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2006年10月29日号(第239号)
今週のテーマ:
建長寺「四ツ頭茶会」初体験
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 3年前から師事している茶道表千家不白流正師範・荒井宗羅先生からお声をかけていただき、先週は、身の程知らずなほど格の高い茶会に出席して参りました。

 その茶会とは、鎌倉の名刹・建長寺で毎年行なわれている四ツ頭茶会(よつがしら・ちゃかい)でございます。

(……と、思わず「ございます」口調になってしまいましたが、なにしろそれぐらい格の高い茶会でございますのよ奥様。ほほほ)

 ご存知ない方のために簡単に説明いたしますと、四ツ頭茶会は、宋〜元の時代に中国の禅寺で始まった茶会形式であると言われています。

 4人の正客(すなわち四ツ頭)を筆頭に、その他のゲスト(相伴客)が大広間で一斉に茶菓を頂く作法で、日本にも禅宗と共に鎌倉時代に紹介され、以後、現在に至るまで廃れることなく行なわれてきたそうです。

 ちなみに今回の茶会が行なわれた建長寺は、臨済宗建長寺派の大本山で、1253年の創建。開祖は民衆にも優しい善政を敷いたことで知られる北条時頼。鎌倉五山の第一位と言いますから、要は鎌倉で一番格の高い禅寺ということですね。

 この茶会、本来は茶道歴3年の私のごとき駆け出し茶人が行くようなお席ではないのですが、そこはそれ、この世は何事も勉強です。

 立派な茶人になりたかったら、先輩茶人の立ち居振る舞いから日々学ぶことが何よりも大切ですし、それに、四ツ頭茶会は言ってみれば茶道の原型と呼ぶべきもの。一度は体験しておきたいなと常々思っておりました。

 そんなわけで、今回は茶道のルーツ探訪という意味でも大いに有意義な茶会でした。

四ツ頭茶会のチケットを兼ねた案内状。龍の絵が「さすが禅寺」という感じです



品川から鎌倉へ向かうJR横須賀線の車内にて。
わくわく気分を表現すべく、当日のバッグは「鳥獣
戯画」柄を選びました
 ……というわけで、建長寺に行って参りました。

 当日は雨が降ったり止んだりの悪天候だったのですが、下の2枚の写真を撮ったときは爽やかに晴れ上がっていますね。

 山に近いこともあって、辺りには秋の気配が色濃く感じられ、東京からわずか1時間余の場所とは思えないほど深閑とした空気が実に心地良く感じられました。
  
(左写真)建長寺山門前にて (右写真)四ツ頭茶会の看板を背に、荒井宗羅先生(中央)、
兄弟子の高松さん(右)と私。ちなみにこの日の私の装いは、茶道裏千家の師範だった叔
母が形見に遺してくれた鮫小紋と昼夜帯の組み合わせです
 あいにくお茶会の最中は写真撮影が出来なかったため、内部の様子をヴィジュアルでお見せすることは出来ませんが、当日は建長寺の広い敷地のほぼ全体が茶会のために開放され、あちこちで複数の茶席が設けられました。

 そのなかでメインとなる茶席は、もちろん「四ツ頭茶会」です。

 何が面白いって、このお茶席、まずは参加者(ゲスト)全員が一堂に集められ、数十人ずつに分けられて、順番にお坊さんから茶会のプロセス説明を受けるんです。

 お坊さんいわく、

「会場となる龍王殿に入る際は、閾(しきい)の前で一旦停止して合掌。必ず左足から閾を越えてください」

「退室の際、手の位置は叉手(しゃしゅ)でお願いいたします」
 (※叉手=左手で右手をカバーし、胸の上に置くポーズのこと)

「侍香(お坊さん)が入場し大問訊低頭を始めましたら、皆さんも合掌低頭してください」

「茶菓は2種類出ますが、そのうちコンニャクだけを召し上がり、菓子のほうは懐紙に包んでお持ち帰りください」

などなど。

 実に色々なお作法がある茶会なのです。しかもお坊さんの口頭だけでなく、ビデオまで使っての説明なのですから二度吃驚。

 そのような付け焼刃の勉強(?)の後、ようやく会場となる龍王殿へと招じ入れられた私たち。

 お坊さんが、大問訊低頭(大きく一礼すること)のあとでいきなり衣の袖を振りながら大きく宇宙遊泳のようなポーズを取ったのには、一瞬、目が点になりました。どうやら焼香の儀式のポーズらしいのですが、初めて見た人なら誰だってかなり驚いただろうと思います(笑)。

 しかしそれ以上に驚いたのは、なんとゲスト自身に茶碗を持たせ、お坊さんが中腰で立ったまま右手でシャカシャカお茶を建てるという突拍子もないお茶の建て方です(しかもその間、お坊さんの左手は熱いお湯の入ったやかんを持ったままだし……)。

 現代の普通の茶事から見たら驚天動地のワイルド!なお茶の建て方に、私はただただ目が点になっておりました(でも、個人的にはこういうワイルドさって嫌いじゃないかも)。

 この日は四ツ頭茶会のほかに、薄茶席が2つ、中国茶席が1つ、合計4つの茶席が催され、4つのお茶席のそれぞれの席主(主催者側)は、朝から晩までお茶を建て続けていらっしゃいました。

 それらのお茶席を、私達ゲストは朝9時から夕方3時までのあいだに好きな順番に巡り、途中で点心(ランチ)も頂戴するという趣向です。

 1日ぶっ続けで延々と茶会が続くわけですから、ホスト側もゲスト側もよほど正座が得意な人でなければ勤まりませんよね(笑)。

 幸い私は数時間ぶっ続けで正座しても平気な健脚の持ち主ですので、今回のような茶会はノープロブレムですが、正座が苦手な人は誘われても絶対に行かないことを強くオススメします。

 なお、4つのお茶席を巡る順番は特に決まっているわけではなく、それぞれのゲストがお席の混雑状況を見ながら適当に気分で決めるようでした(そのあたりのやり方は、ディズニーランドのアトラクションをまわるのと一緒です)。

 全部のお席をまわらず、行きたいお席だけに顔を出して帰ってしまっても構わないのですが、そんな勿体ないことをする人は少ないでしょう。だって、ディズニーランドでわざわざワンデーパスポートを買って1つの乗り物にしか乗らない人なんていませんものね(笑)。

これがチケット。4つのお茶席への入場券と、
点心(昼食)および供菓(お菓子)の引換券が
セットになっています。それぞれのお部屋の
入り口でチケットを千切って渡すシステム
 そんなわけで、ゲストの多くは朝の9時から夕方の3時までフルに時間を使い、すべてのお茶席を堪能なさっていたようでした。

 え? 私たちですか?

 私たちは、当然すべてのお茶席をじっくり堪能し、それでも足りずに(?)帰りには鎌倉郊外にあるお洒落なカフェに立ち寄って、白ワインを飲みながらケーキまで食べてお喋りして参りました。

 どうやら我々の胃袋のキャパシティーは、未だに女学生なみのようでございます(ふふふ)。

1日和菓子を食べ続けた〆はブルーベリータルト
 最後に、お茶に関して真面目な話を一つ。

 中国の古い神話に、神農(しんのう)という名の王様が登場します。なにしろ神話ですから、どこまで真実でどこから作り話なのか定かではありませんが、伝え聞くところによれば、神農は紀元前28世紀頃の国王で、鋤を使った農耕というものを民衆に伝えた初めての人だそう。

 と同時にこの王様は、地上に生えているすべての植物を自分で実際に食べ、それぞれの植物の味毒性の有無を調べて『食経』という本にまとめたとも言われています。

 この『食経』のなかに、

「荼茗久服令人有力ス志」

という記述がありますが、これを要約すると

「ずっと続けてお茶を飲むことによって肉体に力が与えられ、心も喜ぶ

という意味だそう。

 喫茶の習慣は、まさにこの神農が始めたものだと信じられていますが、その習慣がやがて現在あるような極限まで洗練された茶道へと発展してゆくのですから、人間の歴史というものは実に壮大ですね。

※注/現在私たちが「茶道」(読み方は「さどう」または「ちゃどう」)と呼んでいる芸道は、初めは茶道ではなく「茶の湯」と呼んだそう。また「茶道」と書いた場合も、初期においては「ちゃとう」と読んだようです。

 普段は何気なく飲んでいる一杯のお茶ですが、喫茶の最初のきっかけを作ってくれた4700年も昔の中国の王様に想いを馳せてみるのも、これまた一興ではないでしょうか。

 ではでは♪
▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダ∪・ω・∪


もともと毛深いブースケさん。またし
ても毛がモサモサの「モッサリーナ」
状態に(笑)

※前号までの写真はこちらからご覧ください
事事如意
2006年10月29日
山田 真美