2011年5月30日号(第421号)
今週のテーマ:博士論文への長い道のりの始まり |
★ 仏教エッセイ ★
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たまには大学院のことを書いておきましょう。
なにしろ最近は時間の経過が早すぎます。
女子大生ライフ(笑)の具体的な内容を今のうちに書き止めておかないと、数年後には、
「博士課程? そんなこともあったよね〜」
ってな具合にサラリと語ってしまう予感が濃厚(なにしろ私って忘れっぽいから(苦笑))。
というわけで今日は、今、この瞬間に私が大学院で学んでいる事柄を具体的に書き出してみます。
この日記は、言ってみれば自分用の備忘録ではありますが、これから博士課程への進学を検討していらっしゃる方にとっての何らかの参考になれば幸いです。 |

ひと雨ごとに緑が濃くなってゆく信州の山小屋付近(5月29日現在) |
現在私が在籍しているのは、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科ジェンダー学際専攻博士後期課程です。
名称が長すぎて、入学してから2か月近くが経つ今なおスラスラと自分の所属を言えないという体たらく。
肩書きを問われるたびにIDカードを取り出して確認しています。
……自分の所属ぐらい、いいかげん覚えろって感じですよね(苦笑)。
ちなみに私がここへ入ったのは、社会人特別入試を経てではありません。若い人達に混ざってちゃんと一般入試を受けて合格したんですよ。
そもそもお茶大の博士課程後期(ドクターコース)には、社会人特別枠は存在しないんじゃないかな。
さて、大学院には大学(学士課程)と違って「クラス」のような区分はありませんが、その代わりに指導教官がいます。
※上の「指導教官」という記述について、この日記を読んでくださった某大学の先生(親しい友人)から「お茶の水女子大も今や国立大学ではなく独立行政法人なので、そこに勤めている人は『教官』ではなく正式には『教員』のはず」というご指摘を受けました。というわけで正しい呼び方は「指導教員」なのかも知れません。ただ、それだと何となく語感が軽いと言いましょうか、先生に対する尊敬の念が伝わらないような気がしますので、ここでは従来どおり「指導教官」と呼ばせていただきます。
私の場合は主指導をパプアニューギニアを中心としたオセアニア地理学に詳しい熊谷圭知教授に、副指導をジェンダー学の舘かおる教授と文化人類学の棚橋訓教授の両名にお願いしています。
具体的には、木曜日は熊谷教授のゼミ、金曜日は舘先生と棚橋先生のゼミを受講しています。
要するに木曜日と金曜日は必ず大学へ行っているということです。
メインの熊谷ゼミでは現在、マスキュリニティー(男性性)の社会構造の研究でつとに有名なオーストラリア人社会学者R.W..コンネルの著作“Gender and Power”(ジェンダーと権力)を読んでいます。
「読む」と言っても、ただ読みっぱなしというわけではなく、内容を把握した上で批判する、いわゆるcritical reading(批判的解釈)の手法をとっているわけですが。
私はカウラ事件を「男性タテ社会の問題」と絡めて研究していますから、マスキュリニティーに関する質の高い先行研究を大量に読む必要があるのです。
2つ目の舘ゼミでは、毎回ゼミ生のひとりが博士論文または学会誌へ投稿する論文(=投稿論文)の要約を持ち寄って発表し、それに対して教授が指導、他のゼミ生が批評を加えるということをしています。
要は発表者の論文をより良くするために、そこにいる皆が歯に衣着せぬ意見をポンポン言い合うわけですね。ほかの人が書いた論文の中に在る問題点を客観的に理解し、その問題を自分の場合に置き換えてみるという意味で、この授業はかなり勉強になります。
3つ目の棚橋ゼミでは、熊谷ゼミ同様に英語の論文を読み、内容把握とcritical readingを行なっています。
3つのゼミはそれぞれにテンションが高く、時が過ぎてゆくのを忘れるほど面白い。 |

【先週の出来事1】 日本文化デザインフォーラムの会合で、日比野克彦さんとツーショット |
これらのゼミ以外に、合同ゼミなるものが月1のペースで開催されます。
ここでは、あらかじめ選ばれた1人〜2人程度の院生がパワーポイントなどを使って博士論文や投稿論文の概略を口頭でプレゼンし、それに対して教授や院生が批評をする次第。
私は5月18日の合同ゼミで『日本兵捕虜集団脱走事件「カウラ事件」の研究―男性タテ社会に於ける問題点の考察を軸に―』と題したプレゼンをしてきましたよ。
4月に入学して5月にプレゼンという流れは、かなり速いペースだそうです。
このほかに、「ブラウンバッグ」と呼ばれる研究会もあります。これは、シンプルなランチ(「茶色の紙袋=ブラウンバッグ」はその象徴です)を各自が持参し、教員と院生が一緒に食事をしながらインフォーマルな雰囲気の中で研究報告を行ない、意見交換をする場です。
ここへ集まって来るのは博士課程で何らかの高度な研究をしている人ばかりですから、どなたのお話も聞いているだけで面白い。
あとは、学内の学会活動ですね。私はお茶の水地理学会というところに入りました。
「地理」というと、単に地名を覚えたり地図の勉強をしたり……というイメージが私の中にはあったのですが、実際の「地理学」は広い分野を司るものなんですね。ちなみに三省堂の『大辞林』で「地理学」と引いたところ、
「人類の生存基盤である地表空間を総合的にとらえ、よりよき環境創造のための具体的で基礎的な知識を提供しようとする学問。地球上に生起する自然・人文(社会・文化)の諸事象の所在・広がり、それらの配置関係・相互作用を調べ、景観や地域の成立および変化過程を解明する。また、ある地域を設定してその特性を描き出す(以下略)」
ですって。
考え方によっては、ほとんどすべての事柄(もちろんカウラ事件を含む)が地理学の範疇に入ってしまうかも知れないほどの、まさに「膨大な学問」です。 |

【今週の出来事2】 元海軍士官(海軍兵学校第72期)の泉五郎さんから当時のお話を伺いました |
お茶大の場合、博士論文を提出するためには、
(1) 3年以上の在学期間
(2) 3本以上の学術論文を査読付きの学会誌に掲載した実績
などの条件があります。
上記のうち特に大切なのは(2)で、査読付きの学会誌(すなわち日本学術会議のメンバーになっているようなきちんとした学会が出版しているアカデミックなジャーナル)に論文を投稿し、晴れて選ばれてパブリッシュ(出版)される、それを少なくとも3回はクリアすることが博士論文を書くための大前提なのです。
大学院博士課程に入学さえすればすぐに博士論文を書けると思っている方が多いようなのですが、この世界ではそうは問屋が卸さないのだ!
学会誌に投稿するためには、一般的にはその学会の会員でなくてはなりません。
というわけで私は最近、複数の学会の会員になりました。
今年は論文を――もちろんカウラ事件をテーマに――執筆し、それらの学会誌に投稿しますよ。
学問の世界には“Publish or perish.”という有名な言葉があります。
その意味するところは「(論文を)書きなさい、さもなければ滅びなさい」ということ。
要は、良いものを1本でも多く書けってことですね。これは学者でも作家でも同じでしょう。
ええ、書きますとも。なにしろそのためにわざわざ厳しい道を選んで大学院に進学でしたのすから。
のんびりゴロゴロ生きるという発想が、どうやら私にはないみたい。
簡単な道と難しい道があると、体が自然に難しい道を選んでしまう(チャレンジが好きですから)。
言ってみれば鯉の滝登り。性分だから仕方ありませんネ(笑)。
……というわけで、女子大生ライフは今のところ極めて充実したものとなっております。
大学院での出来事については、これからも折に触れて書かせていただきたいと思います。
ではでは♪ |
▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダ∪・ω・∪

後方の箪笥は私が生まれた時に
両親が買ってくれた品。今は娘が
使っています
(※前号までの写真はこちらからご覧ください) |
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