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2005年8月21日号(第184号)
今週のテーマ:
真夏の陶芸教室
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 8月の頭から信州の山小屋に篭り、庭の手入れ、井戸さらい、畳干しなどなどに励んでおります。

 山は、さすがに涼しいですよ。ことに夜などは肌寒いぐらいで、早くも毛布が手放せません。
 庭ではつい先日までホタルが飛んでいましたが、今いちばん元気なのはオニヤンマと赤とんぼ。蝉時雨が降りしきるその下では、カマキリが恋人を求めて徘徊し、その横では秋の草花が揺れています。

 さてそんな中、先週は2日間だけ都会に戻り、鎌倉で土いじりをしてきました。

 私が一昨年から表千家不白流正師範・荒井宗羅先生の下で茶道を習っていることは、既に何度か書きましたが、うちの教室はなかなかユニークでして、毎年8月は稽古をお休みし、その替わりに鎌倉市内にある窯元で自分が使う茶器を作陶するのです。

 昨年の私は海外取材が立て込んだため、陶芸教室のほうはお休みしてしまいましたが、今年は勇んで出席。生まれて初めて本格的に轆轤(ろくろ)を回して参りました。

作業台の上。黒い円形の台が轆轤(ろくろ)です
 今回の参加者は、いつもお稽古で顔を合わせているお仲間のうち、時間の都合がついた7名です。
 この7名に対して、先生が3人付ききりで指導してくださるという、なんだか申し訳ないほど至れり尽くせりな少数精鋭(?)教室

 ちなみに、普段はお着物をお召しの皆さんも、今回ばかりはTシャツにエプロン姿。私も土にまみれることを想定し、どんなに汚れても構わないように割烹着姿で作業に臨みました。

轆轤を回す怪しい手元。うどん粉を練ってい
るわけではありません(笑)。顔は映っていま
せんが、おそらく真剣そのもの……のはず
 今回、私が作らせていただいたのは、楽焼(らくやき)の茶碗、略して楽茶碗です。
 楽焼には黒楽(くろらく)と赤楽(あからく)がありますが、このうち私が作ったのは赤楽のほう。

 俗に「一楽、二萩、三唐津」と言われるように、茶碗のなかでは「楽茶碗」がいちばん重宝されるのだそうです。

 また「楽に始まり楽に終わる」という言葉もあって、陶芸の初心者が最初に手を染めるのも楽焼なら、達人が最も味わい深いと感じるのも楽焼なのだとか。
 そう言えば釣り人のあいだでは「フナに始まりフナに終わる」と言われていますし、要するにどんな分野でも一番シンプルに見えるものが実は一番奥が深いということかも知れませんネ。

 この日、超初心者の私はほとんど何も考えずに無我夢中で土と戯れていましたが、ハッと気がついたとき、目の前にはどうやら茶碗らしき形のものが出来上がっていました。
 
どうやら一応、茶碗の形になりました。あとはこれを釜に入れ、釉薬をかけます。
「赤楽」ですので、完成の暁には柿っぽい赤色に仕上がる予定
 赤楽は比較的低い温度(約800℃)で焼くため、割れやすいのが欠点。そのため、何か細かな細工などは出来ないのだそうです(本当は、茶碗の全面に「般若心経」の全文を書き入れるなどの細工を施しかったのですが、それは無理とのこと)。

 これに比べて黒楽は1,100℃程度の高温で焼くため、丈夫で割れにくいとか。

 色彩的に見ても、赤に比べて黒のほうがお茶の緑を一層引き立てるように思いますので、この次に挑戦するときは是非、黒楽に挑戦したいと願う私なのでした。

名前を入れるように言われフルネームで「夜魔
蛇魔魅」と入れてみました。本当は「真」のよう
に名前の1文字だけ入れるのが正式なのです
が、例によってちょっと遊んじゃいました(笑)



作業が終わった途端、いきなり宴会の始まり始
まり〜。しかも赤ワインのおつまみは苺ケーキ
だし(笑)
 それにしても、面白いものですね。こうして無心に土をこねまわし、ひとつの形を作ってみると、出来上がった作品はなんと自分自身によく似ていることか!

 「文は人なり」と言って、文章にも書く人の教養や品格などが投影されるものですが、こうして土いじりをしてみると、陶芸にもやはり自分の姿が包み隠さず表われてしまうようです(あな恐ろしや)。

 完成した器を前にして、上手・下手とは関係なく、(ああ、この形は確かに今の私の心を表わしているなぁ)と思い、感慨深いものがありました。

 思い起こせば一昨年の暮れに本格的に茶道を始め、以来、闇雲に茶室に座り、闇雲にお茶を点ててきたわけですが、今回こうしてひとつの茶碗を作ってみることによって、いびつで未熟な形の向こう側に、うっすらとではありますが、お茶の精神の根幹に係わる何かがようやく見えてきたように思われるのは不思議なことです。

 現にここに在る私の心の在り様が茶碗に投影されて、自分というものが今までよりも明確に見えてきたと言ってもいいかも知れません。

 私自身の心の投影である茶碗を使って、毎朝一服のお茶を点てることによって、私は初めて本当の意味での茶の湯の精神に一歩近づくことが出来るのではないか。
 一客の茶碗を前にして、そんなことを想った夏の1日でした。



 ……さて、鎌倉から信州に再びとんぼ返りしたその夜、山小屋の周辺は前代未聞の大雨に見舞われました。
 雷も激烈で、耳をつんざく雷鳴が一晩中止まず、しかもそれがまるで爆弾でも落とされているような、未だかつて聞いたこともない種類の音なのです。

 このままでは山全体が流されてしまうのではないかと心配になるほどの荒れ模様でしたが、翌朝外に出てみると、果たしてあたり一面は水びたし。鉄砲水に押し流されて、道の表面もデコボコ。これには自然の脅威を見せつけられました。

 そんなわけで何日間かは4WD以外通行不可能という、さながらオーストラリアのデイントゥリー熱帯雨林(先週の「週刊マミ自身」参照)のような状態が続きました。
 が、お蔭様で道路の復旧工事は昨日までにほぼ終了。数日中に元の姿に戻る見込みですので、どうぞご安心ください。
  
(左)雨によって表面が流されてしまった道路と、今にも溢れ出しそうな小川
(右)道路の表面が破壊され、その下に埋められていたパイプも剥き出しに


  
(左)普段はただの山肌だったところに、今日は“にわか滝”が流れています
(右)道路脇を轟々と流れる鉄砲水。仔犬なら流されてしまいそうな勢い!
 私はあと少し山小屋に滞在し、できれば障子の張替えを済ませてから東京に戻りたいな、などと考えております。
 来週はいよいよ息子がハイスクールに進学しますし、秋口に向けてまたまた忙しい毎日になりそうです。

 ではでは♪
★★★今週のブースケ&パンダ★★★

 
水浴びは山小屋の日課

※前号までの写真はこちらからご覧ください
事事如意
2005年8月21日
山田 真美