、なかなか本当の仕事を始められないのが実情だ。夢のなかで箱からこぼれていたものは、現実のなかでなかなか着手できずに放置されている物たちだったのかも知れない。



18日●頼近さんの白いスカート
夜の公園。元アナウンサーの頼近美津子さんが、少し長めの白いスカートの裾をふわふわ揺らしながら駆けている。闇のなかで、その白さが異様なほどに際立っている。これは白い喪服なのだろう。私は心のなかで、(きっと旦那さまの鹿内さんが亡くなったのだな)と思っている。頼近さんは、まだ30歳になるかならないぐらいの若さだ。そう言えば旦那さまがご健在の頃、頼近さんはお子さんの教育をすべて英語で行なっていると仰っていた。(両親とも日本人でありながら英語で育児とは、一体どういうことなのだろう)と私は不思議に思っている。そのうちに白いスカートは見えなくなってしまった。
【解説】 頼近美津子さんと言えば、フジサンケイグループのトップの男性(1988年に逝去した鹿内春雄氏)と結婚なさり、その「玉の輿」ぶりや、育児はすべて英語で行なうといったライフスタイルが取り沙汰されたものだが、最近はどうしていらっしゃるのだろう。特にファンだったわけでもないので、今夜の夢に急に現われたのは奇妙なことである。
【後日談】 この日記を付けたわずか半日後、インターネットニュースで頼近美津子さんの死去を知った。死因は心不全で、享年わずか53歳だったという。「まったく関係のない人のことを急に考えたり夢に見ると、その人が2〜3日以内に亡くなる」という一種の怪現象を、私は大学時代からときどき経験している。例えば作家の立原正秋さんが亡くなる3日前には、それまで一度として興味を持ったことのなかった立原さんの作品を(書店の店先で)急に猛烈に読んでみたくなり、その場ですべての文庫本で買い込んで帰宅。そのまま作品にのめりこんで3日後に読了したのだが、その直後にテレビニュースで氏の死を知ったのであった(氏が闘病生活を送っていらっしゃったことは当然少しも知らなかった)。このときは、急に血眼になって立原さんの作品を読み始めた私の姿を友人や家族が見ていたため、立原さんの死のニュースを聞いた際には、私以上に彼らのほうが仰天していた。そんな例がこれまでに何度もあり、今夜の頼近さんの夢もまたそういうことだったようだ。それにしても赤の他人(それも何の接点もない相手)の死を感知するのは、一体どういう理由からなのだろうか。親しい相手の死期を悟るなら話はわかるのだが……。いずれにしても、頼近さんのご冥福を心からお祈りしたい。



19日●無人の大地を旅する
巨大な大陸。私は遥か上方から鳥のようにその風景を俯瞰している。この大陸には赤茶けた大地があったかと思えば、緑の生い茂ったジャングルも混在している。人間の姿はまったく見かけない。しかし不思議なことに、私はこの大陸に「ひどく懐かしい気持ち」を感じている。気がつくと私は地上にいて、高速走行する小さな乗り物(大型バイク?)に乗っていた。どこを目指しているのかはわからない。まっすぐに伸びた1本の道を時速150キロほどのスピードで突っ走って行くと、途中まで行って(これでは方向が逆だ)と気づいた。あわてて後ろを向き、今までと180度逆の方向に向かって走り出した。このあたり一帯は平坦な大地だが、左側に屏風のように聳える巨大な山があって、その山肌を見た瞬間、私は(以前、スティーブがここへ来たと言っていた)と思う。前人未到の道かと思っていたが、どうやらここは既にスティーブとその仲間たちが踏破した道のようだ。私はますます懐かしさを募らせながら、人間はおろか動く生き物が全くいないこの大地を移動し続けている。
【解説】 一言でいうと徹底的に孤独で、人間が(と言うよりも生き物がいた頃の地球が)懐かしい夢だった。夢の途中で登場したスティーブは友人のアメリカ人である。そう言えば彼に電話をすると約束したきり、すっかり忘れていた。電話しなくては。



20日●歌手のS子さんがスキーで暴走
気がつくと目の前が雪で覆われており、有名歌手のS子さんがスキーで滑走していた。私は地上数メートルの高さからその光景を見ている。雪の白さが眩しい。S子さんの位置が移動するにつれて私の視点も自動的に移動するので、あたかも自分がスキーをしているような臨場感がある。S子さんはスキー初心者のようだ。にもかかわらず、彼女が履いているスキー板はまったく止まらない。それどころかどんどんスピードを上げて、時速200キロは超えているのではないか。S子さんは「あれ、止まらない。怖い、怖い」と呟いている。彼女の声はマイクを通じてスタッフルームにも聞こえているようだ。スタッフのひとりは芸能人のIさん(男性)だ。Iさんは、恐ろしいスピードで暴走するS子さんの映像を見ながら「これはまずいな」と言い、スキー靴と板を装着した。どうやら彼のスキーの腕はプロ級のようだ。目にも止まらぬ速さでS子さんに近づいたIさんは、無事にS子さんを救出した。私はホッと安堵しながらも、心のなかで(とても感動的な光景だったけれど、このふたりにロマンスはあり得ない。なにしろS子さんは面喰いだから)とシニカルなことを思っている。
【解説】 昨夜と今夜の夢は、どちらも「高いところから地上を俯瞰する」「高速で移動する」という2点で共通していたように思う。S子さんは好きな歌手だが、私はIさんにはまったく興味がないので、夢に現われた理由がわからない。



21日●臨月の航海
船が前後に大きく揺れている。ふわんふわんとした、やわらかく定期的な揺れ方だ。気がつくと、私の腹部は丸く大きくせり出していて、おなか全体が波のように畝(うね)っている。どうやら今は臨月で、そろそろ赤ちゃんが生まれ出ようとしているらしい。(しかし、リアとナサはもう生まれたはず。今度は誰が生まれるんだっけ?)と思ったところで目が醒めた。
【解説】 なんだか“夢でも見ているような”(笑)、不思議な気分の夢だった。自分が妊娠あるいは出産する夢は過去にも何度か見たことがあるが、今日の夢のなかでは、リア(23歳の娘)とナサ(17歳の息子)が生まれたことは覚えており、「さて3人目なんていたかしら?」と冷静に考えていたのが我ながらおかしい。『夢の事典』(日本文芸社)によれば、「自分が妊娠する夢」の意味は「才能が開花する予兆」、「臨月」の意味は「今まで頑張ってきたことが実を結ぶ報せ/目標達成まであと一歩」だそうである。


22日●美女と拳銃
建物の外側の壁に張り付くようにして、女優の釈由美子さんによく似た美女が歩いている。その姿は、まるでスパイか忍者のようだ。彼女は部屋の内部の様子を窓越しにそっと覗き見たあと、やにわに手を伸ばし、部屋の中にある机の引き出しを開けた(注/窓は最初から開いていたのだと思う)。彼女は引き出しの中に入っていた拳銃を取り上げ、部屋の奥に向かって狙撃のポーズをした(発射はしていない)。そのときどこからともなくコメディアンの谷啓さんによく似た中年男性が背後から現われて、「勝手に拳銃を使うのは、さすがにマズイんじゃないの?」と呆れたように言った。このふたりはグルなのかも知れない。そのあと釈由美子似の美女は建物の奥のほうへ堂々と歩いて行き、複数の人と逢ってさまざまな会話を交わしていた。しかし、そのあたりの詳細はどうしても思い出せない。最後に見たとき、彼女の手のなかには拳銃が入っていた。誰かが「この夢には続きがあるらしいですよ」と私に告げた。(えっ?)と思った瞬間、いきなり目が醒めてしまった。
【解説】 今夜の夢には何か理路整然としたミステリー仕立てのストーリーがあり、美女とそれ以外の人々との間ではキチンとした会話が交わされていたのだが、目が醒めると同時にすべて忘れてしまった。「拳銃」にどんな意味があるのか気になったので『夢の事典』で調べてみたところ、「破壊的衝動/攻撃を受けることの不安」だそうだ。現実世界では、この夢を見る直前の5月21日午後11時頃、ブースケを連れて近所の公園を散歩中にノーリード(手綱を付けていない状態)の犬にいきなりブースケと私が噛まれるという事件が起こったばかりだ。そのときのショックと不安が私のなかに残っていて、それで拳銃の夢など見たのかも知れない。ちなみに、噛みついて来た犬の飼い主は女性ではあったものの、釈由美子さんには全く似ていなかったし、そもそも美女ではなかったが……。



23日●奥さんが入れ替わる
最初に何か楽しい雰囲気のストーリーがあって(但しその部分の詳細は一切思い出せない)、気がつくと目の前にOさんがいた。Oさんは女友達の旦那さまだ。私は2〜3回しかお目にかかったことがないが、とても夫婦仲が良く、奥さん想いの男性というイメージがある。ところが今、Oさんの隣にいる女性は私の女友達ではない。女友達に似てはいるが、別人なのだ。私は目の前の女性が誰だったかを一生懸命思い出そうとしている。Oさんは、まるで妻に対するような態度でその女性に接している。私は次第に混乱してきて、(あれ? もしかしたらOさんの奥さんは最初からこの女性だったっけ?)と思いはじめている。
【解説】 夢から醒めて急に思ったのだが、Oさんの妻役で夢に登場した女性は、遠い友人(友人の友人)であるK子さんだったかも知れない。そう言えばK子さんは私の女友達とよく似ている(ただし年齢はK子さんのほうが10歳ほど下)。現実世界では考えたこともなかった相似形を夢に教わった感じだ。



24日●ヒップラインに気をつけろ
気がつくと学校の教室のような部屋にいた。室内には数人の男女が押し黙ったまま立っているが、彼らの顔が私からはよく見えない。皆と向き合う形で、ひとりの女性が立っている。彼女がここのガイド役らしい。年齢は55歳〜60歳ぐらい。眼鏡をかけ、冴えない髪型に冴えないファッションの冴えないおばさんだ。彼女は人前で話し慣れていないらしく、はにかみながら15秒ほど発言した。それはヒップラインに関する話だったと思う。「……というわけですので、皆さん気をつけてください」と照れながら話すおばさんを前に、皆は能面のように表情も変えずじっと黙っている。おばさんの話が終わると、皆はゾロゾロと扉から出て行った。私も外へ出ながら(それにしても何故ヒップラインなんだ?)と思っている。
【解説】 まったく意味不明な夢だった。現実世界ではヒップラインに関する話などしたことがない。



25日●可愛くて懐かしいオバサン
前後関係が全く思い出せないのだが、私はひとりのオバサンと一緒にいた。オバサンは、遠い昔にどこかで会ったことのある人なのだと思う。ひどく懐かしく、温かな気持ち。オバサンはふっくら丸顔で、目がパッチリ大きい。年は60を過ぎているに違いないが、とても可愛らしい人だと思う。私はこのオバサンから何かを受け取ることになっているのかも知れない。
【解説】 今夜の夢にはもっとストーリーがあったような気もするのだが、残念ながら詳細は思い出せない。



26日●大きな壁
大きな建物の外壁に右手を当てて、時計回りに歩いている。とても孤独で茫漠とした雰囲気。
【解説】 今夜の夢には具体的な物語はなかったように思う。高く聳えた大きな壁が、「人間の無力さ」とか「他者と理解し合えない隔絶された様子」を表わしていたような気がする。なんとなく(イメージ的に)ヒマラヤを思い出させる夢だった。



27日●計算が合わない
眼鏡をかけた初老の女性の姿が見える。いかにも「オバサン風情」の女性ではあるが、彼女は意外にも職場の重要なポジションについているらしい。私を含む大勢の人間が廊下に並んでいると、彼女がやって来て我々が持っている何か(書類?)に目を通し始めた。前後関係はよくわからないが、それらの書類の数字を計算したところ、どうやら計算が合わないようだ。彼女が低い声で小さく「計算が合わない」と呟いたところで目が醒めた。
【解説】 最近、3回も続けて「オバサン風の女性」が登場する夢を見た(24日・25日・今日)。オバサンは私に何か言いたいのだろうか?



28日●平仮名4文字の言葉
息子が何か暗号のような言葉を私に伝えようとしている。それは平仮名で書けば4文字だが、まったく意味をなさない音の羅列に過ぎない。しかし息子が何度も同じ言葉を繰り返しているからには、そこには何か深い意味があるのかも知れない。「一体、何を言ってるの」と問いかけてみたが、それに対する返事はなかった。
【解説】 起床してから、夢で聞いた言葉を思い出そうと5分ほど努力したのだが、やはり思い出せなかった。そもそも意味をなさない言葉だったのだから、思い出したところで仕方ないのかも知れないが……。



29日●自動車ごと池に突っ込む
私は友人のKさんが運転する車に乗っている。助手席にはKさんの奥さん、私は後部座席に座っていたと思う。突然、何の前ぶれもなく、車が静かに池のなかに突っ込んだ。もっと正確に言えば、気がついたら車は既に池のなかにいて、車体の上半分だけを水面から上に出したままプカプカ浮いていたのだ。水中に細長いパイプのような物が通っていたような気がするが、それが何だったのかはわからない。池のなかに投げ出されたというのに、Kさん夫妻も私も別に困ってはいない。それどころか、少なくとも私に関して言えば浮き浮きするような楽しい気分だ。私は心のなかで(しかしそうは言っても、ここにじっとしていると車体と共に水底に沈んでしまう)と思い、ここから脱出することにした。次に気がついたとき、私は無事に車から脱出して、どこか見知らぬ道を歩いていた。不思議なことに衣服は全く濡れていない。私はそのことを少し不思議に思っている。
【解説】 夢から醒めてすぐに、(これは「水難の相」の夢だろうか? その割に楽しいイメージが漂っていたのは何故だ?)と思った。魚座生まれのせいか、私は子どもの頃から水遊びが大好きだ。今夜の夢には自動車ごと水遊びをして来たようなワクワク感すら漂っていた。



30日●金さん
気がつくと、目の前に眼鏡をかけた丸顔の男性が微笑みながら立っていた。この人の名前には「金」の字が入っているので、皆から「金さん」と呼ばれているようだ。私は「キム・ジョンイルさんとは御親戚ですか」と聞きかけて、やはりやめることにした。
【解説】 この夢を見て、そう言えば学生時代のアルバイト先に「金さん」と呼ばれている男性がおり(注/今夜の夢の登場人物とは別人)、その人のお顔がキム・ジョンイル氏によく似ていたことを思い出した。バイト先で逢った金さんは、今はどこでどうしているだろう。



31日●陳腐なアニメのテーマソング
目の前にたくさんの漫画がある。そのうちの1冊が「若い人たちのあいだで大流行」しているというので、読んでみることにした。読み始めてすぐに「これはヒドイ」と思った。なにしろ絵が三流、いや四流なのだ。ストーリーも生温く、何の刺激もない。その漫画は、いつの間にか(同じストーリーと絵柄の)アニメに変わっていた。テーマソングが流れているのだが、それは昭和50年代を髣髴させるような平凡なメロディーで、いかにも桑田まり子あたりが歌っていそうな人畜無害な曲だ。歌詞も「私があなたを愛し続ける理由は、あなたを愛する私の気持ちの力にあるの」というヘンテコなものである。理屈っぽいというか、馬から落ちて落馬したような歌詞だ。その陳腐なメロディーが、いつまでもいつまでも、しつこく耳の奥で鳴り続けている。
【解説】 わけのわからない夢。「桑田まり子」という懐かしい名前が飛び出したのも衝撃的だった(笑)。若い人は知らないと思うが、桑田まり子さんは一時期アイドルとしてブイブイ飛ばし、「How! ワンダフル」とかいう曲が1曲だけヒットし、そのうち株屋さんだか土地転がしだか忘れたが、怪しげな男とのスキャンダルと共に消えてしまった歌手である。綺麗な女の子だったが、今はどこでどうしているのだろう。もう50歳近いはずだが……綺麗なマダムに成長できたのだろうか。





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