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2017年10月29日号(第591号)
今週のテーマ:
立花さんのトランク+マハーバーラタ戦記感想
 二週連続で雨の週末となってしまいましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 最初に大事なおしらせがひとつ。

 今週末(10月28日)からから12月27日までの2か月間、東京・九段下のしょうけい館にて立花誠一郎さんのトランク一式が特別展示されています。 

 昨日(10月28日)から始まった展示の様子(写真はしょうけい館さん提供)。
 「週マ」でもこれまでに幾度となくご紹介したとおり、立花誠一郎さんは私が四半世紀にわたって研究を続けてまいりましたカウラ事件のサバイバーであり、判明している限りカウラ戦争捕虜収容所で唯一のハンセン病罹患者でもあります。

 立花さんは現在96歳
 岡山県にある国立ハンセン病療養施設にてご存命です。

 カウラ(オーストラリア)の収容所から持ち帰られた手製のトランクを、戦後はまるで無二の友のように大事にしていらっしゃった立花さん。

 その立花さんが、トランクを然るべき場所に寄贈したいと希望していらっしゃることを関係者から私が初めて聞かされたのは、2016年8月のことでした。

「どこか良い場所はないか、山田さんのお知恵を貸してください」

とのご相談を受け、私なりに色々考えた末に出した結論は、国立の戦傷病者史料館である『しょうけい館』。これ以上に適した場所はないだろうというのが私の結論でした。

 幸い立花さんもこの案に賛成してくださり、このたびの寄贈となった次第です。

 捕虜収容所に収容されていた日本人捕虜たちは多くの場合――捕虜であったことの不名誉を忘れるために――身の回りの品を廃棄して日本に帰国しました。
 
 当時の品物を直にご覧になれるこのたびの展示は、極めて貴重な機会となります。
 (常設展ではなく、あくまでも特別展です。次の展示がいつになるかは全くわかりません。)

 どうぞこの機会をお見逃しなく、ぜひとも足をお運びください。

こちらは3年半ほど前、岡山県内某所を散歩中の立花さんと私。
このときはカウラ事件70周年式典を間近に控え「立花さんも一緒に
行きましょう」「残念ながら私は体力的に無理です。あと10年早く
真美さんに会えていたら…」といった会話が交わされていました。
  さて、早いもので10月もあと2日で終わろうとしていますが、遅れ馳せながら今月の主な出来事を簡単にご報告させてくださいね。

 去る10月12日、歌舞伎版『マハーバーラタ戦記』を拝見してまいりました。
 
今回のポスター。カルナ役の尾上菊五郎さんがガンジス河で撮影
に臨まれました。カルナは太陽神を父に持ち、生母の手でガンジス
河に捨てられた悲劇の人(弓の名手)という役どころ。
 『マハーバーラタ』はインドが誇る世界三大叙事詩の一つ。
 インドファンなら一度は読んだことがあるのではないでしょうか。

 「この世のすべてのことはマハーバーラタに書かれている

という諺があるほど膨大なストーリーが特徴で、その全貌を語ることは容易ではないのですが、『マハーバーラタ』を知らなければインドを知ったことにならないと言うことは出来るかもしれません。

 言ってみればインドの無形文化財または国宝のような文学なんですね。

 今回の歌舞伎版の演出で新鮮だったのは、通常は主人公であるはずのパーンダヴァ家の正義の五兄弟がいわば脇役に回され、敵方であるはずのカウラヴァ家の百兄弟とその一味であるカルナ(実は五兄弟の異父兄=尾上菊五郎さんが熱演)を中心に物語が描かれていたこと。

 しかも、本来は男性であるべき悪役の長が女性として描かれたあたりは、まさにインド人もビックリな演出でした。

 この悪役(女形)を見事に演じ切ったのが中村七之助さんです。

 七之助さんの演技を拝見するのは久方ぶりでしたが、あまりにも妖艶かつ大物になっておられて鳥肌が立ちました。軽い言い方で恐縮ですが、いっぺんでファンになりましたね。

 今回の演出に関して言えば、『マハーバーラタ』のディープな一読者として2つほど本質的な疑問が残りました。以下、備忘録としてメモしておきます。
 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
〈疑問1〉
 悪役を女性に置き換えたことで、本来の「暴力性」が弱まってしまったのでは?

 『マハーバーラタ』は戦争文学です。そこでは「性暴力を含む暴力」が大きな意味を持っています。

 本来のストーリーでは五兄弟の妻がサイコロ賭博のカタとして取られ、悪役(百兄弟の長兄)が人前で彼女のサリーを脱がそうと企て、貶めようとします。

 これは非常に重要、かつ思いつく限り最も卑劣で暴力的なシーンです。公衆の面前で妻が貶められた、その恨みこそが、その後の全面戦争勃発の最大の因子になるわけですから。

 しかし今回の演出では悪役を女性に変えたことで、五兄弟の妻の衣服を脱がそうとするシーンが性暴力というより単なる女子のいじめのようになっていました。

 しかもその部分の演出がコント風だったため、観客からは軽い笑いが……。

 本来ならばここで百兄弟に対する憎悪が一気にマックスになる場面なのですが、そうはならなかったですね。

 さらに言えば、原作では「妻」は5人の兄弟が「共有」する妻なのです。つまり彼らは「一妻多夫婚」をしているのですが、歌舞伎版ではそのあたりについての言及は全くなく、彼女はあくまでも長男の妻としての扱いでした。

 彼女が人前で蹂躙されそうになった時に、5人の男たちはどう感じたか。その感情は、彼女が「」であるか「兄嫁」であるかで大きく変わったのではないでしょうか?

 娯楽作品として考えた場合、今回の演出はたいへん良かったと思いますが、物語の「本質」を考えた時にこのジェンダー変更は果たして正しかったのか。

 この点を問題提起しておきたいと思います。

〈疑問2〉
 主役と脇役を入れ替えたことで、物語の最重要場面である『バガヴァッド・ギーター』が意外にあっさり終わってしまった感がある。


 ご存知のかたも多いと思いますが、『マハーバーラタ』では「バガヴァッド・ギーター」と呼ばれるシーンが重要な意味を持っています。この部分だけが抜き出され独立して出版されていますし、かのマハトマ・ガンディーは「バガヴァッド・ギーター」を生涯の座右の銘としたほどです。

 その内容をごく簡単に言えば、いざ大戦争に臨もうとするとき、五兄弟の三男であり弓の名手であるアルジュナの心に迷いが生じる。戦意喪失してしまう。

 それに対して導師のクリシュナ(実は神の化身)が、「迷いを捨てて義務を果たせ」と説く名シーンです。

 ここが『マハーバーラタ』のキモと申しますか、最高に盛り上がるシーンと言って良いでしょう。

 本来であれば、ここまで五兄弟に心底から感情移入してきた読者なり観客は、思いっきりアルジュナの気持ちに寄り添うことが出来る。そういうシーンなのです。

 しかし主人公がカルナとなっていた歌舞伎版では、「バガヴァッド・ギーター」の場面でさほどアルジュナには感情移入できなかったのではないかと……。

 これはちょっと「もったいなかったなあ」と思わざるを得ませんでした。

 以上2点、『マハーバーラタ』の解釈をめぐって気になったことを、あくまでも個人的な感想として述べさせていただきました。お耳汚しでしたらお許しください。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
 それにしても菊五郎さん、七之助さんを始めとする役者さんたちの熱演にはまさに目を見張るものがあり、何度でも拝見したい舞台でしたので、再演されれば次回も必ずや歌舞伎座に駆けつけたいと思います。

 なお今回、私の座席は前から1列目のほぼ真ん中。役者さんの汗が飛んで来るような至近距離、震源地に一番近いシートでの鑑賞となり、最高でした。

 また、今回は左右にそれぞれ花道が設置されたため、どちらを見たら良いのか迷うほどの豪華絢爛さでしたよ。

 ちなみに当日、私が身につけていた民族衣装は、この日のためにインドでわざわざオーダーメードしたカタカリ版マハーバーラタ柄のサルワーカミーズ(パンツスタイルの民族衣装)でした。

 幕間は松茸ごはんに舌鼓を打ち、4時間半(休憩含む)という長丁場を堪能させていただきました。

 近い将来に再演されますよう、心から期待申し上げます。 

座席は1階1列30番。役者さんの心臓の音まで聞こえてきそうな至近距離でした。



歌舞伎座を正面から見たところ。



インドで特注したサルワーカミーズを着ております。



カタカリ版のマハーバーラタ柄になっております。
こんな生地が見つかったこと自体、ラッキーでしたね♪



こちらがインドのケララ州に伝わる無言劇・カタカリ。これは『マハーバーラタ』の
サイコロ賭博の場面です。カタカリでは、化粧を見れば大体の役どころがわかる
仕組みになっています。役者は言葉を話さず、ムドゥラー(手印)や目の動き、顔の
筋肉の動かし方等でさまざまな事柄を表現します。(※写真はWikipedia commons
よりお借りしました。)



幕間にいただいた松茸弁当♪
↓それ以外の10月の出来事あれこれ↓

原宿をそぞろ歩いていたところ、キディランドの前でマイ・
リトル・ポニーに遭遇。ツーショットをお願いしました(笑)。



マイ・リトル・ポニーで思い出しました。私も昔ぬいぐるみに入って
いたことが(笑)。このアラレちゃんの中身は私です。プラカードを
書いたのも私。確か1980年(大学3年時)の出来事だったかな。
ここに写っている可愛い赤ちゃんも、もうアラフォーですね!



孫娘とランチ(カレーセットが彼女、パスタが私)♪ こんなに
たくさんの量を、しかも自分で食べられるようになりました。



レアポケモン、金のヤミラミ(通称ヤミ金)をゲット!
(ポケモンGO!~ハロウィンイベント)



明治学院大学での講義、今学期は金曜日の3限と4限を受け持っています。
金曜日の11時半~13時半まで、カフェテリア(学食)ではカレーライスが100円に
絶賛値下げ中(通常は310円)。ちなみにヘボン博士が愛した味付けです♪
 明後日はハロウィンですね。楽しまれる方は存分に楽しんでください。
 私は山小屋にこもって執筆に励みます。

 ではでは♪
 ▼・ェ・▼今週のクースケ∪・ω・∪ 


赤ちゃんの頃は全体に黄色っぽかったクー
ですが、近頃はずいぶん白くなった気が。

(※前号までの写真はこちらからご覧ください)
事事如意
2017年10月29日
山田 真美
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