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2009年3月24日号(第327号)
今週のテーマ:
学位記授与式+世界遺産ウォーク
★ 仏教エッセイ ★
真言宗のお寺・金剛院さんのウェブ上で『仏教一年生』と題したエッセイを連載中です(毎月28日更新予定)。第11回のテーマは「座敷わらし」。左のロゴをクリックしてページに飛んでください。
 弘法大師空海が日本に密教をもたらした年から数えて1200年目に当たる2006年に、高野山大学大学院修士課程(密教学専攻)に進学し、さまざまな角度から真言密教を学んで参りましたが、お蔭さまでこのたび一定のカリキュラムを修了し、密教学修士を名乗ることを許されました。

 これまで応援してくださった皆さま、本当にありがとうございました。

 これで私も空海の正統な弟子の系譜(の末席)に仲間入りです。

 もちろん学問それ自体に終わりはなく、研究はこれからも果てなく続くでしょうが、とは言え今回のことは一つの大きな区切りに違いありません。

 せっかくの機会ですから、まだ高野山へ一度も行ったことのなかった娘のLiAを伴って、3月15日に行なわれた学位記授与式(いわゆる卒業式)に出席して参りました。

 娘が保護者、私が卒業生の席に座るという、人生始まって以来の珍事となりました(笑)。
  
(左)高野山への入り口。ここから先はかつて女人禁制でした (右)高野山大学「学位記授与式」会場にて



ひとりひとり名前を呼ばれ、壇上で学長から学位記を授与されました。
(後方に掲げられた絵は弘法大師空海像)



高野山大学から修士号を授与された者は私で364人目のようです(左上参照)


  
(左)教授陣、御来賓、大学・大学院の卒業生全員による記念撮影
(右)最前列の左から2人目が修士論文を担当してくださった文学部長の越智淳仁先生です
 実は、私が当初予定していた修士論文のテーマは『パドマサンバヴァと十態のマニフェステーションの研究』というものでした。

 パドマサンバヴァは8世紀にチベットに密教をもたらした大行者です。

 このパドマサンバヴァに関する神話を中心に論文を書き進めていたのですが、2008年3月にチベットで例の大きな暴動が発生。

 このことを受けて、私は既に90%以上出来上がっていた最初の論文を棚上げし、研究テーマを『仏教国チベットへの宗教弾圧の歴史―ダライ・ラマの宗教と政治』に変えることにしたわけです。

 週刊マミ自身293号にも書きましたが、このときの私の心境は、

「私がこうして言論や信仰の自由を保証されながら生きている瞬間にも、ヒマラヤの奥地で兵糧攻めに遭っている僧侶たちがいる。こんな非常時にパドマサンバヴァという大昔の偉人に関する安全な研究をしていていいのか。仮にも作家である人間が安全地帯に立っていていいのか

というものでした。そのとき、

「チベット問題の研究は山田さんに合っていると思います。そのほうが、山田さんにはきっと実り多いものになると思われます」

と背中を押してくださった指導教官の越智淳仁先生(高野山大学文学部長、名著『図説・曼荼羅の基礎知識』の著者)には、今も心から感謝しております。
  
学位記を胸に記念撮影
 ところで大学院修了のためには、修士論文のほか課題レポートに合格して必要な単位を取得することも必須です。

 毎月平均2〜3本、多いときで4本以上のレポートを提出しましたが、そこはそれ、真言密教の頂点に在る高野山大学の大学院ですから、容易に答えられないディープな設問が多く、この2年半は頭のどこかに常にレポートのことが引っ掛かっているような状態でした。

 大袈裟に言いますと、これらのレポートのことが常に心のどこかにあって、普通に生活している瞬間も密教的修行をしているような(笑)、まあ、そんな心理状況だったわけです。

 下に挙げたものは、私が提出したレポートの一部です。
 ご参考までに、タイトルだけでもご笑覧くださいマセ。
* インドの諸宗教文化に見られる密教の諸要因について述べよ
* 大乗仏教の諸思想と密教的展開について述べよ
* 弘法大師空海の思想と実践にみられる独自の視点について述べよ
* 現代人の心と密教について述べよ
* チベット人によるインド密教の受容について論ぜよ
* 中国・唐代に活躍した密教僧を一人取り上げ、その業績ならびに
 中国密教史上における意義・位置づけについて論ぜよ
* 鎌倉・室町期の真言(宗)密教について論ぜよ
* 江戸期に活躍した真言宗の僧侶一人をあげてその人の伝記・思想について論ぜよ
* 空海と最澄の交友について論ぜよ
* 高野山の開創について論ぜよ
* 空海の『般若心経』観について述べよ
* 密教の包容性について述べよ
* 空海と最澄との真言付法についての見解の相違について述べよ
* 空海と最澄の書状から、空海による高野山開創の真の意図について述べよ
* 四国遍路と弘法大師信仰との関わりについて述べよ
* 現代人と四国遍路について述べよ
* インドの密教美術の特質を具体的な例をあげて論ぜよ
* インドと日本の密教美術の比較を通じて、両者の文化的背景を考察せよ
* チベット密教の特色について述べよ
* チベット密教に期待することを述べよ
* 高野山で行われている常楽会(涅槃会)と御影供について述べよ
* 現在高野山で行われている修正会について、他の所で行われている
 修正会と比較しつつ一般の民族信仰を取り入れる点にも触れて説明せよ
* 宗教法人の機関について、種類・権限・選任手続、いかなる場合に
 選任されるかなど具体例をあげて説明せよ
* 宗教法人が備え付けておくべき書類・帳簿について述べよ
* 真言密教の思想的な特色についてまとめて述べよ
* 六大体大説と阿字体大説の違いについて論ぜよ
* 仏教の実質的始まりはいつかを、具体的な時点・出来事を示して論ぜよ
* 仏教と葬儀の問題を当該仏伝資料に基づいて論ぜよ
 ……如何でしょう。
 私が大学院でどんな勉強をしていたか、朧げながらも(笑)おわかりいただけたでしょうか。

 これらのレポートのうち、一般の方がお読みになっても面白いと思われる内容のものや、今のままでは少し学術的過ぎる修士論文に手を加えて一般向けに読みやすくしたダイジェスト版は、近い将来、発表したいと考えています。

 しばしお待ちください。
  
学位記授与式終了後の祝賀会会場。右写真に写っているのは、いわゆるひとつの般若湯(笑)


  
(左)入学以来お世話になった前学長の生井智紹先生と (右)同級生と歓談中(2人ともお坊さんです)
 学位記授与式の翌日は、ユネスコの世界遺産に指定された高野山町石道(こうやさん・ちょういし・みち)をLiAとふたりで歩きました。

 これは、言ってみれば修士課程修了記念ウォークとも言うべきモノですね。

 高野山町石道の全長は、金堂や根本大塔のある壇上伽藍(だんじょうがらん)から、空海の御母堂である玉依御前が晩年をお過ごしになったと言われる慈尊院までの、23.5km

 この間、一町(約109m)ごとに「町石(ちょういし)」と呼ばれる石の五輪塔(卒塔婆)が建てられており、それぞれの石には一から百八十までの通し番号が彫ってあります。この数字を見ながら進めば、自分が今どのあたりにいるかを把握できるわけです。
  
全長23.5kmの「高野山町石道」ウォークに、いざ出発!


  
こんな形の五輪塔が一町(約109m)ごとに180基も建っています。石には五大(空風火水地)
を示す梵字の「キャ」「カ」「ラ」「バ」「ア」が刻まれていました。前方を歩いているのはLiA


  
鏡石(左)と押上石(右)は、ともに“弘法大師の三石”と呼ばれる伝説の石


  
“弘法大師の三石”のひとつ、袈裟掛石。弘法大師空海がこの石にお袈裟を掛けたと言われ、この
石が高野山の結界に当たります。石と石の隙間を通れれば長生きするというので、やってみたところ…


  
…楽勝で通り抜けられました。この隙間を通れないとすれば、肥満(メタボリック症候群)や運動能力の
低下が疑われます。「石と石の隙間を通れれば長生き」という話は、あながち嘘ではないのかも!


  
(左)空海が819年に創建した二ツ鳥居。当時は木製でしたが、1649年に石の鳥居に建て替えられた由
(右)ここにも鳥居が。折れた卒塔婆の横に寄り添うようにして、新しい卒塔婆も建てられていました


  
(左)路傍の可愛いお地蔵さん♪ (右)交通量ゼロの道の真ん中で瞑想中(?)


  
(左)遠く紀ノ川を臨む (右)蝋燭に火が点って温かくなったお地蔵さん


  
(左)ゴール一歩手前の丹生官省神社。写真にカーソルを当てると今年2月20日に同じ場所で
撮った写真をご覧になれます (右)ゴールの慈尊院。塔には「百八十町」と刻まれていました
 ゴールの慈尊院に到着したとき、それまで足下を照らし続けてくれた太陽が西の山の向こうに隠れ、まるで待っていたかのような絶妙のタイミングで日が暮れました。

 ウォーキングの所要時間は約7時間

 壇上伽藍を出発する前に歩いた「弘法大師御廟(奥の院)から壇上伽藍まで」の3.4kmと、「慈尊院から九度山駅まで」の約2kmなどなどを加えると、この日、歩いた距離は優に30kmを超えていました。

 途中で何か所か悪路を通ったため、慈尊院にゴールしたときはスニーカーもジーンズも泥まみれでしたが、とは言え、学位記授与式の翌日に娘とふたりで30kmを歩いた、この爽やかな達成感は本当に格別なものでした。

 きっと、一生忘れることのない素晴らしい想い出になるような気がします。

 今はただ、すべてのことに心から感謝!
▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダ∪・ω・∪


思いっきり毛を刈ったら別人のように
小さくなって、軽やかスキップ!

(※前号までの写真はこちらからご覧ください)
事事如意
2009年3月24日
山田 真美
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