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2015年2月15日号(第532号)
今週のテーマ:
インド工科大学(2)
 
 2015年1月24日から2月24日までの一か月間、インド工科大学ハイデラバード校(略称IITH)の教壇に立っております。

 大学での所属は教養学部(Faculty of Liberal Arts)。
 ポジションは客員助教授(Visiting Assistant Professor)です。

 ここには日々の出来事を備忘録的にメモしておきたいと思います。かなり散文的な記述になるかと思いますが、あらかじめお許しくださいませ。 
2月2日(月)―IITHでの第10日目

 インド工科大学ではどのような数学教育が行なわれているのだろう。それを垣間見るために、同僚のアーナンダ・モハン教授の授業に潜り込ませていただくことにした。ところが、教室に入ってみると想像していた内容と違う。積分問題が大量に登場する。よくよく話を聞いたら流体力学の授業だった(汗)。今夜は知恵熱が出ること確定。

 午後は打って変わってデザイン科の教授たちと懇談。流体力学とのあまりの落差に拍子抜けというか、ほっとする(笑)。

 夜は友達の家で夕食をご馳走になり、久々にワンコと遊んだ♪

流体力学を講じるアーナンダ・モハン教授。眼光が鋭い!



デザイン学科のディーパック学部長(右)とニール教授(左)。
デザイン学科の人々はIITでは異色の存在かも?



友達が飼っているジャーマンシェパード(2歳の男子)。体重30kgながらブー並みに優しい子だった
2月3日(火)―IITHでの第11日目

 夕食を済ませ、シャワーを浴びようとする頃になってドタバタと工事のオジサンたちがやってきた。壁に穴を開け、隣のシャワー室に湯沸かし器を入れるのだそうだ。ついでにトイレも洋式に換えるという。

 今、私が使わせてもらっているこの部屋は、昭和のアパートのようなイメージの客員教授用宿舎の2階にある。ベッドルームは2つあって、そのうちの1つ(整備済み)を私が使わせていただいている。
 それ以外の部分(特にシャワー&トイレ)はこれまで未整備だったのだが、このたびインド工科大学ボンベイ校の先生が客員教授として夫人同伴で赴任なさることになり、そのために急きょ部屋を整備することになったようだ。

 それはよい。でも、なんだってまたに工事をするかなあ。就寝前のひとときに壁をぶち壊す大音響ってどうなのよ。このオジサンたちに常識ってものはないのか。ないんでしょうね(聞く前に完結)。

夜になって始まった工事。オジサンは全部で4人来ました。
これは私のシャワー室側から壁をぶち抜いているところ(溜め息)
 2月4日(水)―IITHでの第12日目

 今日はなかなか忙しい1日だった。まず、朝8時半から2コマ連続で授業。1コマ目は「神道と天照大神と天皇家」、2コマ目は「秋葉原とオタク」のテーマで話してきた。その合間に、日本から持参した赤鬼青鬼のお面を使って一日遅れの節分についても説明。

 授業終了後は「日印教育サミット」(東大・JICAなどの共催)に出席。

 さらに夕方からはハイデラバード市内のオスマニア大学教授による「絶滅の危機に瀕している言語」に関する非常にエキサイティングな講義を聴講。早起きしたせいか、夜は9時になるかならないうちに爆睡してしまった。

「神道と天照大神と天皇家」と銘打った授業。ちなみに学生達は(アニメ『ナルト』の影響で)
アマテラス、スサノオ、ツクヨミなど神々の名前は知っていたが、真意は理解していなかった



「節分」の説明をする際に赤鬼・青鬼に扮してくれた学生達
  2月5日(木)―IITHでの第13日目

 私の授業を履修している学生達が、「どうしても日本語を話せるようになりたい!」と言い出したので、急きょ簡単な日常会話とひらがなを教えた。さっそく黒板に平仮名で自分の名前を書いたりして大盛り上がりであった。

 マンガで覚えたらしい「もえ」という言葉を嬉しそうに書いている子もいたので、その場合は最後に「~」を付けて「もえ~」とするよう指導した(爆)。

日本語には「R」と「L」の発音差もなければ「th」の発音もないと伝えたところ、
名前に「R」や「th」が入っている学生達(たいへん数が多い)は呆然



どの学生も実にバランス感覚のよい綺麗な文字を書く



「しーまんと」さんの語尾は弱いt音(あるかないかわからない程度の
「トゥ」音)のため、「と」を入れるか入れないかで大いに迷っていた。
「しーまん」か「しーまんと」か。それが問題だ。最後は自分の名前を
四角で囲って四隅に鋲のような絵を描き、「表札」だと喜んでいた

2月6日(金)―IITHでの第14日目

 今週末の3日間、インド工科大学ハイデラバード校では年に一度の学園祭が開催されている。学園祭のタイトルは『Elan』(エラン)。インド在住のイスラム教徒たちが使う言語であるウルドゥ語で「(王など権威者からの)発表」という意味合いだそうである。なぜこのような名前が付いたのか定かではないし、10人を超える教授や学生にその理由を聞いたが誰も知らなかった。ハイデラバードがインド屈指のイスラムの街であることと関係があるのだろうが……それすらも定かではない。

 学園祭のスポンサーにはIBMやHITACHIなど錚々たる大企業が名を連ねており、「さすがはIIT」と感心させられた。

インド工科大学ハイデラバード校正門前の桜似の樹(名称不明)。これぞデカン高原の春!



週末(金・土・日)に行なわれた大学祭「Elan」の初日の様子



学生によるハイクォリティなクラシックダンスが登場するあたり、さすがインドである



こちらは「Elan」のスポンサー企業一覧(日本企業ではHITACHIが入っていた)
2月7日(土)―IITHでの第15日目

 この週末は、友達の生家があるワランガル(Warangal)の町まで遠出をすることになった。

 友達の名前はチャクラパニさんとおっしゃる。日本語に堪能で、心は日本人以上に日本的な南インドの人だ。チャクラパニさんと私にはウップルリ茂子先生という共通のお友達がいてくださる。茂子先生は米国在住の日本人で、亡きご主人(Dr. Ram Uppuluri)は優秀なインド人数学者でいらっしゃった。ありがたいことに、茂子さんのご縁で今回のワランガル行きが実現した。

 ワランガルはかつてカーカティヤ王朝の首都だったところで、この一帯は遺跡の宝庫なのだそうだ。自動車を走らせていると、道の両側に奇妙な形の一枚岩が点在する光景が広がっていた。オーストラリアのウルル(エアーズロック)を髣髴させる岩もある。こうした一枚岩を現地語ではエカシラと呼ぶそうだ。とても奇妙で、同時に美しい風景が続いていた。

 今日はまずパニさんの生家にお邪魔して荷物を置かせてもらい、次に地元の盲学校を慰問。そのあとはバドラ・カリー寺院フォート(昔の城塞跡)を訪ね、夜はパニさんの生家に泊めていただいた。

ワランガルの全寮制盲学校を訪問し、しばし子ども達と楽しい時を過ごす
(左端はみずからも目がご不自由な校長先生)



エカシラ(一枚岩)とその頂上に建つ古い石の建物



おそらくインド最強の軍神と言えるカリー女神を祀ったバドラ・カリー寺院にて
(岩そのものが寺院になっている)



寺院の向かい側には湖のやさしい風景が広がっていた



バドラ・カリー寺院の脇に小さな祠を見つけた



入ってみると内部はブルース・リーの『燃えよドラゴン』を思わせる鏡の部屋。「内部の
写真を撮っても構わない」とは言われたが、神像のお顔が写らないよう注意をはらった
(神像を写真に撮ることは本来は失礼な行為と見なされるので)



近くの公衆トイレで見かけた看板。トイレの使い方によって料金が3種類もある不思議。
○○だと1ルピー、△△だと5ルピー、□□だと5ルピー。この意味、おわかりですか?
(※正解はこのブログの最後のあたりにあります)


 
続いて訪ねたフォート(城塞跡)。入場料はインド人5ルピー、外国人
100ルピー。インドの遺跡では外国人はべらぼうに払わされるのが常



フォートを東西南北から守る門の一つ



フォートにて(シヴァ神の乗り物である聖牛ナンディンの石像)
2月8日(日)―IITHでの第16日目

 ワランガル観光2日目。昨日訪ねたバドラ・カリー寺院では地元の新聞記者の方から簡単なインタビューを受けたのだが、その記事が今朝の地元紙(アンドラ・ジョーティ紙)に早くも掲載されていた。載ったはいいが、すべてテルグ語のためチンプンカンプン。友人いわく、大学名がとんでもなく間違っており、名前もヨムダマミになっている由(笑)。

 今日はシヴァ神を祀ったラマッパ寺院(1213年建立)と千本柱寺院(1163年建立)を見学し、寺院の入り口にあるお店(日本の仲見世のようなイメージのお店)で生まれて初めてトディ酒を飲んだ。トディはココナッツに似た果物で、果汁を放置しておくと自然に弱いアルコールになるのだそうだ。

 夕方、お世話になったパニさんのご家族に暇を告げて一路ハイデラバードへ向かう。

現地の新聞『アンドラ・ジョーティ』に載った記事



今日はこのタクシーで寺めぐり(車のナンバーの下に見える「青鬼」は魔除けの御守りだ)



どこまでも続く綿花畑。ちょうど収穫時のようだった



このあたりはバッファローが多い。インド神話では悪役である「アスラ」とセットで
語られ、あまり良いイメージの生き物ではないのが気の毒な感じ



ラマッパ寺院(Ramappa Temple)にて



踊り子の彫刻(壁面には全て細かな彫刻が施されている)



大昔に大地震があったとかで、寺院の内部全体が大きく波打つように変形していた



今回の旅をオーガナイズしてくださったパニさん(本名チャクラパニさん)と



これがタディの木(果汁からアルコールが取れる)




タディの果汁を丸一日寝かせた汁。ソフトなアルコールになっているらしい
(パーセンテージは不明だが、飲んだ感じでは1~2%といったところか)



"One Thousand Pillar Temple"(1000本の柱の寺院)と呼ばれる遺跡。よく見ると
1本1本の柱は独立しておらず、あたかもたくさんの柱があるように見える彫刻が
一枚岩に施されているのだ。「1000本」は実際の数字ではなく、比喩のようだった



「1000本の柱の寺院」を見つめるように前庭にたたずむナンディ(シヴァ神の乗り物)の像



たまたまお寺で会ったテランガナ州副首相(元国会議員)のカディヤム・シュリハリ氏にご挨拶



観光を終えてハイデラバードへ帰る私の額に「ビンディ」を塗って旅の安全を
祈願してくださっている(右から)パニさんのお母さま、パニさんのお義姉さま



ハイデラバードに向かう途中のカフェにて。インドにもこのような
おしゃれカフェが増えつつある。フラッペ1杯100ルピー(約200円)
2月9日(月)―IITHでの第17日目

 前にも書いたかも知れないが、インド工科大学ハイデラバード校はハイデラバードの街から自動車で40~50分も離れたド田舎にある。私は1月24日にハイデラバード空港に到着し、そのまままっすぐにキャンパスに連れて来られたきり、まだ一度もハイデラバードを徘徊していない。

 というわけで今日はミーハーにショッピングと洒落てみた。巨大モールがいくつもあって、前回訪れた2007年に比べ、かなり街が進化した感じだ。

 ショッピングの後は「マインド・スペース」の名前で知られるハイテクシティ(IT関連企業が密集したエリア)へ行ったのだが、ここは写真撮影禁止ということで、残念ながらお見せできる写真はない。何卒お許しを!
 
モール内部の様子(最上階はレストラン街のようだった。次回は行ってみたい)



いかにもインド的な柄のプリントシャツ(1,100ルピー、約2,200円也)



全身に鳥がプリントされた大胆なデザイン(800ルピー、約1,600円也)



モールには無数の店舗が入っている。別の店で買った品物は
次の店に入る前にこのようなクロークに預けなければいけない
(万引き防止のための措置)



モールの立体駐車場の様子(このエリアはバイク専用駐車場)



IT関連企業が集中する一帯は、別名を「マインドスペース」という。頭(マインド)だけ
使って身体を使わないとの意味だそうだ。この頭でっかちなモニュメントがそのことを
如実に表わしている(※車中から撮影した写真につき手ブレをお許しください)
2月10日(火)―IITHでの第18日目

 3日間の旅を終え、大学に戻ってきた。全身が凝っている。マッサージにかかりたいが、そんな悠長なモノはこのあたりには存在しない。南インドなのだからアーユルヴェーダ・マッサージのパーラーがあって然るべきだが、少なくとも大学キャンパス周辺ではそのような気の利いたものは見かけない。今日は明日の授業の準備をしながらのんびり過ごす。
 
大学のカフェでのんびり。コーヒーとチョコレートで合計20ルピー(約40円)也♪
 2月11日(水)―IITHでの第19日目

 今日は3時間、2コマ分の授業をした。しかしまあ、ここの学生達はなんと優秀なのだろう。第8回目の授業にして、平仮名のほかに小学1年生で習う漢字(全80文字)をほぼ網羅してしまった。

 学生達のやる気がハンパないので、こちらも全力でぶつかっている。文法だけでなく、日本語のコンセプトや背景、歴史や文化もまるごと教えている。これまでマンガやアニメを通して断片的にしか日本を知らなかった学生にとっても、この授業はかなり革新的時間のようだ(彼らがそう言っていた)。弁才天をはじめとする神話の話も佳境に入ってきている。

 なお、下の写真に写っているのは正規の学生達。このほかに毎回、複数の聴講生がくる。実にありがたいことだ。

インドの学生にも大人気の「ドラえもん」の名前を通して日本の歴史文化を解説中



小学校1年生が習う80文字の漢字にチャレンジ



すすんで「ピース」をする学生たち。マンガの影響だろうか、日本文化の断片をよく知っている!
2月12日(水)―IITHでの第20日目

 昨日に引き続き今日も3時間授業(2コマ分)。今日は前半に「七福神めぐり」について話し、後半には自己紹介など会話の練習。ちなみに、ご存知のとおり、七福神の一般的な顔ぶれは「インドの神々3人(弁才天・大黒天・毘沙門天)+中国の仙人3人(布袋・福禄寿・寿老人)+日本の神さま1人(恵比寿)」である。

 今日はたまたま出席者が7人だったので、手持ちの「ハローキティ七福神ストラップ」を1ずつあげたところ、想像以上に喜ばれた。皆がインドの神さまの取り合いになるかと思いきや、すんなりとそれぞれの行き先が決まったのは少々意外だった。

「専攻」のところに「電気」「物理」「コンピュータ」などの日本語を当てはめて会話レッスン



平仮名の形が間違っていないかをチェックしているところ



ハローキティ七福神ストラップを1つずつゲットしてご満悦の学生達
2月13日(金)―IITHでの第21日目

 午前中は明治学院大学のシラバス(授業概要)2015年度版を完成しネットで提出したあと、『ブリタニカ年鑑』(日本語版)のゲラ校正を済ませてメールで編集部に返信。

 午後はインド工科大学の何人かの教授にインタビューなどして過ごす。

 夕食時、いつも食堂でご一緒になる同僚たちに向かって「日本のインスタントカレーを持ってきているんですけど、食べてみたい人いるかな」と問いかけたところ、2人が手をサッとあげた。念のため原材料名を全部説明し、ノンベジであることを十分に理解してもらったうえで試食してもらった。

 2人のうち1人は2010年11月に学会で仙台へ行ったことがあるという。その彼が、ハウスのカレーを口にした瞬間に、「日本の食べ物の味がよみがえってきた!」と感慨深げに呟いたのには驚いた。彼の記憶は急に開花したようで、仙台の想い出話がひとしきり続き、また、ニュースで大地震と大津波について知った時にどれほど心を痛めたかについても語ってくれた。

 というわけで今日は、インスタントカレーが発端となって同僚の意外な想い出話を聞くことができた貴重な夜であった。味の記憶は、生きることに直結しているだけに、非常に根深いものがあると思う。これはカウラ事件を通じて学んだことの一つなのだが……この件について書き出すと非常に長くなるので、詳しくは博論をご参照ください(笑)。

※博論は近未来に出版予定ですが、お茶の水女子大学の図書館へ行っていただければ現在も閲覧可能です(事前確認要)。

あっと言う間に季節はめぐり、今朝は既に「葉桜」となっていた(桜じゃないけど)



日本のインスタントカレーに初挑戦中の教授(同僚)たち
@インド工科大学のゲストハウス附属食堂(いわゆるMessと呼ばれる食堂)
 今週末は一泊二日の旅に出ます。

 以下、次号に続く。

※クイズの正解: 「男性用小トイレは1ルピー、普通の個室トイレは5ルピー、シャワーは5ルピー」でした!
 ▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダの代理∪・ω・∪ 


今回の「ブースケ&パンダの代理」は
なぜか道路を横断中のヒヨコです

(※前号までの写真はこちらからご覧ください)
事事如意
2015年2月15日
山田 真美
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