2011年12月5日号(第434号)
今週のテーマ:30年越しのクジラ「やっと会えたね」 |
★ 仏教エッセイ ★
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真言宗のお寺・金剛院さんのウェブ上で『仏教一年生』と題したエッセイを連載中。第33回のテーマは「インドマジックで被災地に笑顔を[1]」です。左のロゴをクリックしてページに飛んでください。 |
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この10月、南アフリカのケープタウンに行って参りました。
実は今回の旅で、私は30年越しの夢を叶えることができました。
ずっと会いたかったアイツに、ついに会えたのです。 |
今回はエミレーツ空港で成田〜ドバイ〜ケープタウン。片道25時間の旅でした。
[左]ドバイ空港のタイ料理屋さん [右]同じくドバイ空港の牛のオブジェ♪
機内食。全部で4回の食事タイムがあったのですが、後半は写真を撮り忘れました |
ところで皆さんは「南アフリカ」と聞いてどんな場所を想像なさるでしょう。
地の果てのイメージ? それとも、かつてのアパルトヘイトからの連想で、白人による黒人差別が根強い土地柄でしょうか。
少し古いところではシドニー・シェルダンの『ゲームの達人』の冒頭シーン?
最近は2010年のFIFAサッカー・ワールドカップを思い出す方が多いのかな。 |
こちらは泊まったホテルの朝食。ビュッフェスタイルで、毎朝ほぼこんな感じのメニューでした |
私にとっての南アフリカのイメージはちょっと変わっています。
実は、私にとっての南アフリカのイメージは、
「あと一歩のところで選に漏れた国」
「鉛筆の気まぐれで行かれなかった国」
……なのです。今日はそのお話をしましょう。
※なお、今回は本文と写真にあまり関連性がありません。あしからずご了承ください。 |
19世紀の建物を再現したショッピング&レストランワーフ「ビクトリア&アルフレッド・ウォーターフロント」。
遠くに見えるフシギな形の山はテーブルマウンテン。てっぺん部分がテーブルのように真っ平らです
ウォーターフロント内のレストランにて。ケープタウンは魚介類天国です。この量で一人前! |
あれは私が20歳になるかならない頃のことでした。
その頃の私は、大学では経済学部に身を置きながらひょんなことからクジラの研究にのめり込み、鯨類研究所や水産庁に出入りしてまるで海洋学部の学生のような日々を送っていたのです。
卒論のタイトルも『経済学的見地における今日的捕鯨論』としたぐらいですから、当時の私の頭の中はクジラ一色だったのでしょうね。
(ちなみに、私がインドや密教やカウラ事件と出会うのは、もっと後のことです)
「大学を卒業したら海外の大学院に進み、本格的にクジラの生態を研究したい」
と思ったのも、当時の私にとってはごく自然な流れでした。 |
テーブルマウンテンに登ることにしました。ただ、アフリカ初日にちょっと足を
怪我してしまい登山する自信がなかったので、今回はケーブルカーでGO♪
ケーブルマウンテンの頂上から見下ろす西大西洋。10月(春)とはいえ、なかなかの日差しです
このあたりは「テーブル」や「ライオンの頭」などフシギな形の山が多いよう。右写真のドーナツ状の
建物は2010年サッカーワールドカップ会場。ブブゼラで有名になった場所と言えばおわかりでしょうか
山頂でくつろぐ人々
標高1086メートルと聞いてコートを持ってきたのですが、そんなものは不要の暑さでした |
私がクジラの研究に熱中していたあの当時、鯨類学の高度な研究ができる場所は(日本の東大と北大を除けば)世界に3か所ありました。
カリフォルニア(米)、シドニー(豪)、それにケープタウン(南ア)です。
このうちのカリフォルニアへは、19歳のときに短期留学をしたことがありました。
できればまだ一度も行ったことのない未知の世界で勉強してみたい。新しい場所へ行きたい。そう考えた私は、3つの候補地の中から真っ先にカリフォルニアを消去していました。 |
山頂のレストランでまたまたワインと食事を楽しむの図。ケープタウンに
来てからというもの、食べてばかりいます(笑)。ワインも美味しい♪
観光客が残した食べ物を待つカラス(左)と、アイスクリームの機械が壊れて中身が全部
溶け出てしまい苦笑いのウェイトレスさん(右)。テーブルマウンテン山頂のレストランにて |
……というわけで、留学先の候補地としてシドニーとケープタウンが残りました。
さてどちらの街で暮らそうか。今と違って当時はインターネットがない時代ですから、ほとんど情報が入ってきません。
いや、ネットどころか当時はFAXさえ一般普及していなかったのですからね。
手紙を書き(当然、手書き)、それをエアメールで現地の大学に送って入学案内の問い合わせをしても、返事が届くのは約1か月後。
今からでは考えられない不便さです。もっとも、人の助けを借りずに何でも自分の力でやるのが好きだった私のような人間にとっては、不便であることも含めて、とても面白い時代でしたが。
いずれにしても、当時の情報不足のなかではシドニーもケープタウンもそれぞれ甲乙つけ難く、どちらに行くべきかなかなか結論が出ません。
そこで私は、この際運命の女神さまに決定を委ねることにしたのです。 |
車を走らせていると物売りがやって来るのはインドと同じ。売っているのは食べ物、帽子、
自動車用の日よけなど。一体いくらするのでしょう。値段だけでも聞いてみればよかった! |
私は1枚の紙を用意すると、紙の右端に「オートラリア」、左端に「南アフリカ」と書き、それからおもむろに中央に鉛筆を1本立てました。
それから、「どちらにしようかな、神様の言うとおり」と心のなかで呟きながら、そっと鉛筆から手を離しました。
……鉛筆はゆっくりと重心を崩し、「オーストラリア」と書かれたほうへ倒れてゆきました。
私がシドニーへ留学する決心をしたのは、もとはと言えばそんな些細なことがきっかけだったのです。
おかしな話ですよね。自分でもそう思いますもの。
でも人生には何度か目を閉じて飛ばなければならない時ってあるんじゃないでしょうか。
あのとき、運命は私に「シドニーへ行きなさい」と命じた。そして私は自分の運命に従った。きっとそれは最高の選択だったに違いないし、あのとき鉛筆はどうしたってオーストラリアのほうへ倒れる運命だったのだろう。たとえ私が故意に南アフリカのほうへ鉛筆を倒そうとしても、その場合には誰かが急に部屋へ入って来て机を揺らすとか、地震が起こるとか、何らかの力が働いて鉛筆はどうしたってオーストラリアのほうへ倒れたに違いない。
……と、30年後の私は、そんなふうに思っているのです。 |
クジラを見るために海へ行く途中で立ち寄った小さな植物園にて。
ガーデニング好きなイギリス人が統治した国だけに、こういう場所はちゃんと作ってあるんですね! |
だから、私の心のなかには、
「もしもあのとき鉛筆が『南アフリカ』のほうへ倒れていたら、私の人生はどうなっていたのだろう」
といった類いの疑問は一切ないのです。
「歴史に『もしも』はない」という言葉がありますが、そのとおり。歴史に「もしも」はないのです。
ただ、私には「いつか一度は行ってみたい」と夢見ていた場所がありました。それは、ケープタウンから東へ100キロメートルほどのところにあるハーマナス(Hermanus)。陸上ホエールウォッチング(land-based whale watching)のポイントとして世界一と言われる小さな街です。
ハーマナスは陸と海の境がいきなり数十メートル以上の断崖絶壁になっており、陸地から数メートルの至近距離までクジラが近づいてくるのです。
シドニーで鯨類学を研究していた1982〜83年、私は仲間の研究者達から何度となくハーマナスの素晴らしさについて聞かされ、(いつか一度は行ってみたいな)と憧れを募らせていたのですね。
あれからほぼ30年の歳月が経ちました。私がケープタウンを訪れた10月は、運の良いことにミナミセミクジラの繁殖期で、クジラが陸地のすぐそばに近づくベストシーズンでした。
決してこの時期を狙ったわけではなく、南アフリカに用事があったのがたまたま10月だったのですが……運が良かったのでしょうね。あるい私、クジラに呼ばれたのかな? |
20歳の頃からずっと夢見ていたハーマナス。到着するなりミナミセミクジラとアザラシが出迎えてくれました。
目を凝らしてよく観察していると、湾の中に20頭前後のクジラとアザラシがいるのがわかります。
主に体長10〜20メートルほどのミナミセミクジラです。驚くほど至近距離まで近づいてきます!
この光景を間近にして、なんだかもう、どこへも行きたくないような気持ちになりました
「やっと会えたね!」気がつくとそんな言葉を呟いている自分がいました
「うん。やっと会えたね!」と、私にだけ聞こえる声でクジラも返事をしてくれたような、そんな気がします |
「もうどこへも行かず、ずっとこのままここに座ってクジラを眺めていたいな」
のびのびと泳ぐクジラ達を目の当たりにしながら、私は掛け値なしにそう思っていました。
そんなふうに心から思える場所が、世界のどこかにまだ存在していた! そのことがわかっただけでも、何千キロも旅して南アフリカまで行った甲斐があったというものです。
そして、もしかしたらクジラ達も私が来るのをずーっと待っていてくれたのではないか。
……もちろん、そんなことが現実的にありえないことはわかっているのですが……でも、それでもなんだか私はそんな気がしてならないのです。 |
海に臨むシーフードレストランにて |
あれから2か月が経ちましたが、私の頭の中では今なおクジラ達が元気に跳ねまわっています。
もしかしたら私はあの光景を一生忘れないのかも知れませんね。ええ、きっと忘れないのでしょう。 |
山の上から雲が垂れこめたドラマティックな夜明け
刻々と変化する雲の表情。ケープタウンの自然は見る者を一瞬も飽きさせません
港で見かけた陽気な人達
1497年にヴァスコ・ダ・ガマの船団が通過したことで知られる喜望峰にて
喜望峰の南東にあるケープポイント
野生のダチョウの家族
このあたりの野生のダチョウは人に慣れているのか、近づいても逃げません
ケープタウンの食事とワインは一つもハズレがありませんでした。至福のとき♪
ドルダーズ・ビーチのペンギンたち。土管の中に入ってくつろいでいる子も(笑)
南アフリカでは17世紀にオランダ人がワイン造りを始め、今では世界10位前後の
生産量を誇っているそう。地中海性気候が葡萄の発育に良いようです
最後はワイナリーへ行ってワインテイスティング三昧。
お土産にオリジナルグラスもいただきました♪ |
遠くない将来、またケープタウンの風に吹かれに行って来ようと思います。
そのときもアイツは無邪気に飛び跳ねながら私を迎えてくれるでしょうか。
ではでは♪ |
▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダ∪・ω・∪
枯れ葉が降り積もった庭を探検中のふたり
(※前号までの写真はこちらからご覧ください) |
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