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2009年1月21日号(号外
今週のテーマ:
オバマ大統領就任演説に思う
★ 仏教エッセイ ★
真言宗のお寺・金剛院さんのウェブ上で『仏教一年生』と題したエッセイを連載中です(毎月28日更新)。第9回のテーマは「犬に引かれて」。左のロゴをクリックしてページに飛んでください。
 第44代アメリカ合衆国大統領にバラク・オバマ氏(47歳)が就任なさいました。

 「チェンジ」路線を支持する者のひとりとして、この佳き日を心からお祝い申し上げます。

 しかし、支持者だからこそあえて辛口のコメントを申しますが、今回の就任演説中には、



と思った部分が、少なくとも2か所ありました。

 以下に、その箇所の原文および日本語訳、それに対する私の考えを付記しておきます。
 (※なお日本語訳は毎日新聞のサイトを参照させていただきました)

“For we know that our patchwork heritage is a strength, not a weakness. We are a nation of Christians and Muslims, Jews and Hindus - and non-believers.”

 我々の多様な出自は強みであり、弱みではない。(アメリカ合衆国は)キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、そして無宗教者の国だ。

 宗教の多様性。

 確かにこれはアメリカ合衆国の特徴であり、魅力でもあると思います。
 その点については大いに同意いたします。

 しかし大統領は仏教徒の存在についても言及すべきだったのではないでしょうか。 何故なら、アメリカ合衆国における仏教徒の数はイスラム教徒・ヒンドゥー教徒よりも多いのですから。

 参考までに、あのCIAが発行する“CIA World Fact Book”(2007年改訂版)によれば、合衆国における宗教別人口は次のとおりです。
順 位 宗 教 人口比
第1位 キリスト教徒(Christian) 78.5%
第2位 無所属(unaffiliated) 12.1パーセント
第3位 無宗教(none) 4%
第4位 その他、または不特定(other or unspecified) 2.5%
第5位 ユダヤ教徒(Jewish) 1.7%
第6位 仏教徒(Buddhist) 0.7%
第7位 イスラム教(Muslim) 0.6%
※この分類では、現代アメリカで相当数にのぼっているはずの無神論者(atheist)や不可知論者(agnostic)の数が不明ですが、両者は無所属または無宗教のカテゴリーに含まれているものと思われます。「その他」のカテゴリーにはヒンドゥー教徒(Hindu)、シーク教徒(Sikh)、ユニテリアン主義者(Unitarian)、ネイティブ・アメリカン系諸宗教の信者などが含まれるものと思われます。

 いずれにしても仏教徒はイスラム教徒・ヒンドゥー教徒より数が多く、合衆国人口の0.7%、すなわち約210万人もいるのですから、スピーチで言及されなかったことは明らかに「?」ですね。

 宗教は最もデリケートなサブジェクトであり、現に世界中で起こっているさまざまな紛争や戦争の多くも、そもそも宗教に起因していることは周知のとおりです。

 ですから、今回のような発言には細心の注意が必要かと思います。

 ただ、今回の演説で仏教徒が忘れられてしまった理由は、彼らが争いを好まない平和な人々だからかも知れません。

 仏教徒は、米国内において声を荒げることなく静かに暮らしており、だからこそ大統領は彼らの存在に気づかず、数に入れることさえ忘れてしまった……というのが真相なのでしょう、きっと。

 しかし理由がどうあれ、今後は平和で静かな人々の存在もお忘れになりませんよう、そして、何か発表なさる前には統計資料にキチンと目を通してくださるよう、大統領閣下と側近の皆さんには心よりお願い申し上げます。

“Recall that earlier generations faced down fascism and communism not just with missiles and tanks, but with sturdy alliances and enduring convictions.”

 先人がミサイルや戦車を使うのみならず、信念と確固たる同盟をもってファシズムや共産主義に勇敢に立ち向かったことを思い出そう。

 この一文を聞いたときは、思わず自分の耳を疑いました。オバマ大統領が「ファシズム」と「共産主義」を同列に扱っていたからです。

 最初に断わっておきますが、私自身は共産主義者ではありません。
 しかし、だからと言って「共産主義」と「ファシズム」を同格に見ることには賛同できません。

 確かに、共産主義は世界各地で失敗しました。

 しかしそれはあくまでも、これまでの“いわゆる”共産主義国家が民主主義や基本的人権を無視した結果の失敗であって、共産主義思想そのものに間違いがあったと言い切る根拠にはならないのです。

 共産主義はアメリカの敵であり、悪の存在として常にプロパガンダに使われてきました。

 今回も、大統領就任演説の中に「共産主義に立ち向かった」との一文を入れることで国民の歓心は買えたのかも知れませんが……果たしてこれで良かったのでしょうか。

 オバマ大統領には、アメリカ合衆国初のアフリカ系大統領として声なき声にこそ耳を傾け、何がホンモノで何がニセモノかを見分ける真実の目とそれを訴える勇気を持ち、そして何よりも人の心の痛みがわかる政治を行なって欲しいと切に思います。

 オバマ大統領、あなたにはそれが出来るはずです。Yes, YOU can! 期待しています。
事事如意
2009年1月21日
山田 真美
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