2005年5月14日号(第175号) 利休七則 　茶道を習い始めて1年半。 　このたび、お蔭様で表千家不白流の家元から小習いのお免状を頂くことが出来ました。 　「小習い免状」の意味するところは、簡単に言いますと、これでようやく不白流門下への正式な入門を許されたということ。つまり、これまでの1年半は、あくまで仮入門だったわけです。さすがに芸の道は、気が遠くなるほど長いですね。 　そういうわけで、「小習い」は一番下のお免状。 　ここから4つ上が師範で、そこまで行って初めて茶人としての名前を頂けるのです。 　ちなみにうちの流派では、師範になって頂く名前には、必ず宗（そう）の一文字が付きます。 　例えば、うちの御師匠は荒井宗羅（そうら）先生ですし、このほか、同じ教室の偉い兄弟子は、宗虹（そうこう）さん、宗聴（そうちょう）さん、宗観（そうかん）さんなど、「宗」が付くお名前の方ばかり。 　かく言う私も、師範になれた暁には、ぜひぜひ名乗りたい宗○（←まだ秘密）という名前が既にあるのですが……まあ、私がそこに至るまでには、あと10年か20年、あるいはそれ以上かかることでありましょう（苦笑）。 　ところで最近、ホームページ読者の皆さんから茶道のことでさまざまなメールを頂くのですが、その中に「表千家と裏千家はどう違うのですか」という質問があります。 　表千家と裏千家の違い、ですか。実は私にも、よくわからないのです。 　茶道のことに話が及ぶと、誰でも割と気軽に「流派はどちらです？　表ですか、裏ですか？」なんて質問をしますが、改めてそう言われてみると、表と裏で一体何が違うんでしょうね。 　私のことをとても可愛がってくれた叔母が裏千家の師範でしたから、子どもの頃の私は、叔母がお茶の道具を扱うところを間近に見たり、お茶を点ててもらったりもしているのですが、叔母の所作と表千家の作法の間に、何かとてつもなく大きな違いがあるとは私には思えません。 　もっとも、表と裏ではお点前の仕方（茶碗の回し方や袱紗捌き）が微妙に違いますし、ちょっとした所作を間違えると、「それはお裏さん（裏千家のこと）のお点前ですよ」と注意されることもありますが、基本的には表と裏で決定的な違いはないのではないでしょうか。 　そもそも表千家、裏千家、武者小路千家の三千家は、すべて千利休（1522〜1591）の流れを汲むもので、もともと同じ哲学に根ざしているのですね。 　では、これら三千家がどのように誕生したかと言いますと、利休の孫（宗旦）の4人の息子達のうち、長男を除く3人が千家を継いだのが始まりだそうです。 　次男（千宗守）が興した流派が武者小路千家、三男（千宗左）が興した流派が表千家、四男（千宗室）が興した流派が裏千家というわけです。 　ちなみに、三千家の創始者の父である宗旦という人物は、天才的な茶人だったそうですが、同時にかなり変わったエピソードも残しています。 　ある時、宗旦が亭主を務める大きな茶会が催されました。会は滞りなく進行し、宗旦のお点前の美しさを堪能した客達が、さて帰ろうとしたところ、今しがた水屋に引っ込んだはずの宗旦が再び現われ、「すっかり遅くなってしまいました」と詫びながら、またしてもお点前を始めようとしたというのです。呆気に取られた客人達が、「お茶なら、たった今頂いたばかりではありませんか」と訝ると、宗旦は驚いたように、「そんなはずはありません。私はたった今到着したばかりですが」。 　こんな出来事が度重なり、どうも宗旦そっくりのニセモノがいるのではないかと怪しんだ弟子達が、ある時、例によって早目にやって来たニセ宗旦を捕まえて問い詰めたところ、それは宗旦そっくりに化けた白狐であったとか。 　思わず笑ってしまうようなお話なのですが、京都の名刹・相国寺（しょうこくじ）境内には、今でもこの白狐を祭った宗旦稲荷があるというから吃驚です。ご興味のある方は、油揚げを持参でぜひお参りしてみては如何でしょう。ひょっとしてお点前が上達する……かも知れません（笑）。 　さて、「表千家と裏千家はどう違うのですか」という話に戻りますが、思いますに、茶道の哲学は流派には関係なく、千利休が残した有名な教え「利休七則」の中に封じ込められているような気がします。 　「利休七則」とは、人から「茶道とは何ですか」と尋ねられた利休が答えたという次の言葉のことです。 　茶は服のよきように点て 　炭は湯の沸くように置き 　冬は暖かに夏は涼しく 　花は野の花のように生け 　刻限は早めに 　降らずとも雨の用意 　相客に心せよ 　利休の言葉のあまりの当たり前さに、質問者が「そんなことなら3歳の子どもでもわかります」と怒ったところ、利休は「わかっていても、それが出来ないのが人間です。あなたが本当にこれを実行出来るならば、私があなたの弟子になりましょう」と答えたとか。 　最も基本的で当たり前なことを、確実にこなす。あらゆる世界で、案外これが一番難しいことかも知れませんね。 　基本を大切に。当たり前のことを大切に。茶道を通して、私はそのことを少しでも学んで行けたらと思っています。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年5月14日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年5月9日号(第174号) 引き続き、引きこもっています 　原稿執筆中につき、パーティーも飲み会もほとんど片端から断って、ゴールデン・ウィーク以来ずっと書斎に引きこもっております（私にしては珍しい……）。 　この10日間の外出らしい外出といったら、東京芸大の奏楽堂で邦楽叙事詩『スサノオ』の一夜限り上演を観たことと、気の置けない友達（男性2人＋女性2人）が集まって飲み会をしたこと、それに編集者の芝田さんと出版の打ち合わせを兼ねた食事会をしたことぐらいでしょうか。 　あとは毎日のブースケの散歩と食料品の買出しぐらいで、それ以外の時間は、ひ　た　す　ら、原稿を書いておりました。はい。 　もっとも、朝から晩までガンガン原稿を書いているわけですから、「引きこもっている」と言っても、それは非常にハイテンションな引きこもり方でして、喩えて言えば書斎でパソコンに向かってF1をしているような感じだとでも思ってくださいな（笑）。 　そうそう、つい数日前、とある公立図書館から興味深い問い合わせがありました。いわく、 「私どもの図書館では、目下、『死との対話』を点字に訳しております。それに関しまして、いくつか漢字の読み方をお教えいただきたい箇所がありまして、たいへん失礼とは存じましたがご連絡を差し上げました」 　そうなんです。ご存知の方も多いかと思いますが、点字というのは、すべて表音文字なのですね。つまり点字は、同じ日本語でありながら、音だけで表記されるのです。 　すべてカタカナだけで書かれている日本語が点字だとイメージなさってください。 　漢字のような表意文字なら、たとえ読み方がわからなくても、あるいは字が少しぐらい間違っていても、文字を見ただけでおおよその意味を推測することが出来ますよね。でも、表音文字ではそれが出来ません。 　音の表記に少しでも間違いがあると、点字の場合は意味が全くわからなくなってしまうのです。 　というわけで図書館からは、『死との対話』に登場する次の言葉について、「カタカナ書きした場合の正しい表記をお教えください」という質問が寄せられたのでした。 　「温達」　「尚能」　「陳青雲」　「騰佳」　以上は中国人の名前。 　「夜渡心河」　これは中国のラジオ番組のタイトル。 　「湖南経広」　これは中国のラジオ局の名前。 　これをカタカナに直せと仰るのですが、この作業がなかなか難しいのですよ。 　何故ならば、世界中で話されている言語の中で、日本語は非常に母音数が少ない言語です（あ、い、う、え、おの5種類しかありません）。他のほとんどの言語は、母音数が日本語に比べてずっと多いのです。 　中国語は特に母音数が多い言語ですから、これをカタカナに直すと、どう頑張っても、もとの発音とは似て非なるものになってしまうのですね。 　もっとも、そこをなんとかしなくては仕事になりませんから、頭をひねって、「温達＝ウンダー」　「尚能＝サンノン」　「陳青雲＝チェンチィンイゥン」　「騰佳＝トェンジァー」……という具合にカタカナ表記を考えましたが、はっきり言って、このカタカナをそのまま発音しても中国人には通じませんから要注意（笑）。 　こんな作業もしていたので、書斎に引きこもりながらも、なかなか楽しい10日間でした。 　なお、この点字本は、点字専門の校正者3〜4人で5回ほど校正にかけてから図書館に並べるとのことで、完成までまだ2ヶ月以上かかるようですが、出来上がりましたら、是非、このページでもご紹介したいと思います。 　原稿の方は順調に進んでいますので、今週末からは、映画の試写会（『オペレッタ狸御殿』）、鎌倉でのお茶会など、各種イベントをスケジュールに入れ、そろそろいつもの生活パターンに戻ろうと思っています。 　というわけで、今週の週刊マミ自身は「元気で生きています」という報告のみにて失礼いたしました。 　次号は、14日（土曜日）に更新しますので。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年5月9日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年4月30日号(第173号) ゴールデン・ウィークですが、 【訃報】岡本太郎記念館館長の岡本敏子さんが20日、急性心不全のために亡くなられました。敏子さんは気風が良くて、本当に可愛らしい女性でした。心からお悔やみ申し上げます。 　私はこの週末も休日返上で執筆に励んでおります。 　いわゆる作家の缶詰ってやつですね。 　こう言うと、皆さんから「大変ですねぇ。お辛くありませんか？」と心配していただいてしまうのですが、私の場合はむしろその逆でして、なにしろ書きたいことを書いているわけですから、もう楽しくて仕方がないというのが現状です。 　出来れば睡眠時間返上で仕事をしたいぐらいの、ワーカホリック、略してワーホリ（笑）な今日この頃。 　そうそう、私も子どもの頃（というか若い頃）は、「缶詰になって原稿を書いている作家」といったら、眉間に皺を寄せ、灰皿にタバコの吸殻を積み上げて髪をかきむしりながら、横に酒瓶と首吊り用の紐を用意して今にも死にそうな形相で原稿用紙に向かっている、芥川か太宰のようなニヒルな風貌の破滅型作家しか思い浮かばなかったのですが（爆）、実際には作家にも色々なタイプの人がいるわけでして、私はおそらく中でも最も健康的な部類に属するのではないかと勝手に自負しております。 （だって、執筆中に犬がまとわり付いて来ようが、誰かに話しかけられようが、私用の電話がかかって来ようが、全っ然、気にならないんですもの） 　さて、現在書いている原稿はと申しますと、史上最大の捕虜脱走事件（1944年8月5日に勃発したカウラ事件）の知られざる側面にスポットライトを当てた戦記ノンフィクション。 　今の予定では、来月末までに脱稿、8月15日の終戦記念日までには店頭に並べることができそうです。 　今回の本は、私が以前から構想を練ってきた「死三部作」の2作目に当たるのですが（1作目は、昨年秋に上梓した『死との対話』）、前作が、生の残滓としての死体が主人公であったのに対して、今回のテーマは軍人と死の美学です。 　ただいま鋭意執筆中ですので、発売まで今しばらくお待ちください。 　そんなわけで、やたらとパソコンの前に座っていることの多い今日この頃。 　先月オーストラリア取材中に大破したパソコンに代わって、新しいノートパソコンを購入したのを機に、最近はちょっと周辺機器にもこだわるようになってきました。 　例えばUSBフラッシュメモリー。 　これまでは、適当にその辺で買ったもので済ませていたのですが、先日、ネット上で見たあひる型USBフラッシュメモリーに一目惚れ（私ってこの手の可愛いモノに凄く弱いんです）。 　色はオレンジ、ピンク、ブルー、イエローとあったのですが、ここは手堅くイエローを選択（ハート模様とか迷彩柄なんてのもあったのですが、とりあえず今回はパス）。 　家族が無言で呆れ返る中、早速ひとつ注文してしまいました。 　で、送られてきたあひるちゃんはと言いますと、　文句なしの可愛らしさ。あひるのお蔭で、パソコン仕事がますます楽しくなりましたよ。 　なお、この商品に関する情報は、こちらの公式ホームページをご参照ください。 　http://sa-store.com/shop.php?category_id=29&item01_id=44 　個人的には、この次は寿司型スティックの「うに」を買おうかと目論んでおります（笑）。 　では、そろそろ執筆に戻りますね。 　皆さんは引き続き、楽しいゴールデン・ウィークをお過ごしください♪ 　事事如意 　　　　　2005年4月30日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年4月23日号(第172号) 三者懇談会 　先日、息子のNASAが通う都内のインターナショナル・スクールに行ってきました。日本で言うところの三者懇談会に出席するためです。 　彼は現在、ミドルスクールの8年生（日本式に数えると中学2年生）。 　卒業までには、もうあと1年あるのですが、この男は我が子ながらチャレンジ精神旺盛というか、どことなく昔の武士みたいなところのある人間でして、 「世界には、強いやつがたくさんいる。強いやつが大勢いる場所で武者修行がしたい。鉄は熱いうちに打たなきゃダメだからね」 というようなことを言い出し、自主的にさっさと別の学校を受験。今年8月からは、国内最大規模の別のインターナショナル・スクールに入学することが決まりました。 　しかも、彼の転入先は中学3年のクラスではなく、高校1年のクラス。つまり彼はミドルスクールの最終学年を経験せずにいきなりハイスクールに入ることになったのですが……このへんの不思議な事情については、8月頃に改めて書かせていただきますね。 　ちなみに申し上げておきますと、彼の言う「強いやつ」は、格闘技とかスポーツとかそっち系ではなく、いわゆる頭脳系です。 　日本には、インターナショナル・スクールの生徒たちが集まって数学能力を競う MATH FIELD DAY という数学のコンペがあるのですが、彼は今年も学校代表で出場していました。 　私から数学の得意な子が生まれたということ自体、山田家の七不思議のひとつって感じなのですが、まあ、人間長く生きていると色々あるってことで（笑）。 　ちなみに、皆さんからしばしば「息子さんにどうしてNASAと命名なさったのですか？」という質問を受けるのですが、その理由は、彼を授かった場所が米国テキサス州のヒューストンだったから。 　ヒューストンといえばNASA。そうです、息子の名は、かのアメリカ航空宇宙局（National Aeronautics and Space Administration）にあやかって付けたというわけです。 　名は体を表わすと言いますが、今のところ名前のイメージ通りに育っているところが面白い！ 　ともあれ、そのNASAのミドルスクール時代最後の三者懇談会ということで、今回はいつもより気合を入れて出席して参りました。 　日本で三者懇談会というと、先生と親と子どもが向かい合って座り、先生から割と一方的に 「○○君の成績では第一志望のＡ高校は無理ですね。第二志望のＢ高校も危ないです。Ｃ高校を受けることをオススメします」 みたいなことを言われて親子がションボリ、とか、あるいは親が一方的に 「うちの子の英語の成績、どうして“3”なんですか。○○ちゃんは“4”なのにうちの子が“3”なんて絶対ヘンじゃありませんか」 と理不尽に詰め寄る（笑）とか、 「うちの子は勉強もしないし、ゲームばっかりやっててどうしようもないバカで……。先生から何とか言ってください」 と、自分のことは棚に上げていきなり子どもを批判するなどなど、おかしな噂をよく耳にします。 　もうひとつ奇妙なのは、日本の学校の懇談会は、ほとんどの場合は母親が参加するだけで父親は顔を出さず、しかもそれが当たり前と認識されていること。 　一言で言ってしまうと、 「父親は不在、生徒は針の筵（むしろ）に座らされたまま、先生主導で話が進められてゆく。懇談会が終わった後は、子どもは母親から小言を言われる」 というのが、私がイメージする日本の三者懇談会なのですが、皆さんはどう思われますか。 　インターナショナル・スクールでは、多くの場合、これとは全く正反対の三者懇談会が行なわれます。 　Student-Led Conference（略してSLC）と呼ばれるものがそれです。 　直訳すれば「生徒によって先導される会議」という意味のこの懇談会、最大の特徴は、今学期の勉強内容を振り返って総括する司会者が生徒本人であるということ。 　それから、基本的に両親が揃って出席するということも、インターナショナル・スクールの大きな特徴だと思われます（多くの場合、父親は子どものために喜んで時間休暇を取って来ていますね）。 　親はまず、子どもに薦められて椅子に座ります。先生は教室の隅のほうに座っていて、最初に “Hi, Mr. and Mrs. Yamada. Thank you for coming.” という感じで短く挨拶を済ませると、あとは生徒にすべてを任せて黙ってニコニコしているだけ。 　生徒はおもむろにポートフォリオ（書類ばさみ）を取り出すと、 （英語で）「それでは、今学期に私が勉強したことを発表します。まず歴史は、産業革命およびフランス革命について学びました。これが、私が書いた産業革命に関する小論文です。この論文の論旨は……」 という感じに、各教科ごとの学習内容、テスト結果に対する考察（テストの勝因・敗因など）、今学期の反省点、来学期への抱負などなどを、順を追って両親に説明してゆくのです。 　両親は、基本的には子どもの説明を静かに聞いていますが、話が一段落したところで、それまでの説明に対する感想や質問を述べたり、あるいは子どもを激励するなど、要所要所で必要に応じて声をかけます。 　先生は一種のレフリーのような存在で、遠くのほうで微笑みながら話を聞いていますが、万が一話が脱線したり、子どもや親が感情的な言葉遣いをしたような場合にだけ、軌道修正のために一言二言声をかけるのみ。 　大体こんな調子で、普通は30分ほどの時間をかけて子どもが親にレクチャーするのが三者懇談の基本なのですが、この懇談会の最大の長所は、子どもが自分自身の学習内容を自分自身の言葉で第三者に説明することによって、自分が何を学んできたかを客観的に知ることが出来ること。 　それに、子どものスピーチ能力を向上させるためにも、この方法は実に有効です。 　毎学期の終わりに、こうして親と教師の前でスピーチをすることによって、子どもは大人の前でも堂々と、しかもきちんとした言葉遣いで自分の意見を発表できるようになりますから。 　こうした懇談会は、多くの場合、親子の信頼関係を強化するような気もします。 　ちなみに我が家の場合は、SLCが終わった後はそのへんで楽しく外食してから帰宅するのが常ですね。今回は中華料理店でした（笑）。 　もしも小学校高学年〜中学高校の先生で、このページを読んでいらっしゃる方がおられましたら、次回の懇談会には、是非ともこの方法を導入してみてください。 　子ども達が、きっと良い方向に変わると思います。 　日本の子ども達には、もっと逞しく、もっと自立心のある大人に育って欲しいと切に願っています。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年4月23日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年4月17日号(第171号) 鎌倉の春を遊ぶ ※遅らばせながら、「作品」ページに愛知万博オーストラリア館公式ガイドブック『日豪コネクションズ』の紹介を新たに掲載しました。万博に足を運ばれる際は、ぜひオーストラリア館にもお立ち寄りください。 　表千家不白流正師範の荒井宗羅先生のもとで、お茶のお稽古を始めてから約1年半が経ちました。 　お蔭様で、この5月には初めてのお免状（小習免状と申します）も頂けることになり、それに伴うように、ジャジャ〜ン、今週から教室の場所が浅草から鎌倉に変わりました。 　 　拙宅は浅草寺から歩いて10分弱のところにあるので、通い易さという点では圧倒的に浅草教室のほうが便利だったのですが、うちのお教室の場合、何と言ってもメインキャンパスは鎌倉なのです。お稽古の内容も頻度も、鎌倉のほうがワンランク上という感じ。 　そのようなわけで、昨日は鎌倉教室での初めてのお稽古に出席して参りました。 　鎌倉までは、東京から横須賀線で一本です。この時期、週末の横須賀線は観光客などで結構混雑するのですが、グリーン車はガラガラ。 　列車に乗るときはパソコンを開いて仕事をしながら行く私にとって、このスペースと静けさは必需品です。 　しかも、この路線のグリーン車、実は週末だけ料金が割引になるんです。2階建ての車輌は景色もよく、一度乗ったらクセになりますよ〜（笑）。列車の詳しい情報はこちらから。 　で、昨日の話ですが、ちょっと驚いたのはグリーン車に小学5〜6年生と思しき男の子が3人も乗っていたことです。 　無賃乗車というわけではありません。検札に来た車掌さんに、ちゃんとチケットを見せていましたから。 　持ち物から察するに塾からの帰り道らしいこの小学生3人組、乗っていた区間は、なんとたったの3駅だけでした。 　小学生が、塾通いにグリーン車を使う。しかも、たった3駅を普通車輌で我慢できないとは。 　「一体どうなっちゃってるの？」と理由を尋ねてみたいところですが、何よりも気になったのは、この小学生3人の雰囲気が、なんだかひどく年寄りじみていたことでした。 　若いのに、目の下はもう思い切り隈だらけ。早くも人生に疲れ果てているというか、エネルギー残量が限りなくゼロに近いって感じなんですね。 　3人はおしゃべりするわけでもなく、お互い少し離れた席に座って参考書らしき本に見入っていましたけど、猫のように丸まった背中はどう見てもお爺ちゃんのよう。 「受験勉強もいいけれど、体をしっかり鍛えておかないと人生の荒波を泳ぎ切れないわよ、坊や」 って、今度会ったら教えてあげましょうか。 　なにしろ人生は究極のサバイバル・ゲームなんですからね（←経験者は語る（笑））。 　肝心のお茶のお稽古のほうは、浅草から鎌倉に場所が変わったせいか、とっても新鮮でいい感じでした。 　やはり、いつもいつも同じ場所にいるのではなく、時々は場所を変えてみることが大切だなと再認識。場所が変わっただけで、今まで見えなかったものが急に見えてくるということって、多々ありますよね。 　昨日は特別ゲストとして某有名テレビ局のプロデューサー（カナダ人）がいらっしゃっていたため、英会話がポンポン飛び交う楽しいお茶席になりました。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆☆　中　略　☆☆ 　お稽古が終わったあとは、先生やお社中とご一緒に香司 鬼頭天薫堂という老舗のお香屋さんへ。ここで私たちがしたことは、世界にふたつとない私だけの匂い袋をつくることでした。 　簡単に言ってしまえば、何種類かの香木の中から好きな香りをいくつか選び、それらを擂（す）り鉢でよく擂ってミックスし、自分だけの香りを作るということなのですが、それがなかなかどうして、実際にやってみると非常に難しいのです。 　あれは去年の今頃でしたか、やはり鎌倉の鶴岡八幡宮で開かれた聞香の会に出席したときにも思ったことですが、人間の鼻ってヤツは、本当に呆れてしまうほど鈍感なものですよ。 　私のような凡人に至っては、たった2つか3つの香りを試しただけで、じきに鼻が利かなくなり、どれがどの香りだか全くわからなくなってしまうのですから情けない。 　 　ちなみに去年の聞香会での、私の成績は零点でした（汗）。 　このとき優勝した方のお話では、「お酒を召し上がる方は、大抵、聞香のほうは苦手のようでございますわよ。おほほほ…」とのことでしたから、これはもう、おまえには聞香は一生ダメだという烙印を押されたようなものですね（苦笑）。 　そんな私ですが、昨日の場合は、ズラ〜リ並んだ香木の中から好きなものを選び、適量ずつミックスさせなくちゃならないのですから、これはもう、想像しただけでも至難の業。 　去年の苦い経験から、時間が長引くと鼻が利かなくなることがわかっていた私は、今回は思い切って短期決戦で行くことにしました。 　最初に「これだ！」と思った香木だけに焦点を絞り、あとはもう、何があっても絶対に目移りしないという作戦です。 　テーブルの上に用意されていた香木は、白檀、桂皮、丁子、山奈、甘松、龍能。それに、スパイスとして少量だけ加える濃縮植物エッセンス各種も並んでいました。 　最初に、10数種類ある巾着の中から、好きなものを1枚選びます。私は迷わず桜柄をチョイス。 　次は、いよいよ香木選びです。 　長時間かけて香木をじっくり吟味している皆さんを尻目に、私はパッパッパッと香りを聞き（注／この世界で香りは「嗅ぐ」と言わず「聞く」と申します）、桂皮（シナモン）だけに狙いを定めました。 　桂皮の、鋭さと甘さを両方合わせ持つ香りが、今の自分に一番しっくり来ると思ったのですね。 　大匙2杯の桂皮に対して、「隠し味」ならぬ「隠し香」には白檀と丁子を小匙1杯ずつ混ぜ合わせ、これを擂り鉢でじっくり擂ってみたところ、ナントナント、前から欲しかった香りに仕上がったのには、我ながら驚きました。 　これを桜柄の巾着に入れて、匂い袋が完成！ 　所要時間、30分弱。インスタントに平安時代のお姫様気分が味わえる、実に風雅なカルチャー・スクールでございました（笑）。 　昨夜はこれを枕の下に置いて寝てみたのですが、まあ、よく眠れること眠れること！ 　もともと私の辞書に不眠症の文字はないのですが、それにしても昨日の眠りは、ことのほか深かったみたい。これってやっぱり、香木の効果なんでしょうか。 　なお、鬼頭天薫堂では毎月第3木曜日に香りの会を開催しているそうです。ご興味のある方は参加してはいかがでしょう。鬼頭天薫堂のホームページはこちらからご覧いただけます。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年4月17日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年4月9日号(第170号) 恋人に贈りたい肉体のパーツ 　仲良しのお友達で女優の蜷川有紀さんが、監督・脚本・主演の三役をこなした短編映画『バラメラバ』のDVD（＋ノベライズ本）が5月末に発売されることになり、そのプロモーション・フィルム用に、インタビューを受けてきました。 　ところがどっこい、実を言うと、私はまだ肝心の『バラメラバ』を観ていないんです。 　作品を観ないで、いきなりインタビュー?　それで本当にいいの？　とお思いでしょうが、どうやらそれが有紀ちゃんの作戦だったみたい。 「あら〜、いいのよ真美ちゃ〜ん、そのままでいらしてね〜」 と言われ、いそいそ出かけて参りました。 　あとで聞いたところでは、私以外にインタビューを受けた人たちも、誰ひとりとして作品を観ていないんですって！ 　で、気になるインタビューの内容はと言えば、 「『バラメラバ』という言葉から、アナタは何を連想しますか？」 「もしも恋人にアナタの肉体の一部を贈るとしたら、どのパーツをあげますか？」 みたいな感じの、シュールと言うか、ちょっとヘンテコな質問なんです。 　しかも、カメラが回りだしてからイキナリ質問が来るので、前もって答えを考えておく時間はナシ。 　『バラメラバ』という回文の奇妙さもさることながら、質問も奇妙キテレツで、（何なの、これは？！）と思いながらも、結構楽しんで答えてきました（笑）。 　それにしても、恋人にアナタの肉体の一部を贈るとしたら……なんて、意表を突いたナイス（？！）な質問ですよね。 　私の場合は、質問が来てから1秒ほど（うーん）と言葉に詰まったあと、 「目、かな？　目です」 と答えたのですが、そのとき頭の片隅では、（でも、骨も悪くないかも）なんてことを、実は考えていたのでした（笑）。 　「目」という答えは、物語としては神秘的な感じがしますけど、実際に臓器としての眼球を贈られたりしたら、こんな不気味なことはありませんよね。 　それに「目」では、まるで四六時中監視しているみたいで可哀想じゃありませんか。 　「束縛」は、するのもされるのも大嫌いですし、よくよく考えてみたら、「目」という答えはやっぱりアウトですね。 　では現実に肉体のパーツをあげるとしたら、どの部分をあげるか（いいえ、もちろん実際にはあげませんけど（笑））ということになりますと、骨、それも、左の鎖骨をプレゼントしたいというのが、私の本音かも。 　え？　何故「左の鎖骨」か、ですって？ 　それはですね、実を言いますと、私の鎖骨はなんと左右で2倍ほど太さが違うのです（太いのは左のほう）。 　このことは、大学時代にちょっと肩を傷めて外科でレントゲンを撮ってもらった時にたまたま判明したのですが、そのときのお医者さんの発言が傑作でした。 「ほほー！　左右の鎖骨の太さがここまで不均等な人は珍しいですねー。現代人では、まず見かけない鎖骨です。ごく稀に木こりを生業とする人に見受けられますが、まあ、言ってみれば非常に珍しい鎖骨です」 　き、き、木こりに見受けられる非常に珍しい鎖骨？！　　何なんですかそれって？！ 　この話を家族や友達にしたところ、予想以上に大受けに受け、うちの母などはそれから当分のあいだ、私のことを「ウッドカッターさん」と呼んでいたほどでした（注／ウッドカッター＝Wood cutter＝木こり）。 　つまりですね、私の鎖骨は、山田真美という人間の肉体の中で最も強く原始人としての記憶を留めた、きわめて野性的な部分なのです。だから恋人には、やっぱり鎖骨をプレゼントすることにします♪ 　もっとも、「鎖骨」なんか貰って手放しで喜ぶような恋人だったら、それはそれで怖いわけですが（笑）。 　逆に、もしも私が恋人の肉体のパーツを貰うとしたら……いや、別に欲しくはないんですけどね（笑）……、もしも、どうしても貰わなければならないとしたら（そして、どのパーツが欲しいか注文できるとしたら）、 「三半規管をください」 と、リクエストしようと思います。 　その理由は、平衡感覚をつかさどるという三半規管を取り除いてしまったあとの、恋人のよろめき方を見て見たいという、少しばかりアブナイ心理なのかも知れません。 　さて、アナタなら、恋人には肉体のどのパーツをあげますか？ 　ではでは♪ ※前号でお知らせした「コアラ人形プレゼント」には、たくさんのご応募を頂きましてありがとうございました。今回の当選者は、あみだ籤の結果、「りぶ様」に決定いたしました。おめでとうございます♪ 　事事如意 　　　　　2005年4月9日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年3月29日号(第169号) 南半球より愛をこめて（その2） （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　（前号より続く） 　カウラ事件に関する取材のため、今月12日から半月ばかりオーストラリアを訪ねていました。 　今回の旅では、これまで誰も書かなかった新事実を含む、かなり濃厚な取材に成功したのですが、その内容をここで明かしてしまっては面白くありませんから、とりあえず今のところ、そのあたりは企業秘密（笑）ということで。 　詳細は、本の出版（7月予定）までしばしお待ち下さい。 　というわけで今週は、仕事の話は抜きにして、旅の最中に見つけた面白かったものをご紹介したいと思います。 　前号で、メルボルンを走る路面電車「トラム」について書いたところ、多くの皆さんから「トラムって面白そうですね」、「一度乗ってみたい」といった感想をお寄せいただきましたので、まずは大サービスでトラムの写真を3枚追加しちゃいますね。 　メルボルンで一連の仕事を終えたあとは、レンタカーで一路シドニー方面へ。 　途中、戦争捕虜収容所のあったカウラなどを取材して歩きました。 　季節的には夏の終わりだったのですが、内陸のためか厚いコートが必要なほど寒い夜もあったりして、あやうく風邪をひきかけちゃいましたよ〜。 　真冬（8月頃）には零下10度程度まで気温が下がるそうですから、冬真っ盛りの8月5日に脱走事件を起こした旧日本軍の兵隊さんたちは、思えばずいぶんと無茶なことをしたものです。 （ここに写真とその説明が入りますので、詳しくはオリジナル・バージョンをご覧下さい） 　このほかにも、（ここには写真を載せませんでしたが）ほぼ毎日のようにイースター(復活祭)の食事会に招かれたりして、お蔭さまでこの半月ですっかりリフレッシュ＆バッテリー・チャージして、昨日無事に日本に帰って参りました。 　まあ、外国と言っても、オーストラリアと日本の時差はたったの1時間ですし、往復の飛行機とも夜行便を利用すれば寝ているあいだに着いてしまいますから、旅の移動はかなり楽なほうではないでしょうか。 　そんなわけですから、皆さんも是非オーストラリアに行きましょう。 　……って、早くもオーストラリアのスポークスマン化している私って何者（笑）！？ 今回の読者プレゼントは、ごくシンプルにコアラの人形です。片手に載るほど小さなものです。飛行機の座席に座らせると、こんな感じ。1名様に差し上げます。ご希望の方は、「ハンドルネーム」「ご本名」「ご住所・電話番号」を明記の上、3月8日までに boosuke@badboy.co.jp 宛てにメールでご応募下さい（当選者の発表は4月9日更新予定の週刊マミ自身170号で）。たくさんのご応募、お待ちしています♪ 　そうそう、そう言えば、半月前に日本を出発する前は間違いなく私よりも背が低かったはずの息子のNASAが、帰国してみると明らかに私よりも長身になっていたのには本当に驚きました。 　何と言っても、子どもの成長は急激ですからねぇ（しみじみ）。 　これからは息子と外出するたびに、 「あれ？　最近ちょっと背が縮んだんじゃないか？」 とからかわれるであろうことを、今から覚悟しておかなければ……などと思う春の一日（笑）。 　東京はそろそろ桜の季節です。 　北半球と南半球を行き来したために、多少季節感が混乱している私ですが、暫くは日本の春を堪能したいと思います。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年3月29日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年3月22日号(第168号) 南半球より愛をこめて（その1） （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　メルボルンから10日間ほどかけてハイウェイを北東に走り続け、無事シドニーに到着しました。 　休む暇もないハードな旅でしたが、お蔭様で取材のほうは予想以上にはかどっています。 　とは言え「トラベルはトラブル」とはよく言ったもの。今回は旅のしょっぱなにパソコンが壊れるという、今年最大の悲劇に見舞われてしまいました。 　私のパソコンは100ボルトから240ボルトまでの電圧に対応できる型で、海外でも変圧器なしで使えるモデル。これまでも海外取材のたびに活用していました。 　オーストラリアは240ボルトで、これまでの取材旅行では何の問題もなくこのパソコンを使えたのです。 　ところが今回、メルボルンのホテルでパソコンを起動しようとしたところ、突然ギャーギャーという悲鳴のような凄まじい音を立て、パソコンはそのまま昇天してしまったのです（合掌）。 　状況から見て、パソコンに付属している変圧器が何らかの理由で正しく作動せず、240ボルトの電圧が本体にそのまま流れたためにパソコンが電気ショック死したのではないかと思われますが、詳しい故障原因は帰国してサービスセンターで調べてもらわないとわかりません。 　原稿を書こうにも今はパソコンが使えず、少しばかり拍子抜けしているところです。 　なにしろ私の場合、パソコンを打つスピードが手書きの数倍は速いので、頭の中で思ったことを文字に直すのに、手で書いていたのでは全く間に合わないのです（同じ理由で「パソコンでしか原稿が書けない」という人は、世の中に大勢いるのでは？）。 　頭の中には書きたいこと（＝原稿）が溢れているというのに、それを「ダダダダダ……」と勢いよくタイピングできないことが、これほどツライものだとは。 　ああ、早く秋葉原に行って新しいパソコンを買いたい（笑）。 　そんなわけで今回の「週刊マミ自身」は、シドニー市内にある娘の家で、娘のパソコンを借りて書いています。 　あと5分で娘が宿題を始めるので、それまでにパソコンを返さなければ（焦）。 　詳しい旅の報告は次回に譲るとして、今日のところはメルボルンの様子だけを簡単に写真で綴ってみました。 　写真をご覧になって、 「カウラ事件の取材に行ったはずなのに、鉱物学者に逢ったり隕石を見に行ったり、山田真美さん、いつから石の研究を始めたんですか？」 という声が聞こえてきそうですが、そのあたりの事情説明はいずれまたということで（笑）。 　そろそろ娘にパソコンを返す約束の時間なので、この先は次回に続く（笑）。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年3月22日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年3月5日号(第167号) 人生で2度目のオーストラリア・ブーム （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） ※「愛・地球博」オーストラリア館の公式パンフレットに、山田真美が数本のコラムを寄稿しています。宇宙飛行士の毛利さんなど数人の著者との共著です。オーストラリア館に行かれた際は何卒ご高覧ください。 　今週は、シドニーに留学中の娘（LiA）の家が決まり、息子（NASA）が受験してあった某インターナショナル・スクールから合格通知が届くなど、何やら私のまわりで音を立てて新しい時代が幕を開けたような、そんな賑やかで春らしい1週間でした。 　さて突然ですが、私、来週から暫くオーストラリアに行って参ります。 　前にもちょっと書いたかも知れませんが、2006年は、「日豪友好基本条約」署名30周年、「日本在外公館豪州」開設110周年、「豪日交流基金」設立30周年に当たる「日豪交流年」ということで、さまざまな文化交流イベントが行われる予定なんです。 　で、若い頃からオーストラリアとの深いお付き合いがある私にも、「ぜひ一肌脱いでくれないか」と白羽の矢が立ったわけなのですよ。 　そんなわけで今週は、オーストラリア大使館、州政府観光局、それに外務省などを毎日のように訪問し、次なるプロジェクトの詳細な打ち合わせをして参りました。 　プロジェクトの内容は、まだ今の段階ではお知らせできませんが、もう少し話が進んだ頃にこのページで概要を発表したいと思います。 　今年の7月には、カウラ事件をテーマとした新刊出版の予定もありますので、大きな目で見ると、私の中では今年が既に「プレ・オーストラリア・イヤー」と呼べるものになるのかも知れません。 　そのうえ今年からは、娘もあっちへ行っていますからね。何かと便利です（笑）。 　シドニーにおける娘の立場は、大学生であると同時に、ある意味、山田家が派遣した親善大使みたいなものなんですよ。 　何しろあの子の名前はオーストラLiAに因んでつけられたのですし、きっと最初からご縁があるのでしょう。 　その昔、私が留学していた頃のオーストラリアは、おおかたの日本人にとって「南半球のどこかにある、コアラとカンガルーの国」に過ぎませんでした。 　私の留学を知った何人かの知人からは、「どうせ行くなら、そんなマイナーな国じゃなく、アメリカとかイギリスみたいなメジャーな国にすればいいのに」なんて、ずいぶんとまあ失礼なことを言われたものです（苦笑）。 　でも本当のことを言えば、私が学んでいたマッコウクジラの回遊研究の分野で、シドニーは当時、アメリカのカリフォルニア、南アフリカのケープタウンと並ぶ、世界の三大研究メッカだったんですよ（それだけ優秀な研究者／教授が、シドニーにはいらっしゃったわけなんです）。 　歳月は流れ、今やオーストラリアは、日本人にとってハネムーンとワーキングホリデーの定番の地。 　永住希望者も年々少しずつ増えているということで、古くからのオーストラリア・ファンとしては、とりあえずは同慶の至りであります。 　さて、来週からのオーストラリア訪問ですが、具体的にはメルボルンから同国に入り、幾つかミーティング。 　ここから先はレンタカー（日本と同じ左側通行なので運転はメチャ楽）で、かつて戦争捕虜収容所があったカウラを含む内陸のいくつかの街を取材したあと、首都キャンベラに向かいます。 　キャンベラでは細かな調べ物と、幾つかのパーティーが待っています。 　なにしろキャンベラは政治の街ですからね。大使館もすべてここに集まっていますし、2〜3枚は夏用のパーティー・ドレスを持って行かなくては。 　そのあとは一路、シドニーへGO！　ここではもちろん、娘（LiA）のところに暫く泊まります。 　大体のスケジュールは、こんな感じになりそうです。 　余談ですが、この「メルボルン」と「シドニー」は、かつて激しい首都争いをしたことで有名な地なんですよ。 　どちらも「自分たちこそが首都にふさわしい」と主張してやまず、このままでは国が二分してしまいそうな騒ぎになったため、地図上のメルボルンとシドニーの間に直線を引き、そのちょうど中間に当たる地点を首都に決めたんですって。 　それが現在の首都キャンベラなのですが、なにしろ、何もないド田舎だったところを、無理やり首都に作り上げただけあって、なんというか、すべてがどこか人工的な計画都市ではあります。 　いずれにしても、今回はメルボルンからキャンベラまで連日のように打ち合わせと取材、それにロングドライブ（何しろ、とんでもなく広い国ですから）と、例によってハードな旅になりそうです。 　その代わり、最終目的地のシドニーに着いたら、ゆっくりヴァカンスする予定（笑）。 　娘が大学に行っている間は娘の家で原稿を書き、娘が大学から帰ってきたら一緒にお料理をしたり、買い物をしたり、パブで飲んだり、取り壊しになるはずが市民の嘆願で閉園を免れた「ルナ・パーク」（古い古い遊園地）に遊びに行ったり、はたまた人生を語ったり（笑）と、のんびり楽しく南半球の夏を楽しもうと思っています。 　あっ、それで思い出した。水着とゴーグルと日焼け止めも忘れずに持参しなければ！ 　というわけで、この次の「週刊マミ自身」更新は、娘のところからになると思います。 　もっとも、いつシドニーに辿り着けるか、正確な日にちは定かでないので、「何月何日更新」とお約束はできないのですが。たぶん今から2週間後、あるいはそれ以降になるかと思います。 　もしもお時間がありましたら、その頃にまたこのページへ遊びにいらっしゃってください♪ 　さて。 　前号でお約束した逆バースデー・プレゼントですが、実はあれから色々と考えた末、今回は、次の私の大好きな遊園地「ナムコ・ナンジャタウン」のフリーパス（2名様分）をお贈りすることにしました♪ 　オマケに、山田真美が特集された月刊「KARNA」4月号も付けちゃいます（笑）。 　ナムコ・ナンジャタウンは超有名なので、私から説明する必要はないかも知れませんが、公式サイトはこちらです。念のため。 　尚、このフリーパスには有効期限がありませんので、この世にナンジャタウンが存在する限り、おそらくいつでも使えるのだと思います。 　今回は、「誕生日かそれ以前に応募してくださった人を優先的に選びます」とお伝えしておいたところ、誕生日前日と当日にたくさんのご応募があって、嬉しい悲鳴。 　果たしてその中の、どなたに逆プレゼントを差し上げたらいいのか？ （選び方は阿弥陀くじ？　それともお名前を書いた紙をシャッフルする？）など考えたのですが、今回は、第三者に当選者を決めてもらうことにしました。 　誕生日にお夕食をご馳走して下さった編集者の芝田さんに、「申し訳ありませんが、芝田さんが決めてくださいません？」とお願いしたところ、すかさず 「それでは、2月27日に届いたメールのうち早いほうから3番目の方を当選者としましょう」 という答えが返ってきました。 　そこで、いただいたメールを到着時間順にチェックした結果、今回の逆バースデー・プレゼント当選者は、東京都在住のRica様に決定いたしました。 　おめでとうございます♪　Rica様には、一両日中に賞品を郵送させていただきますので、何卒ご笑納ください。 　また、今回は選に漏れてしまった方、本当にごめんなさい。 　すべてのメールは、嬉しく楽しく読ませていただきました。この場をお借りして、心からお礼申し上げます。 　オーストラリアからもお土産を持ってきますから、次回もまたチャレンジしてくださいね。 　それでは皆さま、風邪にも負けず花粉症にも負けず、今週も素敵なウィークエンドを。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年3月5日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年2月26日号(第166号) 雪かきの肩凝りを音楽で治す （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） ※2月28日更新「ほぼ日刊イトイ新聞」（http://www.1101.com/）の「担当編集者は知っている」コーナーで、『死との対話』が紹介されました。 　3泊4日で信州の山小屋に行って来ました。 　うちの山小屋がある辺りは、もともと日本有数の豪雪地帯として知られているのですが、今年は特に21年ぶりの豪雪ということで、見渡す限りどこもかしこも雪だらけ。 　実はですね、これは去年の暮れのことですが、雪上車を入れておくための車庫がナント雪の重みで潰れてしまったんですよ。 　しかも、それを修理する時間もなかった私たちは、お正月休みが明けて東京に戻るときに、仕方なく雪上車を屋外に放置して来たのでした。 　そんな経緯があったので、今回はまず雪に埋まった雪上車を掘り出すという、あまりにもナンセンスな作業のために、恐ろしくタイヘンな手間がかかってしまいました。 　ところが、雪上車を停めて置いた場所に行ってみると、そこには車の影も形も見えないじゃありませんか。 　ただ、真っ白な雪原の一箇所がちょこっと膨らんでいるのです。もしやと思い、スコップで雪の膨らみを取り除いてみると、案の定、その下から雪上車の頭の部分が出現しました。 　雪上車は、想像していたよりも深く埋まってしまった様子。 　しかも、どうやら一連の大雪の後で雨が降ったらしく、一帯はどこもかしこも凍りついて、雪と言うよりはカチカチの氷雪って感じなのです。 　あまりの硬さに、ついにバキッという音とともに、手持ちのスコップが壊れてしまいました（涙）。 　替わりのスコップを買おうにも、なにしろそこは山の中。「商店」なんて便利なものはありません。 　仕方がないので、3キロほど離れた知人の家からスコップを借りてきて、さらに掘って掘って掘りまくりました。 　そんなこんなで雪上車を救出することは出来たのですが、このあとも山小屋周辺の雪片付けetc.の肉体労働が続き、4日間で肩がガチガチに凝ってしまいました。 　山小屋での用事を済ませて東京に戻る頃には、大袈裟ではなく、もう首も回らないほど。 （こんなとき、シンガポールのリン先生が近くにいてくれたら……）と思ってみても、シンガポールはあまりに遠し。 ※シンガポールのリン（林）先生＝世界的に有名な指圧と整体の大家。世界中のVIPが、仕事や休暇でシンガポールに行くと、こぞってリン先生のお世話になっているそうです。私も一度だけ揉んで頂いたことがありますが、嘘のように凝りが取れました。 　そんな重症の肩凝りのまま東京にとんぼ返りした私は、休む間もなく、その足で港区にある中国大使館へ……。 　前々からご招待されていた、雅楽師の東儀秀樹さんがプロデュースする「TOGI＋BAO」のお披露目コンサートを聴いて参りました。 　「TOGI＋BAO」とは、東儀さん（TOGI）と、上海民族楽団で活躍する若手伝統ミュージシャン6人（BAO）という、伝統音楽を熟知しながらも「今」という時代をライブで生きる7人から成るアジア音楽の新ユニット。 　この日は、今月23日にリリースされたばかりのCD「春色彩華」の中から、「春色彩華」「大河悠久」（共に東儀秀樹・作曲）などを演奏してくださいましたが、どちらも一度聴いたら忘れられない味のある曲で、ベースにある伝統音楽の凄さをまざまざと感じさせてくれるものでした。 　ちなみに「BAO」は「豹」の中国読みだそうです。 　会場が中国大使館ということもあって、集まった人は何らかの関係者ばかり（主賓は高円宮久子妃殿下）。和気藹々としてアットホームなミニコンサートとなりました。 　コンサート終了後は、東儀さんたちを交えての飲茶パーティー。 　東儀さんには、雅楽のことで前々からお話を伺いたいと思っていることもありますので、 「いずれ取材に伺うことがあるかも知れませんが、その節はどうぞ宜しくお願いいたします」 と直接お願いしてみたところ、 「わかりました。こちらこそ、どうぞ宜しくお願いいたします」と、実に深々と頭をお下げになるんです。 　とても腰の低い、上品で物静かな方でした。 　「TOGI＋BAO」の音楽を聴いて、だいぶ気分がリラックスしてきた私は、その足でさらに新橋駅近くの内幸町ホールへ。 　そうなんです。この日はスケジュールの関係で、なんとコンサートを2つもハシゴすることになってしまったのです。 　2つ目のコンサートは、尺八奏者（東京芸大教授）で人間国宝の山本邦山先生がジャズミュージシャンと競演する、題して「夢・音舞台〜ドリーム・オン・ステージ」。 　「人間国宝」と「ジャズ」という組み合わせも過激なら、演奏曲目も「ミスティー」「スカボロ・フェア」「テイク・ファイブ」……と、何から何までおよそ尺八っぽくないんです。 　邦山先生は、仰々しい紋付袴ではなく、黒っぽいハイネックのシャツの上にラフなジャケットを羽織って登場。ステージの上では冗談をポンポン連発なさるし、 （えっ、人間国宝の大先生が、こんなことまでしちゃって本当にいいんですか！？） と呆気に取られるほどの、前代未聞の驚きに満ち溢れた2時間でした（さらに休憩時間にはワインの無料サービスまであったりして、もう至れり尽せり）。 　ちなみにこの夜、邦山先生と競演なさったのは、ピアノの佐藤允彦さんとベースの坂井紅介さん。共に超一流のジャズメンです。 　実は、この夜のコンサート中に、私はこれまでの人生でかつて一度も味わったことのない不思議な経験をしました。 　というのは、邦山先生がステージに立って最初の音を出された、まさにその瞬間、何かがスーッとからだに沁み込んでくるような優しい感覚があって、一曲終わる頃には、肩凝りが半分ぐらいに軽減されていたのです。 　自分でも「あれっ？」と不思議に思いましたが、とても気持ちが良く、その感じはコンサートが進むにつれてますます本格的になり、最後の曲が終わる頃には、私の肩凝りはほぼ全快していたのです。 　これは「音楽によって心が癒されたような気がする」というような比喩的な意味では決してなく、肩凝りによる痛みが本当に消えてしまったのです。 　さすがは芸の頂点を極められた邦山先生のこと。その音には、何かとんでもない秘密が隠されているのでしょう。 　しかも、尺八は竹で出来ていますからね。 　竹という植物からは、強い「気」というか、バイブレーションのようなものが出ていることを、私は竹林に行くたびにハッキリと感じるのですが、竹から発する「音」にも、きっと何か特別なバイブレーションがあるのではないでしょうか。 　それにしても、この次に邦山先生にお目にかかったら、「肩凝りを治してくださって、どうもありがとうございました」と真っ先にお礼を言わなければいけませんね。 　そして次回からは、シンガポールのリン先生ではなく、肩凝り治療には邦山先生の尺八と心に決めた私なのでした（笑）。 　そんなわけで、雪かき→重度の肩凝り→雅楽→尺八→肩凝り完治という、まさに波乱万丈（笑）の1週間も終え、いよいよ明日（27日）は誕生日。 　今年はちょっと趣向を変えまして、日頃お世話になっている読者の皆さまのうち、抽選で1名さまに逆バースデー・プレゼントを差し上げたいと思います。 　逆プレゼントの中身はヒミツですが、老若男女のどなたにも喜んでいただけて、なおかつマミリン・ムード全開（笑）の品を考えております。 　希望者の方は、「逆バースデー・プレゼント希望」と明記の上、「�@お名前、�Aハンドルネーム（HP上で公開）、�Bご住所、�C山田真美へのメッセージ」を3月4日（金）までに、boosuke@badboy.co.jp宛に、メールでご応募ください。 　誕生日当日（またはそれ以前）に到着したメールを優先的に当選させたいと思いますので、ご応募はお早めにどうぞ♪ 　それでは、皆さまも良い週末をお過ごしください。ではでは♪ ＜追伸＞シドニーに留学中のLiAは、2月26日現在、いまだに家探しに奮戦している模様。来週こそ良いニュースを報告できますよう、皆さまもどうか祈ってあげてくださいネ。 　事事如意 　　　　　2005年2月26日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年2月20日号(第165号) 娘の“ちいさいおうち”探し ※2月22日発売の「KARNA」4月号に、山田真美のロングインタビュー記事が掲載されます。インドで暮らすようになった経緯が詳しく語られているほか、私自身が撮影したインドの写真も満載。お見逃しなく！ ※3月1日発売のJA（農協）の月刊誌「家の光」4月号に、山田真美の書き下ろしエッセイ「カンガルーの仔」が掲載されます。オーストラリア留学時代のカンガルー育児体験を綴ってみました。 ※3月13日発売の「NHK英語でしゃべらナイト」4月号「カリスマ先生が明かす英語が上達する人、しない人」コーナーに「山田式英語上達法」が紹介されます。英語学習中の方は是非、参考にしてくださいネ♪ 　「誕生日まであと1週間」などと指折り数えて喜んでいる、いくつになってもオメデタイ私です。 　今年の誕生日には、前々から是非とも観たいと思っていた「道成寺」のお能に招待して頂くことになっておりまして、今からそれはもう楽しみにしているんですよ。 　このように、文字どおり能天気な私ですが、実は、今までの人生でたった一度だけ、「ああ、誕生日が来てしまった。私はもう若くない！」と、かなり落ち込んだことがありました（今の私からは信じられないことですが……）。 　忘れもしない、あれは16歳の誕生日のことでした。 　16歳になったその朝、「今日からは、もう若くはないのだ」と愕然とする気持ちが、出し抜けに、まったく何の前触れもなく私を襲いかかったのです。 　あれは一体、どういう感情だったのでしょう。 　世にいう「青春真っ盛り」の女の子が、若い身空で、何故「もう若くない」なんてことを唐突に思わなければならなかったのか……。 　理由は今以てよくわからないのですが、幼い頃から「形あるものはいつか壊れる」という思いの強かった私は、肉体の若さとか容姿の美しさのようなものには、もともとひどく懐疑的だったのかも知れません。 　そして興味深いことに、「もう若くないんだ」と観念したあと、つまり16歳の誕生日以降の私は、年をとってゆくことに抵抗がなくなってしまったんですね。 　それ以来、私にとって16歳以上の人は、20歳も40歳も60歳も80歳も100歳もすべて「オトナ」ということで、一律同じ（笑）。 　生きている限り、誰しも平等に年をとり続けるのですものね。どうせ年をとるのなら、それを目一杯楽しんだほうが幸せ。 　というわけで、私は今年も喜んで年をとりますよ。誕生日バンザーイ（笑）。 　のっけからいきなり話が脱線してしまいましたが、先週はミーティングに次ぐミーティング、食事会に次ぐ食事会と、またしても忙しい1週間でした。 　この間にお目にかかったのは、戦争のことなら何でも知っている軍事専門家の先生、カウラ事件の関係者、海外から来日中のVIP、それに大学の先生などなど。 　各分野で活躍する方々にお逢いし、貴重なお話を伺い、またしても「あっ」と言う間に7日間が終わっていたという感じです。 　しかも、その忙しさの合間を縫って、シドニーに留学したばかりの娘のLiAとは、なんと毎日平均2時間もチャットをしていました。 　娘は現在、テレビのドキュメンタリー番組を制作する映像プロダクションを経営する親しい友人（私と同年輩のオーストラリア人夫妻）のお宅に泊めていただいておりまして、そこを拠点に、毎日アパート探しに奔走しているのです。 　大学の授業が始まるまでには、まだ何日かあるので、それまでには家も見つかって娘も落ち着くことでしょう。 　オーストラリアというところは、「心配しなくても、まあなんとかなるさ」という、いわゆるケ・セラ・セラ的な雰囲気が全土に漂っているんですね。 　だからこそ私も安心して、娘のアパート探しを遠くから見守っていられるわけですから、本当にありがたいことです。 　娘から昨日入った最新報告によりますと、アパートを借りるのと同じ予算内で、小さいけれどなかなかムードのあるテラスハウスを見つけたとのこと。 　テラスハウスとは、一戸ずつに庭の付いたオシャレな長屋のことで、この手の建築物はシドニーではかなりポピュラーです。 　娘から家の写真が送られてきたのですが、なんとそれが、子どもの頃大好きだった絵本「ちいさいおうち」（原作のタイトルは“The Little House”）に登場する、あのノスタルジックで素朴な家と、雰囲気がどことなく似ているではありませんか！　（絵本「ちいさいおうち」の表紙はこちら） 　「紅茶とビスケットが似合う家」とでも形容したいような、何とも温かい小さな家なのです。 　写真しか見ていない私までが、すっかりこの家に一目惚れしてしまいました（周囲に高層ビルが一切ないこともポイント高し）。 　あの家なら、私が寝泊まりするスペースも十分ありそうだし（笑）。借りられるといいな。 　ちなみに、私がシドニー留学時代（1982〜83年）に借りて住んでいた1LDKは、4階建てアパートの3階にありました。 　何の変哲もない、家具もまばらな安アパートでしたが、窓からは遠く紺碧の南太平洋を眺望できて、あれはまさに最高の“借景”でしたね。 　それに、巨大なベッドルーム（キングサイズのベッド付き）＋巨大なリビングルーム＋キッチン＋バスルーム（これまた巨大な浴槽付き）＋バルコニーという間取りは、ひとり暮らしの学生には広すぎるほどだだっ広く、使い切れないほど。 　さすがは日本の22倍の国土面積を持つオーストラリアだけのことはあると、ひどく感心した覚えがあります。 　もうひとつ面白いのは、向こうでは家賃を「月額」ではなく「週額」で提示するんですよ。 　これなどは、日本人に比べて気軽に引越しするオーストラリア人の習性を物語っているような気がします。 　それに「敷金」の制度もありませんし、とりあえず家具を買う予定のない人は“Fully Furnished（家具一切付き）”の部屋を借りればいいのですし、要するに、かなり気楽に引越しが出来るってこと。 　この次の「週刊マミ自身」を更新する頃までには、きっと娘の居場所も決まっていることでしょう。 　果たして「ちいさいおうち」が借りられますかどうか、結末は次号に続く。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年2月20日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年2月12日号(第164号) 旅立ちの日 （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　昨年6月に横浜インターナショナル・スクールを卒業した娘のLiAが、今週の水曜日、無事に留学先のオーストラリアに向かって旅立って行きました。 　日本ではあまり知られていないことですが、アメリカやイギリスなどと違って、オーストラリアは2月に一学期がスタートするのです。 　そのため期せずしてLiAには、ハイスクールを卒業してから実に8ヶ月もの自由時間が与えられたわけですが、このことは彼女にとっては勿論、家族にとっても素晴らしい機会だったと思います。 　だって、こんなにのんびりしたロング・バケーションなんて、人生の中でそうそう無いのでは？ 　この8ヶ月の間に、LiAは一人旅をしたり、絵の個展を開いたり、運転免許を取得したり、はたまた英語のインタビュアーやテレビ番組のエキストラや巫女さんといったアルバイトをしたり……。 　こんなに有意義な道草を食えたことは、人生全体の中で大きな意味があったのではないかと思うのです。 　水曜日は家族全員で成田空港まで見送りに行き、「明日からは毎日チャットしようね〜」「夏には皆で遊びに行くよ〜」と、それはもう賑やかに送り出しました。 　　 　それにしても、アレです。 　親の勝手な感想を言わせて頂けるならば、娘がみずから選んだ留学先がオーストラリアで本当に良かったなぁと思うことしきり（しみじみ）。 　なにしろ、オーストラリアと言えば、20ン年前に私自身が留学していた国です。 　国民性や町の様子などもよくわかっていますし、今も付き合いのある友達が100人以上います。いざという時は、きっと彼らが娘のことをヘルプしてくれるでしょう。 　そのうえ治安は良いし、食べ物は美味しいし、地震は少ないし、日本国内の知らない町に行かれるよりも、オーストラリアに行って貰ったほうが、むしろ安心なぐらい。 　……というわけで、娘が同じ家の中にいなくなったのはそりゃあ淋しいけれど、私はそれ以上に心底ホッとしているわけなのですよ。 　そう言えば、日本ではまだ飲酒ができない年齢のLiA（19歳）ですが、オーストラリアでは18歳から飲酒が合法。 　良かったネ、LiA（笑） 　この次に逢うときは、娘と一緒にパブで飲むぞ〜と目論む不良母マミリンなのでした。 　そんなわけで、今週は何かとドタバタしていたのですが、その間隙を縫うようにして、いくつかの楽しいイベントにも参加してきました。 　まず日曜日は、浅草寺日音院にてお茶のお稽古。早春の茶趣と題して、お濃茶を勉強して参りました。 　いつものお社中に加え、浅草にある老舗の天麩羅屋さんのご主人も飛び入り参加なさって、今回はいつになく春らしく賑やかなお席でした。 　続く月曜日は、古いお付き合いのある信濃毎日新聞社常務取締役の猪股征一さんと、猪股さんのお弟子さんに当たる東大生4人との食事会。 　この食事会の趣旨はと申しますと、来月初めてインドへ遊びに行くことになった4人のために、何か旅のアドバイスを、ということで私が呼ばれたのですが、私が教えてあげられるのは、普通のガイドブックには載っていない、アブナイ裏情報ばかり（汗）。 「ニューデリーでは電気水道料の65％が永遠に未納である（＝真面目に払っている人がバカみたい）」とか、 「インドでは騙した人間より騙された人間のほうが悪い」とか、 「インドはお金を出せば買えないものはない国で、たとえば博士号さえ簡単に買えるので、インド人の名刺に刷ってある内容を何もかも間に受けてはダメ」とか、 「タクシー代をボラれた日本人学生がお金を取り返しに行って殺され、バラバラ死体をニューデリーのドブ川に流されたという悲惨な実例があるので、たとえ騙されたと思っても授業料だと思い、ボラれたお金のことはあきらめろ」とか、 「インド人は（特に田舎では）貞操観念が強いので、不倫なんかすると首を切り落とされる場合もあるから注意せよ」 といった恐ろしい話ばかりしてきました（笑）。 　勿論、ごく普通のツーリストとして行動する分には、そのような事態に遭遇する可能性はまずないのですが、好奇心が強く、言葉が出来て通訳やガイドを必要としない人は、結構平気でそういう危険ゾーンに足を踏み入れたりするもの。 （そして、非常〜に厄介なことには、そういうアブナイ目に遭わない限り本当のインドは見えてこないのですねぇ） 　ただし、宗教心が強いこともあって、インド庶民の大多数は根はいい人たちです。 　そのあとに何が起こるかは、みずからの運命というか、インド的に解釈すればカルマ次第ってことなのですが。 　※無事にインドから戻れたら、是非とも浅草で帰朝報告会をやろうネ♪　＞東大生4人組へ。 　木曜日は、東京芸術大学邦楽科教授（尺八奏者）で人間国宝の山本邦山先生にお目にかかり、来年予定している大きな文化プロジェクトについてご相談。 　終了後はその足で、オーストラリア政府観光局へ。2005年に予定される日豪友好年に絡んだプロジェクトを打ち合わせて参りました。 　そんなこんなで、今週も「あっ」と言う間に終わり。 　来週は、パプア・ニューギニアのソマレ首相と東京でお目にかかったり、カウラ事件関係者を取材に出かけたりと、またまた忙しい1週間になりそうです。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年2月12日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年2月5日号(第163号) 普段しないことをしてみる （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　長野から母と姪が1泊2日で遊びに来てくれたので、2日間だけ仕事を完全オフにし、いよいよ来週から留学する娘のLiAと4人で遊んで来ました。 　「どこに行きたい？」「何をしたい？」と尋ねると、母と姪からの返事は「特に希望はないので、すべてお任せします」。 　それならば、というわけで、今回はみんなが普段行かないような場所へ行き、普段しないようなことをすることにしました。 　まずは、母が「そう言えば、もう何年も行っていないかも」という横浜まで足を伸ばして、中華街の散策をスタート。 　私の母はちょっと浮世離れしているというか、ユニークなところがありまして、一言でいえば「エンゲル係数の高い人」（笑）。 　決してお金持ちでもないのに、食べ物には非常に景気よくパッパッとお金を使うんですね。 　話ついでに言いますと、私の実家は、エンゲル係数もそうですが、それ以上に、収入全体に占める書籍代の割合も高い家でした。 　図書館の本を借りてくると、父から「いい本はお金を出して本屋で買い、時間にとらわれずじっくりと読みなさい」なんて小言を言われましたから。 　「本代と飲食費は惜しまない」というのが、もしかしたら実家の家訓と言うか、不文律だったかも知れません。 　そんなわけで、母は横浜の中華街と言えば、これまで高級店にしか入ったことのなかった人。 　今回は、あえて表通りからちょっと離れたところにあるワンコイン中華料理店（一皿500円で中華料理が楽しめる店）に連れて行きました。 　ここは偶然に発見した店なのですが、お味のほうはと言えば、一皿たったの500円であることが申し訳ないほどの美味しさ。 　私たちが食事をしていると、あとからドヤドヤと入って来た団体さんが、いきなりご主人に向かって「安い店って、ここのこと？」なんて聞いていましたから、もしかすると結構な有名店なのかも知れません。 （ゴメンナサイ。肝心のお店の名前と住所が書かれた紙を、どこかへしまい込んでしまいました。見つかり次第、「オススメBar」のほうで紹介しますね） 　中華料理のあとは、娘も私も前から存在は知っていたけれど、まだ一度も行ったことがなかった横濱カレーミュージアムへGO！　母と姪にとっても、もちろんこれが初訪問です。 　横濱カレーミュージアムは、大きなゲーセンの最上階（7階、8階）にありまして、複数のカレー屋さんや、珍しいカレー関連商品を販売するショップ、さらには昔のカレーのテレビコマーシャルやパッケージなどが見られる小さなコーナーが一緒になった、いわゆるテーマパークっぽいノリのカレー屋さん。 　個人的には昔のテレビコマーシャルを上映しているコーナーが面白くて、「ヒデキ感激」「3分間待つのだぞ」「インド人もビックリ」などの懐かしいシーンを、笑いながら全部見てしまいました。 　ちなみに、どのCMに反応するかで年齢がバレバレになりますので、くれぐれもご注意ください。 　なお、上に挙げた3つのＣＭのうちひとつでもわかった人は、もう若くないと思います（笑）。 　カレーミュージアムを出てひとつ階を下りると、そこはゲームセンター。 　「たまにはゲームもいいんじゃない？」ということになりまして、近頃LiAと私がハマっている全国オンライン・クイズゲーム「クイズマジックアカデミー2」に全員で挑戦することに。 　このクイズは、スクリーン上にさまざまなジャンルの問題が刻々と映し出されるのですが、その解答形式も○×式、四択式、タイピング式など種々さまざま。要は、それらの問題に一定時間内に答えれば良いのです。 　このクイズの面白いところは、全国のゲームセンターで同じ時にクイズに挑戦している人たち16人がオンラインで対戦できること。 　彼らに勝つごとに、見習い魔術師→初級魔術師→中級魔術師→上級魔術師……と級が上がってゆく仕組みになっています。 　うちの母という人は、私が子どもだった頃はかなり厳しいところがありました。 　漫画とかテレビ番組にも検閲制度（笑）があって、母がダメと判断したものはすべて禁止。 　そうやって不幸にも検閲にかかってしまった楳図かずお漫画を全部捨てられたことは、前にも書いたとおりです（嗚呼、かえすがえすももったいない）。 　「ゲーセン」なんてものは当時は存在しませんでしたが、仮にあったとしても、立ち入り厳禁を申し渡されたであろうことは火を見るより明らかなのです。 　そんな母ですから、ゲーセンで遊ぶのはおそらく今回が生まれて初めてだったと思うのです。 　当然、初戦敗退するだろうと高をくくっていたのですが、驚いたことに第一問目からサッサと答えて正解連発。 　しかも、スクリーン上の小さな文字も楽勝で見えているんです（※母は72歳の今も老眼鏡なしで本を読めるのです。これには、インド人でなくてもビックリ）。 　あの分だと、母にはまだまだ未知数の可能性が秘められているのかも知れません。頑張れ、母。 　その翌日は、姪が「洋服や小物を見たい」ということでファッションビルに向かいました。 　しかし、朝食抜きだったLiAが、道の途中でもう歩けないほどの空腹状態（苦笑）に陥り、まずは食事をすることに。 　ところがマズイことに、私達が入ったレストランのすぐお隣は、なんとカラオケボックスじゃありませんか。 　カラオケ嫌いな私は、最初から何かイヤ〜な予感がしていたのですが、案の定ほかの3人は、「ねえねえ、カラオケしない？」「あっ、いいわねえ」「賛成！」とか言って、既にかなり盛り上がっています。 　内心（ガーン。マジですか？）とは思ったものの、反対しようにも3対1では多勢に無勢。 　こうして私も何年ぶりかで、禁断の（？）カラオケ屋さんに足を踏み入れることに相成ったのであります。ジャジャジャーン。 　まあ、カラオケはまさに歌う阿呆に聞く阿呆の世界ですからね。なんだかんだ言っても、楽しんじゃった者の勝ち。 　というわけで私には珍しく、本当〜に珍しく、この日は色々な曲をカラオケで熱唱してきました。私がどんな歌を歌ったかと言いますと…… ♪　UFO（ピンクレディー）：勢いに乗るためには、最初はやっぱり派手な歌を歌わないと。 ♪　遥かなる影（Close to You）（カーペンターズ）：大好きな曲。でも非常に難しいです。 ♪　Behind the Mask（YMO）：ものすごく歌いにくい曲です。これをカラオケにするのは、かなり無理。 ♪　恐竜戦隊ジュウレンジャーのテーマ：アイドル時代のチバレイが、この番組でピンクのプテラレンジャー「メイ」を演じていました（懐）。 ♪　カスバの女：亡き父の十八番（オハコ）だった曲。ハッキリ言って、父がこれ以外の歌を歌っている姿は考えられません。 ♪　花の首飾り（ザ・タイガース）：私が小学校低学年の頃（？）に大ヒットしていました。でも今回ちゃんと歌ってみると、歌詞もメロディーも結構暗いんですね。いきなり「野辺」だの「ひな菊」だの登場して、お葬式の歌かと思いましたよ。 ♪　天才バカボン：「それでいいのだ〜」で超有名な曲ですが、3番以降の歌詞があるなんてご存知でした？　ちなみに6番は、「バカでなくてもバカなのだ。それが天才だ。それでいいのだ〜。それでいいのだ〜」という、ほぼ悟りの境地に達したと思われる歌詞（爆）。 ♪　キャンディーズ・メドレー（キャンディーズ）：ちなみに私はランちゃんのファンでした。 ♪　どうにもとまらない（山本リンダ）：LiAと一緒に歌いました。私はマイク持ったまま踊りながら歌ってしまった。 ♪　また逢う日まで（尾崎喜代彦）：高音部のキーがメチャ高いです。相当のヴォーカリストでないと、この曲は歌いこなせない？！ ♪　モンキー・マジック（ゴダイゴ）：故・夏目雅子さんが美しい三蔵法師を演じた「西遊記」のテーマソング。これも大好きな曲。ちなみにゴダイゴのヴォーカル、タケカワユキヒデさんとは、某インターナショナルスクールのPTAでご一緒でした。 　……ほかにもまだまだ歌ったような気がしますが、あまりたくさん歌いすぎて、これ以上は思い出せません（我ながら驚愕です）。 　けれども、この日歌った全ての曲の中で最高に盛り上がったのは……、そうです。 　長野県人ならゼッタイに誰でも歌える（＝歌えない長野県人はモグリ）と断言しても過言ではない、長野県歌「信濃の国」。 　これを1番から6番までフルで、しかも高音部と低音部にしっかり別れて熱唱してしまいました。 　このシチュエーション、他県の人がいたらかなり盛り下がることでしょうが、なにせ今日の4人は全員が長野県人。 　場はとてつもなく盛り上がり、とてもカラオケとは思えないような大合唱になりました。 　長野県バンザ〜イ（笑）！ 　それにしても、たまには普段やらないことをやってみるのもいいものですネ。嫌いだったカラオケも、これからは機会を作って練習してみるかも知れません。 　まずは、飲み会でいきなり指名されたときにサッと歌えて、みんなを「オォ〜！」と驚かすことが出来るような十八番を作らねばと思います。 　本格カラオケデビューは、またその後ということで（笑）。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年2月5日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年1月30日号(第162号) 金澤さんの死 　カウラ戦争捕虜収容所のキャンプリーダーで、史上最大の捕虜脱走事件「カウラ事件」の首謀者とされた金澤亮さんが、先ごろ88歳でこの世を去りました。 　『生きて虜囚の辱めを受けず』を邦訳したことがご縁で、約10年前から金澤さんとお付き合いをさせて頂いてきた私は、突然の訃報に接し、「これで歴史の貴重な一ページが完全に封印されてしまったのだ」という、なんとも形容しがたい想いに浸っています。 　亡くなる1ヶ月ほど前、金澤さんは、事件から60年後の現在の暮らしぶり（健康状態など）を切々と綴った長文の手紙を私にくださいました。 　金澤さんはお耳が遠くなられていたため、電話でお話することは不可能で、ここ暫くはお手紙が中心の交流になっていたのです。 　最後に頂いたお手紙は、文章も文字もしっかりしておられ、1ヶ月後に迫っていた死の匂いを微塵も感じさせません。 　私は、「過酷な中国戦線を生き残り、231名の死者を出したカウラ暴動さえ生き残った金澤さんだもの、きっと100歳まで生きてくれる」と、心のどこかで“不死身の金澤亮”に期待していたような気がします。 　春になったら一緒にお花見をしようという約束を、何の疑いもなく信じ、心から楽しみにしていたのです。 　カウラ事件の関係者は、この3ヶ月のあいだに、実は私が知っているだけでも3人が高齢のために亡くなりました。 　10月16日に水戸でお目にかかった陸軍士官のＳさんも、戦中戦後にわたって金澤さんの“心の友”だったＥさん（※ＳさんとＥさんは共にカウラ事件を体験した歴史の証人です）も、金澤さんと相前後して亡くなり、事件を知る人は、本当に数えるほどになってしまいました。 　折も折、これはつい一昨日のことですが、太平洋戦争中にオーストラリアで捕虜になっていた日本人将校Ｍさん（故人）のご子息から、Mさんが生前にお書きになったという手記が送られてきました。 　この手記は、将校さんには珍しく真正直かつ赤裸々に当時の出来事を綴っておられ、しかも、Ｍさんご本人が大日本帝国の右翼思想から大きくかけ離れたキリスト教系学校出身のためか、軍国主義に染まらない目で、内側から冷静に軍隊を見つめていらっしゃるのが印象的でした。 　戦争中の日本人のメンタリティーを知る上でも貴重な文献で、私は金澤さんを失うことによって出来た心の空間を埋めるように、文字通り貪るようにこの手記を読ませていただきました。 　そんなわけで先週は、金澤さんの死というたいへん残念なニュースはありましたが、そのほかの仕事は万事順調に進んでおります。 　火曜日に季刊雑誌「ＮＨＫ英語でしゃべらナイト」の記者さんが拙宅にお見えになり、「カリスマ先生に聞く英語上達のコツ」（仮題）というテーマでインタビュー取材を受けたのを皮切りに、水曜日にはインターナショナル・スクール関係の仕事。木曜日はオーストラリア大使館で、2006年開催予定の日豪友好年の打ち合わせ。 　このほかにも、仕事がらみの遅めの新年会やら、仕事以外では、2週間後に留学を控えた娘のLiAとふたりで久々にナムコ・ナンジャタウンで遊んだりと、またしてもイベントの多い1週間でした。 　今週も、既に予定がいっぱい。 　明日はヨーガ関係の月刊誌「KARNA」のインタビュー取材を受け、明後日以降は引き続きカウラ事件の調査に飛び回る予定です。 　巷では、インフルエンザをはじめ、風邪が流行しているようですね。どうぞ健康には十分に気をつけて、今週も実り多い1週間をお過ごしください。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年1月30日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年1月22日号(第161号) 潜水艦について調べてみました 　今週もカウラ事件の取材のために、日本国内を駆け回っておりました。 　また、旧帝国海軍が使っていた潜水艦に関する文献ばかりを読み漁っていたため、今週の私はにわか潜水艦博士です。 　そんなわけで今日は、口を開けば潜水艦のことを話してしまいそう。と言うか、もう話し出しているわけですが（笑）。 　さて皆さんは、（潜水艦での生活がどうなっているんだろう）なんて想像したことはおありでしょうか。私はありませんでした。 　今回色々と調べてみて初めて知ったのですが、全長100メートル前後の大型潜水艦での暮らしぶりは、意外にも文化的だったようなんですね。 　例えばお手洗いですが、これは当時としては画期的な水洗トイレ。デザインは洋式ではなく、敢えて和式を採用していまして、これは皮膚病などの感染を予防するためだったそうです。 　食生活は、当時はまだ一般商品化されていなかった即席麺（インスタントラーメンの前身）が早くも食卓に上っていたようですし、さらには航行中の野菜不足を補うための水耕栽培も行なわれていたというのですから、さながら宇宙戦艦ヤマトのよう。 　もちろん、潜水艦ならではの不便なこともあったようで、たとえば、言うまでもなく真水は貴重品ですから、洗濯はできません。 　そのため、着の身着のままの衣類は日を追ってどんどん臭くなってゆき、その臭気にひたすら耐え続けなければなりませんし、さらに小型潜水艦の場合はベッド数が少ないので、2人以上の人が同じベッドに交代で眠らなくてはならず、ゆえに、勤務時間が終わると「他人が残した体臭とぬくもりの中に潜り込んで眠る」ことになるのだとか（汗）。思わず、 （う゛っ……。潜水艦での生活には、絶対に耐えられないかも） と硬直してしまいましたが、もちろん戦争中にそんな選り好みが許されるわけもなく、また、そうした環境に置かれたら置かれたで、人間は徐々にその状況に慣れてゆく（と言うよりも、慣れてゆかざるを得ない）のでしょうが。 　ところで、潜水艦は古くは潜水艇と呼ばれていました。 　日本で初めての潜水艇が完成した明治38年の当時、乗組員になるための条件のひとつは「酒・煙草をたしなまない、品行善良なる者」だったそうです。 　確かに、潜水艇の中で酔って喧嘩などされた日には大騒動になりかねませんし、潜水艇で隠れてタバコを吸われでもしたら、空気が汚染されるだけでなく火災の危険も大で、まさに乗組員全員の命にも関わりますものね。 　潜水艦の火災……。ああ、考えただけでも恐ろしい。 　マッコウクジラのように、水深2000メートルまで平気で潜れるカラダに生まれていれば話は別ですが、生身の人間が暗黒の海に潜ることは、どう考えても自然に反する行為です。 　そのためか、潜水艦という陸上とはかけ離れた生活環境の中では、精神に異常をきたす乗員も少なくなかったようですね。 　潜水艦の軍医さんは、外傷の治療などよりも、むしろ偏りがちな栄養の管理や、（浮上時の）日光浴の奨励、それに精神疾患の予防と治療に忙しかったそうです。 　そう言えば、これは以前私が海洋学の勉強をしていたときに知ったことですが、捕鯨船のように何ヶ月も陸に戻れない遠洋漁業船の乗員は、すぐに陸に戻ることのできる近海船の乗員に比べて、航海中に発狂したり、海中に飛び込んで自殺する危険度が高いということでした。 　実際に航海を経験した人の話では、何の変哲もない海が、あり得ないほどキラキラ輝いて見え始めたら、それは精神がおかしくなってきたサインなのだそうです。 　長期的に海に出るという行為が、多くの人間にとって極めて大きなストレスに繋がることは間違いありません。 　 　話が少しばかり脱線してしまいましたが、潜水艦について考えるにしても、単にその性能や戦力といったハード面を考えるだけでなく、その艦と運命を共にする一人一人の人間にかかる精神的な負荷について考えることが、むしろ重要だと思うわけです。 　今回は、縁あってカウラ事件をテーマに一冊の本を書き始めておりますが、その中で私が作家として徹底的にこだわりたいのは、戦争という極限状態に置かれたソフトウェアとしての兵士達の、赤裸々で生々しい心の動きなんですね。 　そんなこんなで今週も、取材と調べものの多い1週間になりそうです。 　ちなみに図書館の軍事関係書コーナーは、いかにも軍事評論家風のお兄さん達でいっぱいでしたよ。 　私がそこに立っていただけで、お兄さんたちの（こんな場違いなヤツが、こんなところで何してんの？）と言いたげな疑惑の視線ビームを痛いほど浴びたような気がするのは、単に私の被害妄想でしょうか（苦笑）。 　それから今週は、やはり太平洋戦争の頃の文化的背景を知る資料として、かの有名な「君の名は」のビデオを生まれて初めて鑑賞しました。 　ご存知ですか、「君の名は」。運命の悪戯ですれ違ってばかりの男女、大ヒットした真知子巻き（頭をすっぽり包むように巻くスカーフの巻き方）。超純愛メロメロドラマ路線は、さながら「冬ソナ」の昭和20年代バージョンといった感じ。 　敗戦後の日本の風景に、どっぷり漬からせて頂きました。 　そうこうしているうちに、今日は早くも土曜日。 　この週末は、「家の光」（農家の皆さんを中心に広く読まれているJAの雑誌）から執筆を依頼された春のエッセイを書いたり、お茶のお稽古に出たりして過ごしています。あ、ブースケ達のお散歩も、もちろん（笑）。 　皆さまも、どうぞ良い週末をお過ごしください。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年1月22日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年1月15日号(第160号) 平和は歩いて来ない （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　今日で松の内も終わり。皆さん、お屠蘇気分は完全に抜けたでしょうか。 　今週の私は、カウラ事件の関係者にお逢いするため日本国内を旅しておりました。 　これまでにも何度か「週刊マミ自身」でご紹介しましたから、ご存知の方も多いかと思いますが、カウラ事件とは、第二次世界大戦中の1944年8月5日にオーストラリア内陸部の小さな町カウラで起こった、世界最大の捕虜脱走事件のこと。 　脱走した当事者は、全員が旧日本軍の下士官と兵たちです。 　囚人服のような赤いユニフォームを着せられた1,104人の日本人捕虜が一斉に暴動を起こした、まさに驚天動地のこの事件は、現地オーストラリアでは“Cowra Breakout”の名で、今も広く知られています。 　しかし事件を起こした日本側はと言えば、戦後60年が経った今もなお、関係者のなんと80％までが、いまだにその事実をひた隠しにしたままなのです。 　事件当時、捕虜となっていた日本人下士官・兵は、合計1,104人。この暴動による死亡者は231名、負傷者は108名。 　つまり、捕虜のうち873人は生き残った計算になりますが、戦後、戦友会に当たるカウラ会を組織した人々の話によれば、生き残った捕虜の約80％は捕虜であった事実を恥と考え、カウラ会への参加を拒否。 　「捕虜だったことは妻にも子ども達にも話していない。どうか、もう二度と連絡してこないで欲しい」と仰る方も少なくなかったというのです。 　そのために、事件の真相の多くは今なお藪の中であり、その意味でカウラ事件は太平洋戦争最大のミステリーのひとつと呼んでも過言ではないでしょう。 　今週は、そうしたカウラ関係者のうち、陸軍の将校だったＢさんらと幸いにもお目にかかり、歴史的にたいへん貴重なお話の数々を伺うことが出来ました。 ※史上最大の捕虜脱走事件である「カウラ事件」の概要や、なぜ私がカウラ事件を調査しているのかといった経緯については、「週刊マミ自身〜第142号」をご覧ください。 　カウラ事件については、これまでにも複数のジャーナリスト、作家、歴史家らが調査研究し、多くの素晴らしい本を著していらっしゃいます。 　その中で私が疑問に思うのは、カウラに収容されていた時の将校、即ち少尉以上の武官たちの証言が、いずれの本の中でもほとんど紹介されていないということ。 　言うまでもなく、日本は上下の序列が重んじられる典型的な縦社会です。 　なかでもとりわけ厳しい上下関係があった軍隊の中で、何かことを起こそうとすれば、その時は必ず「上」にお伺いを立てたはずでは？ 　……そういった視点からもカウラ事件を調べなければと思いまして、昨年から独自に取材を続けてきたような次第です。 　しかしそうは言っても、将校と言えば当時の日本では超エリートクラス。 　下士官・兵とは比較にならない秘密主義にぶつかり、取材は決して容易には進みませんでした。 　しかし、当たって砕けろの精神で取り組んでいたところ、この年末年始にかけて、幸いにも複数の元将校さんとお逢いすることができました。 　敗戦60周年に当たる今年は、まずはこの本を世に出さなくてはと思っています。 　私が生まれた1960年、日本の至るところには「安保反対」の声が吹き荒れていました。 　昨年77歳で亡くなった父は、普段はデモの類には全く縁のない人でしたが、この時ばかりは率先して安保反対のデモに加わったそうです。 　「何があっても絶対に子どもたちを戦争に巻き込んではいけないと強く思ったからだ」と、父は言っていました。 　戦争で青春を台無しにされた父の世代の気持ちを、私達は決して忘れてはいけないと思うのです。 　このところ急速に右傾化しつつある日本に一石を投じるためにも、この本は絶対に書かなければならないと強く思っている次第です。 　一人一人は微力ですが、その一人一人が出来る形で世界平和に貢献しなくては、ネ。 　平和は努力して手に入れるものであって、そのへんに自然に生えているものでも、ましてや向こうから勝手に歩いて来るものでもないのですから。 　そんなわけで来週も、取材、取材の1週間になりそうですよ♪ 　ところで今週は、仕事の合間を縫って浅草寺と神田明神へ初詣に行って参りました。 　拙宅から浅草寺までは徒歩で10分。神田明神までは電車と徒歩で15分と、どちらもご近所なんです。読者の皆様の分も、「健康」と「幸運」をお祈りしてきました。 　今日の東京は、一日雨。少し肌寒いので、うちではあわててコタツを出しました。 　ほうぼうで風邪が流行っているようです。外から帰ったら十分に手洗いとうがいをして、食事は栄養価の高い温かいもの（特に緑黄野菜！）をしっかり食べて、夜はぐっすり眠りましょう。 　な〜んて、今日はお母さんみたいなことを言ってますが（笑）、まだまだ寒い日が続きます。ご自愛くださいネ。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2005年1月15日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2005年1月8日号(第159号) 初夢、そして初スキー （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　この年末年始は、10日間ほど信州の山小屋に篭って過ごしました。 　その間はほとんど連日のように、雪、雪、大雪でしたよ。なにしろ私の山小屋がある場所は、日本でも有数の豪雪地帯なのです。 　ところで今回は、山小屋に篭っている間に暇をみて、去年1年間に付けた夢日記の整理をしてみました。と言うのも、 （せっかく付けた夢日記も、付けっ放しではあまり意味がないのでは？） と、お正月中にハタと思ったからなんです。 　我ながらマニアックですが、どうせやるならトコトンやるのも悪くないのではと思いまして、半日かけて去年の夢を表にまとめてみました（こうなるともう、私も立派な夢おたくですね（笑））。 　夢日記の統計結果にご興味がおありの方は、以下URLからからご覧ください。 　http://www.yamadas.jp/mami/dreamstatistics.html 　今回、統計をまとめてみて自分自身でも驚いたのは、家族の夢、特に子どもたちが登場する夢を、予想以上に頻繁に見ていること。 　それから、「神・法王・僧侶・神官」のカテゴリーに入る人物の登場回数が多いことにも吃驚しました。 　「神・法王・僧侶・神官」といっても、その大部分はダライ・ラマ法王の夢、残りのほとんどは弘法大師空海の夢なんですけどネ。 　夢に登場する場所としては、（ある程度想像していたことではありますが）ヒマラヤが多いことにも驚きました。 　こうして夢日記を付け続けているお蔭で、覚醒時には開くことの出来なかった深層心理の扉が、最近では少しずつ開けてきたような気がしています。 　思うに、夢日記は途中でやめてしまわず、根気よく続けることが大事だと思うんですね。 　よく、日記をつけても三日坊主になってしまうという人の話を聞きますが、私の場合は20数年前から毎日欠かさず日記を付けているぐらいですから、日記をつけること自体は全く苦にならないというか、むしろかなり好きなほう。 　……と言うわけで、今年ももちろん、引き続き夢日記を付け続けます♪　今年だけでなく、できれば3年、5年、10年と続けていきたいものです。 （ところで、『ギネスブック』に載っている夢日記の世界記録って、一体何年ぐらいなんでしょうか。それとも、そんな記録は存在しないのかしら。どなたかご存知でしたら教えてください。まだ間に合うようなら、記録に挑戦したいと思いますので（笑）） 　ちなみに、このお正月に私が見た初夢は、外国で講演会をするという夢。 　講演会の主催者らしき人からは高級チョコレートを頂くし、春らしい明るい色合いの洋服は新調できるし、お正月から滑り出し好調ムードの夢でした。 　明日の日曜日は、遅らばせながら浅草寺に初詣。 　来週1週間はカウラ事件の調査のために国内を飛び回る予定ですが、そのご報告は、また後日ということで。 　それでは今年もよろしくお願い申し上げます♪ 　事事如意 　　　　　2005年1月8日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年12月31日号(第158号) 動きつづけよ（Keep Moving） 　年末年始を山小屋で過ごすため、雪の信州に来ています。　 　山小屋は人里離れた山奥にあって、いちばん近いところにある人家まで約2キロもの道のりがあります。 　新聞は、基本的に配達区域外。 　宅配便も、会社によっては必ずしもきちんと届かないことがあります（一度などは、いいかげんな配達員が山道の途中に荷物を放置してしまったことも）。 　電気は通じていますが、「山にいるときは静かに暮らしたい」という理由から、テレビは置いてありません。 　要するに、私が現在いる場所は、かなりの山奥だということですね、はい（笑）。 　山小屋には水道もありませんが、その代わり、庭には4本の井戸があります。 　4本のうち1本は、家より少し標高が高いところに掘ってあります。そのわずかな標高差によって水が自然落下し、放っておいても家までたどり着くわけです。 　家の中にはパイプが配管されていますから、キッチンでもバスルームでも、蛇口をひねれば水が出るという仕組み。 　つまり、井戸水ではあるけれど、昔のようにいちいち釣瓶（つるべ）を落として水を汲み上げる必要はないわけで、なかなかどうして便利なものです。 　そんなこんなで、なかなか楽しい山小屋での冬休みを送っていたのですが、昨夜のこと、ヒーター（不凍栓）をオンにするのをうっかり忘れて一晩外出し、今朝になって戻ってみると、大事な水道パイプが凍ってしまっているではありませんか。 　しまったと思った時には、後の祭り。 　パイプの中は見事に凍ってしまったようで、蛇口を回しても手応えはなく、ただカラカラと空回りするばかりなのです。 　昨日まであんなに勢いよく迸（ほとばし）っていた水が、温度がほんの少し下がっただけで、成分は何一つ変わっていないにもかかわらず、分子の活動をストップして「氷」という別モノになってしまったのです。 　凍ってしまった箇所におおよその目星をつけ、パイプのその部分を外側からヒーターで気長に温めながら、私はこの時、「分子の活動が止まると水の動きは止まる」という、一見当たり前の事柄について、何故か、とても深く考えさせられたのでした。 　「転石苔むさず」という諺があります。 　小学生の頃、私はこの諺の意味を次のように解釈していました。 「じっとせずに転がってばかりいる石は、苔むすことがない。一箇所に腰を据えず、あちこちフラフラしているような人（要するに、今でいうところの「フリーター」のような人）は、何ひとつ得ることが出来ない。だから、転石のようにフラフラ生きていてはダメなのだ」と。 　何故私がこのように解釈したかといえば、おそらくは「君が代」の歌詞の中にある、「細石（さざれいし）の巌（いわお）となりて、苔のむすまで」という台詞が影響していたのではないかと思います。 　「苔＝長寿の象徴」と解釈したわけです。 　また、日本には「石の上にも3年」という言葉もあって、一箇所でじっと耐え忍ぶことは、すなわち美徳。 　そんな理由もあって、小学生の私は、（苔もむさない転石なんて碌なものじゃないんだ）と思いこんだわけです。 　ところがそれから暫くして、中学生になった私が英語を学び始めたばかりの、ある日のこと。 　何かの本を読んでいて、この諺の英語バージョンである“Rolling stones gathers no moss.” という言葉を初めて知りました。 （へぇ〜。英語で「転石」は「ローリング・ストーンズ」って言うの？　じゃあ、あのロックグループの名前も、「転がる石」って意味なのかしら？　ヘンな名前！） などと思いながら本を読み進め、この諺の意味を読んでビックリ。 　何故って、そこに書かれていた内容は、それまで私が勝手に解釈していたこととは180度正反対だったのですから。 　本によれば、“Rolling stones gathers no moss.”の意味は、大体次のようなものでした。 「転がっている石に苔が生えることはない。人間も、常にアクティブに動いてさえいれば、苔なんか生えることはない。苔を生やしたくなければ、常に動き続けることだ」。 　つまり、西洋式に解釈すれば「苔が生えることは悪いことであって、そうならないためにも石は転がり続けねばならない」というのが、この諺の本当の意味だったのですね。 　中学生だった私にとって、これがどれほど凄いカルチャー・ショックであったことか……。「目からウロコ」とは、まさにこのことでした。 　石も転がらなければ苔がむす。水も動きを止めれば氷になる。 　極度に温度が下がったために凍り付いてしまったパイプを外から温めながら、中学生のときに初めて「転石苔むさず」の本当の意味を知った時の衝撃を思い出して、私は再び「うーん、なるほど」と感心したのでありました。 　そういえばダーウィンは、かの有名な“The Origin of Species（種の起源）”のなかで、次のように述べています。 「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者だけである」 　「変化できる」とは、つまりは「柔軟である」ということでしょう。動き続けることの大切さ。固まってしまわないことの大切さ。 　私の2005年のテーマも、“KEEP MOVING.（動き続ける）”これに決定です。 　今年もあと1日。 　皆様も、それぞれに健やかで明るいお年をお迎えください♪ 　事事如意 　　　　　2004年 12月31日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年12月21日号(第157号) パーフェクト・ワールド （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　前々号から「今年も余すところ○○日」などと書いておりましたが、何や彼や言っているうちに、今年も残りわずか10日！ 　うちのすぐご近所にある浅草寺では、歳末の風物詩「羽子板市」も大盛況のうちに終わり、これで師走気分も一気に高まって参りましたよ♪ 　今年は父の喪中でもありますし、忘年会の類いは極力控えてきた私なのですが、たったひとつ、「これだけは絶対に欠席できない！」と、1ヶ月も前から、それこそ指折り数えて心待ちにしていた大事な忘年会があったのです。 　それは、一年の締めくくりにお茶仲間と能狂言三昧をしようという、ちょっとばかり趣向の変わった忘年会でした。 　実は何を隠そう、私はかなりのお能大好き人間でして、20代の頃には英字新聞に能楽コラムを執筆していたこともあるほど。 　お囃子も大好きで、日頃からＨＤＤプレイヤーに入れて電車の中などで聴いている音楽の約4分の1は、能楽囃子が占めているんです（残りの4分の1は「ボサノバ」、4分の1は「クラシック」、4分の1は「その他」といったところ）。 （余談ながら、私のイチオシ能楽囃子は、「三番三（さんばそう）」の「鈴ノ段」。これは毎日毎日聴き続けても一向に飽きません。まさに名曲中の名曲。機会がありましたら、ぜひ聴いてみてください） 　……とまあ、そのような次第ですから、 （たとえほかの忘年会は全部お断りしても、能楽鑑賞つきのこの忘年会だけは、絶対に外すわけにいかない） と、心に決めていたわけなのです。 　今回は、ご一緒するのがお茶のお仲間ですから、洋服ではなく、着物で出かけることにしました。この秋に新調したばかりの大島紬です。 　皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか、私が「本場奄美大島の紬」と「キューピー柄の長襦袢」、それから「ブースケ柄の帯」に一目惚れしてしまった日のことを（詳しくは「週刊マミ自身」第147号をご覧ください）。 　あの時手に入れた反物は、かれこれ1ヶ月ほど前に仕立て上がって、箪笥の中で「今か今か」と出番を待っていたのです。 （この際だから、忘年会で大島紬デビューしようかしら） 　かくして忘年会当日、私はまっさらな大島を着てお能を観に行くことと相成りました。 　さて、会場（観世能楽堂）に着いてみれば、奇妙なことに、いつもはお着物をお召しのお茶仲間が、何故か一人残らずお洋服姿なんです。 　その謎は、すぐに解けました。荒井先生が前もって皆さんに、 「今日は山田さんが素敵な大島を着ていらっしゃるから、私たちは洋服にして、山田さんの紬が映えるようにして差し上げましょうね」 と、お声がけしてくださったんですって。 　着物の達人たちが、着物初心者の私に花を持たせてくださったというわけです。 　なんという優しいお心遣い。これには心底、感謝感激いたしました。 　待ちに待ったお能ですが、今回の番組は上演順に「巴（ともえ）」、「邯鄲（かんたん）」、「猩々乱（しょうじょうみだれ）」で、「邯鄲」と「猩々乱」のあいだに狂言の「福の神」が付いた豪華版でした。 （注／お能の世界では、「演目」のことを通常は「番組」と申します） 　このうちの「巴」は、戦死した木曽義仲と、妻で女武将の巴御前の悲恋を扱った、いわゆる「修羅物」と呼ばれるお能。 　この世に未練を残して死んだ者の霊が、僧侶の前に現われ、涙ながらに想いの丈を語るという、まさに恋愛ストーリーの王道を行くと言いますか、定番という感じのストーリーですね。 　「邯鄲」と「猩々乱」は、どちらも「夢」に関係のあるストーリーです。 　「猩々乱」に登場する「猩々」とは、中国の伝説に登場する、髪が真っ赤で大酒飲みの聖獣のこと。 　このお話の中では高風という名の主人公が、夢のお告げに従って市場で酒を売り、やがて富貴の人（徳が高いうえに大金持ちな人）になります。 　そのうえ聖獣の猩々までが高風のもとに現われて、いくら汲んでも枯れることのない魔法の酒壷を置いてゆくという、まあ、普通ではちょっとあり得ない（笑）、ラッキーチャンスがダブルでやって来る、おめでたいお能と申しましょうか。 　それもこれも、最初のきっかけは「夢のお告げ」だというところがミソというか、面白いですね。 　夢を信じる者は救われる（笑）？ 　もう一方の「邯鄲」のほうは、「邯鄲の枕」とか「邯鄲の夢」という言葉があるぐらいですから、ご存知の方も多いのではないでしょうか。 　ところは中国。官吏登用試験に落ち、ひどく落胆している盧生という名の青年がこの物語の主人公です。 　旅の途中、盧生は一夜の宿を借りるのですが、そこでひとりの道士（中国の仙人）から不思議な枕を貰い受けます。 　その枕を使い、うたた寝を始めた盧生。ふと気がつくと伝令が来ており、 「帝が崩御し、あなた様が次期皇帝の位を譲り受けられることになられました」 と言われたのですから、盧生が驚いたの何の。 　かくして、突如として帝に祭り上げられた盧生は、あれよあれよという間に栄華を極め、実に50年もの長きにわたって最高権力の座に君臨するのです。 　そして今、盧生はみずからの皇帝即位50周年を祝う舞を舞っている最中（さなか）なのですが、……実はこれ、すべては盧生が見たうたかたの夢。 　宿のおばさんに起こされてみれば、そこは帝の屋敷ではなく、小汚い部屋なんですね。 　50年と思った歳月は、現実にはわずかに「粟飯の炊けるまでの時間」にしか過ぎなかったというのですから、なんとも皮肉で痛烈なストーリーと言うほかはありません。 　もっとも、このお能には、見逃してはならない大事なオチがあります。 　夢から醒めた盧生は、最初こそひどく落胆しますが、やがて「50年の栄華も粟飯の炊けるまでの夢」と、ついには人生の根源に触れる悟りを開くのです。 　考えてみると、夢の世界では、現実の時間に換算してわずか数秒の間に、それこそ何日分、何週間分、あるいはそれ以上に長い長い体感時間を過ごすということがありますよね。 　「邯鄲」の盧生を見ていると、人間は一瞬にして絶望することも出来るけれど、逆に一瞬にして悟ることも出来る生き物なのだなあと、私は深く感動しながら納得したのでした。 　夢というものの本質を正しくついた、実によく出来たストーリーだと思います。 　こうして4時間以上にわたり、能狂言を堪能し尽くした私たちは、興奮冷めやらぬまま、いま流行りの創作和食レストランに場所を移し、そこからようやく、世間で言うところのいわゆる“忘年会”を始めたのでした。 　結局のところ全体としては、開始がお昼の1時、終了が夜の11時という、前代未聞のとてつもない長丁場となってしまいました（笑）。 　それにしても、この忘年会は掛け値なしに楽しかったですよ。 　私にとってお茶の稽古は、究極の大人の遊びと呼べるものですが、今回はそのお仲間とご一緒に、「お能」という日本文化の真髄を楽しめたのですもの。 　何から何まで、心が研ぎ澄まされてゆくような一日でした。 　私にとっての「お茶」や「お能」の効能は、頭を空にし、現実世界における現象を一切忘れて、非現実のパーフェクト・ワールドに遊べるということなのでしょうね、きっと。 　そしてそれは、「夢を見る」ということとも、ちょっと似ているかも知れません。 　今週は「来年の抱負」を書く予定でしたが、ごめんなさい、テーマが急遽「忘年会」に変更になってしまいました。 　次号の「週刊マミ自身」（12月30日か31日頃に更新予定）では、そのへんのことを書きたいと思います。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 12月21日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年12月12日号(第156号) 今年の私的十大ニュース （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） ※『死との対話』が次の各メディアで紹介されました。 「読売新聞」（11月14日）　―　書評 「信濃毎日新聞」（11月21日）　―　著者インタビュー 「熊本日日新聞」（11月28日）　―　書評 「SAPIO」（12月22日号）　―　著者インタビュー 「日経click」（2005年1月号）　―　本の紹介 「日刊ゲンダイ」（12月9日）　―　著者インタビュー 「愛媛新聞」（12月10日）　―　著者インタビュー（共同通信配信） 「東京新聞」（12月12日）　―　書評 「週刊朝日」（12月24日号）　―　作家・梁石日氏による書評 「産経新聞」（12月19日）　―　書評 「TBSラジオ　バツラジ」（12月14日放送）　―　著者生出演 ※なお、共同通信配信の各紙には逐次書評が掲載される予定です。 　今年も余すところ約半月。 　街角に貼られたポスターの「年賀状印刷はお済みですか」の文字に、ドキッとなさっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。 　かく言う私は、11月のうちに喪中葉書を出しちゃいましたので、今年はスケジュール的には楽勝、のはず。 　あとは（仕事的には）、前々から頼まれていた英語の通訳と、10年前から恒例となりましたブリタニカ年鑑の執筆（インドの政治経済記事）が残っているぐらいで、これさえ済めば、枕を高くして（？）2005年を迎えられる予定です。 　ただし、年末年始に過ごす予定の信州の山小屋の大掃除などはさっぱり進んでおらず、 「雪上車のバッテリーをチェックしておかなくちゃ」 「ああ、それから自動車のタイヤもスタッドレスに替えるんだった」 「障子の張替えも、急がないと間に合わな〜い！」 などなど、やらなければならないことが山積。気分的には、相変わらず忙しい毎日を過ごしております。 　こんなことを言うと年寄りみたいですが、最近は一年の経ち方が恐ろしくスピーディーに感じられて、「つい昨日までお正月だったのに、今日はもう大晦日？！」みたいな感じ。 　「光陰矢の如し」って言いますけれど、今どき「矢」なんて、いくらなんでも遅すぎますよね。むしろ「光陰ADSLか光ファイバーの如し」ぐらいの勢いでしょう。 　そこで、1年を締めくくるにはまだ早いのですが、今週は2004年を振り返り、あくまでも私的な十大事件を自選してみたいと思います。 （来週は別のテーマで書きたいことがあるので、ちょっと気が早いけどお許しを♪） ＜2004年の私的十大事件＞ 第一位★ダライ・ラマ法王への単独インタビュー〜『死との対話』刊行 　　 　かねてから一度はお目にかかりたい、逢ってじっくりとお話を伺いたいと願っておりました第十四世ダライ・ラマ法王に、9月13日、北インドのダラムサラにて単独インタビューさせていただきました。 　法王インタビューとそれに続く『死との対話』刊行は、今年最も重大な出来事となりました。 ＜2004年の私的十大事件＞ 第二位★娘（LiA）のハイスクール卒業とＡ国Ｓ大学美術学部合格 　　 　長女のLiAが、6月にインターナショナルスクールの高等部を卒業。第一志望のＡ国のＳ大学美術学部に合格しました。 　息子のNASA（8年生）も囲碁を始めるなどますます個性がハッキリし、子ども達の成長を強く感じた一年でもありました。 ＜2004年の私的十大事件＞ 第三位★父（鈴木寛）の死 　　 　父が77歳で亡くなりました。ごく親しい肉親の死は10年ほど前に母方の祖父が逝って以来でしょうか。久しぶりに親戚の伯（叔）父・伯（叔）母、イトコらが顔を合わせ、亡き父の想い出話に花を咲かせました。 ＜2004年の私的十大事件＞ 第四位★北インドのラダックへ、12年に一度のヒマラヤ仏教の奇祭「ヘミス・ツェチュ」を訪ねる 　　 　小学館「和樂」の取材で、北インドはジャンムー＆カシミール州の仏都・ラダックに行って参りました。 　私にとっては4度目のラダック行きでしたが、12年に1度の申年のツェチュを見るのはこれが初めて。人生の転機となるような極めて意味のある訪問だったと言えるでしょう。 ＜2004年の私的十大事件＞ 第五位★ＮＨＫハイビジョン番組（2005年放送予定）制作のため、カウラ事件60周年記念式典を取材 　　 　今から9年前にハリー・ゴードン氏の『生きて虜囚の辱めを受けず』を翻訳出版して以来、史上最大の捕虜脱走事件である「カウラ事件」は、「故意に捨て去られた日本史の一頁」として私の脳裏に深く刻まれていました。 　事件から60年後の今年、NHKの撮影班と共に現地を再訪問。私の中で、カウラ事件が再びクローズアップされる年となりました。 　現在、ＮＨＫの番組制作と平行して、ノンフィクション執筆のための取材も続けています。 ＜2004年の私的十大事件＞ 第六位★ブータンとの文化交流を深める（日本ブータン芸術委員会） 　私も理事のひとりを務める日本ブータン芸術委員会がブータンから文化使節を招き、日本の伝統工芸などを学んで頂きました。 　この他にも様々な形でブータンとの文化交流を推進しました。 ＜2004年の私的十大事件＞ 第七位★パンダが家族の一員（≒ブースケの嫁）となる 　　 　パンダがやって来て、ブースケはすっかり恐妻家愛妻家に（苦笑）。 　実は、今日12月12日はパンダの満1歳の誕生日なのです。おめでとう、パンダ。お祝いは来週（12月19日）のブースケの満2歳の誕生日に、まとめてやってあげるから（笑）。 ＜2004年の私的十大事件＞ 第八位★茶道の醍醐味にハマる 　表千家不白流大師範・荒井宗羅師のもと、茶道の奥深さにすっかり魅了されております。 　来年の目標は“小習免状”の習得。 ＜2004年の私的十大事件＞ 第九位★チベット語の特訓を開始 　ダライ・ラマ法王とのお約束で、チベット語の勉強を始めました。来年は是非とも法王とチベット語でお話しできるよう頑張らなくては。 ＜2004年の私的十大事件＞ 第十位★生まれて初めて三味線を習う 　もったいなくも東京芸大教授の藤原睦子先生から個人レッスンを受けております。 　慣れない筋肉を使うせいか、指は攣るわ肩は凝るわ……（涙）。 ＜2004年の私的十大事件＞ 番外編★Woman of the Year（特別表彰したい人） 　2002年9月11日、パプアニューギニアの海で溺れていた私を救ってくれた命の恩人、パトリシアさんです。 　彼女が助けてくれなければ、私は今頃あの世にいるのかも。改めて「パトリシアさんありがとう！」 　……こうして振り返って見ますと、今年も随分と色々なことがありました。 　来年は、さらに大いなる次の目標に向かって邁進してゆこうと思いますが、そのへんの詳細は次号（12月21日頃更新予定）でお知らせいたしますネ。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 12月12日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年12月4日号(第155号) 不可能なんてありえない 　今年のカレンダーも、いよいよ最後の1枚に突入。余すところ4週間足らずとなりました。 　師走というわけで、今週も何かと忙しく走り回ることの多い1週間でした。 　29日（月）は、『死との対話』出版のご報告のため、新宿にあるダライ・ラマ法王日本代表部事務所を表敬訪問。 　そのあと、「日刊ゲンダイ」さんと「共同通信」さんから、それぞれ著者インタビューを受けて参りました。 　30日（火）は、約400枚の喪中ハガキの宛名書き。 　実は、（毎年のことですが）私はいまだに年賀状の宛名書きを1枚1枚手書きしている人なんですよ。コンピューター印刷にしたほうが、どんなにか時間の節約になるってことは、十分わかっているのですが……。 　とは言え、年末の忙しい時にわざわざ、 「○○さんのお子さん、そろそろ小学校に上がる頃かな」 とか、 「△△さんとも何年も逢ってないわね。今年こそ食事会をしなくちゃ」 なんて遠くの相手に想いを馳せながら、ひとりひとりの宛名をペンでしたためるのも、なかなか乙なもの。 　というわけで、今年も宛名書きに丸1日かかってしまいました（しかも、こんな忙しい日に限ってブースケは風邪をひくし。動物病院に連れて行ったり、薬を飲ませたり、もうタイヘン）。 　どうにかこうにか、11月30日の夕方までに喪中ハガキを投函し終わって、ふう〜、これで一安心。 　12月1日（水）は、母校・明治学院大学を訪問。この4月から学長に就任なさった大塩武先生と、今後の明治学院の在り方について熱く語り合ってきました。 　もとをただせば明治学院は、ヘボン式ローマ字で有名なヘボン博士が横浜に開いたヘボン塾にそのルーツを持ち、来年で建学142年目を迎えます。 　今日は大塩学長と、8年後に迫った創立150周年記念行事のことなど、大学の近未来について色々とお話してきました。 　大学を卒業してから、早いもので22年になりますが、今も何らかの形で母校のために貢献できることは、実に嬉しいものです。 　翌3日（金）は、チベット語の教室がありました。 　『死との対話』にも書きましたから、ご存知の方も多いと思いますが、9月にダライ・ラマ法王と交わした約束を守るべく、目下、私はチベット語の特訓中なのです。 　法王との約束とは、「この次にお会いする時は、英語ではなくチベット語でお話する」というもの。 　ただでさえ忙しい日常の中で、新しい言葉を、それもごく短時間に習得しようという試みは、いくら外国語学習に慣れている私でも、決して容易なことではありません。むしろ至難の業です。 　でも、だからこそ、この新しい試みは、自分にとって非常に意義のあるプラスのチャレンジだと思うんですネ。 　日本語ではあまりこういう表現をしませんが、英語ではよく、“I want to be challenged.（挑戦されたい）”と言います。今の私の心境が、まさにそんな感じ。 　私にとってチベット語を習うことは、ダライ・ラマ法王との約束を果たすためでもあり、またそれ以上に、自分自身への挑戦でもあるのです。 　この日、2時間みっちりチベット語を勉強した教室からの帰り道で、ふと目に飛び込んできた1枚のポスターがありました。 　アディダスの広告です。思わず足を止めました。 　そこに写っていたのは、オリンピック史上初の「10点満点」を連発した、若き日のナディア・コマネチでしょうか。 　写真に重ね合わせるようにして、ポスターには次のような文章が書かれていました。 　「不可能」とは、自らの力で世界を切り拓くことを放棄した、 　臆病者の言葉だ。 　「不可能」とは、現状に甘んじるための言い訳にすぎない。 　「不可能」とは、事実ですらなく、単なる先入観だ。 　「不可能」とは、誰かに決めつけられることではない。 　「不可能」とは、通過点だ。 　「不可能」とは、可能性だ。 　「不可能」なんて、ありえない。 　IMPOSSIBLE IS NOTHING.　（アディダスの広告より） 　最後の“Impossible is Nothing.”まで読んで、我が意を得たりとばかり、道を歩きながら思わずポンと膝を打ちたくなってしまいました。 　これですよ、このチャレンジ精神。私をチベット語学習へと駆り立てている原動力も、まさにこのチャレンジ精神なんです。 　このポスターの文章の中で、私が特に気に入ったのは、「不可能とは、通過点だ」という一文です。 　来し方を振り返れば、かつて私の前には、数え切れないほどたくさんの「ない」が立ちはだかっていました。 　英語が話せ「ない」自分。 　クラスの友達とうまくやって行け「ない」自分。 　自分の容姿を好きになれ「ない」自分。 　1冊の著作も持た「ない」自分。 　あらゆることに自信が「ない」自分、etc.。 　……たくさんの「ない」を自力で乗り越えてみて、それらはすべて「通過点」に過ぎなかったのだということが、今の私にはわかります。 　「チベット語が話せない私」というのも、勿論、ただの状態であり、通過点です。 　その証拠には、ほんの3ヶ月前には右も左もわからなかったチベット語が、今では簡単な日常会話ぐらいならできるようになっていますから。 　「成せば成る、成さねば成らぬ、何事も」というわけです。 　この分だと、来年の春頃には、多少は複雑な会話もできるようになっているんじゃないかな？ 　そんな楽観的な予測のもと、今週もせっせとレッスンを続ける私なのでした。 　今週の格言＝Never say impossible.（「不可能」とは夢にも言うなかれ） 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 12月4日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年11月27日号(第154号) 熊野古道を歩く （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　11月9日に亡くなった父の通夜、告別式、寺参り、初七日法要などが一段落し、お蔭様で、その後も元気で忙しい日々が続いております。 　16〜17日は、娘と姪（弟の長女）を伴って、サンシャイン・シティーの水族館とプラネタリウム、花やしき（浅草にある日本最古の遊園地）、表参道から渋谷あたりを散策。思いっきり食べて笑って遊び回って来ました。 　これによって、葬儀の日から続いていた一連の重苦しい空気がパアッと晴れ上がったような気がします。 　こういう時は家に籠もって喪に服してばかりいないで、積極的に外出し、どんどん人と逢うことが大事だと思うんです。 　18日は、東京新聞の編集委員をしている15年来の友達と楽しく食事。 　19〜20日は、愛犬（ブースケとパンダ）の散歩でまったり外出したほかは、家で家族と過ごしました。 　21日は、お茶の教室でした。 　本格的に茶道を学び始めてからまだ1年ですが、私にとって茶の湯は既に生活の一部、なくてはならないものとなっています。 　この日は4時間ほど正座したまま、何もかも忘れて無心に稽古に励みました。 （この、「無心になれる」ということが、私が茶道に惹かれる最大の理由なのかも知れません。それに、ご指導いただいている荒井宗羅先生や社中の皆さんも、個性があって面白いかたがたばかりですし……） 　22日は、酒豪の女友達との夕食会（という名の飲み会（笑））。 ※お店に関する詳細は、「マミリンのオススメBar」（11月22日分）をご参照ください♪ 　23日は、スパイス代表取締役の芝田暁さんと、早くも来年の仕事の構想を話し合い（鬼に笑われそうですね）。 　続く24日は、小学館「SAPIO」の記者さんから『死との対話』に関して著者インタビューを受けました。 　さらに25日は、息子が通っているインターナショナル・スクールのコンファレンス（日本で言うところの父母懇談会）に出席し、先生方と英語で喋りまくり。 （いつも使っている言葉とは別の言語で話すことも、実はかなり強力な気分転換になります） 　コンファレンスが終わったあとは、その足でまっすぐ熊野古道に向かいました。 　熊野古道は、今年7月1日にユネスコから世界遺産の指定を受けたばかり。 　もしや観光客でごった返してはいまいかと、出かける前は少々不安でしたが、実際に行ってみると（平日のせいか）それほどの混雑はなく、JP那智駅から熊野那智大社に至る約8キロの道のりを、ゆっくり歩いて散策することができました。 　どこまで信憑性がある話か定かではないのですが、一説によれば、私の父方の祖先（鈴木家）は熊野の出で、もとは神官だったらしいという噂を聞いたこともあります。 　 　大学時代は捕鯨史の研究のために、那智の先にある太地町に長く逗留したこともありましたし、私にとって熊野一帯は、何か特別な意味を持った土地なのかも知れません。 　熊野古道では、実はいくつか調べものをしてきたのですが、その成果はいずれ本にまとめて発表したいと思っております。 　とりあえず今日のところは、熊野古道を歩いてきたことのお知らせのみにて……。 　なお、先週から今週にかけましては、父の訃報をお聞きになった多くのかたがたから、お励ましのメールを多数頂きました。 　皆さま、本当にありがとうございました。心より御礼申し上げます。 　お蔭様で、私はたいへん元気にしておりますので、何卒ご安心ください。 　来週は今週以上にハッスルハッスルしますからネ（笑）。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 11月27日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年11月14日号(第153号) 父の想い出 （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） ※山田真美の6年ぶりのノンフィクション作品となる『死との対話』（スパイス・刊）が、11月18日に全国発売されます（東京都内の主要書店には16日頃に配本予定）。左の画像をクリックして、詳しい説明をご覧ください。 ※スパイスのホームページはこちらからご覧になれます。 ※現在発売中の『和樂』12月号（小学館）に、ダライ・ラマ法王と山田真美との対話が巻頭特集されています。森川昇さんによる写真も満載。どうぞお見逃しなく。 　9年前に脳梗塞で倒れて以来、長く闘病生活にあった父・鈴木寛が、去る11月9日午後10時14分、77歳で永眠いたしました。 　長野市に住んでいる母からの電話で、父の容態急変を知ったのは、その日の午後5時20分のことです。 「血圧が急激に下がっていて、とても危ない状態みたいなの。東京から来るのでは、もうとても臨終には間に合わないだろうとお医者様は仰っているけれど……」 　とるものもとりあえず、既に学校から帰宅していた中2の息子を連れて上野駅に向かいました。 　医師から「東京からではもう間に合わないだろう」と言われていたにもかかわらず、不思議なことに、（死に目に遭えないのではないか）という気は少しもしませんでした。 　父は必ず私を待っている。最後のお別れをするために、私が着くまで待っていてくれる。 　確信にも似たそんな予感があって、新幹線の中でも、私は意外なほど落ち着いて、コーヒーを飲んだり、ゆっくり考え事をする余裕すらあったのです。 　そして実際に、父は、私と息子が病院に着くまで持ちこたえてくれたのです。 　父の枕もとには、母のほか、既に病院に到着していた弟の一家が寄り添うように立っています。 　父は目を瞑ったままで、もう頷いたり言葉を交わすことは出来ませんでしたが、私たちの言葉は明らかに理解しているようでした。 　母と弟と私が、父の手を握り締めながら昔のことを話しかけると、一旦はゼロに近づいた心拍数がグンと跳ね上がるのです。 　父と母の初デートのこと、家族で毎年行っていた「石の湯」という温泉旅館のこと、楽しかった京都旅行のことなど、思う存分父に語りかけ、「今まで本当にありがとう」、「何も心配することはないから、安心してね」と、しっかり伝えることができました。 　父が静かに、それこそ眠るように息を引き取ったのは、私が病院に到着してから1時間半ほど経った、午後10時14分のことでした。 　おそらく何の痛みも、苦しみも、思い残すこともなかったのでしょう。父の死に顔は、それは穏やかでした。 　通夜に来てくれた親戚の人たちが、「寛さんのこんな穏やかな顔を見たことがない」と言って驚いたほど、その顔は嬉しそうに、ほとんど微笑んでいるようにすら見えました。 　若い頃の父は、どちらかと言うとシニカルで、こんな言葉をよく口にしたものです。 「人間は終末への存在である」 「NO MORE, NEVER MORE.（もうないということは、もう二度とないということだ）」 　厭世的というのでしょうか、若い頃は「終末論」を口にすることの多い人でした。 　父の書棚には、実存主義者と呼ばれる哲学者たち（キルケゴール、ヤスパース、ハイデッカー、ニーチェ、サルトルなど）の著書が並んでいて、それが若き日の父の思想基盤だったようでした。 　多感な少年期に軍国主義教育を受け、敗戦、そしてアメリカ主導の民主主義導入を目まぐるしく体験したことを思えば、父の世代が一種のシニカルな思想に走ったのは止むを得ないことかも知れません。 　まだ3歳だった私に、「まっすぐな線をどこまでも引いてゆくと、いつかは最初の点に戻ってくる。それが宇宙だ」と説いた父です。 　自分の子どもに対しても、大人に対するような態度で接する人でした。子ども扱いされない分、要求されるハードルは常に高く、ちょっとやそっとのことでは褒めてもらえません。 　叱責されることもたびたびで、そういう意味ではかなり厳しい父親だったと言えるかも知れません。 　私が4歳の時に弟が生まれ、母が弟にかかりきりになると、父は日曜日には率先して私を遊びに連れて行ってくれました。 　そんな時の行き先も、いかにも子どもが好きそうなデパートの食堂（これが今で言うところのファミレス的な存在でした）ではなく、老舗の蕎麦屋さんです。 「蕎麦は“ざる”に限る。真美ちゃんも、早いうちから本物の味を覚えなさい」 　そう言いながら、私の箸使いを楽しそうに見ているのです。 　このほかにも、スキー、山歩き、軍人将棋、のらくろ漫画など、父からは当時の感覚で言うところの「男の子っぽいこと」ばかりを教えてもらいました。 　話題の戦争映画『トラトラトラ』が封切られた時も、父に連れられて真っ先に観に行ったものです。 　お蔭で子どもの頃の私は、一時期すっかり「男言葉」になってしまっていたそうです。私が今なお重症のお転婆なのは、その時の後遺症なのかも知れません（苦笑）。 　国家公務員と関西棋院長野支部長の二足の草鞋を履いていた父は、あたりまえですが碁が滅法強く、若いお弟子さんたちがよく家に来ていました。 　“三面打ち”とか“四面打ち”と言って、いくつも碁盤を並べて置き、父はその前に座って複数の人を相手に対戦するのですが、よくもまあ大勢の人を相手に同時に複数のゲームを戦えるものだと思い、私はただただ感心していました。 　しかし父に言わせると、それは「簡単なこと」だったようなのです。「要は集中力の問題だ」とも父は言っていました。 　何か物事に当たる時は、精神を集中してやれ。ぐずぐずしていると、「集中力が足りない」とよく叱られました。 　ちなみに、今回父の葬儀に出るまで、私は父がアマチュア囲碁五段だとばかり思い込んでいましたが、それは私が小学校の低学年生だった当時の話で、実際には随分前からアマチュア七段であった由。これはアマチュアとしては最高段位だそうです。 　お弟子さんや関西棋院の関係者の皆さんから、父についてお話を伺い、改めて「父の碁は本当に強かったのだなあ」という感慨を新たにした私でした。 　子どもに対しては厳しい父でしたが、その態度は孫が生まれたことによって急変しました。 　世間ではよく、孫は目に入れても痛くないほど可愛いと言いますが、父の場合がまさにそうで、1985年に初孫（私の長女であるLiA）が生まれてからの父は、母や私が呆気にとられるほど柔和になりました。 　人生観、死生観、宗教観も大きく変わったようで、老境に入ってからの父は、おそらく実存主義思想からは大きく離れていたのではないかと思います。 　それまで長く使われていた「お父さん」という呼び名も、初孫が生まれた時から「寛（かん）ちゃん」に変わり、父はそれ以来、妻からも子どもからも孫からも「寛ちゃん」と呼んで慕われました。 　唯一人の男の孫である私の息子（NASA）が、この春に日本棋院の藤沢一就八段のもとで囲碁を学び始めた時は、顔をくしゃくしゃにして、半泣きになりながら喜んでくれた父。 　また2ヶ月前には、初孫のLiAが第一志望の大学に合格したことも報告できましたし、今月6日、即ち亡くなる3日前には、印刷所から上がってきたばかりの私の新刊『死との対話』の見本を病院まで届け、手に取って見てもらうことも出来ました。 　今こうして振り返ってみますと、父と私の関係は常に真剣勝負でした。 　そのせいでしょう。私には、父に対して思い残したことや、「あの時ああしておけば良かった」という未練や後悔の類いは一つもありません。 　今はただ、「長いことお世話になりました」、「ゆっくり休んでください」と言葉をかけたいと思います。 　父が折々に口にした言葉のうち、特に印象に強く残っているものを下に記しておきます。 　これらは主に囲碁に対する父の考え方ですが、囲碁に限らず、人生を生きてゆくうえで大切な、含蓄ある普遍的な言葉ばかりのように思います。 「部分ではなく、常に大局を見よ」 「盤上は宇宙なり」 「勝敗にこだわらず、美しい碁を打て」 　父の言葉を心に深く刻みながら、明日からも自分の人生をまっすぐに歩いてゆこうと想う私です。 　故・鈴木寛に対する生前のご厚情に、改めてここに深謝いたします。 　合掌。 　事事如意 　　　　　2004年 11月14日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年11月1日号(第152号) 「死」を見据える （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） ※『和樂』12月号（11月6日発売予定、小学館）に、ダライ・ラマ法王と山田真美との対話が巻頭特集されます。森川昇さんによる写真も満載。どうぞお見逃しなく♪ 　読者の皆さま、たいへん長らくお待たせいたしました。 　最新作『死との対話』が、いよいよ11月18日に全国一斉発売される運びとなりました。 　既にご紹介しましたとおり、本書は、芝田暁さんが設立されたばかりの真新しい出版社・スパイスの記念すべき最初の一冊となります。 　いかがですか。 　直田龍作さんによる表紙写真、『死との対話』というテーマにぴったりでしょう？ 　また、帯と本文には、森川昇さんによるダライ・ラマ法王と私の写真が何枚か掲載されます（※「和樂」12月号に載るものとは別の写真です）。 　さらに、作家の森村誠一さんと俳優の三國連太郎さんからは、身に余る素晴らしい推薦文を頂戴いたしました。 　この場をお借りして、皆さまに衷心より御礼申し上げます。 　今回、表紙のデザインを決める段階で私の頭に真っ先に浮かんだのは、「黄金色」のイメージでした。 　その昔、“ON THE GOLDEN POND”というアメリカ映画を観たことがあります。邦題は「黄昏」となっていましたが、タイトルを直訳すると「黄金色の池で」。 　人生の最後のステージを、暗く哀しいイメージではなく、むしろ黄金色という実り豊かな色彩で捉えたこの映画の姿勢が、私は大好きでした。 　世間では往々にして、「死」は不可解なもの、恐れるべきもの、禁忌すべきもの、希望とは対極に在るものとされ、イメージカラーは黒とされがちですが、本来「死」とは人生の完熟・完成を意味するものではないでしょうか。 　「死」は、すべての人の身にいつかは訪れる現実です。 　そこから目をそむけ、見て見ぬ振りをすることで、「死」はますます不可解なもの、怖いものとなり、「死」に対する恐怖心は増幅してしまうことでしょう。 　「死」という現実を徹底的に見据え、その正体を知ることでのみ、やがて訪れる「死」への恐怖は消え、同時に今ある生を100％楽しむことができるのではないでしょうか。 　人生を楽しんでいる方は勿論のこと、最近人生がツライと感じてしまう方や、時々ふと死にたくなってしまう方は特に、ぜひとも本書を読んでください。 　今が苦しくても、だいじょうぶ。 　明日からも、きっと勇気を出して生きていけますよ！ ※なお、発売日は地域によって若干前後する可能性があります。あらかじめご了承ください。東京の大型書店では、16日頃に入荷する可能性もあるそうです。 　　　☆　☆　☆ 　ところで先週は、奥信濃の山小屋に籠り、来年出版予定の本の構想などを練って過ごしました。 　途中、喰いしん坊の私は急に新蕎麦が食べたくなりまして、お蕎麦屋さんを目指してドライブしたのですが、この季節はひとつの山の中に紅葉と新雪が隣り合っているんですよね！ 　まだ秋、そして、もう冬。 　ふたつの季節の狭間にある柔らかな風景は、どこまでも優しく、生きとし生けるものを包み込んでいました。 　皆さんも、秋と冬の狭間を探しに出かけてみませんか？ 　あ、11月18日は、ぜひとも書店に出かけてくださいネ（笑）。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 11月1日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年10月23日号(第151号) 嵐の中を、旅から旅へ （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　日本列島を猛烈な台風23号が吹き荒れていた中、今週はほぼ毎日のように仕事で各地を走り回っていました。 　行く先々で川が氾濫し、暴風雨が吹き荒れ、片端から列車が留まり、そうかと思えば泊まった旅館のすぐ横で小熊が出没したり（食料不足？　それとも熊が地震を予知して山から下りて来たとか？）……と、それはもう大変な1週間でした。 　週のはじめに、まずはカウラ事件の関係者であるＳさんにお逢いすべく、日帰りで水戸方面に行って来ました。 　Ｓさんは、これまでに発表されたカウラ関係のいかなる書物の中でも紹介されていない、しかし当時のカウラ事情をよくご存知の、元陸軍の軍人さんです。 　今回、Ｓさんからは、これまで誰からもお聞きしたことのない新事実を含む、捕虜時代の貴重なお話を伺うことができました。 　Ｓさんへのインタビューを終え、水戸から一旦東京に戻った私は、人心地つく間もなく、来日中のブータン王立美術学校の学長先生2名を連れて、富山県（富山市、高岡市、氷見市）と石川県（金沢市）へ。 「ブータンから次第に失われつつある伝統工芸の技を、是非とも日本の職人さんから学びたい」 というお二人の意向を汲んで、今回は日本最大手の梵鐘メーカーや、漆器の工房、金箔の工房などを回って、日本文化の真髄を視察して参りました。 　同行者は、私も理事を務めている日本ブータン芸術委員会の理事数名です。 　今回の視察中、圧巻は、日本最大のシェア（80％）を誇る梵鐘メーカー老子製作所で見学させていただいた、重さ250トンの梵鐘の鋳造工程でした。 　「250トンの梵鐘」って一言で言いますけれど、実際には半端なサイズじゃないですよ。撞木（しゅもく＝鐘を撞く棒のこと）の大きさだけでも、とんでもない大きさ。実際に撞いたら、どれほど大きな音が出るんでしょう。 　この鐘は台湾のお寺から依頼されての受注生産とのことですが、老子製作所では、ほんの数ヶ月前にも500トンの梵鐘を造ったばかりだそうで、その迫力には、ただただ圧倒されるばかりでした。 　老子製作所の西川さんから伺ったお話によれば、最近は梵鐘の音色を必ずしも好きではない、それどころか騒音と感じる日本人が増えているのだそうです。 　受験生の子どもを持つ親が、「寺の鐘がうるさくて勉強にならない」と裁判に訴えた事例もある由。 　このケースでは、「そんなことで町の人と争いたくない」と考えた僧侶が、裁判の結果を待つまでもなく、みずから鐘撞きを自粛したそうですが、おそらく、僧侶のこの決定に落胆なさった檀家さんも多かったのではないでしょうか。 　第二次世界大戦中、日本の家庭にあったありとあらゆる金属が（武器弾薬を作るために）軍隊に供出させられた話はつとに有名ですが、その際、お寺にあった鐘もすべて供出させられて、日本中の寺という寺から、鐘の音はすっかり途絶えてしまいました。 　もちろん、戦後の復興と共に鐘の復興も進みましたが、お寺に鐘がなかった時代に生まれ育った世代は、鐘の音に対する愛着や免疫がなく、むしろこれを騒音と感じる傾向が強いというのです。 　梵鐘の音色を、えも言われぬわび、さびと感じる人々（私もそのひとりです）には想像しにくいことですが、趣味や嗜好はそれこそ人それぞれですし、信仰の自由といった事柄なども考え合わせると、上記のような裁判はこれからもっと増えてゆくのかも知れませんね。 　ところで今回の旅行では、ブータンからのお客様に日本の建築物を堪能して頂くため、洋式のホテルではなく純和風の旅館だけを泊まり歩きました。 　そのなかには、能舞台のある旅館もあったんですよ！ 　さすがは加賀百万石の城下町の貫禄。ブータン人よりも、むしろ私たち日本人のほうが大感激でした。 　金沢では、友人のお父様が経営する金箔問屋さんにも立ち寄って、金箔の製造工程を細かく見せて頂いたのですが、視察のあとで、まったく予期していなかった素晴らしいプレゼントを頂いてしまいました。 　金沢の金糸を京都の西陣で織らせたという、新品の帯です。 　あまりにも立派な贈り物で、最初は辞退しようと思ったのですが、 「真美さんは、お着物をお召しになるのでしょう。締めてくださる人の手に渡れば、帯にとっても本望ですから」 というお言葉に甘え、ありがたく頂戴することにしました。 　早速、来月のお茶会には、手持ちの抹茶色の着物に合わせてこの帯を締めて行こうと思っています。 　その昔、遣唐使は、唐への貢物として平織りの絹、真綿、苧麻（まお）、木綿などを持参したそうですが、21世紀の現代にもこうして客人に織物を贈る金沢の文化の豊かさに触れ、しみじみと古い町の良さを再確認した私なのでした。 　金沢から東京に戻った翌日は、休む間もなく大阪へ。 　オーストラリアのテレビ局（ＳＢＳ）で来年放送予定のドキュメンタリー番組（60分）の撮影のため、ＣＯＪＯプロダクションのジョンさん、プルさんと共に、カウラ捕虜収容所の元捕虜・高原希國さんを取材して参りました。 　今回の番組のテーマは、第二次世界大戦中の日本軍によるダーウィン攻撃です。 　ダーウィンはオーストラリアの北東端に位置する町で、大戦中の1942年2月19日に日本軍からの攻撃を受けました。 　その際、オーストラリア軍はダーウィンの町を守るどころか、逆に兵隊たちが一斉に逃走し、その結果、多くの市民が犠牲となったことが記録されています。 　そのためオーストラリアでは、「事件から60年以上経った今なお、この一件は国内で多くの物議を醸している」（ジョンさん談）のだとか。 　日本軍による攻撃の凄まじさそのものもさることながら、むしろそれ以上に大きいのは、「オーストラリア兵はなぜ市民を見捨てて逃げたのか？」、「なぜ事前にきちんと敵（日本軍）の動向を把握し、対策を練ることが出来なかったのか？」といった疑問。 　オーストラリア人にとってダーウィンの事件は、みずからの資質を問う大きな反省材料としてクローズアップされることが多いようなのです。 　その頃、高原希國さんは、海軍第二期甲種飛行予科練習所（通称予科連）出身の、バリバリの一等飛行兵曹でした。 　日本軍によるダーウィン攻撃の4日前（2月15日）、高原さんは九十七式飛行艇でダーウィン近くのティモール島海域を偵察に行き、そこへ飛来したアメリカ軍のＰ40キティホークと遭遇。いきなり激しい銃撃戦になります。 　敵と相撃ちになってアラフラ海上に墜落した高原さんとその仲間たちは、それから何日にもわたって海上を漂流。最初は8名いた飛行艇乗組員のうち、2人は墜落（着水）時のショックで死亡。もう1人も、墜落時の傷が原因でじきに亡くなりました。 　やがてメルヴィル島に流れ着いた高原さんら5人は、食べ物を求めて必死で隣のバサースト島まで泳ぎ渡りましたが、そこにもやはり食べ物はなく、さらに飲まず食わずで何日も島内をさまよい歩き、最後はオーストラリア軍に捕らえられて捕虜になられたのです。 　その後、高原さんはオーストラリアのヘイ収容所を経て、カウラ捕虜収容所に収容され、やがて世界最大の捕虜脱走事件であるカウラ事件の主人公のひとりになるわけです。 　今回のテレビ撮影では、飛行兵曹だった当時の高原さんが、戦っている時に何を思い、撃墜されて海に落ちてゆく瞬間に何を感じ、カウラで暴動を起こした時に何を考えていたのか、そのあたりの心境を赤裸々に語って頂きました。 　こうして大阪での仕事も無事に終え、今日は東京に戻って久々に子どもたちとのんびりしていたのですが、夕方になって、今度は大きな地震じゃありませんか。 　地震、台風、熊の被害と、このところ本当に物騒なことばかりが続きますねぇ。 　これだけ自然が荒れているのですから、自然の一部である人間の心が荒れているのも、道理かも知れません。 　こんな時でも、いいえ、こんな時だからこそ、物事に動じない平常心を保ちながら、ニコニコ笑顔で過ごしましょうネ♪ 　なお、次号「週刊マミ自身」の更新は、11月1日（月曜日）を予定しています。 　そろそろ新刊『死との対話』の詳細発表（表紙の写真を含む）ができると思いますので、次回は特にお見逃しなく。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 10月23日 　　　　　　　　　　　山田 真美