2011年5月


1日●売春宿のコマーシャルを見る
目の前にテレビ画面のようなものが見える。そこには浴衣姿(?)の女性がひとり横たわっている。彼女はいわゆる売春婦らしい。畳の上に横たわったまま頬杖をついた彼女は、笑顔で何か話し始めた。どうやらこれは彼女が勤務する売春宿のテレビコマーシャルらしい。画面上ではピンポン玉大の黄色い物が動いている。それが何なのかはわからないが、私はその黄色い球と女性に対して、一種独特の生理的嫌悪を覚えている。
【解説】 夢に売春婦が登場したのは、覚えている限りこれが初めてだ。陰惨とまでは行かないものの、なんとなく暗く、じめじめして、イヤな感じのする夢だったのは、売春婦という職業が持つ宿命だろうか。そういえば拙著『ブラック・アンブレラ』にはローズという名の年老いた外国人娼婦が登場するのだが、彼女には結構ファン(?)が多いようで、書評やメッセージにも「ローズの気持ちがよくわかる」というものが少なくなかった。また、こういう重い女性キャラを書いてみたくなった。



2日●「中」はトレンディな文字
「中」という文字は、この世に存在するすべての文字の中でいちばんトレンディな文字だという。私は研究室風の薄暗い部屋にいて、世界最古の「中」の文字を探している。同じ部屋には眼鏡をかけた若い女性の先生が見える。(先生はちょっと太りすぎだな)と私は思っている。
【解説】
意味不明な夢。今ふと思ったのだが、3月11日以降ろくな夢を見ていない気がする。意味不明な短い夢か、震災を思い出させる夢ばかりだ。震災発生前は、もっと楽しいストーリーのある長い夢を見たものだが、そのような夢を最近とんと見なくなった。震災は個人の夢にまで影響を与えているのだ。なんだか最近、夢日記をつけるのが億劫になりつつある。



3日●3時間ごとに測定せよ
目の前の壁に大きな模造紙が貼ってあって、そこには表のようなものが書かれている。「0時〜3時」の次は「4時〜7時」、その次は「8時〜11時」という具合で、3時間ごとに何かを観測するのが私(または私達?)の任務らしい。私は素朴な疑問を覚え、そばにいた禿頭の小柄なおじさんに「3時から4時、7時から8時の間は観測しなくて良いのですか」と尋ねてみた。おじさんは偉い科学者らしいのだが、見た目はうだつが上がらない。おじさんが返事をする前に夢は終わってしまった。
【解説】 最近の世の中は物騒だから、「測定」といえばとりもなおさず「放射線量の測定」である。ガイガーカウンターを手作りした(または購入した)友人も身近に複数おり、彼らは毎日のようにtwitterその他で測定値とみずからの見解を発表している。おそらくその影響でこのような夢をみたのだろう。やれやれ(溜息)。



4日●呼吸困難
夢の最初のほうは思い出せないが、途中で何かが顔にかぶさり、私は呼吸困難に陥った。必死で顔の上のものをどけようと試みるうちに目が醒めた。
【解説】
目が醒めてみると、実際、呼吸が苦しかった。この2〜3日、喉の調子が良くないのだ。実は昔から思っていることがある。それは、いつか自分が死ぬときは、異物が喉に詰まって呼吸困難で死ぬのではないかということだ。何故そんなことを思うのかはわからないが、子どもの頃からずっとそんな予感がある。今夜の夢はその予行演習かも知れない。こういうことを書くと「縁起でもない」と眉を顰める人もいるだろうが、私は幼い頃から「死」というものをごく自然な日常の風景として捉えているから、どうということはないのだ。生きている限り、いずれは間違いなく死ぬのだし。夢のなかで死を予行演習をするのは悪いことではないと思う。



5日●パン屋のおかみさんに本を届ける
気がつくと自動車を走らせていた。最初は海沿いの広々とした風景が窓の外に広がっていたのだが、そのうちに狭くくねくねした街中の道に変わった。どこかヨーロッパの古い街のようにも見える。ここは東京の三田という設定らしいが、実際の三田とは似ても似つかない風景だ。私はパン屋の前で車を停め、店に入った。甘酸っぱい酵母の香りが広がる店内では、マネジャーらしき中年の男性(メガネを掛けた小太りの人)と、アルバイト風の若い女の子2〜3人(全員がK大の学生らしい)が雑談をしていた。全員が日本人である。どうやら私はここのオーナーに拙著を届けに来たらしい。オーナーは女性で、K大文学部の教授らしいのだ。「先日、教授に拙著を差し上げる約束をしましたので、お届けにまいりました」と告げると、マネジャーらしき男性が鷹揚に頷いた。暫く待つとオーナーが帰って来た。満面の笑顔を浮かべ、中年太り気味の身体をゆさゆさと揺すっている。どう見ても教授よりパン屋のおかみさんが似合う。私達はそこで立ち話をしたが、深い会話ではなかったと思う。
【解説】
今夜の夢に登場したK大教授は実在の人物。現実にパン屋を経営しているという話は聞いたことがないが、見た目の雰囲気としてはまさにそんなタイプだ。平凡でのどかな感じの夢だった。



6日●息子とブースケを混同する
大きな建物の2階のような場所。目の前は大きく開けている。体育館の2階のギャラリーかも知れない。私は大事そうに赤ちゃんを抱いている。生後数か月の息子だと思う。そこへ会う約束をしてあった相手がやって来た。眼鏡をかけた60歳ぐらいの男性だったと思う。パッと見の雰囲気としては「庶務課長」っぽい人だ。私はその人に赤ちゃんを見せながら、「この子、うちの息子なんです」と言った。すると相手はちょっと変な顔をしながら、「違いますよ、その子はブースケ君でしょう」と答えた。私は(えっ)と驚きながら改めて赤ちゃんの顔を見た。すると、息子だとばかり思っていた赤子は、確かに犬のブースケではないか。しかしその顔は賢そうで、ほとんど人間の男の子のように見えた。
【解説】
私は飼い犬のブースケを溺愛していて、いつも口癖のように「ブースケが人間だったらどんなに良かっただろう」と言っている。だから、ブースケはときどき人間に近い姿で私の夢に現われてくれるのだ。この手の夢は以前にも何度か見たことがある。それにしても息子とブースケを混同するとは、かなり重症だな。息子よ、スマン(苦笑)。



7日●ところどころ燃え上がる部屋
見知らぬ大きな部屋の中にいる。突然、床の一部(30センチ四方ぐらいの狭い範囲)からオレンジ色の炎が上がった。私はあわててその火を消した。その直後に、今度は部屋の別の場所(壁だったかも知れない)の一部が再び燃え上がった。再び消火する私。さらにその直後にも、別の場所(今度は最初の場所とはだいぶ離れた床の上)の一部も燃え出した。今度もあわてて火を消す私。そうやって部屋のあちこちで何度か火の手が上がり、私は疲れてしまう。最後に誰かおじさんが登場して講釈を述べたような気がするのだが、そのへんの詳細は全く思い出せない。
【解説】 モグラたたきというゲームがあるが、あれと同じ要領で「炎たたき」をしているような落ち着かない夢だった。昨日は庭でゴミを燃したのだが、やや風が強かったのでかなり慎重に火の始末をした。その緊張感が夢に現われたのかも知れない



8日●軒下の美人姉妹
古い民家。私は何を思ったか軒下を覗き込んでいる。そこには小学生と思われる女の子がふたり。顔が似ているので姉妹だろう。姉はポニーテールの美少女で6年生ぐらい。妹は髪を左右で高位置に結んだ可愛い子で1年生ぐらい。ふたりともノースリーブの木綿のミニワンピースを着ている。「こんなところで何をしているの。蛇や蜘蛛がいて危ないから外に出て来なさい」と途中まで言いかけて私は、このふたりが楳図かずおの『へび女』に登場する姉妹に瓜二つであることに気づいた。
【解説】 瓜二つであることに気づいて、それから一体どうしたのだろう。そのあとの記憶がないのが不思議だ。ここで夢が終わってしまったのか。それとも、既に蛇になっていた姉妹に噛まれ、私まで蛇になってしまったのか。……まあ、あとのは冗談ですけどネ(苦笑)。久々に楳図漫画を読んだような気分になる夢だった



9日●おじさんと予約チケット
眼鏡をかけた中年のおじさんがチケットカウンター(?)の向こう側に立っている。私はここで予約チケットを購入するらしい。
【解説】
何か「おじさん」と「予約チケット」に関する夢を見たのだが、ぼんやりした印象しか残っていない。買おうとしていたのが何のチケットだったか、それもわからない。



10日●女の顔
女の顔の一部分が大きく目の前にクローズアップされている。白い肌、驚くほど大きな瞳。その瞳は、笑っているような、誘っているような、ちょっとコケティッシュな表情を湛(たた)えている。アーリア系インド人だろうか。そう思った瞬間、顔は消えてしまった。その後も同じ顔が唐突に目の前に現れては消える。一体これは誰の顔だろう。半分懐かしく、半分知らない顔。
【解説】
今夜の夢にはいわゆるストーリーがなく、音もなく、しいて言えば芸術的なインスタレーションを見ているような気分にさせられる映像だった。特に、あの大きな瞳は印象的だった。確かにアーリア人の瞳かも知れない。



11日●白いヒト型
空中で白いヒト型がゆらゆら浮いている。陰陽師が放ったスパイだな、と思う。
【解説】 今夜の夢には何か複雑で長いストーリーがあったと思うのだが、思い出せるのはこの部分だけ



12日●黒い影の飛来
ブースケと一緒に山小屋の庭で寝転んでいると、突然、空から黒い影のようなものが飛来した。すぐにそちらを見たが、黒い影は物陰に隠れてしまったのか確認できなかった。ブースケも上半身を立ててじっとその方向を見ている。それを見て私は(ブースケは意外に精悍だな。前世はエジプトのファラオが飼っていた猟犬だったのかも知れない)と唐突に思っている。
【後日談】 この夢を見た3日後、信州の山小屋の庭でブースケと昼寝をしていると、何か黒っぽいものが空から飛来する気配を感じた。すぐに目を開けて気配が下方向を見ると、たった今カラスが一直線に下りてきて着陸するところであった。ブースケも身構えてカラスを凝視している。カラスのほうでもすぐ我々に気づき、凍りついたように動かなくなった。山小屋にカラスが飛来するのは珍しく、人間がいるにもかかわらずカラスがここまで至近距離に現われたのは、思い出せる限り今回が初めてだと思う。その光景は12日に見た夢を全く同じであった。



13日●踊り、燃え上がる骸骨
前後関係は思い出せないが、暖炉の上あたりを骸骨の顔を持った平たい人形が揺れている。(一昨日の夢に現われた白いヒト型に似ているな)と思う。骸骨はしばらくゆらゆらダンスを踊ったあと、突然燃え上がった。そう言えば先程このヒト型を灯油に浸けたように思っただが、あれは灯油ではなくガソリンだったらしい。(そりゃあ燃え上がるわ)と私は得心している。
【解説】 何のことかわからない夢。骸骨にもヒト型にも灯油(ガソリン)にも思い当たるところはない



14日●……
【解説】
今夜は何か楽しい夢を見たように記憶しているのだが、その内容を思い出せない。このところ(震災発生以降)何だかスッキリしない夢ばかり見る。たまに楽しい夢を見たかと思えば、今度は内容を覚えていない。散々である(苦笑)。



15日●居心地のよい箱
移動している感覚。おそらく外国。人の姿は見えない。ふわふわとした楽しい心境。何か「箱」のようなイメージを感じる。学校の教室のような木造建築物の一室。適度な暗さが心地よい。ここには2人ぐらい、知らない人がいたようだ。私達は何か話し合ったのかも知れないが、それにしては誰も声を発しなかった。静寂。立方体。居心地のよい箱。
【解説】
こうして書き出してみると何のことか意味がわからないが、夢を見ている最中は結構楽しかったのだ。全編あるいは随所に「箱」のイメージがあったように思うが、「箱」が「部屋」を意味しているのかどうかは不明。



16日●「さようなら」を告げるミスター・ケータイ
気がつくと目の前に見知らぬ男性が立っていた。四角い顔、きちんとしたスーツ姿。眼鏡を掛けていたかも知れない。しかし彼は人間ではなく、細長い箱から手足が生えたような奇妙な姿をしている。私はひと目見るなり(この人はミスター・ケータイだな)と思った。実は(現実世界で)4年前(!)からずっと使っている携帯電話の電池入れの蓋がどこかへ落ちてしまい、ひどく見苦しい体裁になってしまったのだ。それで私は昨日auショップへ行き、新しい携帯に買い換えた場合のプランや料金を確かめたばかりだったのである(以上は現実の話)。夢に現われた四角い顔のミスター・ケータイは、それはそれは悲しそうな声で「さようなら。今までお世話になりました」と挨拶をした。私は(え?)と思うのだが、特に返事はしなかったように思う。そのあとミスター・ケータイは姿を消し、夢の顛末は思い出せない。
【後日談】 この夢から醒めてすぐに携帯をチェックしようとしたところ、いつもの携帯置き場(枕元)になぜか携帯がない。ほかの携帯から呼び出してみたが、着信音も聞こえない。さあ、それからが大騒ぎ。1時間もかけて携帯探しをするハメになってしまった。結局、携帯はベッドの奥の奥で発見されたのだが、そもそも寝ているうちに携帯を紛失したのは今回が初めてだし、寝ているうちに一体どうやったらベッドの深奥部まで携帯が落ち得るか、それ自体が不思議でならない。まさかと思うが、携帯電話が世を儚(はかな)んで身投げをしたとか? 可哀想なので携帯を買い換えるのはやめることにします(大汗)。



17日●忙しそうな娘
娘のLiAが忙しそうにそのへんを動き回っている。渡航準備をしているのだろうか。娘は私に似ているな、と思う。
【解説】 今夜の夢にはもっと長いストーリーがあったように思うが、思い出せるのは忙しそうな娘の姿だけ。娘(LiA)は今、25歳。昨年大学院(マスター)を修了し、この1月に結婚。今は人生の次のステップへと登り始めている。いつ見ても(良い意味で)忙しそうだ。私の人生に置き換えてみると、25歳といえば娘を生んだ年齢。人生で最もプロダクティブ(生産的)な時期である。娘よ、大いに人生を味わい尽くしなさい。母はいつだって応援しているよ



18日●このこのこまき
白い紙の1行目に「このこのこ」、2行目に「まき」と書かれていた。「このこのこ」は苗字(ファミリーネーム)、「まき」は名前(ファーストネーム)のようだ。「このこのこ」とは珍しい名字である。一体どんな漢字を当てるのだろうか。それともこれは「この娘(こ)の子、まき」(This girl's child is Maki)という意味なのか? そんなことを考えながら私はその紙を見つめている。
【解説】
例によってわけのわからない夢。この夢を見て、現実世界で「マキ」という女性に用事があることを思い出した。そのことを思い出しただけでも、この夢を見た価値はあるかも知れない。早速マキさんに連絡してみよう。



19日●目の大きな男の巻物
前後関係はわからないが、私は研究室のような部屋にいる。目の前には見知らぬ男が立っているのだが、その風貌が奇妙で、まず目が驚くほど大きい。瞳の中にはキラキラ光る星。まるで漫画の主人公のようだ。そして全身がぐるぐるに巻かれた巻物のような状態である。おそらく布団のような物で巻かれているか、あるいは巨大な缶のような物に入っているのかも知れない。男は少し怯えたような様子でキョドキョドしているが、それはこの男の性格なのだと思う。私は男から何か受け取ったようだが、すぐに男を無視して仕事にかかった。
【解説】
今夜の夢もわけがわからなかった。あの男の顔は完全に「漫画」という感じだったが、mixiの某アプリに登場する野菜にも似ていたかも知れない(苦笑)。



20日●四文銭
真田家の「六文銭」から銭が2つ減って4つになった「四文銭」の家紋のようなものが見える。誰の紋だろう。近づいてよく見ると、それはホウレンソウと牛蒡を牛肉で巻いたお惣菜だった。
【解説】 昨日に引き続き「巻物」の夢。しかも今夜は昨夜以上に意味不明な夢である。ストーリーがこのあとどうなったかは覚えていない



21日●ニ(ふた)山の書類
目の間の机の上に、ニ(ふた)山に分けて置かれた書類の山が見える。どちらも白っぽい紙が積まれた状態で、中に何が書かれているのかは全くわからない。私は左の山に手を差し伸べて少しそのあたりを眺めたあと、右の山にも手を伸ばして同じように様子を眺めた。しかし中身を見聞しようとはしなかったので、相変わらず中に書いてある事柄は読むことが出来ない。
【解説】
何か書いてある(かも知れない)書類が目の前にありながら――しかも手で触れていながら――内容を確かめることが出来ない夢。普通ならかなりフラストレーションが溜まりそうな話だが、夢のなかの私は半ば諦めたような、悟りを開きかけたような心境でそれ以上追求しようとはしなかった。一体この夢は何を言いたかったのだろう。思い当たる節はない。



22日●……
【解説】
今夜はえらく早い時刻に目覚まし時計をセットして寝た。(寝過ごさないように)と緊張していたためか、記憶に残る夢は見ていない。



23日●ミスターXを探して
忙しい外国の街。レンガ造りの古い建物。ロンドンのように見えるが、どこかが違う。私は「今回のプロジェクトに最もふさわしい男」であるミスターXを探して街を彷徨っている。ミスターXは「おそらく男」で「とても頭の回転が速く日本文化に精通している」ということ以外には何の手がかりもない。(もしかしたらミスターXはインド人かも知れない)と思い当たったその瞬間、道の反対側の歩道を歩くB氏(実在するインド人)の姿がちらっと見えた。私は心のなかで(しかしこの男ではない)と思っている。
【解説】
実生活でも、目下「インド文化と日本文化の双方に秀でたとびきり優秀なインド人」を探している。夢のなかでロンドンの街を探していたということに、もしやヒントがあるのだろうか。



24日●放射性物質が混入した水
目の前に浅い水深のプールがある。その直後あっと思ったときにはもう、私は誰かに押されるようにして水の中に立ち、ビショビショと音をたてながら歩いていた。膝下が濡れている。この水には放射性物質が混入していると知り、私は(こんな水に入らなければよかった)と後悔する。後悔しながらも、私は何故かその場から立ち去ろうとはしない。
【解説】 またしても気持ちの良くない夢である。少し前にも、
今夜の夢とどこからどこまで寸分違わぬ内容の夢をみたような気がするのだが、おそらく気のせいだろう。こんな夢をみるのは、心の隅に原発問題が巣食っている証拠だ。今、日本人の何パーセントが原発事故を不安に思いながら日々を暮らしていることか。安穏とした夢をみていた頃が懐かしい。



25日●ガラスの扉を押し開ける
気がつくと目の前に高さ2メートル、幅1メートルほどのガラスの扉があった。透明なドアの向こう側は大型船のデッキで、その先には大海原が広がっている。私はドアを手で押し開けながら、(自分がここに立っているのはいわば運命なのだろうな)と唐突に思っている。
【解説】
時間にして1秒にも満たないほどの一瞬の夢。大型船に乗っているにもかかわらず「旅」をしている心の高揚はなく、むしろ淡々としていた。今夜の夢のテーマは「船」でも「海」でもなく、むしろあの「ガラス扉」だった気がする。あれをみずから進んで押し開いたというそのことに、今夜の夢の意味があったように思えるのだ。



26日●原子力のプロ達
原子力のことに詳しいと思われる男が2〜3人、目の前にたたずんでいる。男達はマフィアを思わせる黒いスーツを着ているが、根は悪い連中ではないらしい。彼らの頬に浮かんだ自信のような表情を読み取りながら私は(これなら、まあ何とかなりそうだ)と思っている。そのあと何か物語に展開があったような気もするが、まるで思い出せない。
【解説】
例によって原発事故関連の夢である。福島で事故が起こるまで、一度でも原発や原子力の夢をみたことがあっただろうか? 答えは「否」である。一体いつまでこの手の夢を見続けることになるのか、それを知るためにも、この夢日記は書き続けなければならない。ちなみに私は福島第一原発から約250キロも離れたところに住んでいる(にもかかわらずこんな夢を見続けるのだから、現場近くに住んでいらっしゃる方々のご苦労は大変なものだろう)。



27日●育ちの良さそうな女の子達
目の前に20歳前後の女の子が3人ほど立っている。ロングヘア。すっぴん。賢そうな瞳。いかにも育ちの良さそうな上品な立ち居振る舞い。(こういう子がいる限り、日本はまだまだ大丈夫だ)と私は思っている。
【解説】
今夜の夢にはストーリーがなかったような気がする。あるいは私が忘れてしまっただけかも知れないが。とても穏やかで清潔な雰囲気の漂う、ほっとする夢だった。そういえばお茶大にはそういう女生徒が多いような気がする。その印象がそのまま夢に反映されたのかも知れない。



28日●T氏の博士論文に驚く
気がつくと目の前に1冊の冊子が置いてあった。赤を貴重としたカラフルな表紙で、画面の3分の1ほどはヨーロッパの古い街の写真で占められている。一見したところクラシックコンサートのパンフレットのようなデザインだ。しかし、よくよく見ると下の方にT氏の顔写真が印刷されているではないか。このとき誰かが私に「これはT氏の博士論文なんですよ」と囁いた。私は驚きながら心のなかで(T氏が博士論文を書いていたとは意外だ!)(それにしても、なんという派手な表紙!)と思っている。
【解説】 私は目下、お茶大の博士課程に籍を置いて論文を書いている。T氏は友人のひとりで、理系の某学問で修士まで修めた人だが、日頃から「博士号はとても自分の手の届かないところにある」と言っている。
今夜の夢の中では、そのT氏が博士号を完成させ、派手に出版していた。私は研究が好きそうな友人に会うたびに「博士論文、書いたほうがいいよ!」と勧める、いわば“博士号推進委員”(爆)のような活動を勝手にしているのだが、T氏は絶対に博士論文を書いて欲しい人のひとりなのだ。こんな夢を見たことだし、是非ともトライして欲しい。



29日●大勢の妻の尻に敷かれる男
大きな部屋の中。室内には、ひとりの男と、派手な色彩の民族衣装を着て頭に飾りを付けた4〜5人の女が見える。ここはアジアのどこかで、私は客人(または取材者?)としてこの家を訪れているらしい。部屋にいる全ての女性は、この男の妻なのだという。一夫多妻でさぞやお楽しみと思いきや、実のところ男はかなり尻に敷かれている。女たちはソファーに転がったまま、「お腹が空いた」という意味のことを私の知らない言語で口々に述べた(※知らない言語であるにもかかわらず、なぜか私にはその意味がわかる)。男は仕方なさそうに立ち上がって出かけてゆき、暫くすると妻たちの人数分の弁当を抱えて帰ってきた。そのあと女たちは口々に「水が飲みたい」と不平を言った。男は今回も黙って立ち上がると水を取りに行った。それが終わったあと、男は私の方に向き直って(やはり私の知らない言葉で)「今から貴女と私の分の弁当を買ってきます」と言った。私は「お腹が空いていないので、お弁当は結構です」と(知らない言葉でペラペラと)断りながら、心のなかでは(最初にお弁当を買いに行った時点で全員の分を買ってくれば良かったのに、ずいぶんと頭の回らない男だ)と思っている。
【解説】
夢に現われた土地、あれは一体どこだったのだろう。知らない場所、知らない言葉、少し懐かしいレトロな感じ。イメージとしては昔のモンゴルではないかと思う。それにしても全く知らない言語を自由自在に操っていたのは不思議なことだ。



30日●……
【解説】
今夜は「3」という数字に関係のある夢を見た気がするのだが、詳細は何一つ思い出せない。



31日●古い街並み
一瞬、目の前に風景がよぎった。雨模様。ヨーロッパを思わせる古い街並み。煉瓦色の建物。おそらく私は高速で動く乗り物に乗っており、風景はガラス越しに見えているのだと思う。止まらない時間。変えられない運命。旅。人生。
【解説】
今夜の夢に、果たしてストーリーはあったのだろうか。思い出せない。断片的なイメージだけが一瞬のうちに流れ去って行ったような、詩的で、ノスタルジックで、全体に梅雨のように湿った感じの夢だった。





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