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旅に出ていない限り毎週土曜日に更新します。
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2010年1月23日号(第372号)
今週のテーマ:
オーストラリア!
★ 仏教エッセイ ★
真言宗のお寺・金剛院さんのウェブ上で『仏教一年生』と題したエッセイを連載中です(毎月28日頃更新)。第21回のテーマは「4億年の引きこもり」です。左のロゴをクリックしてページに飛んでください。
 数年ぶりに日豪ニュージーランド協会(Japan Australia New Zealand Society, Inc.、略称JANZ)の新年会に出席して参りました。

 私は一応この協会のメンバーなのですが、ここ何年かはオーストラリアが遠く感じられ、会からも自然と足が遠のいていたのです。

 しかし、先日の日本捕鯨船団に対するシー・シェパードの妨害行為と、その行為をオーストラリア政府が容認しているようなニュアンスの報道が世の中に溢れている状況を見て、

「これは良くない。こういう時こそ、両国の関係を友好的に保つ努力をしなくては」

と思い、久々に新年会へ顔を出したような次第でした。
  
新年会の風景(駐日オーストラリア大使館)※右の写真に写っている左端の
旗はニュージーランド国旗です(豪国旗とはの大きさ・数・色が違います)
 おおかたの日本人が、

「オーストラリアって南半球にあるコアラとカンガルーの国でしょ? そんな地の果てのような場所へ何しに行くの?」

と言っていた1980年代初頭、私はGroup of Eight(オーストラリアを代表する8大学から成るリーグ)の一つであるニューサウスウェールズ大学に留学し、マッコウクジラの回遊を研究していました。

 その頃の私にとって、オーストラリアはまるで遠くの親戚のように親しい存在でした。

 当時の私がどれほどオーストラリアを大切に想っていたか、その一端はこちらの新聞記事からご覧いただければ幸いです。

「フジサンケイ ビジネスアイ」
(2007年2月19日)
※クリックで画像拡大できます
 私が留学していた1982〜83年、ニューサウスウェールズ大学の壁には大きく、

Stop Asian Students!(アジア人学生を入れるな!)」

ペンキで殴り書きがしてありました。

 そこは誰もが行き来できるオープンな場所。しかも、何か月経っても文字が消されることはなく、学校当局も落書きを知っていて黙認していたことは明らかでした。

 ……あのときに感じた悲壮感と不快感を、私は生涯忘れないでしょう。

 その当時は、アジア人の入学(または移民そのもの)に反対する保守派の動きが活発で、その矛先はもっぱら中国系移民に向けられていました。というのも、当時のオーストラリアで「アジア人」と言えば、その大多数が中国系でしたから。

 中国系移民の子は真面目に勉強をするので、軒並み良い大学を出て優良企業に入り、豪州社会のトップへ着々と攀(よ)じ登り始めていたのです。

 白豪主義的な保守派の人々にとって、おそらくそれは耐えられない事態だったのでしょう。

「『アジア人学生を入れるな!』は日本人に向けられた言葉ではないから、マミは気にしなくていいんだよ」

と学友たちからは慰められましたが、たとえそれが誰に向けられた言葉であったとしても、人間を国家や民族で区別することは、実に理不尽かつ危険な行為です。

 厭(いや)な気持ちをぬぐうことなど、当然できませんでした。
  
新年会でスピーチ中の駐日オーストラリア大使と大使を激写する私(写真提供:Yukkiさん)
 しかし、その後もオーストラリアにおける中国系移民の台頭は目覚ましく、その結果、社会は大きく変わりました。

 その代表例が、現オーストラリア首相のケヴィン・ラッド氏でしょう。

 ラッド氏ご自身は英国とアイルランド系の先祖を持つ白人ですが、大学では中国語と中国史を専攻し、なんとLu Kewen(陸克文)なる中国名を持つほどのバリバリの親中派です。

 現在のオーストラリアがいかに中国に近いかは、ラッド氏の例を見れば一目瞭然でしょう。
 この現状は、20数年前のオーストラリアを知っている者から見ると、まさに隔世の感があります。

 もちろん、この事実だけから「だからオーストラリアは○○である」といった単純な結論を下すことは出来ませんが、少なくともこの国が四半世紀で大きく変わったことだけは間違いありません。

 その変貌ぶりは――対中国政策に関して言えば――ほとんど別の国と言いたいほどの信じがたい落差があります。
  
(左写真)新年会にて、浅草で活躍するオーストラリア人芸者の「紗幸さん」とツーショット
(右写真)日豪ニュージーランド協会理事の荒井宗羅先生は本日の司会を務められました



お友達と記念撮影
 さて、現在のオーストラリアが抱えている社会問題の一つにカレーバッシング(Curry Bashing)というものがあることは、皆さんも既にご存知でしょう。

 カレーバッシングとは、インド系住民への差別と暴力をさす言葉。

 「レッツ・ゴー・カレーバッシング!」を合言葉に集まった若者(チンピラ)のグループが、インド人留学生をいきなり襲ってパソコンを盗んだり、ドライバーで刺したりという陰惨な事件が、シドニーやメルボルンなど都市部で数多く報告されています。これがカレーバッシングです。

 オーストラリア外務省によれば、同国への外国人留学生は約43万人で、そのうちの約10万人がインド人(2008年度資料)。
 しかし、一連の事件のため、インドでは「オーストラリア留学は危険」との見方が急速に広がっています。あたりまえですよね。

 オーストラリア政府観光局が昨年12月30日に発表したところによれば、インド人留学生の数は2010年には前年比で20%以上減少し、留学生関連事業収入は前年比で約63億円減少になる見込みとのこと。

 本来は魅力的な留学先であり、また観光業が主要産業の一つであるオーストラリアにとって、1日も早く安全な国のイメージを取り戻すことは、何よりも重要な国家戦略のはず。

 そのことを思い出して、もう一度おおらかなオーストラリアの気風を取り戻してほしい!
 オーストラリアに深く関わった者のひとりとして、そう祈らずにはいられません。

 来年は屈託ない気持ちで新年会に出席できますように……。


※「カレーバッシング」に関する新聞記事の一例はこちら、Wikipedia記事はこちらをご参照ください。
▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダ∪・ω・∪


「抱き癖」とはこの男のためにある言葉

(※前号までの写真はこちらからご覧ください)
事事如意
2010年1月23日
山田 真美
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