2010年11月


1日●自分のミドルネームを間違える
この世界では、すべての人が「ファーストネーム(名)」「ミドルネーム」「ラストネーム(姓)」の3つの名前を持たなければならない決まりらしい。本来、日本人はミドルネームを持たないはずだが、この世界における私のミドルネームは「アラベスク」だ(うろ覚えだが、確かそんな名前だったと思う)。また、この世界では「姓」から名乗ることが固く禁じられており、必ず「名」「ミドルネーム」「姓」の順に名乗らなければならない。そのほかにも、名前に関しては様々な厳しい規則があるようだ。私は友人らしき人と一緒にいる(ただし相手の顔や性別などは全くわからない)。そこへ憲兵のような服装の男が厳しい顔つきでやって来て、私たちに名前を尋ねた。このとき、私は大きな間違いを犯してしまった。自分のミドルネームを誤って「アブラハム」と名乗ってしまったのだ。すぐさま間違いが露見し、憲兵らしき男は私を逮捕しようとした。捕まれば最悪の場合は死刑になる。そのあと私は逃げ出したのか、言い訳をしたのか、謝罪したのか、どうなったのか少しも思い出せない。
【解説】 まったくもって奇妙な夢だった。私にはミドルネームはないし、ミドルネームのことなど真剣に考えたこともないだけに、なぜこのような夢を見たのか自分でも理由がわからない。



2日●石の枕で寝る赤カンガルー
前後関係はわからないのだが、私は石の枕に頭を乗せて眠ろうとしている。これが最近の流行なのだという。(こんな固くて冷たい枕が好まれるとなんて、実におかしな時代だ)と思いながら石に頭を乗せていたが、ふと寝返りを打ったところ、すぐ隣に赤カンガルーがいるのが見えた、赤カンガルーもやはり石の枕を使って寝転び、足を組んで、一人前にカフェオレを飲みながら雑誌をめくっている。私は心のなかで(アルパカだ)と思ってから、(いや、違う。赤カンガルーだ)と思い直している。
【解説】 またしても意味不明な夢であるが、そう言えばつい先日、某所でアルパカを見た。また、別の某所では塩が詰まった枕を見た(マイナスイオンの働きで頭の熱を下げる効果があるらしい)。さらに別の某所では、友達とカンガルーの話で盛り上がった。こうしたことが混ざり合って今夜の夢になったと言えなくもないが……それにしてもおかしな夢。



3日●ll(小文字のLが2つ)
紙の上に知らない単語がマジックインクで書かれている。最初の部分はぼんやりしており見えないが、真ん中あたりがll(小文字のLが2つ並んでいる)で、最後の部分は再びぼんやりして見えない。アルファベットが全部で10文字ぐらいから成る単語だ。明らかに英語ではない。一見フランス語のように見えるが、よくよく見るとフランス語でもない。これはどういう意味の言葉なのだろうか、と悩んでいるところで目が醒めた。
【解説】 目下、とある方からの依頼で、フランス語風に読めるコトバ(社名)のスペリングを模索している。おそらくそのことが今夜の夢の引き金だろう。



4日●クイズ大会に飛び入り参加、優勝
広い講堂のような場所。何百人もの観客。今しも公開クイズ大会が始まろうとしている。壇上にはクイズ参加者が数人、神妙な顔で並んで座っている。前後関係は全く思い出せないのだが、何かハプニングがあって、私はこの大会に急きょ参加することになった。ステージに上がる私。なぜか3歳ぐらいの幼い姿に戻った息子(現実には19歳)が一緒で、彼は満面の笑みを浮かべながら私に向かって何か言っている。ステージ上には椅子が並んでいて、出席者はその椅子に座っていると思うのだが、なぜか私と息子のいる場所だけが掘り炬燵(?)のようになっており、私たちはそこへ足を突っ込み首だけ出して、ぬくぬく温まりながら観客のほうを見ている。どんな質問が出たかも思い出せないのだが、私がぶっちぎりの1位で優勝した。
【解説】 とても明るい雰囲気の夢。私と息子は、何が楽しいのか最初から最後までクスクス笑っていたような気がする。このほか、テレビ番組に出演する夢も見たかも知れないが、その詳細は思い出せない。



5日●……
【解説】 今夜は、庭いじりをしている最中に虫に刺された箇所が痒く熟睡できなかった。そのため夢も覚えていない。



6日●濃い顔の男に付きまとわれる
気がつくと、すぐ目の前に驚くほど濃い顔の男がいた。インドか中東あたりの人だろうか。いや、民族的にはむしろどこにも属さない、見たこともない種類の顔立ちだ。その濃さと言ったら、眉といいヒゲといい、まるで巨大な黒い毛虫を貼り付けたよう。明治製菓の「カールおじさん」をもっとドギツクしたような感じと言えば良いだろうか。その男が、私の後をどこまでもついて来るのである。私は講演会をしたり、ミーティングに臨んだり、色々な場所で多くの人に逢っていたようだが、その間、視界のどこかには必ずあの男がいる。私はときどき(誰なの、このオジサンは?)と思いながらも、実はあまり気にしていない。
【解説】 現実世界では見たこともないような濃い顔のオジサンだったが、あれは一体誰だったのか。謎だ。



7日●……
【解説】 今夜は夜中にひどく寒くなって、寝返りを打ったり夜中に起きだして布団を増やしたりしていたせいか、眠りが分断されてしまった。それで、見たはずの夢の内容をどうしても思い出せない。



8日●笑う父
気がついたときには、父が目の前で笑っていた。父が何やら面白おかしいことを話すので、私はそのたびに爆笑している。私たちは碁を打っていたのかも知れないが、手元は見えない。そのあと蕎麦屋で食事をする場面や、京都らしき道を歩いている場面もあった。どの場面でも父は笑っている。それも“微笑む”という感じではなく、豪快に“高笑いする”という感じだ。初代水戸黄門を演じた東野英次郎の笑い方に似ているなと思う。さんざん色々なところを回ったあとで、急にあることに気づいた私が、「あれ? かんちゃん(父のニックネーム)って死んじゃったんじゃなかったっけ」と尋ねると、父はますます爆笑しながら、「明日はかんちゃんの命日だから盛大に祝ってね」と言った。その言葉にハッとして目が醒めた。
【解説】 目が醒めてすぐにカレンダーを見ると、11月9日。確かに今日は父の命日だ。2週間ほど前に七回忌の法要は済んでいたので、すっかり命日が過ぎたような気になっていたが、本当の命日は今日だったのだ。急いで母に電話をし、父の夢を見たことを話して、私の代わりに仏壇にお線香をあげておいて貰った。



9日●麻薬更生施設の白人女性たち
前後関係は思い出せないが、気がついたとき私は病院と刑務所を足して2で割ったような雰囲気の場所にいた。と言っても、私自身は刑務所に入ったことがないから刑務所がどんなところか実際には詳しくないのだが……。そこは古臭い建物で、コンクリートが打ちっぱなしのフロアに、牢屋のように鉄格子で廊下と遮断された個室が並んでいる。廊下自体はぐるっと円を描いており、その内側に部屋が並んでいるようなデザインの建物だ。つまり、それぞれの部屋はピザを切ったときのような形としていると思われる(ただし部屋を覗いてみたわけではないから実際は違うかも知れないが)。すべての部屋には、白いガウンをまとった入院患者がいる。ひとり残らず若い白人女性だ。皆、顔色が悪く、ひどく弱っている。しかし看護婦の話(?)によれば、彼女たちは回復段階にあるのだという。どうやらここは麻薬中毒を克服するための施設らしい。このとき私の耳もとで誰か知らない男性の声が、「この人たち、売春とかもしてたんだろうね」と言った。私は心のなかで(そうかも知れないし、そうではないかも知れないけど、麻薬をやった人たちの末路は悲惨だなあ)と思っている。そのあとニューデリーらしき街に一瞬だけ迷い込んだような気もするが、このあたりからあとの記憶は定かではない。
【解説】 そういえば生まれてから一度も「麻薬更生施設」を見学したことはないが、おそらく凄惨な場所なのだろう。こんな夢を見たことだし、機会があったら視察してみたい。



10日●低いところから高いところへ流れる
気がつくと道を歩いていた。そこは断面がUの字型になった道路で、ちょうどスケートボードのバーティカルランプのような形になっている。つまり道の真ん中が底で、左右両端が極度に高いのだ。私は道の真ん中を歩こうとするのだが、なぜか右端のほうへ体が吸い寄せられる。高いほうへ高いほうへと勝手に足が進んでしまうのだ。高いところから落下するならわかるが、低いところから勝手に上がってしまうとは奇妙に過ぎる。このとき、すぐ横を歩いていた誰か(性別不明、いつ現われたのかも不明)が、「普通、水は高いところから低いところへ流れるけれど、貴女はその真逆で、低いところから常に高いところをめざしている。貴女は究極のチャレンジャーですよ」と言った。それを聞いた私は、(それもそうだな)と納得している。
【解説】 この夢を見るまですっかり忘れていたが、30年近く前、今夜の夢で言われたことと全く同じことを(当時のマスコミの有力者から)言われたことがある。自分では特に意識しているつもりもないのだが、確かに私は「鯉の滝登り」的人生を送っている気がする。子どもの頃から、常に上昇志向の持ち主だった。といって頑張っているわけではなく、駒を進めるのが楽しくて仕方がないのだ。言ってみればゲーム感覚だ。私は最後まで昇りつつけ、人生の最高地点で死ぬのに違いない。



11日●何かを求めて奔走する
始まりも終わりも思い出せないが、夢のなかで私は最初から最後まで走り回っていた。順番などもハッキリしないが、色々なところへ行ったように思う。何かを探し求めているのだが、求めていたものが何だったのかも定かではない。映画を制作するために必要な人材を探していたのかも知れない。レンガ色の街並みと走っている自分の足もとだけが記憶に残っている。
【解説】 目下、生まれて初めての映画制作に関わっている(オーストラリア制作)。慣れない仕事で戸惑うことも多いが、そのなかで一番タイヘンなのは、「映画の世界は時間配分がメチャクチャだ」ということである。忙しいときはとてつもなく忙しいが、待つときは死ぬほど待たなければならない。何百人ものスタッフで行なう事業だからそういうことになるのだろう。ひとりで静かに本を書いていればいい作家の仕事とは大違いだ。夢のなかで奔走していたのは、現実の戸惑いの現れだろう。



12日●ワルチング・マチルダ
オーストラリアの“第二国歌”として知られる『ワルチング・マチルダ(Waltzing Matilda)』が流れている。私の右手は、白い服を着た誰かの左手を掴んでいる。ジェラルディンの手だろうか。大勢が歌う声。私は皆と一緒に『ワルチング・マチルダ』を歌いながら、(それにしてもなんという悲しい歌詞だろう)と思っている。
【解説】 今夜の夢には、いわゆる「ストーリー」らしきものがなかった気がする。その昔、オーストラリア留学中に初めて『ワルチング・マチルダ』を聞き、悲惨な歌詞の意味を知って、「オーストラリアではこんな悲しい歌が第二国歌と呼ばれているのか」と驚いたことがある。なぜか今夜はその曲を思い出した。ジェラルディンは元駐日オーストラリア大使の奥さまのお名前。何年もお会いしていないが、お元気なのだろうか。突然こうして夢に登場したのも不思議なことである。



13日●夢のなかで3つの夢を見る
私は眠っていたようだ。眠りから醒め、誰かに向かって「一晩で3つも夢を見たよ」と告げている。相手からは「どんな夢だったの」という答えが返ってきたようだが、相手の顔は全く見えていない。私は、たったいま見たばかりの夢の内容を思い出そうとするのだが、何一つ思い出せるものはない。そのうちに、今この瞬間こそが夢なのだということに気づいて目が醒めた。
【解説】 夢のなかで夢を見る、いわば劇中劇のような夢だった。しかも、夢のなかで見たはずの3つの夢の内容は全く思い出せないのだ。ちょっと損をした気分である。

【後日談】 この夢を見た数時間後、息子から「うたた寝をしたら、たった5〜6分のあいだに3つも夢を見たぞ」と告げられた。どんな夢だったのかと尋ねると、「内容は一つも思い出せない」と言うではないか。またしても不思議な夢のシンクロである。


14日●何から何までカオス
何だかわからないが、極めてカオスな状態が続いている。あちこち奔走している私。どこへ行っても何をしても、結果はすべて「カオス」だ。しかし私自身は割と達観しているというか、(まあ、カオスならカオスで、それも仕方ないかな)といった感じなのである。途中で何か濃い味の食べ物(パスタまたはクリーム類?)が登場したような気がするが、詳細は思い出せない。
【解説】 今夜は非常に長い(というか冗長な)夢を見たのだ。そして、その夢は全編が混沌としているというか、まさにカオティック・ワンダーランドといった感じだった(笑)。しかも、「カオスだった」という印象に以外には夢の内容をほとんど思い出せない。何やら濃い味の美味しい食べ物が登場したことは間違いないのだから、個人的にはカオスを楽しんでいたのかも知れないが。私はあまり物事を気にしない人(より正確に言えば「気にしても仕方ないと思っている人」)なので、今夜の夢も本来ならばガッカリな夢なのかも知れないが、本人にとっては「ガチャガチャ猥雑な楽しさ満載」という感じだった。これも人生。



15日●……
【解説】 今夜は仕事が山積みで、ほぼ徹夜をしてしまった。ゆえに夢は見ていない。



16日●ビロードの袱紗(ふくさ)
気がつくとお茶席にいた。私が東(とう)で、薄茶を点てているところだ。客人の顔ぶれは全く見えないが、全体に穏やかで親しみ深い雰囲気が漂っている。帯に着けてあった袱紗を取ると、なぜかビロード生地だった。表面がすべすべしていて、今にも手から滑り落ちそうだ。この上なく扱いにくい。(いつから不白流の袱紗はビロードに変わったのだろう。お点前がしにくいなあ)と思いながらも、その感情は外に出さず、私はポーカーフェイスでお点前を続けている。
【解説】 目が醒めてみると隣りにブースケ(シーズー犬)が大の字になって眠っており、私は彼のお腹をしきりにまさぐっていた。夢のなかでビロードだと思ったものは、どうやらブースケの“ぽんぽん”だったらしいのだ(苦笑)。ごめんよ、ブースケ。



17日●静かな遊園地
全体の雰囲気しか覚えていないのだが、何かふわふわっとした感覚に包まれている。遊園地なのだと思うが、全体が空気のようだ。その空気はとても甘く、よい匂いがする。「2」という数字が浮かぶ。これは、おそらく人数だと思う。私と一緒に遊んでいる人の人数、または私を含めた人数だろうか。遊園地だというのに、静かで落ち着いた、じんわりと楽しい気分。
【解説】 夢から覚醒してゆく途中、つまり「夢」と「覚醒」のあいだにある短いトンネルの中で唐突に思ったことは、「私は個人プレーに徹するべき人間だ。団体プレーには向いていない。団体プレーでは自分の個性が活かせないから」と思った。今夜の夢のテーマは、恐らくそれだったのだと思う。



18日●靴下の裏のニコちゃん
最初に何か出版に関わることで娘と話していたようだ。それから娘が「そろそろ出かけなくちゃ」と言い、「この靴下の裏側がニコちゃんマークになっているでしょ。これが最近の出版のトレンドだよ」とも言った。見ると確かにソックス(というか厳密にはくるぶしまでの長さの室内ソックス)の裏側にニコちゃんマークがあった。私は頷きながら心のなかで、(こういうことを知らないと「情報弱者」と言われるんだな)などと思っている。
【解説】 全くわけのわからない夢だった。確かに目下、私は出版のことで娘に頼み事をしているが、それはソックスともニコちゃんマークとも何ら関係のない出版なのだが……。

【後日談】 この夢を見た直後、大学へ出かける娘と玄関で立ち話をした。まず出版物のことで娘から質問があり、それから出かけて行く瞬間、娘は私に室内履きを指さして「悪いんだけど、もしも“ついで”があったらそれを洗っておいてくれますか」と言った。なんだか夢で見たことに似ているなあと思いながら「了解」と答え、娘を送り出してから室内履きをひっくり返して見たところ、なんと裏側がニコちゃんマークになっているではないか! なんという夢とのシンクロ!



19日●2枚の青菜
前後関係を思い出せないのだが、気がつくと目の前に巨大な青菜が2枚、“歩いて”いた。青菜が歩くはずはないが、しかし実際、彼らは歩いていたのだ。2枚の青菜(歩いているのだから「2人の青菜」と言うべきか?)は男の子と女の子のようで、いかにも仲良さそうに手を繋いでいる。身長はそれぞれ120cm〜130cmぐらい。足が生えているのかどうかは見えなかったが、とにかく普通に歩いている。表面がつやつやして健康そうで、とても美味しそうな青菜たちである。私は色々な場所へ行き、青菜たちは決まって楽しそうに私の後をついて来た。
【解説】 今夜は夢のなかで複数の場所を訪ねたはずだが、目が醒めてみるとその詳細は完全に忘れてしまっていた。思い出すのはただ、2枚(2人?)の青菜ちゃんだけ。そういえば私は22年前からベジタリアンで、野菜の皆さんにはひとかたならぬお世話になっている。今夜の夢には「ボクたち野菜はマミリンさんの味方だよ! 頑張ってね!」というメッセージが込められていたのかも知れない。無理やりかも知れないが、まあ、そういうことにしておこう(笑)。


20日●ニューデリーで和菓子を食べる
気がつくと古びたビルの中にいた。見たことのないビルだが、一目ですぐに「ここはニューデリーのどこかだ」と思う。私は廊下の端に置かれた椅子に座っている。喫茶店ではなさそうだが、気軽にくつろげる場所。目の前が吹き抜けになっていて、そこから下を覗き見た感じでは、現在いるフロアは地上3階あたりのようだ。吹き抜けの向こう側(つまり同じビルの中の、廊下を伝ってぐるりと進んだ先にある反対側)には、小さな飲食店があった。庶民がチャイを飲んでくつろぐような店だ。ふと、その店の手伝いらしき15歳ぐらいの女の子と目が合った。窓ガラスを拭く手を休めて、女の子がにっこり微笑む。私も反射的に微笑みを返す。と、彼女はメニューを指でさしたり物を食べる仕草をしてみせながら、私にジェスチャーで何か話しかけてきた。どうやら「うちのお菓子は美味しいから食べませんか? お代は要りません」と言っているようだ。これに対して私が「気持ちだけでいいです(お菓子は要りません)」と身振り手振りで答えたにもかかわらず、女の子は、同じ店で働く静かな感じの男(20代後半。おそらくネパール系)と一緒に、あれよあれよという間に皿に菓子を盛り、あっという間に私の席まで運んで来てしまった。意外なことに、運ばれて来たのは本格的な和菓子ではないか。驚いていると、女の子がメニューを見せてくれた。そこには日本語で「餅」と書かれており、店のオーナーが日本人女性である旨が日本語で書き添えられていた。私は皿の上の菓子を食べて見た。それはもっちりして柔らかく、ほんのり甘く、“ういろう”に似た美味しさだった。
【解説】 この夢を見る数時間前に、長野市の実家で“ういろう”(父の仏壇からのお下がり)をいただいた。とても美味しかったのは確かだが、まさかこんな夢になって現われるとは(笑)。ちなみにニューデリーへは来年2月頃に行く予定。ここ暫くインドへ里帰りしていないので、実際のところ私は早くデリーに行きたくてたまらないのだ。その気持ちも夢に出たようである。この夢は信州の山小屋で見た。



21日●温泉三昧
気がつくと手足を伸ばして温(ぬる)めのお湯に浸かっていた。大きな湯船。温泉だろうか。菖蒲の匂いと葉の感触。季節外れの菖蒲湯だろうか。そのあと2〜3、別の温泉にも浸かったようだが、湯船以外のことは全く思い出せない。
【解説】 ただただ温泉に浸かっているだけという、夢のような夢。数日前から信州の山小屋に滞在しており、現実世界でも毎日温泉に浸かっている。その印象が夢にまで現われたということだろう


22日●図々しい女
車の助手席に乗っている。運転手は男性のようだ(タクシーかも知れない)。交差点を左折しかかったところで、20代後半ぐらいの女性が道路に飛び出して来た。急ブレーキをかけて停まると、女性は満面に笑顔を浮かべながら車のボンネットに手をかけて立ち塞がった。これでは車を前に進めることができない。呆れていると、彼女は運転手の顔を見ながら「真美さんって本当にいい人ですよね。真美さんならきっと私の頼みを聞いてくれます」と言った。実にしたたかな表情を浮かべている。(私を褒めるなら私に直接言えよ)と思ったが、彼女は「頼み事は男の人にしたほうが格段にラクチンだ」ということを心得ているので、私には頼んで来ないのだ。この出来事のお蔭で道路は大渋滞しているが、そのことにはお構いなく、女性は車の左側に回り込んできた。どうやら後部座席に乗せてもらえると思っているようだ。図々しい女だと思ったところで目が醒めた。
【解説】 一言でいえば「苦笑」な夢だった。実は昨日、某所でちょっと図々しい女性に会ったのだ。夢に現れたのはまさにその女性であった。夢に現われた女性へ。言いたいことがあったら、回りくどい方法を取らずに直接言ってください、私は(男女を問わず)正直な人が好きですから。ちなみにこの夢も信州の山小屋で見た


23日●チャンドラ何某
誰かから伝言を預かった。それはインド人の名前だ。「チャンドラ何某(なにがし)」と言っていたようだ(何某の部分は最初から判然としない)。私は忘れないように「チャンドラ……チャンドラ……」と言葉を頭のなかで反復しながら歩いている。しかし「何某」の部分をどうしても思い出せない。困ったなと思いながらも歩いていると、「チャンドラバンドラ」とか「チャンドラパンドラ」とか「チャンドラネルネ」とか「チャンドラヌルー」というような音が次々に浮かんだ。どれもインドでは聞いたことのない名前ばかりだ。そのあと急に場面が変わり、私は別の夢を見たようだが、そちらの夢の内容は思い出せない。
【解説】 何やらわけのわからない夢だったが、昨日は母に「ケサランパサラン」の伝説を教えた。また、これとは別に、チャンドラニさんというインド人と話した。それから、昔流行した「ねるねるねるね」という名前のお菓子のことを思い出す機会があった。今夜の夢にはこれらの言葉のエキスが溢れていたように思うが、それにしても私はこの伝言を誰に伝える予定だったのだろう。思い出せない。なお「チャンドラ」はインドの姓(クラン名)で、月(the Moon)を意味する名前である。


24日●モノクロの顔写真
モノクロの大きな顔写真。縦2〜3メートル、横1.5〜2メートルほどあるだろうか。写っているのはモンゴロイドでも白人種でもない男性だ。インド人だろうか。意志の強そうな黒い瞳と、濃い眉と口髭。私は最初、薄暗いバーのような店にいた。顔写真は宙に浮かぶような形で私の視界の左側にあった。その後、別の場所に移動したときも写真はついて来た。私がどこへ行っても写真は視界のどこかにある。私は最初のうちこそ(これは誰?)と思っていたのだが、やがて少しも気にならなくなった。
【解説】 今夜の夢には、最初に何かとても心が淋しくなるようなエピソードがあったのだ。しかしそのあとで「顔写真」が登場するや、最初のエピソードが吹き飛んでしまった。その顔に現実世界で見覚えはないが、インドの雑踏の中でいつ出逢っても不思議のない濃い顔立ちだった。


25日●死を祝う
誰かの死。通りすがりの若い女性だったような気がする。不思議なことに、そこに涙はなく、誰もがその死を祝っている。
【解説】 この夢にはもっと具体的なストーリーがあったと思うのだが、目が醒めてみるとこれしか思い出せない。この場合の「死」は、肉体的な意味での死ではなく、内面の死(古い魂の死とか)を暗示していたのかも知れない。


26日●恐ろしく澄んだ深い海
最初に何かイベントがあって、私は2人の女性と一緒に歩いていたようだ。2人とも知らない顔である。30代ぐらいの白人だったかも知れない。気がつくと目の前に大きな海が広がっており、私たちは海岸の少し高いところにいた(つまり海は眼下に一望できる)。そして、なぜか女性のうち1人はこのときまでに消えていた。海は、恐ろしく透明度が高い。あまりにも澄んでいるので、海中の様子が遠くからもわかる。水深は(場所にもよるが)50メートルから100メートルはあるだろう。その水底までが手に取るように見えるのだ。不思議なことに、海はコンクリート(?)でいくつかの区画にくっきりと分けられている。人々はそれぞれの区画のなかでのびのび泳いでいる。全員が白人だ。どうやらここは海外のどこからしいが、どこの国なのか見当もつかない。私は「こんな深い海、足が攣(つ)って溺れたら即あの世行きだよね」と言った(あるいは心のなかで呟いただけかも知れない)。一緒にいる女性はそれに対して何も答えなかったが、彼女もこの海では泳ぎたくない様子だったので、私たちは海岸を左から右側へ横切ってその場から歩み去った。そのあと何か別の夢を見たのだが、その内容は覚えていない。
【解説】 美しさと恐ろしさは紙一重だと思うことがよくある。この夢がまさにそうだった。夢で見た海の透明度は息を呑むほどの美しさだったが、そこには人間の命をいとも簡単に飲み込んでしまう残酷さが秘められていた。そういえば昨日は長野市役所の人たちを相手に「ノアの箱舟」の話をしたのだ。夢に現れた海のイメージは、そこから来ていたのかも知れない。


27日●指先がサイボーグ化する
気がつくと、左手の指先(第一関節の先)がサイボーグ化していた。尖ったメタリックな爪が自由自在に伸縮している。自分の手指でありながら、既に自分のものではない不思議な感覚。私は(まるでSFだ)と思っている。
【解説】 最近、10本の筆を持って同時に10個の字を書けるアーティストとか、2本の筆で異なる長い文章を同時に書ける僧侶などに逢い、彼らの超人的な指の動きに感心している。今夜の夢は、おそらくそうした体験に関係しているのだと思う。


28日●まばゆいばかりの美女
すぐ近くに、まばゆいばかりの美女がいる。その人は髪が長く、目が大きく、全体に「ゴールド」のイメージだ。全身から発光していると言ったほうが正しいかも知れない。この人は女神なのだと思う。
【解説】 今夜は夢のなかで大いに笑った記憶がある。大きなケーキを食べたような気もする。ブースケ(愛犬)も登場したかも知れない。しかし具体的な内容は忘れてしまった。神のような美女の存在だけが印象に残っている。福夢だと思う。


29日●自分の左足
自分の左足が見える。グリーン系のタータンチェックの服を着ているようだ(スカートはパンツかはわからない)。その色柄が印象的である。私はその足を見下ろしながら歩いている。
【解説】 おそらくこれは長い夢のなかの一部だったのだと思う。しかし覚えているのは左足のことだけ。このあとどこへ行って何をしたのかは思い出せない。


30日●Y君の親友から「もう逢わない」宣言をされる
気がつくと目の前に高校時代の男友達のY君がいた。その近くには「Y君の親友」を名乗る少年もいた。後者は見たことのない少年だ。私は心のなかで(Y君の親友はM君ですよ。アナタなんか知らない)と思う。最初のうち、私たちは大きな体育館の中でスポーツをしていた。バスケットボールだったかも知れない。メンバーはY君、自称Y君の親友、私。そのほかに私の女友達がいたような気もするし、いなかったような気もする。スポーツをすると言っても、ひとりひとりが勝手に動いているだけで、少しもまとまりがない。そのうちに自称Y君の親友が私のほうへやって来て、怒ったような顔で、「キミとYはもう二度と逢わないんだ。絶交だ」という意味の宣言をした。Y君は遠くのほうで笑っていたが、やがて空気のように薄くなって、いつの間にか体育館から消えてしまった。もうひとりの少年も消え、最初から存在が希薄だった私の女友達も消え、私はひとりぽっちになった。(もうY君には逢えないのか)と悲しく思う反面、(あの“自称親友”は一体誰だったの?)と私は不審に思っている
【解説】 夢を見ているときは17歳の気持ちに戻っていたようで、とても悲しかったのだが、夢から醒めて見ると(なんじゃ、あのヘンテコな夢は?)という感じである。Y君は高校2年生のときに憧れていた隣りの高校の学生だが、実際には体育館で遊んだことはないし、遠くから見つめているだけの“高嶺の花”のような少年だったのだ。ただし私の誕生日には喫茶店で話したり、手づくりの素敵なプレゼントを貰ったり、たまには電話で話したり手紙をもらったりもしていたのだから、“片想い”の割には私はずいぶん大事にされていたのだと思うが……。現実世界には“意地悪な少年”など存在しなかったし、「もう逢わない」など宣言されたこともない。今夜の夢は、実際とはだいぶかけ離れた内容だった。




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