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2008年10月14日号(第311号)
今週のテーマ:
スコットランド紀行(1)魔女伝説
★ お し ら せ ★
真言宗のお寺・金剛院さんのウェブ上で『仏教一年生』と題したエッセイを連載中です。第6回のテーマは「不思議なご縁」。左のロゴをクリックしてページに飛んでください。
 9月末から10月初頭にかけてスコットランドへ行って来ました。

 今回、旅の最大の関心事は「運命の石」と呼ばれる石をこの目で見ることだったのですが、そのほかにも、スコットランド最大の都市グラスゴーで開催されていた宇宙関係の学会を見学させていただいたり、スコットランドが生んだ詩人ロバート・バーンズの生家を訪ねたり、かつて魔女が出たという噂の心霊スポット(?)を見物したり、幻のネッシーで有名なネス湖に行ったり、幽霊ツァーに参加したりなどなどなど、内容は超盛り沢山なものになってしまいました(苦笑)。

 私が「運命の石」なる物に興味を持ったきっかけは、東京都内のスコティッシュ・パブで見かけた1本のビール、その名も「リアフェール」。

 ゲール語で「運命の石」を意味するこのビールに惹かれたのは、もちろん娘と名前が同じだったからという理由が大きいのですが(笑)、「ビールの名前にまでなった石って、一体どんな石なの?」と、まあ例によって好奇心が働いたわけです、はい。

リアフェール(ゲール語で「運命の
石」の意味)と命名されたスコットラ
ンドのビール(都内のパブで撮影)
 それはともかく、スコットランドはシャーロック・ホームズを生み出した作家コナン・ドイルの生地であり、スコッチウィスキータータン(チェック)の生まれ故郷でもあります。

 ほかにも近代経済学の父アダム・スミスや、電話を発明したベル、『007』でおなじみのショーン・コネリーなどがスコットランド生まれと言いますから、なかなか個性的な顔ぶれでしょ。

 スコットランドは、イギリスに併合される1707年までは独立した王国だった地で、グレートブリテン島の約3分の1を占め、イングランドの北に位置します。

 首都はエジンバラ、最大の都市はグラスゴー

 但しスコットランドへは、2008年10月現在、日本からの直行便が飛んでいません。この場合、英国航空かヴァージン・アトランティック航空あたりでロンドンを経由するルートがふつうなのでしょうが、今回は敢えてアラブ首長国連邦のエミレーツ航空で羽田→関空→ドバイ経由でグラスゴーを目指すことにしました。

 エミレーツを選んだ理由は、最近よく聞く「サービスがいいよ」という噂を確かめるため。
 それに、最近何かと話題のドバイにちょっとでも降り立ってみたいというミーハーな願望もありましたし。

 ……というわけで、生まれて初めてのスコットランドに向けて出発です。
  
関空からドバイへの航路で出た食事。イスラム圏だからと言って、特に変わったところは
ありませんでした。お祈りをする人もいないし、アルコールもふつうに出してもらえました


  
こちらはドバイからグラスゴーへの航路で出た食事
 関空から飛び続けること約10時間、トランジットのため数時間だけドバイ空港に立ち寄りましたが、いやはや、この空港の賑やかさには圧倒されました。

 24時間空港のため、真夜中にもかかわらず空港内には人、人、人があふれ、まるでバブル絶頂期の日本を髣髴させるような(あるいはそれ以上の)活況を呈しています。

 なかでも驚いたのは、免税店が並ぶフロアに何気なく展示されたピカピカのBMWやポルシェ

 これらの車は、1枚500Dhs.(約15,000円)のくじを買うと1,000人に1人の確率で当たるんですって!
 (※Dhr.=ディルハム=はアラブ首長国連邦の通貨単位)

 仮に日本の空港でこれと同じ「くじ」を売ったとして、果たして1,000人もの人が15,000円の「くじ」を買いますかねえ?(だって、1,000人のうち999人は15,000円をドブに捨てることになるんですよ?)

 何と言いますか、さすがは2020年に高さ1,000メートル超の高層ビルを完成させる予定のアラブ首長国連邦だけあって、「くじ」も実にスケールが大きい。

 世界的に不景気とか言っても、一部にはとんでもなくバブリーな世界が今も存在しているのだと、ドバイで改めて実感したのでありました。
  
真夜中のドバイ空港。さりげなく置かれたBMWは、なんと「くじ」の景品ですって



気分はすっかりアラビアンナイト〜♪
 ドバイ空港からさらに飛ぶこと、7時間強。ようやくスコットランド最大の都市グラスゴーに到着しました。

 飛行機から下りると、思わず上着の襟をたてて顎を埋めたくなるほどの涼しさ。

 それもそのはずで、この時期スコットランドの日中気温は10℃前後、夜の最低気温は3〜5℃にまで下がるんですね。そのうえ霧のような冷たい雨まで降りだし、持参のホカロンがいきなり大活躍

 そもそも、ドバイとの気温差が大きすぎなんです(苦笑)!
  
(左)ホテル近くの街の風景 (右)これがスコットランドの典型的な朝食(ソーセージ+ベーコン+卵焼き
+煮豆+マッシュルーム)。ベジタリアンの私はソーセージとベーコンを除いた部分だけ頂いていました
 スコットランド初日は小雨

 ひどく肌寒く、(いくらなんでも大袈裟かしら)と思いつつ日本から持参した冬用の分厚いロングコートが手放せない事態に。

 この日はアカデミックに、宇宙関係の国際学会の会場で1日過ごしました。

 本来はなかなか入ることが出来ない超理系のアカデミズムの世界ですが、今回は友人にお願いして特別に見学(聴講)させて頂いた次第。これでも一応「宇宙作家クラブ」の会員ですから、日頃から宇宙の勉強をしておかなければ……と思ったりしまして(笑)。

 会場には、宇宙関係の著名人が世界中から集まっていらっしゃったようでした。宇宙飛行士の向井千秋さんもお見かけしました。
  
宇宙関係の国際学会にて。右は宇宙旅行(?)の体験マシン


  
(左)BBCの右側に映っている卵型の建物では、会議初日にパーティーが開かれました
(右)パーティー会場のすぐ近くで、松明を振って参加者を歓迎してくれるパフォーマー
 さてスコットランド2日目は、またしても朝から冷たい小雨
 空はどんより曇って、いかにも北ヨーロッパらしい暗く陰鬱な天気です(いかにも魔女伝説が似合いそうな雰囲気!)。

 さてこの日は、ロバート・バーンズの生地エア(Ayr)を訪ねてみました。

 バーンズと言えば、英文学を学んだ人はもちろんのこと、英語詩を齧ったことのある人なら誰でも知っている世界的な詩人です。

 貧しい農家に生まれ、最後まで「贅沢」とは無縁の人生を送ったバーンズは、リューマチのために37歳で夭折するまで庶民の立場で数々の詩を書き遺した農民詩人でもありました。

 そうそう、日本人なら誰でも知っている歌のなかにも、バーンズ作詞のものがあります。
 “Auld Lang Syne”(日本語タイトルは『蛍の光』)がそれです。
  
朝のグラスゴー駅。人々が着ている服は黒っぽいものが多く、お天気と同じく暗く重厚な感じでした
 グラスゴー駅から列車に揺られること55分、エア駅に到着。

 ここからバーンズの生家があるアロウェイ村まではバスで行きたかったのですが、本数が1時間に1本と少なかったので、時間を有効活用するためタクシーを拾うことに(ちなみにそれはプジョーのタクシーでした)。

 10分ほどで目指すバーンズの生家に到着。
 入場料5ポンド(約1,000円)のところ、学生割引で3ポンドだけ払って入場しました。

 スコットランドはバスにも学割があるし、国際学生証を持って行って大正解(笑)。
  
(左)バーンズの生家の入り口 (右)当時のバーンズ家を再現した蝋人形がリアルです。
窓が小さいため全体にひどく暗く、まさに「蛍の光、窓の雪」の世界そのものでした
 さて今回バーンズの生地を訪ねるに当たって、私の中でテーマになっていたのは、“Tam O'Shanter”(タム・オ・シャンター)のタイトルで知られる、彼の代表的な詩(1790年作品)です。

 詩の始まりはこんな感じ。

 When chapman billies leave the street,
 And drouthy neibors, neibors, meet;
 As market days are wearing late,
 And folk begin to tak the gate,
 While we sit bousing at the nappy,
 An' getting fou and unco happy,
 We think na on the lang Scots miles,
 The mosses, waters, slaps and stiles,
 That lie between us and our hame,
 Where sits our sulky, sullen dame,
 Gathering her brows like gathering storm,
 Nursing her wrath to keep it warm.
(以下略)

 できれば声を出して読んでみてください。
 そうすることできっと、バーンズの韻の踏み方がいかに素晴らしいかがおわかりになると思いますので。

 この詩には、パブ好き(酒好き)なスコットランド人の気質や、パブに集まった人々の饒舌さ、それに、かつてヨーロッパを席巻した魔女伝説への想いなどがユーモラスに籠められていて、とても面白いんですよ。

 ここでざっと詩の“あらすじ”を解説すると、次のようになります。
(但しこれはマミリン流のいい加減な解説ですので、本格的に知りたい方はぜひとも原詩を読んでくださいネ)。

 この詩の主人公であるタム(Tam)は、かなり酒好きな男

 事件が起こったその晩もパブで飲み過ぎ、グデングデンに酩酊した状態で愛馬に乗り、真っ暗な夜道を帰路についたのでした。
  
タムが飲んだとされるパブ。エア駅の近くにあります。タムはスコッチをスト
レートで飲んだのでしょうが、真昼間だったので私はワインを頂きました
 真暗闇のなか、どれほど愛馬を走らせたでしょうか。
 ふと、タムの行く手に古い教会が見えてきました。なかから聞こえてくるのは、笑い声や嬌声

(こんな夜中に、こんな人里離れた教会で、一体何事だろう?)

 不審に思ったタムは馬を下り、教会に近づき、塀によじ登って窓からなかを覗いてみました。
 すると驚いたことに、室内では魔女と悪魔たちが集って、楽しそうに踊りながら大騒ぎしていたではありませんか。

 ちなみにその教会がある場所は、バーンズの故郷アロウェイ村です。

魔女や悪魔たちが騒いでいたという
教会の跡地(手前の大きな墓には、
バーンズの父親が眠っています)
 そのなかにひとり、短いシュミーズ姿で踊る若く美しい魔女がいました。
 タムはその姿にクラッとしてしまいます(わかりやすい男ですネ〜(苦笑))。

 しかも、黙って見ていればいいのに、おそらくタムは酔っぱらって気が大きくなっていたのでしょう、あろうことか魔女に触ろうとして思わず手を伸ばしてしまったのです。

 すると突然あたりが暗くなり、本来そこにいるべきではないタムの存在は、たちまちバレてしまいました。

 怒った魔女と仲間たちは、物凄い形相でタムを追いかけて来ました。
 我に返ったタムは愛馬にまたがり、その場から命からがら逃げ出します。

 必死で逃げるタム。しかしこの魔女はビックリするほど足が速かった!

 人間(しかも酔っ払い)が彼女に勝てるはずもなく、タムがちょうど橋の真ん中あたりまで到達したとき、ついに魔女の手が愛馬の尻尾をむんずと捕らえてしまいました。

魔女がタムの愛馬の尻尾をつかんだという橋。
ちょうど私が立っているあたりが、その現場です
 どうやら、この橋の真ん中あたりがあの世とこの世の結界にでもなっていたのでしょうか、魔女たちは何故か橋の向こう側までは追って来ることが出来ず、そこで立ち止まってタムを襲うことを諦めます。

 そんなわけで、タムと愛馬はどうにか一命を取り留めるのですが、馬の尻尾だけは取られてしまいましたとさ、というのがこの詩のオチになっています。

 「酔っ払い+魔女伝説」というシチュエーションは、恐ろしくもあり、同時にどこかユーモラスでもありますよね。

 19世紀、中国からイギリスまでお茶を運搬したカティーサークという名の高速帆船がありました。
 当時としては非常に足の速い船で、中国からイギリスまで107日から122日で航行できたと言います。

 このカティーサーク号の船首部分に飾られていたのは、なんと(引きちぎった)馬の尻尾を掴んだシュミーズ姿の魔女の像だったんですって。

 スコットランドの言葉(ゲール語)でカティー(Cutty)は「短い」、サーク(Sark)は「シュミーズ」の意味。
 つまり、カティーサークはタムを襲った魔女がまとっていたシュミーズのことなんです。

 魔女に守られた船って……なんだか凄いでしょ?

 恐ろしいはずの魔女の下着が帆船の名前になった理由は、彼女の足の速さにあやかるためだったとか(ってことは、日本で言うところの韋駄天みたいなものでしょうか)。

 ちなみに皆さんもご存知のカティーサークというスコッチ・ウィスキーの名前は、この帆船に因んでいます。そういう名前だからと言って、酔いが早く回るかどうか定かではありませんが(笑)。
  
(左)魔女に追われるタム(彫刻)。スコットランドでは、絵画や彫刻などあらゆるアートの
分野で「タム・オ・シャンター」のテーマが絶大な人気を誇っているようです (右)ロバート
・バーンズの胸像の前で記念撮影
 この続き(スコットランド紀行〔2〕ネッシー伝説)はこちらからお読みいただけます。

読者プレゼントその@スコットランド
らしいタ−タン柄の被り物
 今回、恒例の読者プレゼントは2つご用意しました。
 1つ目のプレゼントは「スコットランドらしいタ−タン柄の被り物」(上の写真参照)。ハロウィンにいかがでしょう。男女どちらでもイケると思います(笑)。

 この被り物を1名様にプレゼントします。

 ご希望の方は、

@ハンドルネーム
A職業
B年齢
C「週刊マミ自身第311号」を読んでの感想文

を明記の上、メールにて mami@yamadamami.com までご応募ください(件名は「スコットランド読者プレゼント@」でお願いします)。

 締切は10月24日、当選者のお名前は10月25日更新の「週刊マミ自身」で発表いたします。

 今回は抽選ではなく、Cの感想文がいちばん良かった人にプレゼントを差し上げたいと思います。その際、感想文の分量は10文字ぐらいの短文でも原稿用紙数枚の大作(?)でも、長短は全く問いません。使用言語は日本語または英語でお願いします。

 皆さまからのたくさんのご応募をお待ちしています。
 ではでは♪
▼・ェ・▼今週のブースケ&パンダ∪・ω・∪


今日はブースケの髪がボサボサで写真うつりが
最悪ですので、この「お菓子なふたり」が代理を
つとめます(爆)

(※前号までの写真はこちらからご覧ください)
事事如意
2008年10月14日
山田 真美
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