2010年4月


1日●いきなり公用語が変わる
狭い部屋に正装した数人の人が集まっている。私もそのなかのひとりだ。この世界での公用語は今までずっと英語だった。ところが今しがた通達が届き、今日から公用語は○△×語に変わったというではないか○△×語なんて聞いたこともない言葉だ。語源的にはヘブライ語やアラビア語に近いようだが、その後独自の変遷を重ねて、今はそのどちらとも違う言語になっているらしい。世界中を探しても、この言語に精通した人は数人しかいないだろう。部屋の中のひとりが困り果てた顔で"Mrs. Yamada, do you speak this ○△×language?"(山田さんは○△×語を話せますか?)と言った。私は笑いながら"No way! But if you give me one full day, I will manage to speak it somehow."(まさか。でも1日くだされば何とかモノにしますよ」と請け負った。そのあと何か面白い展開があったような気がするのだが、残念ながら思い出せない。
【解説】 昨夜は鳩山由紀夫首相も臨席なさったアラブ関係のパーティーに出席した。パーティー会場での公用語はアラビア語。鳩山首相のスピーチはアラビア語に訳されたが、当然のことながら英語には訳されなかった。パーティーには英語圏の国の大使が数人いらっしゃっていたので、アラビア語も日本語も出来ない方にとってはチンプンカンプンのパーティーだったに違いない。そのイメージが早くもこんな夢となって現われたようだ。



2日●死者との思い出
目の前に、次から次へと死んだ人たちが現われて、過去の思い出が走馬灯のように再現されている。私はそれを黙って見ている。時系列はランダムで、つい最近死んだ人が現われたかと思うと、その次には40年以上前に死んだ人が現われ、そのあとはまた近頃死んだ人が現われるといった具合だ。登場人物は多彩で、直系の先祖、仕事の取材で一度しか会ったことのない人、子どもの頃に近所に住んでいた名前も知らないおばあちゃん等々。夢の中で私は、(そうそう、忘れていたけど、そういえばこんな人がいたよね!)、(そういえば、かつてこんな会話が交わされたことがあったっけ!)と、いちいち心の中で驚いている。そして最後には、そんな詳細なことまで記憶している“人間の記憶力”というものに我ながら驚嘆している。
【解説】 今夜の夢を見る直前、知人が亡くなったという連絡を受けた。知人とは、カウラ戦争捕虜収容所に収容された経験を持つ佐々木仁朗さん。拙著『ロスト・オフィサー』にも登場する、かつての陸軍将校だ。佐々木さんも今夜の夢に現われた。夢の中の佐々木さんは寡黙で、とても淋しそうな眼をしておられた。



3日●講演会スケジュールがわからない
大きな講演会場(横浜パシフィコに似ているが、少し違う)。部屋の中にさらに大きなテントがいくつも設営されており、それぞれのテントには20〜30人ほどの人々が椅子に座って出番を待っている。彼らはこれから分刻みで行なわれる講演の講師たちなのだ。私は今日これから少なくとも3つの講演会でレクチャーをすることになっている。最初の会場はここだったと思うのだが、なぜかスケジュール帳が見当たらず、自分が行くべき場所がわからない。日本文化デザインフォーラムの仲間がどこかにいないかと思い、会場内を探すのだが、知った顔はない。テントの中で、どこかで一度だけ会ったことのある大学教授然とした初老の男性を見かけた。私は彼に(私のスケジュールに関することで)何かを尋ねたのだが、捗捗(はかばか)しい答えは返って来なかった。ここでノロノロしていたら講演会に間に合わない。私は焦りながら会場内を駆け回っている。
【解説】 ひどく疲れる夢だった。目下、やらなければならない仕事(しかも納期は過ぎている)を3つばかり抱えている。毎日が実に忙しく、時間は飛ぶように過ぎてゆく。その気持ちが現われた夢なのだろう。



4日●難しい試験に合格
誰が何の試験を受けたのか、詳細は全く思い出せないのだが、合格の報せが届いて私は大いに喜んでいる。それは難易度の高い試験だったようだ。スーツを着た西洋人の姿。彼は試験官、あるいはそれに類した人だったのかも知れない。
【解説】 詳細はわからないが、ともあれ嬉しい夢だった。その証拠に、目が醒めたとき非常に心が弾んでいた。



5日●妖精のように空を飛ぶ
最初に何かハプニングがあって、それが原因で私は空を飛ぶことになった。すぐ横には、中学生ぐらいの女の子がひとり。私にはこの子を守る義務がある。私は女の子を抱えて空を飛ぼうとしている。場所はどこか山の中だ。この道は信州の山小屋へと続いているらしいのだが、現実の風景とはかなり違っている。最初のうち私は飛び方がわからず、空中に浮かびかけては地面に落ちてしまう始末だった。女の子が大声で何か叫んでいる。「飛ぶなんて無理に決まっている!」と言っているようにも「きっと飛べるよ!」と言っているようにも思えるが、どちらでも構うものかと私は思っている。これぐらいの年頃の女の子の気持ちなんて、猫の目のように毎秒ごとにコロコロ変わるのだから。それに女の子が何を言おうと、私は絶対に飛ばなくてはいけないのだ。2度目の挑戦で、私は女の子を片手で抱きかかえたままフワリと2〜3メートルの高さまで舞い上がった。と思う間もなく凄いスピードが出て、私たちはターザンごっこでもしているようにヒューンと風を切って空を飛んでいた。女の子が喜んでキャアキャア騒いでいる。私の飛び方には一種独特のリズムがあって、一気に数十メートル飛んだかと思うと、空中で2〜3秒停滞し、そのあとまた一気に数十メートル飛ぶのだ。風を切って一気に進む気持ちよさ。何とも言えないスリリングな快感だ。私はピーターパン、女の子はティンカーベルに似ているかも知れない。そうやって何度もヒューンヒューンと風を切って進んだ末、目的地まであと数メートルというところで目覚まし時計が鳴り、いきなり目が醒めてしまった。
【解説】 とてつもなく気持ちの良い夢だった。空を飛ぶ夢なんて、今まで見たことがあっただろうか。記憶している限りこれが初めてだった気がする。しかも、とてつもなく高いところを飛んでいるのではなく、地面から2〜3メートルしか離れていない低空を飛んでいるのだから少しも怖くはないし、万が一落ちても痛くはないだろう。「空を飛ぶ」+「安心」という、本来ならば相容れない2つの要素が無理なくミックスした理想的な夢だった。



6日●1のゾロ目に魅かれる
あちらこちらに「111」、「1,111」、「11,111」など「1」だけが並んだ値札が立っている。数のあとに付く単位が「円」なのか「銭」なのか「ドル」なのか「ルピー」なのか「それ以外の通貨単位」なのかは、サッパりわからない。値札を見ると、私は瞬時にスイッチを押して、横に置かれた商品を購入する。(完全な11,111中毒だな)と思ったところで目が醒めた。
【解説】 「1」のゾロ目の値段が付いた品物を見ると、片端から買いたくなってしまうというワケのわからない夢だった。ちなみに私は「1」という数字を特に好きではない(と言って嫌いでもないが)。



7日●幸先の良い4人姉妹
美しい4人姉妹の姿が見える。オルコットの『若草物語』または谷崎の『細雪』のイメージなのかも知れないが、あるいは違うかも知れない。彼女たちは「何かおめでたいこと」をもたらす者たちらしい。この直後に何かが(良い意味で)完成した。
【解説】 何のことか具体的な意味はわからないのだが、とても幸先の良いイメージの夢だった。ただし「4人姉妹」には思い当たる節がない。



8日●都会の駅でターザン
都心のどこかにあるらしい駅。電車が入線してきた。すると、プラットフォームに立っていたひとりの男がいきなり数メートル跳躍し、入線してきた電車の吊り革に飛びついた。そして、吊り革を大きく揺すったあと、さらに数メートル跳躍して反対側のプラットフォームへと飛んだのだ。居合わせた人々は皆、驚愕のあまり声もたてずに男を見つめている。男は30歳ぐらい。いかにもサラリーマンらしい平凡な背広姿ながら、なかなかのハンサムだ。特に顎のラインががっしりしていて、逞しいイメージ。男は何事もなかったように身だしなみを整えると、そのままどこかへ立ち去ってしまった。
【解説】 一瞬の夢だったが、なかなかインパクトのある内容だった。そういえば、今月5日には自分が空を飛ぶ夢を見た。今夜の夢で跳躍していたのは私ではなく赤の他人だったが、もしかしたら、2つの夢は基本的に何か同じことを示しているのではないだろうか(単なる勘だが)。



9日●試験について立ち話する
55歳ぐらいの白人男性と廊下で立ち話をしている。見たことのない顔だが、夢の中では「昔からの知り合い」という設定になっていていたようだ。私たちが話しているのは、何かの試験に関することらしい。私たちは試験を行なう側の人間(学校の経営者とか教授とか……)のようだ。エレベーターが来たらしく、私たちは手を振って別れた。
【解説】 この夢には前後にもストーリーがあったように思うのだが、目が醒めてみるとこの部分しか思い出せない。白人男性の顔も、起床した瞬間に忘れてしまった。たしか目が大きく、頭のてっぺんが禿げていたような気がするのだが……。



10日●……
【解説】 今夜は仕事で半ば徹夜。夢は見ていないか、見たとしても覚えていない。



11日●桜産婦人科でブースケ誕生
最初に私は、どこにでもあるような桜並木を歩いていた。突然、道がグーンと伸びて、永遠の彼方まで続く桜のトンネルのようになった。あっと思って後方を振り向くと、後ろもやはり永遠の彼方まで続く桜のトンネルだ。猛烈な回転運動が起こり、トンネルの中のすべての物がグルグル回りながらトンネルの先のほうへと吸い込まれてゆく。花吹雪で視界全体がピンク色に染まった。なす術もなく、急旋回しながら春の嵐の中に引きずり込まれてゆくと、場面が変わって私は病院の白いベッドの上に座っていた。腕の中には、生まれたての赤ちゃん。どうやらブースケが生まれたらしい。(ついにブースケが人間になったか!)と思い、感動する私。見ているうちに、赤ん坊の顔は息子に変わり、次に娘に変わり、最後にまたブースケに戻った(ただしそれは犬ではなく、あくまでも人間のブースケなのだが)。ここは桜産婦人科という病院のようだ。誰から教わったわけでもないが、私はそのことを知っている。(退院するときは桜観光のハイヤーを呼ぼう)と思ったところで目が醒めた。
【解説】 最初から最後まで“桜尽くし”の夢だった。このところ現実世界でも毎日のように桜を見ているから、夢にまで桜が現われるのは当然のことだろう。それにしてもブースケが人間として誕生するとは感慨深い。日頃から(ブースケが人間だったらどんなに楽しいだろう)と思っている私にとっては、ちょっとした「悲願達成」のような夢である(苦笑)。最後に登場した「桜観光」は長野市に実在するタクシー会社の名前。思えば子どもの頃、うちの実家では必ずこの会社のタクシーを使っていたものだ。そのイメージが夢に現われたものと思われる。



12日●掘っ立て小屋に暮らすアメリカ人
ジャングルまたは枯れ草の中に、ポツンと一軒、掘っ立て小屋が建っているのが見える。小屋の外には5〜6人の老若男女が立っており、もうすぐ近づいて来るはずの「何か」を待っているようだ。状況をハッキリ思い出すことは難しいが、彼らは第二次世界大戦中のアメリカ人(白人)で、全員が家族なのだと思う。この小屋は、一種の秘密基地あるいは隠れ家のようだ。彼らが何を待っているか、夢の中では完全にわかっていた私だが、目が醒める瞬間に忘れてしまった。
【解説】 夢を文章にしているうちに徐々に思い出したのだが、この夢には何か長大な「前段階」があった気がする。そしてそれは、何やら懐かしく心がすっきりするような夢だったと思うのだが……。



13日●草原に立つ15歳の私
前後関係はわからないのだが、気がつくと私は草原のまんなかに立って風に吹かれていた。一瞬ちらっと見えた自分の姿は15歳ぐらいの少女で、腰まで伸ばしたサラサラのロングヘアが印象的だ。足もとは裸足で、膝丈の白い木綿のワンピースを着ている。私は両手を真横に上げ、目をつむって風を受けている。耳に当たった風がヒュンヒュンと音をたてるのが面白くて、飽きずにそうやって立っているのだ。その口もとには、何の屈託もない幸福そうな笑みが浮かんでいる。「もうひとりの私」が少し離れた場所に立ち、黙って少女を見つめている。草原は緑色すぎるほど濃い緑色で、それが少しばかり不自然な印象を与える。「もうひとりの私」が果たしていつの私なのかは定かでない。
【解説】 ヒュンヒュンという風の音以外にはまったく音のない夢のなかで、濃い緑色とワンピースの純白の対比が際立っていた。私はときどき、「若い頃の自分」を見つめる「もうひとりの自分」、さらにはそれを見つめる「第三の自分」までが登場する夢を見る。そんなときの夢には、決まって音がない。音がない分だけ、何か一種独特の説得力というか、訴えかけてくるメッセージがある。そういえば大昔、桜田淳子さんが「今年も春が来たけれど 去年の私はもういない 最初の恋の思い出と 手紙の束が残るだけ 誰か私を知りませんか 花占いを信じてた15の乙女を知りませんか」と歌っていた気がするのだが、今夜の夢はこの歌を思い出させるものだった。(※そして不思議なことに、この歌のタイトルを知りたくて検索したにもかかわらず一件もヒットしなかった。なぜ?!)



14日●お寺のバスツアーに遅刻しかける
私はどこかのお寺の関係者と一緒にバス旅行をするようだ。公園に集合するよう言われていたが、出発予定時刻の直前になってもほかの仕事を終わらせることが出来ない。ドタバタしているうちに、気がつけば出発時刻の数分前になってしまった。(もう間に合わないかも知れないが、それはそれで仕方のないことその場合は縁がなかったということだろう)と思いながら集合場所を目指して歩いていると、突然、すぐ近くからお経を上げる大声がした。驚いて声のするほうを見ると、道の反対側の公園にお寺の関係者数十人が集まっており、住職が拡声器を使ってお経を上げていたではないか。どうやらこれが「出発の合図」らしい。あまりに派手な演出に呆れながら、私は公園に向かって歩調を速めた。ちょうど住職のお経が終わり、檀家総代らしきアーティスト風の男性が別のお経を上げる番になったようだ。この人のお経が終わると同時に、バスは出発するという。私は林の中を突っ切って、皆のほうに向かって走っている。
【解説】 気を揉んだり走ったりと、どうにも疲れる夢だった。ちなみに実生活でお寺のバスツアーに行く予定はない。



15日●○○○が消える
たった今まで目の前にあったはずの○○○が、忽然と姿を消した。○○○は一軒家ぐらいの大きさで、サイコロのような立方体またはそれに近い形をしている。全体に白い布がかかっていたような気がするが、白ペンキで塗られていたのかも知れない。物質としての○○○が消えると、同時に私の記憶の中の○○○も消えはじめた。私は一生懸命「○○○のことを忘れるな!」と自分に呼びかけるのだが、○○○の印象はどんどん薄れ、それが何だったかも思い出せなくなってしまった
【解説】 目が醒めてみると、○○○が何だったのか全く思い出せない。まるでマジックのような夢だった。



16日●ホテルのレストランで知人を見かける
最初に長い夢を見たのだが、その部分は全く思い出せない。次に気づいたとき、私はブースケを抱いて小ぢんまりとしたホテルの中にいた。それは昭和初期または大正時代に建てられたらしい擬欧風の木造建築で、窓に小さなステンドグラスの灯り取りがあったり、階段の木の手すりに彫刻が施してあったりと、全体にシックで洒落ている。館内で犬を放しても構わないということだったので、ブースケを床に置いてやったところ、嬉しそうに階段を駆け登って行った。私もブースケのあとから階段を登りはじめて、ふと下を見ると、ちょうど階段の横にあるレストランに知人の姿が見えた。学者のTさん(男性)と、その男友達だ。会話をひと言聞いただけで、ふたりが何か研究に関することを話しながらランチョンミーティングをしていることがわかった。私はTさんに声をかけ、驚いているTさんに向かって「ブースケを連れて来ますから、ちょっと待ってください」と告げた。
【解説】 今夜は長い夢を見たのだが、覚えているのはこの部分だけ。昔どこかで見たことのあるような、とても懐かしい感じの建物だったが、それ以上に印象的だったのはブースケの嬉しそうな姿だ。Tさんの男友達には見覚えがない。



17日●「清掃の曲」とパブロフの条件反射
小学生の頃、毎日のように聴いていた曲がある。それは学校の「清掃の時間」に流れていた曲だ。その曲を聴くと、私はパブロフの犬のように反応し、無性に清掃をしたくなる。ふと気がつくと、目の前に友人のSさんがいた。Sさんは遠い目をしながら「子どもの頃、家で毎日のように聴いていた曲があるんです。ところが先日、母にそのことを話したところ、母は『知らないわ、そんな曲、聴いたこともない』と言われてしまいました。これは母がボケたということなのでしょうか。それとも私の記憶が幻想に過ぎないのでしょうか」。言いながらSさんは、その曲を口ずさんた。なんとそれは例の「清掃の曲」だったではないか。「なんという偶然でしょう。私もその曲を毎日のように聴いていましたよ」と私が言うと、Sさんも驚いていた。ところがふたりとも、その曲の題名を思い出せない。何という題名だったかと頭を抱えながらも、私は清掃がしたくてうずうずしている。
【解説】 なんだかおかしな夢である。私には現実世界でも「聴いただけで清掃をしたくなる曲」があるのだが、夢の中で流れていたのはそれとは全く別の曲(ポーリュシカ・ポーレ)だった。



18日●悲しいお別れ
詳細は思い出せないが、最初に私は旅をしていた。見えるのは、とても美しい草原の風景と、見知らぬ白人の若い母子、それに可愛らしい小さな犬。私たちは一緒に歩いて旅をしているのかも知れない。その期間は何日にも及んだようだが、その間の出来事は覚えていない。最後に気がついたとき、とても印象的な音楽が流れており、誰かが死んだことがわかる。死んだのが白人の若い母親なのか、子どもなのか、小さな犬なのかはわからない。それはとても静かで悲しいお別れだった。私は「泣いても仕方がない」ということを知っており、涙を流さなかった。ただ、流れている音楽の美しさがやるせなかった。
【解説】 何が起こったのかよくわからない夢ながら、何か「小さくて美しいもの」との悲しい別れがあったようだ。しかし、そこにあったのは「胸が張り裂けるような悲しみ」ではなく、むしろ「あきらめ」に近い感情だったかも知れない。なぜこんな夢を見たのか、思い当たる節はない。



19日●白い箱の中の誰かの人生
大きな白い箱があって、その中で誰かの人生が進んでゆく。私はそれを少し離れた場所で見ている。その人生の最後に待っていたものは、ちょっと淋しくなるようなエンディングだった。それが終わると箱は去り、次の大きな白い箱が近づいてきて、その中でも別の誰かの人生が進んでいた。この人の人生にも、最後に少し淋しくなるようなエンディングが待っていた。そうやって、いくつもの大きな白い箱が現われては消え、現われては消えてゆく。私はいくつもの箱を見送りながら、(生きるということはそれ自体が淋しいことなのだ)と思っている。
【解説】 夢に現われたのは、果たしてどんな人生だったのか。夢の中ではそれぞれの人生が具体的にハッキリ見えていたのだが、目が醒めてみると何も思い出せない。「大きな白い箱」「誰かの人生」「結末は必ず淋しい」ということを漠然と思い出すだけだ。イメージとしては、今月15日の夢と昨夜の夢を足して2で割ったような夢だったと言えるかも知れない。



20日●……
【解説】 今夜も夢は見たはずなのだが、春の恒例行事(盛りがつく)でブースケが一晩中ベッドのまわりをバタバタ走り回っていたため、当方は睡眠不足。したがって見た夢も思い出せない。



21日●源氏香に似た図表
前後関係をまったく思い出せないのだが、目の前に紙があって、3つの図表のようなものが描かれている。それぞれは縦横斜めの棒が組み合わされた図表で、複雑なあみだ籤のようでもあるし、源氏香の図のようでもある。紙の右側に描かれた図表は、「気位が高く面白味に欠けたブスなお母さん」のイメージ。真ん中の図表は「ニコニコしているだけで毒にも薬にもならないお兄さんかお姉さん」のイメージ。左側の図表だけよく見えないのだが、本命はそれだと思う。このあと場面が変わって結構面白い夢を見たのだが、あいにく内容を思い出せない。
【解説】 何のことやらサッパリわからない夢だった。少し前に源氏香をデザインした素敵なバッグを知人からプレゼントされたが……今夜の夢は、おそらくそれとは関係ないと思う。なぜ源氏香に似た図表の夢を見たのか、思い当たる節はない。



22日●キツネ大蛇が男を呑む
道路の脇に、簡単なフェンスで囲まれた直径数メートルの円形の空き地が見える。フェンスの一部が壊れかかって裂け目が出来ている。ひとりの男がそこから空き地に入った。私も空き地に入ったようだが、もうひとりの私が斜め上空からその様子を俯瞰している。おそらく上空にいる私が「私の本質」で、空き地に入った私は「私の幻影」なのだと思う。一瞬ののち、フェンスの2〜3か所に小さな穴が開いて、そこからいきなりキツネのような薄茶色の動物が駆けこんで来た。ところがその動物は、上半身だけがキツネで、下半身は大蛇なのだ。仮にこの生き物を「キツネ大蛇」と呼んでおこう。穴から入った2匹(あるいは3匹?)のキツネ大蛇は、目にも止まらぬ勢いで空き地の中をぐるぐると走りまわり始めた。彼らの下半身は驚くほど長く、走っても走っても穴からズルズルと続きが出てくる。おそらく体長は数十メートルに達するのではないか。あっという間に、キツネ大蛇の体で空き地が一杯になってしまった。先ほどフェンスの裂け目から空き地に入った私は、キツネ大蛇が入ってくると同時に素早く空き地を抜け出して事無きを得た。しかし、同じく空き地に入っていた男は逃げ遅れてしまい、キツネ大蛇に呑み込まれたようだ。大蛇の腹部がぷっくりと膨れている。どうやらそこに男が入っているのだろう。キツネ大蛇の消化液は強力なので、男は既に溶けてしまった頃だろう。その一部始終を、私は静かに見下ろしている。
【解説】 こうして文字にしてみると、なんとも不気味な夢であった。キツネ大蛇に呑まれた男は、現実世界でも見たことのある顔だったように思うのだが、さてそれが誰であったか思い出せない。覚えていれば(そして、それが親しい人であれば)「変な夢を見たからフェンスや空き地には絶対に入らないように!」と注意を促すこともできるのだが、誰だったか思い出せないのではどうにも仕方がない。



23日●軍人の目をしたお爺さん
ふと見ると、庭に見知らぬお爺さんが立っていた。庭は荒涼としており、風が吹いている。戦場の近くなのかも知れない。お爺さんは「気をつけ」の姿勢で微動だにせずに佇んでいる。目は大きめだが瞼が落ちくぼみ、頬はこけ、それが非常に疲れた印象を与える。戦争が長引いたため物資が不足して、栄養失調に陥っているのだろうか。彼は軍人の目をしている。お爺さんを見つめながら、私は、「『爺』という字はなぜ『父を取る』と書くのだろうか」と思った。「父の跡を取る」から爺なのか、それとも「父が年を取る」から爺なのか。そんなことを考えながら、私はお爺さんを観察している。
【解説】 またまたおかしな夢だった。このところ理由あってカウラ事件を再検証しているので、こんな夢を見たのかも知れない。そう言えば以前、ある人から「『週刊マミ自身』は真美さんの光の部分、『夢日記』は真美さんの闇の部分」という意味のことを言われたことがあるが、言い得て妙である。



24日●……
【解説】 今夜も昨夜にひきつづき「見知らぬお爺さんが登場する夢」を見たような記憶があるのだ。しかし、いつもならば起床してすぐに夢日記を付けるところ、今朝は携帯メールに返事をしたりブースケ&パンダの朝食準備を優先した結果、夢の内容をきれいサッパリ忘れてしまった。教訓。夢はすぐに文章化(言語化)しないと、じきに忘れる。



25日●永久(とわ)のお別れ
最初に、誰かの死が宣告された。私は心のどこかでその人の死を予期していたので、(ついに来るべきときが来たか)という想いで淡々と受け止めている。しかし、心の中には冷たい風が吹き抜けている。私は数人の人たちと一緒に荷物整理を始めた。誰もが黙々と働いているため、そこにいるのが誰なのかはわからない。荷物を整理し終えたら、私たちはどこか遠いところへ引っ越すことになるのだ。外国かも知れない。淋しさに気づかぬふりをして、私は黙々と働いている。
【解説】 一体誰が死ぬことになったのか、夢の中でもその点がハッキリしなかったようだ。しかし若い人ではなかったように思う。中国には「親死に、子死に、孫死ぬ」という言葉があって、それは目出度い意味なのだそうだ。死はすべての人に訪れる自然現象のひとつに過ぎないが、その順番が狂うと悲劇になる。夢の中で死を予告された人は、老人だったと思う。だから私たちの悲しみは「正常の範囲内」だったのだ。



26日●砂漠のまんなかでシュプレヒコールを叫ぶ
気がつくと、埃っぽい砂漠の中を猛然と走るトラックの荷台に乗っていた。荷台には10人以上の男たちが乗っている。全員が、顎といわず鼻の下といわず頬といわず顔の至るところに真黒なヒゲを生やして頭に布を巻きつけた、驚くほど目鼻立ちの濃い男たちだ。典型的な砂漠の民である。手にはそれぞれ大きなスコップや熊手を持ち、大声でシュプレヒコールを叫んでいる。全員の声が合っているので、まるで勇ましい歌を歌っているようだ。私は彼らに混じって大声で何か叫んでいる。
【解説】 自分が何を叫んでいたのかわからないが、埃っぽさと熱気が直(じか)に肌で感じられるようなリアルな夢で、イメージとしてはまるで『アリババと40人の盗賊』のワンシーンのようだった。



27日●戦いと立ち退き
はじめに大きな戦争があった。それが武力を行使したいわゆる「戦争」だったか、言葉による「論争」だったか、あるいはそれ以外の種類の戦いだったか、詳細はもはや思い出せない。ともあれ、それは世界最終戦争だったようである。勝者はなく、代わりに「この世の終焉」が訪れることが決まった。私たちは黙々と荷造りをしている。どこへ引っ越すのか皆目わからないが、この場から今すぐ立ち退かなければならないからだ。大八車のような古めかしい車輛が見える。私たちはそれを引っ張って行くのかも知れない。
【解説】 今夜の夢は前半と後半に分かれていたような気がする。前半で「最終戦争」が起こり、後半はその結果として「立ち退き」が行なわれようとしていた。しかし不思議なことに詳細は何ひとつ思い出せない。「勝者はいない」という言葉が印象的だった。今月はこれを似たような「悲しいイメージ」の夢が多いような気がするが、このような夢を見る理由は定かではない。



28日●「ロバート!」と叫ぶ男と一緒に忘れ物を探す
最初に何か事件があったように思うのだが、その部分は思い出せない。次に気がついたとき、私は見知らぬ街にいた。数十階以上の高層ビルが建ち並ぶグレーな街並み。起伏に富んだ地形で、あたりは坂道だらけだ。人影はなく、車も通っていない。空には雲が重く垂れこめて、今にも雨が降り出しそうである。私は何か大切な物を忘れた(または失くした)ようで、それを取り戻すべく小走りに坂道を下っている。すると、角を曲った先にある「坂の底」で、ひとりの男を見かけた。彼は日本人ではない東アジアの人で、ガリ痩せで、黒ぶちの眼鏡をかけている。年齢は30歳前後。彼は「ロバート!」だか「ロジャー!」だか忘れたが、「R」で始まる男性の名前を叫んでいた。彼も何か大切な物を忘れた(あるいは失くした)人らしい。われわれは一瞬にしてお互いの立場を理解し、協力して互いが失った物を取り戻すことを決めた。まず彼がどこかへ連絡をすることになり、数十メートル離れたところにある電話ボックス(?)へ走って行った。その間、私は彼が道端に置いて行った書類の束を見張っている役だ。私は心の中で、(もしもこれがすべて罠で、彼の荷物の中に麻薬などが入っていたらどうなる? その場合はこれを預かっている私が現行犯逮捕される。しかしあの男は悪いヤツではなさそうだから、まあ大丈夫だろう)などと思っている。そのあと場面が急転し、黒っぽい服を着た大物の男と逢ったように思うのだが、その詳細は不明。
【解説】 今夜の夢には何か悲しくなるようなエピソードがあったのだが、思い出せるのはこの部分だけ。「ロバート」ないし「ロジャー」という名前に思い当たる節はない。



29日●意外な組み合わせの男女
Iさん(男性)は、3〜4年前に友達の紹介で知り合った友人だ。Iさんに恋人がいないことはみんな知っている。ところが目の前に現れたIさんは、これまで見せたことのない華やかな笑みを浮かべており、隣りには綺麗な女性を連れているではないか。見ればその女性は小学校の同級生だったX子さんだ。(ふたりはどこで知り合ったのだろう?)と首をかしげる私。Iさんは愛想の良い熊のような風貌、X子さんは小柄でかなりキツイ感じの美人。並べて見ると、まったくタイプが合っていない。私は「ええーっ! ふたりはそういう関係だったんだ?」と驚きながら、心のなかで(これだから男女のことはわからない)と思っている。照れたように笑っているIさんの隣で、X子さんは最後まで不幸そうな仏頂面のままだった。
【解説】 どう考えてもタイプの合わない男女の組み合わせで、夢の中とは言え、「これはヒドイ」と思う(苦笑)。この夢を見たことで、X子さんという人がいたことを久々に思い出した。現実世界でも(美人でありながら)いつも苦虫を潰したような顔をしていたが、今はどうしているのだろう。



30日●梯子から落ちる火消し
目の前で、半被(はっぴ)を着た火消しによる“梯子乗り”が行なわれている。高い梯子のてっぺんで倒立した火消しは、次の瞬間、手が滑ったのか真っ逆さまに落っこちてしまった。その瞬間を、私のデジカメがとらえていた。梯子のてっぺんから落ち始めてすぐの、両手両足を広げて大の字で空中にとどまっている写真だ。なかなかの名作である。その写真にフレームが付いた、と思ったら、それがそのまま翌朝の新聞記事になっていた。幸い、火消しの男性はかすり傷で済んだようだ。
【解説】 目が醒めてすぐに心に浮かんだのは「猿も木から落ちる」というフレーズだった。落ちないように気をつけよう。





※夢日記の一部または全部を許可なく転載・引用なさることは固くお断りいたします。
©Mami Yamada 2004-2010 All Rights Reserved.