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2008年4月5日号(第292号)
今週のテーマ:
YASUKUNI
  先日、靖国神社へ行ってきました。何故か? まずは、次の新聞記事をお読みください。
 靖国神社をめぐる日中合作のドキュメンタリー映画「靖国」について、東京の映画館「新宿バルト9」が4月に予定していた上映を取りやめることが、18日分かった。

 「靖国」は中国人の李纓(リ・イン)監督が10年にわたって取材を続け、終戦記念日の靖国神社に集まる人々などを撮影。一部政治家が、政府の出資する基金からの助成を問題視していた。同館を運営する東映系のティ・ジョイは「主に採算面を勘案した。政治の動きとは無関係で圧力も受けていないが、問題が起きる可能性も含めて総合判断した」と説明している。(3月18日、時事通信)
 実はこの春、私は、靖国に関連した2本の映画に注目していました。

 1本は、上記の『靖国』。
 もう1本は、ただいま靖国神社で上映中の『南京の真実』(製作・脚本・監督/水島総)。

 この2本、風評によれば、かたや反日的(『靖国』)、かたや国粋的(『南京の真実』)と、まるきり正反対の立ち位置にある作品らしい。

 それならいっそ2本とも同じ日に観て比較しようと思いまして、せっかくだから桜が咲いている間に観に行こうと計画していたのですよ。

 『南京の真実』を上映中の靖国神社は皇居や千鳥ヶ淵に近く、あたり一帯が桜の名所ですからね。どうせ行くならお花見も兼ねようと思ったわけです。

 ところが上記の記事にもあるとおり、『靖国』は、「新宿バルト9」を皮切りにほうぼうの映画館から次々に上映予定をドタキャンされてしまい、最初の予定どおり上映するのは大阪の「第七芸術劇場」という映画館ただ1館だけという事態になってしまった由(4月5日現在情報)。

 一体どういう理由で、各映画館は一斉に上映をドタキャンしたのか。
 この点について4月3日付の時事通信は、
 「靖国」は、軍服姿の参拝客などが訪れる終戦記念日の靖国神社の様子や、合祀(ごうし)に抗議する台湾人遺族などを撮影。一部国会議員が作品の中立性を問題視したことなどを受け、(映画館は)外部からの圧力やトラブルを警戒(して上映中止を決定した)。
……と説明しています。

 でもね、そもそも映画館とか出版社とか新聞社のような文化の一翼を担っている人たちは、時には腹をくくらなければならない場合というのが、必ずあるはず。

 作家や映画監督の中でも、特にノンフィクションを扱う人のなかには、ある意味命がけで作品を世に出している人もいるんですからね。彼らをサポートしてくれるはずの映画館や出版社や新聞社の腰が引けていたのでは、いい作品を作れるわけがないんです。

 というわけで、今回、映画館が表現の自由をみずから放棄してしまったのは非常に残念。
 これを文化の死と呼ばずに、何と呼んだらいいのでしょうか。

靖国神社の桜
 ……というわけで、今すぐ観られる『南京の真実』だけでも鑑賞しようと思い、靖国神社へ行ってきました。

 ここはインド大使館から徒歩30秒の至近距離にあるため、しょっちゅう鳥居の前は通るのですが、敷地の中に入ってみるのは、生まれてからこれが二度目。

 前回来たのは、確か『生きて虜囚の辱めを受けず』を邦訳しているときで、太平洋戦争の資料を見ることが目的だったように記憶しています。

 桜が満開の神社境内を歩いていると、今まさに記念撮影をしようとする元軍人さんの一行に遭遇しました。

靖国神社を背に鳥居の前で記念撮影する戦友会の皆さん
 80代の男性が20数人と、そのご家族らしき人々でした。おそらく戦友会の集まりで靖国神社を訪れたのでしょう。

 このときは『南京の真実』の上映開始時刻が迫っていたため、急いでいた私は写真を1枚だけ撮って、すぐに脇を通り過ぎてしまったのですが、あとで家に帰ってからよくよく写真を見ると何かが変

 そうです。旗が左右逆になっているじゃありませんか(汗)。

 きっと、持ち方を間違えてしまった(正面を自分たちのほうに向けてしまった)のでしょうね。カメラマンさんも忙しくて気づかなかったのでしょうか。私も急いでいなかったら旗の間違いに気づいて教えて差し上げられたのに。可哀そうなことをしてしまいました。

 ちなみに、この旗は十六条旭日旗と呼ばれる軍艦旗で、大日本帝国海軍が使用したものです。

『南京の真実』のちらし
 さて、そんなわけで『南京の真実』を観てきました。

 映写会場は、靖国神社の敷地内にある遊就館の映像ホール。
 大人800円、学生500円で、遊就館(戦争関係の夥しい資料が展示されています)への入場と映画鑑賞が可能です。
靖国神社・遊就館のエントランス外観 『南京の真実』を上映中の映像ホール
 『南京の真実』は三部作になっており、現在公開中のフィルムはそのうちの第一部で、サブタイトルが『七人の「死刑囚」』となっています。

 ここで言う「死刑囚」とは、極東国際軍事裁判で死刑判決を受け、1948年12月23日に絞首刑に処せられた7名の日本人のこと。7名の氏名と所属は以下のとおりです。

*板垣征四郎
 陸軍大臣(第1次近衛内閣・平沼内閣)、満州国軍政部最高顧問、関東軍参謀長
*木村兵太郎
 ビルマ方面軍司令官、陸軍次官(東條内閣)
*土肥原賢二
 奉天特務機関長、第12方面軍司令官
*東條英機
 第40代内閣総理大臣
*武藤章
 第14方面軍参謀長
*松井石根
 中支那方面軍司令官
*広田弘毅
 第32代内閣総理大臣

 以上7名のうち、いわゆる「南京大虐殺」の罪に直接問われているのは松井石根(まつい・いわね)ですね。

 ちなみに「A級戦犯」と呼ばれる人は、死刑になった7名以外に、終身刑になった者が16名。有期禁錮刑になった者が2名。判決前に病死した者が2名。精神障害を認められて訴追免除された者が1名。

 また、一旦はA級戦犯に指定されたものの不起訴になった者もいて、そのなかには、安倍晋三前首相のおじいさんに当たる岸信介氏(第56・57代内閣総理大臣)や、ロッキード事件被告の児玉誉士夫氏、財団法人日本船舶振興会創設者の笹川良一氏、読売新聞や巨人軍の生みの親として有名な正力松太郎氏など、実に濃いメンバーが並んでいます。

 このほか、近衛文麿(第34・38・39代内閣総理大臣)のように、戦犯容疑をかけられ青酸カリで服毒自殺してしまったような人もいます。

 映画『南京の真実』第一部では、このうち絞首刑に処せられた7人の死の直前24時間にスポットライトが当てられていました。

 まず映画の分量ですが、(第一部だけで)2時間50分と、普通の映画に比べてかなり長め。
 第二部・第三部もこの調子で続くのであれば、全体で8時間半の大長編になりますから、すべて観るためにはかなりの時間と体力を必要としそうですね。

 作品は、全体にきわめて抒情的に作られていました。

 日本軍が戦う戦場の場面などは一切登場せず、唯一スクリーン上に登場するむごたらしい場面は、日本人が被害者となった東京大空襲と、広島・長崎への原爆投下後の被災者の姿だけ(※この部分は当時の実際の映像を使用)。

 映画PR用のちらしには、
原爆が落とされ、広島長崎三十万人が虐殺された日、戦後日本と「南京大虐殺」の嘘が始まった
とあり、私としては、この映画がその部分をどのように描いているかを見たかったのですが、残念ながら第一部のストーリーは南京事件までは進みません。

 第一部は、処刑前24時間の「死刑囚」がどのような辞世の歌を遺し、何を語り、最後に何を食べ、どのように絶命したかということが、実に淡々と、一種のお能の手法で描かれているのです。

 興味深かったのは、映画の中で絞首刑直前の7名がそれぞれ手には数珠を持ち、仏像の前で念仏を唱えていたこと。しかも彼らは最後の最後に「天皇陛下万歳」を叫ぶのです(※当時の天皇は「神道」の神として信仰の対象)。

 ……神仏混淆の日本人の宗教観を、こんなところで垣間見ようとは。

 いずれにしても、南京大虐殺の「嘘」に迫る強烈なプロパガンダ映画を予想して行った私としては、かなり予想外な内容の、穏やかな「第一部」でした。
桜の季節の靖国神社
 南京大虐殺の「嘘」をこの映画がどのように解釈してみせるかという核心部分は、第二部・第三部を待つしかないよう。

 しかし、ちらしの裏面に「三部作完成のために、1口1万円からのご支援をお願いします!」とありますから、もしかしたら第二部・第三部の完成時期は未定なのかも知れません。

 『南京の真実』第二部が完成したら、また観に行きますよ。
 もう一方の『靖国』のほうも、どうにか時間をつくって大阪まで観に行こうと思っています。

 なお、『靖国』と『南京の真実』のオフィシャルサイトは次のとおりです。
 ご興味のある方は、是非ご覧になってみてください。

★映画『靖国』オフィシャルサイト
 http://www.yasukuni-movie.com/
★映画『南京の真実』オフィシャルサイト
 http://www.nankinnoshinjitsu.com/

 ところで今回、映画を観ていて気づいたことが一つ。

 上にも書いたように、東條英機ら「A級戦犯」の処刑が行なわれた日は、終戦から数えて約3年4か月後の1948年12月23日。この日は奇しくも皇太子(今の天皇)の誕生日ではありませんか。

 12月23日がいずれ新しい天皇誕生日になることは、当然、極東国際軍事裁判所も熟知していたはず。
 おそらく戦勝国は、わざわざ未来の天皇誕生日を選んでA級戦犯の命日にしたのではないでしょうか。

 そうすれば、天皇誕生日がめぐって来るたびに、日本人は太平洋戦争のことを思い出す。
 未来に亘って日本人が戦争と天皇の関係を思い出すように、戦勝国はあえて12月23日をA級戦犯処刑の日に選んだのではないか。

 ……なんだか急に、そんな気がしてきました。

 ではでは♪
▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダ∪・ω・∪


全身脱力ブースケ。羞恥心はいずこ?

(※前号までの写真はこちらからご覧ください)
事事如意
2008年4月5日
山田 真美