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2012年11月15日号(第467号
今週のテーマ:
カウラ事件68年目の想いを訪ねる旅・秋編
★ 仏教エッセイ ★
言宗のお寺・金剛院さんのウェブ上で『仏教一年生』と題したエッセイを連載中。第37回のテーマは「『智の器』としてのお寺の面白さ」です。左のロゴをクリックしてページに飛んでください。
 
 今年第2回目となるカウラ事件に関する取材のため、鳥取・岡山・兵庫方面を訪ねてまいりました。
(※今年の第1回取材旅行の様子はこちらからお読みいただけます)

 去年の晩夏、今年の2月、そして今回。3回のインタビューを比べてみますと、「老い」が急速に元捕虜の皆さんを侵食していることを痛感しました。

 去年の夏はスタスタ歩いて私を坂下のバス停まで送ってくださったKさんが、今は杖に頼りきってトボトボと歩いている。ずっしり重い私のトランクを片手で持って階段を昇り降りするほどお元気だったYさんも、今では歩くことすらままならず入院中。

 時間との戦いという言葉が、こんなに痛切に感じられたことはありません。

 皆さんと、あと何回お目にかかれるのかはわかりませんが、こうして何かのご縁で「カウラ事件」と巡り合い、それを歴史に残す仕事を天から割り当てられた人間として、最後の瞬間までベストを尽くしたいと思っています。

ニューギニアで捕虜になりカウラ収容所に収容されたTさん(元陸軍一等兵)と、Tさんのお住まいにて


  
鳥取で泊まった旅館は「昭和そのもの」。まるで時間が止まっているような空間でした。
掛け軸と絵画の「因幡の白兎」は、土地柄ですね♪



今年カウラへご一緒した村上輝夫さん(元陸軍一等兵)と、鳥取砂丘の「砂の美術館」にて



鳥取砂丘。波のくだける音が砂丘に木霊して、それはダイナミック!


 
鳥取砂丘のいろいろな表情


 
いつもこの場所に連れてきてくださる村上さんに感謝……



ビスマルク海戦で船団ごと空爆され、捕虜になったKさん(元陸軍一等兵)と
 なお上の写真のTさん、Kさんからは

写真も名前も公開して構わん

と言われているのですが、個人的に色々と考えるところありまして、今回もおふたりのお名前はイニシャル表記、お顔はハートマークで覆わせていただきました。
(既にカウラへご一緒したことを公開済みの村上さんに関しましては、その限りではありません)。

 実は最近、こんなことがありました。元捕虜の伝記を出版した日本人(男性)がいらっしゃるのですが、その中で、元捕虜が命をかけて隠し通した秘密が暴露されてしまっているのです。
 ちなみに、ここでいう「秘密」とは、軍機に反するものでも反社会的な行動でもなく、むしろこの元捕虜が犠牲者となったある出来事に関する秘密でした。

 伝記によって秘密を暴露された元捕虜は、当然のことながら、非常に困惑し、懊悩しておられます。

 カウラ事件に関して言えば、当事者のプライバシーへの配慮は、どんなにしてもし過ぎることはないと私は考えております。

 殊に、彼が一介の兵隊だった場合には、たとえ本人が「写真を出して構わない」と快諾しても、念には念を入れてアイデンティティーを隠すぐらいの慎重さが、著者/研究者には必要だと考えます。
(但し、当事者が士官クラスの場合は責任の重さがまるで違いますので、話は根本から変わってきますが)

 TさんとKさんに関しては、いずれお名前と写真を公開する日がやって来るかも知れません。しかし今のところは慎重に考えたいと思います。

 さて、今年1年を振り返ってみますと、お蔭さまで私自身のカウラ事件研究には大きな進展がありました。事件に関心を持ってくださる方々への情報開示として、と同時に個人的な備忘録として、今年の進捗状況を以下にまとめておきます。
2012年「カウラ事件」研究進捗状況
(お茶の水女子大学大学院 博士後期課程 山田真美)
 1月12日   水交会新年会@東京(旧海軍関係者との懇談会)
1月16日   元零戦パイロット・原田要氏インタビュー@長野
 1月18日   口頭発表@お茶大
(タイトル「元捕虜へのインタビューから考察するカウラ事件発生までの経緯」)
 2月5日   元捕虜K氏インタビュー@兵庫県
 2月6〜7日   元捕虜T氏インタビュー@岡山県
2月8日   元捕虜Y氏インタビュー@鳥取県
2月10日   旧海軍関係者との懇談会@東京
 3月24日   日本オセアニア学会年次大会口頭発表@倉敷(タイトル「カウラ事件とは何だったのか―日豪間の認識差と68年後の新証言をめぐって」)
 3月25日   元捕虜・村上輝夫氏と会合@倉敷(カウラ行きの打ち合わせ)
4月1日   元捕虜Y氏電話インタビュー(病床にあるため電話での質疑応答となった)
 4月10日   元捕虜・村上輝夫氏、唄淳二氏、吉光徹雄氏と会合@東京
(カウラ行きの打ち合わせ)
 4月13日   外務省大洋州課課長と会合@外務省(カウラ行きの打ち合わせ)
 5月8日   口頭発表@お茶大(タイトル「インタビュー倫理を考える」)
5月12日   荒木貞夫陸軍大将のご遺族と懇談@長野
 5月23日   元カウラ会会長・高原希國氏ご遺族と懇談@千葉
 5月25日   カウラ事件で死亡した元捕虜F氏のご遺族と懇談@東京
 5月28日   村上輝夫氏と打ち合わせ@東京
 5月28日〜
6月4日
  2012日豪親善カウラ・ヘイ捕虜収容所跡地訪問団」団長としてオーストラリア各地(シドニー・キャンベラ・カウラ・ヘイ)を公式訪問
 6月5日   カウラ事件当時の豪州衛兵ロン・ファーガソン氏をインタビュー@シドニー
 6月5〜12日   シドニーにてカウラ事件関係の資料収集
 6月29日   口頭発表@お茶大(タイトル「投稿論文の草稿について」)
 7月11日   口頭発表@お茶大(タイトル「捕虜『脱走』事件と68年目の『記憶』」)
 7月13日   口頭発表@お茶大(タイトル「投稿論文の草稿について」)
 7月28日   元捕虜Y氏電話インタビュー(病床にあるため電話での質疑応答となった)
 8月3日   口頭発表@お茶大(タイトル「夏の研究報告」)
8月(1箇月間)   『人間文化創成科学論叢第15巻』への投稿論文を執筆
 9月3日   『人間文化創成科学論叢第15巻』へ論文を投稿
 9月9日   日本オーラル・ヒストリー学会年次大会口頭発表@名古屋
(タイトル「ハンセン病に罹患した一人の捕虜の目を通じて見たカウラ事件」)
 9月15日   阿波丸事件のご遺族(I氏ご一家)と懇談@東京
 9月16日   村上輝夫氏の講演会にオブザーバーとして出席@東京
 9月21日   講演会「山田真美さんから『カウラ事件』について学ぶ会」@東京
 10月19日   口頭発表@お茶大(タイトル「JOHA投稿論文について」)
 10月20日   コンネル著"Musculinities"文献講読会に出席@東京
 11月4〜5日   元捕虜T氏インタビュー@岡山県
 11月6日   村上輝夫氏インタビュー@鳥取県
 11月7日

  元捕虜K氏インタビュー@兵庫県

 今後の予定(〜2013年3月)
 11月22日   口頭発表@お茶大(タイトル「JOHA投稿論文について」他)
 11月24日   太平洋戦争研究会出席(テーマ「西部ニューギニア戦敵陣偵察」)@東京
 12月9日   口頭発表@お茶大(タイトル「JOHA投稿論文について」)
12月18日   明治学院大学横浜キャンパスにて講義(平和研究の基礎―学部生対象90分授業)
13年1月31日
〜2月10日 
  インタビューと資料収集のためオーストラリア各地を訪問(ゴールド・コースト、カウラ、シドニー)
3月31日   『日本オーラル・ヒストリー研究』投稿論文締め切り
 来年度はこれらの研究成果を博士論文にまとめ、カウラ事件に関する新たな発見と、事件を通してのさまざまな問題提起を行ないたいと思います。

 ではでは♪
▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダ∪・ω・∪


お気に入りのふわふわ毛布を頭から
被るのが最近のパンダのマイブーム

(※前号までの写真はこちらからご覧ください)
事事如意
2012年11月15日
山田 真美
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