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2007年9月30日号(第277号)
今週のテーマ:
六十日間インド一周(その弐)
●9月24日(月)
 
 新しい街を知るためには、とにかく隅々まで歩いてみることが肝心だ。

 というわけで今日は、ハイデラーバードの街の中心部にあるフセイン・サガール湖を徒歩で一周してみることに。ランチ時間を含めると、全部でちょうど4時間かかった。

 湖畔にあるルンビニ公園(有料)へも立ち寄ってみる。ここは先月25日に爆弾テロが起こり、幼い子どもを含む数十人が命を落とした現場だ。当然のことながら警備は厳重で、ポケットから化粧ポーチの中まですべてチェックされた。

 今日のお天気は曇り時々雨。しかし今は雨季の最後なのだから降ってあたりまえ。文句は言えない。


  
(左)フセイン・サガール湖に建つ大仏立像 (右)縁日で売っていたお面。ミッキー(?)のショボさが素敵
●9月25日(火)
 
 早起きをして、車で3時間、さらにフェリーで1時間弱のところにあるナーガールジュナコンダに行ってみた(※「コンダ」とは丘のことである)。

 当地は、仏教の中観派(マーディヤミカ)の開祖である名僧ナーガールジュナ(日本では一般に龍樹、密教では龍猛とも呼ばれる)が紀元2〜3世紀に活躍した土地と言われる。

 また今日は、10日間続いたガネーシュ・チャトゥルティー祭の最終日でもあった。

 人々はこの日、寺院や自宅に置いてあったガネーシュ神の像を近くの川や湖へ持って行き、水に流してしまうのだ。灯篭流しの象神バージョンを想像してくれればわかりやすいかも知れない。

 今日はハイデラーバードだけで実に50,000体(!)ものガネーシュ神が川や湖に流された由。水質汚染は大丈夫?と心配になってしまうが、これは大昔から続く宗教行事。今さら止めることは難しいだろう。

 また今年からは一応、「神像を彩色する際に油絵具は使わないこと」など、多少は環境に配慮したルールを制定したようだ(ただしルールが守られているようにはとても思えなかったが)。

 見ていると、誰かが水に投げ込んだ像(着水時のショックで手の先などが欠けてしまっている場合が多い)を拾って持ち帰る人も少なくない。拾った像を何に使うのかと尋ねたところ、「修理して売る」という力強い答えが返ってきた。スバラシー(笑)。

捨てられる神あれば……



……拾われる神あり(湖から引き上げられ、オート
リキシャーで運ばれて行くガネーシュ神の像


  
(左)ナーガールジュナコンダ考古学博物館にて(右)博物館行きフェリーの中、サイダーで盛り上がる人々

※後記―この日記を読んだ読者さんから、「このサイダーはアルコール入りですか?」というナイスな
ツッコミをいただいた。答えはもちろん「ノー」である。インド人はアルコールなしで盛り上がる天才だ。
一般的に言って、ここではパーティーでもアルコールが出ることはない。にもかかわらず、彼らは最初
から異様なまでに「出来あがって」いるのだ。オソロシー人たちである(笑)。
●9月26日(水)
 
 今朝も暗いうちに起きて、Basarの街まで往復10時間のドライブ。行き先は「Gnana Saraswati Temple」という名のサラスヴァティー寺院だ。サラスヴァティーとは日本における弁才天のことで、「Gnana Saraswati Temple」はインド最大の弁才天寺院なのである。

 あいにく今は寺院の改装工事中ということで、辺りはひどく埃っぽく、喉がヒリヒリ痛くなりながらのリサーチ・ツァーであったが、幸い目的は達することが出来た。

 なお、日本における弁才天が七福神の紅一点でなかなかの別嬪さんであるように、インドにおけるサラスヴァティー女神も、御覧のとおり美しく描かれる(下のポスター参照)。

 「サラス」はサンスクリット語で湖や水の意味。ご本人も、その名に違わぬ水も滴るいい女なのである。

 ちなみにインドの古い言葉であるサンスクリット語に用いられる文字は、この女神によって作られたと神話は説いている。
  
(左)サラスヴァティー寺院は改装工事中 (右)ポスターに印刷された一面四臂のサラス
バティー女神。手にしているのは数珠、バラモン教の経典(ヴェーダ)、楽器(ヴィーナ)
●9月27日(木)
 
 今日は1日ホテルの部屋に籠って、ひたすら原稿の執筆。写真を撮るべき対象物が何もなかったので、ルームサービスで取った夕食の内容だけ載せておく。

 仕事に熱中するあまり、うっかりスープを2点も注文してしまい、しかもメインディッシュは無いというわけのわからない食事になってしまった。

 ……たまにはこういうのもいいか。

 ところで、インドに来てからたったの3回しかビールを飲んでいない。ビールよりアルコール度の高いものは一切口にしていない。意識して禁欲的にしているわけではないが、飲む気にならないのだ。

 これは果たして気候のせいなのか、それとも飲酒を良しとしない宗教的な雰囲気のせいなのか。

 ちなみに明日から訪問するグジャラート州はドライステートで、許可証がないと酒類は買えないらしい。こうなるとますます、お酒を飲むのが面倒臭くなってくる(苦笑)。

スープ2点はさすがにキツい。しかもサラダにはドレッ
シングがかかってないし
●9月28日(金)
 
 ハッキリ言って城には興味がない私だが、ハイデラーバードへ来たからには観光の超目玉であるゴルコンダ城ぐらいは見ておかなくては……と自分に言い聞かせ、重い腰をあげて朝から城見物に出かけた。

 そのへんでオートリキシャーを拾い、まずは値段交渉。折り合いのついたところで、ガソリンスタンドで燃料補給。運転手(リキシャーワーラーという)はお金をほとんど持っていなかったので、とりあえず私がガソリン代を立て替えた(これは結構よくあること)。

 ゴルコンダ城では政府認定のガイドを雇い、城内を隈なく案内してもらった。

 ここは16世紀に62年間をかけて建設され、クトゥブ・シャーヒー朝の王たちが5代にわたって居城としたところだ。

 しかし5代目のアブル・ハサン(360人の妻を持ちながら1人の子どもにも恵まれなかった王)の時代に、アウランガゼーブ帝(タージ・マハールを造ったシャージャハーン皇帝の息子)が率いる強大な軍隊に攻め込まれ、8か月で落城したそうな。

 360人も妻を持ってる暇があったら、少しはマジメに政治に身を入れれば良かったのに。

 城見物を終えたあとはホテルをチェックアウトし、19:00発のインディアン・エアラインズ便でハイデラーバードにさようなら。20:45アーメダーバード(グジャラート州)に到着。今夜から3泊の予定でこの街に滞在する。

今日はこのオートリキシャーをチャーターして数十キロ
走り回った。右端に立っている人はリキシャーワーラー
のハンさん、イスラム教徒、5男4女の父、72歳


  
16世紀に築かれ、クトゥブ・シャーヒー朝の時代に栄えたゴルコンダ城にて
●9月29日(土)
 
 グジャラート州と言えばマハトマ・ガンディーの故郷である。そして、ここアーメダバードは、ガンディーの活動拠点となった「サーバルマティー・アシュラム」があったところだ。

 まずはそこへ行ってみよう。そう思い立ち、今日も例によってオートリキシャーを拾って出かけた。

 「アシュラム」と呼ばれているだけあって、観光地となった今もなお、敷地内には平和で誇り高い一種の「道場」のような雰囲気が漂っている。展示品の数々をかなり真剣に見学していたら、たまたま取材に来ていたThe Times of Indiaの記者さんから「この場所をどう思われましたか?」とインタビューされてしまった。

 そのあと市立博物館へも立ち寄ってみる。この建物はル・コルビュジエが設計したことでつとに有名だ。

 世界的巨匠の作品なのだからさぞかし価値のある建築物なのだろうが、節穴のような私の目には、巨大な立体駐車場っぽくも見えたのだが……。

 夜はそのへんの庶民的なレストランでベジタリアン・タリ(定食)を食べる。70ルピーも取るだけあって、スープとデザート(バニラアイスクリーム)とコーヒーまで付いてきた。おまけにナプキンは紙ではなく布だ。これには感動した。

 普通、庶民が食べるタリはせいぜい25〜40ルピー程度。奮発して70ルピー支払えば、これだけ豪華な食事が出来るのだ(と言っても、70ルピーは日本円にしてわずか210円なのだが)。

世界中の指導者がこの部屋でガンディーと謁見した。現
在は金網越しに見ることが出来る(旧ガンディー邸にて)


  
(左)アーメダバード市立博物館の外観。設計はル・コルビュジエ (右)建物の内側はこんな感じ




今夜の食事。これだけ頂いて料金は70ルピー(約210円)
●9月30日(日)
 
 今日はアーメダーバード近郊にある3つのバオリー(Baori)を見に行った。バオリーとは階段状に造られた井戸のことで、インド広しといえども(私の知る限り)グジャラート以外では見たことがない。

 あちこちに点在するバオリーのなかで、ひときわ美しく規模も大きいのが、アーメダバードから20キロほど離れたアダラジ村にあるアダラジ・ヴァヴと呼ばれる井戸だ。

 1499年建造のこの井戸は八角形で、地下に向って5層に伸びている。内側の壁という壁には素晴らしい彫刻が施され、芸術を解さない人が見たら、「たかが井戸を造るのに、何故これほど美にこだわる必要があったのか」と呆れ返ってしまうこと必至だ。

 しかし古代インド人は、全身全霊で“美しさ”を愛することの出来た人々なのである。彼らがいたからマハーバーラタを始めとする珠玉の叙事詩も誕生したし、カーマ・スートラタージ・マハルも生まれた。おそらくは0の発見も、数学的な美を追求して行ったところに生じた一種の美の発見だったのではないかと私は思っている。

 ともあれグジャラート州のバオリーは息を呑むほど魅力的だ。世界で一番美しい井戸であることは間違いない。

 この街の想い出が何か欲しかったので、地元の人々で賑わう市場へ行き、普段着として着られそうなサルワール・カミーズを何着か購入した。
  
アダラジ・ヴァヴの内側。ひんやりして気持ち好い。井戸と言うより、さながら宮殿のような豪華さである


  
(左)この水の底に深い井戸が眠っている (右)階段の底から見上げた風景。ご覧の
ように井戸が何層にもなっていて、テラスで涼んだりすることも出来るのだ



この店でサルワール・カミーズ(長い丈の上着+パンツ
+スカーフがセットになった伝統的な女性の服)を購入
※この続きはこちらからお読みいただけます。To be continued.
▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダ∪・ω・∪


今週のブースケとパンダの代わりは、路傍で立った
まま寝ていた2頭のロバさんです

※前号までの写真はこちらからご覧ください
事事如意
2007年9月30日
山田 真美