2001年4月14日号（第24号)
魔女がデリーにやってきた
　ナマステ♪ 　ニューデリーの日中最高気温は、早くも摂氏44度をマーク。まだ4月の上旬だというのに、既に殺人的（！）な猛暑です。 　道を歩けば、砂漠のようにムチャクチャな暑さと乾きのダブルパンチ。 　建物の中に一歩入れば、今度はエアコンの効かせすぎで、冷蔵庫のような冷えこみよう。 　この、極端な温度差が祟ったのでしょう。 　早くも夏風邪をこじらせてしまった私は、この一週間というもの咳が止まらず、いったん咳込むと夜も眠れないほどでした。 　加えて、ニューデリーではこのところ、連日のように黄砂が吹き荒れ、街は砂埃でざらざら。 　ただでさえヒリヒリする風邪ひきの喉に、呼吸のたびに砂が入って、痛いのなんの。 　夏のしょっぱなから、ほんと、散々な目に遭いましたよ。 　そんななか、今週はなんとビックリ、魔女クラブの仲間たちが、ニューデリーに遊びにやって来てくれました♪ 　魔女クラブと申しますのは、1990年に東京で結成された、とっても怪しい秘密結社の名前です。 　みずから「怪しい秘密結社」を名乗る秘密結社も、珍しいでしょ(笑)。 　クラブのメンバーは、デザイナーの◎子、イタリア料理研究家の△子、タレントの○子、実業家の□美、それに私。 　仕事も、住んでいるところも、趣味も異なる魔女たちが、ときどき一箇所に集結しては、美味しいものを食べたり、スプーン曲げなどをして遊んでいるのです。 　“魔女”というネーミング自体は、もちろんジョークですが、かっこよく言えば、自立したオトナの女性たちによる、楽しい社交の場とでも申しますか･･･。 　魔女たちがスプーン曲げに興じているあいだ、お隣りの部屋では、魔女の夫たちが雀卓を囲んでいたりして、とってもにぎやか＆和気あいあい。 　さて今回は、そんな魔女たちがニューデリーに遊びにやって来ることが、突如として決まったのです。 　最初に届いたEメールに記されていたのは、 　「まみちゃんへ。突然だけど、ニューデリーに遊びに行きま〜す。泊まるところは、星が3つ以上付いている綺麗なホテルでなくちゃ、ダメよん。ホテルの予約、夜露死苦ね♪ お友達の魔女より」 という、とんでもないオーダーでした(笑)。 　ほんの2週間ほど前、ヒマラヤの山中でシュラフにくるまり、震えながら夜を過ごしたばかりの私は、心中ひそかに、 　（なに〜? インドまで来て、星3つ以上のホテルだと〜? ざけんなよ〜） と、一旦は思ってみたのですが、よく考えてみれば、私以外の魔女達は、ひとり残らず都会生まれの都会育ち。しかも、もとをただせば良家の箱入り娘ぞろい。 　やっぱり、シュラフでサバイバルってわけにはいきませんよね(笑)。 　ってなわけで、今回はオーダーどおり、3つ星以上のホテルを予約することにしました。 　･･･で、どうせ高級ホテルに泊まるなら、いっそ最高級が良かろうということになりまして、5つ星のモーリヤ･シェラトン･ホテルに決定。 　ここは昨年、ビル・クリントン大統領（当時）と森首相も泊まられた、ニューデリー有数のホテルです。 　今回も、魔女たちと同じときに、クリントン前大統領（←すっかりインドのリピーターになられた様子♪）や、モロッコの王女様が滞在していらっしゃいましたよ。 　どうやらこのホテルは、世界中のVIPの定宿らしいんですね(笑)。 　こうして、無事にホテルは決まったわけですが、このあとも魔女からは、非常〜に難しいオーダーが入りました。 　いわく、 　「私たちって、暑いのも、汚いのも、からい味も、全〜部苦手なの♪」 　･･･暑いのも汚いのもからい味も苦手なら、最初からインドなんかに来るな〜っ！(笑)って感じですが、なにせ相手は、 　「だって、まみちゃんがいるから、インドに遊びに行くのよ♪」 と言ってくれているのです。遠路はるばる会いに来てくれるお友達のオーダーを、無下に却下するわけにはいきません。 　「占いとオイルマッサージ三昧の日々を過ごしたい」 　「インドのお金持ちライフを垣間見たい」 　「コブラと一緒に写真を撮りたい」 　「からくなくて、しかも美味しいインド料理が食べたい」 というオーダー各種を実現すべく、現地コーディネーター・マミリンは、夏風邪でゲホゲホ咳込みながらも頑張りましたよ。 　インドの“お金持ちライフ”を、魔女たちに垣間見てもらうためには、お友達でフランス出身のステファニーの協力を得ました。 　ステファニーは、33才のバツイチ女性ですが、T財閥（インド五大財閥のひとつ）の御曹司で、同じくバツイチの40才の男性と、3年前に子連れで再婚。 　今では、インド人もビックリの豪邸で暮らす、世間的に言うところの“超・玉の輿”に乗った女性です。 　 　「日本の魔女たちが、あなたのおうちを見たがっているの。お邪魔してもいい?」 と頼んだところ、ステファニーは、 　「ええっ? 日本にも魔女がいるのぉ? ヨーロッパの魔女と比べて、どっちがスゴイ? 是非とも会いたい、会いたい」 と、笑いながら快諾してくれました(笑)。 　ステファニーのお宅をお邪魔したあとは、“インド伝承医学アユール・ヴェーダ式オイルマッサージ”を受けに行ったり、香辛料が山のように詰まれたローカルなバザールを散策したり、“コブラと一緒に写真を撮る”ために、気温44度の炎天下を歩き回って、蛇使いを探したり。 　朝から晩まで、スケジュールがギッシリの毎日でした。 　今回、魔女たちが希望していたすべてのオーダーのなかで、唯一実現できなかったのは、“占い師に未来を占ってもらう”こと。 　なにせ、インドの観光業は、そろそろシーズン・オフ。 　売れっ子占い師の先生たちは、客足の減ったインドを離れ、外国へ出稼ぎに行ってしまっていたり、涼しいヒマラヤ山麓の避暑地にヴァカンスで出かけていたりで、軒並みお留守。 　この時期、インドにずっと居残っているのは、あまり売れない占い師さんがほとんどという噂なのです。 　事実、知り合いの占い師に片っ端からあたって見たものの、タロットカードの先生も、占星術師も、手相観の先生も、皆さん不在でした。 　というわけで今回は残念ながら、魔女たちの未来を占ってみることはできませんでしたが、まぁ、魔女の未来なんて、わざわざ観てもらわなくても予想がつきます。 　「やることなすこと、すべてうまくゆくでしょう。何故なら、あなたがたは、本物の魔法を使える魔女なのですから」（ニセ占い師・談） 　「インド、思ってたよりず〜っと楽しかったよ。この次は、夏に東京で会おうね。チャオ♪」 と、笑顔で日本に帰って行った魔女たち。 　今頃は東京に着いて、 　 　「あ〜、やっぱり日本のエスプレッソ・コーヒーは美味しいわ〜。インドの塩バター入り紅茶は、ちょっとばかり味が強すぎたかも」 なんて言ってる頃じゃないでしょうか(笑)。 　今年に入ってから、3ヶ月半が経過しました。 　その間に、すでに100人以上の知人友人が、ニューデリーに遊びに見えましたが、今シーズンのお客様は、たぶん、魔女たちでおしまいでしょう。 　ニューデリーはこれから、真昼には外に出るのもままならないほどの、酷暑の時期を迎えます。そのあとは、雨季。 　観光シーズンは、10月頃までお休みです。 　インド旅行を計画していらっしゃる方は、10月まで辛抱してくださいね♪ 　　　　　♪　♪　♪　♪　♪ 　ところで、前回の『週刊マミ自身』のなかで、 　「ヒマラヤのタワング地方の子ども達のために、雨や雪の日にも狭い室内で出来る、材料費のかからない遊びを教えてください」 とお願いしましたところ、早速、たくさんのメールを頂戴しました。 　貴重な御意見の数々、本当にありがとうございました♪ 　このうち、 　「タワングの子ども達に、碁を教えてはどうでしょう。お使いになるようでしたら、碁盤と碁石を寄贈いたします」 というユニークな御意見をお寄せくださった、Ｍ・Ｋさんには、タワングで買い求めたヒマラヤ風のお財布とポーチのセットを送らせていただきます。 　 　Ｍ・Ｋさんは、御自身が囲碁をたしなまれ、また、お父様もアマチュア六段とのこと。 　実は、私の父もアマチュア六段で、関西棋院長野支部長をしておりました。そのような環境で育ちましたので、お蔭様で、私も多少は碁を打てます。 　･･･というわけで、次回は是非、タワングの子ども達に、囲碁を教えてこようと思います。 　碁盤と碁石があれば、本格的な囲碁に限らず、“五並べ”や“白黒の石によるお絵描き”などもできますよね。子ども達のイマジネーションが、どんどん広がってゆくことでしょう。 　日本はこれから暫く、過ごしやすく、美しい季節が続くことと思います。 　ニューデリーの酷暑にバテ気味の私の分も、花を楽しみ、春をたっぷり謳歌してくださいね♪　 　 　　　事事如意　　 　　　　　　　2001年4月14日　 　　　　　　　　　　 ニューデリー　山田真美

2001年4月4日号（第23号)
ヒマラヤの天使たち
　ただいま〜♪ 　アルナーチャル・プラデーシュ州、タワング地方への10日間の視察旅行を終え、4月2日の夜遅く、無事ニューデリーに帰還しました。 　無事生還したことはしたけれど、今回という今回は、いやはや、ムチャクチャ遠かった!! 　ニューデリーから、まずはアッサム州のグワハティーに出て、そこから一路タワングに向かうのですが、ニューデリーからグワハティーまでは、飛行機で2時間、特急列車なら30時間。 　さらに、グワハティーからタワングまでは、自動車で丸2日間かかります。 　この、アッサム州というところは、最近テロリストによる殺人やら暴動が毎日のように起こっているという物騒な土地柄で、たまに山賊も出るのだそうです。 　しかし、そこを通らないことには、目当てのアルナーチャル・プラデーシュ州には到達できません。 　しかも、アルナーチャルまでの道のりは、くねくねと蛇行したデコボコな山道。片側は断崖絶壁。 　落っこちたら「はい、それまでよ」の世界なのです。 　道中、重さにして20トンもあろう巨大な倒木が道を塞いでいたりして、行けども行けども、いや〜、なかなか目的地に辿り着きません。 　タワングは、インドヒマラヤの北東のはずれ。ブータン、中国と国境を接する山岳地帯にあり、1962年の印中戦争の舞台となったところでもあります。 　タワングの人口は、3万人弱。主産業は農業、仏画（タンカ、曼荼羅）、織物づくり、紙漉きなど。 　 　中国チベット自治区との国境に位置する、国防上の要所であるため、アルナーチャル州内への出入りは今も厳しく管理されています。 　入域希望者は、外国人はもちろんのことインド人も、インド内務省が発行する特別ビザの発給を受けなければなりません。 　この入域ビザは、申請すれば誰でももらえるという種類のものではなく、例えば、日本人が入域許可証を得るためには、日本外務省発行の「ノー･オブジェクション・レター」（申請者が信用するに足る人物であることを証明する公式文書）が、まず必要になります。 　しかしこれだけでは、多くの場合、ビザは下りません。 　インドの要人や、アルナーチャル・プラデーシュ州政府からの推薦状などが揃って、ようやくインド内務省からOKのサインが出ます。 　現地で聞いた話では、数ヶ月前、入域許可証の存在を知らずにアルナーチャルに入ってしまった2人組の日本人（いわゆる猿岩石系のバックパッカー）が、マーケットをうろうろしているところを特別警察に見つかり、あえなく御用となったとか。 　この2人の場合は、悪意のないことが認められ、州外追放だけで済んだから良かったようなものの、本来ならば、インドの国防を危うくしたという理由で、大きな罪に問われても仕方が無かったでしょうね。 　 　･･･というわけで、どうやら無事にタワングに到着しました。 　タワングの町自体の標高は、3500メートル程度に過ぎないのですが、すぐ近くには7000メートル級のゴリチェン山がそびえており、風景は迫力満点。 　3月末といえども、夜の気温は摂氏5度前後。既に日中の最高気温が38度のニューデリーから来た身には、寒さがこたえます。 　しかも、タワングには大きな発電所がないため、電気の供給量が極めて少なく、1日のうちまともに電気が使えるのは、夕方6時か7時から、10時頃までの数時間のみに限られます。 　 　寒い上に、暗い。 　しかも、近所にはお医者さんもいない。 　急患が出た場合は、自動車で10時間も離れたところにある陸軍の病院に行って、無理にお願いして治療してもらうしか方法はないのだそうで、都会なら簡単に治る病気やケガがもとで、多くの人が命を落としているとのことです。? 　特に、出産時に難産や出血多量で命を落とす母子が、少なくないという話でした。 　全般的に、人々の暮らしぶりは、非常に厳しいと言わねばなりません。 　さて今回、私の旅の大きな目的は、タワングにある“マンジュシュリ”という孤児院と、“タワング・パブリック･スクール”という私立学校の2ケ所で、日本語の集中講義を開くことでした。 　マンジュシュリでは、両親を事故や病気で失った28人の孤児たちが、共同生活を営んでいます（ちなみに、マンジュシュリは文殊菩薩の現地名）。 　ここの子ども達の年齢は、現在、3才から11才まで。 　運営者は、37才のラマ（ヒマラヤ仏教・ゲルク派の僧侶）で、私財を投げ打ち、人生のすべてを孤児院運営に捧げていらっしゃる、本当に純粋無垢な素晴らしい方です。 　ゲルク派では、僧侶の妻帯が許されていないため、ラマ御本人は独身です。 　 　一方、“タワング・パブリック･スクール”は、地元の名士の子供たちが集まる、タワングでいちばんの進学校。生徒の半数以上は、キャンパス内の寄宿舎で暮らしています。 　土地柄、軍人の子が多いのが印象的でした。 　今回、私が予定していたのは、全部のひらがなの読み書きと、簡単な会話の教育。さらに、日本の遊びを楽しんでもらうことも、大きな目標です。 　日本語集中講義の回数は、各校で4回ずつ、計8回としました。 　授業の内容は、私が独自に考案した方法で進めさせていただきましたが、参考資料として、日本の小学生が使い終えた『こくご 1年、2年』の教科書を両校に寄贈しました。 　これらの教科書を寄付してくださったのは、次の各団体です。 　・横須賀市立山崎小学校ＰＴＡの皆さん　 　・ガールスカウト神奈川県横須賀三浦地区の皆さん 　・横須賀市立市民活動サポートセンタースタッフ 　　有志の皆さん 　・風の船Ｙｏｋｏｓｕｋａさん 　御協力、本当にありがとうございました。 　皆さんには、近日中に、インド元観光大臣のオマーク・アパング氏より、感謝状を送らせていただきます。 　さて、いざ日本語の授業をはじめてみて、ビックリしました。 　両校の子供たちとも、教えられたことのすべてを、信じられないほどのスピードで、まるで吸い取り紙のように吸収してしまうのです。 　たった4日間の集中講義のあいだに、ほとんどの生徒が、ひらがな全部の読み書きを出来るようになりましたし、簡単な会話も出来るようになりました。 　おはようございます、さようなら、いってきます、ただいま、ありがとうございます、すみません、といった基本的な挨拶はもちろんのこと、もっと複雑な、 「わたしのなまえは、ツェリングです。 　わたしは、インド人です。 　わたしのちちは、いしゃです。 　わたしのははは、しゅふです。 　おとなになったら、わたしもいしゃになりたいです」 とか、 「これは、あかいいすです。 　あれも、あかいいすです。 　それは、あかいいすではありません。 　それは、くろいいすです」 「ぼくのえんぴつは、みじかいえんぴつです。 　あなたのえんぴつは、ながいえんぴつです。 　ぼくに、あなたのえんぴつを、ください」 　というような会話が、早くも出来るようになってしまったのですから、教えた私も本当にビックリしています。 　このほかに『春が来た』も歌えるようになりましたし、「かごめかごめ」や折り紙遊びもできるようになりました。 　子供たちは、『春が来た』をものすごく気に入ってくれて、日本の歌をもっと教えてくれとせがみます。 　そこで、歌詞とメロディーが明るく、文法的に難解でなく、なるべく短い歌を幾つか教えてきました。 　でも、上記の条件を満たしていても、例えば『ぞうさん』という曲は教えませんでした。 　マンジュシュリの子は全員、お母さんとお父さんを失った子達なのです。ですから、歌詞のなかに“おとうさん”“おかあさん”という言葉の出てくる歌は、全て自粛しました。 　このほか、意外な人気があったのは、『あっち向いてほい』ですね(笑)。 　最初は、じゃんけん自体を知らなかった子供たちが、グー、チョキ、パーの使い方を覚えたとたん、「あっち向いてほい」に熱中しちゃったんです(笑)。 　あとは、手遊びの『アルプスいちまんじゃく』も、特に女の子のあいだで人気がありました。 　「せんせい、もっと、おしえてください」 と、次々に遊びをせがまれるので、私自身も完全に童心に帰って、みんなと一緒になって遊んできましたよ。 　どの子も本当に、可愛くて可愛くて、鼻水なんか垂らしたり、手や耳がしもやけで切れていたり、擦り切れた服を着ているのですが、私には、まるで天使のように思えました。 　色々な遊びをした末に、ついには皆で輪になって、『炭坑節』(月が〜出た出た〜♪)まで踊りましたよ(笑)。 　なんとタワングの子供たちは、今や日本の子どもたちさえ知らないであろう、三池炭坑という名前まで覚えてしまいました(笑)。 　しかも、タワング・パブリック･スクールでは、 　「三池炭坑は、日本の何処に位置するのですか」 　「いつ頃開発された炭坑なのですか」 という高度な質問も出て、冷や汗ものでしたねぇ。 　 　上記の質問に対する答え（福岡〜熊本。15世紀）は、たまたま知っていたので答えることが出来ましたが、もしも 　「採掘量はどのぐらいですか」 なんて聞かれていたら、降参の白旗を振らなければならないところでした。 　ふ〜、危ない、危ない。 　だから、国語科の先生に、社会科の質問をするなっちゅうの(笑)。 　ところで、マンジュシュリには、事故で両手の肘から先を失った男の子が、2人もいるのですが、この子達も実に器用に、折り紙で鶴や兜を折り、文字を書いていました。 　昨年、マンジュシュリを訪れたイギリス人の医師が、彼らの腕を見て、 　「このままでは気の毒だから、無料で義手を作ってあげよう」 と約束してくれたそうで、今年中には、この2人には義手がつきます。 　義手がつけば、今よりもっともっと、彼らの可能性が大きく広がることでしょう。本当にありがたいことです。 　今回、私が胸に深く刻んだ決意は、マンジュシュリの28人の子ども達全員を、上の学校に上げること。 　ただでさえ階級差別の厳しいインドで、貧しく、名もなく、そのうえ両親もない彼らが、明るく笑って生きてゆくための方法は、豊かな高等教育を身につけること以外にない。 　私は、そう信じているのです。 　また、驚いたことに、タワングには新聞というものが一紙もありません。そのため、タワングの人々は、国際情勢はおろか、国内の出来事すらほとんど知らずに、日々を過ごしています。 　（第二次世界大戦中も、タワングはチベットの支配下にあったため、戦争が行われていることすら誰も知らなかったそうです。すぐ近くには、日本軍の「インパール作戦」で有名なインパールがあるにもかかわらず、です） 　現在、タワングの識字率は、男性で49％、女性に至っては17％弱。全般的に、教育程度が非常に低いことがわかります。 　以上のような理由から、タワングの成人を啓蒙する目的で、私はこの秋から隔週の無料新聞を発行することにしました。 　そこには、日本からの情報（最新の時事ニュースから、たくあんの漬け方まで）や、世界の情報も満載する予定です。 　これらのことが、少しでもタワングの人達の生活向上に結びつけば幸いです。 　今年の6月から7月にかけては、タワングの仏画師やラマ（マンジュシュリの運営者）をお呼びして、長野県内の数カ所で、ヒマラヤ仏教セミナーを開くことになりそうです。 　日程など詳細が決まりましたら、ホームページ上でも告知します。 　仏画を描いてみたい方、ラマの講話（『チベットの死者の書』や、瞑想の方法などについてお教え頂きます）をお聞きになりたい方は、どうぞ、ふるって御参加ください。 　ところで、皆さんにひとつお願いがあります。 　タワングは冬が長く厳しく、外に出て遊べない日が多いのですが、そんな雨や雪の日にも、狭い室内で出来る遊び、しかも、できることなら材料費がかからず、手のない子供でも遊べる遊びがありましたら、是非ともメールまたは掲示板でお教えいただけませんでしょうか。 　素敵な御意見をお寄せくださった方のうち、1名様に、タワングで買い求めたヒマラヤ風のお財布とポーチのセットを差し上げます。 　以上、何卒よろしくお願い致します。 　それでは今週も、お元気で！ 　　　事事如意　　 　　　　　　　2001年4月4日　 　　　　　　　　　　 ニューデリー　山田真美 ※なお、タワングのプロジェクトに関する詳細は、ホームページ別項「日印芸術・言語研究所」のページを御参照ください。

2001年3月17日号（第22号)
象のインディラ
　ナマステ♪ 　 　先日、“なんちゃって温泉”というタイトルで、自分がいかに温泉好きかについて書いたところ、 　「業務用巨大ポリ製ゴミ箱に入ってまで温泉に固執する、その温泉フェチぶりに感動しました」 というような内容のお褒めのメール(?)を、何通も頂きました。 　「私も温泉マニアです。今度ゆっくりと、温泉談義チャット大会をしませんか」 　「温泉マニア向けの本を、是非是非、出版してください」 といった御提案まで頂き、吃驚しました。 　ホームページ読者の皆さんのなかに、こんなに大勢の温泉フェチ仲間が居るとは知りませんでした(笑)。 　これからも、ポリ製なんちゃって温泉で頑張りますので、よろしくお願いいたします(笑)。 　あっ、そうそう。 　これは蛇足ですが、私には昔から、お風呂に入りながら読書をするという悪癖があります。 　当然、持ち込んだ本は湿気を吸って、ふた目と見られないほどブヨブヨに膨らんでしまいますから、お風呂で読むのは大抵、雑誌、または古本屋で廉価で購入した文庫本です。 　今日は、たまたま目につく所に置いてあった、文庫版の『マーフィーの法則』を持って入浴。ついつい長湯をしてしまいました。 　何年も前、発売と同時に買った本ですから、もう何度も読んだ本…のはず。なのに、久々に読んでみると、また新たな発見があるものですね。 　ちなみに、私が好きなマーフィーの法則は、次の3つです。 　�@ 大きな誤りは、気づかれにくい。 　�A 自分がどこに居るかを気にしなければ、 　　 迷子になることはない。 　�B エキスパートとは、小さなミスを1つも犯さずに 　　 決定的な間違いを犯せる人である。 　�@と�Bは、ほぼ似たような意味合いかな?? 　世の中、木を見ても森を見ない人が多いですから、たしかに大きな誤りは発覚しにくいでしょうね。 　日本にも「大嘘つくとも、小嘘をつくな」という、同様の諺があります。 　�Aは、新たに座右の銘に加えても良いぐらい、素晴らしく含蓄のある言葉ですね。 　人間は、というよりも、万物は、突き詰めてゆけば、宇宙と完全に一体なわけでして、そういう意味では、たとえ宇宙の果てまで行ったとしても、迷子になるという事態は、本来はありえないはず。 　これは、単なるマーフィーの法則というよりも、インド哲学で言うところの、“梵我一如”に近い思想ですね。 　そんなことを考えながら“なんちゃって温泉”に浸かっていたもので、今日はすっかりお湯にのぼせてしまいましたよ(笑)。 　さて、例によって、のっけから話が大きく脱線してしまいましたが、今日のテーマは「象のインディラ」です。 　御存知ですか、象のインディラ? 　第二次世界大戦に敗け、文字どおりすべてを失ってしまった日本に対し、 　「せめて子ども達が、楽しい夢をみることができるように」 と、インドのネルー首相（当時）がプレゼントしてくれた、可愛らしい小象の名前です。 　インディラという名前は、言うまでもなく、ネルー首相の娘（インディラ・ガンジー）にちなんだもの。 　上野動物園に贈られた象のインディラは、戦後の日印友好関係の象徴的存在として、それはそれは、大きな役割を果たしたのだそうです。 　もっとも、1960年生まれの私は、象が日本にやってきた当時のことを、直接には知らないのですけどね。 　インディラをひとめ見ようと、上野動物園に押し寄せる子ども達の写真などは、『昭和の記録』的な写真集には必ず載っていますから、皆さん、多かれ少なかれ御存知だと思います。 　ところで、象のインディラが日本にやってきた、当時の新聞報道写真を見ますと、ネルー首相と象のすぐ近くに、ひとりの可愛らしいインド人の女の子が写っていることに気づきます。 　この子は“ジャヤちゃん”といって、当時の駐日インド大使の娘さん。 　目のくりくりっとした、とびきり可愛らしい女の子だったため、当時の新聞記事を読んだ人のなかには、小象と同じぐらい、あるいはそれ以上に強い印象を持って、ジャヤちゃんの顔を覚えている人もいるほどです。 　駐日大使の娘として、何不自由なく育ち、日本の新聞各紙にも顔が載るほど注目を浴びた美少女時代。 　そんな幸先の良い人生のスタートを切ったジャヤちゃんは、50年後の今、一体どこでどうしているでしょうか? 　どこか裕福な家の奥様に収まったでしょうか? 　それとも、お父さんと同じ外交官の道に進んだでしょうか? 　ところが正解は、あけてびっくり玉手箱。 　あのとき、あんなにも可愛らしく、あんなにも恵まれた境遇にいたジャヤちゃんは、なんと今では、 　インドでいちばん悪い女（！） のレッテルを貼られ、人から後ろ指をさされるようなことになってしまったのです、信じられないことに･･･。 　状況を詳しく説明しましょう。　 　ジャヤちゃんは、フルネームをジャヤ･ジャイトリーさんといいます。 　一昨日（3月15日)辞任するまでは、インドの政党のひとつ「サマタ党」の女党首でした。 　それと同時に、彼女は、インド国防大臣ジョージ・フェルナンデス氏（同じく今月15日づけで辞任）の側近中の側近として、インド政界に君臨。 　国防関係を中心に、次第に、政界で絶大な発言力を持つに至ったようなのです。 　ところが、14日になって、“インド史上最大の汚職事件”が発覚。 　ジャヤは、軍用機購入にまつわる多額の賄賂を受け取っているところを、隠しビデオカメラでバッチリ撮られてしまい、あえなく失脚。 　以来、汚職事件の首謀者として、連日のように新聞に書きたてられ、CNNやBBCといった全世界ネットのニュース局でも、トップニュースで報道されています。 　この事件では、ジョージ・フェルナンデスとジャヤ以外にも、大臣クラスの大物政治家が、次々に辞職。 　インドの現在の内閣は、BJP党を中心とする連合寄り合い内閣であり、ジャヤが党首をつとめていたサマタ党も、連合政党のうちのひとつです。 　それだけに、この事件が国民に与えた衝撃は大きく、これまで安定した支持率を誇っていたバジパイ内閣を、根こそぎ揺るがしかねない重大事態となっています。 　事件発覚直後、 　「なんで私が辞任しなくちゃならないのよ? 悪いことなんてしてないわ。私を落とし入れたヤツを、絶対に告訴してやる！」 というような意味合いのことを、TVカメラの前で大声でわめいていたジャヤ。 　その姿には、小象のインディラと一緒に、“気をつけ”の姿勢で写真に収まっていた、あの可愛かった女の子の面影は、微塵も残っていませんでした。 　政治腐敗うんぬんを論じる以前に、人間が美しく老いてゆくことの難しさを、つくづくと見せつけられた、この2日間でした。 　なお私は、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州に建設を予定している“日印芸術・言語研究所”の用地視察、地元の子どもたちとの交流等のため、今月24日から2週間ほど、ニューデリーを留守にいたします。 　その間は、『週刊マミ自身』の更新や、メールのチェックなどが一切できません。 （それどころか、電話をかけることすらままならない、とんでもないヒマラヤの山奥ですので…） 　留守中は、色々とご不便をおかけいたしますが、なにとぞお許しください。 　日本は年度末とあって、皆さん何かとお忙しいことでしょう。お風邪などお召しにならないよう、お身体には十分に気をつけてお過ごしくださいますように。 　春は、すぐそこ！ 　 　　　事事如意　　 　　　　　　　2001年3月17日　 　　　　　　　　　　 ニューデリー　山田真美

2001年3月10日号（第21号)
Terumasa Hino in New Delhi
　ナマステ♪ 　まず最初に、今日はひとつ嬉しいお知らせがあります。 　このたび、 　♪ホームページ「山田真美の世界」特製Tシャツ♪ を製作の運びとなりました。 （今さっき、印刷屋さんが試作品第1号を届けてくれたところです。これから何度か、色校正や洗濯テストをしますから、完成品が上がってくるのは、来月の第一週ぐらいかな？） 　Tシャツの胸には、クラッカーを鳴らすパンダのイラストが印刷されています。 　イラストを提供してくださったのは、当掲示板でもお馴染みの、金之助さん。私が大好きなパンダの生みの親です。 　Tシャツには、歌舞伎役者のように大見得を切るパンダと、21世紀の幕開けらしい、 　A Happy New Century, Everybody！ 　 のセリフ入り。このほかに、小さく、 　Especially made for The World of Mami Yamada と入れてありますから、いかにも、2001年限定★プレミアムTシャツ〜！って感じがすると思いますよ♪ 　 　特製Tシャツは、ホームページ上でときどき開催しているクイズ大会の景品として使う予定ですので、お楽しみに！ 　なお、 　「どうしてパンダの右目の回りだけ黒いの?」 　「パンダの鼻の下の赤いものは何?」 　「何故、クラッカーを鳴らしているの?」 といったムズカシイご質問には、当方では一切お答えできません(笑)。　詳しいパンダ・ストーリーを知りたい方は、金之助さんのホームページ TABASCO ROOM を訪ねてみてくださいね。 　･･･というわけで、そろそろ今日の本題に入りましょう。 　去る3月7日の夜、ニューデリー市内の日本大使公邸で、日本が世界に誇るジャズ・トランペッター 日野皓正 のライブ・コンサートが行われました。 大使の公邸でジャズコンサートという、このミスマッチぶりがスゴイ＆素敵でしょ??? 　私もね、天皇誕生日祝賀会とか、VIP歓迎レセプションとか、色々な機会に大使公邸にお招ばれしてきましたけれど、まさかここでヒノテルを聴く日が来ようとは、予想だにしませんでした。 　で、行ってきましたよ、ヒノテルのコンサート。 　今回のコンサートの目的は、グジャラート大地震で壊滅的被害を受けた、土地の伝統産業（おもに刺繍などの手工業）を復興するための資金集め。 　いわゆる、チャリティー･コンサートです。 　結論から言っちゃいますと、いや〜、良かったですよ、ヒノテル。 　これまでにも、CDとかカセットテープとかでは聴いたことがありましたけど、生で聴いてみたら、これが実に上手いっ！！ 　上手いというよりは、既に、人間業をはるかに超えていました。音楽の神様が舞い降りてきて、ヒノテルの体に乗り移っているという感じでしたね、あれは。 　私は、前から3列目のすごくイイ席に座らせて頂いていたのですが、あまりの大迫力に、聴いているあいだじゅう、モロ鳥肌。 　私の隣りには、某国の大使(以前からの知り合い)が座っていらっしゃって、演奏が始まる前は、 　「寝ちゃったら困るなー。ワシは、ジャズにはぜ〜んぜん興味が無いんじゃよ。もしワシがグーグーいびきを掻き始めたら、ほっぺたをつねって起こしてくれんか」 なんて言っていらっしゃったくせに、演奏が始まった途端に目がらんらんと輝き出し、寝るどころかスーパー･ハイになって、手拍子を打ちながら終始スィングしておられましたねぇ(笑)。 　大昔、何かの雑誌インタビューに答えて、ヒノテルさんがご自分のお子さんの教育について、 　「言葉で言ってもわからない場合は、竹刀でびしびし殴ります」 みたいなことを答えてらっしゃったのを読んで、ものすごいスパルタオヤジ＝怖い人なんだなァ、というイメージがあったのですが、ステージの上のヒノテルさんは、天真爛漫そのもの。 　ジャズが好きで好きでたまらない、やんちゃな男の子という感じで、実に魅力的でしたよ。 　 　それから、ヒノテルさんもさることながら、一緒に演奏したミュージシャンたちが、これまた上手でしたね。 　特に、ピアノ担当の Akira Ishii さんが、メチャうま。 　ジャズって、ピアノが下手だと聴いちゃいられないでしょ？ アキラさんのピアノは、こりゃあもう名人芸でした。 　以前、ジャズの本場ニュー･オーリーンズのフレンチ･クォーターに暫く滞在したことがあって、毎晩毎晩、浴びるほどジャズを聴きまくりました。1985年のことです。 　フレンチ･クォーターには、Skyscraper という名物アパートがあるんです。ここは、かつてテネシー･ウィリアムズを始めとする大勢の文化人が住んでいたことで、超有名。 　私は、このアパートに住んでいた ハワード･ミッチャムというアメリカ人版画家のところに居候させていただきました。 　夕食はワンパターンで、ほとんど毎晩ジャンバラヤ(笑)。 　料理本を数冊出しているほど料理好きなハワードは、絶対にお客さんをキッチンで働かせてくれません。 　「いいから、いいから、すわってゆっくりしてなさい。料理をするのが趣味なんだから」 　そう言って作ってくれるハワードのジャンバラヤは、跳びあがるほど辛くて、美味しかったなぁ。 　 　ハワードは、子どもの頃の事故がもとで耳がまったく聞こえないため、会話の手段は、手話または筆談。 　私は残念ながら手話を知らないので、もっぱら筆談でした。 　耳が聴こえないというハンディもなんのその、ハワードは私を引き連れて、毎晩ジャズを聴きに出かけるんです。 　「ジャズはカラダ全体で聴くものだから、鼓膜がぶっ壊れていても関係ないのさ」 というのがハワードの口癖で、実際、彼は誰よりも気持ち良さそうにジャズを楽しんでいましたねぇ。 　 　ハワードの版画は、実に不思議な世界です。 　何をモチーフに描いても、必ずどこかに骸骨がいるんですね。それも、滑稽なほどユーモラスで、ぜんぜん怖くない骸骨なの。 　そのとき彼からもらった“墓場のデート”という版画は、今でも私の宝物です。 　2体の骸骨が、キリスト教式の墓場の中で、追いかけっこをしている絵なんですが、この版画を見ていると、妙にほっとするんですよ。 　人間なんて、一皮向けばみんな骸骨なんだなぁって(笑)。 　そんなわけで私は、ちょっと元気のないときには、“墓場のデート”を眺めながら、ジャンバラヤを作って食べるんです。 　すると、不思議なぐらい元気が湧いてくるから。 　当時、ハワードは既に70才ぐらいでしたけれど、今頃どうしているのかな。 　「自分は、1980年代のうちに死ぬ。絶対に、間違いなく死ぬ。なんなら賭けようか? わっはっは」 と公言していましたから、ひょっとすると今頃は、墓場で楽しく骸骨になっているのかもしれません。 　…ってな昔の思い出まで、何故かひょいと思い出した、ニューデリーのジャズの一夜でした。 ≪注≫ ジャンバラヤ＝超有名なクレオール料理。 いわゆるひとつの焼き飯ですね。冷蔵庫の中の、ありあわせの具で作るのが基本。タバスコをドバドバかけて食べると美味しいよ♪ なお、カーペンターズが歌っていた『ジャンバラヤ』も、いい曲でしたね。歌詞の中には、クレオール文化がギッシリ詰まっています。 　　　事事如意　　 　　　　　　　2001年3月10日　 　　　　　　　　　　 ニューデリー　山田真美

2001年3月3日号（第20号)
なんちゃって温泉
　ナマステ♪ 　ついこのあいだ、新世紀を迎えたばかりと思っていたら、今日はもう雛祭りです。 　あまりにめまぐるしい季節の移り変わりに、思わず『おくの細道』の冒頭部分を思い出してしまいました。 　　月日は百代の過客にして 　　行かふ年も又旅人也。 　　舟の上に生涯をうかべ 　　馬の口とらえて老をむかふる者は 　　日々旅にして、旅をすみかとす。 　　古人も多く旅に死せるあり。 　　予もいづれの年よりか 　　片雲の風にさそはれて 　　漂泊の思ひやまず。 　･･･いつ読んでも、心打たれる名文です。 　さてさて。 　漂泊の俳人ならぬ、さすらいの旅人こと♪マミリン♪の、今週のテーマは“なんちゃって温泉”。 　なんちゃって温泉、すなわち、ニセモノの温泉です。 　以前、エッセイにも書いたことがあるので、御存知の方もいらっしゃると思うのですが、私は自他共に認める“温泉フリーク”。 　どのぐらいフリークかといえば、去年の夏は、日本に一時帰国しているあいだ、ムチャクチャ忙しい仕事の合間を縫って、2日に1度は温泉に浸かっていましたし、去年の暮れから今年のお正月にかけて一時帰国したときは、風邪をひいて39度5分の熱を出した日を除けば、毎日毎日、温泉に通いつめました。 　これまでに行ったことのある温泉は、北は北海道から、南は九州・湯布院まで。 　国内で行ったことのない温泉は、ほとんどないと断言してしまっても構わないでしょう。 　外国の温泉にも、もちろん行ったことはありますが、どうも好きませんでしたねぇ。 　別に、何が悪いというわけではないけれど、精神性が違うというのかな。 　日本の温泉の持つ情緒、感性、気品には、遠く及びませんね（←あくまでも個人的見解です）。 　最近、帰国するたびに、私がいそいそ出かけて行く先は、（北信濃に山小屋を持っている関係で）近所の野沢温泉、間山温泉、上林温泉、平家の落人伝説で知られる秋山郷など。 　いわゆるクワハウスのような所は、苦手ですね。 　水着を着て温泉に入るなんて、言語道断だと思います。この上ない文化破壊。 　もっとも、 　「浴場内は水着以外禁止！」 という決まりが最初からあって、来ている人が全員水着を着用しているというのなら、それはそれで一向に構わないのです。 　そうではなく、本来は服を脱いで入るべき普通の温泉に、水着姿で入ってくる人が、たま〜に居るんですよ。信じられないことに。 　そして、こういう人に限って、体も流さずいきなり湯船に入ってきたりするんですね。このうえなく不潔。一体どういう家庭教育を受けてきたのかと思っちゃいます。 　もちろん、そんな人が来ていたような場所には、二度と再び足を運びません。 　日本の温泉って、西洋のクワハウスやスパーとは違い、本来、単なる健康施設ではなかったと思うのです。 　雪見酒、月見酒をやりながら、一句詠んだりするのが、理想的な温泉の入り方。 　行きつけの温泉宿に行くと、私は露天風呂でいつもやってますよ、月見酒(笑)。 　あとは、湯船で一緒になった見知らぬ老人から、土地の伝説をうかがったり、四方山話に興じたり。あるいは、背中を流し合ったり。 　 　むかしの文人は、温泉に長逗留し、作品を1本書き上げたものです。 　私がたまに行く温泉旅館は、川端康成の逗留先だったところ。ずいぶん古色蒼然としていますが、そりゃあもう、風情がありますよ。 　長い歴史のなかで息づいてきた、重厚なオーラが出ているというのかな。 　だから私は、新築のところよりも、むかしの文人が愛（め）でたような、古い宿が好き。 　また、そういう豊かな精神文化があってこその、日本文化だと思うのです。 　･･･で、話はようやく“なんちゃって温泉”(笑)。 　ここインドには、そもそも「湯船に入る」という習慣がありません。 　このあたり一帯は、砂漠の入り口ですから、ふんだんに水を使うことが出来ませんし、それに、なにしろ暑い国ですから、皆さん、湯船に入ってダラダラ汗を流す気にならないのかもしれません。 　湯船に入らずとも、朝晩水浴びしてさえいれば、体を清潔に保つという目的は達成できちゃいますしね。 　 　そんなわけで、インド人のみならず、インドに住んでいる外国人も皆、ここにいるあいだは、毎日シャワーだけで我慢しているのです。 　 　もっとも、世界的に見ると、湯船に入らないと気がすまない国民なんて、日本人ぐらいのものですけどね。 　日本以外の先進国出身の人達に聞くと、本国にいるときから、シャワー浴が主流みたい。 　私がむかし住んでいたオーストラリアなども、その典型でしたね。恒久的な水不足のため、ほとんどの人は湯船に入ることなく、シャワーだけで済ませているようでした。 　ニューデリーの某ホテルの従業員に言わせると、 　「日本人のお客様は、湯船にいっぱいのお湯が出ないと、地球最後の日が来たようなパニックを起こすんですよ」 だそうです(笑)。 　で、温泉フリークの私の場合、インドで生活していて何が困るって、湯船に入れないこと。 　ほかのことはともかく、これだけは、絶対に困るんです。 　朝と晩の2回、湯船に浸からないと、絶対に絶対に耐えられないんです。 　･･･って、これじゃまるで源しずかちゃん（笑)。 　そこで5年前から愛用しているのが、じゃじゃじゃ〜ん！ 　“120リットル容量の、業務用ポリ製ゴミ箱” なのです！ 　このポリ容器の、7分目ぐらいまでお湯を入れ、日本から持ってきた粉末温泉の素を混ぜ入れて、そのなかに、ゆっくりと浸かる･･･。 　手足を折り曲げた“体操すわり”をしなくてはならないので、ちょいと窮屈ではありますが、そんな贅沢は、この際言っていられません。 　普通のバスタブにお湯をためるのは大変ですが、ポリ容器に7分目ぐらいなら、たいした湯量ではないでしょ。 　このとき大事なことは、目を瞑ってイメージするんです、信州の風景を。 　そして、自分に言い聞かせるんです、 　「ここは信州なんだ、ここは信州なんだ」 って(笑)。 　すると不思議なことに、本当に、信州のひなびた温泉に来ているような錯覚に陥るんですよ、これが。 　嘘じゃありませんよ。 　大切なのは、イマジネーションなんです。イメージさえ出来れば、たとえ砂漠の中に住んでいても、そこがオアシスになっちゃうんですね。 　なお、うちの夫は身長が181センチありまして、どんなに頑張っても、ポリ容器のなかに入ることが出来ません。(あたりまえだのクラッカー) 　「あ〜あ、マミリンは小柄でいいよな〜。毎日“なんちゃって温泉”に入ることができてさ〜」 　心底うらやましそうな声を出す夫を尻目に、今日もまた、鼻歌を歌いながら“なんちゃって温泉”に通うマミリンなのでありました(笑)。 　今日は桃の節句だから、桃の香りのする温泉の素にしようっと。 　　　事事如意　　 　　　　　　　2001年3月3日　 　　　　　　　　　　 ニューデリー　山田真美

2001年2月24日号（第19号)
インドのお花見
　ナマステ♪ 　2月最後の週を、皆さんいかがお過ごしでしょうか。 　最初に、ひとつ嬉しいお知らせがあります。 　先月、北インドのグジャラートで起こった大地震以来、まったく音信不通になっていた「魔法少女パール」こと、パール･ブンガラちゃんと、ようやく電話連絡がつきました。 　御家族全員、元気にしていらっしゃるということです。 　パールちゃんの消息につきましては、たくさんの方々から御心配頂きました。 　本当に、ありがとうございました。 　 　さて、ニューデリーは、春うららを通り越して、もうすっかり初夏の陽気です。 　日中の最高気温は28℃まで上がり、昼間は半袖Tシャツ1枚で十分な今日この頃。 　こうなると途端に、私の身体のなかを流れる「お花見好きな日本人の血」が騒ぎ始めるんですよネ。 　だって、これ以上暑くなったら、外に出る意欲も失せて、お花見する気もなくなっちゃうじゃありませんか。 　今やらねば、いつやる? 　ハムレットじゃないけど、To お花見 or not to お花見, that's the question …の心境ですよ(笑)。　ってなわけで、やってまいりましたよ、お花見。 　お花見といっても、こちらには、桜の花なんか勿論ありません。 　見上げるのはもっぱら、“ココナッツ”や“ブーゲンビリア”といった、南国の花ばかり。 　桜に比べると、情緒に欠けることはなはだしいのですが、この際、贅沢は言っていられません。 　なにしろ、ニューデリーは砂漠の入り口なのです。こんなところで、日本的情緒なんか求めちゃいけませんよね。 　花の種類はともかく、左党の私にとって一番の問題は、大多数のインド人がお酒を飲まないということ。 　インドでは、本音はともかく建前としては、飲酒は不道徳な行為なのです。 　自宅で静かに飲むぐらいなら、まだ多少は許されるのですが、表で大っぴらに飲むなんて言語道断。 　ちゃんとした家のマダム（←私のことです・笑)が、公園でお酒を飲んで歌を歌ったりしたら、たぶん翌日の新聞に大きく載ることでしょう。 　つまりですね、インドで大っぴらに許されるお花見の形態は、アルコール抜きの健全なパーティー（しかも昼間だけ）ってこと。 　あ〜あ、ツマンナ〜イ…。 　でもまぁ、ココナッツでもブーゲンビリアでもなんでも、とりあえずお花があって、お日様がポカポカしていて、みんながニコニコしていれば、それでいい。 　というコンセプトで、今回のお花見と相成りました。 　メンバーは、ニューデリー在住の友達（韓国人、イスラエル人、カナダ人、アルゼンチン人、フランス人）とその家族です。 　市内のロディー･ガーデンという広い公園で、まわりのインド人を眺めたり、寄って来るリスに餌をやったりしながら、持ち寄ったソフトドリンク片手に、の〜んびりお花見…。 　お子様向きの“ノンアルコール・パーティー”が終わった後は、 　「やっぱりさぁ、少ぉしアルコールが入らないと、花見をしたって気がしないよね」 と、全員の意見が一致しまして、案の定、二次会に突入！ 　韓国人の家になだれこみ、キムチを肴に大宴会と相成りました。 　日本酒によく似た味の、韓国のお酒は、アルコール度がなんと50％！（うわ〜お、これってウォッカ並み！） 　「鏡月」というブランドの、やや甘口でとっても飲みやす〜いお酒でしたヨ。 　最初の1〜2杯でみんな気持ち良く酔っ払ってしまい、結局は日本のお花見と同じく、花を見に行ったのかお酒を飲みに行ったのか、全くわけのわからない状況でお開きとなりました。 　…というわけで、今年のお花見は、「花より団子」ならぬ「花よりキムチと韓国酒」で決まり。 　ジャンジャン！ 　ところで皆さん、2月27日は私の誕生日ですよ〜ん。 　愛（うふっ♪）のこもったグリーティングカード、お待ちしていま〜す。 　それでは今週も1週間、どうぞお元気で！ 　 　　　事事如意　　 　　　　　　　2001年2月24日　 　　　　　　　　　　ニューデリー　山田真美　

2001年2月17日号（第18号)
子どもを産むということ
　ナマステ♪ 　1週間の御無沙汰でした。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。 　さて我が家では、ここ暫く、「3月初旬に生まれてくる赤ちゃん」のオメデタイ話題で持ちきりです。 　…と言っても、あっ、勘違いしないでくださいね。 　今回、赤ちゃんを生むのは、私ではありませんから(笑)。 　来月、めでたく「一児の父」になるのは、うちで雇っているネパール国籍の運転手、プレム君（26才)です。 　ちなみに、彼の奥さんは同じネパール人で、21才。 　プレム君夫妻にとっては、待望の「初めての赤ちゃん」になります。 　プレム君達は、結婚して丸2年になりますが、実は、2人は一緒に暮らしてはいません。 　プレム君が出稼ぎ先のニューデリー、奥さんがネパールのプレム君の実家で暮らす、いわゆる「別居婚」カップルなのです。 　プレム君の生まれ育った村は、ネパールの奥地。地図にも載っていないような、名もなき寒村だということです。 　兄弟の多いプレム君は、いわゆる口減らしのために、早いうちからインドに出稼ぎに出されました。 　大都会ニューデリーは、インドや近隣諸国の寒村から職を求めてやってきた、プレム君のような人で溢れています。 　 　プレム君の兄弟や従兄弟の多くも、やはりニューデリーに出てきており、彼らは収入の大半を実家に仕送りしながら、実に質素に暮らしています。 　プレム君の場合は、縁あって一昨年から我が家の運転手さんになり、住み込みで働いてもらっています。 　同じ部屋には、サーバントでプレム君の従弟に当たる、18才のプラカッシュ君（週刊マミ自身第5号参照)も暮らしています。 　プレム君が結婚したのは、約2年前。我が家に勤め始める直前のことでした。 　そのときに本人から聞いた話によれば、 　「ある日、何の前触れもなく、ネパールの実家から連絡が来て、結婚するように言われました。列車とバスを乗り継いで、3日がかりの旅の末に故郷に帰ってみると、ささやかながらも結婚式の用意が整っていました。そこに知らない若い女の人がいて、いきなりその人が自分の妻になったのです。しかし、結婚式が終わるとすぐに、自分はインドに帰るように言われたので、妻となった女性とはほとんど話もしていません。彼女は現在、僕の両親と共に暮らしており、家事一切を任されているようです」 　ということでした。 　つまり、プレム君の奥さんの実情は、言葉は悪いですが、「ていの良いお手伝いさん」のようなのです。 　プレム君夫妻のケースに限ったことではなく、インド人やネパール人の9割ほどは、今もこのような感じで、親の決めた人と結婚しています。 　ヒンドゥー教徒にとって「結婚」というものは、大変に神聖で宗教的な儀式。 　むかしの日本と同様に、「結婚は家と家のつながり」という考えが強く、そのため、自由恋愛で結ばれるカップルは、今もごく少数派に過ぎません。? 　一般的には、結婚の際に花嫁側が「ダウリ」（持参金) を婚家に対して支払いますが、その額が少なかったりすると、嫁ぎ先でイジメに合うことも少なくないようです。 　最も陰惨な場合は、舅、姑、夫の兄弟姉妹から、精神的にも肉体的にもいじめ抜かれた新妻が、最終的に殺される（または自殺する）ケースもあり、これらは「ダウリ殺人」として、常にインドの社会問題になっています。 　ましてそれが、住民のほとんどが親戚関係というような、因習的な田舎で起こった事件の場合には、地元の警察官までが新郎側の関係者である場合も珍しくなく、そうなると、事件は闇から闇へ葬られてしまうのだとか…。 　今朝の新聞にも、婚家のメンバー全員からいじめられ、ケロシンをかけられ火をつけられた女性が、自力で病院に辿り着いたけれども、全身やけどのため間もなく死亡したという、凄惨きわまりない記事が載っていました。 　もちろん、これらは非常に極端な例ですが、そういうことがしじゅう社会問題になっているほど、当地の結婚には、色々と厳しい社会的制約がついてまわるのも事実です。 　…そんなお国柄ですから、プレム君の結婚も、両家の親同士が話し合って決めた、本人にとってはまさに「降って湧いたような結婚」だったとのこと。 　こういう形で結婚し、しかも、その後も同居することなく、遠く離れて暮らしている夫婦の場合、相手に対する“愛”という感情が、果たしてあるのかどうか。 　あるとして、それはどういった種類の“愛”なのか。 　そのへんのことは、第三者である私には、想像もつきません。 　ただ、去年のお正月に、 　「新妻が待っているのだから、ネパールに帰ってきなさい」 と言って、プレム君に2週間のお正月休みをあげたとき、彼はまったく嬉しそうな顔をしませんでした。 　むしろ、3日もかけて、列車とバスを乗り継いでネパールに帰ることを、ひどく面倒くさがっている様子さえ見られました。 　しかし、去年の夏休みに、私がまた同じことを言いますと、彼は前回とは打って変わって、素直に嬉しそうな顔をしたのです。 　喜んでネパールに里帰りするプレム君の後ろ姿を見て、このとき私は、 （もしかしたら彼は、奥さんのことを愛し始めたんじゃないかな） 　そんな予感がしたのです。 　プレム君の奥さんが妊娠しているとわかったのは、今年のお正月。再び、彼に休みを取らせ、実家に里帰りをさせたときに判明したことでした。 　ネパールでのお正月休みを終え、ニューデリーに帰って来たプレム君は、開口一番に言いました。 　「びっくりしたことに、妻のお腹が大きくなっていました。去年の夏に帰ったとき、妊娠したらしいのです。3月にはもう、子どもが生まれます」 　 　このときのプレム君の、嬉しそうな顔といったらありませんでした。 　 　また、19才で親の決めた人のところに嫁ぎ、結婚後も夫とは別居生活を余儀なくされ、淋しく不安な思いをしていた奥さんも、大きくなってきたお腹をさすりながら、とても幸せそうに家事をこなしていたそうです。 　それはそうでしょう。インド文化圏（ネパールも勿論この中に含まれます）の女性にとって、子どもを生めるか生めないかは、まさに「天国と地獄」と言ってもいいほどの、死活問題なのですから。 　少し前までは日本でも、子どもの出来ない女性のことを「石女」（うまずめ）と呼んで忌み嫌い、「嫁して3年、子なきは去れ」という残酷な言葉が公然と語られていました。 　今でこそ、そういうことを声高に言う人は減りましたが、しかし今も、内心そう思っている人は、決して少なくないような気がします。 　なにしろ、さして親しくない人までが平気で、 　「お宅、まだ子どもが出来ないの?」 とか、 　「子ども、1人だけなの? ひとりっ子は可哀想よ」 　…なんて失礼な発言をして許される国は、私の知る限り、先進国の中では日本ぐらいのもの。 　 　一応は“先進国”のはずの日本でさえこうなのですから、インドの現状は、推して知るべしです。 　この国では、夫婦に子どもが授からないことは人生最大の不幸と考えられ、（住んでいる地域が田舎であればあるほど）特に女性側が、社会の冷たい蔑視にさらされる傾向があります。 　そんな状況ですから、プレム君の奥さんの懐妊は、何はともあれ「オメデタイ」の一語に尽きますね。 　もしも子どもができなければ、婚家における彼女の立場は次第に弱いものとなり、いずれは文字どおり、“ただのお手伝いさん”の地位に甘んじなければならなかったでしょう。 　日本を含む先進国では最近、子どもを生みたくない女性が激増しているといいます。 　教育費がかかるから、家が狭いから、仕事を辞めたくないから、女ばかりが育児をしなくてはならないなんて不公平だから… 　生みたくない理由は、多岐にわたるようです。 　ただ、世界には、たとえばインドがそうであるように、そういう選択肢を持つことさえ許されない女性が無数に居るという現実を、忘れてはいけないと思うのです。 　（ちなみに、子育てって、程度の差こそあれ、両親の無償の愛、とりわけ母親の自己犠牲の上にしか成り立たないものなんですよね。これはおそらく、どんなに文明が発達し、世の中が便利になっても、基本的には永遠に変わらないことではないでしょうか?） 　プレム君のところの赤ちゃんが、無事に誕生しますように。そして、プレム君の奥さんが、毎日を幸わせに過ごせますように。 　同じ女性の1人として、私は心からそう願ってやみません。　 　あと2週間ほどで、プレム君も一児の父親です ― 　　　事事如意　　 　　　　　　　2001年2月17日　 　　　　　　　　　　ニューデリー　山田真美

2001年2月10日号（第17号)
バーラットプール鳥類保護区
　ナマステ♪　1週間の御無沙汰でした。 　ニューデリーは、すっかり春うらら。 　ここ数日は、長袖Tシャツ1枚で十分な陽気です。 　さて、つい先日、世界的に有名なバーラットプール鳥類保護区 (Bharatpur Bird Sanctuary) まで、家族でバードウォッチングに行ってきました。 　バーラットプールを訪ねるのは、今回で3度目。 　前回の訪問は1997年の2月でしたから、ちょうど4年ぶりということになります。 　4年前、公園内には巨大な池（湿地帯）があって、そこが鳥たちの住処となっていました。 　その池に、インド人の船頭さんが漕ぐ3〜4人乗りの古めかしい舟を浮かべて漂泊すれば、気分はすっかり松尾芭蕉(笑)。 　今どき、なかなか味わうことのできない、質素ながらも豊かな情緒が、そこにはありました ―。 　バーラットプール鳥類保護区は、正式名称を、ケオラデオ・ガーナ･ナショナル･パーク (Keoladeo Ghana National Park) といいます。 　地理的には、ラジャスタン州の東端にあたり、ニューデリーからは、自動車で片道4時間ほど。 　近くには、タージ・マハールでお馴染みの「アグラ」や、ピンク･シティーの別名を持つ「ジャイプール」もあります。 　週末に、ニューデリーから1泊2日のスケジュールで楽しめる、自然の宝庫。しかも今は、冬の渡り鳥を観察できるベスト・シーズン。 　そんなわけで、今回のバードウォッチングには、少なからず期待していた私なのです。 　さて、いよいよ待ちに待った旅の当日。 　ニューデリーを発って、4時間後。 　鳥類保護区の入り口に到着した私達は、早速チケット売り場に向かい、料金表を見てちょっとビックリしました。 　4年前に20ルピーか30ルピーだった入場料が、なんと、いきなり200ルピーに値上がりしてるじゃありませんか。（注）1ルピー＝2円50銭ぐらい。 　しかも、200ルピーを支払わなければならないのは、外国人のみ。インド人は、相変わらず25ルピーでいいんですって。 　余談ながら、バーラットプール鳥類保護区に限らず、この国では、インド人よりも外国人のほうが、高い料金を支払わされることが、多々あるのです。 　航空運賃も、列車運賃も、旧跡への入場料などもそう。国家を挙げて、そういう方針なんですね。 　かの有名なタージ･マハ―ルに至っては、外国人の入場料は1000ルピーですよ、1000ルピー！ 　大学教授でさえ（学部にもよりますが）、月給が15000ルピーとか20000ルピー程度のこの国で、いくらなんでも、これはボリすぎだと思いませんか？ 　…ともあれ、インド人の8倍の料金を払って、どうやら無事に鳥類保護区に入った私達は、自転車をレンタルすることにしました。 　自転車のレンタル料は、インド人も外国人も、一律20ルピー（50円）だそう。 　しかも、30分乗っても、開園から閉演までず〜っと乗りっぱなしでも、どちらも1回20ルピーなんですって。 　今度はベラボーにアバウトじゃん(笑)。 　バーラットプール鳥類保護区は、敷地面積が29平方キロメートル。南北が最長で10km、東西が最長で5km。たいした広さではないのですが、とはいえ、徒歩で回れるような距離でもありません。 　こんなところでは、やはり、鳥たちに有害な騒音もなく、排気ガスも出さないチャリンコに限りますよね〜♪ 　…というわけで、レンタルしたインド製の旧式オンボロ自転車を、鼻歌まじりに漕ぎ始めた私。 　道路は少々デコボコですが、それはそれで情緒があって乙なもの。ルンルンルン。 　…と、ここまでは良かったのです。問題はここから。 　 　ペダルを漕ぎ始めてわずか15分後、私が最初に目にしたものは、あろうことか、旱魃ですっかり干上がってしまった「かつて池があった跡地」でした。 　4年前に舟遊びを楽しんだエリアには、今や水は1滴もなく、どこまでも潅木と枯草が続くだけ… 　4年前に見たとき、なみなみと水をたたえていた豊かな池および湿地帯の面積は、今や20％にまで激減。 　代わりに、潅木と枯草だけがどこまでも続く、茶色い、荒漠とした風景が広がっていたのです。 　異常気象による旱魃が原因とのことでした。 　その次に私が目にしたものは、わずかに残った池の表面に、お腹を上にして浮いている、無数の魚の死体。 　おそらく、鯉科の魚でしょう。 　体長40〜50cmはある大きな魚が、池のあちらこちらで浮きあがっており、そのあたりには異様な腐臭が漂っています。 　魚の体に外傷がないところを見ると、酸欠で死んだものと考えられるかもしれません。 　4年前に訪ねたときは、地上の楽園のように思われたバーラットプール鳥類保護区は、今回、あまりにも惨めな姿に変貌を遂げていたのでした。 　旱魃による水不足、それに伴う池の面積（水量)の極端な減少。 　餌となる魚の数が大幅に減ったため、渡り鳥の種類も個体数も、今年はめっきり減ってしまったとのこと。 　かつては数え切れないほどの数が飛来し、この鳥類保護区の「看板」的な存在だった Painted Stork (コウノトリの一種）に至っては、ついに今回、ただの1羽も見ることが出来ませんでした。 　池の水が減ったことを意に介さないでいるのは、浅瀬の魚を好んで捕食する、ペリカン。 　ペリカンだけは、以前どおりの大群が訪れているようでした。 　その他の鳥たちは、種類も数もまばら…。 　今回バーラットプールを襲った旱魃は、果たして一時的なものなのか。 　それとも、この一帯が恒久的な砂漠化に向かっているのか。 　今の段階では、誰にも本当のところはわからないようです。 　ただ、私が感じたのは、「楽園」が「失楽園」に変わるために要する時間は、一般に考えられているよりも、遥かに短いらしいということ。 　今回のことだけに限らず、「変化」というものは往々にして、表面に現れる前に、水面下でゆっくりと熟成していくものではないでしょうか。 　そして、ひとたび誰の目にも明らかな変化が見え始めたときには、もはや、それを食いとめる手立てはない（あるいは、食いとめることはきわめて困難である）。 　いわゆる「気づいたときには遅すぎた」状態ですね。そういう危機感を強く持ちました。 　もうひとつ気になったのは、バーラットプール鳥類保護区の敷地内に棲息する野生の猿が、あきらかに狂暴化してきていること。 　観光客が手にしたビニール袋（食べ物入り）を、背後から飛びかかって奪おうとしたり、走っている自転車にまで飛びついたり。 　かなり食べ物が不足している様子でした。 　おそらく、旱魃のために植物が枯れ、これまで猿たちが食していた木の実などが供給されなくなったことが原因でしょうが、早晩、猿の攻撃による怪我人が出ることは必至でしょう。 　これなども、前回、および前々回には見られなかった光景です。 　 　そのようなわけで、今回の「週刊マミ自身」は、異常気象にまつわる怖い話になってしまいました。 　バーラットプール周辺の旱魃に関しては、今年の雨季の降水状態などを見ながら、また逐一御報告していきたいと思います。 　　 　　　事事如意　　 　　　　　　　2001年2月10日　 　　　　　　　　　　ニューデリー　山田真美

2001年1月27日(第15号)
戦車とミサイルと共和国記念日
　※今週の『週刊マミ自身』には、景品付きクイズがついています。最後までじっくり読んで、景品をゲットしてください♪ 　ナマステ♪ 　寒い寒いと言っていたのも束の間。 　このところニューデリーには、早くも春の兆しが訪れようとしています。 　朝晩は、まだまだセーターなしでは過ごせない寒さなのですが、朝昼の寒暖の差が激しいのが、なんと言っても砂漠気候の特長。 　（注・ニューデリーは、厳密に言うと砂漠の中には位置していませんが、すぐ西側には、パキスタンとの国境地域に広がるタール砂漠が広がっています。ゆえにニューデリーは、言ってみれば“砂漠の入り口”。ちなみにタール砂漠は、3年ほど前に、パキスタンを威嚇する目的で2度の核実験が行なわれた場所でもあります） 　ともあれ、ここ2〜3日はニューデリーも、昼間に自動車で外出すると、うっすら汗をかいてしまうほどの暖かさ。 　かと言って、窓をあければ、排気ガスが車内にモロに入ってきてしまいます。 　「世界で2番目に空気が汚い」といわれるほど、大気汚染の深刻なニューデリー。 　そんなところで窓を開けて走った日には、たちまち喉はイガイガ、目はショボショボ。仕方がないので、日中は早くもエアコンをつけて自動車を走らせている今日この頃…。 　1月下旬でこれですからねぇ、ホント、先が思いやられますよ。 　 　さてさて。 　昨日、インドは「共和国記念日」のため、全国的にお休みでした。 　共和国記念日は、英語では Republic Day と言って、毎年1月26日と決まっています。 　これとは別に、8月には「独立記念日」（大英帝国からの自主独立を記念した日)の祭典もあるのですが、なにしろ8月のインドなんて、暑くて暑くて、誰も外出したがりません(笑)。 　と言うわけで、イベントとして盛りあがるのは、ダントツに共和国記念日のほう。 　ニューデリー市内では、今年も、軍隊による大パレードが行なわれました。これは、毎年恒例の行事です。 　貴賓席には、インドの大統領（ナラヤナン氏）や総理大臣（バジパイ氏）を筆頭に、政府のVIPがズラズラ〜っとすわり、その前を、インド全土から集まった陸海空の軍隊が行進して行きます。 　パレードには、新型の戦車や戦闘機、ミサイルなども、もちろん登場。 　巨大なトレーラーに乗せられたミサイルが通ると、見物客はみな、目をらんらんと輝かせて見入っています。 　なかには、外国人の私に、 　「どうです? インドの軍備は、たいしたものでしょう。これならもう、誰が攻め込んで来ても大丈夫」 なんて、自信たっぷりに力説してくれる人もいて、いやはや迫力満点。 　日本も、ほんの50数年には、これと同じことをしていたのだろうなぁ〜と、毎年ほろ苦い気分にさせられます。 　なにしろインドといえば、アーリア人に侵略され、イスラム軍に統治され、さらにイギリスに植民地支配されてと、過去にさんざん「土足のお客さん」に踏み込まれた経験を持つ国。 　イギリスからの独立後は、今度はパキスタンや中国との相次ぐ国境紛争。そんなわけで、インドが軍備にかける情熱には、並々ならぬものがあるようです。 　昨年はロシアからも、大量の戦車を供与されたようですしね。インドは軍事的に、きわめて重要なロケーションに位置しているため、まわりの国も放っておけません。 　ともあれ今年の共和国記念日も、無事に終了。 　毎年のように懸念されている、テロリストによる爆破事件もなかった様子です。まずはひと安心。 　それにしても、ミサイルや戦車を目の当たりにするたびに私が感じるのは、心の底が重く凍りつくような不安と、憤り、強い嫌悪感、そして、悲しく後ろめたいような、なんともやりきれない気持ちです。 　人類が作りつづけてきた兵器の数を思うだけで、自分をも含めた“人間”の罪深さに慄然とします。 　ところが、そういった感情をインドの友人たちに説明しても、ほとんどの場合まったく理解してもらえないのは、実に不思議なことです。 　この国民性を少しでも理解するためには、インドの国民文学『マハーバーラタ』を読んでみる必要があるかもしれません。 　『マハーバーラタ』は、親戚関係にある二つの王族の対立を通じて、人間のあり方を深く問いかけた、世界最長の叙事詩ですが、そのなかにも、戦争シーンが次から次へと登場します。 　主人公たちは、「正義のために」という名目で、戦って戦って戦って、血みどろになって敵を全滅させ、さらには自分たちも片端から死に、その揚句に、生き残った一人が、ようやく真の悟りへの道を見出すのです。 　こういう激しい物語が、何千年ものあいだ、国民文学として読み継がれているあたり、やはり、気性の激しさで知られる「砂漠の民」だけのことはあるなぁと、痛感せざるを得ません。 　一方、日本の国民文学『源氏物語』は、恋をして恋をして恋をして、捨てて捨てられ、泣いて泣いて、その揚句にようやく悟りを得るお話。 　こんなスウィートでロマンチックなお話を国民文学に持つ日本人には、インド人の『マハーバーラタ』的な精神性は、にわかには理解し難いかもしれませんね。 　…というわけで、今日は珍しく、少し硬派にまとめてみました。 　ところで、このホームページのどこかに、さきほど、5つの宝物を隠してきました♪ 　宝物のある場所には、「紫色の八角星マーク」がついています。星をクリックして、宝物を探し出してください。 　5つの宝物を集めることのできた方は、すべての宝物の名前をメールでお知らせください。 　先着5名さまに、プレゼントを差し上げます。 　（がんばって探してね〜♪） 　それでは今週もお元気で。 　　　　事事如意　　 　　　　　　　2001年1月27日　 　　　　　　　　　　ニューデリー　山田真美 　　　　≪急 告≫ 　1月26日、インド北西部とパキスタンを、大きな地震が襲いました。震源地であるインド北西部・グジャラート州ブジ市でのマグニチュードは6.9（アメリカの発表では7.9）で、遠く離れたニューデリーでも、かなり強い揺れが感じられました。 　グジャラートでは、相当数の家屋が崩壊。この地震で亡くなった方の総数は、1月27日正午現在、3000人とも5000人とも言われ、まだ正確な状況はほとんど把握できていない様子です。 　インドの家屋は石と煉瓦で造られており、そのため、地震による火事の発生がなかったことが、せめてもの不幸中の幸いでした。 　今回、地震発生と同時に、たくさんの方から迅速なお見舞いメールを頂戴しました。御心配いただき、本当にありがとうございました。 　　　　≪追記≫ 　その後、地震の被害は更に広がっています。亡くなられた方の総数は、少なくとも10万人、多ければ20万人との発表がありました（1月30日現在）。 　また、26日の大地震のあと、インドのIT産業の中心地である南インドのバンガロールでも、震度4の地震がありました。このため地震パニックは全国に波及しています。

2001年1月13日･1月20日合併号（第14号）
今年はなんだか、大吉の予感
　ナマステ♪　 　21世紀元年、おめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。 　昨年の暮れから今年の頭にかけて、3週間ほど日本に一時帰国しておりました。 　1月7日にニューデリーに戻ってきたのですが、その直前に日本のニュースで、 　 　インド北部大停電!!　 という、ショッキングなニュースを聞いていましたので、正直言って今回のインドへの≪帰宅≫は、あまり気が進みませんでした。 　（私ってバカだなぁ。日本には住む家もあるし、友達も親戚もいるんだから、このまま祖国で平和に暮らすという手もあるのに、どうして好き好んで大停電のニューデリーに戻ろうとしているわけ?!） 　成田空港のレストランで、≪日本での食べ納め≫の味噌ラーメンをいただきながら、思わずタメイキをつく私。 　なにしろニューデリーでは、日本食の材料は手に入りませんし、年柄年中、停電と断水に悩まされます。 　そのうえ、郵便物は盗まれる。市場に行けばボラレまくる。ちょっと外出すれば乞食に追いまわされる。砂漠から黄砂は吹いてくる。夏場の暑さは尋常じゃない。大好きな温泉もなければ、気の利いたオモチャ屋さんや遊園地もない。 　しかも今回は、ニューデリー大停電???（涙） 　…実際ニューデリーに到着してみると、7日の段階では、幸いにも大停電は既に解決しており、私達が直接の被害に遭うことはありませんでした。（と言っても、大停電ならぬ小停電なら毎日のように起こっており、今日も朝から通算3度停電しましたが。ま、これはいつものことです。） 　年明け早々の数日間、ニューデリーを含む広大な地域で起こった大停電は、停電と寒波（このところ最低気温3〜4℃の夜が続いています）が重なったことから、山間部などで凍死者も出たもよう。なんとも痛ましい限りです。 　私達が日本に行っているあいだ、留守番をしてくれたのは、サーバントのプラカッシュくん（ネパール出身の18歳）。彼も大停電の被害に遭ったわけですが、 「停電、大丈夫だった?」 と聞くと、 　「いつものことですから、全然気になりませんでした」 という、実にたくましい答えが返ってきました。 　プラカッシュくんには、お土産に長袖のフリース･ジャケットと、腕時計をあげました。 　フリースに関しては、 　「うわー。こんなに軽くて温かい服、僕、初めてです」 と吃驚しながら、さっそく喜んで着ています。 　さてさて。 　 　話の順番は前後しますが、日本で過ごした3週間について、ここで一言ご報告を。 　今回は滞在期間が短かったため、遠出はせずに、主に東京と長野で過ごしました。 　まずは埼玉県鶴ヶ島市のお招きで、市長さん以下、鶴ヶ島市の幹部職員の皆さんを対象に、『インドの宗教文化』と題した講演会を行ないました。 　あとはクリスマス会と忘年会、新年会。 　また同じく年末には、三鷹の国立天文台で、土星や木星などを観測させていただきました。 　案内してくださったのは、お友達で世界的な天文学者の渡部潤一さんです。 　私「あの星までは、どれぐらい遠いのかしら」 　渡部さん「およそ100光年ぐらいかな」 　私「ということは、私達が今見ている光は、100年前にあの星を出発した光?!」 　渡部さん「そう。ひょっとしたら、その100年のあいだに何かあって、今はもう存在しない星かもしれないけれどね」 　私「それじゃあ、あっちの星は？」 　渡部さん「あれは大体、地球から1000光年」 　 なんて、気の遠くなるようなお話を伺いながら見上げる冬の星空は、奥底の知れないほど深くて幻想的でした。 　私は前々から、 　（21世紀には宇宙旅行に出かけるような、ムチャクチャお転婆なおばあさんになってやるゾー!!） と、固く心に決めている（笑）のですが、望遠鏡越しに遠くの星たちを間近に眺めたこの夜は、宇宙旅行がひどく現実味を帯びて感じられました。 　それから、長野に移動してスキー場へ直行。 　大雪が降った直後の、快晴の斑尾高原スキー場（飯山市）で、心ゆくまで滑ってきましたョ〜♪　　 　そうこうするうちに迎えた、大晦日。 　世紀の変わる12月31日については、どこで誰とどんな風に過ごそうか、ああでもないこうでもないと、早くから考えをめぐらしていたのですが、どうにも埒があきません。 　娘（ニューデリー・アメリカンスクールのハイスクール1年生）は、 　「私はお友達と一緒に、池袋サンシャイン・シティーのカウントダウンに行ってくるわ」 と、早くも決めている様子。 　私もお友達から、 　 「隅田川に屋形船を浮かべて年を越そうよ」 とか、 　「山奥で天体観測しない?　寒いかもしれないけど」 など、いろいろお誘いを受けたのですが、結局私が選んだ20世紀最後の日の過ごし方は、なんと、 　≪奥信濃の古い禅寺で、座禅をする。≫ 　座らせていただいたのは、もともと御住職をよく知っている、「正受庵」という山の上の古刹。 　日本に住んでいた頃、年に1〜2度は座りに行っていた馴染みのお寺です。 　今回は大雪の中、かんじきを履いての登山となりました。 　正受庵で、かれこれ2時間ほど座らせていただき、お蔭様で、実にすがすがしい気持ちで20世紀を終えることができました。 　感謝、感謝です。 　明けて、2001年1月1日。 　前日の座禅から打って変わって、恒例の大麻雀大会が開催されました。 　私の場合、元旦には麻雀と、3才のときから決めているのです（笑）。 　今年の私は、のっけから大勝利。下のような手で上がりました。 　東東発発発一二三四五六七八九　　　 　私は東家（トンチャ）で、ドラは発。リーチ一発、ツモりました。 　まさに「トントン」拍子に上がって、「ハッハッハッ」と大笑いしたくなるような、綺麗な手でしょ? 　思わず、 　「こいつぁ〜春から縁起がいいわい」 と、大見得を切りたくなりました。 　…というわけで、今年はなんだか良いことがありそうな、特大スペシャル大吉の予感。 　とりあえず、初めての長編小説の出版に向け、これからラスト・スパートにかかります。 　御期待ください!! 　なお、今回新たに、≪ニューデリー通信≫と題したコラム･ページを開設いたしました。 　また、ブースケが主役の≪おまけのページ≫も、新春らしく賑やかに飾ってみましたので、是非、お立ちより下さりませ。 　ブースケともども、心からお待ち申し上げております。 　今年も皆さんに良いことがたくさんありますよう、心からお祈り申し上げます。 　（なお、1月20日の土曜日は、取材のためラジャスタンに出かける予定ですので、週刊マミ自身の更新を一回お休みさせていただきます。悪しからず御了承ください） 　事事如意　　 　　　　　　　　2001年1月吉日　 　　　　　　　　　　　　　ニューデリー　山田真美

2000年12月9日(第13号)
さようなら、20世紀
≪お知らせ≫ ★忘年会・新年会シーズン限定「バー マミリン」のオープンに関する情報は、12月16日（土）の日本時間正午に、掲示板でお知らせいたします。 ★期間中、「バー マミリン」にお立ち寄りいただきましたお客様のなかから、抽選で3名様に、粗品を差し上げます。ふるって御来店くださいマセ。 ★なお、来週の土曜日から一時帰国いたします。つきましては、誠に申し訳ありませんが、「週刊マミ自身」の更新は、暫くの間お休みさせていただきます。 ★次回の更新は、2001年1月13日（土）を予定しております。 　ナマステ♪ 　21世紀へのカウントダウンも、ほぼ秒読み段階に入りましたね。 　皆さんは、この師走をいかがお過ごしですか? 　私はといえば、原稿は予定どおりに進まないわ、アポなしのお客さん（もちろんインド人です・笑）はジャンジャンやって来るわ、忘年会の予定だけはギッシリ詰まっているわで、もうちょっとで 　★☆★発狂寸前（笑）★☆★ な今日この頃です。 　そう言えば今週は、ニューデリー市内のアメリカンスクール高等部で行なわれた「ディベート」の、審査員もやってきましたよ。 　ディベートとは、あるひとつのテーマに対して、賛成・反対の2つのグループに分かれ、理性的に、かつ説得力を持って意見を述べ合う、一種の討論会です。 　賛成・反対のいずれのグループに入るかは、通常は籤（くじ）引きで決めるため、自分が本来持っている意見と正反対の意見を支持しなければならない場合も、もちろんあります。 　今回行なわれたディベートのテーマは、 　「人工妊娠中絶は是か非か」 　　　　　＆ 　「死刑制度は存続すべきか否か」 の、ふたつ。 　審査員は、全部で4人（アメリカ人、イギリス人、カナダ人、そして日本人の私）でした。 　私以外の3人は、いずれも、ディベートが盛んに行なわれる国の人たちです。 　今回は、かなり難しいテーマのディベートでしたが、高校生たちの討論内容は、非常に高度で自由闊達で、審査員として聞いている分にも、実に面白かった。 　アメリカ合衆国は、州によって法律が違うため、Ａ州では中絶が合法でもＢ州では非合法というように、内情が複雑らしいのですね。 　たとえば、Ｂ州の女の子が不本意な妊娠をすると、わざわざＡ州まで中絶手術を受けに行かなければならなかったり、あるいは、ライセンスを持っていないモグリの医者の門をくぐって、怪しげな治療で命を落とすケースも少なくないようです。 　現在、1年間に世界中で行なわれる妊娠中絶の件数は、約5000万件で、そのうちの2000万件は、中絶が非合法な国で行われているという興味深いデータも、今回初めて知りました。 　ちなみにインドでも、日本と同じく、人工妊娠中絶は合法です。 （ネール首相の娘、インディラ･ガンジーが首相だったときに、合法化の手続きが取られました。） 　この法案の可決に最後まで反対した、保守派の男性閣僚たちに対し、インディラが、 　「あなたがた男性に、わたしたち女性の抱えた巨大な苦悩が、どれだけわかっているというのです!!」 と、一括したという話は有名です。 　そんなプロセスを経て、妊娠中絶が合法的に行なえるようになったインドですが、それでもなお、この国の人口増加は、とどまるところを知りません。 　昨年はついに、インドの人口は、10億人の壁を突破。 　現在のところ世界一の人口大国である中国を追いぬく日も、あと数年で、確実に訪れそうです。 　インドの人口増加の第1の理由としては、やはり、"宗教的な呪縛"を挙げなくてはならないでしょう。 　子どもの数は多いほうが良いという思想や、「家を継げるのは男児」のみと考えて、男の子が生まれるまで延々と子どもを産みつづける傾向などが、今なお根強く残っていることは驚きです。 　また、教育程度の低い親たちの多くは、「子どもは両親に貢ぐべきもの」と考えており、生まれた子どもに対して碌な教育も与えず、物心のつく頃から早くも労働を課す場合も少なくありません。 　近頃は、「ITの新しいシリコンバレー」などと、国際的に持てはやされはじめたインドですが、その実体は、"極端に古い顔と、極端に新しい顔の、全く異なる2つの顔を持つ巨象"と、呼ぶべきかもしれません。 　…ディベートの話題から、いつのまにか、話が大きくそれてしまいました。 　いずれにしても、そんなわけで、毎日なんだかんだと走り回ってばかりの私です。 　来週は、毎年恒例の「天皇誕生日祝賀パーティー」（於・日本大使館）もありますし、オーストラリア大使館での講演会も頼まれているし、そのほかにも忘年会っぽい集まりが5つほど…。 　あ゛〜。 　原稿を書くヒマなんて、一体どこにあるのでしょ〜???（笑） 　でもまあ、師走ってのは、これでいいのかも知れません。 　12月がヒマでヒマで仕方のない季節だったなら、「師走」って言葉も、「師眠」とか「師座」とか「師暇」って名前に変えなくちゃなりませんし、ダラダラと1年を終えるよりは、「忙しい、忙しい」と言いながら年越しの準備をしていた方が、なんとなく風情がありますよね。 　ところでインドの師走ですが、これはもう、思いっきり、何にもありません（笑）。 　なにしろ、ヒンドゥー教の暦では、10月の末に新年のお祝いを済ませちゃってますし、クリスマスはごく一部（人口の1%未満）のクリスチャンがお祝いするだけ。 　ここでは1月1日になっても、年賀状も届かなければ、お年玉ももらえません。（←お年玉に関して言えば、あげなくて済むってことでもありますが・笑） 　ついでに、あたりまえですけど、炬燵も、鍋料理もおせち料理も、冬ミカンもお餅も、「紅白歌合戦」も「行く年来る年」もありません（笑）。 　日本文化のなかで育った者にとって、インドの年の瀬・元旦ほど退屈な季節は、世界にふたつとないでしょう(笑)。 　…そんなこんなで、私は、12月16日からの一時帰国を、今から心待ちにしているのです♪ 　これから暫くは、忙しい毎日が続くことと思います。 　皆様も、どうかお体には十分にお気をつけて、幸わせな年の瀬と、希望に満ちた新世紀を迎えられますよう、心からお祈り申し上げます。 I wish you a peaceful Christmas 　　　　　and a very happy new century!!　 　事事如意 　　 　ニューデリー　山田真美 　　　△　　　 　　　@@　　　 　　 ﾊﾊﾊﾊ　 　　↑ 　オメデタイ季節に付き物の、寿留女を描いてみました♪

2000年12月2日(第12号)
あ〜、師走は忙しい
ナマステ♪ 　とうとう師走ですね〜。 この1週間で、ニューデリーは一挙に冬に突入。 町を行くオジさん達にも、“頬かむり”姿が目立ち始めました。 　さて今週は、福岡から、25年来の文通友達が遊びに来ているため、「週刊マミ自身」をゆっくり更新している時間がありません。 （楽しみにしてくれていた皆さん、ゴメンナサイ！） 　 その代り、と言っては何ですが、リンクのページはぐ〜んと充実させましたよ。 今回は、新たに8箇所のサイトにリンクいたしました。 　ラインナップは次のとおりです。 ♪長野県自然保護研究所 （長野県の自然の保護について総合的に調査・研究する研究機関） ♪渡部潤一さんのページ （国立天文台の広報普及室室長。テレビのニュース番組でもお馴染みの、世界的天文学者） ♪ＮＤＭＣクロースアップマジック研究会 （若手のお医者さんたちによるマジック研究会） ♪千鳥橋病院 （高校1年のときから、四半世紀にわたって文通を続けてきたお友達が内科医を勤める、福岡市内の総合病院） ♪子供地球基金 （紛争地域の子ども達をヘルプする民間ボランティア団体。会長は仲のいい女友達） ♪Ａ・Ｚのページ （中学時代、席が隣り同士だったクラスメート。今年、同級会で25年ぶりに再会） ♪ber deviLIA 当ホームページ技術部長の過激なサイト(謎） ♪いか好き同盟 （イカをこよなく愛する者たちの集まり。怪しい秘密結社ではありません・笑） 　　　　♪　　♪　　♪　　♪　　♪ なお、近日中に、忘年会･新年会シーズン限定の 　　「バー　マミリン」 を、HP上で開店の予定です（←謎…）。 ただいま、開店前の準備中で、ママはいろいろと忙しいのだ。 バー　マミリンの噂を聞きつけた、HP読者の方のなかには、 「ぜひ、僕にチーママをやらせてください！」 と申し出てくださる方もいらっしゃるのですが、うちはゲイバーではありませんゆえ、男の人にチーママをやって頂くわけには参りませぬ(冷や汗)。 ? 　　…ま、開店まで、しばしのお待ちを。 　あ〜、それにしても、師走は忙しい。 　特に出版業界は、「年末進行」と言いまして、いつもよりも早め早めに原稿を提出しなくてはならないのです。 あと2週間ほどは、目の回るような日々が続きそうだなぁ。 　 そのあとは、16日ニューデリー発（17日成田着）の飛行機で、日本に帰ります。 クリスマス会、忘年会、新年会へのお誘いは、お早めにプリーズ（笑）。 　 それでは、また来週。 　 事事如意 　　　　　　　　ニューデリー　山田真美

2000年11月25日(第11号)
前世の写真、公開します（笑）
ナマステ♪ 　1週間の御無沙汰でした。 　日本からは、ぼちぼち雪の便りも届きはじめた今日この頃。 　こちらニューデリーは、日中の最高気温が28〜29度、夜間の最低気温が11〜12度と、1年でいちばん過ごしやすい季節を迎えました。 　さて先週は、例の胃痙攣騒ぎで倒れたあと、珍しくゆっくり休養をとっていたのですが、その間にお見舞いに来てくれた近所のインド人の奥さん達の話が、まあ面白かったこと。 　「それにしても胃痙攣って、痛いものなのね〜。私、痛さでこのまま死ぬんじゃないかと、本気で思ったもの」 　例によって、私が大袈裟なコメントをしたのを皮切りに、インド人マダムたちは、したり顔で、てんでに勝手なことを言い出しました。 　「痛さで死ぬってことは、確かにあるみたいね」 　「でもまあ、大丈夫よ。万が一のときには、私達が立派なお葬式を出してあげるから、安心してなさい」 　「日本人は仏教徒だから、火葬でしょ?じゃ、私らヒンドゥー教徒と同じだから、気が楽だわ」 　「あら。私たちシーク教徒（注・男性が頭にターバンを巻いている人たちです）だって、火葬よ」 　「その点、キリスト教徒やイスラム教徒は土葬だから、私達には勝手が分からないのよね」 　「そうそう。ゾロアスター教徒（＝拝火教徒）に至っては、鳥葬だしね」 　「ここからなら、ヤムナ河（注・ニューデリーを流れる一番大きな河）も近いわ。マハトマ・ガンジーだって、ネール首相だって、インディラ・ガンジー首相だって、みんなヤムナ河の岸べで荼毘に付されているのよ。お葬式を出す場所としては、悪くないでしょ」 　甘ったるいチャイ（香草入りのミルク紅茶）を飲み、クッキーを頬張りながら、まるでお天気の話でもするようなアッケラカンとした様子で、彼女たちの葬式談義は続きます。 　「で、荼毘に付すならさ、やっぱり電気(electric cremation）がいいわよねー」 　「賛成、賛成。去年うちの伯父が亡くなったときも、電気斎場で焼いてもらったわ。たったの20分で焼きあがっちゃった」 　「うちのおじいちゃんが10年前に亡くなったときは、まだ電気斎場が無かったから、薪に香油をかけて、伝統的な焼き方をしてもらったわ」 　「うちのおばあちゃんのときは、電気だったわよ。薪だとお金と時間ばかりかかるし、それに、天気が悪いとなかなか焼けなくて、遺体が半分生（なま）のままだったりするのよね」 　「でも、電気斎場は人気があるから、下手をすると、予約してから焼いてもらうまでに、何日か待たされることもあるみたい。そうすると、遺体が痛んじゃって大変だって」 　「私はやっぱり、伝統に則った焼き方をして欲しいわ。だって、電気でチンなんて、お手軽すぎて文化が感じられないもの」 　・・・以下、斎場の話が1時間ほど、延々と続きました。 　病人のお見舞いに来て、“斎場”の話で盛りあがるなんて、日本なら「なんて不謹慎な！」と思われても仕方ありませんが、そこはそれ、なんと言っても、ここは哲学と宗教の国、輪廻転生の国、ナンデモアリの国（笑）、インド。 　ここでは、たとえ誰かが死んでも、じきに生まれ変わってくると信じられているのですから、「死」に関する話題も、どこか明るくてひょうきんです。 　「ところで前から思ってたんだけど、マミさんって、前世でよっぽど行ないが良かったんだと思うわ」 　「えっ?・・・前世で行ないが良かったって・・・藪から棒に何を言い出すの?」 　「だってそうでしょ。今の時代に、日本のような裕福で平和な国に生まれて来るなんて、すごくラッキーなことじゃないの 　「そうよ、そうよ。それに、アナタのところ、お子さんは男の子と女の子が1人ずつでしょ? これまた超ラッキー」 　「そういうことは全部、前世の行ないが良かったから手に入ったものなのよ」 　こういう非論理的な話が、ごくフツーに交わされてしまうところが、インドのスゴイところ。 　冗談なら兎も角、真剣な調子で力説されてしまうと、とてもじゃないけど話について行けません。 　それで思い出しましたが、少し前に友達の付き合いで観に行ったヒンディー映画、あれはひどかったなあ。 　それはアクションあり、ロマンスあり、歌ありダンスあり、笑いあり涙ありの、ワンパターンなドタバタ映画（いわゆるマサラ・ムービー）だったのですが、その映画の女主人公は、ストーリーの最後に、突然、事故で死んでしまうんです。 　観客は当然、ここでどっと涙を流しました。 　ハッピーエンドの多いインド映画には珍しく、今回は悲しい終わり方なのかなと思いきや、さにあらず。 　観客を泣かせたわずか数分後、死んだはずの主人公は、神さま（シヴァ神だったと思う）の力を借りて、ケロッと生き返っちゃったんです。 　神さまを登場させて死者を生き返らせるという、監督の超反則技により、映画はドンデン返しのハッピーエンディング。 　こんな結末、あり〜? 　しかし、どうにも腑に落ちないという顔をしていたのは私だけで、他の観客（当然インド人）は、みんなニコニコ納得顔。 　いやはや、こういう反則が許されてしまうあたり、インドは本当に、スゴイ国です（笑）。 　 　・・・話を元に戻しましょう。 　胃痙攣のお見舞いに来てくれたはずの、近所の奥さん連中は、気がつけば今や、斎場や輪廻転生の話題で、思いっきり盛りあがっているではありませんか。 　これは許せん。彼女たちを、ちょっぴり驚かせてやろう! 　そう思いついた私は、たまたまインドまで持ってきていた、1枚の写真を見せることにしました。 　「えっへん。皆さんも御存知のように、わが祖国・日本は、世界に冠たるハイテク先進国です。今では、自分の前世の姿を写真に撮る機械まで出まわってるのですよ! よ〜く見てちょうだい。これが私の、前世の写真です」 　そう前置きして、私は、居合わせた人々の前に、1枚のモノクロ写真を置きました。 　さぁ、それを見た奥さん連中の驚きようと言ったら・・・。 　その写真はナント、大きなゲームセンターなどに置いてある 　　　前世検索マシーン で撮った、甲冑を纏った私の前世の姿（爆）だったのです。 　ちなみに、写真の下のコメントの欄には、次のようなことが書かれていました。 　「あなたの前世は、戦国時代の武将でした。群雄闊歩する時代に、貴方は刀ひとつで身を興し、天下を取る野望に胸を躍らせたのです。その勇猛果敢さは現世にも引き継がれ、貴方はたいへん勝気で勇敢な人でしょう」 　そう言えば私、むかしから「先端恐怖症」気味なんですよね。 　これって、戦国時代に刀の切っ先で刺されたための、トラウマか何かなんでしょうか?（笑） 　・・・というわけで、今週は病み上がりのため、ちょっと不思議なお話で失礼いたしました。 　皆さんも機会がありましたら、前世検索マシーンで、ご自身のかつての姿を確かめては如何? 　（意外な自分に会えるかも・・・） 　それでは、今週はこのへんで。 　事事如意 　　ニューデリー　山田真美＠世が世なら戦国武将（笑）

2000年11月18日号(第10号)
初めての胃痙攣
ナマステ♪ 　皆さま、いかがお過ごしでしょうか。 　 　ニューデリーはこのところ、急激に冬型の気候に近づき、夜間などは、布団がはがれると起き出してしまうほどの冷え込みよう。 　ただし、昼間の最高気温は摂氏30度とまだまだ暑く、昼と夜の温度差が非常に大きいために、ちまたでは体調を崩す人が続出しています。 　かく言う私も、このところ体調がイマイチでして、今もPCをベッドの中に引っ張り込んで「週刊マミ自身」を書いている有り様です。 　あれは一昨日、木曜日の午後のことでしたか。 　朝からなんとなく胃がだるかったため、朝食は軽めに済ませ、昼食は、食欲もなかったのでスキップ。 　そこへ突然、降って湧いたようなメガトン級の胃痙攣に襲われたのです。 　胃痙攣というのものを、私は今までよく知らなかったのですが、あれは本当に痛いものですね〜。 　キリキリキリっという差し込みがきて、その直後に胃がキューッと攣（つ）ってゆくまで、時間にしてわずか一分ほど。 　それはもう、このまま地球が裏返しになってしまうんじゃないかと思うぐらいの、ひどい痛みでした。 　あっという間に立っていられなくなり、床にヘナヘナと座り込んで、家族を呼ぼうとするのですが、もちろん声なんて出せる訳がありません。 　そのうちに両手がジンジン痺れだし、指先が硬直してまったく動かなくなり、視界がスーッと白くなってきた時には、 　（こ、これは、マジで一巻の終わりなのでは?） と、冗談抜きで思いましたよ。　 　こう書くと、なんだか大袈裟に聞こえるかもしれませんが、本格的な胃痙攣＠初体験の私には、そのときは本当にそう思えたんです。 　幸いこの段階で、階下にいた家族が、私の異変に気づいてくれました。 　すぐにベッドに運ばれましたが、布団を掛けられてみて初めて、自分の身体が氷のように冷たくなっていることに気づきました。 　「お願い。ふとん、もっともっと掛けて」 　その辺にあった布団を、ありったけ掛けてもらいました。 　結局、ブランケット3枚と、厚地の冬用布団を掛けてもらったのですが、それでも身体がガタガタ震えているのがわかります。 　すぐに、日本大使館の医務官に連絡がとられました。 　さぁそのあとは、救急車を呼ぶ呼ばないの大騒ぎ。 　この間、私は、エビのように身体を丸め、痛みと寒さで七転八倒するばかり。 　灼熱のインドで、寒さにのた打ちまわる日の来ることなど、一体どうしたら予想できたでしょうか?! 　結局、「この場合は、指圧が何よりも効果的」という診断が下され、徹底的な全身マッサージを受けることになりました。 　ちなみに、現在日本大使館に赴任していらっしゃる医務官の美甘（みかも）先生は、西洋医学一辺倒ではなく、頼るべきところは東洋医学にも頼るという、非常に柔軟な考え方の先生。 　今回、胃痙攣を起こして苦しんでいる私の枕元で、先生が開口一番に、 　「手足の三里のツボを刺激してあげましょう。それだけで、苦痛の大部分は取り除かれるはずです」 とおっしゃっているのが聞こえたときは、なんだか心底ホッとしました。 　こういう状況で、銀色に光る痛〜い注射をされるのと、三里のツボを刺激されるのとでは、三里のツボのほうが、精神衛生上、どんなにか救われます(笑）。 　そのあとは、家族が交代でツボ指圧をしてくれました。 　おかげで胃痛は徐々におさまり、数時間後はどうにかウトウトと浅い眠りに入ることが出来た私です。 　さて、今回のこととは直接は関係ありませんが、インドにはアユール・ヴェーダという古い医学があります。 　これは、中国の漢方と並ぶ、古い東洋医学です。 　お医者さんの話が出たついでに、今日は簡単にアユ‐ル･ヴェーダのことにも触れたいと思います。 　アユール・ヴェーダでは、医師の診立ては基本的に「脈診」によります。 　患者にいちいち根掘り葉掘り状況を聞かなくても、脈を診るだけで、ほとんどのことがたちどころに分かってしまうんですね。 　名医ともなれば、約1分ほど脈を診るだけで、患者の全身状態、過去の病歴はもちろん、今朝の食事の内容まで看破してしまうから驚きです。 　アユ‐ル･ヴェーダは、もともと「予防医学」の性格が色濃いため、急性疾患には必ずしも卓効は望めないかもしれませんが、慢性疾患には効果絶大。 　また、まだ病気になっていない健康な人が、病気を予防する目的で、アユール･ヴェーダに従った食生活を実践することも、インドでは一般的です。 　興味深いのは、アユール･ヴェーダが、人間の身体を形成する要素（特性）を、 　　風、火、水 の三つに分けていること。そして、 　「病は、この三要素のバランスが大きく崩れたときに発生する」 と説いています。 　実際には、この三要素がバランス良く備わった人はむしろ稀で、おおかたの人が「風」（痩せぎすの人に多い)、「火」（中肉中背の人に多い）、「水」（肥満体の人に多い）のうちの、どれか1つ（または2つ）に偏る傾向が強いようですが。 　ちなみに私は、典型的な「火」の体質です。 　三つの要素の中で「火」だけが群を抜いて強い、いわゆる「アンバランスな状態」ですが、では、この状態が「悪」かというと、必ずしもそうとも言いきれないらしいのですね、これが。 　たとえば、私に本を書かせている「情熱」というエネルギーは、まさにこの、私の中に在る「火」のなせる技。 　作家や芸術家には、この「火の体質」の人が多いという話も聞きます。 　また、国によって、「風体質の人が多い国」、「火体質の人が多い国」、「水体質の人が多い国」もハッキリしているそうで、これは、その土地の気候風土によるもののようです。 　よく、「イタリア人は陽気」とか、「ドイツ人は質素」なんてことを言いますが、こういった俗説も、アユール･ヴェーダの言う3要素で説明がつくのかもしれません。 　あとは、「風体質の人がなりやすい病気」、「火体質の人がなりやすい病気」、「水体質の人がなりやすい病気」も、かなりハッキリしているようです。 　アユール･ヴェーダにおける治療方法は、基本的には「薬草＋オイル･マッサージ」です。 　このうちのオイル･マッサージに関しては、南インドのケララ州に、リゾート型の素晴らしい入院施設がたくさんあります。 　「ソーマティーラム」は、そうした高級施療院のひとつ。 　患者さんには、主にヨーロッパ人とアメリカ人が多く、具体的には、会社のエグゼクティブや、神経を使って疲れる職場（例：テレビ局のディレクターや、広告代理店の売れっ子デザイナーなど）が、たくさん保養に来ています。 　ここのホームページへは、私のリンク集からも飛ぶことが出来ますので、ご興味がおありの向きは、様子をご覧になってみてください。 　いずれにしても、ストレスは万病のもと。病気になる前に、ストレスを溜め込まないことが、何より大切ですよね。 （今回、胃痙攣を起こして、身に沁みました） 　これから、何かと気忙わしい年末に向かいます。 　皆さんも、どうぞお風邪など召さず、お元気でお過ごしください。 　　　事事如意 　　　　　　ニューデリー　山田真美

2000年11月11日号(第9号)
もうイヤッ、こんな生活!!!
ナマステ♪ 　今日は朝から思いっきり黄砂が吹き荒れて、街全体の景色が、まるで黄色いフィルターを通したように見える1日でした。 　さすがは砂漠の入り口、ニューデリーだけのことはあります。 　こんな日に外出したおかげで、喉はイガイガ、目はショボショボ。 　干しておいた洗濯物も、ひとつ残らず黄色く染まってしまいました。 　これからまた、一から洗いなおさなければ…（溜め息） 　ところで、今日はひとつ、皆さんにお詫びしなくてはならないことがあります。 　実は、私が使っているサーバー（mantraonline）が、今月の2日からず〜っとダウンしておりまして、メールの送受信が一切不可能な状態が続いています。 　マントラ本社の電話には、もう何百回となくダイヤルしているのですが、先週から延々と話し中。 　たぶん、インド中からクレームの電話がかかっていて、回線がパンク状態なんでしょう。 　代理店に尋ねても、復旧のメドについては、サッパリわからないというお返事。 　「まぁ〜、気長に待っててくださいよ〜。いつかはたぶん、復旧しますから。ノー・プロブレム！あっはっは」 　って、いくらなんでも、その言い草はないでしょー。 　まったくインド人は、「ノー・プロブレム」って言葉の意味を、サッパリわかっていないんじゃないでしょうかネ??? 　人たちに任せておいたら、サーバーが復旧するのは、最悪の場合は来世かも。 　ちなみに、マントラは「インドで最も優良なサーバー」と評判の会社。 　イギリスとインドの合弁会社で、各国大使館の外交官などのあいだでも、結構人気のサーバーです。 　そのマントラでさえ、この体たらく。 　これだから、インドは疲れるのよ。 　もうイヤッ、こんな生活!!! 　さて、話はコロッと変わります。 　もうお気づきかもしれませんが、本日、『天竺写真館』を、ジャジャジャ〜ンと新装開店いたしました。 　写真館には、インドで撮ったプライベートな写真を満載しています。 　訪印中の森喜朗首相とのツーショット（むふふ）など、ちょっと珍しい未公開写真も大公開しました。 　なにとぞ御笑覧くださいマセマセ〜。 　また、リンク（友人のサイト）も2件ほど増やしました。 　アブラハムさんは天文学者。マジェイアさんは魔法都市の住人。 　名前は怪しいけれど、2人とも歴とした日本人で、たいへんな知性派です。 　両サイトとも、実にユニークかつディープですので、是非、訪ねてみてくださいね。 　それでは今日も、お元気で! 　私は、黄砂にやられた喉がマジで痛くなってきたので、これから薬局へ走ります（笑)。 　　　事事如意 　　　　　　　　　ニューデリー　山田真美

2000年11月4日号(第8号)
魔法少女パール Japan Tour 2000
　ただいま〜♪ 　2週間の御無沙汰でした。 　前回の「週刊マミ自身」で予告しましたとおり、10月22日から29日までの8日間、インドの天才魔法少女パール・ブンガラちゃん(11歳)を連れて、日本に戻っておりました。 　今回の旅の目的は、マジックを通じての、子ども達の日印文化交流。参加者全員がボランティア・ベースの、民間親善外交です。 　今日の「週刊マミ自身」は、お約束どおり、ツァーの報告記ということで…。 ≪この号の主な登場人物≫ 　 ☆パール　 　今回のツァーの主人公。 　11歳の天才魔法少女。 　ふだんは、ムンバイ在住の小学6年生。 　数学と理科の成績は学校で一番。 　将来の夢は飛行機のパイロットになること。 　赤いヘアバンドがトレードマーク。 ☆カイザード 　パールのお母さん。 　今回のツァーには、ショーのアシスタントとして参加。 　ふだんはエア・インディアの国際線スチュワーデスとして 　世界中を飛び回っている。 　私とは同い年で、時々つるんでケーキを食べに行ったりする仲。 ☆私(ヤマダ・マミ)　 　今回のツァー全体のプロデューサー。 　企画立案から、通訳、渉外、雑用まで、 　一切合切を抱え込んだ、悩み多き日本人作家（笑）。 　パールとはマジック・コンテストの審査員として知り合い、 　今では家族ぐるみのお付き合い。 　　 ♪　♪　♪　♪　♪　♪　♪　♪　♪ 　10月21日(土) 　★ニューデリー空港20：50発エア・インディア308便にて、インド出発。既にムンバイから乗って来ていたパール、カイザードとは、機内で合流しました。 　飛行機がガラガラだったため、各人が3〜4席を確保し、朝まで横になって熟睡できました。ラッキー♪ 　★パールのお母さんは、エア・インディアの現役スチュワーデス。当日の乗務員も、当然、全員がおトモダチということで、皆さんからと〜っても良くしていただきました。これまたラッキー♪ 　10月22日(日) 　★朝8時、定刻どおりに成田到着。ここから京成の長距離バスに乗って、一路大宮へ。パールは、 　 「うわぁあああ〜！バスの中に、トイレと電話がついてるぅぅぅ〜！」 と大喜び。（←インドでは絶対に、あり得ないことですから、はい…） 　★午後から、大宮市内のホテルで行なわれた、第1回ジャパン・マジック・サークルの集まりに参加。 　パールはゲスト・マジシャンとして、複数のプロマジシャンやマジックファンの皆さんを前に、20分ほどのショーを披露しました。 　★会場には、10年来のお友達である東京新聞経済部次長の山口宏昭さんも、取材に駆け付けてくださいました。 　山口さんと私は、仕事で一緒に米国のヒューストンに行ったこともあるツーカーな仲。今回も、電話一本で、 　「よっしゃー！記事なら僕が書くから、任せてよー！」 ってなもんで、経済部だというのに、魔法の記事を書くために飛んで来てくださいました(笑)。 　ホント、持つべきものは良き友ですね。 　★会場のホテルから大宮駅に至る道は、あろうことか大渋滞！しかも、パール親子の荷物は、全部で5個、重量〆て80キロ！ショーのスタッフの方にも手伝っていただき、この大荷物を担いで、大宮駅構内を走った、走った！ 　あらかじめ指定席を取ってあった17：14大宮発の新幹線あさま号に飛び乗った途端、背後でスーッとドアが閉まりました。間一髪で、ギリギリセーフ！ 　パールは、フランスのTGVに次いで世界で2番目に速い新幹線に、大〜満足！ 　★18：27長野着。今回、パールを日本に招聘してくださった(社)長野国際親善クラブの小出会長らの出迎えを受けました。 　パールとカイザードは、ここからホームステイ先へ直行。私はこのあと、お友達とケーキを食べに行き、両親の待つ実家(長野市内)へ帰るや、バタンキューで爆睡！ 　10月23日(月) 　★朝8時、長野駅前のホテルに関係者が全員集合。 　聞けばパールは、昨夜遅く、ひどい腹痛を起こして一晩中苦しんだというではありませんか。今日は朝から顔色が真っ青。のっけからこんな調子で、果たして大丈夫？なんだかイヤーな予感が…。 　★9時〜　長野市内の城東小学校で、日印親善のためのマジックショーを開催。 　この小学校は、1998年の長野オリンピック開催時には、インドの選手団を応援。そのあともインドの小学校と手紙での交流を続けている、いわば「長野で一番インドに近い小学校」なのです。（ちなみに私も、ここの卒業生。） 　さて、記念すべき長野での第1回目のショーということで、会場となる小学校の講堂には、地元テレビ局6社と、新聞社各社が取材にきています。 　それなのに、あろうことか、パールは胃痙攣を起こして楽屋でダウン！ 　講堂では、何も知らない児童たちが、パールの登場を今か今かと待っています。 　先生達は「そろそろ出番ですので、お願いします」と呼びに来るし、テレビ局のカメラはスタンバっている…。 　そのころ楽屋では、医者を呼ぶ呼ばないの大騒ぎ…。今さらショーを中止するわけにもいかないし、神サマ、助けて〜！ 　このときはもう、マジで私の胃にも穴が開くかと思いました。 　しかし、パールは立派でした。 　「あんなに大勢の子ども達が、みんな、私を待ってるから…」 　そう言って無理やり笑顔を作ると、胃痙攣を押して、見事に舞台を務めてくれたのです。 　それを見たカイザードと私、それに主催者代表らは、 　「はぁぁぁ〜、良かったぁぁぁ〜…」 　安堵から、へなへなと床の上に崩れ落ちたのでした。 　※ここからあとの出来事は、逐一報告しているとメチャクチャ長くなりますので、 淡々と事実だけを述べることにします。 　★午後からは、長野市内の城山小学校で、同じくマジックショー。 　★夕方の6時〜8時半まで、長野市内のホテル国際21で行なわれた「インドの夕べ」にて、約200名のお客様を前にマジックを披露。 　★会の終了後、パール親子がホームステイ先に送られていったあと、私は兵庫県からわざわざ会に参加してくださったお友達と飲み会。 　10月24日(火) 　★午前中、長野市内の川中島小学校でマジックショー。 　お昼は児童たちと一緒に教室で給食を食べました。 　★午後4：30〜、テレビ信州（TSB）の『夕方GET』という生番組で、マジックを披露。 　★このあたりで一番大きな外資系のオモチャ屋さん『トイザラス』にて、マジック用品などをショッピング。 　★「Pizzaが食べたい」というパールの要望に応えるべく、ピザ屋さんへ。日本に着いて以来、まったく食欲がなく、周囲を多いに心配させていたパールが、少量とは言え初めて食事を口にしてくれたので、関係者一同、ほっと胸を撫で下ろしました。 　★パール親子をホームステイ先に送り届けたあと、私はその足で、なんと中学校のミニ同級会に出席。 　卒業から数えて、実に25年！四半世紀ぶりに再会する相手もいるというので、最初はおっかなびっくりでしたが、逢ってみると、意外にも、みんなそれほど変わっていなかったりして。 　ちなみに当日の幹事は、このホームページの掲示板常連である、A・Z＠プータローさん。 　一次会は大衆酒場。二次会はカラオケバーというお定まりのパターンでしたが、本当に心の和む、楽しいひとときでした。 　10月25日(水) 　★午前、長野市内の三輪小学校でマジックショー。 　★パンが美味しいことで有名なレストランでランチ。食事をしながら、NHKラジオ(全世界放送)の録音取材を受けました。 　★午後、長野市内の徳間小学校でマジックショー。 　★「日本のケーキは何故美味しいのか？その秘密が知りたい」という、カイザードの要望により、ケーキ作りの先生のお宅に訪問。チョコレート風味のデコレーションケーキを作らせていただきました。 　★パール親子をホームステイ先に送り届けたあと、更に私は友達との飲み会を敢行。←このハードスケジューのなかをかいくぐって、夜な夜な懲りない私…。 　10月26日(木) 　★午前、長野市郊外にある戸隠小学校でマジックショー。 　ショーのあとの交流会で、児童たちに一輪車に乗せてもらったパールは、すっかり病み付きになり、 　「イチリンシャ、1台インドに持って帰りたいなァ…」 　と、いかにも欲しそうな様子(笑)。 　★戸隠と言えば、名物は何といっても「お蕎麦」。お昼は手打ち蕎麦のお店で、天ざるをいただくことになりました。 　ここでパールは、一昨日の夜ピザを食べて以来初めて、食事らしい食事をしました。 　今度はナント、自分の海老天、みんなの海老天、合わせて7本の大きな海老天をぺろりと食べてしまったのです。 　日本に到着して以来、パールが食べた食べ物らしい食べ物は、ピザ1枚と海老天7本のみ。あとは水を飲んでいるだけ！ 　カイザードの話では、インドにいるときも、パールはほとんど食事をしない子なのだとか。 　（そういう子どもって、ときどき見かけますよね。子ども時代の私自身がそうでしたし。周囲に対して常に気を配るタイプの子に多いかもしれませんね。パールもほとんど食べないけれど、元気いっぱい。こういう子には、無理に食べさせなくても、いつか自然に食べられるようになる気がします。） 　★さて戸隠と言えば、忍法も有名。お蕎麦のあとは、「忍者からくり屋敷」に入って遊びました。 　入ったは良いけれど、いざ出ようとしたら出口が分からず、大騒ぎ。結局、屋敷のなかで1時間も迷ってしまいました。 　★3時から、オリンピック施設である「Mウェーブ」を見学。ここでまたしても、NHKラジオの録音取材(昨日の続き)を受けました。本当に、パールは一刻も休む暇がありません。 　★自転車屋さんに立ち寄って、念願の一輪車を購入。 　★5時〜　長野市内のインド料理レストラン「ナン・ナーム」にて、長野国際親善クラブの会長以下、関係者20名ほどが一堂に会して、サヨナラ・パーティー。 　★パール親子をホームステイ先に送り届けたあと、長野市在住歴10年になるフランス人の友人夫妻のお宅へ、フランス料理を御馳走になりに行きました。途中から、ファッションデザイナーの友人も合流し、長野での最後の夜は、フランスワインで、またしてもヘベレケに更けて行くのでした…(笑)。 　10月27日(金) 　★午前、長野市内の寺尾小学校でマジックショー。 　ここの校長先生は、女性で、美人で、しかも英語がペラペラ。と〜っても素敵な先生で、しかもこの方は、私の中学時代の恩師でもあるのです。…というわけで、私はこの日、パールに対して鼻が高かった(笑)。 　★長野発12：14の新幹線あさま号で、一路、上野へ。 　★上野に到着後、拙宅に荷物を運び込み、そのあと浅草界隈を探索。 　浅草演芸ホールで寄席を見学し、日本奇術家協会会長の北見マキ先生（良いお友達です）のマジックショーを拝見したあと、北見先生も交えた4人で軽く食事。 　★そのあと拙宅に、毎日新聞本社の佐藤大介さんが取材に見えました。佐藤さんは明治学院の後輩で、28歳の素敵な独身青年です。パールが演じて見せた、ロープを使った手品に夢中になってしまい、気が狂ったように練習していましたけれど、結局トリックを見破れなかったみたい。 　佐藤さ〜ん、あれから手品の謎は解けましたか〜？(笑) 　10月28日(土) 　★朝6時半、NHKから差し向けられた黒塗りのハイヤーが到着。 　渋谷のスタジオに入り、半日がかりでBSの海外向け番組『JAPAN THIS WEEK』の撮影。パールは一度もNGを出さず、撮りは一度で終了。 　スタッフの皆さんから、 　「あなたこそ、本当のプロだ！」 と、激賞されました。 　なお、番組の放送予定は、日本国内では11月4日(土)、海外では4日(土)と5日(日)だそうです。 　★撮影終了後は、東京での短〜い休日をむさぼるべく、銀座(不二家洋菓子店、おもちゃの博品館など)、秋葉原の電気街などを、夜まで散策。 　★家に帰り、パールを寝かしつけたあと、カイザードと2人で夜中までかかって荷造り。 　10月29日(日) 　★京成上野発8：50のスカイライナーで、成田空港へ。 　★成田発11：45のエア・インディア301便にて、一路インドへ。 　★現地時刻の夕方5時半頃、ニューデリー到着。ここから更にムンバイに向かうパール、カイザードとは、機上でお別れ。 　空港で家族全員の出迎えを受け、家にたどり着いてシャワーを浴びたところまでは覚えているのですが、そのあとの記憶がありません。 　家族の話によれば、ベッドに倒れ込み、それから3日半のあいだ、死んだように眠っていたとか(笑)。 　…以上で、すさまじい強行軍だった JAPAN TOUR 2000 の、概要報告を終わります。 　今回の旅のことは、いずれきちんと本の中で書こうと思っていますが、今日はひとまず、こんな乱文調の報告書で、お許しくださいマセマセ。 　それにしても、あ〜、まだちょっぴり眠り足りないなぁ〜(笑)。 　　事事如意 ニューデリー　山田 真美

2000年10月21日･10月28日合併号(第7号)
天才魔法少女、ついに日本上陸！
ナマステ♪ 　魔法ファンの皆さん、長らくお待たせいたしました！ 　インドが生んだ若き天才、魔法少女パール (11才の小学6年生) を日本に連れて行く日が、ついにやってまいりました！ 　インド出発は今日、10月21日。訪日メンバーは、 　♪魔法少女パール 　♪パールのお母さん カイザード 　　　(エア･インディアの現役スチュワーデス) 　♪そして、コーディネーター役の私 　以上、麗しき(笑)女性3名です。 　もちろん、麗しいと言っても、読んで字の如く「女女女」ですから、「姦しい」ことは確かですが、まぁ、そのへんは御愛嬌ということで、大目に見てください。 　パール親子と私は、日頃から大の仲良し。 　チョコレート中毒で、ダイビングやハング・グライダーなど、過激なスポーツが大好き。好奇心旺盛で、ジェットコースターがあれば、つい飛び乗ってしまう。…どことなく、似たもの同志なわけです。 　今回のツアーでは、29日まで日本に滞在。22日が大宮、23日〜27日のお昼まで長野、それ以降は東京におります。 　長野では毎日2回、小学校などでマジックショーを開催する予定です。日印の子どもたちの国際交流が目的ですので、商業ベースの興行は、一切行ないません。 　なお、このツアーが実現されるまでの、簡単な経緯を記した拙文（10月20日付けの信濃毎日新聞「国際面」に掲載済み）を、下に転載いたします。 　御高覧ください。 　　　　　　♪　　♪　　♪　　♪　　♪　　♪　　♪ 　　　「国際通信 信州へ」インド編 　　　　　　　　　　　　　山田 真美 　ニューデリー市の私立学校「デリー・パブリック・スクール」（ＤＰＳ）は、小学校から高校まで一貫教育のインド屈指の難関校だ。この学校ではここ数年"日本ブーム"が巻き起こっている。 　長野五輪で一校一国運動を展開するに当たり、長野国際親善クラブ（小出博治会長）から、「長野の小・中学校のパートナーとしてふさわしいインドの学校を探してほしい」と依頼され、私が推せんしたのがＤＰＳだった。 　ＤＰＳの交流相手には、一校一国運動でインドを応援し手紙や絵の交換を続けてきた長野市立城東小学校に加え、最近になって長野市立川田小学校も参画。近い将来、子どもたちの「短期交換留学」も予定されている。 　こうした交流がきっかけとなって、ＤＰＳの生徒たちは、日本語学習を強く希望。学校側がそれにこたえる形で、一年前から仏、独、ロシア語に続く四つ目の選択外国語科目として、日本語が正式に導入された。 　もともとすべての授業を英語で行うＤＰＳの生徒たちは、驚くほど外国語学習能力が高く、日本語に関しても、ペラペラではないまでも、既にかなり「話せる」生徒が大勢育っている。 　長野とインドの子どもたちのこうした交流に一段と弾みをつけてくれそうなのが、22日から27日まで長野国際親善クラブの招きで長野市を訪れる、インドの魔法少女」パール・ブンガラさん（11才）だ。 　「天才少女マジシャン」と称されるパールさんは、インド最大の商業都市ムンバイの小学六年生。1998年、たまたま私がゲスト審査員を務めたインド最大のマジック大会のジュニア部門では第二位、この夏アメリカで行われたＳＡＭ（米国最大のマジシャンの団体）主催の国際マジック大会では、見事ジュニア部門優勝。今、最も輝いているインド女性の一人だ。 　学校では数学と理科が得意なパールさん。将来の夢は、「飛行機のパイロットか数学者になること」。今回の長野滞在中は、城東をはじめ長野市内の六つの小学校などでマジック・ショーを披露する。トレードマークの赤いヘアバンド姿を見かけたら、気軽に「ナマステ（こんにちは）！」と声をかけてあげてください。　　 　　　　　　(信濃毎日新聞2000年10月20日掲載) 　　　　　♪　　♪　　♪　　♪　　♪　　♪　　♪　 　パールさんのことは、拙著『マンゴーの木』と『Wheel of Destiny』のなかにも登場しますし、このホームページの『Wheel of Destiny』のコーナーには、彼女がマジックをしている写真(今年3月撮影)も載せてあります。御覧ください。 　…というわけで、私はこれから日本の友達へのお土産などを買いに、その辺のマーケットに出かけます。 　日本滞在中、基本的にメール・チェックはしませんが、友達に頼んで、毎日ホームページの掲示板だけはチェックしてもらおうと思っていますので、何か御用がおありの方は、掲示板でお知らせください。 　たとえば、 「27日の夜、東京で食事しない〜？」 みたいな、軽めの伝言も大歓迎です(笑)。 　なお、掲示板のチェック担当者は、事後承諾で恐縮ですが、旧友のよしみで、Ａ・Ｚ＠プータロー茶魔、お願いできますでしょうか？(笑) 　よろしくどうぞ！　←我ながら人使いが荒いなぁ〜＆こんなことをホームページ上で頼んでしまうとは、まったく呆れたものだ（笑）。 　（ちなみに秘書のブースケは、有給休暇を取ってハワイに遊びに行っており、ただいま留守です。） 　私は、ニューデリーには29日の夜に戻りますので、次回の「週刊マミ自身」は、11月4日（土）に更新します。 　日本で、もし良い写真が撮れましたら、そのときは、ホームページ上で一挙に公開します。乞う御期待！ 　それでは皆さん、ちょっと早いですが、 　 　　Happy Halloween! 　事事如意 　　　　　　　　　　　ニューデリー　山田真美

2000年10月14日(第6号)
どうなる中東和平？！
ナマステ♪ 　 　一昨日の朝、新聞を開いて、途端にドーンと気が重くなりました。 　一面トップ記事のタイトルは、 　“Peace is Dead”（平和は死んだ）。 　中東和平交渉が決裂し、イスラエル軍が、パレスチナの指導者であるアラファト議長の本部ビルをミサイル空爆したという、ショッキングな内容の記事でした。 　(この事件、日本ではイマイチ話題にも上っていないって、本当ですか？国際的にはトップ記事扱いなんですけど・・・） 　実を言いますと、一昨日の夜は、大学院進学のためにイスラエルで暮らすことになった友人(インド人)のための、壮行会があったのです。 　本来なら、 　「頑張って勉強して、ついでに恋人も作っていらっしゃいよね〜！」 　「テル･アビブの海水浴場って、結構楽しいらしいわよ！」 ってな具合の、明るく楽しいパーティーになるはず・・・だったのですよ。 　が、しかし、ミサイル攻撃のニュースを聞いてしまった直後ですから、なんとも盛り上がりに欠ける会になってしまいましてね。 　「身体にだけは気をつけるのよ。必ず、無事で帰ってきてね」 　「博士号よりも命の方が大事なんだから、少しでも雲行きが怪しくなったら、すぐに帰ってらっしゃい」 ・・・という感じ。 　ここで、中東問題をほとんどご存知ない方のために、今回の騒ぎの背景にある事情を、ごく大雑把におさらいしておきましょう。 　“エルサレム”という地名は、もちろんご存知ですよね。 　ここは、一般的にはイスラエルの首都として知られていますが、実際には、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の、それぞれの宗教にとっての聖地です。 　そのため、エルサレムでは、 　「ここは、俺たちの土地だ」 　「いいや、俺たちのほうが早くからここに居た」 というイザコザが、有史以前から延々と続いているわけです。 　特に、イスラエル（ユダヤ教）とパレスチナ（イスラム教）の犬猿の仲は、誰一人知らぬ人はいないほど。 　 　問題の争点が、なにしろ“聖地”ですから、 　「仲良く半分こに分けたらどうなの？」、 なんて、気安く妥協案を出そうものなら、 　「命よりも大事なものを半分に切るなんて、冗談じゃない！！」 と反発を食らい、ますます火に油を注ぐ結果になってしまうわけです。 　なにしろ、ケーキ1個を半分に分けるのだって、どちらが大きいか小さいかで、取っ組み合いの兄弟喧嘩になってしまうのが、人間の悲し〜い性。 　ましてや聖地を半分に切って分けるなんて、当事者からしたら、自分の身を切られるよりも、ずっとツライことでしょう。 　この喧嘩、もとをただせば旧約聖書の時代にまで遡ることができ、その長びき方、こじれ方は、ハンパじゃありません。 　なにしろ、 　“目には目を、歯には歯を” という有名なフレーズを生んだ中東のことです。 　なかなか簡単に“半分こ”というわけには行かぬまま、数千年の時が流れてしまったのでしょう。 　この夏も、クリントン大統領が出てきて両者を握手させようとしましたけれど、そんなことではとても埒があかなかったわけです。 　で、問題はインド。 　 　意外に思われるかもしれませんが、実はインドも、中東問題とは切っても切れない間柄です。 　世界地図を広げてご覧になると一目瞭然なのですが、インドからイスラエルまでの間にズラ〜ッと並んでいる国々は、片っ端からイスラム教国（一般に“アラブ”と総称されている地域のことです）｡ 　インドは、ご存知のように、パキスタン（＝アラブの一部)とは犬猿の仲で、ここ数十年、国境付近でのドンパチが絶えません。 　最近では、両者が競って核実験を強行。騒ぎは収まるどころか、だんだんと長期化、泥沼化の様相を呈し始めています。 　つまり、イスラエルとインドは、アラブを挟んで、国防という点での利害関係が、見事に一致しているわけなのです。 　「友達の友達は、友達だ〜♪」 と歌っていたのは、あれは確か、チータこと水前寺清子サンでしたが、この2カ国の場合は、 　「敵の敵は、友達だ〜♪」 ・・・ということになるのでしょうか。 　さて、ここから急に、話のスケールが小さくなります。 　実は私、昨年からヘブライ語の勉強をしております。 　ヘブライ語は、イスラエルの公用語（と言うよりも、イスラエルをはじめ、世界中に散らばったユダヤ人コミュニティーが使っている言語と言った方が、より正しいかもしれません)であり、現在地球上で使われているあらゆる言語のうち、最古のものと言われています。 　私がヘブライ語を習い始めた理由は、小説執筆上の必要からでした。 　現在書き下ろしている長編小説の主人公(17才の少女)を、「語学の天才」で、「ヘブライ語にも通じている」という設定にしたのが、運の尽き。 　彼女の生みの親である作者（つまり私です）がヘブライ語を知らないことには、原稿を書けるわきゃない。これは、誰にもわかる自明の理。 　まあ何とかなるだろうと気楽に考えて、イスラエル大使館のヘブライ語講座に通い始めたまでは良かったのですが、いやはや今度ばかりは、私の読みが甘かったですね。 　結論から言えば、超〜難しいです、ヘブライ語！！ 　何が難しいって、たとえば読み書きひとつ取っても、ヘブライ語には子音だけが在って、基本的には母音というものがありません。 　（それがどんなに読み書きを難しくしているか、想像できますか？） 　しかも、大文字と小文字の区別もなし。 　 　ですから例えば、私の名前「ヤマダマミ」は、ローマ字表記ならば、 　「Ｙａｍａｄａ　Ｍａｍｉ」 となるところが、ヘブライ語表記ですと、 　「ｙｍｄ　ｍｍ」 どうしたら、これで「ヤマダマミ」って読めるでしょう？？？ 　（↑注・ここでは便宜上、ローマ字を使って説明しましたが、実際に使われる文字は「ＡＢＣ」ではなく、ヘブライ文字です。左から右ではなく、右から左に向かって書くのが大きな特徴。） 　中東和平は、人類全体にとって頭の痛い問題ですが、それ以前に私は、ヘブライ語の難しさで、早くも頭が痛い・・・。 　“エルサレム”はヘブライ語で“平和の都”という意味｡ 　中東に、1日も早く真の平和が訪れることを、頭を抱えながら祈っています。 　シャローム！ 　※シャローム＝ヘブライ語で「こんにちは」と「さようなら」の両方を 　　意味する言葉。もともとの意味は「真実の平和、真実の和解」。 　事事如意 　 　 ニューデリー　ｙｍｄｍｍこと、山田真美

2000年10月7日号(第5号)
インドのお手伝いさん
ナマステ♪ 　早いもので、今年も余すところ3ヶ月弱。 　小説の原稿のノルマがまだまだ達成されていないというのに、追い討ちをかけるように、次から次へと野暮用が入ってきて、なんだか妙に忙しい。 　ああ、時間が足りない。1日48時間欲しい…と、切実に思う今日この頃であります。 　さて今日は、うちで雇っているお手伝いさんについてお話しましょう。 　ご存知の方も多いと思いますが、インドという国は人件費が安く、中流階級以上の家庭では、住み込みにしろ通いにしろ、お手伝いさんを雇うのが普通です。 　もっとも私などは、このシステムに慣れるまでに、だいぶ戸惑いましたけどね…。 　だって、他人が四六時中、家の中にいるなんて、想像しただけでも気詰まりなことに思えましたし、家事を人に任せること自体、気が進みませんでしたし。 　ところが、いつまでたってもお手伝いさんを雇おうとしない私に業を煮やしたのか、ある日、町内会のオジさん達がやって来たのです。 　オジさんいわく、 　「人を雇える余裕のある人は、お手伝いさんを雇ってもらわないと困るんですよぉ。インドの雇用機会を増やすことに協力してもらわないと。それがこの国のルールなんですからねぇー」 　なるほどそういうものですかと、重い腰を上げ、初めてお手伝いさんを雇ったのが、今から4年ちょっと前。1996年の夏のことです。 　その、初めてのお手伝いさんが家にやって来たときは、いやはや大変でした。 　彼女が来る前に、家の中をピカピカに磨いておかないと恥かしいような気がしまして、3日がかりで大掃除。水道管の中まで掃除をしてから、丁重にお手伝いさんをお迎えし、毎日のようにお茶菓子まで出してあげて、かえって精神的に疲れ果てました (笑)。 　今から考えると、バカみたいな話ですね。 　このときのお手伝いさんは、60代のインド女性で、なんと吃驚、名前は「バーチャン」。 　この「バーチャン」は、今から考えると、かなり悪質なお手伝いさんだったと言わねばなりません。どうしたらなるべく働かずに、1ルピーでも多く給料をふんだくれるか、朝から晩まで、そのことだけを考えているような人でした（笑）。 　しかもバーチャンは、昨日ヒンドゥー教徒だったかと思うと、今日はイスラム教徒に、明日はキリスト教徒に豹変するのです。 　インドは多宗教国家のため、ヒンドゥー教徒にはヒンドゥー教徒の、イスラム教徒にはイスラム教徒の、キリスト教徒にはキリスト教徒の、という具合に、それぞれの宗教別に休日がありまして、心ある人は、自分が帰依している宗教の暦にしたがって休みを取ります。 　ところがこのバーチャンという人は、休みが欲しいばかりに、そのときどきの都合で、コロコロと宗教を変えるわけですよ。 　「明日は、ヒンドゥー教の○○祭だから休みます」 　「明後日は、イスラム教の△△祭なので休みます」うんぬん。 　あるとき、あまりにもサボッてばかりのバーチャンをつかまえて、アナタは一体何の宗教を信心しているのかと詰問しましたら、 　「私の家は、父がヒンドゥー教徒、母がイスラム教徒、夫がキリスト教徒なので、わたしはそれら全部に帰依しています」 　という、実に堂々たる答えが返ってきました。 　もちろんこれは真っ赤な嘘だったのですが、ダメモトにしろ、よくもまあこんなデタラメが言えたものです。 　そんなことがありましたので、バーチャンにお引き取り願ったあと、お手伝いさん選びにはシビアになりました。 　最初に甘い顔を見せると、最後まで付け込まれますから、初めの1週間ぐらいが肝心。マダムとしての威厳を見せなければいけません。 　かと言って、あまり厳しいことを言っていると、腹いせに何をされるか分かったものじゃありません。このへんの"さじ加減"が、意外に難しいわけです。 　バーチャンのあと、ミーナという若い女の子を暫く雇いました。とてもよく気の利く、無口な良い娘さんでしたが、家庭の事情で仕事を続けられなくなり、3ヶ月でリタイア。 　その次に雇ったのは、プーランという27才の男性でした。 　この人は、かつてホテルの厨房でシェフをしていたそうですが、人間関係がうまくいかず、少し前からプータローになってしまったとのこと。 　試しに料理を作らせてみたところ、インド料理でも中華料理でも驚くほど上手に作るので、喜んで雇うことにしました。 　ところが暫くして、このプーランの弟が、親の決めたフィアンセと結婚することを拒み、カーストの異なる別の女性と、駆け落ちしてしまったのです。 　これは、プーランが生まれた狭い田舎町では、大変な掟破り。 　父親は既に他界していたため、長男であるプーランは、事件の決着をつけるために郷里のヒマラヤに帰らなければならなくなり、そのうちに、心労が重なってダウン。結局、仕事を続けられなくなってしまいました。 　そんなこんなで、誰もいなくなってしまったところにやって来たのが、今雇っているプラカッシュという男の子です。昨年のはじめに雇ったとき、彼はまだ16才でした。 　このプラカッシュは、7人兄弟の5番目で、ネパールのものすごい奥地の出身。8才のとき、親が"口減らし"のために、彼をインドのダラムサラという町にあるホテルに、働きに出したようです。 　…と言うと聞こえが良いけれど、要するに彼は "売られた"わけですね。 　8才から12才まで、4年間休まず働いたプラカッシュの給料は、すべて親兄弟に取られてしまい、年季奉公を終えたとき、彼の手元には一銭の蓄えもなし。 　しかし、もともと頭の良い子だったのでしょう。ホテルで働いているあいだに、プラカッシュは耳学問で英語を覚え、簡単な読み書きならできるようになっていました。 　奉公を追えてニューデリーに出てきた彼は、縁あって、韓国人の家の住み込みサーバントとして働くことになります。 　しかしその韓国人も、一昨年、急に辞令が下りてソウルに帰ってしまい、再び職を失って途方に暮れていたプラカッシュの前に、たまたまタイミングよく現われたのが、プーランに倒れられ、次のお手伝いさんを探していた私だった。…とまあ、そういうわけです。 　プラカッシュを見ていて、心底気の毒に思うのは、8才のときに自分を捨てた親たちに、いまだに給料のほとんどを仕送りしていること。 　彼は、なにも好き好んで送金を続けているのではありません。彼の育った社会では、親や兄たちには絶対服従。もしも彼がその掟を破り、送金を渋ろうものなら、たちまち追っ手がやってきて、お金を取りたてられるのです。 　「親の顔は、よく覚えていません。家にいたときから、親に可愛がられたことはないし、親とゆっくりできる時間はありませんでしたから。でも今は、住む場所の心配もないし、食べる物の心配もなく、とても幸せです」 と笑うプラカッシュ。 　何の教育も、後ろ盾もないプラカッシュのような子が、広大無辺なるインドで生きてゆくのは、想像を絶するほど大変なこと。 　彼が将来きちんと自立できるよう、最近は、料理、伝統工芸、電気の配線など、色々な技能を身につけさせています。 　彼の親がしてあげられなかったことを、通りすがりの日本人がしてあげるというのも、きっと何かのご縁なのでしょうね。 　事事如意 　 　　　　　　　　　　　ニューデリー　山田 真美

2000年9月30日(第4号)
モーリーン･マンスフィールドさん追悼
　ナマステ♪ 　日本は衣替えの季節ですね。こちらニューデリーの暑さも、ようやく少しだけ和らいできました。朝晩はエアコンなしでも、どうにか大丈夫といったところです。 　　　　 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*- 　ところで最近、悲しいことがありました。 　大好きだったアメリカ人の友達、モーリーン・マンスフィールドさんが、9月20日、ワシントンの療養先で亡くなられたのです。95 才でした。 　ご存知のように、モーリーンさんは、マイク・マンスフィールド元駐日アメリカ大使の奥様です。 　ご縁があって、マンスフィールドご夫妻とは、家族ぐるみのお付き合いをいただき、お二人からは、まるで孫のように可愛がっていただきました。 　東京にいらっしゃる頃、モーリーンさんからは、ときどき電話がかかってきました。 　「ハロー。マミ、元気でいる？ちょっと明日、公邸にいらっしゃいよ。食事を一緒にしましょう」 　少しも偉ぶったところのない方で、そんなふうにごく気軽に、お食事やお茶に誘ってくださるのです。 　モーリーンさんとは、難しい政治問題などを話した記憶は、一切ありません。 　ご夫妻の郷里モンタナのことから、子育てのこと、ファッションのこと、クッキーの焼き方まで、人生の色々なことを教えていただきました。 　また、私の初めての本（『南善寺日記』）の出版が決まったとき、大使は既に任期を終えて、ワシントンに戻っていらっしゃったのですが、 　「おめでとう！それなら記念に、僕が本の序文を書いてあげよう」 とおっしゃって、大使からは、これ以上ないほど立派なメッセージを戴きました。 　ご夫妻が初めて出逢ったのは、1928年のことといいます。 当時、モーリーンさんは高校の先生、マンスフィールド氏は鉱山の技師補佐。 　このとき、中学までの基礎教育しか終えていなかったマンスフィールド氏に、モーリーンさんが勉強の大切さをこんこんと説き、大学にまで進ませたという話は、たいへん有名なエピソードです。 　優しくて、厳しくて、美しく、どんなときにも驚くほどポジティブな女性。 　夫への献身ぶりも、いわゆる日本的な内助の功とか、忍従の妻とは、一味も二味も違っていました。夫とともに最前線に出てゆく勇気と、強靭な精神力、強烈な上昇志向、そして、それを必ずやり遂げるだけの実行力を伴った人。 　「あの人からは、オーラが出ている」 という言い方がありますが、モーリーンさんからは、間違いなく、一種独特のオーラが出ていたと思います。「生命エネルギーの強さ」と言い換えて良いかもしれません。 　身長157センチしかない私が、少し視線を下げて話さなければならないほど小柄で、今にもポキンと折れてしまいそうに、ほっそりした女性でしたが、生命エネルギーの強さゆえか、実際の身長よりも遥かに大きく、輝いて見えました。 　それにしても、お二人がご結婚なさったのは1932年ですから、今年で結婚68年目。金婚式どころか、ダイヤモンド婚式も終えていらっしゃったわけですね。 　それだけに、人生のパートナーを亡くされた、97才のマンスフィールド大使の悲しみの深さは、想像に余りあります。 　16年前のクリスマスに差し上げた、私の手作りのパッチワークひざ掛けを、モーリーンさんは、アメリカに帰ってからも大事に使ってくださっていたということです。 　「あら、素敵なパッチワークじゃないの！これ、貴女が作ったの？私のために？嬉しいわ。ずっとずっと大切に使うわよ」 そう言って、頬に優しくキスしてくださった、モーリーンさんの柔らかさ、品のよい香水の香りが、まるで昨日のことのように想い出されます。 　できれば、亡くなる前にもう一度お逢いして、もっともっと色々なことを教わりたかった。 　“古き良きアメリカ女性”というものが、もしも実在したとすれば、それは、モーリーンさんのことだったのではないかと、私は今、しみじみと思っているのです。 　ご冥福を、心からお祈りいたします。 　　　　 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*- 　早いもので、明日からもう10月。日本は、いよいよ秋本番ですね。 　食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋、いろいろな秋がありますが、なんと言っても健康が第一です。 　よく食べて、よく運動して、よく勉強して、それぞれの好い秋にしましょう。 　　秋深し　それにつけても　インドの残暑よ　(字余り) 　事事如意 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　山田 真美 　　　　 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*- 　こんにちは。ブースケです！ 　先週のクイズ（ブースケの誕生日は何月何日でしょう？）には、 　「問題が難しすぎるゾ！」 　「ヒントを教えてくれ〜！」 　というメールがジャンジャン届いて、ボクは冷や汗をかきました。 　パスワードがわからずに、ブースケの部屋に入れなかった人が続出だったらしいね。 　まことに失礼しましたブー。 　クイズの正解は、2月29日でした。 　数少ない正解者のうち、景品は、次のお二方にお送りします。 　おめでブーございます。 　♪Wheel of Destiny　"富益"様(米国テキサス州在住) 　♪ダージリン紅茶　"おさかな"様（静岡県在住） 　なお、今日は特別に、このページを読んでくれている皆さんにだけ、ボクの部屋（おまけのページ）に入るパスワードを教えます。 　パスワードは、brazil だよ！ 　パスワードさえ入れれば、どなたでも自由に入っていただけます！ 　ボクの部屋は、壁紙も新しいのに貼り替えたし、回転寿司を食べたり、ゲームで遊べるようにしたんだブー！ 　豪華だろう？ブヒヒ。是非とも遊びに来ておくれ。待っているよ。 　頓首頓首 　　　　　♪山田真美事務所　使い走り代表　ブースケ♪

2000年9月23日(第3号)
今日もカレーだ、インドは暑い
　ナマステ、生米、生卵♪ 　聞くところによると、日本国はこのところ、シドニー・オリンピックでムチャクチャな盛り上がりをみせているんですって？ 　こちらインドも、一応選手団を送っているにはいるのですが、なにしろスポーツは (クリケット以外) どちらかというと不得手なお国柄。イマイチ盛り上がりに欠けます。正式種目にヨーガでも加われば、また話は別なんでしょうけど(笑）。 　…というわけで、今日もニューデリーは、オリンピックなどどこ吹く風の、埃っぽいカレー色の1日でした。 　さて今週のテーマは、長崎県にお住まいの“カステラ”さんからのリクエストにより、インドカレーのお話です。 　と言っても、カレーの歴史とか哲学とか料理方法を書き始めると、キリがありませんので、今回は、もっと身近な話題に絞らせてくださいね。 　本題に入る前に、アシスタントのブースケから、先週号で出題した“初恋クイズ”の当選者発表があります。ブースケ、よろしく！ 　は〜い。ブースケで〜す。 　先週号の初恋クイズには、全部で39通のご応募を頂きました。どうもありがブー！ 　しかし！正解者はそのうち、ななな〜んと、驚き桃の木なことに、たったの2人だけだったブーッ！ 　クイズの正解は、5択のなかでいちばん真っ当な答え、 （Ｃ）初恋が残りの人生に与えるインパクトは、一般に考えられているよりも遥かに重大なものだ。 でした。 　ははは。うちの先生は、いつもは冗談ばっかり言ってるけど、こと恋の話になると、急にマジになっちゃう人なんだよ。 　39人のうち、35人はＥ （幸せな初恋に恵まれたからといって、デング熱にかからないという保証はない）、2人はＤ（イイ男には自転車が似合う）と答えてくれたけど、実を言うと、あれは2つとも、先生が照れ隠しのために入れたダミーだったんだよ。 　デング熱の話でお茶を濁してからでないと初恋の話を始められない、複雑な女心をわかってあげなくちゃ、ダメじゃないかブー。 　貴重な正解者は、 “夢みるアン”さん (三重県在住。希望賞品は『吉祥天と行くインドの旅』) “無厳”さん （長野県在住。希望賞品は民芸調木箱） でした。 　お2人には早速、それぞれの賞品をお送りします。おめでブー！ 　ってなわけで、景品のうち、ダージリン紅茶は貰い主ナシと決定！！次回のクイズまで持越しってことにしますブー。 　ところでボクは今回、「おまけのページ」のなかに、自分のホームページを持たせてもらったんです。今週のクイズのヒントはこのページの中に隠されていますから、是非訪ねてみてください。よろしくブー。 　ではここで、先生にバトンタ〜ッチ！ 　ここから再び、ホンモノの山田真美です。あ〜、なんて二重人格な私(笑)。 　いよいよ、カステラさんお待ちかねの、インドカレーの話に入りますが、一言でカレーと言っても、実はとても奥が深いのですよ〜。 　でもまあ基本的には、 　インドはムチャクチャ暑い。 → 少しでも涼しくなりたい。 → スパイスを摂取することによって発汗作用が促される。 → 汗が蒸発する際にカラダの表面温度が下がり、涼しくなった感じがする。 　…ということでしょうね。 　大事なのは、1度の食事の中に、必ず「辛いもの」「酸っぱいもの」「甘いもの」が入っていること。これがインドの食事の大きな特徴です。 　辛いものはスパイス入りの各種カレー (ヒンディー語ではマサラカレー)、酸っぱいものは主にヨーグルト (ダヒー)、甘いものはミルク紅茶 (チャイ) やお菓子 (ミターイ) によって摂取されます。 　インド哲学では、なんでも3つ揃って1セットという考え方なんですよ。ヒンドゥー教でいちばん重要な神様も3人ですし、人のカラダとココロを支配していると考えられている要素も、風、火、水の3つ。 　仏教が、「仏・法・僧」という3つを最も重要視しているのも、実は、ヒンドゥー教の言う、「この世はなんでも3つで1セット」的な思想が根本にあるからなのですが、この件について話しだすと、論文を一本書き終えるまで筆が止まらなくなる恐れがありますので、今回は割愛します(笑)。 　ともあれインドでは、「辛い・酸い・甘い」の3つの味が揃って、はじめて食事と認めてもらえるわけです。 　ところで話は飛びますが、私は13年前からベジタリアンです。と言っても、魚、卵、牛乳はオーケーの、いわゆるセミ・ベジタリアンですけどね。 　宗教的な理由から肉食をやめたわけではないので、たとえば肉の混ざっている料理を出されたような場合は、肉の部分だけ取り除いて、残りの部分を食べるようにしています。 　ところがインドには、筋金入りのベジタリアンがゴロゴロしていまして、肉をどけて食べるどころか、肉を調理した鍋や庖丁もダメなら、肉料理を盛ったことのある食器類もダメ。 　さらにハードなベジタリアンになると、野菜のなかでも根菜類はダメ（植物にとっての命＝根＝を傷つけることは殺生に当たるから）。肉食する人と同じテーブルに座ることを嫌がるベジタリアンもいます。 　さすがに、ニューデリーのような大都市では、最近はここまで極端なベジタリアンは稀ですけれど。 　あとは、肉食オーケーという人のあいだでも、 「チキンは大丈夫。でも、ビーフとポークは絶対ダメ」 という人が多いですね。ご存知のように、牛はヒンドゥー教徒にとっての“聖なる生きもの”、豚はイスラム教徒にとっての“穢れた生きもの”。 　インド人(10億人強)のうちの、82パーセントほどはヒンドゥー教徒、15パーセントほどはイスラム教徒ですから、「ビーフまたはポークがダメ」な人だけで、人口の大部分を占めてしまうわけデス。 　もっと書こうと思っていたのですが、ゴメンナサイ、たった今、アポなしのお客さん（インド人）が来てしまいました。 　そんなわけで、話は全然カレーにたどり着けないまま、これにておしまいです。 　カステラさん、尻切れとんぼでゴメンナサイ(笑)。もっと知りたいことがおありでしたら、質問を箇条書きにして、メールで送ってくださいマセマセ。 　あっそうそう、忘れていました。最後にもう1つ。 　先週のクイズが予想以上に盛況だったので、今週も懲りずにクイズ第2弾を開催することにしました。 　今回の問題は、ちょっと難しいですよ〜！ 問題：ブースケの誕生日は、いつでしょう？ 答えは、新しく作った「おまけのページ」のなかに隠されています 　答えの宛先は、boosuke@badboy.co.jp です。 　たくさんのご応募、お待ちしてま〜す。 　なお、今回の賞品は、 �@ サイン入りの “Wheel of Destiny”　(1名様) �A ダージリン紅茶 (1名様) です。ご応募の際は、希望賞品名を、忘れずに明記してくださいね！ 　それでは今週はこのへんで。 　事事如意 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　山田真美　

2000年9月16日号(第2号)
初恋よ、永遠なれ
　ナマステ♪ 　暑い暑いと文句を言っているうちに、いつしかモンスーンも終わり、早くも9月中旬。いよいよ、蚊対策に頭の痛いシーズンです。 　ニューデリーでは、基本的にマラリアの心配はほとんどないのですが、代わりにあるのが「デング熱」(Dengue Fever) 。こちらもマラリア同様、蚊が病原菌を媒介します。 　このデング熱、早期治療さえ受ければ、生命にかかわる心配はまずありませんが、4年前の大流行時には、病気に対する無知が原因で病院に行かなかった人、行きたくても経済的理由から行けなかった人を中心に、市内で死者が続出。大きな社会問題になりました。 　病気の特徴は、解熱剤を飲んでも一向に下がらない高熱。立ち上がることもできないほどの疲労倦怠感。全身の筋肉痛。吐き気、めまい、エトセトラ。 初期症状はマラリヤと非常によく似ており、絶対安静が必要で、あとは検査に次ぐ検査…。 　かく言う私も4年前の大流行時には、発病･入院してしまいました。同じときに、やはりデング熱で同じ病棟に入院していた日本人商社マンは、 　「ぐわぁ〜っ！こんなところで寝ていたら、仕事の締め切りに間に合わ〜ん！！」 とキレてしまい、病室にパソコンを持ち込み、フラフラしながら仕事に打ち込んで一挙に病状を悪化させ、ターバンを巻いたインド人ドクターの逆鱗に触れていました…。 　今日の結論：蚊は百害あって一利なし。蚊を見たら人殺しと思え。 　というわけで、今年もあと暫くは、蚊との仁義なき闘いが続きそうです。 　さてさて。今週号のテーマを皆様から募集しましたところ、メールおよび掲示板で、たくさんのお返事をいただきました。どうもありがとうございました。 　「大学に入る前の山田真美について知りたい」「インドの日常生活について書いて欲しい」というリクエストに混ざって、約1名、 　「真美さんの初恋の思い出をリクエストします」 　という、大胆不敵なご意見を寄せてくれた、ペンネーム「冷や奴」さん。 　どこのどなたか存じませんが、あなたは一体なにゆえに、私の初恋物語など知りたいの？(笑) 　でもね、初恋というものは、(当たり前ですけど)、一生に一度しか経験できない、超レアものの恋じゃありませんか。たとえ一生のあいだに50回、100回と恋を重ねる人にとっても、初恋はたった1度きり。そんな貴重品のこと、簡単には話せませんよ…。 　それに、ひょっとすると初恋の相手本人が、何かの拍子にこのページを読んでしまう可能性だって、絶対にないとは言いきれないわけですし。インターネットの発達した現代社会では、ネット上のどこで昔の恋人にバッタリ再会しないとも限らないのですよ。ウフフ。 　とは言え、たまに初恋のことを思い出すのは、悪くありません。 　初恋の定番といえば、「片想い」と「ひとめぼれ」。私の初恋も、ひとめぼれの片想いでした。これぞ初恋の王道を行くって感じでしょ。 　高校への通学途中に、たまたま見かけた人でした。 　バスを下りて、商店街を歩いて行く私の前に、突然、なんの前触れもなく現われた人。朝早く、まだシャッターの下りたペットショップの前で、自転車のサドルに腰掛けたまま、人待ち顔でたたずんでいた少年。 　ひとめ見た途端、16才の私のココロは一挙に初恋モードへ…。あとはもう、友人達が辟易するほど、その人の話題ばかり口にしていました。女子高生にありがちなパターンですね(笑)。 　でも、考えてみると不思議なことに、「ひとめぼれ」の経験は、後にも先にもこのときだけ。 　自転車の少年は、私にとってよほどインパクトが大きかったのでしょう。理想的な男性の「姿かたち」というものが、このときはっきりと私の中で構築されてしまったのだと言ったら、いささか大袈裟に過ぎるでしょうか。 　これはあくまでも私見ですが、初恋というものがその後の人生に与える影響は、一般に考えられているよりも、遥かに重大なのではないでしょうか。 　ある人の人格（特に、異性に対する人格）の方向性を決定づけてしまうという点で、初恋体験は、幼児体験の次ぐらいに重要かもしれない。 　人生のスタート地点で、どんな人を好きになリ、どんな風に想い焦がれ、どんな風に行動したか。相手からどんなリアクションが返ってきた（または返ってこなかった）のか。 　初恋は、人生ゲームをスタートしてまもなく、ほとんどすべての人に訪れる、とても重要な儀式だと思います。何故ならば、多くの人にとって初恋は、一生のうちで最もインパクトの強い恋なのですから。 　言葉を換えれば、すべての恋する者にとって、最大のライバルは、自分自身の「初恋」だってことですよね。恐るべし、初恋。初恋よ、永遠なれ。 　問い：上の文章の中で、作者(山田真美)がいちばん言いたかったことは何でしょう。次のうちから1つだけ選びなさい。 　Ａ.初恋は実らない。だからこそ、限りある青春を謳歌すべきである。 　Ｂ.「ひとめぼれ」は女子高生に特有の現象であり、成人するに従って、その頻度は薄れてゆく。 　Ｃ.初恋が残りの人生に与えるインパクトは、一般に考えられているよりも、遥かに重大なものだ。 　Ｄ. イイ男には自転車が似合う。 　Ｅ.幸せな初恋に恵まれたからといって、デング熱にかからないという保証はない。 　正解者のうち、抽選で3名の方に、 　�@ ダージリン紅茶(1名) 　�A 民芸調の木箱(1名) 　�B 著者のサイン入り『吉祥天と行くインドの旅』(1名) のいずれかを差し上げます。 　応募方法： 　答え（Ａ〜Ｅのうち1つだけ）、お名前(本名に限る)、ご住所(景品の郵送先)、ニックネーム(当選者のお名前としてＨＰ上で公開されても構わないもの)、希望景品を明記の上、9月22日までに　boosuke@badboy.co.jp　まで、必ずメールでご応募ください。 　当選者の発表は、9月23日発行の『週刊マミ自身』で行ないます。 　なお、抽選作業には、アシスタントのブースケが当たってくれます。 　…というわけで、今週はこのへんで。 　事事如意。 山田真美

2000年9月9日(創刊号)
石の上にも5年