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2004年12月21日号(第157号)
今週のテーマ:パーフェクト・ワールド
※『死との対話』は日本図書館協会選定図書に認定されました。
※『死との対話』が次の各メディアで紹介されました。左の画像をクリックして詳しい内容をご覧ください。

 「読売新聞」(11月14日) ― 書評
 「信濃毎日新聞」(11月21日) ― 著者インタビュー
 「熊本日日新聞」(11月28日) ― 書評
 「SAPIO」(12月22日号) ― 著者インタビュー
 「日経click」(2005年1月号) ― 本の紹介
 「日刊ゲンダイ」(12月9日) ― 著者インタビュー
 「愛媛新聞」(12月10日) ― 著者インタビュー(共同通信配信)
 「東京新聞」(12月12日) ― 書評
 「週刊朝日」(12月24日号) ― 作家・梁石日さんによる書評
 「産経新聞」(12月19日) ― 書評
 「TBSラジオ バツラジ」(12月14日放送) ― 著者生出演

※なお、共同通信配信の各紙には逐次書評が掲載される予定です。
 前々号から「今年も余すところ○○日」などと書いておりましたが、何や彼や言っているうちに、今年も残りわずか10日
 うちのすぐご近所にある
浅草寺では、歳末の風物詩「羽子板市」も大盛況のうちに終わり、これで師走気分も一気に高まって参りましたよ♪

 今年は父の喪中でもありますし、忘年会の類いは極力控えてきた私なのですが、たったひとつ、
「これだけは絶対に欠席できない!」と、1ヶ月も前から、それこそ指折り数えて心待ちにしていた大事な忘年会があったのです。

 それは、一年の締めくくりに
お茶仲間と能狂言三昧をしようという、ちょっとばかり
趣向の変わった忘年会でした

「梅若研能会12月例会」のパンフレット。よく見る
と「1時始まり、終了予定5時5分」と書いてありま
す。とっても長ーい忘年会になりそうな予感
 実は何を隠そう、私はかなりのお能大好き人間でして、20代の頃には英字新聞に能楽コラムを執筆していたこともあるほど。

 
お囃子も大好きで、日頃からHDDプレイヤーに入れて電車の中などで聴いている音楽の約4分の1は、能楽囃子が占めているんです(残りの4分の1は「ボサノバ」、4分の1は「クラシック」、4分の1は「その他」といったところ)。

(余談ながら、私のイチオシ能楽囃子は、「三番三(さんばそう)」の
「鈴ノ段」。これは毎日毎日聴き続けても一向に飽きません。まさに名曲中の名曲。機会がありましたら、ぜひ聴いてみてください)

 ……とまあ、そのような次第ですから、
(たとえほかの忘年会は全部お断りしても、能楽鑑賞つきのこの忘年会だけは、絶対に外すわけにいかない)
と、心に決めていたわけなのです。

 今回は、ご一緒するのがお茶のお仲間ですから、洋服ではなく、着物で出かけることにしました。この秋に新調したばかりの
大島紬です。

 皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか、私が「本場奄美大島の紬」と「キューピー柄の長襦袢」、それから「ブースケ柄の帯」に一目惚れしてしまった日のことを(詳しくは「週刊マミ自身」第147号をご覧ください)。
 あの時手に入れた反物は、かれこれ1ヶ月ほど前に仕立て上がって、
箪笥の中で「今か今か」と出番を待っていたのです。

(この際だから、忘年会で大島紬デビューしようかしら)

 かくして忘年会当日、私は
まっさらな大島を着てお能を観に行くことと相成りました。

泥大島の風合いに合わせ、今日は
小物もモノトーンでキメてみました。
いかにも「和樂」を読んでる奥様み
たいでしょう(笑)


  
折角なので後姿もチラリ。これが噂の「ブースケ帯」です。本当にブースケ
そっくり! (東京宅の屋上にて)
 さて、会場(観世能楽堂)に着いてみれば、奇妙なことに、いつもはお着物をお召しのお茶仲間が、何故か一人残らずお洋服姿なんです。
 その謎は、すぐに解けました。荒井先生が前もって皆さんに、

「今日は山田さんが素敵な大島を着ていらっしゃるから、
私たちは洋服にして、山田さんの紬が映えるようにして差し上げましょうね」

と、お声がけしてくださったんですって。
 
着物の達人たちが、着物初心者の私に花を持たせてくださったというわけです。
 なんという優しいお心遣い。これには心底、感謝感激いたしました。

茶道表千家不白流正師範の荒井宗羅先生(白
いお洋服)、私(左端)とお社中。露出不足のた
め、見にくい写真ですみません。
渋谷の観世
能楽堂にて
 さて、待ちに待ったお能ですが、今回の番組は上演順に「巴(ともえ)」、「邯鄲(かんたん)」、「猩々乱(しょうじょうみだれ)」で、「邯鄲」と「猩々乱」のあいだに狂言の「福の神」が付いた豪華版でした。
(注/お能の世界では、「演目」のことを通常は「番組」と申します)

 このうちの「巴」は、戦死した
木曽義仲と、妻で女武将の巴御前の悲恋を扱った、いわゆる「修羅物」と呼ばれるお能。
 この世に未練を残して死んだ者の霊が、僧侶の前に現われ、涙ながらに想いの丈を語るという、まさに恋愛ストーリーの王道を行くと言いますか、定番という感じのストーリーですね。

 「邯鄲」と「猩々乱」は、どちらも
「夢」に関係のあるストーリーです。

 「猩々乱」に登場する「猩々」とは、中国の伝説に登場する、髪が真っ赤で
大酒飲みの聖獣のこと。
 このお話の中では高風という名の主人公が、
夢のお告げに従って市場で酒を売り、やがて富貴の人(徳が高いうえに大金持ちな人)になります。

 そのうえ聖獣の猩々までが高風のもとに現われて、
いくら汲んでも枯れることのない魔法の酒壷を置いてゆくという、まあ、普通ではちょっとあり得ない(笑)、ラッキーチャンスがダブルでやって来る、おめでたいお能と申しましょうか。

 それもこれも、最初のきっかけは「夢のお告げ」だというところがミソというか、面白いですね。
 
夢を信じる者は救われる(笑)?

 もう一方の「邯鄲」のほうは、「邯鄲の枕」とか
「邯鄲の夢」という言葉があるぐらいですから、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
 ところは中国。
官吏登用試験に落ち、ひどく落胆している盧生という名の青年がこの物語の主人公です。

 旅の途中、盧生は一夜の宿を借りるのですが、そこでひとりの道士(中国の仙人)から
不思議な枕を貰い受けます。
 その枕を使い、うたた寝を始めた盧生。ふと気がつくと伝令が来ており、
「帝が崩御し、あなた様が
次期皇帝の位を譲り受けられることになられました」
と言われたのですから、盧生が驚いたの何の。

 かくして、突如として帝に祭り上げられた盧生は、あれよあれよという間に栄華を極め、実に
50年もの長きにわたって最高権力の座に君臨するのです。

 そして今、盧生は
みずからの皇帝即位50周年を祝う舞を舞っている最中(さなか)なのですが、……実はこれ、すべては盧生が見たうたかたの夢
 宿のおばさんに起こされてみれば、そこは帝の屋敷ではなく、小汚い部屋なんですね。

 50年と思った歳月は、現実にはわずかに「粟飯の炊けるまでの時間」にしか過ぎなかったというのですから、なんとも皮肉で痛烈なストーリーと言うほかはありません。

 もっとも、このお能には、見逃してはならない
大事なオチがあります。
 夢から醒めた盧生は、最初こそひどく落胆しますが、やがて
「50年の栄華も粟飯の炊けるまでの夢」と、ついには人生の根源に触れる悟りを開くのです。

 考えてみると、夢の世界では、現実の時間に換算してわずか数秒の間に、それこそ何日分、何週間分、あるいはそれ以上に
長い長い体感時間を過ごすということがありますよね。

 「邯鄲」の盧生を見ていると、人間は一瞬にして絶望することも出来るけれど、逆に
一瞬にして悟ることも出来る生き物なのだなあと、私は深く感動しながら納得したのでした。

 夢というものの本質を正しくついた、実によく出来たストーリーだと思います。

お能が終わってから食事会までの1時間、クリ
スマスのイルミネーションが綺麗なカフェでア
ペリティフを楽しむ一行
 こうして4時間以上にわたり、能狂言を堪能し尽くした私たちは、興奮冷めやらぬまま、いま流行りの創作和食レストランに場所を移し、そこからようやく、世間で言うところのいわゆる“忘年会”を始めたのでした。
 結局のところ全体としては、開始がお昼の1時、終了が夜の11時という、前代未聞のとてつもない長丁場となってしまいました(笑)。

 それにしても、この忘年会は掛け値なしに楽しかったですよ。

 私にとってお茶の稽古は、究極の大人の遊びと呼べるものですが、今回はそのお仲間とご一緒に、「お能」という日本文化の真髄を楽しめたのですもの。
 何から何まで、心が研ぎ澄まされてゆくような一日でした。

 私にとっての「お茶」や「お能」の効能は、頭を空にし、現実世界における現象を一切忘れて、
非現実のパーフェクト・ワールドに遊べるということなのでしょうね、きっと。
 そしてそれは、
「夢を見る」ということとも、ちょっと似ているかも知れません。

 
今週は
「来年の抱負」を書く予定でしたが、ごめんなさい、テーマが急遽「忘年会」に変更になってしまいました。
 次号の「週刊マミ自身」(12月30日か31日頃に更新予定)では、そのへんのことを書きたいと思います。

 ではでは♪
★今週のブースケとパンダ★


12月12日にパンダが満1歳、19日
にブースケが満2歳の誕生日を迎
えました。ハッピー・バースデー、
ブースケとパンダ!

※前号までの写真はこちらからご覧頂けます。

事事如意
2004年 12月21日
山田 真美